第12章 意匠法と商標法
この章のねらい 産業財産権(特許・実用新案・意匠・商標)のうち、意匠法と商標法を扱います。 前章までの「発明・技術(特許・実用新案)」に対して、この章は 「デザイン(意匠)」と「ブランド・目印(商標)」という、"見た目"と"信用"を守るルールです。 経営法務の知財分野のなかでも、意匠・商標は毎年ほぼ確実に2〜4問が出るドル箱の頻出分野。 制度の"つくり"は特許と似ているようで、要件・存続期間・考え方がところどころ違います。 その"違い"こそが出題の急所です。
過去問での出方:意匠は「特殊な出願制度(部分意匠・関連意匠・組物・秘密意匠・画面/建築物)」が 定番。商標は「登録要件・不登録事由・識別力」「先使用権」「地域団体商標・GI」「マドリッド協定議定書」が 4本柱です。先使用権の要件("出願前から使用"+"出願の際に周知")と、 意匠の物品性、商標の"創作でなく出所識別"という発想は、手を変え品を変え何度も問われます。 ここを固めれば知財は大きく点を稼げます。
12-0 この章の地図
この章は、まず意匠(デザインの保護)を押さえ、次に商標(ブランドの保護)を、 「登録するまで」→「登録した権利の効力・維持」→「地域ブランド」→「海外への広げ方」の順で進みます。
12-1 意匠制度 … デザインを守る。物品性・登録要件・特殊出願(★頻出)
│ 部分意匠/関連意匠/組物/秘密意匠/画面・建築物・内装/存続期間
│
12-2 商標制度 … ブランド・目印を守る。機能・登録要件・不登録事由・識別力
│ 「創作」ではなく「出所識別」/立体・動き商標/使用による識別力(3条2項)
│
12-3 商標権の効力 … 専用権と禁止権/先使用権(★超頻出)/小売等役務/更新
│
12-4 地域団体商標・GI … 地域ブランドを守る2つの制度(主体・周知性・移転制限)
│
12-5 商標の国際登録 … マドリッド協定議定書(マドプロ)/パリ条約の優先権
💡 最初に頭に入れる"3つの物差し" 特許・意匠・商標は、次の3点で比べると整理できます。 ① 何を守るか(技術/デザイン/目印) ② 存続期間の起算点(意匠・商標は"設定登録の日"から。特許は"出願の日"から) ③ 更新できるか(商標だけ更新して半永久に使える/意匠・特許は更新なし) この物差しは12-1と12-3で繰り返し使います。
12-1 意匠制度 ― デザイン(見た目)を守る
いちばん短い定義
意匠(いしょう)とは、ざっくり言えば「物品などの見た目のデザイン」です。 意匠法は、意匠を次のように定義しています(意匠法2条1項)。
意匠 = 物品の形状・模様・色彩、またはこれらの結合であって、 視覚を通じて美感を起こさせるもの
かみくだくと、意匠として守られるのは「形・柄・色(またはその組み合わせ)で、 目で見て"いいな"と感じさせるデザイン」です。ここで大事なポイントが2つあります。
- 保護されるのは 形状・模様・色彩 であって、「構造」ではありません。 中身のしくみ(構造・機能)は意匠ではなく特許・実用新案の世界です。
- 意匠は 「物品」とセットで成立します(=物品性)。物品を離れてデザインだけが浮いて 存在することはありません。この「物品ごとに意匠が成立する」考え方が、意匠のいちばんの土台です。
⚠️ 定番の引っかけ:「形状・模様・色彩」に"構造"は入らない 意匠の定義に「構造」を紛れ込ませる選択肢が繰り返し出ます。意匠は"見た目"であって"中のしくみ"ではありません。
📝 過去問はこう出る(H20 第10問) 画面デザインの穴埋め問題。「意匠法は物品の〔 〕、模様若しくは色彩又はこれらの結合を保護する」の空欄に 「構造」を入れた選択肢が最も不適切(=正解)。正しくは「形状」です(設問1=ウ)。 設問2では「ビデオディスクプレーヤーの画面デザインを、別物品のカーナビの画面に使う場合、どちらか一方で 登録しておけば両方守られる」が誤り(設問2=エ)。意匠は物品ごとに成立するので、物品が違えば別々に登録が必要です。 → H20 第10問
意匠の登録要件(登録を受けるための条件)
意匠登録を受けるには、主に次の要件を満たす必要があります。
| 要件 | かみくだくと |
|---|---|
| 工業上利用できること | 量産できる工業製品のデザインであること(一点物の美術品は対象外) |
| 新規性 | 出願前に世の中に知られていないデザインであること(公知の意匠と同一・類似はダメ) |
| 創作非容易性 | ありふれた手法で簡単に作れる程度のものでないこと |
