第7章 財市場と乗数理論

この章のねらい ここからマクロ経済学の本丸に入ります。第7章のテーマは「国全体の生産(GDP)は、どうやって決まるのか」です。 ケインズは、その答えを「需要(買いたい額)が全体の生産量を決める」という考え方(=有効需要の原理)で説明しました。 この考え方を1枚のグラフにしたのが、経済学でいちばん有名な図のひとつ 45度線図です。 さらに、政府支出や減税といった政策が「何倍にもなって」GDPを動かす 乗数効果、家計が消費を決めるしくみ(消費理論)、 企業が設備投資を決めるしくみ(投資理論)まで、財市場(モノやサービスの市場)まわりを一気に押さえます。

過去問での出方:この章は経済学・経済政策の中でも 最頻出の分野です。毎年、第4問〜第7問あたりで ①45度線図の読み取り(デフレ・ギャップ、乗数)、②乗数の計算、③消費理論の各仮説、④投資理論のどれかが必ず顔を出します。 計算パターンと用語の定義がはっきりしているので、得点源にしやすい分野です。ここを固めれば合格がぐっと近づきます。


7-0 この章の地図

この章は「需要がGDPを決める(45度線)」→「政策は何倍にもなって効く(乗数)」→ 「家計はどう消費を決めるか(消費理論)」→「企業はどう投資を決めるか+景気の過不足(投資理論・ギャップ)」 という順に進みます。すべての土台は、いちばん最初の「有効需要の原理」です。

7-1 有効需要の原理と45度線分析   … 需要がGDPを決める(均衡GDPの決定)★土台
   │
7-2 消費関数と乗数効果          … 政策は何倍にもなって効く(乗数の計算)★最頻出
   │
7-3 消費理論                   … 家計はどう消費を決めるか(4つの仮説)
   │
7-4 投資理論とインフレ/デフレギャップ … 企業の投資決定+景気の過不足

💡 用語の下ごしらえ - GDP(国内総生産):国全体で1年間に新しく生み出されたモノ・サービスの合計。ここでは「所得 Y」とほぼ同じ意味で使います。 - 有効需要:単なる「欲しい」ではなく、お金の裏づけがある需要(実際に支払える需要)のこと。 - 限界〇〇:「もう1単位増えたときの変化」。例)限界消費性向=所得が1万円増えたとき、消費が何円増えるか。


7-1 有効需要の原理と45度線分析(均衡GDPの決定)

有効需要の原理 ― 「需要が生産量を決める」

私たちはつい「たくさん作れる国=豊かな国」と考えがちです。ところがケインズは、不況の観察から逆のことを言いました。

有効需要の原理:一国のGDP(生産量)の大きさは、総需要(みんながどれだけ買うか)の大きさによって決まる。

作る能力(供給力)がいくらあっても、買い手(需要)がいなければ生産は止まり、失業が生まれます。 だから「需要をどう作り出すか」が政策の中心テーマになる――これがマクロ経済政策の出発点です。

総需要(AD)は何の足し算か

家計・企業・政府からなる経済(閉鎖経済)では、総需要 AD は次の3つの足し算です。

総需要 AD = C(消費)+ I(投資)+ G(政府支出)
                │          │         │
             家計が買う   企業が買う  政府が買う
  • C(消費):家計がモノ・サービスを買う支出
  • I(投資):企業が工場・機械などを買う支出
  • G(政府支出):政府が公共事業などで支出する額

これに輸出−輸入(純輸出)を足せば開放経済(貿易ありの国)になりますが、まずは閉鎖経済で考えます。

45度線図 ― 均衡GDPが決まる場所

総供給 AS は「作った分だけ所得になる」ので AS = Y(GDPそのもの)です。 これを縦軸に総需要・総供給、横軸にGDP(Y)をとって描くと、AS=Y は原点を通る45度線になります。 一方、総需要 AD は「基礎消費などの下駄(切片)+所得が増えると増える分(傾き)」なので、切片を持つ右上がりの直線です。

