第15章 人的資源管理(HRM)

この章のねらい ここからは「組織の中で"人"をどうマネジメントするか」を扱う人的資源管理(HRM=Human Resource Management=人的資源管理)の章です。 前章までの「組織構造」「モチベーション理論」が"人の動く仕組み"の話だったのに対し、本章は 採用・配置・育成・評価・報酬という一連の"人事の実務"を、ひとつの連鎖として学びます。 具体的には、①人事考課(評価)とそのエラー、②OJT/Off-JT/自己啓発などの人材開発、 ③年功給・職能給・職務給・成果主義といった賃金制度、④雇用調整・出向・転籍、⑤シャインらのキャリア理論、が中心です。

過去問での出方:この分野は毎年2〜4問と出題が安定しており、得点源にしやすい領域です。 出方は大きく2系統。ひとつは「人事考課のエラー」「OJT/Off-JT」「成果主義」「キャリア理論」といった 人材マネジメントの手法(本章の中心)、もうひとつは「割増賃金」「雇用調整の法制度」「採用内定」といった 労働法規がからむ論点です。後者の法律の細かい数字(割増率など)は第16章「労働関連法規」でまとめて扱うので、 本章は「人をどう活かすか」というマネジメントの考え方に軸足を置いて読み進めてください。


15-0 この章の地図

人的資源管理は、ひとりの社員が入社してから活躍し、キャリアを築いていくまでの流れ(連鎖)として捉えると、 全体像がすっきりつかめます。この章も、その流れに沿って進みます。

15-1 HRMの全体像          … 採用→配置→育成→評価→報酬の連鎖/日本的雇用慣行
   │
15-2 人事考課と人材開発      … 考課のエラー(ハロー効果ほか)/OJT・Off-JT・自己啓発/目標管理
   │
15-3 賃金・報酬制度         … 年功給・職能給・職務給・役割給/成果主義の光と影
   │
15-4 雇用調整・配置転換・出向・転籍・CDP … 人の「出し入れ」と長期のキャリア設計
   │
15-5 キャリア理論          … シャインのキャリア・アンカー/スーパーの職業的自己概念
  • 15-1〜15-2は「育てて評価する」入口の話、15-3は「報いる」、15-4は「動かす」、15-5は「本人の人生の視点」。
  • 「人事考課」の話(15-2)と「キャリア理論」(15-5)は特に頻出です。まずここを固めましょう。

15-1 人的資源管理(HRM)の全体像

人的資源管理とは何か

人的資源管理(HRM)とは、ひとことで言えば

「会社の目標を実現するために、"ヒト"という経営資源を、採用し・配置し・育て・評価し・報いる一連の仕組み」

です。昔は「労務管理」「人事管理」と呼ばれ、"決められた労働力を管理する"という受け身のニュアンスがありました。 これに対し「人的資源(Human Resource)」という言葉には、人は管理するコストではなく、育てれば価値が増える"資源"だ という前向きな見方が込められています。

5つの機能は「連鎖」でつながっている

人事の仕事は、バラバラの作業ではなく、採用 → 配置 → 育成 → 評価 → 報酬という一本の流れでつながっています。

① 採用      … どんな人を、どうやって集めるか(募集・選考・採用内定)
   ↓
② 配置      … どの仕事に就けるか(配置・異動・ジョブローテーション)
   ↓
③ 育成      … どう能力を伸ばすか(OJT・Off-JT・自己啓発・CDP) … 15-2
   ↓
④ 評価      … 働きぶりをどう測るか(人事考課・目標管理)        … 15-2
   ↓
⑤ 報酬      … どう報いるか(賃金・賞与・昇進・昇格)            … 15-3
   ↑___________(評価の結果が、次の配置・育成・報酬に戻っていく)

ポイントは、⑤で終わりではなく、①へ循環することです。人事考課(④)の結果は、昇給・賞与(⑤)だけでなく、 配置転換・異動(②)や、教育訓練のニーズ把握(③)にもつながります。この「評価は多方面の根拠になる」という点は、 過去問(H21 第20問)でも"正しい記述"として登場しました。

