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キャッシュレス給与払いの現状〜ステーブルコインへの道となるか?

ステーブルコイン

ステーブルコインで、キャッシュレスの給与払いは進むのか?

ステーブルコインの認可がすすみ、JPYCの完全なるステーブルコインの発行も迫っています。とりあえず発行されたら、少額購入してみる予定です。ただこれは暗号資産のように値上がりを期待するものではありません。あくまで日本の効率化に寄与できるか、ということです。

ステーブルコインは値上がりは期待できませんから、(そもそも期待するものではない)正直、消費者のユーザサイドからの積極的な購入動機は高まらないと思います。ポイントが付くもののほうがいいですよね。著者自身も、支払いはほとんどすべてをPayPayに集約しています。そしてそのまま自動でPayPayポイント運用に彫り込んでいるので、結構増えてきました。となるとポイントがつかない、値上がりもしないステーブルコインを買う理由はないでしょう。

一方で、事業者側の視点は異なるでしょう。振込や送金の度に、金融機関から手数料を取られます。また高額になると更に手数料が増えます。ステーブルコインが送金手数料0なら、事業者にとって利用する価値は高いでしょう。

今でも暗号資産で送金したほうが、金融機関手数料よりはお得でしょう。しかし、暗号資産では、日本円への換金が大変です。そもそも暗号資産は価格が乱高下してタイミングによっては受け取ったはずの金額より減ってしまうことがあります。逆に値上がりしていたら嬉しいようにも思いますが、日本円に換金するたびに税金がかかります。税率は金額によりということになりますが、実際の事業者の件数の多い企業取引では暗号資産を使うのは現実的ではないでしょう。

しかしステーブルコインならこの問題は解決できるかもしれません。

事業者間取引の他に、事業者からの給与払いでステイブルコインは活用される可能性があります。すでにPayPay給与払いなどが始まっています。多くの社員にとっては、PayPayでもらうより現金で貰ったほうが良い思うでしょうから、あまり普及速度は早くありません。ただ、金融機関の口座がない従業員、例えば外国人労働者などでは少しずつ普及しているというニュースも見かけます。

そこで、今回はキャッシュレスでの給与払いの状況を調べてみました。

キャッシュレス給与支払いサービスの認可状況

日本では2023年4月の法改正により、企業が資金移動業者(いわゆる「○○ペイ」など)の口座へ給与を振り込む「デジタル給与払い(給与デジタル払い)」が解禁されました。この制度を利用するには厚生労働大臣が指定した資金移動業者である必要があり、2024年8月にPayPay株式会社が国内第1号の指定を受けています。その後2024年末から2025年初頭にかけて、指定資金移動業者は順次拡大し、2025年4月時点で4社が指定済みです。指定を受けたサービスと開始時期の概要は以下のとおりです。

  • PayPay株式会社(PayPay給与受取) – 指定日: 2024年8月9日。サービス名「PayPay給与受取」として、2024年11月よりソフトバンクグループ以外の企業従業員にも提供開始。利用者は給与をPayPay残高(「PayPayマネー(給与)」)として受け取れるようになりました。受取残高の上限は20万円に設定されています。
  • 株式会社リクルートMUFGビジネス(COIN+) – 指定日: 2024年12月13日。決済サービス「COIN+」で給与受取が可能になりました。受取上限額は30万円です。同社はリクルートが提供する「Airワーク給与支払」サービスと連携し、最短10分での給与即時受取(いわゆる給与のオンデマンド払い)にも対応すると報じられています。
  • 楽天Edy株式会社(楽天ペイ給与受取) – 指定日: 2025年3月19日。楽天ペイアプリ上で給与を楽天キャッシュとして受け取る「楽天ペイ給与受取」を開始。まずは楽天ペイメント社の社内従業員向けに2025年3月から提供を開始し、順次すべての楽天ペイ利用者に拡大予定とされています。受取上限額は10万円です。
  • auペイメント株式会社(au PAY給与受取) – 指定日: 2025年4月4日。スマホ決済「au PAY」で給与を受け取れるサービスとして同日付で提供開始しました。KDDIグループ各社では2025年5月以降の給与支払いから希望者への導入を決定しており、au PAY残高への給与受取が可能になります。受取上限額は10万円です。