| 先願(さきねがい) | 同じ・似たデザインは、先に出願した人が登録を受ける |
- 新規性:出願前にカタログや刊行物に載っていた意匠、またそれに類似する意匠は、 新規性を失って登録できません(意匠法3条1項3号)。
- 先願:同じ日に2つ以上の同一・類似の意匠が出願され、話し合い(協議)がまとまらない場合は、 どちらも登録を受けられません(意匠法9条2項)。くじ引きで1人に決める特許の同日出願処理とは違う点に注意。
📝 過去問はこう出る(H30 第8問) 意匠の「類似」の扱いを問う問題。正解(ア)は 「出願前に頒布された刊行物に記載された意匠に類似する意匠は、新規性を欠き登録を受けられない」(意匠法3条1項3号)。 「同日出願で協議不成立ならくじで1人に定める」(イ)は誤り。意匠は"協議不成立ならどちらも登録不可"です。 → H30 第8問
特殊な出願制度① 部分意匠
部分意匠は、「物品の一部分だけ」について意匠登録を受ける制度です。 たとえばコップの"持ち手"だけ、スマホの"角のライン"だけ、というように、 守りたい特徴的な部分を、図面で破線と実線を使い分けて指定します。
- ねらい:権利化したい部分以外を権利範囲から除外し、余分な限定を排除して権利を強くできる。
- 利用率が高く、実務でとても人気のある制度です。
特殊な出願制度② 関連意匠
関連意匠は、本意匠(メインのデザイン)に類似するバリエーション違いのデザインを、 「関連意匠」としてまとめて登録し、より広い権利範囲を確保する制度です。
- 登録要件:関連意匠は本意匠に類似することが条件。 逆に、関連意匠にだけ似ていて本意匠には似ていない意匠は、関連意匠として登録できません(意匠法10条)。
- 存続期間の起算点に注意:関連意匠の意匠権の存続期間は、関連意匠自身の登録日ではなく、 本意匠の意匠権の設定登録の日から起算して満了します。
📝 過去問はこう出る(H29 第9問/H27 第12問/R07 第16問) H29第9問は会話文の穴埋め。「一部分について権利化し余分な限定を排除する」=部分意匠、 「互いに類似する複数の意匠を登録して広く権利を確保する」=関連意匠で、正解はウ。 H27第12問は、関連意匠を「本意匠及び関連意匠に類似する意匠まで登録できる」としたア(誤り)や、 秘密意匠を「7年以内」としたエ(誤り)が並ぶ中で、部分意匠の説明(ウ)が正しいものでした。 → H29 第9問 / H27 第12問 / R07 第16問
特殊な出願制度③ 組物(くみもの)の意匠
組物の意匠は、「一緒に使われる複数の物品のセット」を、全体で1つの意匠として登録する制度です。 たとえば「一組の飲食用ナイフ・フォーク・スプーンのセット」など。
- 要件:同時に使われる二以上の物品(経済産業省令で定めるもの)で、組物全体として統一感があること(意匠法8条)。
- 効果:意匠権は組物全体としての意匠に及びます。セットのうち「ナイフだけ」といった構成物1つには及びません。
⚠️ 混同注意:「組物」は"重ねて登録"ではない 組物の意匠は、複数物品を"全体で1つ"として登録する制度であって、 同じ物品を"重ねて登録"する制度ではありません(H29第9問の引っかけ)。
特殊な出願制度④ 秘密意匠
秘密意匠は、登録した意匠の内容を、一定期間公開しないでおける制度です(意匠法14条)。
- 出願人は、設定登録の日から最長3年以内の期間を指定して、意匠を秘密にするよう請求できます。
- ねらい:デザインをすぐに公報で公開すると他社に模倣のヒントを与えてしまうため、 発売時期に合わせて内容を伏せておけるようにするもの。
- 新規性(登録要件)とは別の制度:秘密請求ができるかどうかは、その意匠が出願前に 公知だったか(新規性の話)と連動しません。公知になっていても、秘密請求の手続自体は可能です。
💡 数字の覚え方:秘密意匠は「3年」/「登録の日」から 秘密にできるのは設定登録の日から3年以内。「7年」「5年」などの数字にすり替えた選択肢はバツ。
📝 過去問はこう出る(H28 第9問/H26 第7問) H28第9問は、「出願変更した意匠が新規性を失っているから秘密請求できない」など、 秘密意匠の可否を新規性と結びつけた選択肢がすべて誤りで、 「公知かどうかにかかわらず秘密請求できる」(ウ)が正解。 H26第7問も「秘密意匠は登録の日から3年以内の期間を指定できる」(ア)が正しい記述でした。 → H28 第9問 / H26 第7問
画面デザイン・建築物・内装(新しい保護対象)
意匠法は改正を重ね、守る対象を広げてきました。整理しておきましょう。
