第9章 財政政策と金融政策

この章のねらい 第8章までで学んだ IS-LM分析(財市場のIS曲線と貨幣市場のLM曲線)を"道具"として使い、 政府や中央銀行が景気を動かそうとするとき、GDPと利子率がどう動くかを読み解きます。 テーマは大きく2つ。財政政策(政府支出・減税でISを動かす)と、金融政策(貨幣供給でLMを動かす)です。 さらに、政策が「効く/効かない」を分ける条件——クラウディングアウト流動性のわな古典派とケインズ派の対立——を押さえます。

過去問での出方:この章は経済学・経済政策のマクロ分野で最頻出です。 ほぼ毎年、IS-LMのシフト問題(H27第6問・H28第11問)、クラウディングアウト(H25第7問)、 金融政策の手段や日銀の制度(H19第8問・H23第5問)、自動安定化装置(R06第8問)、 古典派vsケインズ派(H26第10問・R04第7問・R03第8問)のいずれかが出ます。 グラフの動く向きさえ体に入れれば、安定した得点源になります。


9-0 この章の地図

この章は、「財政政策(ISを動かす)」→「金融政策(LMを動かす)」→「効くか効かないかの条件」の 順に進みます。すべての土台はIS-LM図です。まずは全体像をつかみましょう。

             ┌──────────────────────────────┐
             │   IS-LM分析(第8章の復習)       │
             │  IS曲線:財市場の均衡(右下がり)  │
             │  LM曲線:貨幣市場の均衡(右上がり)│
             └──────────────┬───────────────┘
                            │ これを"道具"に使う
        ┌───────────────────┼───────────────────┐
        ▼                                        ▼
  9-1 財政政策                              9-2 金融政策
  政府支出↑・減税 → IS右シフト               貨幣供給↑ → LM右(下)シフト
   → GDP↑・利子率↑                           → 利子率↓・GDP↑
   ⚠クラウディングアウト                     手段:公開市場操作・準備率・公定歩合
        └───────────────────┬───────────────────┘
                            ▼
             9-3 政策の有効性・自動安定化装置
             ・ビルトイン・スタビライザー(自動で効く)
             ・古典派 vs ケインズ派(そもそも効くのか論争)
             ・流動性のわな(金融政策が効かない特殊状態)

9-1 財政政策の効果 ― ISを右に動かす

財政政策とは

財政政策とは、政府が 政府支出(G)税金(T) を増やしたり減らしたりして、 景気を調整しようとする政策です。

  • 拡張的財政政策(景気を温める):政府支出の拡大(公共事業など)/減税
  • 緊縮的財政政策(景気を冷ます):政府支出の縮小/増税

IS-LM図で見る:拡張的財政政策は「ISを右へ」

政府支出を増やす(またはⅠSを右に動かす消費・投資が増える)と、IS曲線が右にシフトします。 下の図で、IS→IS′へ動いた結果、均衡点がE0からE2へ移り、GDPはY0→Y1に増え、利子率もr0→r1に上がります

利子率 r
 │                              LM(右上がり)
 │                             /
r1│ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ E2 ●     /
 │              /  /│    /
 │            /  /  │  /
r0│ ‥‥‥ E0 ●     │/
 │        /│      /│
 │      /  │    /  │      IS′(右シフト後)
 │    /    │  /    │    /
 │  /  IS  │/      │  /
 └──────────┼────────┼──────────→ GDP(Y)
             Y0       Y1

なぜ利子率が上がるのか——ここが理解のヤマ場です。 政府支出でGDPが増えると、取引に使うお金(=貨幣の取引需要)が増えます。 お金の需要が増えれば、お金の"値段"である利子率が上がる、というわけです。

📝 過去問はこう出る(H28 第11問・設問2) 「IS曲線をIS→IS′へ右シフトさせる要因」を選ぶ問題。 正解は「外国人観光客の増加による消費の増加」。消費が増えれば総需要が増え、ISは右へ動きます。 一方、「歳出削減による財政健全化」「貯蓄の増加(=消費減)」はISをへ、 「量的緩和によるマネタリーベースの増加」はISではなくLMを動かす要因。混ぜて出してくるので注意。 なお設問1では、限界消費性向が大きいほど乗数が大きく、IS曲線はより緩やか(横に寝た形)になることも問われました。 → H28 第11問