どれも残高上限が小さく、完全なる給与払いには使いにくいでしょうね。現時点では。

厚生労働省・関係省庁による制度整備と方針

労働基準法施行規則の改正省令が公布されたのは2022年11月で、この省令により2023年4月1日から賃金のデジタル払いが正式に解禁されました。それ以前は賃金の支払いは「現金払い」が原則で、例外的に銀行口座振込が認められていましたが、キャッシュレス決済の普及を受けて制度が見直された経緯があります。厚労省は労使代表を交えた労働政策審議会で事業者指定の要件を議論し、資金移動業者の選定基準(資本金要件や倒産時の保証スキーム等)を定めています。その結果、使用者(企業)は厚生労働大臣が指定した資金移動業者に限り、労働者の同意を得て給与をデジタル払いできるようになりました。

労働者保護の観点から、いくつかの制約とルールが設けられています。残高上限額は法律上100万円と定められており、万一それを超える場合は自動的に超過分が労働者指定の銀行口座へ送金される仕組みです。指定事業者が破綻した場合でも賃金相当額は速やかに保証機関から弁済されるよう、各事業者ごとに損害保険や信託による保証スキームを構築することが義務付けられています。また、受け取った給与を少なくとも月1回は手数料無料で現金化できることも条件となっており、例えばPayPay給与受取ではユーザーが給与分の残高を月1回まで無料で銀行出金できるプログラムが提供されています。さらに、賃金のデジタル払いはあくまで労働者の任意選択であり、企業側は銀行振込や現金払い等の従来手段も必ず併せて提示しなければなりません。労働者は途中で受取方法を銀行口座に変更することも可能であり、同意の強制は認められません。

厚生労働省は「賃金支払の5原則」を踏まえつつ現代の多様なニーズに対応するため、デジタル払いを賃金受取方法の新たな選択肢として位置付けています。厚労省ウェブサイト上では事業者向け・労働者向けのQ&Aや手続きガイド、指定業者一覧を公開し、制度の周知を進めています。ただし、2024年10月時点で企業側の認知度は高くなく、「言葉も知らない」が1.6%に上る調査もあるなど、行政としては安全面の周知とともに制度の理解促進が今後の課題となっています。

導入企業の事例と導入状況

国内初の給与デジタル払い事例は、ソフトバンクグループによるものです。PayPayが指定を受けた直後の2024年9月支給分給与より、ソフトバンクグループ傘下の10社で希望する従業員に対して給与の一部または全部(上限20万円)をPayPayで支給開始しました。これにより「従業員の給与受取方法の選択肢を増やす」とともに、「PayPay経済圏の拡大を推進する」狙いがあると発表されています。実際の運用では各社が労使協定を締結し、従業員から同意を得た上でPayPayの入金用口座番号を給与振込先として登録する方法が取られました。これに続き、外食・小売や金融業など様々な業界で大手企業を中心に導入が進んでいます。2025年4月には、PayPay給与受取の導入企業数が100社を突破し、代表的な導入企業としてサカイ引越センター(物流)、三井住友海上火災保険(金融)、吉野家(飲食)などの名前が挙げられました。これらの企業では既に労使協定の改定・社内周知が完了し、希望する従業員への提供が始まっています。

2025年以降は、指定を受けた他のサービスについても順次導入事例が現れ始めています。例えばリクルート系のAirワーク給与支払(COIN+)では、サービス開始と同時に同社グループ内での利用や、提携先企業で給与即時払いの仕組み導入が報じられました。楽天ペイメントでは自社社員向けに給与デジタル払いを開始しており、楽天グループ内でのトライアル運用を経て一般企業への提供開始を予定しています。またKDDI(au)グループも、自社グループ各社での先行導入を決定しており、こちらもグループ社員での運用を皮切りにサービスを全ユーザーに開放する計画です。中小企業では建設業の後藤組などが2025年3月支給分から希望社員へのデジタル払いを開始するケースも出ています。もっとも、導入済み企業はまだ限定的であり、100社突破のPayPay給与受取が事実上市場をリードする状況です。他のサービスについてはこれから本格的な企業導入事例が増えていく段階といえます。

