第8章 貨幣市場とIS-LM分析

この章のねらい 第7章までで「財市場(モノの市場)」で国民所得がどう決まるかを学びました。この章では、そこに 「貨幣市場(お金の市場)」を組み合わせます。財市場を表すIS曲線と、貨幣市場を表すLM曲線を 1枚の図に描き、その交点でGDP(国民所得)と利子率が同時に決まる――これがIS-LM分析です。 マクロ経済学の「主役」ともいえる分析で、財政政策・金融政策がなぜ効くのか/効かないのかを、 このたった1枚の図だけで説明できるようになります。

過去問での出方:経済学・経済政策の最頻出テーマです。ほぼ毎年、貨幣の話(第6〜7問あたり)IS-LMの図の話(第6〜11問あたり)がセットで出ます。対応する過去問は28問と全章でも屈指の多さ。 図の傾き(右上がり/右下がり)シフトの向きクラウディング・アウト流動性のわなさえ 押さえれば、確実に2〜3問を取りにいける最大の得点源です。ここは腰を据えて攻略しましょう。


8-0 この章の地図

この章は「まずお金そのもの(貨幣需要・貨幣供給)を理解する」→「その理解を使って2本の曲線(IS・LM)を 描く」→「2本を組み合わせて政策効果を読む」という3ステップで進みます。

8-1 貨幣市場の中身            … お金の「需要」と「供給」を分解する
   ├ 貨幣需要(なぜお金を持つか)  取引・予備的・投機的の3動機
   └ 貨幣供給(お金はどう増えるか)信用創造・マネーストック・
                                ハイパワードマネー・貨幣乗数
   │
8-2 2本の曲線を描く          … 財市場=IS曲線/貨幣市場=LM曲線
   ├ IS曲線(右下がり)        傾きは「投資の利子弾力性」で決まる
   └ LM曲線(右上がり)        傾きは「貨幣需要の利子弾力性」で決まる
   │
8-3 2本を重ねて政策を読む    … 交点=同時均衡/不均衡領域
   ├ 財政政策 → IS右シフト     クラウディング・アウト(★頻出)
   ├ 金融政策 → LM右シフト
   └ 特殊ケース:流動性のわな/古典派(垂直LM)

まず8-1で「お金」という土台をつくり、8-2で図の道具をそろえ、8-3で一気に応用します。


8-1 貨幣市場 ― 貨幣需要と貨幣供給

8-1-1 貨幣需要 ― なぜ人はお金(現金)を手元に置くのか

利子のつく債券(や預金)を買わずに、あえて利子を生まない現金を手元に置くのはなぜか。 ケインズは、その理由(=貨幣を需要する動機)を3つに整理しました。これを流動性選好説といいます。

動機 どんなお金か 何に依存するか(★超重要)
① 取引動機 日々の買い物・支払いに備える 所得(GDP)が増えるほど増える
② 予備的動機 病気・事故など不意の出費に備える 所得(GDP)が増えるほど増える
③ 投機的動機(=資産選択動機) 「今は債券より現金で持っておこう」という資産運用としての保有 利子率が上がるほど減る
  • ①取引動機・②予備的動機は、いずれも所得(取引の量)に応じて決まります。給料が増えれば 買い物も備えも増えるので、貨幣需要も増えます。利子率とは関係しません。
  • ③投機的動機だけが利子率に反応します。利子率が上がると「現金で持っていると もらえたはずの利子(=機会費用)」が大きくなるので、人は現金を減らして債券に回します。 だから利子率↑ → 投機的な貨幣需要↓。逆に利子率が下がれば現金を持ちたくなります。

💡 かみくだき:「機会費用」って? 現金を財布に入れておくと利子はつきません。もしそのお金で債券を買っていたら利子がもらえたはず。 この「あきらめた利子」が現金を持つコスト(機会費用)です。利子率が高いほどこのコストが大きく、 「現金なんか持ってないで債券を買おう」となる → 貨幣需要は減る、というわけです。

