第14章 組織行動とパワー・意思決定
この章のねらい ここは、企業経営理論の第II部(組織論)の中でも、「組織の中で働く"人"の心理と行動」を扱う章です。 第9章で学んだ「組織構造(器のかたち)」に対して、本章はその器の中で人がどう感じ、どう動き、 どう集団で意思決定し、どう変化に抵抗するかという、いわば"中身の力学"を見ていきます。
過去問での出方:この分野は毎年ほぼ確実に3〜5問出る、企業経営理論の一大得点源です。 特に 組織コミットメント・組織市民行動・バーナードの理論・パワーの源泉・組織変革(レヴィン/コッター) は繰り返し問われる定番中の定番。R07年でも第17問(組織市民行動)・第18問(組織コミットメント)・ 第23問(組織変革への抵抗)と、この章だけで複数問が出題されました。 用語の定義を正確に、そして「引っかけ=定義の逆・入れ替え」を見抜くことが合否を分けます。
14-0 この章の地図
この章は、「組織はなぜ成り立つのか(土台)」→「人はなぜ会社にとどまり、貢献するのか(心理)」→ 「人が集まって決めるとどうなるか(集団と意思決定)」→「組織の中の力関係(パワー)」→ 「組織を変えるには(変革)」→「多様性・ストレス・危機への備え」という順に進みます。
14-1 組織均衡論・権威受容説 … 誘因と貢献/無関心圏(バーナード、マーチ&サイモン)★土台
│
14-2 組織コミットメント … 情緒的・継続的・規範的の3次元(メイヤー&アレン)★頻出
│
14-3 組織市民行動・心理的契約 … オーガンの5次元/明文化されない期待
│
14-4 集団と意思決定 … 準拠集団/集団思考/コンフリクトとその管理
│
14-5 パワーと政治的行動 … フレンチ&レイブンの5源泉/組織内政治
│
14-6 組織変革のプロセス … レヴィン(解凍→変化→再凍結)/コッター8段階/変革への抵抗 ★頻出
│
14-7 ダイバーシティ・ストレス・危機管理
この章の背骨(絶対に落とせない幹)は、14-1(バーナード)・14-2(コミットメント)・14-6(変革)の3つです。 まずはこの3本を固め、そこに他の節を肉付けしていくイメージで学びましょう。
14-1 組織はなぜ成り立つのか ― 組織均衡論とバーナードの権威受容説 ★土台
まず「組織とは何か」― バーナードの組織3要素
現代組織論の出発点は、経営者でもあった C. I. バーナード の理論です。 バーナードは、組織(正確には「協働体系」=人々が力を合わせて働くしくみ)が成り立つには、 次の3つの要素がそろう必要があると示しました(R02 第14問)。
| 組織の3要素 | 意味 | ひとことで |
|---|---|---|
| ① 共通目的 | みんなで目指す共通のゴール | 「何のために集まるか」 |
| ② 貢献意欲(協働意欲) | メンバーが力を出そうとする気持ち | 「やる気」 |
| ③ コミュニケーション | 目的と意欲を結びつける情報のやりとり | 「つなぐ糸」 |
⚠️ 混同注意:バーナードの「組織3要素」とファヨールの「管理要素」 - バーナードの組織3要素=共通目的・貢献意欲・コミュニケーション - ファヨールの管理(経営)の要素=計画・組織・指揮・調整・統制 - 「階層・分権化・統合化」(組織構造の話)や「責任と権限の一致・命令の一元性」(ファヨールの管理原則)を バーナードの3要素とすり替える選択肢が引っかけです。R02 第14問の正解は「コミュニケーション・貢献意欲・共通目的」。
組織均衡論 ― 誘因 ≧ 貢献 なら組織は存続する
「では、なぜ人はその組織に居続けるのか?」を説明するのが 組織均衡論 です (バーナードが提唱し、J. G. マーチ と H. A. サイモン が発展させました。H24 第14問)。
考え方はシンプルです。
組織 ──── 誘因(給料・やりがい・地位など)────→ 参加者
↑ │
└──── 貢献(労働・アイデア・時間など)───────────┘
各参加者は「誘因 ≧ 貢献」である限り、組織にとどまり貢献を続ける
組織は、参加者から引き出した貢献を原資にして、次の誘因を提供する
→ この循環が回り続ける(=均衡する)かぎり、組織は存続する
- 誘因(インセンティブ):組織が参加者に与えるもの(賃金・昇進・やりがい・帰属感など)。
