第10章 倒産処理と事業再生
この章のねらい 会社が「もう借金を返しきれない」という状態になったとき、法律はどうやって後始末をつけるのか——それを扱うのがこの章です。 大きく分けて、会社をたたんで財産を配る「清算型」(破産・特別清算)と、会社を生かして立て直す「再建型」(民事再生・会社更生)があります。 経営法務では、この4つの手続の"違い"を一覧で整理できるかが勝負どころ。細かい条文の暗記より、 「どの手続で・誰が主体で・担保権や配当はどう扱われるか」という対比の軸をつかむことが得点につながります。
過去問での出方:ほぼ毎年のように、手続の比較表(H22第3問・H28第5問)や、配当の優先順位(H22第7問)、 計画案の可決要件(H23第4問)、双務契約の扱い(R05第8問)が問われます。事例(社長との会話)で出ることも多く、 一見むずかしそうでも、軸さえ整理できていれば確実に取れる、いわば「差がつく1問」の宝庫です。 事業再生の支援は中小企業診断士の実務そのものなので、実務でも効く章です。
10-0 この章の地図
倒産の手続は、まず「会社をどうするか」というゴールで2つに分かれます。 たたむ(清算)のか、生かす(再建)のか。ここを起点に、全体像をつかみましょう。
倒産処理手続
│
┌───────────────┴───────────────┐
清算型(会社を消す) 再建型(会社を生かす)
│ │
┌────┴─────┐ ┌─────┴─────┐
破産 特別清算 民事再生 会社更生
(個人も法人も) (株式会社のみ) (中小~中堅の (大企業向け・
最多件数 解散後の清算 DIP型が原則) 管財人が経営)
│
別に、裁判所を使わない「私的整理」もある(10-4)
└── DES・売掛債権の資金調達(ファクタリング等)
この章は、次の順で進みます。
10-1 法的倒産手続の全体像 … 清算型/再建型の4手続を比較表で総ざらい(★最重要)
│
10-2 破産手続 … 配当の優先順位・否認権・相殺権・双務契約
│
10-3 再建型手続 … 民事再生と会社更生の違い/計画案の可決要件
│
10-4 私的整理とDES … 裁判所を使わない再建/債権の株式化/売掛債権の資金調達
まずは10-1で「4手続の地図」を頭に入れると、あとの節がすべて「その地図のどこの話か」で理解できます。
10-1 法的倒産手続の全体像 ★最重要
まず「清算型」と「再建型」の2つに分ける
倒産処理手続は、目指すゴールで大きく2つに分かれます。ここがすべての出発点です。
- 清算型:会社の財産を全部お金に換えて(=換価)、債権者に配って(=配当)、会社を消してしまう手続。
- 代表格が 破産。株式会社に特有の 特別清算 もこの仲間。
- 再建型:会社を消さずに、事業を続けながら借金を減らして立て直す手続。
- 民事再生 と 会社更生 の2つ。
💡 覚え方:「清算=サヨナラ型」「再建=もう一度型」。 破産・特別清算は会社とお別れ、民事再生・会社更生は会社をもう一度立て直す、とイメージすると混同しません。
H22第3問は、まさにこの冒頭で 「破産は清算型(全資産を金銭に換価して配当)、民事再生・会社更生は再建型(再建を図りながら弁済)」 と定義しており、これは正しい記述として扱われています。ここは基礎中の基礎です。
4つの手続を1枚の表で比較する(この章の核心)
過去問(H22第3問・H28第5問)は、この比較表の"どこか1マス"を狙って出題してきます。 逆に言えば、この表が頭に入っていれば、比較問題はほぼ落としません。じっくり覚えましょう。
| 比較の軸 | 破産 | 特別清算 | 民事再生 | 会社更生 |
|---|---|---|---|---|
| 型 | 清算型 | 清算型 | 再建型 | 再建型 |
| 対象 | 法人・自然人(個人)を問わず | 株式会社のみ(解散後) | 法人・自然人を問わず | 株式会社のみ |
| 手続の主体 | 破産管財人 | 清算人 | 債務者自身が原則(DIP型) | 管財人 |
