第7章 契約と債権
この章のねらい ここからは「民法(とくに契約・債権のルール)」の世界に入ります。会社法が「会社という器のルール」だったのに対し、 民法は「取引そのものの土台」です。売買・請負・委任・賃貸借・保証・債権回収――どれも中小企業の日々の商売で 必ず出てくる場面ばかりで、診断士として社長に助言するとき直接役立つ分野です。
過去問での出方:経営法務の後半(例年第18問〜第22問あたり)で、毎年3〜5問が この章の範囲から出ます。近年は「契約の成立」「契約不適合責任」「解除」「保証」「相殺」「債権譲渡」 「詐害行為取消権」が定番の常連で、ほぼ毎年どれかが顔を出します。一問一答で得点しやすい反面、 2020年4月施行の民法(債権法)改正の影響が大きく、古い年度の問題は旧法基準なので、 「今のルールはどうか」をセットで覚えるのがコツです。本章では改正点に ※現行法では の注記を付けて整理します。
7-0 この章の地図
契約と債権は、大きく「契約をつくる」→「約束が守られない・こわす」→「契約の種類ごとの決まり」→ 「担保でカバーする(保証)」→「お金を回収する(債権回収)」→「継続的な取引の実務」という流れで進みます。 「契約の一生」を追いかけるイメージで読むと、全体がつながります。
7-1 契約の成立と有効性 … 申込み・承諾で契約は生まれる/意思表示の瑕疵(錯誤・詐欺・強迫)
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7-2 債務不履行・危険負担・解除 … 約束が守られないとき/こわすとき(★改正の目玉)
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7-3 主要な典型契約 … 売買・請負・委任・消費貸借・賃貸借の要点(契約不適合責任・手付など頻出)
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7-4 保証 … 連帯保証・個人根保証・保証人保護(★改正で大きく変わった)
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7-5 債権回収 … 相殺・債権譲渡・詐害行為取消権・売掛債権の保全(毎年出る)
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7-6 継続的取引・FC・秘密保持 … 実務でよく出会う契約類型(独禁法・中小小売商業振興法もからむ)
💡 最初に押さえる「大改正」:民法の債権に関するルールは2020年(令和2年)4月1日に大きく改正されました (「平成29年法律第44号」)。試験では、施行前(〜R01年度あたり)の問題は旧法基準、施行後(R02年度〜)は 改正民法基準で出ます。本章では、改正で変わった重要ポイント(錯誤・契約不適合責任・解除・保証・消費貸借など)を そのつど示します。R02年第1問はまさに「どこが改正されたか」を直接問いました(→ 7-1で扱います)。
7-1 契約の成立と有効性
契約は「申込み」と「承諾」の合致で成立する
契約とは、ひとことで言えば「当事者の合意(意思表示の合致)でつくる法律関係」です。 基本は、一方の「申込み」に、もう一方が「承諾」して合意が一致した瞬間に成立します。 売買のように、当事者が合意しただけで成立する契約を「諾成契約(だくせいけいやく)」といい、これが原則です。
Aさん(申込み) ──「この商品を100万円で買いませんか?」──→ Bさん
Aさん ←──────「はい、買います」(承諾)────── Bさん
↓
この瞬間に売買契約が成立(諾成契約)
- 原則は「書面がなくても」成立する(口約束でも契約は有効)。ただし後で「言った・言わない」で もめるので、実務では契約書を作るのがふつうです。
- 例外的に、書面が効力の要件になる契約もあります。代表が保証契約(書面がないと無効。→ 7-4)です。
⚠️ 改正で「発信主義」→「到達主義」に:改正前は、離れた相手(隔地者)への承諾は「発信した時」に契約成立 (発信主義)でした。※現行法では、意思表示は原則として相手に「到達した時」に効力が生じる(到達主義)に 統一されました。古い問題(例:H28第13問)は旧法の発信主義を前提にしている点に注意しましょう。
申込みの撤回・申込者の死亡
過去問(H28第13問)は、契約の成立にまつわる細かいルールを問いました。考え方の急所は次のとおりです。
- 申込みに「撤回できる」と書いてあれば、撤回できる。申込者は、申込みの効力(撤回の可否)を自分で決められます。
- 対話者間(その場での交渉)で承諾期間を定めずにした申込みは、その対話が続いている間に承諾がなければ効力を失うのが原則。
- 隔地者への申込みは、発信後・到達前に申込者が死亡しても原則有効。ただし、相手が承諾する前に申込者の死亡を 知ったときは、申込みは効力を失います。
📝 過去問はこう出る(H28 第13問) 「契約の成立」に関する記述で最も適切なものを選ぶ問題(出題時は旧法)。正解はウ 「隔地者への申込みは発信後・到達前に申込者が死亡しても有効だが、相手が承諾の発信前に死亡を知ったときは効力を失う」。 「申込書に撤回可と書いてあっても撤回できない」「対話者間で直ちに承諾しなくても効力が有効に存続する」は、 それぞれ逆でバツ。細かいですが、"申込者は撤回の可否を自分で決められる""対話者間は原則その場限り"を押さえます。 → H28 第13問
契約が成立する前でも責任が生じる?――契約締結上の過失
「契約書ができていないから、何をやっても自由」とはいきません。 契約交渉が相当進み、一方が契約成立を信じて費用をかけたのに、正当な理由なく交渉を打ち切ると、 信義則(信義誠実の原則)上の注意義務違反として損害賠償責任を負うことがあります。 これを契約締結上の過失(契約準備段階の過失)といいます。