 総需要
 総供給 ↑
        │              45度線(AS=Y)/
        │                          /
        │                        /・E(均衡点:AD=AS)
        │                      /  ┌ここでGDPが決まる
        │                    / ・/ AD=C+I+G(右上がり)
        │                  /  /
        │                / ・/
        │              /  /
        │            / ・/
        │          /  /
        │        / ・/
        │      /  /← ADの切片(基礎消費など。傾きは限界消費性向c)
        │    /  /
        │  / /
        └──────────────────────────→ GDP(Y)
                        ↑
                     均衡GDP(Y*)
  • 均衡GDPは、45度線(AS=Y)と総需要線(AD)が交わる点Eで決まります。
  • ここが「総需要=総供給」、つまり 作った分がちょうど売れる状態です。
  • ADが上へシフト(例:投資や政府支出が増える)すれば、交点Eは右へ動き、均衡GDPは増加します。

⚠️ つまずきポイント:45度線は「AS=Y」だけ 45度線そのものは「作った額=所得」を表すただの基準線です。傾き(限界消費性向)や政策の効果を担うのは総需要線ADのほうです。 「限界消費性向は45度線の傾き(=1)」と勘違いしないように。限界消費性向はAD線の傾きです。

📝 過去問はこう出る(R07 第7問/設問1) 45度線図の各点を読み取らせる問題。ポイントは、 完全雇用GDP水準における総供給は45度線上の高さで読み、デフレ・ギャップは「45度線の高さ − 総需要ADの高さ」(=完全雇用に必要な需要の不足分)で読む、という点。 「限界消費性向=総需要線ADの傾き」であって、無関係な線分の比ではない――ここも正誤判定の急所でした。 → R07 第7問R05 第7問H30 第7問


7-2 消費関数と乗数効果

ケインズ型消費関数(絶対所得仮説)

45度線図の総需要線ADの正体を決めているのが、消費関数です。ケインズは消費を次のように表しました。

C = C₀ + c(Y − T) C:消費 C₀:基礎消費(独立消費) c:限界消費性向 Y:所得 T:租税 (Y−T=可処分所得)

  • 基礎消費 C₀:所得がゼロでも生きるために必要な最低限の消費(グラフの縦軸切片)。
  • 限界消費性向 c:可処分所得が1増えたとき、消費が c だけ増える割合(グラフの傾き)。0<c<1
  • 残りの 1−c は貯蓄に回ります。これを 限界貯蓄性向といいます(限界消費性向+限界貯蓄性向=1)。
 消費C ↑
       │                          / C=C₀+cY(傾き=c)
       │                       /
       │                    /← 傾きが限界消費性向 c
       │                 /
       │              /
       │           /
    C₀ ├───────/  ← 縦軸切片=基礎消費C₀(正の値)
       │     /
       │   /
       │ /
       └──────────────────────→ 所得Y

⚠️ 混同注意:限界消費性向と平均消費性向は別物 - 限界消費性向(c)=消費関数の傾き(もう1単位増やしたときの割合)。一定。 - 平均消費性向(APC=C/Y)原点と消費関数上の点を結んだ直線の傾き。所得が増えると下がっていきます。 ケインズ型消費関数(切片C₀が正)では、この2つは一致しません。傾き=限界、原点からの比=平均と紐づけて覚えましょう。

📝 過去問はこう出る(R06 第5問) 45度線図上の消費関数 C=C₀+cY について、切片(基礎消費)は正、傾き(限界消費性向)は0<c<1で一定、 原点と関数上の点を結ぶ直線の傾き=平均消費性向、という3点の正誤を問う問題。傾き=限界/原点比=平均の区別がそのまま問われました。 → R06 第5問H24 第5問

均衡GDPの計算 ― 代入して解くだけ

均衡条件 Y = C + I + G に消費関数を代入すれば、均衡GDPが求まります。手順は毎回同じです。

例(H22 第5問):C=60+0.6(Y−50)、I=120、G=50、T=50

Y = 60 + 0.6(Y − 50) + 120 + 50
Y = 60 + 0.6Y − 30 + 120 + 50
Y − 0.6Y = 200
0.4Y = 200
   Y = 500  … 均衡GDPは500兆円

このとき消費 C=60+0.6(500−50)=330兆円、貯蓄 S=Y−T−C=500−50−330=120兆円 と芋づる式に出せます。

📝 過去問はこう出る(H22 第5問) 均衡GDPを計算させ、さらに消費・貯蓄・乗数までまとめて問う総合問題。貯蓄は S=Y−T−C で求める点に注意 (「貯蓄170兆円」という引っかけは、正しくは120兆円)。均衡予算乗数(後述)の理解もあわせて問われました。 → H22 第5問R02 第4問