| 経営陣 | 経営権を失う | ― | 経営を続けられるのが原則 | 原則退陣(管財人が経営) |
| 担保権の扱い | 別除権(手続外で行使可) | 別除権 | 別除権(手続外で行使可) | 更生担保権(手続内で拘束・手続外実行は禁止) |
| 否認権 | あり | なし | あり | あり |
| 相殺権の行使期限 | 債権届出期間後でも可 | 期間後でも可 | 債権届出期間内に制限 | 債権届出期間内に制限 |
- 対象:会社更生は「株式会社だけ」が使える、いちばん重い手続。特別清算も株式会社専用です。 破産と民事再生は、個人でも法人でも使えます。
- 手続の主体:ここが最頻出。破産・会社更生は管財人という第三者が財産を握りますが、 民事再生はもとの経営者(債務者)が自分で手続を進めるのが原則です。これを DIP型(Debtor In Possession=占有を続ける債務者)と呼びます。
- 担保権:会社更生だけが例外で、担保権も手続の中に取り込んで自由に実行させません(更生担保権)。 破産・民事再生では、担保権者は手続の外で自由に担保を実行できます(これを 別除権 といいます。10-2で詳述)。
つまずきポイント①:「民事再生には管財人がいない」は誤り
H22第3問の正解の急所がここです。問題文は 「民事再生手続では、管財人という制度が法律上存在しないため、債務者自身が主体となる」 と書きましたが、これは誤り(=取り上げるべき下線部)でした。
正しくは——民事再生は「債務者自身が進めるのが原則(DIP型)」であるだけで、 不正が疑われるようなケースでは、裁判所が管理命令を出して管財人を選ぶ制度がちゃんとあります。 「原則DIP型」と「管財人制度が存在しない」はまったく別物。ここは引っかけの定番です。
⚠️ 混同注意:DIP型=管財人ゼロ、ではない 民事再生=原則DIP(債務者が経営継続)。でも管財人制度も一応ある(管理命令の場合)。 「民事再生に管財人はいない」と言い切る選択肢はバツ。
つまずきポイント②:否認権・相殺権で"特別清算だけ"が浮く
H28第5問は、担保権・否認権・相殺権という3つの軸で4手続を当てさせる表問題でした。 コツは、「特別清算だけが仲間外れ」という視点です。
- 否認権(=倒産前にこっそり財産を逃がした行為を、あとで取り消す権利。10-2で詳述) → 破産・民事再生・会社更生にはあるが、特別清算には"ない"。ここで特別清算が浮きます。
- 相殺権の行使期限(=「貸し借りを差し引きゼロにする」権利をいつまで使えるか) → 再建型(民事再生・会社更生)は債権届出期間内に締め切られる。破産・特別清算は期間後でも可能。
- 担保権 → 会社更生だけが手続内に取り込む(更生担保権)。他の3つは手続外で行使可(別除権)。
💡 覚え方:H28の表は「会社更生だけ担保が特別」「特別清算だけ否認権ナシ」の2点を軸に解けます。 民事再生(A)→会社更生(B)→破産(C)→特別清算(D)の並びが正解(エ)でした。
📝 過去問はこう出る(H22 第3問/H28 第5問) どちらも4手続の比較表・比較文の問題です。 - H22第3問の正解(エ)は「民事再生には管財人制度が存在しない」とした下線部。これは誤りで、 管理命令による管財人制度は存在します(原則DIP型なだけ)。 - H28第5問の正解(エ)は、担保権を手続内に取り込むのは会社更生だけ・否認権がないのは特別清算だけ、 という2点で当てはめる問題。A民事再生/B会社更生/C破産/D特別清算。 → H22 第3問 / H28 第5問
参考:件数のイメージ(H21第4問)
実務での使われ方をつかむと、記憶が定着します。H21第4問は、法的倒産手続の新受件数の推移グラフを読み取る問題でした。
- 破産:件数が桁違いに多い(個人・法人合わせて膨大。清算型の主役)。
- 民事再生:平成12年(2000年)の民事再生法施行を境に件数が立ち上がり、中小企業を含め広く使われるように。
- 会社更生・特別清算:件数は少ない(会社更生は大企業中心でとくに少数)。