- 賠償の範囲は、原則として信頼利益(相手が交渉を信じて支出した費用など)にとどまります。
- 履行利益(契約が成立・履行されていれば得られたはずの利益)までは、原則として賠償させられません。
📝 過去問はこう出る(H21 第15問) A社がB社に納期を何度も確認させながら、正式契約前に交渉を打ち切り、B社が特注部品を抱えた事案。正解はイ 「A社は契約準備段階の信義則上の注意義務に基づき、B社が現実に調達した部品代金(信頼利益)を賠償しなければならない」。 「契約していないから一切賠償不要」(ア)や「債務不履行として履行利益を賠償」(ウ)はバツ。 成立前でも信義則上の責任がある/賠償は信頼利益までが急所です。 → H21 第15問
意思表示に「キズ」があるとき――錯誤・詐欺・強迫
契約は合意でつくりますが、その合意(意思表示)にキズ(瑕疵:かし)があると、 後から取り消したり無効にしたりできることがあります。ここは試験で頻出の対比です。
| 種類 | どんな状態か(かみくだき) | 効果 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 錯誤(さくご) | 勘違いして意思表示してしまった | 取消し(※改正で「無効」→「取消し」に変更) | 重要な部分の勘違いであること等が必要 |
| 詐欺(さぎ) | だまされて意思表示してしまった | 取消し | 第三者が絡むと保護の範囲に注意 |
| 強迫(きょうはく) | おどされて意思表示してしまった | 取消し | だまし(詐欺)より強く保護される |
⚠️ 改正の目玉:錯誤は「無効」から「取消し」へ 改正前は「要素の錯誤があれば意思表示は無効」でした。※現行法では、錯誤による意思表示は 「取り消すことができる」(民法95条)に変わりました。一方、詐欺・強迫は改正前後を通じて一貫して「取消し」で、 ここは変わっていません。「錯誤=取消しに変わった/詐欺・強迫=もともと取消しで変わらず」をセットで覚えます。
📝 過去問はこう出る(R02 第1問) 「2020年施行の改正民法で正しいのはどれか」を問う総まとめ問題。正解はエ 「個人が保証人となる根保証契約は、貸金等根保証に限らず、極度額を定めなければ効力を生じないと改正された」(→ 7-4)。 ほかの選択肢は、「詐欺・強迫は無効に改正」(×:もともと取消しで不変)、「法定利率5%のまま」(×:年3%の変動制に改正)、 「錯誤は無効のまま」(×:取消しに改正)と、いずれも改正の要点を逆にした引っかけ。 改正の4大ポイント(錯誤/法定利率/個人根保証/詐欺・強迫は不変)をここで一気に押さえましょう。 → R02 第1問
消費者を守る特別ルール――消費者契約法
事業者と消費者の契約には、力の差があるため、民法に上乗せして消費者契約法が消費者を保護します。 「消費者」とは、事業としてではなく、個人として契約する人のこと。試験では適用範囲と不当条項が頻出です。
- 適用範囲:個人事業主でも、自宅で飲む水を買う等「事業のためでない」買い物なら消費者にあたり、法が適用されます。 逆に、フランチャイズ加盟希望の小売店(事業者)は消費者ではない(→ 7-6)。
- 不当条項(無効になる免責条項):
- 事業者の債務不履行による損害賠償責任の「全部」を免除する条項は、軽過失でも無効。
- 事業者の故意・重過失による責任を「一部でも」免除する条項も無効。
- 令和4年改正で、事業者に解除権の有無を決める権限を与える条項も無効に追加されました。
- 損害賠償額の予定・違約金条項は、平均的損害を超える部分だけが無効(全体が無効ではない)。
📝 過去問はこう出る(H29 第19問/R06 第23問) H29第19問の正解はア「個人事業主が自宅で飲むために水を買った契約には消費者契約法が適用される」。 R06第23問の正解はイ「事業者の債務不履行による消費者の解除権について、その有無を事業者が決める権限を与える条項は無効」 (令和4年改正で追加)。軽過失でも全部免除は無効/重過失は一部免除も無効という8条の枠組みが繰り返し問われています。 → H29 第19問 / R06 第23問
7-2 債務不履行・危険負担・契約解除
約束が守られないとき――債務不履行
契約で約束したこと(債務)が果たされないのが債務不履行です。大きく3タイプに分かれます。
| タイプ | どんな状態か | 例 |
|---|---|---|
| 履行遅滞(りこうちたい) | 期限が来たのにまだ果たさない | 納期を過ぎても商品が届かない |
| 履行不能(りこうふのう) | もはや果たすことが不可能 | 売る予定の建物が焼失した |
| 不完全履行 | 一応果たしたが中身が不十分 | 納品されたが不良品が混じっていた |
- 債権者は、損害賠償の請求や、要件を満たせば契約の解除ができます。
- 改正のポイント:改正前は解除に「債務者の帰責事由(落ち度)」が必要と考えられていましたが、 ※現行法では、解除に債務者の帰責事由は不要になりました(後述)。損害賠償には、なお債務者の帰責事由が必要です。
危険負担――「どちらのせいでもなく」履行できなくなったら
売買契約後、引渡し前に、当事者のどちらのせいでもなく目的物が滅んでしまった(例:地震で建物が倒壊)。 このとき「代金は払わなければならないのか」を扱うのが危険負担です。
- ※現行法では、当事者双方の責めに帰せない事由で債務が履行不能になったとき、 債権者(買主)は反対給付(代金支払)の履行を拒むことができる(民法536条1項)と整理されました。 さらに、履行不能の場合は解除もできるため(帰責事由不要)、実務では解除で処理する場面が増えています。
契約を「こわす」――契約解除 ★改正の目玉
解除とは、いったん成立した契約をさかのぼって解消し、なかったこと(原状回復)にすることです。 改正で要件が大きく整理されたので、現行法のルールをしっかり押さえます。
| 解除の種類 | どんなとき | ポイント(現行法) |
|---|---|---|