戦略的人的資源管理(SHRM)― 人事を経営戦略と結びつける

近年は、この人事の仕組みを経営戦略と一体で設計しようという考え方が重視されます。これを SHRM(Strategic Human Resource Management=戦略的人的資源管理)と呼びます。 「人は競争優位の源泉だ」というRBV(資源ベース理論)的な発想(→ 第4章)を、人事の現場に持ち込んだものです。

H26 第22問では、SHRMを「人材の調達先(外部登用か/内部育成か)」×「管理の対象(仕事の結果か/プロセスか)」 の2軸で4つに分類する枠組みが問われました。

仕事の結果で管理 仕事のプロセスで管理
外部から登用 コミットメント型 協力型(外部人材を"成果"で統制)
内部で育成 家父長型 伝統型(内部人材を"プロセス"で育成)

📝 過去問はこう出る(H26 第22問) 上の4類型のどれが正しく説明されているかを問う問題。正解は 「協力型は、コンサルタントや契約社員など"外部の人材"に対し、"仕事の結果(アウトプット)"を通じた統制を行う戦略」。 コミットメント型(外部×結果)を「内部従業員にプロセス責任を求める」と書いた選択肢などは、軸の取り違えでバツ。 「外部/内部」×「結果/プロセス」のマス目に落とせるかがカギです。 → H26 第22問

背景にある「日本的雇用慣行」

日本の人事制度を理解するうえで外せないのが、いわゆる日本的雇用慣行(三種の神器)です。

慣行 中身 賃金制度との関係
終身雇用(長期雇用) 定年まで同じ会社で働くことを前提 長く勤めるほど賃金が上がる年功制と相性がよい
年功序列 年齢・勤続に応じて賃金・地位が上がる → 15-3の年功給
企業別労働組合 産業別ではなく会社ごとに組合を組織 労使協調的な賃金交渉(ベースアップ交渉など)

これらは内部育成(じっくり自社で育てる)を前提とした仕組みです。 だからこそ日本企業では、次節のOJTや、後述のCDP(キャリア開発プログラム)が重視されてきました。 一方で近年は、成果主義(15-3)やダイバーシティ(多様な人材の活用)の広まりで、この前提が揺らいでいます。

💡 ダイバーシティの効用:H28 第21問では、人材の多様性(ダイバーシティ)の効果が問われ、 「これまで社外に求めていた異質な視点・知識を、多様な人材として社内に取り込むことで、 組織変革や新商品開発などのイノベーションが期待できる」が正解でした。 多様性は"うまく管理すれば"創造性を生む、というプラス面がポイントです(H28 第21問)。


15-2 人事考課と人材開発

(1)人事考課 ― 「評価」の仕組みとエラー

人事考課とは、社員の働きぶりを一定の基準で評価する仕組みです。評価項目は、伝統的に次の3つに分けられます。

評価項目 何を見るか
能力考課 職務を遂行する能力 知識・技能・判断力・企画力
業績考課(成績考課) 実際にあげた成果 売上・目標達成度・仕事の量と質
情意考課 仕事への意欲・態度 積極性・協調性・責任感・規律性

また評価の"ものさし"には、絶対評価(定めた基準に照らして評価)と相対評価(対象者どうしを比べる)があります。 絶対評価の代表例にプロブスト法(あらかじめ用意した多数の記述をチェックしていく方法)があります。

人事考課の「評定誤差(エラー)」― ここが最頻出

評価は人が人を見るので、どうしても偏り(エラー)が生じます。試験では、このエラーの名前と中身の一致が 繰り返し問われます。表の"引きずられ方"のイメージでセットで覚えましょう。

エラーの名前 どんな偏りか ひとことイメージ
ハロー効果 ある一つの目立った特徴(長所・短所)に引きずられ、他の項目まで同じ方向に評価してしまう 「英語ができる→仕事も全部できるはず」
寛大化傾向 全体的に甘く(高めに)つけてしまう 「みんな良い評価にしがち」
中心化傾向(中央化傾向) 差をつけるのを避け、評価が中央(普通)に集中 「無難に全員3点」
論理的誤差 関連がありそうな項目を連動させてしまう 「知識が高い→判断力も高いはず」
対比誤差 評価者自身や他者と比べて歪む 「自分が得意なことに厳しくなる」