- 貢献(コントリビューション):参加者が組織に差し出すもの(労働・時間・アイデアなど)。
- 存続の条件:各参加者にとって、受け取る誘因が差し出す貢献に見合う(誘因 ≧ 貢献)こと。 組織全体でこの支払いが続けられる(「支払い能力がある」)かぎり、組織は生き残ります。
📝 過去問はこう出る(H24 第14問) 組織均衡論の中心的公準を問う「最も不適切」型。正解(誤り)は 「参加者は、誘因と貢献の差し引き超過分が"正の場合にだけ"参加を続ける」。 正しくは 誘因 ≧ 貢献(差がゼロ=ちょうど見合う場合も参加を続ける)なので、 「正の場合"だけ"」と均衡(差ゼロ)を除外した点が公準に反します。 → H24 第14問
権威受容説 ― 命令が"効く"かどうかは、受け手が決める
バーナードのもう1つの超重要概念が 権威受容説 です(H27 第14問・R03 第14問)。
ふつう「権威(命令する力)」は、命令する上司の側にあると考えがちです。 ところがバーナードは発想を逆転させ、「権威が成り立つかどうかは、命令を受ける部下が"受け入れる"か どうかで決まる」としました。どんなに立派な命令でも、部下が従わなければ、その命令に権威はない、という考え方です。
- なぜ部下は命令を受け入れるのか? → 組織にとどまることで得られる誘因を失いたくないから (=命令に従わないことが自分の利害を損ねるから)。だから上意下達(上から下への指示)が維持されるのです。
- ここは組織均衡論と地続きです。「誘因 ≧ 貢献」で組織にとどまっている人は、命令を受け入れる動機を持っています。
📝 過去問はこう出る(H27 第14問) 「権威の根拠を従業員に求めたとき、上意下達が維持される理由」を問う問題。正解は 「従業員が権威を受け入れている場合、命令に従わないことは自らの利害を損ねるから」。 カリスマ的リーダーシップや非公式組織の不形成を理由にした選択肢は、受容説の趣旨とズレていてバツ。 → H27 第14問
無関心圏(受容圏)― いちいち権威を問わずに従える範囲
権威受容説とセットで問われるのが 無関心圏(zone of indifference/受容圏) です(R04 第14問)。
これは、部下が「この命令は妥当か?」といちいち考えることなく、当然のように受け入れる命令の範囲のこと。 たとえば「この書類を綴じておいて」のような命令は、権威の有無を問うまでもなく素直に従いますね。 この"無条件で従える幅"が無関心圏です。
- 無関心圏に入る命令は、権威の有無を問われることなく受容される。
- 上司と部下の信頼が積み重なると、無関心圏は広くなります(何を言われても従える範囲が広がる)。
- 無関心圏があること自体は、円滑な指揮命令を可能にし、組織の存続にプラスに働きます。
📝 過去問はこう出る(R04 第14問) 無関心圏の定義を問う問題。正解は 「個人の無関心圏に属する命令は、権威の有無を問われることなく受容される傾向がある」。 「受容可能な命令が続くと無関心圏が"狭くなる"」(→正しくは広くなる)、 「無関心圏は組織存続に"負の影響"」(→正しくはプラス)などは、特徴の逆を書いた引っかけです。 → R04 第14問
💡 覚え方:無関心圏は「広い」ほど良い 部下が上司を信頼していれば「はいはい」と素直に従える範囲(無関心圏)が広がる。 信頼が厚い=無関心圏が広い=組織はスムーズに回る、と覚えましょう。
14-2 組織コミットメント ― 情緒的・継続的・規範的の3次元 ★頻出
組織コミットメントとは
組織コミットメント とは、ひとことで言えば 「その組織にとどまり、関わり続けようとする心理的な結びつき(愛着・つながりの強さ)」のことです。 「なぜこの人はこの会社を辞めずに働き続けるのか」を心理面から説明します。
N. J. メイヤー と J. P. アレン は、この結びつきには性質の異なる3つの次元があるとしました。 この3次元の"区別"が、試験でもっとも狙われるポイントです(R07 第18問・R03 第17問・H29 第17問・H23 第16問)。
| 3つの次元 | 心理のタイプ | ひとことで言うと | とどまる理由 |
|---|---|---|---|
| ① 情緒的コミットメント | 感情(愛着) | この会社が好きだからいたい | 組織への同一化・愛着 |