- 画面デザイン(GUI):家電・情報機器の表示部に映る操作画像などが保護対象。 かつては「機器に表された画像」で、特定の物品と結びつかないソフトの画像は対象外という運用でした (H20当時)。近年の改正で保護は拡充されていますが、試験では過去問解説の年度基準で判断してください。
- 建築物・内装の意匠:近年の改正で、建築物の外観・内装のデザインも意匠登録の対象に加わりました。 お店の外観や、統一感のある内装(インテリア)を意匠として保護できます。
⚠️ 年度に注意:画面デザインやGUIの保護範囲は法改正で広がっています。 古い年度の問題(H20など)は当時の運用が前提です。解説に書かれた範囲を基準に理解し、 「※現行法では対象が拡大している」と頭の片隅に置いておきましょう。
意匠権の効力と存続期間
- 効力:意匠権者は、登録意匠だけでなく、これに類似する意匠の実施も独占できます(意匠法23条)。 「類似意匠には効力が及ばない」という選択肢は誤りの定番です。
- 実施には輸出も含む:業として登録意匠の物品を輸出する行為も意匠権侵害になり得ます。
- 存続期間:意匠権は設定登録の日から存続します。
- H25当時の過去問では「登録から20年」が基準でした。
- ※現行法(2020年施行の改正)では、意匠権の存続期間は"出願の日から25年"に変更されています。 古い年度の解説(20年)と現行(25年)が食い違う点は、注記して覚えておきましょう。
📝 過去問はこう出る(H25 第10問) 意匠権の効力・存続期間の問題。正解(ア)は 「組物の意匠権は組物全体に及び、構成物の一つ(ナイフのみ)の意匠には及ばない」。 「類似意匠には効力が及ばない」(イ)、「輸出は侵害にならない」(エ)は誤り。 ウは「関連意匠の存続期間を"関連意匠の登録日から"起算」とした点が誤りで、正しくは本意匠の登録日から起算です。 → H25 第10問
⚠️ 意匠 vs 特許 の制度比較(頻出) - 秘密意匠は意匠にだけある制度(特許にはない)。 - 存続期間の起算点:意匠権・商標権は「設定登録の日」から、特許権は「特許出願の日」から起算(特許は出願日から20年)。 - 出願審査請求制度・出願公開制度は特許にはあるが、意匠登録出願にはない(H23第7問)。 → H23 第7問
12-2 商標制度 ― ブランド・目印(信用)を守る
いちばん短い定義と、商標の"3つの機能"
商標(しょうひょう)とは、事業者が自分の商品・サービスを、他人のものと区別するために使う 目印(マーク)です。文字・図形・記号・立体的形状・色彩、さらにこれらの結合などが含まれます。
商標には次の3つの機能があるとされます。
| 機能 | かみくだくと |
|---|---|
| 自他商品識別機能 | 「これは○○社の商品だ」と他社の商品と見分けられる |
| 出所表示機能 | どこ(誰)が作った商品かを示す |
| 品質保証機能 | 同じマークなら同じ品質だろう、という安心を与える |
💡 商標のいちばん大事な考え方:「創作」ではなく「出所識別」を守る 意匠が"デザインの創作"を守るのに対し、商標は"どこの商品か(出所)を見分けさせること"を守ります。 だから商標では「そのマークがきれい・独創的か」は本質ではなく、 「需要者(お客さん)がそれを見て、どの会社の商品かを識別できるか」が決定的に重要です。 この"創作ではなく出所識別"の発想は、立体商標や識別力の問題で繰り返し問われます。
商標の登録要件と「識別力」
商標登録を受けるには、まず識別力(自他商品識別力)が必要です。 「その商品の一般的な呼び名」や「ありふれたもの」は、独占させると他社が困るので登録できません。
- 識別力を欠くもの(商標法3条1項各号):商品の普通名称、ありふれた氏・屋号(「鈴木商店」等)、 産地・品質・原材料を普通に表示したものなど。
- こうしたマークは、そのままでは登録が難しいのが原則です。
📝 過去問はこう出る(H20 第7問) 「鈴木商店」のようなありふれた屋号は識別力を欠き、そのままでは登録が難しい、という回答は妥当(ウは適切)。 → H20 第7問
例外:「使用による識別力の獲得」(商標法3条2項)★重要
識別力がないマークでも、長く使い込んだ結果、お客さんが「あれは○○社の商品だ」と認識するようになった 場合は、例外的に登録が認められます。これが使用による識別力の獲得(商標法3条2項)です。
- ここでの判断基準は「需要者(一般消費者)が出所を認識できるか」であって、 「同業者が分かるか」ではありません(ここが引っかけの定番)。
