第11章 特許法と実用新案法

この章のねらい ここからは経営法務の第II部「知的財産権」に入ります。知的財産(知財)は、経営法務のなかでも 毎年もっとも多く出題される最重要分野です。年度によっては40問中7〜8問が知財から出ます。 なかでも本章で扱う特許法は、その中心に位置する"知財の王様"。特許の考え方を先にきちんと押さえておくと、 次章の意匠法・商標法も「特許とどう違うか」という対比でスッと理解できます。

過去問での出方:例年、第6問〜第14問あたりに知財がまとまって並びます。 特許では①産業財産権4つの比較(存続期間)、②発明の要件・新規性喪失の例外、 ③職務発明(35条)、④侵害と実施権、⑤実用新案(無審査・技術評価書)、 ⑥外国出願(パリ条約・PCT)が定番の6大テーマ。数字(存続期間・期間要件)を正確に覚えれば、 ここは得点源にできます。逆に、うろ覚えだと引っかけにやられる分野でもあります。


11-0 この章の地図

この章は、まず「知財の全体像(4つの産業財産権)」を俯瞰し、そのあと特許を①要件 → ②職務発明 → ③侵害・効力、と段階を追って深掘りします。最後に実用新案と外国出願を押さえます。

11-1 産業財産権の全体像     … 特許・実用新案・意匠・商標の比較/存続期間(★頻出)
   │
11-2 特許の要件            … 発明とは何か/新規性・進歩性/新規性喪失の例外
   │
11-3 職務発明(35条)       … 誰のもの?/予約承継/相当の利益(★頻出)
   │
11-4 特許権の効力・侵害と対応 … 実施権(専用・通常)/差止・損害賠償/過失の推定
   │
11-5 実用新案法            … 考案/無審査登録主義/技術評価書
   │
11-6 外国出願              … パリ条約の優先権/PCT国際出願

まず言葉の整理をしておきましょう。

  • 知的財産権:人の知的な創作や営業上の目印を保護する権利の総称。特許・実用新案・意匠・商標・著作権などを含む大きな傘。
  • 産業財産権(=工業所有権):知的財産権のうち、特許庁出願して登録を受ける4つの権利 (特許権・実用新案権・意匠権・商標権)をまとめた呼び方。本章と次章で扱うのはこの4つです。
  • 著作権:著作権は登録しなくても創作した時点で自動的に発生する点が産業財産権と大きく違います(→ 第13章)。

💡 覚え方:「産業財産権=特許庁に届けて登録してもらう4兄弟(特・実・意・商)」。 著作権は仲間はずれ(登録不要・自動発生)と覚えると、横断問題で迷いません。


11-1 産業財産権の全体像 ― 4つの権利の比較 ★最重要

まず4つの権利を「何を守るか」で区別する

産業財産権の4つは、それぞれ守る対象が違います。ここを最初に押さえましょう。

権利 守る対象(ざっくり言うと) 身近な例
特許権 発明(自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの) 新しい製造方法、画期的な機械の仕組み
実用新案権 考案(物品の形状・構造・組合せに関するちょっとした工夫。高度でなくてよい) 便利な文房具の形、道具の構造の改良
意匠権 デザイン(物品などの形状・模様・色彩の美的な外観) 製品の見た目・パッケージのデザイン
商標権 目印(自他の商品・サービスを区別するマーク) ブランド名、ロゴマーク
  • 特許と実用新案は「技術・アイデア」を守り、意匠は「見た目」、商標は「名前・目印」を守る、と整理できます。
  • 特許と実用新案の違いは、「高度かどうか」「方法も守れるか」の2点(詳しくは11-5)。

いちばんの頻出ポイント:存続期間

産業財産権の存続期間は、経営法務でくり返し問われる超定番です。起算日(いつから数えるか)年数をセットで正確に覚えてください。

権利 存続期間 起算日(★ここが引っかけ) 更新
特許権 20年 出願の日から なし(延長登録制度あり※)
実用新案権 10年 出願の日から なし
意匠権 25年 出願の日から(現行法) なし
商標権 10年 設定登録の日から あり(10年ごとに何度でも更新可)

