中小企業がコスト上昇分をどれほど取引価格に転嫁できているかに関する調査結果

中小企業庁は、中小企業がコスト上昇分をどれほど取引価格に転嫁できているかに関する調査結果を発表しました。
「発注側企業から申し入れがあり、「価格交渉が行われた」割合は、前回から約3ポイント増の34.6%。
「価格交渉が行われた」割合は全体の89.4%。
「価格交渉が行われなかった」割合はほぼ横ばいの10.6%。
最も価格交渉が行われたのは「建設業」
最もコスト増加に対する価格転嫁率が高いのは「化学」の67%

資料の構成は以下のようになっています。

例によってNotebookLMでまとめてもらいましょう。
価格交渉のリアル:最新調査でわかった、中小企業を取り巻く5つの不都合な真実
スーパーのレシートを見て、ため息をつく。ガソリンスタンドで、じりじりと上がる価格表示に驚く。私たちの日常に、物価上昇の波は容赦なく押し寄せています。この波は、消費者である私たちだけでなく、事業を営む企業、特に日本の経済を支える中小企業にとっても深刻な問題です。原材料費、エネルギー費、そして人件費。あらゆるコストが上昇する中で、中小企業は生き残りをかけて「価格交渉」という厳しい現実に直面しています。
政府もこの状況を重く見て、「価格交渉促進月間」といった取り組みを進めてきました。上昇したコストを、製品やサービスの価格に適切に転嫁(仕入れコストの上昇分を、販売価格に適切に上乗せすること)できるよう、大企業と中小企業の間の公正な取引を促すのが狙いです。しかし、その効果は本当に出ているのでしょうか?
この問いに答えるべく、中小企業庁が発表した最新のフォローアップ調査結果は、私たちに衝撃的な事実を突きつけます。そこには、交渉の現場で起きている、あまりにも厳しい「5つの不都合な真実」が浮かび上がってきました。今回は、この調査データをもとに、中小企業が直面する価格交渉のリアルな姿を解き明かしていきます。
【驚きの真実①】サプライチェーンの階層が深いほど、価格転嫁は絶望的になる
調査結果が明らかにした最も構造的な問題は、企業のサプライチェーン上の立ち位置が、価格転嫁の成功率を大きく左右するという事実です。端的に言えば、「下請けの下請け」のように階層が深くなるほど、コストを価格に反映させることが困難になるのです。
具体的なデータを見てみましょう。
• 1次請け(元請けから直接仕事を受ける企業)の価格転嫁率は54.7%。
• 一方、4次請け以上の企業では、その数字は42.1%にまで落ち込みます。
さらに深刻なのは、4次請け以上の企業のうち、実に29.5%がコストを「全く転嫁できなかった」もしくは「逆に減額された」と回答している点です。これは、コスト上昇分のすべてを自社で飲み込むことを強いられている企業が約3割も存在することを意味します。
この数字が示唆するのは、交渉力の絶対的な格差です。その背景には、階層が深くなるほど発注元への依存度が高まり交渉力が弱まるだけでなく、最終製品の市場価格といった重要な情報から遮断される「情報の非対称性」が存在すると考えられます。結果として、元請けに近い企業がコスト変動を吸収するための「バッファー」として、末端の下請け企業を利用する構図が生まれてしまっているのです。
【驚きの真実②】あなたの業界が運命を決める?広がる「天国と地獄」
価格交渉の成否は、個々の企業の努力だけで決まるわけではありません。どの業界に属しているかによって、その運命が大きく変わる「業界格差」が鮮明になっています。
調査では、発注側企業の業種別にコスト転嫁率が算出されており、その差は歴然です。
• トップは「化学」業界で、転嫁率は66.7%。
• 対照的にワーストは「トラック運送」業界で、わずか34.7%という厳しい結果でした。
また、今回の調査で特に注目すべきは「製薬」業界の急落です。前回の調査では64.1%と高い水準でしたが、今回は46.7%へと大きく転嫁率を下げ、下落幅が最も大きい業種となりました。
これは単なる数字の差ではありません。化学業界のように、専門性の高いBtoB製品を扱いサプライヤーが限られる業界は価格決定権を握りやすい一方、トラック運送業界は事業者が乱立し価格競争が激しく、燃料費高騰の直撃を受けても交渉力が弱いという構造的な問題を浮き彫りにしています。製薬業界の急落も、薬価改定の圧力やジェネリック医薬品との競争激化といった、業界を取り巻く環境の激変を物語っているのかもしれません。