つまずきポイント:クラウディングアウト(押し出し効果)

拡張的財政政策には、効果を弱める副作用があります。それが クラウディングアウト(crowding out) です。

流れはこうです。

政府支出↑
  ↓
GDP↑(乗数効果でいったん所得が増える)
  ↓
貨幣の取引需要↑(取引に使うお金が増える)
  ↓
利子率↑(お金の値段が上がる)
  ↓
民間投資↓(利子率が高いと企業は借金して投資しにくい)
  ↓
GDPの増加が一部打ち消される(=押し出された)

つまり、政府が使ったお金が、民間の投資を"押しのけて"しまう現象です。 このため、財政政策でGDPが増える幅は、利子率が上がらないと仮定した場合よりも小さくなります

📝 過去問はこう出る(H27 第6問) 政府支出拡大でISが右シフトした図の説明を問う問題。正解の組み合わせ(ア=aとc)のポイントは2つ。 - a(○):利子率上昇で投資が減る(クラウディングアウト)ため、GDPはY1にとどまる。 - c(○):利子率上昇(r0→r1)は、政府支出拡大による貨幣の"取引需要"増加の結果である。 - 誤りの選択肢:「Y1-Y0が政府支出の拡大分に相当」は×。実際のGDP増加分は、 クラウディングアウト後の純増であって、政府支出の拡大分そのものとは一致しません。 → H27 第6問

📝 過去問はこう出る(H25 第7問) 「政府支出の有効需要創出効果が"ない/弱まる"ケース」を選ぶ問題。正解はbとc(→ ウ)。 - b(○):在庫の取り崩しで供給を賄うと、生産・所得が増えず効果が出ない。 - c(○):民間が供給していた財を政府が肩代わりするだけなら総需要は純増しない(完全なクラウディングアウト)。 - a(×)の急所:公債発行でまかなうと債券市場で「超過供給」(債券が売られ価格下落→利子率上昇)。 選択肢は「超過需要」と書いており、メカニズムの向きが逆。 - d(×)の急所:政府支出増→所得増で貨幣の取引需要は「増加」する。選択肢は「減少」で逆。 → H25 第7問

⚠️ 混同注意:「取引需要は増える/減る?」 財政政策のクラウディングアウトを説明する記述で、「貨幣の取引需要が減少して利子率が上昇」と書いてあったら、 それは引っかけです。所得が増えれば取引に使うお金は増えるのが正しい方向。 「取引需要↑ → 利子率↑ → 投資↓」の一本道で覚えましょう。

乗数と租税乗数(第7章の復習も兼ねて)

財政政策の効き目の大きさは 乗数 で決まります。試験では方向を問う問題が多いです。

用語 式(c=限界消費性向) 覚えどころ
政府支出乗数 1/(1-c) 政府支出を1増やすとGDPは何倍増えるか
租税乗数 -c/(1-c) 減税の効果。マイナス符号+政府支出乗数より絶対値が小さい
均衡予算乗数 1 政府支出と増税を同額行うと、GDPはちょうどその額だけ増える

📝 過去問はこう出る(H20 第5問) 財政の役割を問う問題。正解は。 - ア(○):インフレ・ギャップ(総需要が完全雇用を超過)を解消するには、政府支出の縮小(or増税)で需要を抑える。 - イ(×):租税乗数は-c/(1-c)。限界貯蓄性向(1-c)が大きいほど乗数の絶対値は小さくなる(記述は逆)。 - エ(×):政府支出拡大と減税を同規模で行うと、政府支出乗数の方が絶対値で大きいのでGDPは増加する。 - オ(×):定率所得税で景気を自動的に和らげる仕組みは「自動安定化装置」であって「裁量的財政政策」ではない(→ 9-3)。 → H20 第5問