| ② 継続的コミットメント | 打算(損得) | 辞めると損だからいる | 離職に伴うコスト回避 |
| ③ 規範的コミットメント | 義務(道義) | とどまるべきだからいる | 「留まるのが当然」という義務感 |
それぞれの区別が命です。とくに②と③の取り違えが頻出です。
- 情緒的:組織の価値観・目標に共感し、愛着・一体感からいたいと思う(「好き」)。
- 継続的:辞めると生活水準が保てない・築いた技能や年功が無駄になるなど、 損失(コスト)を避けたいからとどまる(「損得」)。
- 規範的:「1つの組織に長く勤めるのが望ましい」といった社会的規範・義務感からとどまる(「べき」)。
そして重要なのが、この3つは相互排他的ではなく、1人の中に同時に併存できるという点です (R07 第18問の正解がまさにこれ)。「好きだし、辞めると損だし、辞めるべきでない」が同時に成り立ちます。
📝 過去問はこう出る(R07 第18問) 3次元の説明を選ぶ問題。正解は 「3つのコミットメントは相互排他的ではなく、個人の中で同時に併存可能である」。 引っかけの典型: - 「規範的=価値観の合致を重視」→ これは情緒的の説明(規範的は"義務感")。 - 「継続的=とどまり続ける"義務感"」→ これは規範的の説明(継続的は"損得")。 - 「情緒的=辞めると生活水準を保てない不安」→ これは継続的の説明。 - 「情緒的とストレスは正の関係、継続的とストレスは負の関係」→ 逆。 (情緒的が高いほどストレスは低め=負、継続的が高いほどストレスは高め=正、とされる) → R07 第18問
📝 過去問はこう出る(R03 第17問) こちらは3次元を「情緒的・存続的・規範的」と呼ぶ(継続的=存続的は同じ意味)。正解は 「1つの組織に長く所属するのが望ましいという社会的規範は、規範的コミットメントを通じて組織コミットメントを強める」。 「価値観が一致すると情緒的コミットメントは弱くなる」(→強くなる)、 「企業特殊技能の習得は存続的コミットメントを弱める」(→強める。他社で価値が失われ転職コストが上がるため) などが、いずれも逆の引っかけです。 → R03 第17問 / H29 第17問
💡 覚え方:3次元は「好き・損得・べき」 ① 情緒的=好き(愛着)/② 継続的=損得(コスト)/③ 規範的=べき(義務)。 この3語だけ覚えておけば、選択肢の入れ替えを見抜けます。
14-3 組織市民行動とオーガンの5次元・心理的契約
組織市民行動(OCB)とは
組織市民行動(OCB=Organizational Citizenship Behavior) とは、 「命令されたわけでも、給料に直接反映されるわけでもないのに、 組織のためになるように自発的にとる行動」のことです(R07 第17問)。
たとえば「困っている同僚を自分から手伝う」「不平を言わず職場の些細な不便を受け入れる」などが典型です。 公式の職務や報酬制度の"外側"にある、いわば"良き組織市民"としての気配り行動です。
D. オーガン は、この組織市民行動を5つの次元に整理しました。
| 5次元 | 別の言い方 | どんな行動か |
|---|---|---|
| ① 利他主義(愛他主義) | 助け合い | 困っている同僚を自発的に助ける |
| ② 誠実さ(良心性) | まじめさ | 出勤・規則遵守などで求められる最低限を超えて誠実に働く |
| ③ スポーツマンシップ | 寛容 | 不平不満を言わず、些細な不都合を我慢して受け入れる |
| ④ 礼儀正しさ(丁重さ) | 気配り | 事前に報告・連絡・相談し、他者に問題が生じないよう配慮する |
| ⑤ 市民道徳(市民的美徳) | 参画 | 会議に積極出席するなど、組織の活動に責任をもって参画する |
📝 過去問はこう出る(R07 第17問) 各次元の「代表的な行動例」を選ぶ問題。正解は 「丁重さ=関係者に事前に報告・相談し、問題が起こらないよう配慮する行動」。 引っかけはすべて定義の逆を書いています: - 「市民道徳=義務でない会議には出席しない」→ 逆(正しくは積極的に参画)。 - 「スポーツマン精神=自分の弱みを開示」→ 対応しない(正しくは不平を言わず寛容)。 - 「誠実さ=監視がなければ雑談する」→ 逆(正しくは最低限を超えて誠実に働く)。 - 「利他主義=助けの手を差し伸べず本人の責任を明確化」→ 正反対(正しくは自発的に助ける)。 → R07 第17問