- また商標は「創作性」を保護する制度ではないので、「創作性があるから登録できる」という理由づけは誤りです。
📝 過去問はこう出る(H29 第10問/R07 第12問) どちらも「商品・容器の立体的形状」を立体商標として登録できる要件を問う問題。 正解の核は「使用された結果、需要者が"何人か(どの会社)の業務に係る商品"であると認識できるに至った」こと (商標法3条2項)。 - 「創作性を有し」=誤り(商標は創作を守る制度ではない) - 「同業者が認識できる」=誤り(基準は需要者) R07第12問では、あわせて「商標登録出願を意匠登録出願に変更できるか→できない」も問われました。 → H29 第10問 / R07 第12問
新しいタイプの商標(立体・動き・音・色彩など)
平成26年(2014年)の改正で、伝統的な文字・図形に加え、新しいタイプの商標が登録できるようになりました。
| 種類 | 例 |
|---|---|
| 立体商標 | 商品・容器・キャラクター人形などの立体的形状 |
| 動き商標 | 映像として時間的に変化する標章 |
| ホログラム商標 | 見る角度で変化するホログラム |
| 音商標 | メロディ・サウンドロゴ |
| 位置商標 | 商品の特定の位置に付す標章 |
| 色彩のみからなる商標 | 単色・配色のみ |
- 立体商標も動き商標も、文字を含んでいても登録できます(「文字を含むとダメ」は誤り)。
- 立体的形状は立体商標の対象。人形のような形も登録の対象になります。
📝 過去問はこう出る(R06 第13問) 動き商標・立体商標の可否を問う事例。「文字を含む動き商標も登録できる」「人形のような立体的形状も、 文字を含む立体商標も登録できる」が正しく、正解はイ。「動くもの/文字入りは登録できない」は誤りです。 → R06 第13問
不登録事由(登録できない商標)― 商標法4条
識別力があっても、公益や他人の利益を守るために登録できないマークがあります(商標法4条1項)。 代表例を押さえましょう。
| 登録できないもの | 根拠(4条1項) |
|---|---|
| 外国の国旗と同一・類似 | 2号 |
| 菊花紋章(皇室の紋章)と同一・類似 | 1号 |
| 赤十字の標章・名称と同一・類似 | 4号 |
| 他人の周知・著名な商標と混同するもの、他人の先願登録商標と同一・類似 | 各号 |
⚠️ 引っかけ:「市町村の標章」は"一律に"登録不可ではない 4条で排除されるのは「国・地方公共団体等の著名な標章」など限定された範囲です。 「市町村を表示する標章と同一・類似の商標は一律に登録されない」という言い切りは誤りです(H26第8問)。
📝 過去問はこう出る(H26 第8問) 外国国旗(2号)・菊花紋章(1号)・赤十字(4号)は正しく、 「市町村を表示する標章は一律に登録不可」(ウ)が誤り=最も不適切(正解)。 → H26 第8問
商標法上の「商品」・出願公開・法目的
- 出願公開制度:商標法には出願公開制度があります(商標法12条の2)。出願後、遅滞なく公開されます。 (意匠登録出願には出願公開制度がない点と対比。)
- 法の目的:商標法1条は、商標を使う者の業務上の信用の維持を図り、あわせて需要者の利益を保護する ことを目的にしています。「需要者の利益保護は目的でない」は誤りです。
- 出願変更の限界:商標登録出願を意匠登録出願に変更することはできません(法域が異なり、変更規定がない)。 一方、防護標章登録出願→商標登録出願への変更は、査定・審決が確定する前に限り認められます(商標法65条)。
📝 過去問はこう出る(R05 第13問) 「商標法には出願公開制度がある」(イ)が正しい記述。 「商標出願→意匠出願に変更できる」(ア)、「需要者の利益保護は目的でない」(ウ)、 「防護標章→商標の変更は確定後でもできる」(エ)はいずれも誤り。 → R05 第13問
12-3 商標権の効力・先使用権・小売等役務商標・更新
専用権と禁止権 ― 効力は2段構え
商標権の効力は、専用権と禁止権の2つに分けて考えると、権利関係の問題が一気に解けます。
| 専用権 | 禁止権 | |
|---|---|---|
| 範囲 | 指定商品・役務についての登録商標の使用 | 指定商品に類似する商品・役務、登録商標に類似する商標の範囲 |
| 内容 | 自ら独占して使用できる(商標法25条) | 他人の使用を排除できるだけ(商標法37条) |
| 使用許諾 | できる | できない(類似範囲は自分が独占していないので、他人に使用権を設定できない) |