📝 過去問はこう出る(H21 第4問) 平成元年〜19年の新受件数グラフから手続を特定させる問題。 「2000年から立ち上がるグラフ=民事再生」「件数が少なく株式会社の清算に使う=特別清算」がポイント。 民事再生法は2000年施行という年号と、破産が最多という規模感を押さえれば解けます。 → H21 第4問
10-2 破産手続 ― 配当の優先順位・否認権・相殺権・双務契約
清算型の代表、破産をくわしく見ます。破産は「全財産をお金に換えて、順番どおりに配る」手続です。 その「順番」と、周辺の3つの武器(否認権・相殺権・別除権)が試験のツボです。
破産手続の流れ(ざっくり)
支払不能・債務超過
↓ 申立て(原則)/法人は職権開始の例外もある
破産手続開始決定 → 破産管財人を選任
↓
破産財団(=配当のもとになる財産の"かたまり")を確定・換価(お金に換える)
↓
債権を届け出てもらう → 優先順位に従って配当
↓
手続終了(会社は消える)
- 破産財団:破産者の財産を集めた"配当の原資となるかたまり"のこと。管財人がこれを管理・換価します。
- なお、破産でも破産者(個人)の当面の生活に必要な財産などは 自由財産 として残され、換価されません。 「破産=全財産を残らず取り上げる」は言いすぎです(R03第4問で問われました)。
配当の優先順位 ★超頻出(H22第7問)
破産財団のお金は、決まった順番で配られます。上から順に満額もらえ、余ったら次へ、という「バケツリレー」方式です。
【配当のバケツリレー】
① 財団債権 … 手続によらず"随時"最優先で支払う(管財人の費用など)
↓ 余ったら
② 優先的破産債権 … 一般の先取特権など優先権のある債権
↓ 余ったら
③ 一般破産債権 … ふつうの債権(たいてい足りず、按分=比例配分になる)
↓ 余ったら
④ 劣後的破産債権 … 利息・遅延損害金など、いちばん後回し
| 順位 | 名前 | 中身の例 |
|---|---|---|
| ①最優先 | 財団債権 | 破産管財人の報酬・破産財団の管理換価費用、破産手続開始前3か月間の給料、一定の租税 |
| ② | 優先的破産債権 | 一般の先取特権がある債権(3か月より前の未払給料など) |
| ③ | 一般破産債権 | ふつうの取引債権など(多くは按分配当) |
| ④ | 劣後的破産債権 | 開始後の利息・遅延損害金など |
ここで最重要の知識が、給料(労働債権)の扱いです。
- 破産手続開始前3か月間の未払給料 → 財団債権(①・最優先で全額もらえる)
- それより前の未払給料 → 優先的破産債権(②・他の優先債権と按分になりがち)
💡 覚え方:「直近3か月の給料は最優先(財団債権)」。 働く人を守るため、倒産直前の給料だけは特別に最優先で救う、と理解すると忘れません。
具体例で解く(H22第7問の思考プロセス)
H22第7問は、社長の子(従業員)の配当額を計算させる事例問題でした。数字を追ってみましょう。
- 破産財団 1,000万円 から、まず財団債権である管財費用 200万円 を差し引く → 残り 800万円。
- 子の未払給料は合計45万円。うち内訳は…
- 平成21年10〜12月分(約30万円) = 開始前3か月にあたる → 財団債権(最優先で全額)
- 平成21年7〜9月分(約15万円) = それより前 → 優先的破産債権(税金滞納750万円などと按分になり、ほぼ配当なし)
- したがって子の配当額は、財団債権として全額弁済される10〜12月分の約30万円(正解)。
空欄A=財団債権、空欄B=優先的破産債権(設問1の正解イ)。この2語の順番が土台です。
⚠️ 混同注意:似た用語のすみ分け - 財団債権=破産で最優先。手続によらず随時弁済。 - 共益債権=民事再生・会社更生で使う概念(手続を進めるために生じた費用など、優先的に弁済)。破産では使いません。 - 別除権=担保権者の権利。配当の"順位"ではなく、そもそも手続の外で担保を実行できる権利(下記)。 H22第7問のバツ選択肢は「A=共益債権」「A=別除権」と、破産で使わない用語を混ぜて引っかけていました。