乗数効果 ― 政策が「何倍にもなって」効く

政府支出を1兆円増やすと、GDPは1兆円だけ増える……のではありません。 その1兆円が誰かの所得になり、その人が c 倍を消費し、それがまた次の人の所得になり……と波及していきます。 この連鎖の合計が、はじめの支出の何倍にもなる――これが 乗数効果です。

政府支出+1  →  受け取った人がc消費  →  次の人がc²消費  →  c³ …
  1     +      c        +       c²      +    c³ … = 1/(1−c)
(初項1・公比cの無限等比級数の和 = 1/(1−c))

主要な乗数を表にまとめます(閉鎖経済・比例税なしの基本形)。分母はどれも (1−c) です。

乗数の種類 公式 ひとことで
投資乗数 1/(1−c) 投資を1増やすと GDPは 1/(1−c) 倍増える
政府支出乗数 1/(1−c) 政府支出を1増やすと GDPは 1/(1−c) 倍増える
租税乗数 −c/(1−c) 増税で GDPは c/(1−c) 倍減る(減税なら同じだけ増える/符号はマイナス)
均衡予算乗数 1 政府支出と増税を同額行うと GDPはその額と同じだけ増える

ポイント整理

  • 政府支出乗数 > 租税乗数の絶対値:同じ1兆円でも、政府支出(丸ごと需要になる)のほうが減税(一部は貯蓄に回る)より効きます。
  • 限界消費性向 c が大きいほど、乗数は大きい:分母 (1−c) が小さくなるからです。逆に貯蓄意欲が高まる(cが下がる)と乗数は小さくなる
  • 均衡予算乗数=1:政府支出と増税を同額行うと、増税のマイナス効果と政府支出のプラス効果が差し引かれ、ちょうど 1倍だけ残ります。

計算例(R04 第5問):c=0.8 のとき政府支出乗数=1/(1−0.8)=1/0.2=5。 貯蓄意欲が高まり c=0.75 になると=1/(1−0.75)=1/0.25=4。cの低下で乗数は5→4へ低下します。

📝 過去問はこう出る(R04 第5問/R04 第5問) 「貯蓄意欲が高まる=限界消費性向cが下がる」→ 政府支出乗数 1/(1−c) は 5から4へ低下する、という定番問題。 「乗数は変化しない」という選択肢が引っかけです。乗数の分母は必ず (1−c) と覚えておけば即答できます。 → R04 第5問R06 第7問R07 第7問(設問2)

💡 覚え方(乗数の大きさを変えるもの) 乗数の大きさ(効果の強さ)を左右するのは 限界消費性向 c だけです。 基礎消費・投資額・政府支出額そのものを増やしても、乗数の"値"は変わりません(それらは需要の水準を動かすだけ)。 R06 第7問はまさにこの区別を問い、「限界消費性向の上昇」だけが減税乗数を大きくする、が正解でした。

💡 開放経済・比例税では乗数は小さくなる 現実には所得が増えると輸入(海外へ漏れる)や税(政府へ漏れる)も増えます。この「漏れ」の分だけ波及が弱まり、 開放経済や比例税を入れると乗数は小さくなります(分母に輸入性向や税率が加わる)。R01 第5問・H23 第6問が開放経済型です。 → R01 第5問H23 第6問


7-3 消費理論 ― 家計はどう消費を決めるか

7-2のケインズ型消費関数は「今期の消費は今期の可処分所得で決まる」という考え方でした。 これを 絶対所得仮説といいます。しかし現実の家計は、もっと長い目で消費を決めているのでは?―― そこから生まれた対抗仮説を含め、4つの消費仮説を押さえます。ここは用語の取り違えがそのまま正誤問題になります。

4つの消費仮説(比較表)

仮説 提唱者 消費は何で決まると考えるか ひとことで
絶対所得仮説(ケインズ型) ケインズ 今期の(絶対的な)可処分所得 今の所得が増えれば消費も増える
ライフサイクル仮説 モディリアーニ 生涯所得(若・壮・老年を通じた一生の所得) 一生で平らに使う。若年は借金、壮年で貯蓄、老年で取り崩し
恒常所得仮説 フリードマン 恒常所得(長期的・平均的に見込める所得) 一時的な所得(変動所得)では消費は増えない
相対所得仮説 デューゼンベリー 過去の所得・他人の消費との比較 生活水準は下げにくい(ラチェット効果)

