経営法務 H21年度 第15問

第15問

A 社は、公共のインフラを整備する事業を行うことを目的として、平成20年 (2008年)月に新機器の開発とその製造に関するコンペティション(入札)を行 い、その結果、B 社の製品を採用することを決定した。 A 社とB 社間で製品の仕様・対価・数量の概要が合意され、A 社が平成21年 (2009年)月から新機器を利用したサービス開始を予定していたため、B 社は新 機器の開発やA 社の要求する数量を期限までに間に合わせるために、A 社とB 社 間で開発及び製造に関する業務開発委託契約書を作成する前に、B 社は前倒しで部 品の調達及び新機器の開発を進めていた。このような事情をA 社の担当者は把握 しており、A 社はB 社に対して納品がサービス開始の日程に間に合うかというこ とを何度となく確認し、B 社も急ピッチで作業を行っていた。 ところが、A 社の代表者が平成21年月にいわゆるインサイダー取引の容疑で 刑事訴追を受けたことから、A 社の取締役が総入れ替えして新体制となり、事業縮 小の一環で当該事業も取りやめる旨を決定した。 結局、A 社とB 社間では契約書の作成も行われず、B 社が調達した部品や開発 した機器が、A 社の当該事業のために特別に発注したものだったため、他に転用す ることができず、B 社のもとに残った。 以上のような事情を前提に次のうち最も適切なものはどれか。

  1. A 社は、B 社との間で契約を締結していないことから、B 社に生じた損害を一 切賠償する必要はない。
  2. A 社はB 社に対し、契約締結の準備段階における信義則上の注意義務に基づ いて、B 社が実際に当該機器の開発・製造のために調達した部品の代金の全部又 はその一部を賠償しなければならない。
  3. A 社はB 社に対し、契約を締結しなかったという債務不履行責任に基づい て、実際にB 社がA 社に当該機器を販売した場合に得られるべき利益を賠償し なければならない。
  4. A 社はB 社に対し、その代表者が刑事訴追を受けたという不法行為責任に基 づいて、B 社に生じた損害を賠償しなければならない。 ― 21― ◇M5(557―134)
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正解:

解答:イ

〔リード〕契約書の作成(正式な契約締結)には至らなかったが、A社の担当者がB社の前倒し作業を把握し、納期を何度も確認していた事案。契約締結に至らなくても、契約締結交渉が相当程度進み一方が契約成立を信頼して費用を投じたのに、相手方が不当に交渉を破棄した場合には、**契約締結上の過失(契約準備段階における信義則上の注意義務違反)**として、信頼利益(相手方が支出した費用等)の損害賠償責任を負うことがある。賠償範囲は履行利益(契約が成立・履行されていれば得られた利益)ではなく、原則として信頼利益にとどまる。

  • ア(×):「契約を締結していないから一切賠償する必要はない」は誤り。契約が成立していなくても、契約準備段階の信義則上の注意義務違反により損害賠償責任を負いうる。
  • イ(○):A社はB社に対し、契約締結準備段階における信義則上の注意義務に基づき、B社が現実に調達した部品代金の全部または一部(信頼利益)を賠償しなければならない、という説明が最も適切。
  • ウ(×):「債務不履行責任に基づき、販売していれば得られた利益(履行利益)を賠償しなければならない」は誤り。そもそも契約が成立していないため債務不履行責任は生じず、賠償範囲も履行利益にまでは及ばないのが原則。
  • エ(×):代表者が刑事訴追を受けたことはB社に対する不法行為を構成しない。賠償の根拠は不法行為責任ではなく契約締結上の過失(信義則上の注意義務違反)である。

よって

#株式・機関#民法・契約・PL

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