⚠️ 起算日の落とし穴 - 特許・実用新案・意匠は「出願の日」から数えます。 - 商標だけは「設定登録の日」から。しかも10年ごとに更新して半永久的に維持できるのが特徴です。 - 過去問(H29 第7問)は、特許を「登録日から20年」と書いて誤りにさせる、まさにこの引っかけでした。

意匠権の年数は改正されている(注意)

意匠権の存続期間は法改正で変わったため、年度によって解説の数字が異なります。

  • 令和元年(2019年)改正前:設定登録の日から20年
  • 現行法(令和2年4月施行以降)出願の日から25年

※注記:古い年度の過去問(例:H26 第13問は「設定登録日から20年」で正解)は旧法基準です。 現行法では「出願日から25年」に変わっています。本試験では出題年の法律が基準になるので、 新しい年度=出願日から25年、と現行法を軸に覚えておきましょう。

「更新」と「延長」は別物

似た言葉ですが、対象も意味も違います。ここもH26 第13問(設問2)で問われました。

制度 どの権利にある? 中身
更新登録制度 商標権 10年ごとに何度でも更新でき、事実上ずっと使い続けられる
延長登録制度 特許権 医薬品などで、許認可のため実施できなかった期間を後ろに延ばせる

💡 覚え方:「更新は商標、延長は特許」。商標は"目印"なので使い続ける限り守り続けたい → 更新。 特許は"開発しても発売に時間がかかる医薬品"を救うため → 延長、とイメージすると混同しません。

📝 過去問はこう出る(H26 第13問) 設問1は4権利の存続期間の組合せ、設問2は更新・延長制度。 設問1の正解(出題当時)は「意匠:登録日から20年/実用新案:出願日から10年/特許:出願日から20年/商標:登録日から10年」。 設問2の正解は「(1)更新登録制度=商標権、(2)延長登録制度=特許権」。 ※意匠は現行法では「出願日から25年」に改正されている点に注意。 → H26 第13問

📝 過去問はこう出る(H29 第7問) 「産業財産権の存続期間」の正誤問題。正解は「意匠権の存続期間は設定登録の日から20年(出題当時)」。 「実用新案は登録日から15年(×10年・出願日から)」「特許は登録日から20年(×出願日から)」 「商標は年ごとに更新(×10年ごと)」はいずれも数字・起算日の誤り。 → H29 第7問

各法に固有の制度(横断整理)

4つの権利は、それぞれ固有の制度を持っています。R01 第15問はこれを横断で問いました。

制度 どの法にある?
出願審査請求制度(出願日から3年以内に請求しないと審査されない) 特許法(実用新案にはない=無審査)
出願公開制度(出願から1年6か月で内容が公開される) 特許法(意匠法にはない
特許異議申立制度 特許法(2015年に復活)
新規性喪失の例外 特許法・意匠法(商標法にはない=商標は新規性を要件としないため)

📝 過去問はこう出る(R01 第15問) 「産業財産権法の固有制度」を問う横断問題。正解は「特許法には特許異議申立制度が規定されている」。 「実用新案法に審査請求制度(×無審査で審査請求はない)」「意匠法に出願公開制度(×ない)」 「商標法に新規性喪失の例外(×商標に新規性要件はない)」はすべて誤り。 → R01 第15問


11-2 特許の要件 ― 「発明」とは何か

そもそも「発明」とは(特許法2条1項)

特許で守られるのは、何でもよいわけではありません。特許法は「発明」を次のように定義します。

発明=「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」

かみくだくと、次の4つの条件を満たすものが「発明」です。

  1. 自然法則を利用していること(物理・化学などの法則を使う)
  2. 技術的思想であること(技術に関する考え・アイデア)
  3. 創作であること(人が新しく作り出したもの)
  4. 高度であること(実用新案の「考案」との違いはここ)

だから、次のようなものは発明にあたりません(=特許にできない)。

  • 自然法則そのもの・発見:例)ニュートンの万有引力の法則。もともと自然にあるものを"見つけた"だけ。
  • 自然法則を利用しない人為的な取り決め:例)ゲームのルール、計算方法、暗号のきまり。
  • 単なる情報の提示や、技能(フォークボールの投げ方など個人の熟練)。

