第6章 金融商品取引法と株式上場

この章のねらい ここまでの会社法(第I部)の総仕上げとして、会社が株式を証券取引所に上場する(=株式公開する)とき、 どんなルールが待っているのかを学びます。上場すると、会社は不特定多数の投資家からお金を集められる代わりに、 投資家を守るための特別な法律=金融商品取引法(金商法)の網にかかります。この章は、 「上場のメリット・デメリット」「上場の審査基準」「会社が世の中に情報を出す義務(情報開示)」 「インサイダー取引の禁止」「内部統制の報告」「新しい上場先(新興市場)」という6つの柱を押さえます。

過去問での出方:経営法務では、毎年ほぼ1〜2問がこの分野から出ます(H19〜R01で18問)。 内容は「用語の穴埋め(届出書・目論見書・報告書の区別など)」「〇年・〇か月といった数値」「〇✕の正誤判定」が中心で、 深い法解釈より言葉と数字を正確に覚えているかが問われます。暗記の努力がそのまま得点になる、コスパのよい分野です。


6-0 この章の地図

この章は、会社が上場する「入口 → 上場中 → やってはいけないこと → 追加の義務 → 上場先の選択肢」という 一連の流れに沿って進みます。まず全体像をつかみましょう。

6-1 上場のメリット・デメリット/上場審査基準
        (上場の"入口"。なぜ上場する? どんな審査がある?)
   │        ├─ 形式基準(数値・事実でパスするか判定)
   │        └─ 実質基準(体制・成長性などを"考え方"で審査)
   │
6-2 企業内容の開示(ディスクロージャー)とIR
        (上場すると"情報を出し続ける"義務が発生)
   │        ├─ 発行開示(有価証券届出書・目論見書 など)
   │        ├─ 継続開示(有価証券報告書・臨時報告書 など)
   │        └─ 法定開示/適時開示/任意開示 の3種類・公衆縦覧期間
   │
6-3 インサイダー取引規制
        (情報を持つ者が"抜け駆け"で株を売買するのを禁止)
   │
6-4 内部統制報告制度(J-SOX)
        (財務報告が正しく作られる"社内の仕組み"を報告)
   │
6-5 新興市場と新規上場(グロース/TOKYO PRO Market など)
        (中小・成長企業向けの上場先。上場までの実務)
  • 6-1〜6-2が出題の中心(開示書類の名前と数値がとくに頻出)。
  • 6-3インサイダー6-4 J-SOXは、それぞれ独立した頻出テーマ。
  • 6-5新興市場は、市場名や審査基準の細かい数値が問われます(制度改正が多いので最新の枠組みも押さえます)。

6-1 株式上場のメリット・デメリットと上場審査基準

そもそも「株式上場(株式公開)」とは?

株式上場とは、会社の株式を証券取引所(東京証券取引所など)で誰でも売買できる状態にすることです。 上場していない会社(=非上場会社・未公開会社)の株式は、身内や特定の相手としか売買できませんが、 上場すると、株式が市場を通じて不特定多数の投資家の間で自由に取引されるようになります。

💡 かみくだき:「発行市場」と「流通市場」 - 発行市場(プライマリー・マーケット)=会社が新しく株式を発行してお金を集める場。 - 流通市場(セカンダリー・マーケット)すでに発行された株式を投資家どうしが売買する場。 会社が公募でお金を集めるのは「発行市場」の話。ここを取り違える穴埋めが出ます(後述H25第20問)。

上場のメリット・デメリット

上場は「いいことずくめ」ではありません。メリットと引き換えにデメリット(負担・リスク)を負うという バランスの理解が問われます。

メリット(プラス面) デメリット(マイナス面)
資金 市場で公募(時価発行増資)による直接金融の道が開け、資金調達が円滑・多様に
信用 会社の知名度・信用力の向上、優秀な人材の確保
株式流動性 株式の流動性が高まる(株主が売りやすくなる) 誰でも株主になれるため、株式の買占め経営権を脅かされるリスク
管理コスト 企業内容の開示(金商法・取引所規則)など新たな負担が増加

📝 過去問はこう出る(H25 第20問) 上場のメリット・デメリットを説明した文章の空欄補充。正解は A=発行(市場)/B=時価発行増資/C=買占め。 - A:公募でお金を集めるのは新株を出す「発行市場」(流通市場ではない)。 - B:公募=時価で新株を出す「時価発行増資」(既存株主に割り当てる株主割当増資ではない)。 - C:誰でも株主になれるので、株式の「買占め」で経営権を脅かされる(内部告発ではない)。 → H25 第20問