心理的契約 ― 明文化されない"暗黙の約束"
心理的契約 とは、雇用契約書には書かれていないけれど、 従業員と組織のあいだで暗黙のうちに共有されている、お互いの期待・義務の認識のことです(H27 第15問)。
たとえば「これだけ頑張れば、いずれ評価してくれるはず」「この会社は自分を大切にしてくれるはず」といった、 明文化されないが本人が信じている相互の約束を指します。これが成立していると、従業員は 契約書の範囲を超えて自発的に努力・貢献するようになります(前項の組織市民行動とも関係します)。
📝 過去問はこう出る(H27 第15問) 心理的契約の性質を問う問題。正解は 「心理的契約が成立していれば、従業員は明文化された雇用契約を超える努力・業績を発揮し、組織はそれを期待できる」。 引っかけ:「非正規社員とは結ばれない」(→正規・非正規を問わず形成される)、 「外部環境や人事施策から独立して形成される」(→むしろ影響を受けて形成される)は誤り。 → H27 第15問
14-4 集団と意思決定 ― 準拠集団・集団思考・コンフリクト
人は1人では意思決定しません。集団の中で、周りに影響され、時に集団特有の落とし穴にはまります。
準拠集団 ― 判断の"ものさし"になる集団
準拠集団(reference group) とは、 個人が自分の態度・価値観・行動を決めるときの"判断の基準(ものさし)"にする集団のことです。 消費者行動(第III部マーケティング)とも重なる頻出テーマです(H24 第27問・R04 第27問・H29 第35問ほか多数)。
いちばんの急所は、「準拠集団=自分が所属している集団、とは限らない」という点です。
- 所属集団:実際に自分が属している集団(家族・職場・サークルなど)。
- 願望集団(あこがれの集団):まだ属していないが、あこがれて基準にする集団(例:一流アスリート、憧れの職業人)。
- 拒否集団:「あんなふうにはなりたくない」と、反面教師として基準にする集団。
このように、所属していない集団も準拠集団になりうるのがポイントです。
📝 過去問はこう出る(H24 第27問) 準拠集団の「最も不適切」を選ぶ問題。正解(誤り)は 「準拠集団は、個人が直接・間接に"所属している"集団である」。 準拠集団は願望集団・拒否集団など所属していない集団も含むので、所属集団に限定した点が誤りです。 (補足:人目に触れる公共の場で使う製品ほど、ブランド選択への準拠集団の影響は大きくなります。) → H24 第27問
集団思考(グループシンク)― まとまりすぎの落とし穴
集団思考(groupthink/集団浅慮) とは、I. L. ジャニス が提唱した概念で、 結束の強い集団が、"みんなの和"を優先するあまり、批判的な検討を怠り、誤った意思決定を下してしまう現象です(R03 第18問)。
「集団で決めたほうが良い結論が出るはず」という直感に反して、 まとまりが強すぎると、かえって判断を誤る――ここが試験で問われる逆説です。
起きやすい条件(先行条件) - 集団が外部から強い圧力(ストレス)にさらされている(「失敗は許されない」など)。 - 集団のメンバーが限定され、外部から孤立している(外の情報が入らない)。
集団思考の兆候 - 自分たちの集団を過大評価する(「我々は間違えない」という無謬性の幻想)→ 極端なリスクを取りやすくなる。 - 外部の人物・集団に紋切り型(ステレオタイプ)の判断を下す。 - 自分たちの決定を正当化(合理化)し、都合の悪い情報を過小評価する。
📝 過去問はこう出る(R03 第18問) 集団思考の先行条件・兆候の「最も不適切」を選ぶ問題。正解(誤り)は 「集団の能力を"過小評価"し、極端なリスクを"避ける"ようになる」。 正しくは過大評価し、極端なリスクを取りやすくなるので、これが逆です。 → R03 第18問
コンフリクトとその管理
コンフリクト(葛藤・対立) とは、意見の相違や利害の不一致から生じる緊張状態のこと。 マーチ と サイモン は、コンフリクトを「標準的な意思決定メカニズムの機能不全」ととらえました(R03 第19問)。
コンフリクトが起きやすい/起きにくい条件(マーチ&サイモン)
| 要因 | コンフリクトへの影響 |
|---|---|
| 組織スラック(余剰資源)が多い | 資源の奪い合いが減り、コンフリクトは起きにくい |