「物の発明」と「方法の発明」

発明には大きく2種類あります。ここは実用新案との違いにつながる重要ポイントです。

  • 物の発明:機械・装置・化学物質など「物」そのものの発明。
  • 方法の発明:やり方・手順の発明。さらに「単純な方法の発明」と「物を生産する方法の発明」に分かれます。

特許は「物の発明」も「方法の発明」も守れます。 一方、後で見る実用新案は方法を守れません(物品の形だけ)。

📝 過去問はこう出る(H21 第6問) 特許の「発明」と実用新案の「考案」の対比。正解(=最も不適切)は 「実用新案法における考案には、方法の考案も対象となっている」=これが誤り。 実用新案は「物品の形状・構造・組合せ」に限られ、方法は対象外。 一方「万有引力の法則のような発見は発明にも考案にも該当しない」「特許には方法の発明も含まれる」 「発明は高度・考案は高度の限定なし」はいずれも正しい記述。 → H21 第6問

特許を受けるための主な要件

「発明」であっても、特許を受けるにはさらに条件があります。代表的なのが次の2つです。

要件 意味(かみくだき)
新規性 まだ世に知られていない、新しいものであること(出願前に公開されていないこと)
進歩性 その分野の専門家(当業者)が簡単には思いつけないこと。既存技術の"当たり前の組合せ"ではダメ
  • ほかに「産業上利用できること」「先に出願されていないこと(先願主義)」なども要件です。
  • 先願主義:同じ発明が複数出願されたら、先に出願した人が特許を受けられる、というルール。 日本は先願主義なので、1日でも早く出願することが重要になります(この発想が外国出願の11-6にもつながります)。

新規性喪失の例外 ― うっかり公表しても救われる制度

「新規性」があると、出願前に発明を公表してしまうともう特許を取れないのが原則です。 しかし、それでは学会発表や展示会への出品ができず不便です。そこで用意された救済策が 新規性喪失の例外(特許法30条)です。要件をきっちり覚えましょう。

  • 期間:新規性を喪失した日(=公表した日)から1年以内に出願すること。
  • 対象特許を受ける権利を持つ人の「行為に起因して」公表した場合も広く救われる (=自分から発表・出品した場合もOK)。「意に反して(他人に勝手に公開された場合)」だけに限られない。
  • 手続:出願と同時に書面を出し、30日以内に証明書を提出する、といった手続きが必要。

⚠️ ここが引っかけ(数字と条件) - 期間は「1年以内」。「18か月以内」「2年以内」は誤りの定番。 - 「意に反して公開した場合に限る」は誤り自分から発表した場合(行為に起因)も救済対象です。 - あくまで救済であって、この間に他人が同じ発明を先に出願すると負けることもあります(万能ではない)。

📝 過去問はこう出る(R04 第14問) 発明展に自分で出品した後で特許を取りたくなった、という会話形式の問題。正解は 「新規性を喪失した日から1年以内に特許出願をする必要がある。特許を受ける権利を有する者の 行為に起因して新規性を喪失した場合にも、所定の手続的要件を満たせば適用を受けられる」。 「18か月以内」「2年以内」は期間の誤り、「意に反して喪失した場合に限る」は条件の誤り。 → R04 第14問 / 関連 H20 第8問R01 第12問

出願公開と補償金請求権

特許出願は、出願から1年6か月(18か月)経つと内容が出願公開されます。すると、まだ特許が 登録される前でも、他人にマネされる恐れが出てきます。そこで出願人を守る仕組みが補償金請求権(特許法65条)です。

  • 発生:出願公開後、他人がその発明を業として実施した場合、警告するか、相手が 出願された発明と知って実施していた(悪意)場合に、補償金(実施料相当額)を請求できる権利が生じる。
  • 行使のタイミング:この補償金は、特許権の設定登録があった後でなければ請求できません。 「公開されたらすぐ取れる」わけではない点が要注意。
  • 出願が放棄・拒絶されたら:補償金請求権は初めから生じなかったものとみなされます。
  • 特許権とは別物:補償金請求権を行使しても、登録後の特許権(差止・損害賠償)は別に行使できます