上場審査基準 ― 「形式基準」と「実質基準」の2段構え

証券取引所の審査は、形式基準実質基準の2つで構成されます。この対比は頻出です。

形式基準 実質基準
中身 一定の数値・事実でクリアを判定する客観的な要件 定性的な項目を、考え方として審査(手引き・ガイドライン・Q&Aで公表)
株主数、流通株式数、時価総額、利益の額、純資産の額、監査意見が適正、株式事務代行機関の設置 企業経営の健全性、企業のコーポレート・ガバナンス、企業内容等の開示の適正性、企業の継続性・収益性/成長可能性
順番 まず形式基準を満たした会社が… 次に実質基準の審査を受ける

💡 覚え方形式基準=数字と事実(○人以上・○円以上)実質基準=会社の中身(健全か・成長できるか)。 「株式数・株主数・時価総額」は株式の流通や株価形成を確保するための形式項目、 「利益の額・純資産の額」は財務数値的な形式項目、と2グループで整理すると混乱しません。

📝 過去問はこう出る(H19 第17問) 設問1は形式基準の空欄。「株主数・時価総額などと並ぶ、株式の流通・株価形成確保のための項目」=株式数(流通株式数)が正解 (安定株式数・債権者数・取引先数ではない)。 設問2は新興市場の形式基準の正誤。誤り(=正解)は「マザーズは純資産の額の項目に適合する必要がある」。 マザーズは成長企業向けで、利益の額も純資産の額も必須要件にしていないのがポイントです。 → H19 第17問

📝 過去問はこう出る(H24 第17問) 実質基準の中身を問う事例問題。 - 設問1(企業経営の健全性・関連当事者取引):正解は。会社が役員に払う役員報酬は役員給与として別途開示されるため、 「関連当事者との取引」として重ねて開示しなくても問題なし。一方、仲介業者を挟んで実質を隠す・算定根拠が不明・無償貸与は いずれも取引の合理性/条件の妥当性/開示の適正性を欠き問題あり。 - 設問2(JASDAQグロース):客観性ある中長期事業計画の有無は「企業の成長可能性」の審査項目に該当(正解イ)。 → H24 第17問


6-2 企業内容の開示(ディスクロージャー)とIR

なぜ「開示(ディスクロージャー)」が必要なのか

上場すると、投資家は会社の中身を直接見ることができません。そこで金商法は、投資家が正しく判断できるように、 会社に企業内容の開示(ディスクロージャー)を義務づけます。開示書類はおおまかに、 ①発行のとき出す書類(発行開示)と、②上場後ずっと出し続ける書類(継続開示)に分かれます。

発行開示の書類 ― 株式を発行・売り出すときに出す

【発行開示】会社が新たに有価証券を発行・売出しするとき
   有価証券届出書 … 発行(売出)価額の総額等が"一定基準以上"のとき、発行者が内閣総理大臣に提出
   有価証券通知書 … 上記の基準に"満たない"ときに提出(届出書の軽い版)
   目論見書       … 投資家に"直接交付"して勧誘するための説明文書
書類 どういうとき ひとことで
有価証券届出書 発行・売出価額の総額等が一定基準に該当するとき 発行開示の中心書類。国(内閣総理大臣)に提出
有価証券通知書 その総額等が届出書の基準に満たないとき 届出書の"小規模版"
目論見書(もくろみしょ) 募集・売出しで投資家に交付して勧誘するとき 投資家に直接手渡す説明書

📝 過去問はこう出る(H30 第22問) 開示書類の名称と内容を対応させる穴埋め。正解はA=有価証券届出書/B=有価証券通知書/C=有価証券報告書/D=目論見書。 「基準以上→届出書、基準未満→通知書」「事業年度ごと→有価証券報告書(継続開示)」「投資家に交付→目論見書」の対応が急所。 → H30 第22問

継続開示の書類 ― 上場後、定期的・随時に出し続ける

書類 いつ出す 提出期限
有価証券報告書 事業年度ごと(定期) 事業年度経過後3か月以内
四半期報告書 3か月ごとの各四半期 各期間経過後45日以内
臨時報告書 財産・経営に著しい影響を及ぼす重要事象が生じたとき 遅滞なく
  • 有価証券報告書は、事業年度ごとに事業内容の重要事項を記載する、継続開示の中心書類です。
  • 臨時報告書は「何か大きなことが起きた」ときに遅滞なく出す随時の書類。
  • これらの開示手続は、電子開示システムEDINET(開示用電子情報処理組織)の使用が義務づけられています。