📝 過去問はこう出る(H22 第7問) 破産の配当順位を事例で問う問題。正解は設問1=イ(A財団債権・B優先的破産債権)、設問2=ウ(約30万円)。 急所は「破産手続開始前3か月間の給料=財団債権(最優先・全額)」。 それ以前の給料は優先的破産債権で、税金などと按分になり満額はもらえません。 → H22 第7問
別除権 ― 担保を持つ人は「手続の外」で回収できる
別除権とは、抵当権などの担保を持つ債権者が、破産手続の外で自由に担保を実行して回収できる権利のことです。
- 担保を持つ人は、みんなの配当(バケツリレー)に並ばなくても、自分の担保物から先に回収できます。
- 破産・民事再生・特別清算では、担保権は別除権として扱われます。
- 会社更生だけが例外で、担保権も手続に取り込む(更生担保権)ため、手続外での実行は禁止されます。
R03第4問では、「民事再生には別除権が認められない」というバツ選択肢が出ましたが、 民事再生でも別除権は認められます(担保権者は手続外で実行できるのが原則)。ここは要注意。
否認権 ― 倒産直前の「財産逃がし」を取り消す
否認権とは、破産者が倒産の直前などに行った不当な財産の処分(例:特定の債権者だけにこっそり弁済した、財産をタダ同然で身内に譲った)を、 管財人があとから取り消して、財産を破産財団に取り戻す権利です。
- 目的は、債権者みんなの公平を守ること(一部の人だけ得をするのを防ぐ)。
- 否認権は破産・民事再生・会社更生にある。特別清算にはない(H28第5問の急所)。
R03第4問のバツ選択肢「民事再生では否認権が一切認められない」も誤り。民事再生にも否認権はあります。
相殺権 ― 「貸し借りをチャラにする」権利
相殺とは、お互いに債権・債務を持っているとき、それを差し引きゼロにすることです。 (例:A社がB社に100万円貸していて、逆にB社にも80万円払う義務があるなら、差し引き20万円だけ払えばよい)
- 倒産手続でも、債権者はこの相殺を「担保のように」使えます(相手が倒産しても、自分の債務と相殺すれば実質的に回収できる)。
- ただし行使できる期限が手続で違います。再建型(民事再生・会社更生)は債権届出期間内に制限、破産・特別清算は期間後でも可能(H28第5問)。
破産と職権開始(R03第4問)
破産手続は申立てによるのが原則ですが、一定の場合には裁判所の職権で開始することもあります (例:再生手続がうまくいかず破産に移る「牽連破産」など)。R03第4問の正解(エ)はこの点でした。
📝 過去問はこう出る(R03 第4問) 破産と民事再生の異同を問う問題。正解はエ(破産は申立てのほか職権開始もある)。 バツ選択肢の急所を整理すると—— ア:「民事再生に否認権は一切ない」→否認権はあるのでバツ。 イ:「民事再生に別除権はない」→別除権はあるのでバツ。 ウ:「破産では全財産を残らず換価」→自由財産があるのでバツ。 → R03 第4問
10-3 再建型手続 ― 民事再生と会社更生/計画案の可決要件
再建型の2つ、民事再生と会社更生を比べます。どちらも「会社を生かす」手続ですが、重さ・使う場面・可決のルールが違います。
民事再生 vs 会社更生 ― キャラクターの違い
| 軸 | 民事再生 | 会社更生 |
|---|---|---|
| イメージ | 軽くて速い、中小企業向けの再建 | 重厚・大がかり、大企業向けの再建 |
| 対象 | 法人・自然人を問わず | 株式会社のみ |
| 経営陣 | 続投が原則(DIP型) | 退陣が原則(管財人が経営を握る) |
| 担保権 | 別除権(手続外で実行可) | 更生担保権(手続内に取り込む・実行禁止) |
| 手続の重さ | 軽い(早い・柔軟) | 重い(時間・手間がかかる) |
- 民事再生は、もとの社長がそのまま舵を取り(DIP型)、スピーディに再建する手続。中小企業の再生でよく使われます。
- 会社更生は、担保権者や株主まで含めて全部を手続に取り込む強力な手続。そのぶん重く、大企業向けです。 経営陣は原則退陣し、管財人が経営します。