📝 過去問はこう出る(R07 第10問) 補償金請求権(65条)の正誤問題。正解は「補償金請求権は、特許権の設定登録があった後でなければ 行使することができない」。「出願が放棄されても消滅しない(×初めから生じなかったとみなす)」 「警告しなければ一切行使できない(×悪意の実施者には警告不要)」 「補償金を行使したら特許権は行使できない(×別個に行使できる)」はいずれも誤り。 → R07 第10問


11-3 職務発明 ― 会社の発明は誰のもの?(特許法35条)★頻出

職務発明とは

会社の従業員が仕事で発明をしたとき、その特許は「発明した本人のもの」か「会社のもの」か―― これを定めるのが職務発明の制度(特許法35条)です。まず言葉を整理します。

  • 従業者等:従業員、法人の役員、公務員など(=発明する人)。
  • 使用者等:会社(法人)、国、地方公共団体など(=雇う側)。
  • 職務発明:従業者等がした発明で、次の2つを両方満たすもの。 1. その性質上、使用者等の業務範囲に属する(会社の事業に関係する分野の発明) 2. その発明に至った行為が、その従業者等の現在または過去の職務に属する

⚠️ 「現在または過去」がポイント 職務発明は「現在の職務」だけでなく「過去の職務」に属する発明も含みます。 だから「過去の職務に属する発明は職務発明にならない」という選択肢は誤り。 逆に、経理部員が畑違いの自動車エンジンを発明しても、それは職務に属さないので職務発明ではありません

誰のものか ―「相当の利益」と法定通常実施権

職務発明制度の核心は、発明者(従業者)会社(使用者)の利害を調整する点にあります。 ここは平成27年改正で大きく変わったので、改正前後を分けて理解しましょう。

■ 平成27年改正前(従来の制度)

  • 特許を受ける権利は、まず発明者(従業者)に帰属(=発明者主義)。
  • 会社が特許を取るには、契約や勤務規則で発明者から権利を譲り受ける必要があった。
  • 権利を会社に承継させた発明者は、「相当の対価」を請求できる権利を持った(対価請求権)。

■ 平成27年(2015年)改正後(現行制度)

  • 契約・勤務規則などにあらかじめ定めておけば、特許を受ける権利を初めから会社(使用者等)に帰属させられる。 → 発明者から譲り受ける手間(承継手続)が不要になり、共同研究などがスムーズに。
  • 発明者は、その代わりに「相当の利益」(金銭だけでなく、昇進・留学・ストックオプションなども可)を 受ける権利を持つ。※改正で「相当の対価」→「相当の利益」に呼び方が広がった。

💡 改正のねらい:発明が完成した瞬間に権利が"自動的に会社のもの"にできるようにして、 権利の帰属をめぐるトラブルや手続の煩雑さを減らし、企業の知財戦略をスピードアップさせること。

会社が持つ「法定通常実施権」

もし発明者本人が特許を取った(会社に権利が渡らなかった)場合でも、会社は損しません。 会社は、職務発明について当然に「通常実施権」を持つからです(法定通常実施権、35条1項)。

  • この通常実施権は無償で、登録なしに当然に発生します。
  • あとから特許権を取得した第三者にも対抗できます(登録は効力発生の要件ではない)。
  • したがって「会社は相当の対価を払わないと実施できない」というのは誤り(無償で実施できる)。

⚠️ 予約承継の定めが有効なのは"職務発明だけ" 「特許を受ける権利をあらかじめ会社に取得させる」という契約・勤務規則の定め(予約承継)は、 職務発明についてのみ有効です。職務発明以外の発明(自由発明)について同じ定めを置いても無効

📝 過去問はこう出る(R07 第9問) 職務発明(35条)の正誤問題。正解は「職務発明以外の発明(自由発明)について、あらかじめ 使用者に特許を受ける権利を取得させる定めの条項は無効である」。 「法定通常実施権は後に特許権を取得した者に効力を有しない(×対抗できる)」 「通常実施権は登録しなければ効力を生じない(×登録不要で当然発生)」 「過去の職務に属する発明は職務発明と認められる場合はない(×現在または過去でOK)」はいずれも誤り。 → R07 第9問