⚠️ 混同注意:似た名前を取り違えない - 有価証券届出書(発行のとき)⇔ 有価証券報告書(毎年)… "届出=発行時"、"報告=継続"。 - 目論見書は投資家に交付する書類(国に提出する書類ではない)。

四半期報告書について(法改正メモ):過去問(H20第18問など)は、四半期報告書を各期間経過後45日以内に提出する制度を前提としています。 ※現行制度では四半期報告書制度は見直され、半期報告書等に移行していますが、本試験の過去問解説の枠組みでは「四半期報告書=45日以内」を押さえておけば正誤判定できます。

📝 過去問はこう出る(H20 第18問) 企業内容開示で「最も不適切なもの」を選ぶ問題。正解(=誤り)は: 四半期報告書の提出期限を誤って説明した選択肢。正しくは各期間経過後45日以内。 一方、臨時報告書=遅滞なく/有価証券報告書=3か月以内/EDINET使用義務、はいずれも正しい記述です。 → H20 第18問

公衆縦覧期間(こうしゅうじゅうらんきかん)

提出された縦覧書類は、一定期間、誰でも見られる状態(公衆の縦覧)に置かれます。受理日から起算した年数を覚えます。

縦覧書類 公衆縦覧期間(受理日から)
有価証券報告書 5年
半期報告書 3年
内部統制報告書 5年

💡 覚え方「有報5・半期3・内部統制5」。真ん中の半期報告書だけ3年、両端は5年、とリズムで覚えます。

📝 過去問はこう出る(R01 第8問) 縦覧書類の公衆縦覧期間の数値穴埋め。正解はイ(A:5年/B:3年/C:5年)。 有価証券報告書を7年、内部統制報告書を3年とする選択肢は誤りです。 → R01 第8問

3種類の開示 ― 法定開示・適時開示・任意開示とIR

同じ「情報を出す」でも、根拠が何かで3種類に分かれます。これはIR(投資家向け広報)の実務でも重要です。

種類 根拠
法定開示 金商法・会社法などの法律 有価証券報告書、四半期報告書、臨時報告書、事業報告
適時開示(タイムリー・ディスクロージャー) 証券取引所の規則 業務上の提携・その解消、有価証券報告書等の提出遅延、決定・発生事実
任意開示 会社の自主的判断 中期経営計画の公表 など
  • IR(Investor Relations)とは、会社が投資家に向けて経営状況などを発信する広報活動全般を指します。 法定・適時開示に加え、任意開示も組み合わせて行われます。
  • 虚偽記載のペナルティ:有価証券報告書に重要な虚偽記載があると、課徴金損害賠償責任を負います。
  • 流通市場(既発行株の売買)での虚偽記載の損害賠償は、発行市場(新規発行)の無過失責任とは異なり、 会社が無過失を立証すれば免責される「立証責任の転換された過失責任」です(会社の側が「過失なし」を証明する必要がある)。

📝 過去問はこう出る(H27 第18問) IR担当者との会話形式で、適時開示・課徴金・損害賠償責任を問う問題。 - 設問1(適時開示に当たる組合せ)=:業務上の提携・その解消、報告書の提出遅延は取引所規則上の適時開示事項。 一方、有価証券報告書そのものの提出は法定開示、中期経営計画は任意開示。 - 設問2=:流通市場の虚偽記載の損害賠償責任は、発行市場の無過失責任とは「異なり」、 「立証責任の転換された過失責任」。また新規上場企業には内部統制報告書の監査免除という負担軽減措置がある。 → H27 第18問


6-3 インサイダー取引規制

インサイダー取引とは

インサイダー取引とは、会社の内部者などが、まだ公表されていない重要事実を知って、 それが公表される前に自分でその会社の株式を売買することです。情報を持つ者が「抜け駆け」で儲けると、 何も知らない一般投資家との公平が壊れるため、金商法で厳しく禁止されています。

【禁止の構図】
   重要事実(未公表)を知る  ─→  公表される前に  ─→  その会社の株を売買  = アウト
                                    公表後に売買すれば OK

誰が規制対象になるのか(規制対象者)