💡 覚え方:「民事再生=社長続投・別除権あり・軽い」「会社更生=社長退陣・担保も拘束・重い」。 民事再生のほうが"やさしくて速い"、会社更生は"強力だけど大掛かり"と覚えましょう。
計画案の可決要件 ★差がつく論点(H23第4問)
再建型では、借金をどう減らすかをまとめた計画案(再生計画案・更生計画案)を、 債権者の多数決で可決する必要があります。この多数決のルールが2つの手続で違うのが、H23第4問のポイントでした。
| 手続 | 可決に必要な同意 |
|---|---|
| 民事再生(再生計画案) | ① 議決権者の過半数(=頭数)の同意 + ② 議決権総額の2分の1以上の同意(両方必要) |
| 会社更生(更生債権者の組) | 議決権総額の2分の1超の同意(=額だけでよい。頭数要件なし) |
カギは「頭数(あたまかず)要件」です。
- 民事再生は、「人数の過半数」と「金額の2分の1以上」の両方を満たさないと可決できません。 → 大口債権者1人が賛成しても、賛成の"人数"が足りなければ否決されます。
- 会社更生は、金額(2分の1超)だけでよく、人数は問いません。 → 大口が賛成すれば、人数が少なくても可決できます。
具体例で解く(H23第4問の思考プロセス)
H23第4問は、10人の債権者の賛否から、民事再生・会社更生それぞれの可否を判定させる問題でした。
- 賛成:4名・債権額 10億6,050万円/反対:7名・7億3,950万円(合計11名・18億円)
- 頭数:賛成4名は、出席者11名の過半数(=6名以上)に届かない。
- 金額:賛成額10億6,050万円は総額18億円の約58.9%で、2分の1(9億円)を超える。
これを当てはめると——
- 民事再生:金額は満たすが、頭数(過半数)が足りないため → 否決。
- 会社更生:頭数要件はなく、金額が2分の1超なので → 可決。
正解はエ(再生は否決・更生は可決)。「頭数要件は民事再生にだけある」——これ一点が勝負を分けました。
💡 覚え方:「民事再生は"人数も金額も"/会社更生は"金額だけ"」。 民事再生のほうが可決のハードルが高い(人数も要る)と覚えると、H23のような計算問題で迷いません。
📝 過去問はこう出る(H23 第4問) 再建型の計画案の可決要件を、賛否データから計算させる問題。正解はエ。 急所は「民事再生=頭数(過半数)+額(1/2以上)の両方」「会社更生=額(1/2超)だけ・頭数不要」。 大口が賛成でも人数が足りなければ、民事再生は否決になり得ます。 → H23 第4問
民事再生における双務契約の扱い(R05第8問)
双務契約とは、売買・賃貸借・請負のように、お互いが義務を負い合う契約のことです。 会社が民事再生に入ったとき、こうした契約がどう扱われるかが問われます。ポイントは「取引先・弱い立場の人を守る」方向に働くことです。
R05第8問の正解と、周辺論点を整理します。
- 継続的給付の双務契約(例:電気・ガス・材料の継続供給): 相手方は、再生手続開始申立て前の給付に対する未払い(=再生債権)を理由に、 開始後の給付を拒むことはできません(民事再生法50条1項)。→ 供給を止めさせない趣旨(正解ア)。
- 開始前にすでに発生していた解除権:手続開始後も行使できる(「開始後は解除できない」はバツ=イ)。
- 請負契約で注文者が民事再生に入った場合:請負人は、「再生手続が始まったこと」だけを理由に 請負契約を解除することはできません(ウはバツ)。
- 賃貸借で賃貸人が民事再生に入った場合:賃借人が対抗要件(=第三者に「借りている」と主張できる要件。例:建物の引渡し)を備えていれば、 賃貸人側から「双方未履行だから」といって契約を解除することはできません(エはバツ)。→ 賃借人保護の趣旨。
⚠️ 混同注意:破産と民事再生で「請負」の扱いが違う 請負人(仕事を請け負う側)からの解除は、破産では民法642条により一定の場合に認められますが、 民事再生では「開始しただけ」を理由とした請負人からの解除は認められません(R05第8問ウ)。 民事再生は"契約関係をできるだけ維持して再建を助ける"方向に働く、と押さえましょう。