全体として企業の導入意向はまだ慎重です。帝国データバンクが2024年10月に行った調査では、「導入予定なし」と回答した企業が約88.8%にも上り、「導入に前向き」はわずか3.9%でした。制度開始から1年以上経過し大企業での実績が出始めても、9割近くの企業は静観している状況です。導入に前向きな企業の理由としては「振込手数料の削減」(53.8%)が最多で、「従業員満足度の向上」(42.3%)、「日払い・前払いへの対応容易化」(32.7%)が続いており、コスト削減と利便性向上が主な動機となっています。一方、導入予定がない企業の理由としては「業務負担の増加」(61.8%)が突出し、「制度やサービスへの理解不足」(45.0%)、「セキュリティリスクへの懸念」(43.3%)がそれに続きました。とくに中小企業では、新制度対応の手間や情報不足、セキュリティ管理コストがメリットを上回るとの見方が多く、普及のハードルになっていると指摘されています。

従業員の利用状況・意識調査データ

一般の労働者におけるデジタル給与払いの認知度は徐々に高まりつつありますが、実際の利用者はまだごく一部です。MMD研究所が2025年3月に実施した2万人規模の調査によれば、「給与デジタル払いを現在利用している」と答えた人は2.8%に留まりました一度でも利用経験がある人(過去利用含む)でも4.8%で、9割以上の労働者は未経験という状況です。一方で名称や制度を「知っている」人は約61.9%に達しており、概略まで「内容を理解している」人も30.3%いました。つまり認知は6割超と比較的進んでいるものの、大半は様子見で実際に使ったことがない段階といえます。

現時点では「利用したくない」という層が多数派ですが、その理由や条件を見ると利用拡大のヒントが見えてきます。求人サイト『エン転職』ユーザー4800人へのアンケート(2024年11月)では、給与デジタル払いを「利用したくない」と答えた人が70%に達しました。「利用したい」は15%に留まっています。利用に消極的な理由のトップは「結局銀行口座に移すのが面倒」(現金化の手間)であり、「使える店舗が限られる」「紛失や不正利用が心配」といった懸念も背景にあるようです(※セキュリティ面の懸念は他調査で43%程度)。逆に「利用したい」派の理由トップ3は「キャッシュレスで生活しているから」(52%)、「ATM引出手数料が不要になるから」(51%)、「チャージの手間が省けるから」(45%)というもので、日常のキャッシュレス化や手数料・チャージの利便性を評価する声が多く挙げられました。またMMD研究所の調査では、「ポイント経済圏と連携している場合に利用したい」と答えた人が21.1%おり、特に楽天ポイントやPayPayボーナスなどポイント還元がある場合に興味を示す傾向が見られます。例えば「給与を受け取ったらポイントを貯めたい」「日常の買い物に使いたい」といった声が上位に挙がっており、主要なポイント経済圏(楽天、PayPay、dポイント等)のヘビーユーザーほど前向きな意向が強いようです。

現在デジタル給与払いを利用している労働者層を見ると、年齢的には若年層ほど肯定的というデータがあります。前述のエン転職調査では「利用したい」と答えた割合が20代で23%と他世代より高く、30代以上では14%程度に留まっていました。これは日頃からスマホ決済に慣れた層ほど抵抗感が低いことを示唆しています。実際に制度を利用して給与を受け取っている人の具体的な人数統計は公表されていませんが、ソフトバンクやKDDIといった大企業グループ内での先行導入により徐々に利用者が増え始めた段階です。2023年度末時点の推計では、潜在的な利用希望者数は約440万人(国内就業者の一部)ともされ、今後サービス拡充やメリット提示次第で利用者は拡大していく可能性があります。

キャッシュレス給与払いのメリット・デメリットと課題

メリット(利点)