規制の対象は「情報にどれだけ近いか」で決まります。ここが正誤判定の急所です。

区分 具体例 規制対象か
会社関係者 役員・従業員、契約締結者(顧問・取引先など)。職務に関し重要事実を知った者 対象
元会社関係者 会社関係者でなくなってから1年以内の者(退任1年以内の元役員など) 対象
第一次情報受領者 会社関係者から職務等に関し重要事実の伝達を受けた 対象
第二次情報受領者 第一次情報受領者からさらに又聞きした者 対象外
偶然知った者 立ち話を偶然耳にしたなど、伝達を受けたわけではない者 対象外

⚠️ 混同注意:「伝達を受けた」かどうかがカギ - 会社関係者から職務に関して伝えられた→ 第一次情報受領者=規制対象。 - 偶然耳にした、または第一次受領者からの又聞き(第二次)規制対象外。 "情報が1回渡ったか(第一次)/2回渡ったか(第二次)/渡っていないか(偶然)"で線を引きます。

📝 過去問はこう出る(H25 第15問) 5人のうち「規制対象に含まれない者」を選ぶ問題。正解はエ(cとe)。 - c:取材中に役員の立ち話を偶然耳にした記者 → 伝達を受けていないので対象外。 - e:証券会社担当者(第一次受領者)からさらに聞いた株主 → 第二次情報受領者で対象外。 - 一方、乙社取締役(会社関係者)、退任半年前=1年以内の元代表取締役、顧問先役員から伝達を受けた診断士は、いずれも対象。 → H25 第15問


6-4 財務報告に係る内部統制報告制度(J-SOX)

J-SOXとは

上場会社は、財務報告(決算などの数字)が正しく作られる社内の仕組み=内部統制が きちんと働いているかを、経営者が自ら評価して内部統制報告書として提出しなければなりません。 これを、日本版SOX法という意味で通称J-SOXと呼びます(金商法により、平成20年4月1日以後開始事業年度から導入)。

内部統制の「4つの目的」と「6つの基本的要素」

企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」による定義が、そのまま出題されます。

内部統制の4つの目的 内部統制の6つの基本的要素
① 業務の有効性及び効率性 統制環境(他の要素の"土台")
② 財務報告の信頼性 ② リスクの評価と対応
③ 事業活動に関わる法令等の遵守 ③ 統制活動
④ 資産の保全 ④ 情報と伝達
⑤ モニタリング
⑥ ITへの対応
  • 4つの目的のうち、J-SOXが対象にするのは②財務報告の信頼性です。
  • 6つの基本的要素のうち、統制環境は「経営者の意向・姿勢」のように他の要素すべての基礎(土台)になる要素です。ここが頻出。

💡 覚え方:4つの目的=「業務・財務・法令・資産」(有効性/信頼性/遵守/保全)。 「企業統治体制の確立」は目的に含まれない(=ひっかけの定番)。

内部統制報告書のルール

  • 内部統制が有効か、重要な欠陥があり有効でないかなどの評価結果を記載します。
  • 公認会計士・監査法人による監査証明(内部統制監査)を受ける必要があります。
  • 事業年度ごとに、有価証券報告書と併せて提出します(四半期・半期ごとではない)。
  • 提出義務を負うのは上場会社等。有価証券報告書を出す会社でも、上場・店頭登録していない会社には提出義務なし。

⚠️ 混同注意:内部統制報告書 と 確認書 - 内部統制報告書=財務報告の内部統制を評価した報告書。 - 確認書=有価証券報告書等の記載内容が金商法令に基づき適正であることを経営者が「確認」した旨の書面。 J-SOX導入と同時に「内部統制報告制度」と「確認書制度」の両方が入りました。名前を取り違えないこと。

📝 過去問はこう出る(H22 第18問) 内部統制の定義を問う問題。 - 設問1:4つの目的に含まれないのは「企業統治体制の確立」(正解ア)。他の3つ=業務の有効性・法令遵守・資産の保全は目的に含まれる。 - 設問2:経営者の意向・姿勢のように他の要素の基礎をなす基本的要素は「統制環境」(正解イ)。 → H22 第18問

📝 過去問はこう出る(H20 第17問) J-SOX導入時の制度を問う問題。 - 設問1:有価証券報告書等の記載内容が適正だと経営者が表明する書面=「確認書」(正解ア。鑑定・宣誓・調査ではない)。 - 設問2(最も不適切)=:内部統制報告書は事業年度ごとに有価証券報告書と併せて提出するもので、 「半期・四半期報告書を出すごとに併せて提出」ではない。監査証明が必要/非上場会社には提出義務なし、は正しい記述。 → H20 第17問