| 全体目標が曖昧(操作性が低い) | 各部門が自部門の主張を通そうとし、部門間コンフリクトは増える |
| 情報の入手先が多様 | 認識のズレが大きくなり、個人間コンフリクトは増えやすい |
また、コンフリクトの解決方法には性質の違いがあります。 問題解決・説得は目標や認識の差という"原因そのもの"を解消しますが、 交渉・政治は利害を妥協で表面的に収めるだけで、原因の解消にはなりません。
📝 過去問はこう出る(R03 第19問) 正解は「組織内にスラックが多く存在すると、共同意思決定の必要性が下がり、コンフリクトは発生しにくくなる」。 「政治的・交渉による解決がコンフリクトの"原因の解消"に有効」は誤り(原因解消には問題解決・説得が有効)。 → R03 第19問
コンフリクトへの対処スタイル(トーマスの5類型) も頻出です(R06 第20問・R01 第15問)。 「自己の利益をどれだけ主張するか」×「相手の利益をどれだけ許容(協力)するか」の2軸で5つに分かれます。
| 対処 | 自己主張 | 協調(相手への配慮) | イメージ |
|---|---|---|---|
| 競争 | 高 | 低 | 相手を犠牲にして自分の利益を押し通す |
| 協調(統合) | 高 | 高 | 双方の利益を最大化する統合的解決(Win-Win) |
| 回避 | 低 | 低 | 問題解決を先送りし、対立を表面化させない |
| 適応(受容) | 低 | 高 | 自分を犠牲にして相手に合わせる |
| 妥協 | 中 | 中 | 双方が一部の利益と犠牲を分け合う折り合い |
📝 過去問はこう出る(R06 第20問) 5類型の説明を選ぶ問題。正解は 「回避=自己の利益も強く主張せず、相手の利益もあまり許容しない(双方低)。問題解決を延期し、対立点が表面化するのを避けたい場合にとられる」。 引っかけは「協調」と「妥協」、「競争」と「適応」を入れ替えるもの。2軸のどの位置かで見分けます。 → R06 第20問
💡 覚え方:5類型は「2軸のマス目」で覚える 自己主張(縦)×協調(横)の4隅+中央。 高×低=競争/高×高=協調/低×低=回避/低×高=適応/中央=妥協。マス目の位置とセットで覚えると入れ替えに強くなります。
14-5 組織におけるパワーと政治的行動
パワーの源泉 ― フレンチ&レイブンの5つ
パワー とは、「他者を自分の意図する方向に動かす(追従させる)力」のこと。 J. フレンチ と B. レイブン は、パワーの源泉を5つに分類しました(H30 第17問・R03 第20問)。
| パワーの源泉 | 英語 | 力の根拠 |
|---|---|---|
| ① 正当勢力(正当権力) | legitimate power | 組織から公式に与えられた地位・職位権限そのもの |
| ② 報酬勢力 | reward power | 昇給・昇進など好意的な条件を与えられること |
| ③ 強制勢力 | coercive power | 罰・不利益を与えうること(恐怖心に裏付けられる) |
| ④ 専門勢力 | expert power | 専門的な知識・スキルを持っていること |
| ⑤ 同一視勢力(準拠勢力) | referent power | メンバーがそのリーダーに魅力・尊敬を感じ、同一化したいと思うこと |
- ①②③は、主に組織の地位から生まれるパワー(ポジション・パワー)。
- ④⑤は、その人自身の資質から生まれるパワー(パーソナル・パワー)。
📝 過去問はこう出る(H30 第17問) パワーの源泉の「最も不適切」を選ぶ問題。正解(誤り)は 同一視勢力(referent power)の説明の主体を逆にしたもの。 正しくは「メンバーがリーダーに魅力を感じ、リーダーに同一化したい」と思うことから生まれます。 「リーダーがメンバーに同一化する」と主体を逆に書いた選択肢が誤りです。 → H30 第17問
なお、部門レベルのパワーの源泉も問われます(R03 第20問)。ある部門が組織にとって 不確実性に対処できる・代替がきかない・仕事の中心にあるほど、その部門は強いパワーを持つ、という考え方です。
政治的行動(組織内政治)