| 催告解除 | 履行遅滞→相当期間を定めて催告しても履行しない | 催告期間経過時の不履行が「軽微」なら解除できない(541条ただし書) |
| 無催告解除 | 履行不能/定期行為(その日でないと意味がない)等 | 催告せずにすぐ解除できる(542条) |
現行法の3つの急所(R03第19問で一気に問われました):
- 解除に債務者の帰責事由は不要。「どちらのせいでもなく履行不能」でも、債権者は無催告で解除できる。
- 債権者の落ち度で履行できなくなったときは、債権者は解除できない(543条)。催告してもダメ。
- 催告しても、残る不履行が「軽微」なら解除できない(541条ただし書)。
📝 過去問はこう出る(R03 第19問) 改正民法の解除で最も適切なものを選ぶ問題。正解はウ 「債務不履行が債権者のみの責めに帰すべき事由によるときは、催告しても契約を解除できない」。 「定期行為でも催告しないと解除できない」(×:無催告解除できる)、「残る不履行が軽微でも解除できる」(×:軽微なら不可)、 「双方に帰責事由がない履行不能では解除できない」(×:帰責事由不要で解除できる)は、いずれも改正点を逆にした引っかけ。 → R03 第19問
📝 過去問はこう出る(H26 第14問) 解除の周辺論点(解除と第三者・相続人による解除・保証人)を問う旧法時代の問題。正解はア 「解除前に土地を買い受けた第三者は、対抗要件(登記)を備えなければ、解除者に自らの所有権を対抗できない」。 「共同相続人が各自バラバラに解除権を行使できる」(×:解除権は全員から全員に対して行使=解除権の不可分性)や、 「特定物売主の保証人は解除による代金返還義務の保証責任を負わない」(×:特約がなければ負う)が引っかけ。 解除権の不可分性は現行法でも同じ考え方で残ります。 → H26 第14問
7-3 主要な典型契約(売買・請負・委任・消費貸借・賃貸借)
民法は代表的な契約類型を「典型契約」として定めています。ここでは試験頻出の5つを、要点だけ押さえます。
(1)売買――契約不適合責任と手付 ★最頻出
売買でいちばん問われるのが、契約不適合責任(旧「瑕疵担保責任」)です。 改正で名前も中身も変わった超重要テーマなので、丁寧に見ます。
契約不適合責任とは:引き渡した目的物が、種類・品質・数量について契約の内容に適合しないとき、 買主が売主に対して取れる手段のことです。現行法では、買主は次の4つの手段を持ちます。
| 買主の手段 | 中身(かみくだき) |
|---|---|
| ① 追完請求 | 「直して」「代わりの物をよこして」(修補・代替物・不足分の引渡し) |
| ② 代金減額請求 | 追完してくれないなら「その分値引きして」(明文あり。563条) |
| ③ 損害賠償請求 | 契約不適合で生じた損害の賠償 |
| ④ 契約解除 | 一定の要件を満たせば契約を解除 |
細かい急所(R06第20問などで問われます):
- 追完の方法:買主が方法を指定しても、買主に不相当な負担を課すのでなければ、売主は別の方法で追完できる(562条1項ただし書)。 ⚠️「売主に不相当な負担」ではなく「買主に不相当な負担」――主語のすり替えが定番の引っかけです。
- 不適合が買主の責めに帰すべき事由によるときは、買主は追完請求できない(562条2項。故意・重過失に限らない)。
- 期間制限:種類・品質の不適合は、買主が不適合を「知った時から1年以内」に通知しないと権利を失う(566条)。 数量の不適合には、この1年制限は適用されない(一般の消滅時効による)。
- 免責特約も有効だが、売主が知りながら告げなかった事実については責任を免れない(572条)。
さらに、商人同士の売買(商事売買)には、商法の特別ルールが乗ります。
- 買主は、目的物を受け取ったら遅滞なく検査し、不適合を発見したらすぐ通知する義務を負う(商法526条)。
- すぐに発見できない不適合でも、引渡しから6か月以内に発見・通知しないと請求できない (売主が不適合を知っていた=悪意の場合を除く)。
📝 過去問はこう出る(R06 第20問) 売買の契約不適合責任で最も適切なものを選ぶ問題。正解はウ 「免責特約は有効だが、売主が知りながら告げなかった事実については責任を免れない」。 「代金減額の明文はない」(×:563条にある)、「数量不適合も1年以内の通知が必要」(×:種類・品質のみ)、 「売主に不相当な負担なら別方法で追完できる」(×:正しくは買主に不相当な負担でないとき)が引っかけ。 → R06 第20問
📝 過去問はこう出る(R03 第20問) 診断士と社長の会話形式で、追完請求(562条)と商人間売買の検査・通知義務(商法526条)を問う設問。 設問1の正解はア「不適合が買主の責めに帰すべき事由による場合は追完請求できない/修理が買主に不相当な負担を課す場合はできない」。 設問2の正解はイ「商人間の売買にあたり、すぐ発見できない不適合も引渡しから6か月経過後は(売主が悪意でない限り)請求困難」。 10か月経過で請求困難という結論を、"6か月ルール"から導けるかがポイントです。 → R03 第20問
手付(てつけ):売買の締結時に買主から売主へ渡すお金です。性質が3つあり、併有もあり得るのがポイント。
| 手付の種類 | 意味 |
|---|---|
| 証約手付 | 契約が成立した証拠。どんな手付でも必ずこの性質を併有する |
| 解約手付 | これを使えば契約を解除できる手付(買主は放棄、売主は倍返しで解除) |
| 違約手付 | 契約違反があったときの制裁・損害賠償額の予定 |
- 解約手付による解除の要件:買主は手付を放棄、売主は手付の倍額を「現実に提供」して解除する。 ⚠️売主が倍返しで解除するには、口頭で「倍返しします」と告げるだけでは足りず、現実の提供が必要。
- 相手方が履行に着手した後は、解約手付による解除はできない(557条1項ただし書)。