(発展)財政乗数を式で見る ― クラウディングアウトが式に現れる

IS-LMを連立して解くと、財政乗数は次の形になります(記号:c=限界消費性向、i=投資の利子感応度、 k=貨幣需要の所得感応度、h=貨幣需要の利子感応度)。

財政乗数 ΔY/ΔG = 1 / ( 1 - c + i・k/h )
                          └────┬────┘
                     この項がクラウディングアウトの大きさ
  • 分母の i・k/h が大きいほど乗数は小さく、クラウディングアウトは大きくなります。
  • 投資の利子感応度 i が大きいほど(利子率に投資が敏感)、押し出しが大きく効き目は小さい。
  • 貨幣需要の利子感応度 h が小さいほど(LMが急)、押し出しが大きい。

📝 過去問はこう出る(H22 第6問・設問1) 財政乗数の性質を問う難問。正解はcとd(→ オ)。 - c(正):投資の利子感応度 i が大きいほどクラウディングアウトが大きく、所得拡大効果は小さい。 - d(正):流動性のわな(h→∞)では i・k/h→0 となり、財政乗数は 1/(1-c) に戻る(=押し出しゼロで最大効果)。 - a(誤):h が小さいほど押し出しは大きくなる(記述は逆)。 → H22 第6問

(発展)リカードの等価定理 ― 減税が効かないという主張

リカードの等価定理(中立命題) とは、 「公債発行による減税は、景気刺激効果を持たない」という考え方です。

  • 理屈:減税を公債(国の借金)でまかなうと、人々は「いつか将来、増税でこれを返すはずだ」と合理的に予想します。
  • すると、減税で増えた手取りを消費せず貯蓄して将来の増税に備えるため、消費は増えず、景気は刺激されません。
  • バローの中立命題はこれを拡張し、償還が自分の生存中になくても、子孫(遺産動機)を考えて貯蓄すると考えます。

📝 過去問はこう出る(H25 第8問) 巨額の公債発行が家計行動に与える影響を問う問題。正解は。 「公債償還が自らの生存中にない場合でも、子孫を考える家計は遺産として残すため貯蓄を増やす=現時点の消費を減らす」= バロー型中立命題の帰結。逆に流動性制約(手元にお金がない)家計では中立命題は崩れ、減税で消費が増えます。 → H25 第8問

📝 過去問はこう出る(H19 第7問・エ) 「(リカードの)等価定理が成り立つ場合、財政赤字を伴う政府支出増は将来の増税で賄われると予想され、景気刺激効果は発生しない」=正しい記述。 恒常所得仮説の「一回かぎりの減税は恒常所得をほとんど変えず消費を大きく増やさない」という論点もセットで問われました。 → H19 第7問


9-2 金融政策の手段と効果 ― LMを右に動かす

金融政策とは

金融政策とは、中央銀行(日本では日本銀行) が世の中に出回るお金の量(マネーストック)や 利子率をコントロールして、景気や物価を調整する政策です。

  • 金融緩和(景気を温める):お金の量を増やす → 利子率↓ → 投資↑
  • 金融引き締め(景気を冷ます):お金の量を減らす → 利子率↑ → 投資↓

金融政策の3つの手段

伝統的に、中央銀行の道具は次の3つです。名前と効果の向きを一対一で押さえます。

手段 内容 緩和したいとき(お金を増やす)
公開市場操作(オペレーション) 中央銀行が債券などを売買 買いオペ(債券を買ってお金を市場に出す)
預金準備率操作 銀行が中央銀行に預ける割合(準備率)を上下 準備率を下げる(貸し出せるお金が増える)
公定歩合操作(現在は基準割引率) 中央銀行が銀行に貸す金利を上下 金利を下げる

⚠️ 混同注意:買いオペと売りオペ 買いオペ=お金を"買い入れて放出"=緩和(ハイパワードマネー増加)。 売りオペ=債券を"売ってお金を吸収"=引き締め(ハイパワードマネー減少)。 「売りオペでハイパワードマネーが増える」と書いてあったら誤り(H19第8問の引っかけ)。

IS-LM図で見る:金融緩和は「LMを右(下)へ」

お金の量が増えると、LM曲線が右(下)にシフトします。 下の図で、均衡点がE0からE1へ移り、利子率がr0→r1に下がり、GDPがY0→Y1に増えます

利子率 r
 │        LM(緩和前)
 │       /        LM′(右シフト後)
 │      /        /
r0│ ‥ E0●      /
 │    /│    /
 │  /  │  /
r1│/    │/‥‥‥ E1●
 │    /│    /  │
 │  /  │  /    │
 │/  IS│/      │  ← 利子率が下がり投資が増え、GDPはY1へ
 └──────┼────────┼──→ GDP(Y)
        Y0       Y1