📝 過去問はこう出る(R06 第6問)

貨幣需要の3動機と利子率の関係を、正誤の組み合わせで問う典型問題です。正解は(a誤・b誤・c正・d誤)。

  • a(誤):「利子率の上昇で取引動機の貨幣需要が増加」→ 取引動機は所得に依存し、利子率では動きません。
  • c(正):「利子率の上昇で資産選択(投機的)動機の貨幣需要が減少」→ 機会費用が上がるため正しい。
  • d(誤):「利子率の上昇で予備的動機の貨幣需要が増加」→ 逆。機会費用が上がるので減少します。

「取引・予備=所得依存/投機的=利子率依存(利子率↑で減)」の一点を体に叩き込めば即答できます。 → R06 第6問

⚠️ 混同注意:古典派の「貨幣数量説」とケインズの「流動性選好説」 - 古典派(貨幣数量説):貨幣は取引のために需要される(取引動機のみを想定)。 - ケインズ(流動性選好説):それに加えて投機的動機(資産としての貨幣需要)を導入した。 H23第4問・H26第10問では「投機的需要まで含めて考えるのはケインズ」という区別が問われています。

8-1-2 貨幣供給 ― お金はどう世の中に増えるのか

貨幣需要が「持ちたい量」なら、貨幣供給は「世の中に出回っている量」です。ここでは3つの言葉を区別します。

用語 別名 中身(ざっくり) 誰が動かすか
マネタリーベース ハイパワードマネー(H) 現金通貨 + 日銀当座預金 中央銀行が直接操作できる
マネーストック マネーサプライ 世の中に出回るお金の総量(M1・M3など) 銀行の貸出を通じて増える
貨幣乗数 信用乗数(m) ベース1に対しストックが何倍になるか 現金比率・準備率で決まる

3者は次の関係で結ばれています。この式が8-1後半のすべての土台です。

マネーストック = 貨幣乗数 × マネタリーベース
   (M)      =   (m)  ×    (H)
  • 中央銀行が直接いじれるのは、あくまでマネタリーベース(H)だけです。マネーストック(M) そのものを直接は操作できません。HをコントロールしてMを間接的に調整する――ここが要点です。

信用創造(銀行がお金を"増やす"仕組み)

銀行は、預かったお金の全額を金庫に眠らせておくわけではありません。一部(=準備)だけ残し、 残りを企業などに貸し出します。貸し出されたお金はまた別の銀行に預けられ、その一部がまた貸し出され…… と繰り返され、最初のお金の何倍もの預金が生まれます。これが信用創造です。

最初の預金 100 ┐(準備率10%と仮定)
   │準備10を残し 90を貸出
   ├→ 貸出90 が別銀行に預金 → 準備9を残し 81を貸出
   │      ├→ 貸出81 が…→ 72.9を貸出
   │      │      └→ …(以下くり返し)
   └─────────────────────────────
     合計すると、最初の100が 100÷0.1 = 1000 の預金を生む

貨幣乗数(信用乗数)の中身と、大きさを左右する2つの比率

貨幣乗数は、次の式で表されます(現金・預金比率を c、準備率を r とする)。

                c + 1
   貨幣乗数 m = ─────      (0 < r < 1 なので、分子1 > 分母r → 必ず1より大きい)
                c + r

覚えるべきは「乗数が大きくなる/小さくなる向き」です(過去問はほぼここだけ問います)。

変化 貨幣乗数への影響 直感的な理由
準備率 r が上昇 小さくなる 銀行が貸出に回せるお金が減り、信用創造が縮む
準備率 r が低下 大きくなる 貸出に回せるお金が増え、信用創造が広がる
現金・預金比率 c が上昇(現金で持つ傾向↑) 小さくなる 預金に回るお金が減り、信用創造の輪から漏れる
現金・預金比率 c が低下(預金で持つ傾向↑) 大きくなる 預金が増え、信用創造の輪が回りやすくなる

中央銀行の金融政策(マネタリーベースを動かす3つの手段)