政治的行動 とは、 「公式の役割として求められているわけではないが、組織内の利益・不利益の分配に影響を及ぼそうとする活動」のことです(R04 第17問)。 根回し・派閥づくり・情報操作などが典型で、必ずしも悪ではありませんが、行き過ぎると組織をむしばみます。
政治的行動が生じやすい条件 - 役割や行動規定が曖昧なほど、解釈の余地が生まれ、政治的行動の余地が大きくなる。 - 限られた資源・機会(昇進枠など)をめぐるとき、自分に有利な決定を引き出そうと政治的行動が増える。 - 経営幹部が自己利益で駆け引きをすると、それが許されるという空気が生まれ、政治的行動が助長される。
📝 過去問はこう出る(R04 第17問) 政治的行動が生じやすい条件の「最も不適切」を選ぶ問題。正解(誤り)は 「ゼロサムの分配基準を用いると、勝ち負けが"曖昧になる"ので政治的行動に動機づけられやすい」。 ゼロサム(勝者と敗者が明確に分かれる)では、勝ち負けはむしろ明確になり、有利な決定を得ようとする 政治的行動はかえって促進されます。「曖昧になる」が事実に反する点が誤りです。 → R04 第17問
14-6 組織変革のプロセスと変革への抵抗 ★頻出
レヴィンの3段階モデル ― 解凍 → 変化 → 再凍結
組織を変えるさまざまな手法の背後には、K. レヴィン の 「解凍 → 変化 → 再凍結」という3段階モデルがあります(H29 第22問)。 氷(=現状に固まった状態)を、いったん溶かし、形を変え、再び固める、というたとえで覚えます。
① 解凍(unfreeze) 現状を"溶かす"
└ 「今のままではまずい」という危機意識を喚起し、変わる動機づけをする
└ 古い行動様式を手放す(unlearning)ことも含む
↓
② 変化(change / move)新しいやり方へ"動かす"
└ ロールモデルや信頼できる仲間との同一視を通じて、新しい見方・行動を学ぶ
↓
③ 再凍結(refreeze) 新しい状態を"固める"
└ 新しい行動が重要な他者から承認されるか試し、定着させる
└ 新しい役割が本人のアイデンティティと矛盾しないか確認する
最大のポイントは「解凍」段階の中身です。ここで大切なのは、 「今のままでは立ち行かない」という危機意識(生存不安)をあえて喚起すること。 「危機意識を持たせないよう配慮する」は、解凍の趣旨と正反対です。
📝 過去問はこう出る(H29 第22問) レヴィンの3段階モデルの「最も不適切」を選ぶ問題。正解(誤り)は 「解凍の際、組織が危機に直面しているという意識を"持たせないよう配慮する"必要がある」。 正しくは、解凍では危機意識を喚起して変革への動機づけを行う(学習不安は和らげつつ、生存不安は高める)ので、これが逆です。 → H29 第22問
コッターの組織変革8段階モデル
J. P. コッター は、変革を成功させるための8つのステップを示しました(R03 第23問)。 レヴィンの「解凍」に当たる危機意識の喚起がスタートで、最後は企業文化への定着で締める、という流れです。
① 危機意識を高める
② 変革推進のための連帯チーム(推進チーム)を築く
③ ビジョンと戦略を生み出す
④ 変革のビジョンを周知徹底する
⑤ 従業員の自発を促す(障害を取り除く)
⑥ 短期的成果を実現する
⑦ 成果を活かして、さらなる変革を推進する
⑧ 新たな方法を企業文化に定着させる
📝 過去問はこう出る(R03 第23問) 8段階の空欄を埋める組み合わせ問題。①危機意識 → ②連帯チーム → …→ ⑧文化に定着の順序を問われます。 よくある引っかけは、①危機意識と②連帯チームの順序を入れ替えるもの。まず危機意識が正解です。 → R03 第23問
💡 覚え方:変革は「危機感で始まり、文化で終わる」 レヴィンもコッターも、スタートは危機意識の喚起(=解凍)、ゴールは新しいやり方の定着(=再凍結/文化化)。 この"入口と出口"を押さえれば、途中の細部を多少忘れても選択肢を絞れます。
変革への抵抗 ― なぜ人と組織は変化を嫌うのか
変革につきものなのが抵抗です。個人レベルと組織レベルに分けて整理します。
個人が変革に抵抗する理由(R07 第23問) - 成果が出せなくなる不安:慣れたやり方を変えると、これまでの成果が出せなくなるのではと心配する。 - 短期的な非効率:新しいやり方は、少なくとも当面は従来より非効率になると感じる。 - 未知・不確実への不安:自分の仕事が未知で不確実な状態になることへの不安。 - 認知のゆがみ:偏った情報収集・解釈で「今までの環境がまだ続いている」と思い込む。