つまり、類似範囲は「他人を止められる(禁止権)」だけで、「自分が独占して使う・他人に貸す」ことはできない、 という点が急所です。
📝 過去問はこう出る(H24 第7問) 指定商品「菓子」の登録商標「恋人」について、「パン」が「菓子」と類似と扱われても、 「パン」は指定商品そのものではなく類似範囲(禁止権が及ぶ範囲)にすぎません。 専用権は指定商品「菓子」にしか及ばないので、「パン」について他人に使用権を許諾することはできない(ア=正解)。 また「自己の氏名を普通に表示する商標」には効力が及びません(26条)が、それを商標として(出所表示として)使う 場合まで自由に使えるわけではない、という点も要注意です。 → H24 第7問
先使用権(商標法32条)★この章の最重要論点
日本の商標法は先願主義(先に出願・登録した人が権利者になる)です。 そのため、先に使っていた人が、後から他人に登録されてしまうことが起こり得ます。 これを一定の場合に救うのが先使用権です。要件を正確に覚えることが、合否を分けます。
先使用権が認められる3要件:
- 不正競争の目的でないこと
- 他人の商標登録出願の"前"から、日本国内でその商標を使用していたこと
- その出願"の際"に、自己の商品等を表す商標として需要者の間に広く認識されている(周知)こと
⚠️ 引っかけの急所は「時点」と「周知性」 - 基準時は 「登録前/登録の際」ではなく「出願前/出願の際」。ここを"登録"にすり替える選択肢が頻出。 - 単に前から使っていただけでは足りず、"周知"であることが必須。「使用してさえいれば足りる」は誤り。 - 先使用権が認められても、効力は従来の業務範囲に限られ、「一切制限を受けない」わけではありません。 - 商標権者は、先使用者に対して混同防止の表示を付すよう請求できます(商標法32条2項)。
📝 過去問はこう出る(R01 第14問/R03 第13問/H19 第6問/H20 第7問/H21 第9問) R01第14問・R03第13問は、まさに「出願前から使用」「出願の際に周知」を正しく述べた選択肢が正解。 「使用または使用の準備で足りる」「登録前/登録の際が基準」は誤りでした。 H19第6問は、先に使い始めても「今年ようやくY市で知られた」段階で出願時に周知とはいえないため、 先使用権も周知商標としての保護も主張しにくく、「登録した相手(先願者)が権利者となる」(ア)が適切。 H20第7問は「先に使っていたから一切制限を受けないはず」(イ)が誤り=最も不適切でした。 → R01 第14問 / R03 第13問 / H19 第6問 / H20 第7問
商標の「使用」・分離使用・不正使用取消審判
登録商標は、登録どおりの形で使う(同一性のある使用)ことが求められます。 勝手に一部を分けて使う(分離使用)と、思わぬリスクが生じます。
- 分離使用によって、他人の周知・著名な商標と出所混同を生じさせるおそれがあると、 不正使用取消審判(商標法51条)の対象になり得ます。
- 不正使用取消審判(51条)は、「何人も」請求でき、利害関係人であることを要しません。
📝 過去問はこう出る(H19 第10問) 「○○○CLUB」を一連で登録した後に「○○○」と「CLUB」を分離使用した事例。 A社の「○○○」が登録後に周知著名になっている状況で、 「分離した程度では一体性が損なわれていないから使用を継続する」(ウ)が最も不適切(=正解)。 出所混同・不正使用取消審判のリスクを軽視した誤った判断だからです。 → H19 第10問
各種の取消審判・登録異議
- 不使用取消審判(商標法50条):登録商標が継続して3年以上、日本国内で(商標権者・専用使用権者・ 通常使用権者のいずれも)使われていないとき、「何人も」取消審判を請求できます。 取消審決が確定すると、商標権は将来に向かって(不使用取消では審判請求登録日に)消滅します。 「設定登録日に遡って消滅」ではない点に注意。
- 登録異議申立て:異議申立てがされていない指定商品・役務については審理できません(審理範囲を職権で広げない)。
💡 数字の覚え方:不使用取消は「3年」/「何人も」 不使用取消審判は「継続して3年使っていない」+「利害関係不要(何人も請求可)」。 「2年」「利害関係人のみ」にすり替えた選択肢はバツ。
📝 過去問はこう出る(R07 第16問/H26 第9問) R07第16問は「3年」「誰でも(何人も)請求できる」の組合せが正解(ウ)。 H26第9問は、不使用期間の年数、51条の請求人適格(何人も)、取消の効果(将来に向かって消滅)を問い、 「異議申立てのない指定商品・役務は審理できない」(エ)が正しい記述でした。 → R07 第16問 / H26 第9問