【驚きの真実③】「何をするか」だけじゃない。「どこでやるか」で明暗が分かれる地域格差
業界だけでなく、事業所の所在地によっても価格転嫁率に大きな差が出ていることがわかりました。まさに「どこでビジネスを行うか」という”住所の宝くじ”とも言える状況が生まれています。
都道府県別の転嫁率(発注企業の所在地別)を見ると、その格差は一目瞭然です。
• トップは島根県で、転嫁率は58.6%。
• 一方、ワーストは岩手県の45.5%、次いで群馬県が45.8%となっています。
最も高い島根県と最も低い岩手県とでは、10ポイント以上の開きがあります。これは、地域の経済力や、特定産業の集積度、さらには地域に根付く企業文化の違いが、価格交渉の環境に直接影響を与えている可能性を示唆しています。大企業の拠点が集中する地域とそうでない地域との間で、取引の力関係に差が生まれているのかもしれません。
こうした業界や地域の構造的な格差に加え、転嫁が最も難しいコストの種類、すなわち「人件費」に目を向けると、問題の根深さがさらに明らかになります。
【驚きの真実④】人件費の壁——ついに5割に達するも、残る「自助努力」の圧力
賃上げの機運が高まる中、その原資となる人件費の価格転嫁は、多くの企業にとって最大の課題です。今回の調査で、労務費の転嫁率は初めて50.0%に達しました。これは一つの前進と言えるかもしれません。
しかし、この数字を手放しで喜ぶことはできません。原材料費の転嫁率(55.0%)には依然として及ばず、多くの企業が賃上げをしたくてもできない苦しい状況に置かれていることに変わりはないのです。その困難さを象徴するのが、調査で寄せられた中小企業からの悲痛な声です。
▲労務費の交渉を申し出たものの、自助努力で解決すべき、他社に切り替える、などと言われ交渉が難航した。
この声が暴き出すのは、発注側企業の中に根強く残る「人件費は受注側の内部努力で吸収すべきもの」という古い価値観です。本来、製品やサービスを生み出すために不可欠なコストであるはずの人件費が、取引全体で負担すべき正当なコストとして認められず、「自助努力」という言葉のもとに交渉のテーブルから排除されている実態がここにあります。
【驚きの真実⑤】交渉の席についても、半分しか伝わらない。形骸化する「話し合い」
一見すると、事態は改善しているように見えるデータもあります。コスト上昇を理由に価格交渉を希望した企業のうち、実際に交渉が行われた割合は89.4%に達しました。つまり、ほとんどのケースで「話し合いのテーブル」には着けているのです。
しかし、問題はその中身です。交渉が行われても、コスト全体の価格転嫁率は53.5%に過ぎません。これは、交渉の場で上昇したコストを伝えても、平均してその半分程度しか受け入れられていないという現実を意味します。
さらに深刻なのは、交渉は行われたものの全額の転嫁には至らなかったケースのうち、36.6%が発注側から「納得できる説明がなかった」または「そもそも説明がなかった」と回答している点です。ただ交渉の場を設けるだけでは不十分で、その内容が一方的な押し付けであっては意味がありません。
▲値上げ交渉を行ったが、申し入れた金額は受け入れられず一方的に金額を決められたうえ、転注を示唆された。
これは、交渉が実質的な協議ではなく、「交渉した」というアリバイ作りのために行われる「形式的な儀式」に過ぎないケースが少なくないことを示唆しています。このような形骸化した話し合いは、公正な取引環境を阻害するだけでなく、企業間の信頼関係をも蝕んでいきます。
まとめ
中小企業庁の最新調査は、価格交渉をめぐる日本の産業構造が抱える根深い問題を浮き彫りにしました。この5つの不都合な真実を統合すると、日本の経済システムが抱える一つの病巣が見えてきます。それは、サプライチェーンの末端にいる中小企業が(真実①)、構造的に交渉力の弱い業界に属し(真実②)、経済的に不利な地域で事業を行い(真実③)、最も重要なコストである人件費の転嫁を「自助努力」の名の下に拒まれ(真実④)、形だけの「話し合い」で押し切られる(真実⑤)という、負のスパイラルです。
この現実は、個々の企業の努力だけで解決できる問題ではありません。サプライチェーン全体でコストを分担するという意識の変革が、今まさに求められています。
公正な取引環境を実現するために、企業、そして消費者である私たち一人ひとりに何ができるのでしょうか? この調査結果は、社会全体で考えるべき重い宿題を突きつけています。