ライフサイクル仮説・恒常所得仮説 ― 「長い目」で消費を決める

  • ライフサイクル仮説(モディリアーニ):人は一生を通じた所得(生涯所得)を見越して、毎年の消費をなるべく平らにします。 だから定期昇給のように生涯所得を押し上げる所得増は消費を増やす一方、老後にそなえて壮年期に貯蓄します。
  • 恒常所得仮説(フリードマン):所得を「恒常所得(続くと見込める所得)」と「変動所得(一時的・偶発的な所得)」に分け、 消費は恒常所得だけで決まると考えます。したがって――

  • 定期給与のベースアップ=恒常所得の増加 → 消費は増える

  • 一時金・ボーナス的な臨時収入・1回限りの減税=変動所得 → 消費はほとんど増えない

📝 過去問はこう出る(H26 第6問/R01 第4問) 恒常所得仮説の典型問題。正解の考え方は「定期給与のベースアップ(恒常所得の増加)は消費を増やすが、一時金(変動所得)は消費を増やさない」。 「一時金で消費が増える」「ベースアップでは消費が変わらない」はすべて恒常所得仮説のでバツ。 → H26 第6問R01 第4問

📝 過去問はこう出る(R03 第4問) コロナ禍の「一時金給付」の効果を各仮説で論じさせた応用問題。ここでは仮説の取り違えが引っかけでした。 「今期の消費は今期の所得で決まる」のは恒常所得仮説ではなく絶対所得仮説(ケインズ型)、 「生涯所得が生涯消費を決める」のは絶対所得仮説ではなくライフサイクル/恒常所得仮説――と、名前と中身が入れ替えてあります。 正解は「低所得者ほど限界消費性向が高いなら給付を低所得層に絞るほうが効果的」「所得弾力性が高い財ほど給付による消費増が大きい」の組み合わせ。 → R03 第4問

相対所得仮説 ― ラチェット効果とデモンストレーション効果

相対所得仮説(デューゼンベリー)は、消費が「過去の自分」や「まわりの他人」との比較で決まると考えます。

  • ラチェット効果(歯止め効果):いちど上げた生活水準は下げにくいので、所得が落ち込んでも消費はすぐには減らない時間的な比較)。 「ラチェット(ラッチ)」は逆回転を止める歯止めのこと。所得が下がっても消費が下がりにくい様子を表します。
  • デモンストレーション効果他人(周囲)の消費につられて自分の消費が引き上げられる(空間的な比較)。

⚠️ 混同注意:似た名前の"効果"を取り違えない - ラチェット効果=過去の生活水準に引きずられ消費が下がりにくい(相対所得仮説・時間的比較) - デモンストレーション効果=他人の消費に影響される(相対所得仮説・空間的比較) - ヴェブレン効果=高価なほど需要が増える「見せびらかし消費」(→ 第2章・需要理論。相対所得仮説とは別物) - スルツキー分解=価格変化を代替効果と所得効果に分ける手法(→ 消費者理論。消費仮説とは無関係)

📝 過去問はこう出る(H21 第9問) 空欄補充で「恒常所得仮説では〔一時的な所得=1回限りの減税〕は消費に影響しない」「消費習慣仮説の歯止め現象=〔ラチェット〕効果」を選ばせる問題。 ダミー選択肢のスルツキー・デモンストレーション・ヴェブレンを正しく切り分けられるかが勝負でした。 → H21 第9問H27 第4問(ライフサイクル)H23 第3問


7-4 投資理論とインフレ・デフレギャップ

投資理論① ケインズの投資の限界効率

企業は「投資して得か・損か」をどう判断するのでしょう。ケインズは 投資の限界効率という考え方を示しました。

  • 投資の限界効率:その投資が生み出す将来収益を、ちょうど現在価値に等しくする内部収益率(≒予想される利回り)。
  • 企業は、この 投資の限界効率 > 利子率 のとき投資を実行します(利子率は資金を借りるコスト=ハードル)。
 利回り・利子率 ↑
              │
              │\ 投資の限界効率表(右下がり)
              │  \        投資が増えるほど有利な案件は減り、限界効率は下がる
   利子率 r ──┼───\────────
              │      \←ここまで投資する(限界効率=利子率)
              │        \
              └──────────────→ 投資額 I
                        ↑
              利子率が下がると投資は増える(右へ)
  • 利子率が下がると投資は増える(投資はハードルが下がるため)。→ 投資は利子率の減少関数