小売等役務商標
小売等役務商標(平成19年4月1日から登録)は、小売業・卸売業が店舗で行う 総合的なサービス(品揃え・陳列・接客など)そのものに対して認められる商標です。
- メリット:多種類の商品を扱う総合小売業では、1つの小売等役務商標で取扱商品全般をカバーでき、 商品ごとに商標を取るより経済的です。
📝 過去問はこう出る(H20 第7問) 小売等役務商標について「総合小売業では1つの小売等役務商標で取扱商品全般をカバーでき、 商品ごとに商標を取るより経済的」という説明は制度趣旨に沿い妥当(エは適切)。 → H20 第7問
商標権の存続期間と更新 ★商標だけの特徴
- 商標権の存続期間は設定登録の日から10年です。
- ただし、商標権は何度でも更新登録でき、更新すれば半永久的に持ち続けられます。 これは意匠権・特許権にはない、商標権だけの大きな特徴です。
- 理由:商標は「使い続けることで信用が積み上がる」もの。技術のように「一定期間で世に開放する」性質ではないからです。
💡 覚え方:更新できるのは商標だけ 特許・実用新案・意匠は更新なし(存続期間が来たら終わり)。商標だけは更新して半永久。
12-4 地域団体商標・地理的表示(GI)― 地域ブランドを守る
「夕張メロン」「関あじ」のように、"地名+商品名"からなる地域ブランドは、 そのままでは識別力が弱く、通常の商標では登録が難しいものです。 これを守るために、性格の異なる2つの制度があります。
地域団体商標(商標法7条の2)
地域団体商標は、「地域の名称+商品・役務の普通名称等」からなる商標を、 一定の要件のもとで登録できる制度です(平成18年〈2006年〉4月施行)。
押さえるべき3点:
- 出願できる主体(誰が出せるか) - 組合等の団体に限られます:事業協同組合等(法人格があり、設立根拠法に加入の自由が定められているもの)、 農業協同組合、漁業協同組合など。 - 平成26年改正で、商工会・商工会議所・NPO法人も主体に追加されました。 - 株式会社や個人は出願できません。
- 周知性の要件 - 登録には、その商標が需要者の間に広く認識されている(周知)ことが必要。 - ただし求められるのは周知性であって、全国に知られる「著名性」までは不要。 - 周知の範囲は、一般に隣接都道府県に及ぶ程度とされます。
- 構成の要件・移転制限 - 「地域の名称のみ」からなる商標は登録できません(必ず"地域名+商品・役務名"の組み合わせが必要)。 - 「地域の名称+商品名」に、「名産」「特産」「本場」など慣用されている文字を付したものも登録可能。 - 構成員の利用を前提とする制度なので、権利の移転(譲渡)や専用使用権の設定に強い制限があり、 構成員がもつ使用権も移転できません。
💡 覚え方:地域団体商標は「組合が主体」「周知でOK(著名まで不要)」「地名だけはダメ」
📝 過去問はこう出る(H20 第9問/H25 第9問/R03 第12問/H27 第11問) - H20第9問:証明すべきは「周知性」であって「著名性」ではない(Dを"著名性"とするエが誤り=正解)。 - H25第9問:地域団体構成員がもつ使用権は移転できない(ウ=正解)。専用使用権の設定・原則譲渡不可・ 「地域名のみは登録不可」も要チェック。 - R03第12問:「A名産まぐろ」のように慣用文字(名産)を付したものは登録可能、 「地域名のみ」は登録不可(ウ=正解)。 - H27第11問(設問1):改正で主体に商工会議所が追加、周知範囲は隣接都道府県に及ぶ程度(イ=正解)。 → H20 第9問 / H25 第9問 / R03 第12問 / H27 第11問
地理的表示(GI)保護制度 ― 地域団体商標とは別のしくみ
地理的表示(GI:Geographical Indication)は、農林水産物・食品等について、 「特定の産地」と「品質・社会的評価」などの特性が結びついた産品の名称を保護する制度です。 所管は農林水産省で、商標法とは別の法律(GI法)に基づきます。
- 地域団体商標が商標法(特許庁)の制度であるのに対し、GIはGI法(農林水産省)の制度、という "管轄と根拠法の違い"が問われます。
- GIは、団体(生産者団体)が登録を受け、産品の品質基準を守った生産者だけが名称を使えるしくみです。