📝 過去問はこう出る(R06 第21問) 手付の性質と解約手付による解除の要件を問う問題。正解はウ 「解約手付の場合、買主は手付を放棄して解除できるが、相手方(売主)が履行に着手した後はできない」。 「違約手付には証約手付の性質がない」(×:どの手付も証約手付を併有)、「売主は口頭の告知だけで倍返し解除できる」 (×:現実の提供が必要)、「損害賠償額予定の性質があれば解約手付にはなり得ない」(×:併有し得る)が引っかけ。 → R06 第21問
(2)請負――仕事の完成を約束する契約
請負は、請負人が仕事を完成することを約束し、注文者がその結果に対して報酬を払う契約です(建築・システム開発など)。
- 注文者の任意解除権:請負人が仕事を完成しない間は、注文者はいつでも損害を賠償して解除できる(641条)。
- 報酬の支払時期:物の引渡しを要する請負では、報酬は目的物の引渡しと同時履行(633条)。 ⚠️「仕事の完成と同時履行」ではありません(完成が先、引渡しと報酬が同時)。
- 契約不適合責任:注文者が不適合を「知った時から1年以内」に通知しないと権利を失う(637条1項)。 ⚠️「引渡しから1年」ではなく「知った時から1年」。
- 注文者の破産:注文者が破産手続開始決定を受けたとき、請負人からの解除は「仕事を完成しない間」に限る(642条)。
- 割合的報酬:仕事が中途で完成不能になっても、可分で注文者が利益を受ける部分は、その割合で報酬を請求できる(634条)。
📝 過去問はこう出る(R07 第20問) 請負で最も適切なものを選ぶ問題。正解はア 「請負人が仕事を完成しない間は、注文者はいつでも損害を賠償して契約を解除できる」(641条)。 「契約不適合は引渡しから1年以内の通知」(×:知った時から1年)、「注文者破産なら仕事完成後も請負人が解除できる」 (×:完成しない間に限る)、「仕事の完成と報酬が同時履行」(×:引渡しと同時履行)が引っかけ。 → R07 第20問
(3)委任――事務の処理を任せる契約
委任は、当事者の一方が法律行為などの事務処理を相手に委託する契約です(士業への依頼など)。 仕事の完成を約束する請負と違い、委任は適切に事務を処理すること(善管注意義務)が中心です。
- 復委任(下請け的な再委託):受任者は、委任者の許諾を得たとき、またはやむを得ない事由があるときでなければ、 復受任者を選任できない(644条の2)。
- 割合的報酬:委任事務が中途で終了しても、既にした履行の割合に応じた報酬を請求できる(648条3項)。
システム開発の実務では、「請負(完成責任あり)」と「準委任(善管注意義務。完成責任なし)」を 使い分けます(H28第16問でモデル契約が問われました)。
📝 過去問はこう出る(R02 第22問) 改正民法の請負・委任で最も適切なものを選ぶ問題。正解はア 「受任者は、委任者の許諾を得たとき、またはやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任できない」(644条の2)。 「請負の契約不適合は引渡しから1年」(×:知った時から1年)、「委任・請負とも中途終了時に割合的報酬を請求できない」 (×:可分なら割合的報酬を請求できる)が引っかけ。割合的報酬が請求できるが改正の重要ポイントです。 → R02 第22問
(4)消費貸借――お金や物を借りる契約 ★改正あり
消費貸借は、借りた物と同種・同等・同量の物を返す約束の契約です(金銭の貸し借りが典型)。
- 原則は要物契約:物を受け取って初めて成立する(587条)。返済期日の定めは成立要件ではありません。
- 改正で「書面でする消費貸借」は諾成契約に:※現行法では、書面(電磁的記録を含む)で合意すれば、 物を渡す前でも契約が成立する(587条の2)。この場合、
- 借主は、物を受け取る前なら契約を解除できる(貸主からの解除規定ではない)。
- 当事者の一方が物の受取前に破産手続開始決定を受けたら、契約は効力を失う(貸主・借主どちらの破産でも)。
- 期限前返還の自由:返還時期の定めがあっても、借主はいつでも返還できる(591条2項)。 ただし期限前返還で貸主に損害が出たら賠償を要します。
- 利息:貸主は借主が元本を受け取った日以後の利息を請求できる(589条2項)。
- 準消費貸借:既存の債務(売掛金など)を消費貸借に切り替える契約。弁済期の調整・時効期間の切替え・金利改定などに使えます。
📝 過去問はこう出る(R07 第19問) 消費貸借で最も適切なものを選ぶ問題。正解はエ 「利息付き金銭消費貸借の貸主は、特約がなければ、借主が元本を受け取った日以後の利息を請求できる」。 「書面でする消費貸借は貸主が交付前に解除できる」(×:解除できるのは借主)、「貸主の破産では効力を失わない」 (×:どちらの破産でも失う)、「返還時期を定めたら借主はその時期まで返還できない」(×:いつでも返還できる)が引っかけ。 → R07 第19問
📝 過去問はこう出る(H26 第12問) 「最も不適切なもの」を選ぶ問題(旧法時代=要物契約が原則)。正解(=誤り)はア 「返済期日の約束がなければ消費貸借の効力は生じない」――返済期日は成立要件ではなく、現金の交付があれば成立するので誤り。 ほかは正しい記述で、準消費貸借のメリット、公正証書は執行認諾文言がないと債務名義にならない、 利息制限法(元本10万〜100万円は年18%上限=50万円なら年9万円)が押さえどころ。 → H26 第12問
(5)賃貸借――物を貸し借りする契約(借地借家法もからむ)
賃貸借は、賃料を払って物を使わせてもらう契約です。建物や土地の賃貸借には、民法に上乗せして 借地借家法が借り手を強く保護します。中小企業の店舗・事務所・倉庫の賃貸で頻出です。
- 借賃増減請求権(借地借家法32条):賃料が近隣相場に比べて不相当(高すぎ・安すぎ)になったとき、 当事者は将来に向けて賃料の増額・減額を請求できる。協議が調わなければ、調停を経て訴訟で裁判所が相当額を定めます。
- 原状回復:賃借人は、通常の使用で生じた損耗(通常損耗)については、原則として原状回復義務を負いません (特約がない限り)。