6-5 新興市場(グロース市場/TOKYO PRO Market など)と新規上場

新興市場とは ― 成長企業のための"入口"

いきなり大企業向けの本則市場に上場するのはハードルが高いため、 成長途上の中小・ベンチャー企業向けに、より緩やかな基準の新興市場が用意されています。

📌 市場区分の変遷(重要) 過去問にはマザーズ/ジャスダック/ヘラクレスといった旧市場名が登場します。これらは当時の東証・大証の新興市場です。 ※現行制度では、東証は2022年に市場区分を再編し、プライム/スタンダード/グロースの3区分になりました。 旧「マザーズ」は現在のグロース市場に相当します。過去問は出題当時の市場名・基準で解きますが、 「成長性を重視する新興市場(旧マザーズ=現グロース)」という位置づけは共通です。

新興市場の特徴(旧マザーズ=現グロース)

  • 成長性を重視するため、利益の額・純資産の額を必須要件とせず、事業計画の合理性など将来性を審査します。
  • 実質審査では「企業の成長可能性」「事業計画の合理性」が重視されます(本則市場の「継続性・収益性」とは観点が違う)。
  • 形式基準として株主数・流通株式数・時価総額などの数値基準は置かれます。

📝 過去問はこう出る(R01 第22問) マザーズの形式要件・審査内容の穴埋め。正解はウ(A:200/B:10/C:1/D:事業計画の合理性)。 実質審査の観点は成長企業向けの「事業計画の合理性」であり、本則市場向けの「企業の継続性および収益性」ではない点がカギ。 → R01 第22問

📝 過去問はこう出る(H29 第21問) 日本取引所グループ(JPX)の市場別・上場審査基準(形式要件の数値)を表で穴埋めする問題(正解ウ)。 市場ごとに株主数・流通株式などの基準値が異なることを、表と照らして選びます。数値は出題時点(H29)の区分による点に注意。 → H29 第21問

TOKYO PRO Market(プロ向け市場)

TOKYO PRO Marketは、2008年の金商法改正で導入された「プロ向け市場制度」に基づく市場です。 一般投資家ではなく、投資の知識・経験のあるプロ(特定投資家)を対象とします。

一般の新興市場(旧マザーズ 等) TOKYO PRO Market
対象投資家 一般投資家を含む 特定投資家(プロ)中心
形式(数値)基準 流通株式数・株主数などの数値基準あり 株主数などの数値基準なし
上場サポート 取引所が直接審査 J-Adviserが上場適格性を評価・助言・指導
開示・コスト 有価証券報告書等の開示義務あり 開示規制を簡素化しコストを必要最小限に
  • J-Adviserが、上場希望企業の適格性を評価し、上場前後の助言・指導や情報開示のサポートを行います。
  • これにより手続が簡素化され、迅速な上場と低コストでの資金調達が可能になります。

📝 過去問はこう出る(H25 第21問) マザーズとTOKYO PRO Marketの比較。正解は: 「マザーズは利益の額の基準はないが流通株式数・株主数の数値基準がある。TOKYO PRO Marketにはこのような数値基準はない」=正しい。 なお、マザーズには内部統制報告書・四半期報告書の開示義務もある(「ない」は誤り)、PRO Marketでも監査報告書の添付は必要(「不要」は誤り)。 → H25 第21問

新規上場(IPO)の実務 ― 公開価格の決定と上場準備

上場するときに新株を公募・売り出す新規上場(IPO)では、公開価格(売り出す1株の値段)を決めます。 取引所規則では、競争入札か、もう一方のブック・ビルディング方式のいずれかで決めます。

  • ブック・ビルディング方式:会社と引受証券会社が、財政状態・経営成績や機関投資家等の意見を総合勘案して 仮条件(価格の幅)を決め、それをもとに投資家の需要状況を調査して公開価格を決める方法。現在の主流です。

また、上場準備中は株式移動の規制があります。上場前に株を動かすと、不公正な利益移転の温床になりうるため、 一定期間の株式移動は開示が必要で、上場後すぐには売れない継続所有義務(ロックアップ)がかかることがあります。

📝 過去問はこう出る(H21 第17問) 公開価格の決定方法の穴埋め。正解はイ(ブック・ビルディング)。 「仮条件を決めて投資家の需要状況を調査する」という説明が、まさにブック・ビルディングの定義。 比例配分方式(配分方法)・マーケット・メイク(上場後の流動性供給)・類似会社比準方式(株価算定手法)は別物です。 → H21 第17問