手段 緩和(お金を増やす) 引き締め(お金を減らす)
公開市場操作 買いオペ:債券を買い、代金でHを供給 → H増 売りオペ:債券を売り、資金を吸収 → H減
預金準備率操作 準備率を引き下げ → 貨幣乗数↑ → M増 準備率を引き上げ → 貨幣乗数↓ → M減
公定歩合操作(基準割引率) 引き下げ(緩和方向) 引き上げ(引き締め方向)

💡 覚え方:「買いオペ=ふやす」 買いオペ=日銀が債券を買う=市中にお金を出す=マネタリーベース増加(緩和)。 売りオペはその逆で吸収(引き締め)。「買って増やす/売って減らす」とセットで覚えます。

📝 過去問はこう出る(R03 第7問/R01 第6問/R02 第10問)

貨幣乗数と貨幣供給は、ほぼ毎年この形で問われます。急所は3つです。

  • 因果の向き:×「マネーストックが増えるとマネタリーベースが乗数倍増える」→ 。 「マネタリーベースが増えると、マネーストックがその乗数倍増える」(R03第7問dが正、aが誤)。
  • 準備率↑ → 乗数↓(R03第7問b/R01第6問d/R02第10問)。
  • 現金・預金比率↑ → 乗数↓(R02第10問bが正)。「預金で持つ傾向が高まると乗数は大きくなる」 (=現金比率が下がる)ので、R03第7問cの「小さくなる」は誤り。向きの取り違えが最頻出の引っかけです。

R01第6問ではM1の定義も問われました。M1=現金通貨+預金通貨。準通貨やCD(譲渡性預金)まで含むのはM3です。 → R03 第7問R01 第6問R02 第10問H21 第6問H24 第8問

8-1-3 (発展)貨幣数量説・貨幣の中立性・シニョリッジ

古典派は貨幣数量説で物価と貨幣量の関係をとらえます。フィッシャーの交換方程式は次のとおり。

   M × V = P × Y
  (貨幣量)(流通速度)=(物価)(実質GDP)
  • 古典派では、流通速度 V は一定実質GDP(Y)は完全雇用水準で決まり貨幣量に左右されないと考えます。
  • すると P = MV/Y より、貨幣量 M が n 倍になれば、物価 P も n 倍になるだけ。
  • これを貨幣の中立性といいます。=名目貨幣供給の変化は、実質変数(実質GDP・雇用・実質利子率)には 影響せず、名目変数(物価)だけを比例的に動かす、という考え方(古典派の二分法)。

⚠️ 混同注意:「実質変数」は貨幣量では動かない 貨幣量 M が n 倍になっても、n 倍になるのは名目変数(物価 P、名目GDP)だけ。 実質GDP・雇用量・実質貨幣供給(M/P)・実質政府支出などの実質変数はどれも不変です(H21第7問)。 「実質GDPも n 倍」「実質貨幣供給も n 倍」といった選択肢は、この二分法を崩すバツ選択肢の定番です。

📝 過去問はこう出る(H21 第7問/H26 第10問/H25 第10問)

  • H21第7問:M が n 倍になったとき n 倍になるのは? → 正解は物価水準(オ)。実質変数はすべて不変。
  • H26第10問:古典派の考え方として正しいのは「貨幣供給を増やしても実質GDPは拡大しない(ウ)」。 実質GDPは労働市場の均衡(完全雇用)で決まるためです。なおk%ルール(マネタリスト=フリードマン)は 「マネーストックの増加率を一定の k%に保つ」ルールで、「物価上昇率を一定に収める」ルールではない点が引っかけ。
  • H25第10問(シニョリッジ):通貨発行益。政府・中央銀行が通貨を発行することで得る利益(実質貨幣鋳造収入)。