- 賃料は勝手に止められない:保証金から未払賃料を相殺できるとしても、一方的に賃料の支払を止めれば債務不履行になります。
📝 過去問はこう出る(H21 第11問) 倉庫(事業用)の賃貸借に関する問題。正解はイ 「賃料が近隣相場に比べ著しく高い場合、交渉のほか、借地借家法32条の借賃減額請求により、協議が調わなければ裁判で減額を請求できる」。 「原状回復は同意がない限り常に当初状態に戻すコストを負担」(×:通常損耗は原則負担しない)、 「保証金相殺を理由に期間満了まで賃料を止めてよい」(×:止めれば債務不履行)が引っかけ。 → H21 第11問
⚠️ 改正メモ:消滅時効の統一 旧法には、業種ごとに短期消滅時効(商品代金2年など)や商事時効5年がありました。※現行法では、 債権の消滅時効は原則として「権利を行使できると知った時から5年/権利を行使できる時から10年」に統一され、 職業別の短期時効は廃止されました。H25第11問(下記)は旧法の短期時効を前提にした問題です。
📝 過去問はこう出る(H25 第11問) 「消滅時効期間が最も短いもの」を選ぶ旧法時代の問題。正解はエ 「メーカーが販売した製品の代金債権(旧173条の短期消滅時効で2年)」。 信用保証協会の求償債権(商事時効5年)、PL法の損害賠償請求権(知った時から3年)、取締役の善管注意義務違反(10年)と比べ、 2年が最短。※現行法では短期時効は廃止され、原則5年/10年に統一された点を必ずセットで覚えます。 → H25 第11問
7-4 保証 ★改正で大きく変わった
保証は、主たる債務者(お金を借りた本人など)が返せないとき、代わりに保証人が支払う契約です。 中小企業では、社長が会社の借入の保証人になる(経営者保証)場面が典型。改正で保証人保護が大きく強化されました。
保証のキホン
- 保証契約は書面(または電磁的記録)でしないと効力を生じない(446条2項・3項)。口約束の保証は無効です。
- 付従性(ふじゅうせい):保証債務は主たる債務に従います。ただし例外もあり、 主たる債務に違約金の定めがなくても、保証債務についてだけ違約金を約定できる(447条2項)。
- 単純保証には分別の利益があり、保証人が複数いれば頭割りした額だけ責任を負います。
- 連帯保証には分別の利益がない。⚠️ここが最頻出。 3,000万円を3人で連帯保証したら、各人が3,000万円全額について責任を負います(1,000万円ずつではない)。
- 免責されても保証人は残る:主たる債務者が破産して免責許可決定を受けても、保証人の責任は消えません (保証はまさに主債務者の無資力に備えるものだから)。
求償権と通知義務
- 保証人が代わりに払ったら、主たる債務者に求償(払った分を返してと請求)できます。 主債務者の意思に反して保証した者も求償できますが、その範囲は制限されます。
- 通知義務:委託を受けた保証人が、主債務者が弁済した旨の通知を怠り、保証人が善意で二重に弁済した場合、 保証人は自己の弁済を有効とみなせる(463条)。
- 事前求償権は、委託を受けた保証人に一定の場合に認められる(460条)。委託を受けない保証人には認められません。
📝 過去問はこう出る(R01 第19問) 民法上の保証で最も適切なものを選ぶ問題。正解はウ 「委託を受けた保証人が、主債務者の弁済通知を怠られて善意で弁済したときは、自己の弁済を有効とみなせる」(463条)。 「主債務者の意思に反した保証人は求償権を有しない」(×:制限されるが求償できる)、 「単純保証で数人いると全員が全部の弁済義務」(×:分別の利益で頭割り)、 「委託を受けない保証人にも事前求償権」(×:委託を受けた保証人のみ)が引っかけ。 → R01 第19問
📝 過去問はこう出る(R07 第18問) 保証で最も適切なものを選ぶ問題。正解はエ 「主たる債務に違約金の定めがなくても、保証債務についてのみ違約金を定めることができる」(447条2項)。 「3,000万円を3人で連帯保証すると各人1,000万円の限度」(×:連帯保証は分別の利益なし=各人全額)、 「主債務者が免責許可決定を受ければ保証人は責任を免れる」(×:免れない)、 事業性貸金の配偶者例外(下記の公正証書ルール)が引っかけ。 → R07 第18問
改正の目玉①――個人根保証は「極度額」を定めないと無効
根保証(ねほしょう)は、将来発生する不特定の債務をまとめて保証するものです(継続取引の保証、賃貸借の保証など)。 ※現行法では、個人が保証人となる根保証契約は、貸金等に限らず(賃貸借の保証等も含めて)、 「極度額(上限額)」を定めなければ効力を生じません(465条の2)。青天井の保証で個人がつぶれるのを防ぐ改正です。
改正の目玉②――事業性の貸金は「保証意思宣明公正証書」が必要
※現行法では、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約・根保証契約は、 保証人が個人の場合、契約締結前1か月以内に作成された公正証書で保証意思を表示しなければ効力を生じません(465条の6)。 リスクを理解しないまま第三者が保証人になるのを防ぐ制度です。ただし、次の人は適用除外(公正証書は不要)。
| 適用除外にあたる人(経営者保証など) | 公正証書の要否 |
|---|---|
| 主たる債務者が法人のときの、その取締役・執行役等 | 不要 |
| 主たる債務者と共同事業を行う者 | 不要 |
| 事業に現に従事している主たる債務者の配偶者 | 不要 |
| 事業に現に従事していない配偶者・親族など | 必要(公正証書が要る) |
⚠️ここが引っかけの宝庫。「配偶者だから常に不要」ではなく、"現に事業に従事している"配偶者だけが除外されます。