📝 過去問はこう出る(H21 第20問) 「人事考課に関する記述として最も不適切なものはどれか」。正解(=誤り)は選択肢で、 ハロー効果を「同じ考課者が同じ被考課者を評価しても、時間や順序が変わると異なる評価になる傾向」と説明していました。 これはハロー効果ではなく、評価の再現性(信頼性)の問題です。 正しいハロー効果は「一部の目立った特徴に引きずられ、他の評価項目まで同じ方向に歪む」こと。ここが定番の引っかけです。 なお同問では「人事考課は昇進・昇格、昇給・賞与、配置転換、能力開発ニーズの把握など多様な根拠になる」(正しい)も登場しました。 → H21 第20問

💡 覚え方:ハロー効果の「ハロー(halo)」は後光・光の輪の意味。 一点の光(目立つ特徴)が全体を照らして評価を歪める、とイメージすると忘れません。 「中心化=真ん中に集める」「寛大化=甘い」も、言葉のままです。

(2)人材開発 ― OJT・Off-JT・自己啓発

社員の能力を伸ばす能力開発(人材育成)は、大きく次の3本柱で整理されます。

手法 意味 長所 短所
OJT(On the Job Training=職場内訓練) 上司・先輩が日常業務を通じて指導する 実務に直結し、成果が仕事に反映されやすい/低コスト 指導者の力量に左右される/体系性に欠けやすい
Off-JT(Off the Job Training=職場外訓練) 業務を離れて行う集合研修・外部講習など 業務に左右されず計画的・体系的に実施できる 実務との結びつきが弱くなりがち/コスト
自己啓発(SD=Self Development) 本人が自主的に学ぶ(通信教育・資格取得など) 主体性・意欲が高い/個別ニーズに対応 あくまで本人任せ/会社の関与は"支援"にとどまる

Off-JTはさらに、階層別教育(新入社員研修・管理職研修など"同じ立場の集団"向け)と、 職能別教育(営業・製造など"仕事の種類"別)に分けられます。

📝 過去問はこう出る(H26 第26問) 「OJT、Off-JT、自己啓発に関する記述として最も適切なものはどれか」。正解は選択肢: 「自己啓発は本来自主的に行うものだが、企業が設ける自己啓発支援制度では、 一般に業務に関連する知識・スキルが対象とされる」。 一方で「OJTは計画的・マニュアルに基づく実施は非現実的」(→ 実際は計画的OJTが望ましい)、 「Off-JTは職能別教育ではあまり効果がない」(→ 職能別でも効果あり)は、いずれも言い過ぎ・断定でバツでした。 → H26 第26問

⚠️ 混同注意:自己啓発の"支援"は「義務」ではない H20 第24問では、「自己啓発を企業が法的・制度的に支援する義務がある」とした選択肢が誤り(最も不適切)でした。 企業が費用の一部を援助することはあっても、それは奨励・支援であって、法律上の義務ではありません。 同問では、OJT(成果が仕事に反映されやすい)、Off-JT(計画的に実施できる)、 CDP(教育訓練と人事評価・処遇を連動させて運用)の説明はいずれも正しいものとして出ました。 → H20 第24問

コンピテンシー ― 「成果を生む行動特性」

近年の育成・評価で注目されるのがコンピテンシー(competency)です。これは 「高い成果を安定的に生み出す人に共通してみられる"行動特性"」を指します。 ポイントは、成果そのもの(結果)ではなく、成果につながる行動・思考のパターンに着目する点です。

📝 過去問はこう出る(R02 第22問) 「コンピテンシーに関する記述として最も適切なものはどれか」。正解は選択肢: 「同僚を支援するといった、組織成果に結びつく"行動特性"はコンピテンシーに含まれる」。 「成果そのもの(結果)」「評判で得た高い成果」を含めるのは誤り(それは"結果"であって行動特性ではない)。 逆に「動機・価値観・自己イメージといった内面は一切含まれない」も誤りで、内面的特性も一部含まれます。 → R02 第22問

(3)目標による管理(MBO)と評価

評価の運用でカギになるのが、第1章でも登場したMBO(Management By Objectives=目標による管理)です。 上司と部下が話し合って目標を設定し、本人が自己統制しながら達成を目指し、期を区切って評価します。 評価を"納得できるもの"にするには、この双方向のコミュニケーション(手続き的公正)が重要になります。 この論点は、次の15-3の「成果主義と公正感」に直結します。