  • 従業員側のメリット: 日常の支払いをキャッシュレスに集約でき、ATMで現金を引き出す手間や手数料が省ける。給与が直接スマホ決済残高にチャージされるため、チャージ作業なしで買い物や飲食に使える利便性もあります。また給与振込先が複数持てることで、例えば「毎月○万円をPayPayで受け取り、それ以外は銀行口座へ」というように用途別に資金を管理しやすくなる利点も指摘されています。さらに、一部サービスでは給与の一部を即座に受け取るオンデマンド払い(前払い)の仕組みが構築されており、急な出費時に給料日前でも対応できる柔軟性も高まります。ポイント還元等のキャンペーンが提供されれば実質的な収入増(ポイント収入)につながる可能性もあり、キャッシュレス派の従業員にとっては魅力的な制度です。
  • 会社(支払側)のメリット: 振込手数料の削減が期待されます。銀行振込に比べて資金移動業者への振込手数料は安価に設定されるケースが多く、企業のコスト圧縮につながります。実際、厚労省はデジタル払い給与について「最低月1回の無料出金」を義務付けたため、従業員のATM手数料負担が減るだけでなく、企業側も給与支払いにかかる総コストを抑えられるとされています。また、デジタル払いを導入すること自体が福利厚生の充実やDX推進の一環となり、従業員満足度の向上や採用PRにつながるとの声もあります。とりわけ若手人材にとっては給与受取方法の選択肢拡大が企業の先進性として映る可能性もあり、人事戦略上プラスに作用する面も考えられます。さらに、日払いや給与前借りサービスと組み合わせることで給与計算・支給業務の効率化(都度の現金手渡しや振込手続き削減)につながる点もメリットです。実務面では、PayPayとオービック社の人事クラウドとのAPI連携のように、システム連携によって従業員の申請手続きを大幅に簡略化しミスを防ぐ取り組みも始まっており、バックオフィス負担の軽減も進みつつあります。

デメリット(課題)

  • 従業員側のデメリット・懸念: 利用範囲の制約が指摘されます。受け取ったデジタルマネーは対応する店舗やオンラインサービスでしか使えないため、現金しか使えない場面(家賃の振込先が銀行指定の場合など)では結局銀行口座へ移す必要があり「手間が増える」と感じる人が多いです。また「使いすぎ」への不安もあります。残高として給与が入ることでつい消費してしまい、計画的に貯蓄しづらいのではという声も一部あります(従来は銀行口座への振込=貯金のイメージがあるため)。セキュリティ面の不安も少なくありません。スマホ決済アプリの不正利用リスクや、資金移動業者が破綻した場合の混乱を懸念する声もあります。もっとも後者については前述の通り法令で残高保証が担保されていますが、実際に破綻が起きた場合に給与引き出しが滞るリスクはゼロではなく、心理的ハードルになっています。また高収入者の場合、サービスごとの受取上限(10万~30万円程度)に制約されるため全額をデジタルで受け取れない不便さもあります。結局は銀行口座を併用せざるを得ず、「デジタル給与だけで完結」は難しいケースが多い点もデメリットと言えます。
  • 会社側のデメリット・課題: 導入準備の負担が最大の課題です。労使協定の締結・就業規則の改定、従業員への制度説明と同意取得、給与システムの改修(振込先口座追加やデータ管理)など、初期対応に手間がかかります。とくに人事・総務部門のリソースが限られる中小企業では「その労力に見合う効果があるのか」という慎重論が強く、これが普及のブレーキになっています。また、情報不足も課題です。「どのサービスを選べばよいか」「具体的な手順は?」といったノウハウが行き渡っておらず、不確実性への不安から様子見を決め込む企業が多い状況です。さらにセキュリティ・内部統制上の懸念もあります。給与というセンシティブな支払いを外部の決済業者に委ねることに対し、万一の不正送金やシステム障害時の対応フローなどを事前に詰めておく必要があり、安心して任せられるという十分な実績が蓄積されるまで導入に踏み切れない企業もあります。こうした課題から、現状ではコスト削減やDX推進に積極的な一部企業のみが先行導入し、大多数は「時期尚早」と判断している構図です。

給与のキャッシュレス払いの浸透もまだまだですね。ただ、著者自身は、日常の支払いのほとんどはPayPayになっています。そのため、給与がPayPay払いになってもなんの問題もありません。ただこれが楽天Payで支払われるとなると、ちょっと微妙です。人ぞれぞれの経済圏に合った支払い方が求められるのでしょう。

となると、ステイブルコインには現時点で経済圏がありません。冒頭に戻って消費者側にはメリットは少ないでしょう。一方で、手数料がかからないメリットは事業者側にありますから、まずはBtoB決済、そして徐々に企業からの給与払い、最終的にBtoCの小売店などでの支払いと、徐々に拡大していくのを待たねばならないのでしょうね。

はやくキャッシュレス100%の時代になって、現金がなくなればいいのに、と思います。

そんなところで。

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