📝 過去問はこう出る(H22 第8問) 職務発明の具体例の正誤問題。正解(=最も不適切)は 「従業者が特許を取った場合、会社は相当の対価を支払わなければ実施できない」=これが誤り。 会社は法定通常実施権(無償)を持つので、対価を払わなくても実施できます。 一方「承継させれば出願の有無にかかわらず対価請求権を持つ」「退職後の出願でも在職中の職務に属せば 職務発明となりうる」「畑違いの経理部員の発明は職務発明でない」は正しい。 → H22 第8問

📝 過去問はこう出る(H28 第7問) 平成27年改正の穴埋め問題。従来制度では特許を受ける権利は発明者に帰属し、 使用者等が取得するには譲り受ける必要があった――という改正前後の理解を問う内容。 あわせて、この改正が特許法条約(PLT)・商標に関するシンガポール条約の実施のための整備を含む点も出題。 (特許協力条約(PCT)とのすり替えに注意。PCTは国際出願の制度で、この改正の対象ではない。) → H28 第7問 / 関連 R06 第17問H19 第8問


11-4 特許権の効力・侵害と対応

特許権の効力 ―「業として実施」を独占する

特許権者は、その特許発明を業として実施する権利を専有します(独占できる)。 ここでカギになるのが「実施」の意味です(特許法2条3項)。

発明の種類 「実施」に含まれる行為
物の発明 その物の生産・使用・譲渡・輸出・輸入、譲渡の申出 など
方法の発明(単純方法) その方法の使用
物を生産する方法の発明 その方法の使用に加え、その方法で作った物の使用・譲渡・輸出・輸入 など
  • ポイントは、輸出・輸入も「実施」に含まれること(H30・R03で頻出)。
  • 物を生産する方法の発明では、「その方法で作られた物」を売る・輸出する行為まで実施に含まれます。

💡 生産方法の推定(特許法104条):ある物が「出願前に日本国内で公然知られていなかった物」の場合、 同じ物はその特許方法で作られたものと推定されます。侵害訴訟で権利者の立証負担を軽くする仕組みです。

📝 過去問はこう出る(R03 第11問) 「実施」の定義・過失の推定・生産方法の推定を問う問題。正解は 「物を生産する方法の発明で、その物が出願前に公然知られた物でないときは、 その物と同一の物はその方法で生産したものと推定される」(104条)。 「専用実施権を侵害しても過失は推定されない(×推定される)」 「生産方法の発明で作った物の輸出は実施に該当しない(×該当する)」はいずれも誤り。 → R03 第11問

ライセンス ― 専用実施権と通常実施権

特許権者は、他人に「使ってよい」と許諾(ライセンス)できます。その形が2つあります。違いが頻出です。

専用実施権 通常実施権
性質 その範囲で独占的に実施できる(権利者本人も実施できなくなる 単に「実施してよい」という許諾(独占ではない
効力発生 登録が効力発生要件(登録して初めて発生) 登録は不要(契約で発生)
差止請求 できる(専用実施権者自身が差止め可) 原則できない
第三者への対抗 登録により対抗 当然対抗制度(H24改正)で登録なしに対抗できる
  • 専用実施権は非常に強い権利で、設定すると特許権者自身もその範囲では実施できなくなるのが特徴。 効力発生に登録が必要な点が引っかけで問われます。
  • 通常実施権の当然対抗制度(平成24年改正):かつては通常実施権を特許の譲受人に対抗するには登録が必要でしたが、 改正後は登録なしで当然に対抗できるようになりました。

⚠️ 先使用権(特許法79条) 他人が特許を出願する前から、独自に同じ発明を実施していた(または準備していた)人は、 先使用権という無償の通常実施権を持ちます。相手の特許が有効に存続していても、 元の事業の範囲内で実施を続けられるのです。「先に警告書が来たら即中止・回収」ではなく、 まず先使用権が成立しないかを検討するのが正しい対応です。

📝 過去問はこう出る(H21 第7問) B社の特許出願(2005年)より前(2004年設立時)から同じ製法で製造していたA社が、 B社から警告書を受けた事例。正解は「特許出願時点で既に同一方法で製造していたことを立証できれば、 特許が存続していても将来にわたり実施する権利がある」=先使用権(79条)の説明。 「有効に存続しているから即中止・回収すべき」「無効審判を裁判所に請求(×特許庁に請求)」は誤り。 → H21 第7問 / ライセンス関連 H24 第13問