📝 過去問はこう出る(R05 第8問) 民事再生での双務契約の扱いを問う問題。正解はア (継続的給付の相手方は、申立て前の未払いを理由に開始後の履行を拒めない=供給を止められない)。 バツ選択肢はいずれも「取引先・賃借人を保護する」向きを裏返した引っかけです。 → R05 第8問
10-4 私的整理とDES ― 裁判所を使わない再建・債権の株式化・売掛債権の資金調達
最後に、法的手続の"外"にある再建の道具を見ます。中小企業診断士の実務に直結する分野です。
私的整理 ― 裁判所を使わずに立て直す
私的整理とは、破産や民事再生のような裁判所の法的手続を使わず、 債務者と主要な債権者(多くは金融機関)が話し合いで返済条件を見直す再建の方法です。
| 法的整理(破産・民事再生など) | 私的整理 | |
|---|---|---|
| 裁判所 | 使う | 使わない(話し合い中心) |
| 対象になる債権者 | 原則すべて | 主要な債権者(主に金融機関)に限りやすい |
| 手続の公表 | されやすい(信用不安になりやすい) | 表沙汰になりにくい(事業価値を守れる) |
| 進めやすさ | ルールが明確だが硬い | 柔軟だが、全員の合意が要り難航しやすい |
- メリット:手続が表に出にくいので、取引先や顧客に知られず、事業の信用・価値を守りながら再建できます。
- デメリット:法的な強制力がないので、反対する債権者を縛れず、合意形成が難しいことがあります。
- こうした難しさを補うため、中小企業活性化協議会(各都道府県)や、 事業再生ADR(ADR=裁判外紛争解決手続。専門家が間に入って調整する)といった、 公正・中立な私的整理の枠組みが用意されています。
⚠️ 混同注意:ADRとDESは別物 - ADR(Alternative Dispute Resolution)=裁判外紛争解決手続。話し合いで再建・紛争解決を図る"場・手続"。 - DES(Debt Equity Swap)=債権を株式に振り替える"手法"(下記)。 H22第19問では、この2つを混ぜた選択肢が引っかけになっていました。
DES(デット・エクイティ・スワップ)― 借金を株式に変える(H22第19問)
DES(Debt Equity Swap/債務の株式化)とは、 会社に対する金銭債権(=会社にとっての借金)を現物出資して、代わりに株式を発行する手法です。
【DESのイメージ】
銀行(債権者) 会社(債務者)
│ 1,000万円の貸付債権 │ 1,000万円の借金
│ │
└── 債権を現物出資 ────→ 株式を発行して交付
↓ ↓
株主になる(株式を取得) 借金が減り、資本が増える → 財務体質が改善
- Debt(借金)を Equity(株式・資本)に Swap(交換)する のでDES。日本語では「債務の株式化」。
- 債権者は、返してもらう権利(債権)を失う代わりに、株式を手に入れます(会社が立ち直れば株価で回収を狙える)。
- 会社は、負債が減り資本が増えるので、財務体質(自己資本比率など)が改善します。
似た略語との区別が、H22第19問のツボでした。
| 略語 | 正式名 | 中身 |
|---|---|---|
| DES | Debt Equity Swap | 債権を株式に振り替える(債務の株式化)★本問の正解 |
| DDS | Debt Debt Swap | 債権を別条件の債権(多くは劣後ローン)に振り替える。株式化ではない |
| DIP | Debtor In Possession | 再建手続中ももとの経営者が事業を続けること(民事再生の原則) |
| ADR | Alternative Dispute Resolution | 裁判外の紛争解決・再建の手続 |
💡 覚え方:「DES=借金が株になる(E=Equity=株)」。 Equity(エクイティ)=株式・自己資本、と紐づければ、DDS(Debt→Debt、借金のまま)と即座に区別できます。