H21 第7問H26 第10問H25 第10問H23 第4問H19 第8問


8-2 IS曲線とLM曲線 ― 2本の曲線を描く ★最重要

いよいよ本章の主役です。縦軸に利子率(r)、横軸にGDP(国民所得 Y)をとった1枚の平面に、 財市場の均衡=IS曲線貨幣市場の均衡=LM曲線の2本を描きます。

8-2-1 IS曲線(財市場の均衡)は「右下がり」

IS曲線は、財市場(モノの市場)が均衡する(Y=C+I+G)ような、利子率とGDPの組み合わせを結んだ線です。 なぜ右下がりになるのか、順を追うとこうです。

  利子率 r が下がる
     ↓
  投資 I が増える(投資は利子率の減少関数:I=I0-ir)
     ↓
  総需要が増え、乗数効果で GDP(Y)が増える
     ↓
  「利子率↓ のとき GDP↑」→ だから IS 曲線は 右下がり
  利子率 r
   │\
   │ \ ← IS曲線(右下がり)
   │  \      利子率が下がると投資が増え、GDPが増える
   │   \
   └───────── GDP (Y)

IS曲線の「傾き」を決めるもの=投資の利子弾力性

投資の利子弾力性(=投資が利子率にどれだけ反応するか) IS曲線の傾き
大きい(利子率が下がると投資がぐっと増える) 緩やか(水平に近い)
小さい(利子率が下がっても投資はあまり増えない) (垂直に近い)
ゼロ(投資が利子率にまったく反応しない) 垂直
  • 限界消費性向も傾きに影響します。限界消費性向が大きいほど乗数が大きく → IS曲線は緩やかになります。

IS曲線の「シフト」を決めるもの=財市場の需要そのものの変化

変化 IS曲線の動き
政府支出 G の増加減税独立消費の増加 右方シフト(同じ利子率でもGDPが増える)
政府支出 G の減少増税独立消費の減少 左方シフト

8-2-2 LM曲線(貨幣市場の均衡)は「右上がり」

LM曲線は、貨幣市場(お金の市場)が均衡する(貨幣需要=貨幣供給)ような、利子率とGDPの組み合わせを 結んだ線です。なぜ右上がりになるのか。

  GDP(Y)が増える
     ↓
  取引動機の貨幣需要が増える(お金がもっと欲しくなる)
     ↓
  貨幣供給は一定なので、増えた需要を抑えるため利子率 r が上がる
     ↓
  「GDP↑ のとき 利子率↑」→ だから LM 曲線は 右上がり
  利子率 r
   │        / ← LM曲線(右上がり)
   │      /     GDPが増えると取引需要が増え、利子率が上がる
   │    /
   │  /
   └───────── GDP (Y)

LM曲線の「傾き」を決めるもの=貨幣需要の利子弾力性

貨幣需要の利子弾力性(=投機的需要が利子率にどれだけ反応するか) LM曲線の傾き
大きい(利子率が少し動くと貨幣需要が大きく調整される) 緩やか(水平に近い)
小さい (垂直に近い)
無限大(利子率が下限に張りつく) 水平流動性のわな(→8-3)
ゼロ 垂直 = 古典派のケース(→8-3)
  • 貨幣需要の所得感応度も傾きに影響します。所得感応度が大きいほど → LM曲線は急になります。

LM曲線の「シフト」を決めるもの=お金の量の変化

変化 LM曲線の動き
名目貨幣供給の増加(金融緩和・買いオペ) 右方(下方)シフト → 利子率が低下
名目貨幣供給の減少(金融引き締め) 左方(上方)シフト → 利子率が上昇
資産効果などで貨幣需要が増加 左方(上方)シフト

⚠️ シフトの向きは超頻出の引っかけ 「貨幣供給を増やす → LMは右(下)へ」「減らす → LMは左(上)へ」。 H24第9問イ・H19第5問aでは、この向きを逆にした選択肢が誤りとして問われています。 緩和=右下、引き締め=左上と、図の矢印ごと覚えてしまいましょう。

📝 過去問はこう出る(R05 第8問/H19 第5問/H24 第9問)