財政政策と違い、金融緩和では利子率が"下がる"のがポイント。 利子率が下がると企業は投資しやすくなり、GDPが増えます。

信用創造とマネーストック ― 中央銀行が直接操作できるのは「マネタリーベース」

中央銀行が直接コントロールできるのは、マネタリーベース(ハイパワードマネー)—— つまり「現金+銀行が中央銀行に預けている当座預金」だけです。 私たちが使う世の中全体のお金(マネーストック)は、銀行の信用創造を通じて、その何倍にも膨らみます。

マネーストック = 信用乗数(貨幣乗数) × マネタリーベース
       └── 世の中のお金全体   └── 中央銀行が動かせる部分
  • 信用乗数(貨幣乗数)= マネーストック ÷ マネタリーベース
  • 準備率が上がると、貸出に回せるお金が減り、信用創造が縮小 → 信用乗数は低下
  • 現金・預金比率が上がる(人々が現金を手元に置く)と、漏れが増え → 信用乗数は低下

📝 過去問はこう出る(H24 第8問) 設問1(信用乗数)の正解はエ(cとd)。 - 中央銀行が直接操作できるのはマネタリーベースであってマネーストックではない(設問の誤り選択肢の急所)。 - 準備率↑・現金預金比率↑ → いずれも信用乗数は低下。 設問2は、2008年のマネーストック統計見直しでゆうちょ銀行への要求払預金がM1に含まれた(正解イ)。 → H24 第8問

💡 覚え方:M1とM2 M1=現金通貨+預金通貨(要求払預金)=すぐ使えるお金。定期性預金は含まない。 定期預金まで含めた広い集計がM2・M3。「定期預金がM1」は誤り、と覚えます。

貨幣需要の3動機と流動性選好

なぜ利子率が下がると投資が増えるのか。その背後にケインズの 流動性選好理論 があります。 人がお金(流動性)を持ちたがる動機は3つです。

動機 内容 何に反応するか
取引動機 日々の取引の支払いのため 所得が増えると増える
予備的動機 万一に備えて 所得が増えると増える
投機的動機 資産運用のため(債券かお金か) 利子率が下がると増える
  • 投機的需要は利子率の減少関数:利子率が低い=お金を持つ機会費用が小さいので、お金を持ちたがる。
  • 取引需要は所得の増加関数:所得が増えれば取引に使うお金が増える。

📝 過去問はこう出る(H19 第8問) 貨幣理論・金融政策の総合問題。正解は。 - イ(○):貨幣数量説+完全雇用の下では、名目貨幣供給の増加は同率の物価上昇をもたらすだけで、実質変数(産出・雇用)に影響しない=貨幣の中立性(→ 9-3)。 - ウ(×):ハイパワードマネーを増やすのは「買いオペ」(売りオペではない)。 - エ(×):所得増で増えるのは取引需要(投機的需要ではない)。 - オ(×):利子率が下がると投機的需要は増加する(減少ではない)。 → H19 第8問

日本銀行の制度(時事的論点)

過去問では、日銀の枠組みそのものも問われます。

  • インフレ・ターゲティング:目標とする物価上昇率(消費者物価指数など)を数値で示し、金融政策の透明性・予測可能性を高める枠組み。
  • 量的緩和政策:金利ではなく、日銀当座預金残高など"量"の指標に目標を定めて緩和する政策。
  • 準備預金制度:対象金融機関(都市銀行など)に、預金等の一定比率(準備率)以上を日銀に預けさせる制度。
  • 日銀の独立性:金融政策を決める「金融政策決定会合」で、財務大臣は議決権を持たない(意見は述べられる)。

📝 過去問はこう出る(H23 第5問) 日本の金融政策で「最も不適切」を選ぶ問題。正解(=誤り)は。 「財務大臣が金融政策決定会合で議決権を行使できる」は誤り。財務大臣等は出席・意見表明はできても、 議決権は日銀政策委員会のメンバーのみ。日銀の独立性に直結する頻出論点です。 → H23 第5問