組織が変革に抵抗する理由(R05 第23問) - 構造的慣性:組織構造・評価制度が旧来のままだと、一部だけ変えても整合性圧力で元に戻る。 - 既得権益:現状から最大の利益を得ている部門は、変革を脅威と見なして抵抗する。 - 集団規範・組織社会化:所属集団の規範や、社会化による思考・行動の同質化が、変革への前向きな行動を抑える。
📝 過去問はこう出る(R07 第23問) 「個人が変革に抵抗する理由」の最も不適切を選ぶ問題。正解(=抵抗の理由になっていない記述)は 「組織内の慣習が安定的・効率的なやり方を維持していることに"危機感を抱く"から」。 これは変革を促進・支持する側の心理であって、抵抗の理由ではありません。 → R07 第23問
📝 過去問はこう出る(R05 第23問) 「組織が変革に抵抗する理由」の最も不適切を選ぶ問題。正解(誤り)は 「構造的慣性のもとで、支援的な組織風土で心理的安全性を高めに維持する」を抵抗の理由とするもの。 心理的安全性を高めることは、むしろ変革を促進・支援する要因であり、抵抗の理由にはなりません。 → R05 第23問
⚠️ 混同注意:「危機感/心理的安全性」は"促進"側 変革抵抗の問題では、「危機感を抱く」「心理的安全性を高める」「支援的風土」といった前向きな言葉が "抵抗の理由"として紛れ込みます。これらは変革を後押しする側の要因なので、 「抵抗の理由」を問う設問では不適切(=正解)になります。ここは頻出の引っかけです。
14-7 ダイバーシティ・組織ストレス・クライシスマネジメント
人材のダイバーシティ(多様性)
ダイバーシティ とは、性別・年齢・国籍・経験など多様な人材が組織に共存している状態のこと。 これまで社外に求めていた異質な視点・知識を社内に取り込むことで、新しい発想が生まれ、 組織変革やイノベーションにつながる、というのが代表的な効用です(H28 第21問)。
📝 過去問はこう出る(H28 第21問) ダイバーシティの影響を問う問題。正解は 「異質な視点・知識を多様な人材として社内に取り込むことで、組織変革や新商品開発などのイノベーションが期待できる」。 「アファーマティブ・アクション=少数派の意見を強制的に反映させる仕組み」(→格差是正のための積極的差別是正措置)などは誤り。 → H28 第21問
組織ストレスとその介入法
働く人のストレスにどう介入すれば効果が上がるか、も問われます(H24 第16問)。 効果を高める条件は次のとおりです。
- 公正性の認識:従業員が「努力・報酬・職場環境を適切に評価したうえで介入されている」と公正だと認識すると効果的。
- 参加:従業員が介入案の策定・実施に関与し意思決定に参加すると、効果が高まる(阻害しない)。
- 過去の経験:過去の類似経験は、その後の介入への反応に影響を与える。
- 管理職の態度:現場管理職が円滑なコミュニケーションを促す態度をとると、介入効果が高まる。
📝 過去問はこう出る(H24 第16問) ストレス介入の効果条件を問う組み合わせ問題。正しいのは a(公正性の認識)と d(管理職の円滑なコミュニケーション)。 「参加は効果を阻害する」「過去の経験は影響を与えない」は逆なので誤りです。 → H24 第16問
クライシスマネジメント(危機管理)
クライシスマネジメント とは、確率的に計算できる通常のリスク管理を超えて、 不測の事態(危機)に備える・対応するマネジメントです(H28 第18問・H22 第16問)。 危機が発生すると、まず危機管理チームが編成され、危機管理センターが設置されます。
危機対応の勘どころは、集権と分権の使い分けです。
- 「何を行うべきか」(目標・方針)は、危機管理チームが集権的に明確に示す。
- 「いかに行うべきか」(具体的手段)は、現場の状況をよく知る当事者に委ねる(分権化する)。
- 情報伝達:危機時は通常の連絡系統が壊れがち。変化があった時はもちろん、 変化がなくても「変化なし」と伝えて従業員の不安・緊張を和らげる。危機管理センターを軸に情報ネットワークを確保する。
📝 過去問はこう出る(H28 第18問) 危機管理の「最も不適切」を選ぶ問題。正解(誤り)は 「"いかに行うべきか"まで危機管理チームが集権的に決定すべき」。 正しくは、方針は集権・実行手段は現場に分権が望ましいので、実行手段まで集権的に決めるのは不適切です。 → H28 第18問