📝 過去問はこう出る(R02 第20問) 事業性貸金の個人保証(公正証書ルール)で最も適切なものを選ぶ問題。正解はア 「事業に現に従事していない配偶者が保証人になるには、公正証書で保証意思を表示する必要がある」。 「公正証書は締結前14日以内」(×:1か月以内)、「法人の取締役が保証人になるにも公正証書が必要」(×:取締役は適用除外で不要)、 「法人が保証人なら書面不要」(×:保証契約は書面が必要)が引っかけ。 → R02 第20問
⚠️ 混同注意:「連帯保証」と「連帯債務」 - 連帯保証:主たる債務者がいて、その保証人。付従性があり、分別の利益がない。 - 連帯債務:複数の債務者が、それぞれ全額の債務を負う(保証ではなく、みんなが"本人")。 どちらも「連帯」で紛らわしいので、「主たる債務者+保証人」の関係かどうかで区別します。
7-5 債権回収(相殺・債権譲渡・詐害行為取消権・売掛債権の保全)
取引先の信用が悪化したとき、どう債権(売掛金など)を回収・保全するかは、診断士の腕の見せ所です。 毎年のように出る相殺・債権譲渡・詐害行為取消権を中心に押さえます。
相殺(そうさい)――お互いの債権を差し引きゼロにする
相殺は、当事者が互いに同種の債権を持ち合うとき、一方の意思表示で対当額を消滅させることです。 「向こうへの売掛金」と「向こうからの買掛金」をぶつけて回収する、実務で最も手軽な回収手段です。
相殺の要件・効果の急所(頻出):
- 相殺適状:両債権が相殺できる状態にあること。自働債権(相殺する側の債権)は弁済期到来が必要。 一方、受働債権(相殺される側の自分の債務)は、期限の利益を放棄できるので弁済期未到来でもよい。 ⚠️この「自働は弁済期必要/受働は未到来でもよい」の非対称が最頻出の引っかけ。
- 遡及効:相殺の意思表示は、相殺適状になった時にさかのぼって効力を生じる(506条2項)。
- 意思表示に条件・期限は付せない(506条1項後段)。
- 時効消滅した自働債権でも、消滅前に相殺適状にあったなら相殺できる(508条)。
- 不法行為債権と相殺:加害者側が不法行為債権を「受働債権」として相殺することは原則禁止(509条)。 ただし被害者側が「自働債権」として相殺することは可能。⚠️「自働/受働」どちらかで結論が逆になります。
- 差押えと相殺:差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え「前」に取得した債権を自働債権とする相殺を、 差押債権者に対抗できる(511条1項)。
📝 過去問はこう出る(H30 第19問/R05 第21問) どちらも正解はイ「相殺の意思表示は、相殺適状時にさかのぼって効力を生じる」(506条2項、遡及効)。 共通の引っかけとして、「不法行為債権を自働債権として相殺できない」(×:受働債権とする相殺が禁止/自働債権ならできる)、 「時効消滅した自働債権は相殺できない」(×:消滅前に相殺適状ならできる)、「自働債権の弁済期未到来でも相殺できる」 (×:自働は弁済期到来が必要)が定番です。 → H30 第19問 / R05 第21問
📝 過去問はこう出る(R04 第20問) 相殺の要件・制限を問う問題。正解はエ 「自働債権が弁済期にあれば、受働債権の弁済期が未到来でも、期限の利益を放棄して相殺できる」。 「差押禁止債権を受働債権として相殺できる」(×:510条で禁止)、「差押え前に取得した債権で相殺を対抗できない」 (×:対抗できる)、「相殺の意思表示に条件は付せる」(×:条件も期限も付せない)が引っかけ。 → R04 第20問
債権譲渡――売掛金を第三者に譲る(資金調達・担保)
債権譲渡は、債権(売掛金など)を第三者に譲り渡すことです。売掛金の早期資金化(ファクタリング)や 集合債権譲渡担保(複数の売掛金をまとめて担保にする)に使われます。対抗要件が最大の論点です。
| 対抗要件の種類 | 中身 |
|---|---|
| 債務者対抗要件 | 譲渡人から債務者への通知、または債務者の承諾(債務者に「新しい債権者はこちら」と主張できる) |
| 第三者対抗要件 | 確定日付のある通知・承諾(他の譲受人など第三者との優劣を決める) |
急所:
- 二重譲渡の優劣は、確定日付の先後ではなく、通知が債務者に「到達した時」の先後で決まる(判例)。
- 対抗要件としての承諾は、譲渡人・譲受人のどちらに対してしても有効。
- 譲渡の通知は譲渡人がするもの。譲受人が譲渡人に代位して通知しても対抗要件にならない(判例)。
- 譲渡制限特約が付いた債権でも、※現行法では譲渡自体は有効。ただし譲受人が特約について 悪意または重過失なら、債務者は履行を拒める(466条3項)。⚠️「過失」では足りず「重過失」。
- 法人がする金銭債権の譲渡は、債権譲渡登記で第三者対抗要件を備えられる(動産・債権譲渡特例法)。
📝 過去問はこう出る(R01 第20問) 債権譲渡の対抗要件・二重譲渡を問う問題。正解はイ 「対抗要件としての債務者の承諾は、譲渡人・譲受人のどちらに対してしても有効」。 「二重譲渡は確定日付の先後で決まる」(×:通知の到達の先後)、「通知後は相殺で対抗できない」 (×:通知前に弁済期到来の反対債権なら相殺で対抗できる)、「譲受人が代位して通知しても対抗できる」 (×:通知は譲渡人がする)が引っかけ。 → R01 第20問
📝 過去問はこう出る(R03 第18問) 会話形式で、集合債権譲渡担保の対抗要件・譲渡制限特約・動産売買先取特権の物上代位を問う難問。 設問1の正解はウ「債権譲渡登記で第三者対抗要件を具備できる/譲受人が特約を知り、または重過失で知らなかった場合は請求できない」。 設問2の正解はイ「転売された動産は競売できず、代金債権を差し押さえる(物上代位)/代金が払い渡される前に差押えが必要」。 物上代位は"払渡し前の差押え"が必須という点が急所です。 → R03 第18問
詐害行為取消権――財産隠しを取り消す
詐害行為取消権は、債務者が債権者を害することを知りながら財産を減らす行為(財産隠し・不当な廉売など)をしたとき、 債権者がその行為を取り消して財産を取り戻す制度です(424条以下)。改正で条文が大きく整備されました。