侵害されたときの3つの対応

特許権を侵害されたとき、権利者がとれる主な手段は次の3つです。

  1. 差止請求:侵害行為の停止・予防を求める。侵害品の廃棄なども請求できる。 → 故意・過失を問わず請求できる(相手に落ち度がなくても止められる)。
  2. 損害賠償請求:侵害で生じた損害の賠償を求める(民法709条が基礎)。 → こちらは相手の故意または過失が必要。ただし後述の「過失の推定」で立証が楽になる。
  3. 不当利得返還請求:侵害者が得た利益の返還を求める。

過失の推定(特許法103条)

損害賠償を請求するには、本来は「相手に過失があった」ことを権利者が立証しなければなりません。 しかし特許は登録され公示されているので、他人の特許を知らずに侵害したという言い訳は通りにくい。 そこで過失の推定(特許法103条)が置かれています。

  • 他人の特許権・専用実施権を侵害した者は、過失があったものと推定される。
  • つまり、権利者は相手の過失を立証しなくてよく、侵害者の側が「過失がなかった」と証明しなければならない。

この過失推定規定があるか・ないかが横断問題で問われます。

権利 過失の推定 理由
特許権・意匠権 あり 登録され公示されている
商標権 あり(商標法39条が特許法103条を準用) 同上
実用新案権 なし 無審査登録なので、代わりに技術評価書の提示・警告が必要(→ 11-5)
著作権・営業秘密 なし 登録による公示制度がない

📝 過去問はこう出る(H29 第8問) 「損害賠償で侵害者の過失が推定される権利」を問う問題。正解は「商標権」 (商標法39条が特許法103条を準用)。「実用新案権(×無審査ゆえ推定なし)」 「営業秘密使用行為」「著作権」はいずれも過失推定規定がない。 → H29 第8問


11-5 実用新案法 ― 小さな工夫を早く守る

実用新案とは ―「考案」を守る

実用新案は、特許ほど高度でない「ちょっとした工夫」を保護する制度です。守る対象は考案です。

考案=「自然法則を利用した技術的思想の創作」(実用新案法2条1項)。「高度」の限定がないのが特許との違い。

さらに、実用新案には特許と決定的に違う2つの特徴があります。

  1. 保護対象は「物品の形状・構造・組合せ」に限る方法の考案は守れません(特許は方法の発明も守れる)。
  2. 無審査登録主義 → 新規性・進歩性などの実体審査をせずに登録される。だから早く登録されるが、権利の中身は不安定。
特許(発明) 実用新案(考案)
対象 物の発明・方法の発明 物品の形状・構造・組合せ(方法は不可
高度性 高度なもの 高度でなくてよい
審査 実体審査あり(出願審査請求が必要) 無審査登録(審査請求制度なし)
存続期間 出願日から20年 出願日から10年
権利行使 そのまま可能(過失推定あり) 技術評価書の提示・警告が必要(過失推定なし)

📝 過去問はこう出る(R02 第12問) 実用新案法と特許法の比較(最も不適切を選ぶ)。正解(=誤り)は 「実用新案出願は審査請求を行わなくとも実体審査が開始される」。 実用新案は無審査登録主義で、新規性・進歩性の実体審査は行われません。 「実用新案は権利行使に技術評価書の提示が必要/特許は不要」「存続期間は実用新案10年・特許20年(出願日から)」 「方法の考案は実用新案では保護されない」はいずれも正しい。 → R02 第12問

技術評価書 ― 無審査ゆえの安全装置

無審査で登録される以上、本当は無効な(新規性のない)実用新案権が世に出てしまう恐れがあります。 そこで、権利を行使する前に、その権利がどれだけ有効そうかを特許庁に評価してもらう仕組みが 実用新案技術評価書です。

  • 権利行使のルール:実用新案権者は、技術評価書を提示して警告した後でなければ、 侵害者に対して権利行使(差止・損害賠償など)ができません(実用新案法29条の2)。 → 無審査で登録された弱い権利をふりかざす濫用(らんよう=むやみな行使)を防ぐためのブレーキです。
  • 技術評価の請求は、請求項ごとにすることも、誰でもすることもできます。