15-3 賃金・報酬制度

賃金の全体像 ― 何で決まるか

賃金(給与)は、基準内賃金(毎月固定的に支払われる部分)と基準外賃金(残業手当など変動部分)に分かれ、 その中心が基本給です。基本給を"何を基準に"決めるかで、次の4タイプに大別されます。ここが本節の骨格です。

賃金の型 何で決まるか 長所 短所
年功給 年齢・勤続年数 生活が安定・長期定着を促す・運用が簡単 成果と結びつかない・人件費が高齢化で膨張
職能給 職務遂行"能力"(人の能力の等級) 能力向上を促す・配置転換に柔軟(日本で普及) 能力の評価が難しい・年功的に運用されがち
職務給 "仕事(職務)"の価値 同一労働同一賃金に近い・仕事基準で明快 職務分析が大変・配置転換しにくい
役割給 期待される"役割"の大きさ 職能給と職務給の中間・柔軟性と成果を両立 役割の定義が曖昧になりやすい

💡 覚え方:職能給は「人(=能力)」に払う、職務給は「仕事(=ポスト)」に払う。 「職"能"=その人の能力」「職"務"=その仕事」と、漢字の意味で区別すると混同しません。 日本企業は伝統的に職能給が主流で、これが年功的な運用(能力=年齢で上がる)と結びついてきました。

賃金の基本用語(定義問題への備え)

賃金は「用語の定義」がそのまま問われることがあります(H25 第23問)。混同しやすい語を押さえます。

  • 定期昇給:賃金表や年齢・勤続・査定に基づき、毎年定期的に個々人の賃金を引き上げること。
  • ベースアップ(ベア)賃金水準そのものを底上げすること。賃金表がある場合は表そのものを書き換える
  • 賞与:勤務成績・経営状態等に応じて支給され、額があらかじめ確定していないもの。
  • モデル賃金:標準的に進学・入社・昇進した"標準者"の賃金カーブ

📝 過去問はこう出る(H25 第23問) 「賃金に関する基本用語の定義として最も不適切なものはどれか」。正解(=誤り)は選択肢平均賃金の定義で、 「算定事由発生日以前3か月間の賃金総額を、その期間の"所定労働日数"で除す」としていた点が誤りでした。 正しくは"総日数(暦日数)"で除すのが原則です(この計算の細部は労働基準法=第16章の論点)。 基本給・賞与・定期昇給とベア・モデル賃金の各定義は、いずれも正しい記述として出ました。 → H25 第23問

成果主義 ― メリットとデメリット

成果主義とは、年功ではなくあげた成果に応じて報酬に差をつける考え方です。バブル崩壊後、 年功制の人件費負担を見直す文脈で多くの日本企業が導入しました。良い面と難しい面の両方を押さえるのが試験の急所です。

メリット デメリット(副作用)
高い成果を出した人に報いられる(公平感) 短期的な成果に走り、長期の育成・協力がおろそかに
頑張れば報われる期待でモチベーション向上 評価が不公正だと、かえって不満・不信を生む
人件費を成果と連動させられる チームワーク・協調性が損なわれるおそれ
挑戦的な目標設定を促す 評価しにくい仕事(間接部門など)で不公平になりやすい

成果主義を機能させるカギは、評価の"納得感(公正感)"です。ここには2つの公正があります。

  • 分配的公正:結果(報酬の配分)が、投入(努力・成果)に見合っているか(→ アダムスの公平理論、第12章)。
  • 手続き的公正:評価のプロセスが公正か(基準の明示・情報開示・本人参加の目標設定・双方向の対話)。

📝 過去問はこう出る(H23 第14問) 「成果に応じた報酬配分のメリットとデメリットを調和させる」観点で、最も不適切なものを問う問題。 正解(=誤り)は選択肢:「評価者が被評価者の要望を説明しながら評価すれば、結果が期待以下でも 不公正感が抑えられ動機づけを高められる」。要望を一方的に説明するだけでは納得感は担保されず、 結果が伴わないのに動機づけできると断定するのは誤りです。 一方、「目標管理シートを一緒に作り意思疎通を図る」「公正な評価制度の情報開示が要」 「投入と報酬が見合えば公正感を感じる(公平理論)」は、いずれも正しい記述でした。 → H23 第14問