📝 過去問はこう出る(H28 第18問) 上場準備中の株式移動規制。正解は: 取引所が適当と認める役員・従業員へ報酬として割り当てた新株予約権(ストックオプション)を行使して取得した株式は、 継続所有義務(ロックアップ)の例外として上場後直ちに売却できる、という記述が正しい。 一方、「株式移動は開示不要」「上場は認められない」などは誤り(原則、所定の開示が必要)。 → H28 第18問

💡 参考(H23 第16問):新興株式市場(ジャスダック・マザーズ・ヘラクレス)の新規上場会社数の推移を グラフから読み取る問題も出ました。歴史が長く規模の大きいジャスダックが最多水準で推移する、といった特徴が判別のカギでした。 → H23 第16問


この章のまとめ(試験直前チェック)

  • ☐ 上場のメリット=公募(時価発行増資)による直接金融・知名度向上・流動性向上/デメリット=買占めによる経営権リスク・開示負担
  • ☐ 資金調達は「発行市場」の話(流通市場ではない)
  • ☐ 上場審査=形式基準(数値・事実)実質基準(体制・成長性などを考え方で審査)の2段構え
  • 形式基準の項目:株主数・流通株式数・時価総額(流通/株価形成)+利益の額・純資産の額(財務)
  • ☐ 発行開示:有価証券届出書(基準以上)/有価証券通知書(基準未満)/目論見書(投資家に交付)
  • ☐ 継続開示:有価証券報告書(事業年度ごと・3か月以内)/臨時報告書(遅滞なく)/四半期報告書(各期間45日以内※現行は見直し)/EDINET義務
  • ☐ 公衆縦覧期間=有報5年・半期3年・内部統制5年
  • ☐ 開示の3種類=法定開示(法律)/適時開示(取引所規則)/任意開示(自主)、IR
  • ☐ インサイダー規制対象=会社関係者・退任1年以内の元関係者・第一次情報受領者偶然耳にした者・第二次受領者は対象外
  • ☐ J-SOX:内部統制の4つの目的(業務・財務・法令・資産)/6つの基本的要素(統制環境が土台)内部統制報告書は事業年度ごと・監査証明必要・上場会社等が対象
  • ☐ J-SOX導入時に「確認書」制度も同時導入(経営者が記載内容の適正を確認)
  • ☐ 新興市場(旧マザーズ=現グロース)は成長性重視(利益・純資産は必須でない)、審査観点は「成長可能性・事業計画の合理性
  • TOKYO PRO Market=プロ(特定投資家)向け・数値基準なし・J-Adviserが支援
  • ☐ IPOの公開価格はブック・ビルディング方式(仮条件→需要状況調査)/上場準備中は株式移動規制・ロックアップ

この章に対応する主な過去問

年度・問 論点 リンク
H25 第20問 上場のメリット・デメリット 問題
H19 第17問 株式上場の形式基準・実質基準 問題
H24 第17問 上場審査の実質基準(関連当事者取引・成長可能性) 問題
H30 第22問 金融商品取引法上の開示書類 問題
H20 第18問 上場会社の企業内容開示(報告書の提出期限) 問題
R01 第8問 縦覧書類の公衆縦覧期間 問題
H27 第18問 上場企業の情報開示・IR(適時開示・損害賠償責任) 問題
H25 第15問 インサイダー取引の規制対象者 問題
H22 第18問 財務報告に係る内部統制(J-SOX) 問題
H20 第17問 内部統制報告制度・確認書制度 問題
R01 第22問 マザーズの上場審査基準 問題
H29 第21問 上場市場別の上場審査基準 問題
H25 第21問 TOKYO PRO Market(プロ向け市場) 問題
H21 第17問 上場前の公募・公開価格の決定(ブック・ビルディング) 問題
H28 第18問 上場準備中の株式移動規制 問題
H23 第16問 新興株式市場の新規上場会社数の推移 問題

次章予告 ▶ 第7章「契約と債権」(ここから第II部 民法) ここまでの会社法・金商法(会社の"器"のルール)を離れ、いよいよ第II部=民法に入ります。 第7章では、日々のビジネスの土台となる「契約」と「債権」を扱います。契約はいつ成立するのか、 約束が守られなかったら(債務不履行)どうなるのか、といったあらゆる取引の基本ルールを学びます。