⚠️ 混同注意:2つの地域ブランド保護制度 | | 地域団体商標 | 地理的表示(GI) | |---|---|---| | 根拠法 | 商標法 | GI法(特定農林水産物等表示法) | | 所管 | 特許庁 | 農林水産省 | | 対象 | 商品・役務全般 | 農林水産物・食品等 |
📝 過去問はこう出る(H27 第11問/R03 第12問) 地域団体商標とGIは、根拠法・所管官庁が異なる別制度として横断的に問われます。 R03第12問は地域団体商標の登録要件(慣用文字・地域名のみ不可)を中心に問い、正解はウ。 → H27 第11問 / R03 第12問
(横断)物の形状・キャラクターは複数の法律で守れる
同じ対象でも、守り方は複数あります。「どの法律がどこを守るか」を切り分けられると得点源になります。
| 守りたいもの | 使える主な制度 |
|---|---|
| キャラクターの絵柄・デザインの創作 | 著作権 |
| キャラクターの立体的な形(広告等)・登録して守る | 商標権(立体商標) |
| 周知な商品形態のただ乗り・混同を止める | 不正競争防止法(周知表示混同惹起/要周知性) |
| ぬいぐるみ等の量産品(物品の形状) | 意匠権 |
📝 過去問はこう出る(H27 第11問 設問2/R01 第10問) H27第11問設問2は、③創作=著作権、④立体で登録=商標権、⑤周知性の立証が要る=不正競争防止法、 ⑥量産品の形状=意匠権、の割り当てが正解(ウ)。 R01第10問は「不正競争防止法で商品形態が守られるには周知性が必要」(イ)が正しく、 「意匠権が別物品(自動二輪車→チョコレート)に及ぶ」(ア)は誤り。 意匠出願→立体商標出願への出願変更はできない点も確認されました。 → H27 第11問 / R01 第10問
12-5 商標の国際登録 ― マドリッド協定議定書(マドプロ)
海外でブランドを守るには
商標権は国ごとの権利(属地主義)です。日本で登録しても、外国では自動的には守られません。 外国でも守るには、その国ごとに出願する必要がありますが、それを1回の手続でまとめてできるようにしたのが マドリッド協定議定書(マドリッド・プロトコル、通称"マドプロ")です。
マドリッド協定議定書の要点
マドリッド協定議定書(標章の国際登録に関するマドリッド協定の議定書)は、 古いマドリッド協定(1891年)の使いにくさ(フランス語のみ・本国登録への強い従属性など)を克服するため、 1989年に独立した条約として採択されました。日本は1999年12月14日加盟・2000年3月14日発効です。
- 仕組み:本国官庁(日本なら特許庁)を通じて、WIPO(世界知的所有権機関)の国際事務局に 国際出願し、国際登録を受けます。
- 基礎出願・基礎登録:マドプロ出願には、本国での「基礎出願」または「基礎登録」が必要です。 日本では、商標登録出願をしただけ(=登録前)でも、その出願を基礎としてマドプロ出願ができます。 登録を待つ必要はありません(ここが引っかけ)。
⚠️ 似た制度と混同しない - 共同体商標(EUTM) … EUの単一商標制度。WIPOの国際登録とは別物。 - パリ条約 … 優先権などを定める基本条約だが、国際事務局で一括登録する制度そのものではない。 - ベネルクス知的財産条約 … ベネルクス3国の地域条約。世界的な国際登録制度ではない。
📝 過去問はこう出る(H23 第8問/R04 第13問/H30 第14問) H23第8問は「1891年協定の問題点を克服・1989年採択・日本の加盟時期・国際事務局で一括登録」の 手がかりからマドリッド協定議定書(ウ)を選ばせる問題。 R04第13問は、①パリ条約の優先期間は商標=6か月(特許・実用新案は12か月)、 ②日本の商標登録"出願"(登録前)を基礎としてマドプロ出願ができる、の組合せが正解(ア)。 「登録まで待つ必要がある」「優先期間12か月」はすべて誤りです。 → H23 第8問 / R04 第13問
💡 数字の覚え方:パリ条約の優先期間 特許・実用新案=12か月/意匠・商標=6か月。 マドプロは「出願を基礎に、登録前でも出せる」。
この章のまとめ(試験直前チェック)
- ☐ 意匠=物品の形状・模様・色彩(またはその結合)で視覚に美感("構造"は入らない/物品性)
- ☐ 意匠の登録要件=工業上利用可・新規性・創作非容易性・先願(同日出願で協議不成立ならどちらも登録不可)
- ☐ 特殊出願:部分意匠(一部だけ)/関連意匠(本意匠に類似・存続期間は本意匠の登録日から)/ 組物(複数物品を全体で1つ)/秘密意匠(登録の日から3年以内・新規性とは別)