📝 過去問はこう出る(H22 第19問) 「会社への金銭債権を現物出資して株式を発行する手法」を答えさせる問題。正解はウ=DES。 ア(ADR=裁判外紛争解決)、イ(DDS=債権を別の債権に)、エ(DIP=経営者の続投)は いずれも"債権の株式化"ではないのでバツ。DESのEはEquity(株式)、が唯一の急所です。 → H22 第19問
売掛債権を使った資金調達(実務の補足)
倒産まで至らせないためには、日々の資金繰りが大切です。そこで、売掛債権(=取引先にまだ払ってもらっていない代金を請求できる権利)を 使った資金調達も、中小企業の実務で重要になります。代表的なものを押さえておきましょう。
- ファクタリング:売掛債権をファクタリング会社に売却して、支払期日より前に現金化する方法。 借入ではないので、貸借対照表上の負債を増やさずに資金を得られます。
- 売掛債権担保融資(ABL):売掛債権や在庫などを担保にして金融機関から融資を受ける方法。
- でんさい(電子記録債権):手形に代わる電子的な債権記録。譲渡や割引をしやすく、資金化に使えます。
💡 実務メモ:DESや私的整理は「もう危ない会社を立て直す」局面の話ですが、 売掛債権の活用は「危なくなる前に資金を回す」予防の話。診断士としては、再生に入る前の資金繰り支援こそ本領です。
この章のまとめ(試験直前チェック)
- ☐ 倒産手続は 清算型(破産・特別清算) と 再建型(民事再生・会社更生) に大別
- ☐ 対象:会社更生・特別清算は株式会社のみ/破産・民事再生は法人も個人もOK
- ☐ 手続の主体:破産・会社更生は管財人/民事再生は債務者自身(DIP型)が原則
- ☐ 「民事再生には管財人制度が存在しない」は誤り(管理命令による管財人はある)
- ☐ 担保権:会社更生だけ更生担保権(手続内)/他は別除権(手続外で実行可)
- ☐ 否認権:破産・民事再生・会社更生にあり/特別清算にはない
- ☐ 相殺権:再建型は債権届出期間内に制限/破産・特別清算は期間後でも可
- ☐ 破産の配当順位=①財団債権 →②優先的破産債権 →③一般破産債権 →④劣後的破産債権
- ☐ 開始前3か月の給料=財団債権(最優先・全額)/それより前は優先的破産債権(按分)
- ☐ 共益債権は民事再生・会社更生の概念/破産では財団債権(用語のすり替え注意)
- ☐ 破産でも自由財産がある(全財産を残らず換価するわけではない)
- ☐ 計画案の可決:民事再生=頭数の過半数+額1/2以上(両方)/会社更生=額1/2超だけ(頭数不要)
- ☐ 民事再生の双務契約:継続的給付は開始前の未払いを理由に止められない/対抗要件ある賃借人は保護
- ☐ DES=債権を株式に振り替える(E=Equity=株式)/DDSは債権を別の債権に・DIPは経営者続投
- ☐ 私的整理=裁判所を使わない話し合い(事業価値を守れるが合意形成が難しい)/ADR・活性化協議会
この章に対応する主な過去問
| 年度・問 | 論点 | リンク |
|---|---|---|
| H21 第4問 | 法的倒産手続(新受件数・破産/民事再生/特別清算) | 問題 |
| H22 第3問 | 破産・民事再生・会社更生の違い(管財人制度) | 問題 |
| H22 第7問 | 破産の配当と債権の優先順位(財団債権・3か月給料) | 問題 |
| H22 第19問 | デット・エクイティ・スワップ(DES) | 問題 |
| H23 第4問 | 民事再生・会社更生の計画案可決要件(頭数要件) | 問題 |
| H28 第5問 | 法的倒産手続(担保権・否認権・相殺権の比較) | 問題 |
| R03 第4問 | 破産手続および民事再生手続(別除権・否認権・職権開始) | 問題 |
| R05 第8問 | 民事再生手続における双務契約の取り扱い | 問題 |
次章予告 ▶ 第11章「特許法と実用新案法」(ここから第III部 知的財産権) ここから舞台が変わり、知的財産権の世界に入ります。第11章では、発明を守る特許法と、 小さな工夫(考案)を守る実用新案法を扱います。「何が発明として保護されるか(新規性・進歩性)」 「出願から権利になるまでの流れ」「存続期間」など、経営法務のもう一つの大きな得点源です。