⚠️ 混同注意:インセンティブは「お金」だけではない 報酬(インセンティブ)には、賃金・賞与のような金銭的(経済的)報酬だけでなく、 やりがい・承認・昇進・成長機会といった非金銭的(内発的)報酬もあります。 「金銭さえ払えばやる気が上がる」と考えるのは誤りで、両者を組み合わせる設計が重要です(→ モチベーション理論/第12章)。


15-4 雇用調整・配置転換・出向・転籍とキャリア開発

人の「動かし方」― 配置転換・出向・転籍

会社は、事業の必要に応じて社員の勤務場所や所属を変えます。似ているようで法的な立場が違う3つを区別します。

用語 意味 雇用契約はどこと?
配置転換(配転) 同じ会社の中で職務・勤務地を変える(転勤・部署異動) 元の会社のまま
出向(在籍出向) 元の会社に在籍したまま、他社で働く 元の会社に残しつつ、指揮命令は出向先
転籍(移籍出向) 元の会社を退職し、他社の社員になる 転籍先に移る(元の会社との契約は終了)

在籍出向では、労働時間・服務規律・安全衛生などは出向先の就業規則、 解雇・退職・人事異動など"従業員たる地位"に関わる事項は出向元の就業規則が適用されるのが一般的です。 また転籍は本人の同意が必要(勤め先そのものが変わるため)です。

📝 過去問はこう出る(H24 第22問) 「配置転換、出向、転籍等の人事異動に関する記述として最も不適切なものはどれか」。正解(=誤り)は選択肢で、 転勤命令の業務上の必要性について、「労働力の適正配置・能力開発・業務円滑化などを理由とするだけでは命じられない」 とした点が誤りでした。判例(東亜ペイント事件)では、業務上の必要性は「余人をもって代え難い」ほど高度である必要はなく、 企業の合理的運営に寄与する程度で足りるとされます。 → H24 第22問

雇用調整 ― 「人を減らす/休ませる」の手法

景気後退などで人員が過剰になったとき、企業は雇用調整を行います。負担の軽い順に、おおむね次の段階を踏みます。

残業削減 → 新規採用の抑制 → 配置転換・出向 → 一時帰休(休業) → 希望退職の募集 → 整理解雇
(軽い・柔軟)───────────────────────────────→(重い・最終手段)

このうち一時帰休(会社都合で一時的に休業させること)が試験の定番です。 使用者の都合による休業なので、労働基準法26条により、休業期間中は平均賃金の60%以上の"休業手当"を支払う義務があります。

📝 過去問はこう出る(H22 第20問) 「雇用調整に関する記述として最も適切なものはどれか」。正解は選択肢: 「操業短縮で労働者を一時帰休させたときは、労働基準法26条により、 休業期間中、平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならない」。 「希望退職に平均賃金30日分以上の割増退職金を払う法的義務がある」(→ 割増退職金は任意)、 「内定取消しに職業安定所の"許可"が必要」(→ 許可制ではない)は、いずれも誤りでした。 → H22 第20問

採用・内定 ― 「契約はいつ成立するか」

採用の場面では、採用内定の法的な意味がよく問われます。要点は、 内定が出た時点で"労働契約は成立"している(始期付・解約権留保付労働契約)という理解です。 したがって内定取消しは解雇に準じ、客観的に合理的で社会通念上相当な理由が必要になります。

📝 過去問はこう出る(R06 第24問) 「募集・採用、採用内定、試用期間、労働契約に関する記述として最も適切なものはどれか」。正解は選択肢: 「労働契約は、労働者が労働し使用者が賃金を支払うことについて両者が合意することで成立する(労働契約法6条)」=諾成契約。 「採用内定は理由の如何にかかわらず取り消せる」(→ 解雇に準じ合理的理由が必要)、 「試用期間中は解雇予告制度が適用されない」(→ 14日を超えれば必要)は誤りでした。 なお採用では外国人雇用状況の届出義務(H24 第23問)なども問われます。 → R06 第24問

キャリア開発プログラム(CDP)