⚠️ 頻出の引っかけ(H22 第4問 aの誤り) 「投資の限界効率が利子率を下回るほど投資が有利」はでバツ。正しくは「限界効率が利子率を上回るほど有利」。 新古典派で言えば「資本のレンタル料(資本コスト)が資本の限界生産物価値を下回るときに投資が増える」。ここも不等号の向きが急所です。

投資理論② 加速度原理

加速度原理は、投資を「産出量(GDP)の変化」で説明します。

投資 I = v × ΔY(v:加速度係数、ΔY:産出量の増加分)

  • ポイントは、投資は産出量そのもの(Yの水準)ではなく、産出量の「増え方(変化分ΔY)」に比例する、という点です。
  • だから――
  • 産出の増加が前より大きくなる(ΔYが拡大)→ 投資は増えていく
  • 産出の増加が前と同じペース(ΔY一定)→ 投資は一定(増えも減りもしない)
  • 産出の増加が前より小さくなっても、ΔYが正である限り投資は正(ゼロにはならない)

📝 過去問はこう出る(R07 第8問/H28 第9問) 加速度原理の理解を問う問題。急所は「投資は産出の"変化"に比例する」こと。 「産出の増加ペースが鈍っても、増加が続く(ΔY>0)限り投資はゼロにならない」という判断が正誤の分かれ目でした。 → R07 第8問H28 第9問H26 第7問

投資理論③ トービンのq

トービンのqは、株式市場の評価を使って投資を判断する考え方です。

q = 企業価値(株価総額+負債総額)/ 資本の再取得費用

  • q > 1(市場評価 > 作り直すコスト)→ 投資すれば企業価値が増えるので 設備投資を実行
  • q < 1 → 投資しても価値が増えないので 投資を控える

⚠️ 3つの投資理論の見分け方(覚え方) - 限界効率=将来収益の利回りで判断(利子率と比べる/ケインズ) - 加速度原理=産出の変化ΔYで判断(伸びれば投資も伸びる) - トービンのq株式市場の評価で判断(qが1を超えれば投資) 「何を基準に投資を決めるか」で3つを区別すれば取り違えません。H22 第4問はこの3つ+新古典派を並べた総合問題でした。 → H22 第4問

インフレ・ギャップとデフレ・ギャップ

最後に、45度線図(7-1)に戻って「景気の過不足」を測ります。基準になるのは、完全雇用GDP(Y_F) =働きたい人が全員働いている(=資源をフル活用した)ときの理想のGDPです。現実の総需要が、この Y_F を実現するのに 足りないのか多すぎるのかを、45度線図の縦方向の差で読みます。

 総需要・
 総供給 ↑                       45度線(AS=Y)/
        │                                    /
        │                              B・┐ /
        │                                 │/  ← デフレ・ギャップ
        │                              ・─┘=BC(需要の不足分)
        │                              C・  /  AD(総需要)
        │                              /
        │                            /
        │                          /
        └────────────────┼──────→ GDP(Y)
                                 Y_F(完全雇用GDP)
ギャップ どんな状態か 45度線図での測り方 主な対策
デフレ・ギャップ 完全雇用GDPを実現するには総需要が不足(不況・失業) 完全雇用GDP水準で「45度線の高さ − AD線の高さ(BC)」=需要の不足分 需要を増やす(財政拡大・金融緩和)
インフレ・ギャップ 完全雇用GDPを超える総需要が超過(過熱・物価上昇圧力) 完全雇用GDP水準で「AD線の高さ − 45度線の高さ」=需要の超過分 需要を抑える(財政引き締め・金融引き締め)
  • デフレ・ギャップ=需要が"足りない"インフレ・ギャップ=需要が"多すぎる"。ギャップはGDPそのものの差ではなく、需要(AD)の縦方向の過不足で測ります。
  • デフレ・ギャップがあると、企業は売れ残りを避けて生産を減らし、失業が発生します。