💡 なぜ技術評価書が必要?:実用新案は"審査なしで早くもらえる"かわりに、「本当に有効な権利か」を 誰も保証していません。そこで「使う前に評価書を見せて警告してね」というルールで、 弱い権利による不当な差止めを防いでいます。特許(審査済み)にはこの手続は要りません。

📝 過去問はこう出る(H28 第6問) 実用新案技術評価の正誤問題。正解は「実用新案権者は、技術評価書を提示して警告をした後でなければ、 侵害者等に対しその権利を行使することができない」(29条の2)。 「請求項ごとにできない(×請求項ごとにできる)」などは誤り。無審査登録ゆえの濫用防止規定がポイント。 → H28 第6問

📝 過去問はこう出る(R05 第14問) 実用新案登録した商品を、より長い特許に切り替えたいという会話問題。空欄の正解は 「特許権の存続期間は原則特許出願の日から20年」「自己の実用新案登録に基づく特許出願は、 その実用新案登録出願の日から原則3年を経過するとできない」。 存続期間の起算点(出願日)と、実用新案→特許への乗換え要件(3年)が問われました。 → R05 第14問 / 関連 H21 第8問


11-6 外国出願 ― パリ条約とPCT

なぜ「外国出願」が問題になるのか

特許権は国ごとにしか効きません(属地主義)。日本で特許を取っても、外国では別に権利を 取らないと守られないのです。しかも日本は先願主義なので、外国でも早く出願することが大切。 そこで、複数国に効率よく出願するための国際的な枠組みが用意されています。代表がパリ条約PCTです。

パリ条約の「優先権」

パリ条約は、工業所有権保護の基本条約です。試験で特に問われるのが優先権の制度です。

  • 優先権:ある国(第一国)に出願した人が、一定期間内に別の同盟国へ出願すれば、 第一国の出願日を基準に新規性などを判断してもらえる制度。
  • 優先期間:特許・実用新案は12か月、意匠・商標は6か月
  • ねらい:第一国に出願した後、翻訳や準備で時間がかかっても、その間に他人に先を越されないようにする。

PCT(特許協力条約)― 一本の出願で全加盟国へ

PCT(Patent Cooperation Treaty=特許協力条約)は、1つの国際出願を自国の特許庁に1通提出すれば、 すべての加盟国に同時に国内出願したのと同じ効果が得られる制度です。手続の入り口を大幅に簡素化します。

  • 注意:PCTは「世界特許」ではない。PCTはあくまで出願手続を統一するだけ。 特許を付与するかどうかは、最終的に各国の特許庁が自国の特許法で判断します。
  • 国内移行手続が必要:国際出願の後、実際に各国で審査を受けるには、期限内に翻訳文の提出など 「国内移行手続」を各国で行う必要があります(「何もしなくても各国で審査が始まる」わけではない)。
  • 国際調査:国際出願は国際調査の対象となり、出願人はその結果を参考に各国移行を判断できます。 ただし各国は国際調査の結果に拘束されません(あくまで参考資料)。
パリ条約(優先権) PCT(国際出願)
やり方 各国に個別に出願(優先権を主張して) 1つの国際出願で全加盟国に出願した効果
出願書類 国ごとに用意 統一書類を自国特許庁に1通
各国の審査 各国が自国法で判断 各国が自国法で判断(世界特許ではない)

⚠️ 台湾はPCT非加盟:PCTは加盟国にしか効果が及びません。台湾はPCTに加盟していないため、 台湾での権利取得はPCT経由ではできず、パリ条約優先権による国別出願などが必要です。過去問の定番論点です。

💡 他の分野の国際出願制度もセットで - 商標の国際登録マドリッド協定議定書(マドプロ) → 1つの出願で複数国に商標登録。 - 意匠の国際登録ハーグ協定(ヘーグ条約) → 意匠の国際出願。 - 特許の国際出願PCT。 「何を国際出願するか」で条約が変わる点を押さえましょう。

📝 過去問はこう出る(H24 第9問) 「1つの出願書類を自国特許庁に1通提出すれば全加盟国に同時出願した効果が得られる。ただし世界特許ではなく 各国法で審査される」という説明の条約名を問う問題。正解は特許協力条約(PCT)。 パリ条約(優先権・内国民待遇の基本条約)やヘーグ条約(意匠)とのすり替えに注意。 → H24 第9問