CDP(Career Development Program=キャリア開発プログラム)は、 本人の希望と会社の人材ニーズをすり合わせ、長期的なキャリア・プランに沿って、 教育訓練と配置・評価・処遇を計画的に連動させる仕組みです。優秀な人材の採用・定着・能力向上を狙います。

  • キャリア開発は、組織階層の昇進だけでなく、チャレンジングなプロジェクトへの参加など多様な機会を通じて行われます。
  • CDPは経営戦略・事業計画と連動して設計すべきもの(計画とは無関係に独立して設計、は誤り)。
  • 直属上司の関与も、人事スタッフの関与もどちらも重要(一方に限定するのは誤り)。

📝 過去問はこう出る(H23 第15問) 「キャリア開発プログラムに関する記述として最も適切なものはどれか」。正解は選択肢: 「キャリア開発は組織階層の昇進だけでなく、よりチャレンジングで魅力的なプロジェクトへの参加を通じてもなされる」。 「評価は人事部などの中立機関に限るべき(直属上司は関与させない)」「CDPは経営計画とは独立に設計すべき」などは、 一方に断定している点で誤りでした。CDPは"本人・上司・人事の協働"と"戦略との連動"がキーワードです。 → H23 第15問


15-5 キャリア理論

最後は、人事の"仕組み"から視点を変えて、働く本人にとってのキャリア(職業人生)をどう捉えるかの理論です。 ここはシャインスーパーの2人が頻出です。

シャインのキャリア・アンカー

E. シャインは、人が仕事を選び続けるときの"錨(アンカー)"となる価値観・欲求・能力のセルフ・イメージキャリア・アンカーと呼びました。アンカー(錨)は、船が流されないよう固定する重り。 つまり「これだけは譲れない」という自分の軸のことです。シャインは次の8つを挙げました。

キャリア・アンカー 大切にするもの
専門・職能別コンピテンス 特定分野の専門性を極めること
全般管理コンピテンス 組織を統括し、経営に責任を持つこと
自律・独立 自分のやり方・ペースで働く自由
保障・安定 雇用や生活の安定・長期的な帰属
起業家的創造性 新しい事業・組織を生み出すこと
奉仕・社会貢献 世の中の役に立つこと
純粋な挑戦 困難な問題・強敵に打ち勝つこと
ライフスタイル 仕事と私生活のバランスを保つこと

最大のポイント:キャリア・アンカーは生まれつき固定されたものではなく、実際の仕事経験を積む中で "徐々に形成・自覚されていく"ものだ、という点です。「しっくりこない(不適合)」経験を通じて、 自分のアンカーに気づき、転職や働き方の変化につながっていきます。

📝 過去問はこう出る(H30 第22問) 「キャリア・アンカーに関する記述として最も適切なものはどれか」。正解は選択肢: 「"しっくりこない"という不適合の経験を通じて自らのアンカーを振り返り、転職や働き方の変化につながる」。 「アンカーは生来固定された価値である」「あらかじめ意識的に職業選択を導く」(→ 経験を通じて形成・発見される)、 「職種・企業ごとに似ていく」(→ 個人ごとに多様)、「矛盾するものが1つに絞り込まれる」(→ 決めつけは不適切)は誤りでした。 "経験を通じて後から自覚される"が合言葉です。 → H30 第22問

スーパーの職業的自己概念

D. スーパーのキャリア理論の中核は「職業的自己概念(vocational self-concept)」です。 これは「職業を通じて表現される自分らしさのイメージ」のこと。スーパーは、 キャリア発達とは、この職業的自己概念を発達させていくプロセスだと考えました。

  • 職業的自己概念は、パーソナリティや私生活の満足と密接に結びついて発達する(仕事だけ切り離せない)。
  • 職務満足は、自己概念をうまく表現できる場をどれだけ見つけられたかで決まる。
  • 職業への好みや能力は、時間・経験とともに変化し、社会的に学習される

📝 過去問はこう出る(H29 第18問) 「D. スーパーらによるキャリアに関する命題として最も不適切なものはどれか」。正解(=誤り)は選択肢: 「職業的自己概念は、私生活の満足やパーソナリティとは"独立に"構成される」。 実際には、職業的自己概念はパーソナリティや私生活と密接に関連して形成されるので、 "独立に構成される"は誤りです。「キャリア発達=職業的自己概念の発達プロセス」「職務満足は自己概念を 表現できる程度で決まる」などは正しい命題でした。 → H29 第18問