急所(R02第19問などで問われます):
- 被保全債権の発生時期:詐害行為より前に債権の発生原因があれば足り、債権そのものが詐害行為前に発生している 必要はない(424条3項)。
- 可分な財産で価額が被保全債権を超えるときは、被保全債権の額の限度でのみ取消しを請求できる(424条の8)。
- 受益者への取消請求では、行為の取消しに加え、移転した財産の返還も請求できる(424条の6・424条の9)。
- 相当対価を得てした処分も、隠匿等の意思など一定要件を満たせば取消しの対象になり得る(424条の2)。
- 出訴期間:債権者が取消しの原因を知った時から2年(旧426条の考え方。現行も期間制限あり)。
📝 過去問はこう出る(R02 第19問) 改正民法の詐害行為取消権で最も適切なものを選ぶ問題。正解はエ 「目的財産が可分で価額が被保全債権を超えるときは、被保全債権の額の限度でのみ取消しを請求できる」(424条の8)。 「被保全債権そのものが詐害行為前に発生していないと認められない」(×:発生原因が前にあれば足りる)、 「受益者への取消請求で財産の返還は請求できない」(×:返還も請求できる)、 「相当対価を得た処分は取り消せない」(×:一定要件で取り消せる)が引っかけ。 → R02 第19問
📝 過去問はこう出る(H28 第14問) 旧法時代の詐害行為取消権の問題。正解はア 「詐害行為が2年前でも、債権者が害する事実を知ってから1年しか経っていなければ、まだ出訴期間(知った時から2年)内で訴えられる」。 「詐害的会社分割では承継しなかった財産の価額を限度に請求できる」(×:正しくは承継した財産の価額を限度/会社法764条) が引っかけ。"承継した財産の価額を限度"という数字の向きに注意。 → H28 第14問
売掛債権の保全・与信管理――回収の実務
取引開始時の与信管理と、信用悪化時の保全策は、診断士の助言でよく問われます(H20第15問/H24第19問/H26第4問)。 主な打ち手を整理します。
| 場面 | 主な打ち手 |
|---|---|
| 取引開始時(与信) | 相手の信用調査、保証人・連帯保証、担保(抵当権・譲渡担保など)の設定、取引限度額の設定 |
| 信用悪化時(保全・回収) | 相殺による回収、債権譲渡による資金化、動産売買先取特権の行使(物上代位)、仮差押え、内容証明での催告 |
| 倒産手続に入ったら | 別除権(担保権)の行使、相殺権、否認権への対応(→ 第10章 倒産法で詳述) |
7-6 継続的取引・フランチャイズ契約・秘密保持契約
継続的売買基本契約――独禁法とのからみに注意
メーカーと卸・小売の継続的な取引では、まず基本契約を結び、個別の注文は個別契約で回します。 ここで独占禁止法にひっかかる条項を入れないよう注意が必要です。特に次の3つは不公正な取引方法にあたり得ます。
- 再販売価格の拘束:「売主が指定した価格で転売せよ」=原則違法(不公正な取引方法の代表例)。
- 競合品の取扱い禁止(拘束条件付取引)。
- 転売先の制限(正当な理由のない転売先の制約)。
不公正な取引方法に対しては、公正取引委員会から排除措置命令・警告・(一定類型は)課徴金納付命令があり得ます。 ⚠️罰金刑(刑事罰)は不公正な取引方法には科されません(刑事罰があるのはカルテル等の"不当な取引制限"など)。
📝 過去問はこう出る(H27 第3問) 継続的売買基本契約に潜む独禁法問題。設問1の正解はイ「不公正な取引方法」(再販売価格の拘束・競合品取扱い禁止・転売先制限)。 設問2(最も不適切なもの)の正解はエ「罰金刑」――不公正な取引方法に罰金刑は科されないので、処分として最も不適切。 再販売価格の拘束=不公正な取引方法で原則違法をしっかり結びつけましょう(独禁法の詳細は第9章)。 → H27 第3問
フランチャイズ契約――関係法令の"横断"問題
フランチャイズ(FC)契約は、本部(フランチャイザー)が加盟店(フランチャイジー)に、 商標・ノウハウの使用を許諾し、経営指導を行い、対価(ロイヤリティ等)を得る継続的契約です。 FCは複数の法律がからむ横断問題として出ます。
- 中小小売商業振興法:特定連鎖化事業の本部は、加盟希望者にあらかじめ法定事項を記載した書面を交付・説明する義務がある。
- 独占禁止法:契約終了後に、ノウハウ保護等に必要な範囲を超える過大な競業禁止義務を課すと、 優越的地位の濫用にあたり得る(公取委のFCガイドライン)。
- 不正競争防止法:契約解除後の旧加盟店によるチェーン名称の無断使用は、商標登録がなくても (周知表示の混同惹起等として)差止請求し得る。
- 消費者契約法:加盟希望の小売店は事業者であり、消費者ではない(消費者契約法は適用されない)。
📝 過去問はこう出る(H24 第15問) フランチャイズ契約に関する横断問題。正解はウ 「契約終了後、ノウハウ保護等に必要な範囲を超える競業禁止義務を課すことは優越的地位の濫用に該当し得る」。 「本部に書面交付・説明義務はない」(×:中小小売商業振興法で義務あり)、「名称使用差止めには商標登録が必要」 (×:不正競争防止法等で登録なしでも可)、「加盟希望の小売店は消費者とみなされる」(×:事業者で消費者ではない)が引っかけ。 → H24 第15問
秘密保持契約(NDA)――「秘密情報の定義」がキモ
秘密保持契約(NDA:Non-Disclosure Agreement)は、取引で開示する情報を秘密として守る約束です。 共同開発・業務委託・M&Aの検討などで必須。試験(とくに英文契約)では「秘密情報の定義」条項の読み解きが問われます。
- 何が「秘密情報」になるか:一般に、書面開示は「秘密と明示」した情報、口頭開示は一定期間内に書面で 秘密と通知した情報を秘密情報とする、というように開示方法で扱いが異なる設計が多い。