📝 過去問はこう出る(R03 第14問) PCT国際出願の穴埋め。正解は「A:各国で審査を受けるには所定の翻訳文提出等の"国内移行手続"が必要」 「B:各国特許庁はそれぞれの特許法に基づいて特許権を付与するか否かを判断する」。 「何ら手続不要」「国際調査の結果と同じ判断を下す必要がある」はいずれも誤り(PCTは世界特許ではない)。 → R03 第14問 / 関連 H19 第7問


この章のまとめ(試験直前チェック)

  • ☐ 産業財産権=特許・実用新案・意匠・商標の4つ(特許庁に出願して登録)。著作権は仲間はずれ(登録不要・自動発生)
  • ☐ 存続期間:特許20年・実用新案10年・意匠25年(現行)はいずれも"出願日"から/商標は"登録日"から10年(更新可)
  • 更新は商標/延長は特許(意匠は令和元年改正で「登録日から20年」→「出願日から25年」)
  • ☐ 発明=自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの(発見・ゲームのルールは×)
  • ☐ 特許は方法の発明も守れる/実用新案は方法は守れない(物品の形状・構造・組合せのみ)
  • 新規性喪失の例外=公表から1年以内に出願/自分の行為に起因でも救済(意に反した場合に限らない)
  • ☐ 補償金請求権(65条)は設定登録後でなければ行使できない/出願放棄なら初めからなかったものとみなす
  • ☐ 職務発明(35条):職務は現在または過去でOK/平成27年改正で権利を初めから会社に帰属させられる/発明者は相当の利益
  • ☐ 会社は職務発明について法定通常実施権(無償・登録不要・対抗可)を持つ → 対価を払わずに実施できる
  • ☐ 予約承継の定めが有効なのは職務発明のみ(自由発明は無効)
  • 専用実施権=登録が効力発生要件・独占(本人も実施不可)・差止め可/通常実施権は当然対抗(H24改正)
  • 先使用権(79条):出願前から実施していた人は無償の通常実施権 → 警告が来ても即中止ではない
  • 差止めは故意・過失不要/損害賠償は過失必要だが、特許・意匠・商標過失が推定される(実用新案・著作権は推定なし)
  • ☐ 実用新案=無審査登録主義/権利行使には技術評価書の提示・警告が必要(29条の2)
  • ☐ 外国出願:パリ条約=優先権(特許・実用新案12か月/意匠・商標6か月)PCT=1出願で全加盟国(ただし世界特許ではない・国内移行手続必要)
  • ☐ PCTは台湾非加盟/商標はマドプロ・意匠はハーグ協定

この章に対応する主な過去問

年度・問 論点 リンク
H26 第13問 産業財産権の存続期間・更新/延長 問題
H29 第7問 産業財産権の存続期間 問題
R01 第15問 産業財産権法の固有制度(横断) 問題
H21 第6問 発明と考案の違い 問題
R04 第14問 新規性喪失の例外 問題
R07 第10問 補償金請求権(65条) 問題
R07 第9問 職務発明(35条) 問題
H22 第8問 職務発明(法定通常実施権) 問題
H28 第7問 職務発明(平成27年改正) 問題
R03 第11問 特許権の侵害・実施・生産方法の推定 問題
H21 第7問 特許権侵害への対応(先使用権) 問題
H24 第13問 特許ライセンス(当然対抗制度) 問題
H29 第8問 過失の推定 問題
R02 第12問 実用新案法と特許法の比較 問題
H28 第6問 実用新案技術評価 問題
R05 第14問 実用新案→特許の乗換え・技術評価書 問題
H24 第9問 特許協力条約(PCT) 問題
R03 第14問 PCT国際出願(国内移行手続) 問題
H19 第7問 外国出願の方法(PCT・パリ条約・マドプロ) 問題

次章予告 ▶ 第12章「意匠法と商標法」 本章の「特許・実用新案(技術・アイデアの保護)」に続き、次章は意匠(デザイン)商標(目印・ブランド)を扱います。特許との違い(新規性・出願公開の有無、商標の更新制度、 先願・登録要件など)を対比しながら、意匠の関連意匠・組物、商標の識別力・不使用取消しなどの 頻出論点を押さえていきます。