⚠️ 混同注意:シャイン vs スーパー - シャイン = キャリア・アンカー(譲れない"軸"。経験を通じて自覚する) - スーパー = 職業的自己概念(職業で表す"自分らしさ"。私生活・人格と結びつく) どちらも「経験を通じて発達・形成される」点は共通。人名と用語の結びつきで得点しましょう。


この章のまとめ(試験直前チェック)

  • ☐ HRMは採用→配置→育成→評価→報酬の連鎖/人事考課は昇給だけでなく配置・育成の根拠にもなる
  • SHRM:人事を経営戦略と一体で設計/H26は「外部・内部 × 結果・プロセス」の4類型
  • ☐ 日本的雇用慣行=終身雇用・年功序列・企業別組合(内部育成が前提)
  • ☐ 評価項目=能力・業績・情意考課/絶対評価の代表=プロブスト法
  • ☐ 評定誤差:ハロー効果(一点に引きずられ他項目も歪む)・寛大化(甘い)・中心化(真ん中集中)・論理的誤差・対比誤差
  • ☐ ハロー効果を「時間・順序で評価が変わる」と書いたらバツ(それは信頼性の問題)
  • ☐ 育成の3本柱=OJT(実務直結)・Off-JT(計画的・体系的/階層別・職能別)・自己啓発(本人主体、支援は"義務ではない")
  • コンピテンシー=高成果者に共通する行動特性(成果そのものではない/内面も一部含む)
  • ☐ 賃金の型:年功給(年齢・勤続)・職能給(人の能力/日本で普及)・職務給(仕事の価値)・役割給(役割の大きさ)
  • 平均賃金は「3か月の賃金総額 ÷ 総日数(暦日数)」(所定労働日数で割ると誤り)
  • 成果主義は光と影の両面/機能のカギは分配的公正+手続き的公正(納得感)
  • 配置転換(同じ会社)・出向(在籍のまま他社)・転籍(退職して移籍・本人同意が必要)
  • 一時帰休=労基法26条で平均賃金の60%以上の休業手当転勤命令は"余人をもって代え難い"までは不要
  • 採用内定で労働契約は成立(解約権留保付)→ 取消しは解雇に準じ合理的理由が必要
  • CDP=本人希望×会社ニーズをすり合わせ、戦略と連動(昇進だけでなく多様な機会で)
  • シャイン=キャリア・アンカー(8種類・経験で自覚)/スーパー=職業的自己概念(私生活・人格と結びつく)

この章に対応する主な過去問

年度・問 論点 リンク
H20 第24問 能力開発の体系と手法(OJT・Off-JT・CDP) 問題
H21 第20問 人事考課・評定誤差(ハロー効果) 問題
H23 第14問 成果主義報酬のメリット・デメリット 問題
H23 第15問 キャリア開発プログラム(CDP) 問題
H24 第22問 配置転換・出向・転籍 問題
H24 第23問 募集・採用及び雇用 問題
H25 第23問 賃金に関する基本用語 問題
H22 第20問 雇用調整(一時帰休・休業手当) 問題
H26 第22問 戦略的人的資源管理(SHRM) 問題
H26 第26問 OJT・Off-JT・自己啓発 問題
H28 第21問 人材のダイバーシティ 問題
H29 第18問 スーパーの職業的自己概念 問題
H30 第22問 シャインのキャリア・アンカー 問題
R02 第22問 コンピテンシー 問題
R06 第24問 労働契約・採用内定・試用期間 問題

次章予告 ▶ 第16章「労働関連法規」 本章では"人材マネジメントの手法"に軸足を置きましたが、その土台には多くの法律のルールがあります。 第16章では、労働基準法(労働時間・割増賃金の計算・休業手当)、労働契約法、男女雇用機会均等法、 高年齢者雇用安定法など、本章で顔を出した法制度を数字と要件まで掘り下げます。 「割増賃金の割増率」「平均賃金の計算」など、本章で"第16章で扱う"とした細部はそちらで完成させましょう。