IS・LMの傾きシフトを横断的に問う定番問題です。整理の急所は「その要因はIS側かLM側か」の仕分け。

  • IS曲線の傾きを決めるのは→投資の利子感応度・限界消費性向(R05第8問設問1イ)。 「貨幣需要の利子感応度」はIS曲線とは無関係(=LM側の要因)というのが引っかけ。
  • LM曲線の傾きを決めるのは→貨幣需要の利子感応度・所得感応度(R05第8問設問2イ)。 「投資の利子感応度」はLM曲線とは無関係(=IS側の要因)。
  • シフト:政府支出増→IS右/独立消費減→IS左/名目貨幣供給増→LM右下(R05第8問)。
  • H19第5問の正解はdとe:「政府支出増→IS右シフト(d)」「投資の利子弾力性が小さい→IS急(e)」。

投資→IS、貨幣需要→LM」という担当分けだけで、この手の問題はほぼ解けます。 → R05 第8問H19 第5問H24 第9問H21 第8問


8-3 IS-LM均衡と政策の効果 ― 2本を重ねて読む

8-3-1 交点E=財市場と貨幣市場の「同時均衡」

IS曲線とLM曲線を1枚に重ねると、交点 E が1つできます。ここが均衡点で、 このときのGDP(Y)と利子率(r)で、財市場と貨幣市場が同時に釣り合っています

  利子率 r
   │\            /
   │ \IS       /LM
   │  \      /
  r*│…………\E/
   │       ×
   │      /  \
   │    /      \
   └────┼──────── GDP (Y)
        Y*
   交点E … 財市場(IS)と貨幣市場(LM)が同時に均衡

交点以外の「不均衡領域」

IS・LMの2本が平面を4つの領域に分けます。判定の原則は次のとおり(H29第9問・H23第7問で問われています)。

  • IS曲線より右側=生産物市場は超過供給IS曲線より左側超過需要
  • LM曲線より上側=貨幣市場は超過供給LM曲線より下側超過需要

⚠️ ワルラス法則との関係 貨幣市場が超過需要のとき、債券市場は超過供給の状態にあります(H23第4問エ)。 調整は「債券売却→債券価格下落→利子率上昇→貨幣の超過需要が解消」という形で進みます。 利子率と債券価格は逆に動く(利子率↑=債券価格↓)――この関係は流動性のわなの理解にも効きます。

8-3-2 財政政策 ― IS曲線を右へ/クラウディング・アウト ★最頻出

政府支出の増加(財政拡大)は、財市場の需要を増やすのでIS曲線を右方シフトさせます。 その結果どうなるかを、図で追いましょう。

  利子率 r                    /LM
   │\    \               /
  r1│……………\………E1/  ← ②利子率が r0→r1 に上昇
   │  \      \    /×          (貨幣市場を通じたブレーキ)
  r0│……E0……\…/  \
   │      \  /\A    \IS′(右シフト後)
   │       \/   \      \
   │   \IS(元)       \
   └──┼───┼──┼──────── GDP (Y)
      Y0  Y1  YA
   E0→A:政府支出による本来の需要拡大(利子率一定なら YA まで増えるはず)
   A→E1:利子率上昇で投資が締め出され、Y1 まで押し戻される = クラウディング・アウト
  • 政府支出を増やすと、まずIS曲線が右へ(E0→A)動き、GDPを押し上げようとします。
  • ところが、GDPが増えると取引需要が増えて利子率が上昇(r0→r1)します。
  • 利子率が上がると民間投資が減るので、その分だけGDPの増加が押し戻されます(A→E1)。
  • この「財政拡大で利子率が上がり、民間投資が締め出される」現象を クラウディング・アウト(押しのけ効果)といいます。この章で最も出る用語です。

💡 覚え方:クラウディング・アウト=「政府が民間を締め出す」 crowd out = 押しのける。政府が国債を出してお金を借りると利子率が上がり、 民間企業が「利子が高くて借りにくい」となって投資をあきらめる。政府支出が民間投資を"押しのける"イメージです。

📝 過去問はこう出る(H22 第6問/H26 第5問/R06 第11問)