📝 過去問はこう出る(R02 第5問/R04 第6問/H25 第3問) デフレ・ギャップを45度線図の線分で読ませる問題。正解は「完全雇用GDP水準における45度線上の点と総需要線上の点の縦の差(BC)」。 均衡点から水平に引いた線分(AE など)や、余分を含む線分(BE)を選ばせるのが引っかけです。"完全雇用GDPの真上で、縦に測る"が鉄則。 → R02 第5問R04 第6問H25 第3問


この章のまとめ(試験直前チェック)

  • 有効需要の原理=GDPは総需要(C+I+G)の大きさで決まる(ケインズ)
  • ☐ 45度線図:均衡GDPは45度線(AS=Y)とAD線の交点で決まる。ADが上へシフト→均衡GDPは増加
  • 限界消費性向 c=消費関数の傾き(0<c<1)/限界貯蓄性向=1−c/c+(1−c)=1
  • 限界消費性向(傾き)と平均消費性向 C/Y(原点からの比)は別物(ケインズ型では不一致)
  • ☐ 均衡GDPは Y=C+I+G に代入して解く。貯蓄は S=Y−T−C
  • ☐ 乗数(分母はどれも 1−c):投資乗数・政府支出乗数=1/(1−c)租税乗数=−c/(1−c)均衡予算乗数=1
  • cが大きいほど乗数は大きい貯蓄意欲↑(c↓)で乗数は小さくなる/開放経済・比例税でも乗数は小さくなる
  • ☐ 乗数の"値"を変えるのは 限界消費性向 c だけ(基礎消費・投資額・政府支出額そのものは無関係)
  • ☐ 消費仮説:絶対所得(今期の所得・ケインズ)/ライフサイクル(生涯所得・モディリアーニ)/恒常所得(恒常所得・フリードマン)/相対所得(過去・他人との比較・デューゼンベリー)
  • 恒常所得仮説:ベースアップ(恒常所得)→消費増、一時金・1回限りの減税(変動所得)→消費ほぼ増えず
  • ラチェット効果(過去の生活水準・下げにくい)/デモンストレーション効果(他人の消費)/ヴェブレン・スルツキーとの取り違え注意
  • ☐ 投資理論:限界効率>利子率で投資加速度原理は産出の変化ΔYに比例トービンのq>1で投資
  • ☐ 投資は利子率の減少関数(利子率↓→投資↑)
  • デフレ・ギャップ=需要不足(完全雇用GDPの真上で45度線−ADの縦差)/インフレ・ギャップ=需要超過

この章に対応する主な過去問

年度・問 論点 リンク
R07 第7問 45度線分析・デフレギャップ・租税乗数 問題
R05 第7問 45度線図と均衡GDP 問題
H30 第7問 45度線分析 問題
H22 第5問 均衡GDPと乗数(消費・貯蓄・均衡予算乗数) 問題
R02 第4問 ケインズ型消費関数と均衡GDP 問題
R04 第5問 政府支出乗数の変化(貯蓄意欲の高まり) 問題
R06 第7問 減税の乗数効果を大きくするもの 問題
R06 第5問 ケインズ型消費関数(限界・平均消費性向) 問題
R01 第5問 開放経済の45度線図(均衡国民所得) 問題
H23 第6問 開放経済モデルの均衡GDP(乗数) 問題
H26 第6問 恒常所得仮説 問題
R01 第4問 消費の決定(各消費仮説) 問題
R03 第4問 一時金給付の経済効果(恒常所得仮説) 問題
H21 第9問 消費関数の諸仮説(恒常所得・ラチェット) 問題
H27 第4問 ライフサイクルモデル 問題
H22 第4問 投資理論(限界効率・加速度原理・q) 問題
R07 第8問 加速度原理(投資理論) 問題
H28 第9問 加速度原理(投資理論) 問題
R02 第5問 デフレ・ギャップ(45度線図) 問題
R04 第6問 45度線図とデフレギャップ 問題
H25 第3問 総需要と完全雇用GDP(デフレギャップ) 問題

次章予告 ▶ 第8章「貨幣市場とIS-LM分析」 本章では「財市場(モノの市場)」だけを見ましたが、実際の経済はお金(貨幣)の市場とも連動しています。 次章では貨幣市場(利子率がどう決まるか)を学び、財市場(IS曲線)と貨幣市場(LM曲線)を1枚の図に重ねる IS-LM分析で、財政政策・金融政策の効果を総合的に読み解きます。本章の乗数・投資(利子率の減少関数)が、そのまま土台になります。