- ☐ 意匠権は類似意匠にも及ぶ(輸出も実施)。存続期間は登録日から(H25=20年。※現行は出願日から25年)
- ☐ 意匠 vs 特許:秘密意匠は意匠だけ/存続期間の起算は意匠・商標=登録日、特許=出願日/ 出願審査請求・出願公開は特許にはあるが意匠にはない
- ☐ 商標は"創作"でなく"出所識別"を守る/識別力を欠くものは原則不可、ただし使用による識別力(3条2項)で例外登録
- ☐ 使用による識別力の判断は需要者基準(×同業者・×創作性)
- ☐ 新タイプ商標(立体・動き・音・位置・色彩)は文字を含んでも登録可
- ☐ 不登録事由(4条):外国国旗・菊花紋章・赤十字などは不可。「市町村の標章は一律不可」は誤り
- ☐ 商標には出願公開制度あり(意匠にはない)/商標→意匠の出願変更はできない
- ☐ 商標権=専用権(指定商品×登録商標を独占)と禁止権(類似範囲は排除のみ・使用許諾不可)
- ☐ 先使用権=①不正競争目的でない②出願"前"から使用③出願"の際"に周知("登録"基準・"使用だけ"はバツ)
- ☐ 不使用取消審判=3年・何人も/将来に向かって消滅/不正使用取消(51条)も何人も
- ☐ 小売等役務商標=総合小売業は1つでカバーでき経済的
- ☐ 商標権は10年・更新して半永久(更新できるのは商標だけ)
- ☐ 地域団体商標=組合等が主体(株式会社・個人は不可)/周知でOK(著名まで不要・隣接都道府県)/ 地名のみは不可/移転・使用権に制限/慣用文字(名産等)はOK
- ☐ GI(地理的表示)は農林水産省・GI法の別制度(地域団体商標は特許庁・商標法)
- ☐ 形状・キャラクターは著作権・意匠権・商標権・不正競争防止法で守り分け(不競法は周知性が要件)
- ☐ マドプロ=本国官庁経由でWIPO国際事務局に国際登録/出願を基礎に登録前でも出せる/ パリ条約優先期間は商標6か月
この章に対応する主な過去問
| 年度・問 | 論点 | リンク |
|---|---|---|
| H19 第6問 | 未登録商標の保護(先使用権) | 問題 |
| H19 第10問 | 登録商標と分離使用・不正使用取消 | 問題 |
| H20 第7問 | 小売等役務商標・先使用権 | 問題 |
| H20 第9問 | 地域団体商標(主体・周知性) | 問題 |
| H20 第10問 | 画面デザインの意匠保護・物品性 | 問題 |
| H23 第7問 | 特許・意匠・商標の制度比較 | 問題 |
| H23 第8問 | マドリッド協定議定書 | 問題 |
| H24 第7問 | 商標権の効力(専用権・禁止権) | 問題 |
| H25 第9問 | 地域団体商標(移転制限) | 問題 |
| H25 第10問 | 意匠権の効力・存続期間 | 問題 |
| H26 第7問 | 意匠制度(秘密意匠・関連意匠) | 問題 |
| H26 第8問 | 商標の不登録事由(4条) | 問題 |
| H26 第9問 | 各種取消審判・登録異議 | 問題 |
| H27 第11問 | 地域団体商標・GI・キャラクター保護 | 問題 |
| H27 第12問 | 意匠登録制度(部分・秘密意匠) | 問題 |
| H28 第9問 | 秘密意匠制度 | 問題 |
| H29 第9問 | 特殊な意匠出願制度 | 問題 |
| H29 第10問 | 立体商標の登録(使用による識別力) | 問題 |
| H30 第8問 | 意匠の類似・新規性 | 問題 |
| R01 第10問 | 物の形状の保護(意匠・商標・不競法) | 問題 |
| R01 第14問 | 先使用権の要件 | 問題 |
| R03 第12問 | 地域団体商標と地理的表示 | 問題 |
| R03 第13問 | 先使用権(警告への対応) | 問題 |
| R04 第13問 | マドプロ出願・パリ条約優先権 | 問題 |
| R05 第13問 | 商標法(出願公開・出願変更・目的) | 問題 |
| R06 第13問 | 立体商標・動き商標 | 問題 |
| R07 第12問 | 立体商標と意匠による保護 | 問題 |
| R07 第16問 | 不使用取消審判(3年・何人も) | 問題 |
次章予告 ▶ 第13章「著作権法」 産業財産権(特許・意匠・商標)に続き、著作権を扱います。 「創作した瞬間に権利が発生する(無方式主義)」という産業財産権との根本的な違い、 著作者人格権と著作財産権、保護期間、そしてキャラクターや二次的著作物の扱いを学びます。 この章で登場した「創作は著作権、目印は商標、デザインは意匠」の切り分けが、いよいよ効いてきます。