この章のまとめ(試験直前チェック)
- ☐ バーナードの組織3要素=共通目的・貢献意欲・コミュニケーション(ファヨールの管理要素と混同注意)
- ☐ 組織均衡論=参加者は誘因 ≧ 貢献である限りとどまる(「正の場合"だけ"」は誤り。均衡=差ゼロも含む)
- ☐ 権威受容説=命令が"効く"かは受け手(部下)が受容するかで決まる
- ☐ 無関心圏=権威を問わず当然に受容する範囲。信頼が厚いほど広くなり、組織存続にプラス
- ☐ 組織コミットメント3次元=好き(情緒的)・損得(継続的)・べき(規範的)/3つは同時に併存可能
- ☐ 情緒的↔ストレスは負、継続的↔ストレスは正の関係
- ☐ 組織市民行動(オーガン5次元)=利他主義・誠実さ・スポーツマンシップ・礼儀正しさ・市民道徳(自発的行動)
- ☐ 心理的契約=明文化されない暗黙の相互期待。正規・非正規を問わず形成される
- ☐ 準拠集団は判断のものさし。所属集団に限らない(願望集団・拒否集団を含む)
- ☐ 集団思考(ジャニス)=結束が強すぎる集団の誤判断。自集団を過大評価しリスクを取りやすくなる
- ☐ コンフリクト:スラックが多い→減る/目標が曖昧・情報源が多様→増える。原因解消は問題解決・説得(交渉・政治は表面的)
- ☐ トーマスの5類型=競争・協調・回避・適応・妥協(自己主張×協調の2軸のマス目で覚える)
- ☐ パワーの源泉(フレンチ&レイブン)=正当・報酬・強制・専門・同一視(準拠)の5つ
- ☐ 政治的行動:役割が曖昧・資源が限られるほど増える。ゼロサムは勝ち負けが明確になり政治的行動を促す
- ☐ レヴィン=解凍→変化→再凍結。解凍では危機意識を喚起(持たせないは逆)
- ☐ コッター8段階=①危機意識→②連帯チーム→…→⑧文化に定着(①②の順序に注意)
- ☐ 変革抵抗の設問では「危機感を抱く/心理的安全性を高める/支援的風土」は促進側=不適切(正解)
- ☐ ダイバーシティ=異質な視点を社内に取り込みイノベーションへ
- ☐ 危機管理=方針は集権・手段は現場に分権。変化がなくても「変化なし」と伝える
この章に対応する主な過去問
| 年度・問 | 論点 | リンク |
|---|---|---|
| R07 第17問 | 組織市民行動(オーガンの5次元) | 問題 |
| R07 第18問 | 組織コミットメントの3次元 | 問題 |
| R07 第23問 | 組織変革への抵抗(個人) | 問題 |
| R02 第14問 | バーナードの組織の3要素 | 問題 |
| H24 第14問 | 組織均衡論 | 問題 |
| H27 第14問 | バーナードの権威受容説 | 問題 |
| R04 第14問 | バーナードの無関心圏 | 問題 |
| R03 第17問 | 組織コミットメント | 問題 |
| H29 第17問 | 組織コミットメント | 問題 |
| H27 第15問 | 心理的契約 | 問題 |
| H24 第27問 | 準拠集団 | 問題 |
| R03 第18問 | 集団思考(グループシンク) | 問題 |
| R03 第19問 | 組織におけるコンフリクト | 問題 |
| R06 第20問 | コンフリクトへの対処(5類型) | 問題 |
| H30 第17問 | パワーの源泉 | 問題 |
| R04 第17問 | 組織における政治的行動 | 問題 |
| H29 第22問 | レヴィンの計画的変革モデル | 問題 |
| R03 第23問 | コッターの組織変革8段階モデル | 問題 |
| R05 第23問 | 組織変革への抵抗(組織) | 問題 |
| H28 第21問 | 人材のダイバーシティ | 問題 |
| H24 第16問 | 組織ストレスとその介入法 | 問題 |
| H28 第18問 | クライシスマネジメント | 問題 |
次章予告 ▶ 第15章「人的資源管理(HRM)」 本章では組織で働く人の"心理と行動"を見ました。次章は、その人材を制度として"管理する"側―― 採用・配置・評価・報酬・能力開発・労働関連法規といった人的資源管理(HRM)を扱います。 本章の「動機づけ・コミットメント」が、次章の「制度設計」でどう活かされるかに注目しましょう。