  • H22第6問:財政乗数 ΔY/ΔG=1/(1-c+ik/h)。分母の ik/h が大きいほど乗数は小さく、 クラウディング・アウトが大きい。投資の利子感応度 i が大きいほど、貨幣需要の利子感応度 h が小さいほど、 締め出しは大きくなります。流動性のわな(h→∞)では ik/h→0 となり、財政乗数は 1/(1-c)(=最も効く)。
  • H26第5問:政府支出増でISが右シフトしたときの2つの図(通常のLM/水平のLM)を比較。 通常のLMでは利子率が上がりクラウディング・アウトが発生。水平のLM(流動性のわな)では 利子率が上がらず、クラウディング・アウトは発生しない(正解オ)。
  • R06第11問完全雇用(長期)では、政府支出増でISが右シフトしても物価上昇で実質貨幣供給が減り LMが左シフトし、長期的にGDPは完全雇用水準Y0に戻る。ただし利子率は上昇(設問1エ)。

H22 第6問H26 第5問R06 第11問H27 第6問H28 第11問R03 第6問

8-3-3 金融政策 ― LM曲線を右へ

貨幣供給の増加(金融緩和)LM曲線を右方(下方)シフトさせます。すると交点が右下に移り、 利子率が下がってGDPが増える――これが金融政策がGDPを刺激する経路です。

  金融緩和(貨幣供給↑)
     → LMが右(下)へシフト
     → 利子率 r が低下
     → 投資 I が増加
     → GDP(Y)が増加

ただしこの経路は「利子率が下がる」と「投資が利子率に反応する」の2つが成り立って初めて効きます。 どちらかが崩れると金融政策は効かなくなります(次の特殊ケース)。

8-3-4 2つの特殊ケース ― 流動性のわなと古典派

IS-LMの応用問題は、たいていこの2つの極端なケースのどちらかを問います。表で対比して覚えましょう。

流動性のわな(ケインズ的) 投資の利子弾力性ゼロ/古典派(垂直)
どんな状態か 利子率が下限に張りつき、貨幣需要の利子弾力性が無限大 投資が利子率に反応しない(弾力性ゼロ)=IS垂直/または貨幣需要の利子弾力性ゼロ=LM垂直
曲線の形 LM曲線が水平 IS曲線が垂直(投資無反応)/古典派ではLM垂直
金融政策 無効(利子率が下がらず投資も増えない) 投資無反応なら無効(利子率は下がるが投資が動かない)
財政政策 最も有効(利子率が上がらずクラウディング・アウトなし) IS垂直なら完全に有効(クラウディング・アウトなし)

流動性のわな(LM水平)

不況で利子率がこれ以上下がらない下限に達すると、人々は「債券を買っても値上がり益は望めない。 それなら現金で持とう」と考え、増えたお金をすべて現金で抱え込みます(貨幣需要の利子弾力性=無限大)。

  • 金融政策は無効:いくら貨幣を供給しても、それが現金で抱え込まれて利子率が下がらず、投資が増えません。
  • 財政政策は最も有効:LMが水平なので政府支出を増やしても利子率が上がらず、 クラウディング・アウトが発生しない。GDPは乗数効果分まるごと増えます。

📝 過去問はこう出る(H23 第7問/H20 第6問)

  • H23第7問(流動性のわな):正解はbとd(エ)。 「政府支出を増やしてもクラウディング・アウトは発生しない(b・正)」「GDPは貨幣市場から独立で、 生産物市場から決まる(d・正)」。一方、流動性のわなで貨幣需要の利子弾力性は"無限大"であって"ゼロ"ではない (cは弾力性ゼロと書いて誤り)。「貨幣供給を増やすと利子率は低下する(a)」も、下限に張りついているので誤り。
  • H20第6問(投資の利子弾力性ゼロ=IS垂直):正解。IS垂直では、政府支出増でISが右シフトし 利子率は上がるが、投資が利子率に反応しないためクラウディング・アウトは発生せず、財政政策は完全に有効。 逆に金融政策は無効(利子率は下がっても投資が動かない)。R02第6問も同じ「IS垂直」のケースです。