- 秘密情報から「除外」される情報(守る義務を負わないもの)の典型: ① 開示前から公知だった情報、② 受領者の落ち度によらずその後公知になった情報、 ③ 正当に第三者から入手した情報、④ 受領者が独自に開発した情報、そして ⑤ 開示を受ける前から受領者が既に保有していた情報。 ⚠️実務では⑤(既に保有していた情報)を除外し忘れないよう注意します。
📝 過去問はこう出る(H30 第15問) 英文NDAの「秘密情報の定義」条項を読み解く問題。設問1の正解はエ 「書面で開示した場合と口頭で開示した場合とで扱いが異なる点に注意」。設問2の正解はエ 「受領者が開示を受ける前から既に保有していた情報が(除外事由として)漏れているので、除外すべき」。 英文でも、"秘密情報の定義"と"除外事由"の対応関係を落ち着いて追えば解けます。 → H30 第15問
💡 継続的取引・FC・NDAの覚え方:これらは「民法+αの法律」で解く横断分野。 継続的売買=+独禁法(再販拘束)、FC=+中小小売商業振興法・独禁法・不正競争防止法、 NDA=+"秘密情報の定義と除外事由"の読解、と"プラスされる法律"をセットで覚えると迷いません。
この章のまとめ(試験直前チェック)
- ☐ 契約は申込み+承諾で成立(原則諾成契約)。保証契約は書面がないと無効
- ☐ 意思表示は到達主義が原則(※改正で発信主義から変更)
- ☐ 契約締結上の過失:成立前でも信義則上の責任あり/賠償は原則信頼利益まで
- ☐ 錯誤は「無効」→「取消し」に改正/詐欺・強迫はもともと取消し(不変)
- ☐ 消費者契約法:軽過失でも全部免除は無効/重過失は一部免除も無効(消費者=事業目的でない個人)
- ☐ 解除に債務者の帰責事由は不要/債権者の落ち度なら解除不可/残る不履行が軽微なら解除不可
- ☐ 解除権の不可分性:数人なら全員から全員に対して行使
- ☐ 契約不適合責任=追完・代金減額(明文あり)・損害賠償・解除/期間制限は種類・品質のみ知った時から1年/ 追完の「不相当な負担」は買主基準/商人間売買は6か月ルール
- ☐ 手付:どの手付も証約手付を併有/解約手付の解除は買主放棄・売主倍返し(現実の提供)/履行着手後は不可
- ☐ 請負:注文者はいつでも損害賠償して解除/不適合通知は知った時から1年/報酬は引渡しと同時履行
- ☐ 委任:復委任は許諾・やむを得ない事由が必要/中途終了でも割合的報酬を請求できる
- ☐ 消費貸借:原則要物契約、書面なら諾成(借主は交付前に解除/一方の破産で失効)/期限前返還は自由
- ☐ 賃貸借:借賃増減請求権(借地借家法32条)/通常損耗は原則原状回復不要/賃料は勝手に止めない
- ☐ 保証:連帯保証は分別の利益なし(各人全額)/主債務者が免責されても保証人は残る
- ☐ 個人根保証は極度額の定めがないと無効/事業性貸金の個人保証は原則"保証意思宣明公正証書"が必要 (現に事業に従事する配偶者・法人の取締役等は適用除外)
- ☐ 相殺:自働債権は弁済期到来が必要/受働は未到来でも可、遡及効あり、不法行為は受働×・自働○、 差押え前取得の債権で相殺は対抗できる
- ☐ 債権譲渡:二重譲渡は通知の到達の先後/通知は譲渡人がする/譲渡制限特約は悪意・重過失で拒否可
- ☐ 詐害行為取消権:発生原因が前なら足りる/可分は被保全債権額の限度/相当対価処分も要件次第で取消し可
- ☐ 継続的取引=再販拘束は不公正な取引方法で原則違法(罰金刑は科されない)/FC=中小小売商業振興法の書面交付義務/ NDA="既に保有"の除外漏れに注意
この章に対応する主な過去問
| 年度・問 | 論点 | リンク |
|---|---|---|
| H28 第13問 | 契約の成立(申込み・承諾) | 問題 |
| H21 第15問 | 契約締結上の過失(信頼利益) | 問題 |
| R02 第1問 | 改正民法の要点(錯誤・法定利率・根保証) | 問題 |
| H29 第19問 | 消費者契約法(適用範囲・免責条項) | 問題 |
| R06 第23問 | 消費者契約法(不当条項) | 問題 |
| R03 第19問 | 契約の解除(改正民法) | 問題 |
| H26 第14問 | 契約の解除(第三者・相続人・保証人) | 問題 |
| R06 第20問 | 売買の契約不適合責任 | 問題 |
| R03 第20問 | 契約不適合責任・商人間売買 | 問題 |
| R06 第21問 | 売買契約の手付 | 問題 |
| R07 第20問 | 請負 | 問題 |
| R02 第22問 | 請負・委任(改正民法) | 問題 |
| R07 第19問 | 消費貸借 | 問題 |
| H26 第12問 | 消費貸借契約 | 問題 |
| H21 第11問 | 賃貸借契約の更新と賃料 | 問題 |
| H25 第11問 | 債権の消滅時効期間 | 問題 |
| R01 第19問 | 民法上の保証 | 問題 |
| R02 第20問 | 事業債務の保証契約(改正民法) | 問題 |
| R07 第18問 | 保証 | 問題 |
| H30 第19問 | 相殺 | 問題 |
| R04 第20問 | 相殺 | 問題 |
| R05 第21問 | 相殺(民法) | 問題 |
| R01 第20問 | 債権譲渡 | 問題 |
| R03 第18問 | 債権譲渡・集合債権譲渡担保・物上代位 | 問題 |
| R02 第19問 | 詐害行為取消権 | 問題 |
| H28 第14問 | 詐害行為取消権 | 問題 |
| H27 第3問 | 継続的売買基本契約(独禁法) | 問題 |
| H24 第15問 | フランチャイズ契約 | 問題 |
| H30 第15問 | 秘密保持契約(秘密情報の定義) | 問題 |
次章予告 ▶ 第8章「物権・担保・相続」 本章では「債権(人に請求する権利)」を扱いました。次章は、その裏側にあたる「物権(物を直接支配する権利)」と、 債権回収を確実にする担保物権(抵当権・質権・留置権・先取特権・譲渡担保)、そして事業承継でも重要な相続を扱います。 本章7-5で少し触れた「動産売買先取特権の物上代位」も、次章でさらに掘り下げます。