H23 第7問H20 第6問R02 第6問H29 第9問R07 第10問H25 第6問H30 第9問R02 第2問

⚠️ 混同注意:「弾力性ゼロ」と「弾力性無限大」で曲線の向きが逆 - 貨幣需要の利子弾力性=無限大LM水平(流動性のわな) - 貨幣需要の利子弾力性=ゼロLM垂直(古典派) - 投資の利子弾力性=ゼロIS垂直 - 投資の利子弾力性=無限大IS水平 「ゼロ=反応しない=その軸に沿った動きがない=その線に対して垂直」と結びつけると混同しません。


この章のまとめ(試験直前チェック)

  • ☐ 貨幣需要の3動機:取引・予備的=所得依存投機的(資産選択)=利子率依存(利子率↑で減)
  • ☐ 貨幣を持つコスト=機会費用(あきらめた利子)。利子率↑で機会費用↑→貨幣需要↓
  • マネーストック = 貨幣乗数 × マネタリーベース。中銀が直接操作できるのはマネタリーベースだけ
  • 信用創造で銀行がお金を増やす。準備率↑・現金/預金比率↑ → 貨幣乗数は小さくなる
  • 買いオペ=お金を増やす(緩和)/売りオペ=減らす(引き締め)
  • M1=現金通貨+預金通貨(準通貨・CDまで含むのはM3)
  • 貨幣の中立性:貨幣量が n 倍→物価だけ n 倍、実質変数(実質GDP・雇用・M/P)は不変
  • IS曲線=右下がり(財市場)。傾きは投資の利子弾力性・限界消費性向で決まる
  • LM曲線=右上がり(貨幣市場)。傾きは貨幣需要の利子弾力性・所得感応度で決まる
  • 政府支出増→IS右シフト貨幣供給増→LM右(下)シフト(向きの逆に注意)
  • クラウディング・アウト=財政拡大で利子率上昇→民間投資が締め出される
  • 流動性のわな(LM水平・利子弾力性∞):金融政策は無効/財政政策は最も有効(クラウディング・アウトなし)
  • 投資の利子弾力性ゼロ(IS垂直):財政政策は完全に有効/金融政策は無効
  • ☐ 「ゼロ=その線に垂直、無限大=その線に水平」で曲線の向きを覚える

この章に対応する主な過去問

年度・問 論点 リンク
R06 第6問 貨幣需要の3動機(取引・予備・投機) 問題
R03 第7問 貨幣乗数(因果の向き・準備率・現金比率) 問題
R01 第6問 マネタリーベース・マネーストック(M1定義) 問題
R02 第10問 貨幣供給・貨幣乗数・買いオペ/売りオペ 問題
H21 第7問 貨幣の中立性・貨幣数量説(実質は不変) 問題
H26 第10問 古典派の貨幣と金融政策(k%ルール) 問題
R05 第8問 IS・LMの傾きとシフト(要因の仕分け) 問題
H19 第5問 IS曲線とLM曲線(傾き・シフト) 問題
H22 第6問 財政・金融政策の乗数とクラウディング・アウト 問題
H26 第5問 政府支出増の効果(通常LM/流動性のわな) 問題
H23 第7問 流動性のわな(金融無効・財政最有効) 問題
H20 第6問 投資の利子弾力性ゼロ(IS垂直) 問題
R06 第11問 IS-LM(完全雇用・長期の政策効果) 問題
H29 第9問 IS-LMの不均衡領域・公債の資産効果 問題

次章予告 ▶ 第9章「総需要・総供給分析(AD-AS)と物価」 本章のIS-LM分析は「物価は一定」という前提でした。次章では物価の変動を取り込み、 IS-LMから総需要曲線(AD)を導き、総供給曲線(AS)と組み合わせて、 景気と物価が同時にどう決まるか(インフレ・デフレ)を分析します。本章の理解がそのまま土台になります。