📝 過去問はこう出る(R02 第1問) 日米欧の政策金利の推移グラフを読ませる問題。正解は(a=日本、b=ユーロ圏、c=米国)。 日本は長くゼロ・マイナス金利で最も低い水準に張り付き、米国は2015〜2018年に段階的に利上げした、という 各国の金融政策の"クセ"を覚えておくと解けます。政策金利は日本=無担保コールレート翌日物。 → R02 第1問

(発展)開放経済の金融政策 ― マンデル=フレミング・モデル

開放経済(貿易・資本移動がある経済)では、為替相場の動きが加わります。 変動相場制の下では、金融政策が有効になります(財政政策は無効になりやすい)。

金融緩和(貨幣量↑)→ 自国の利子率↓ → 内外金利差で資本が流出
  → 自国通貨が減価(通貨安)→ 純輸出↑ → GDPがさらに↑(有効)

📝 過去問はこう出る(H27 第10問) マンデル=フレミング・モデル(変動相場制)の金融政策を問う問題。正解は。 「貨幣量拡大→自国金利が相対的に低下→内外金利差→資本流出→自国通貨が減価」が正しいメカニズム。 「通貨が増価する」「クラウディングアウトでGDPが減少する」は方向が逆で誤り。詳細は国際マクロの章で扱います。 → H27 第10問


9-3 自動安定化装置と政策の有効性

ビルトイン・スタビライザー(自動安定化装置)

ビルトイン・スタビライザー(自動安定化装置) とは、 政策当局がわざわざ判断しなくても、景気を自動的に和らげる仕組みのことです。

代表例は次の2つ。

  • 累進的な所得税・法人税:好況で所得・利潤が増えると税負担が自動的に重くなり、需要の過熱を抑える。 不況では税負担が自動的に軽くなり、落ち込みを支える。
  • 失業給付など社会保障:不況で失業者が増えると給付が自動的に増え、消費の急落を防ぐ。

ポイントは、所得・利潤に対する「累進性」が強いほど、安定化機能が強いということです。

⚠️ 混同注意:自動安定化装置 vs 裁量的財政政策 - ビルトイン・スタビライザー=仕組みとしてあらかじめ組み込まれ、自動で効く(判断不要)。 - 裁量的財政政策(フィスカル・ポリシー)=そのつど政府が判断して発動する(補正予算など)。 この2つのすり替えは定番の引っかけ(H20第5問オ)。「自動で効く=ビルトイン」と覚えます。

📝 過去問はこう出る(R06 第8問) 「自動安定化装置の機能が強いもの」を選ぶ問題。正解はaとd(→ ウ)。 - a(強い):利潤に累進的に課す法人所得税。好況で税収が大きく増え、不況で大きく減る。 - d(強い):一定額まで免税の個人所得税。実質的に累進的で、好不況に応じ税負担が変動。 - b(弱い):全員同額の定額税は所得と無関係で、景気に応じて変動しない。 - c(弱い):生活必需品への消費税は需要が景気に左右されにくく、税収が安定的。 累進性が強い=安定化機能が強いが判断軸です。 → R06 第8問

古典派 vs ケインズ派 ― そもそも政策は効くのか

財政・金融政策が「効く」と考えるかどうかは、学派によって根本的に違います。ここは最頻出の対立軸です。

論点 古典派(新古典派・マネタリスト) ケインズ派
価格・賃金 伸縮的(すぐ動く) 硬直的(動きにくい)
労働市場 常に完全雇用で均衡 非自発的失業があり得る
総供給曲線 AS 垂直(完全雇用GDPで固定) 右上がり/水平
貨幣の役割 貨幣の中立性(実物に影響しない) 貨幣は実物に影響する
財政・金融政策 実質GDPを変えられない(物価が動くだけ) 実質GDPを増やせる(有効)
二分法 古典派の二分法(実物と貨幣は別世界) 実物と貨幣は絡み合う

古典派の考え方の核心は、「実質GDPは労働市場と生産関数で決まる(完全雇用で固定)」という点です。 だから、貨幣供給を増やしても実質GDPは増えず、物価が比例的に上がるだけ——これが貨幣の中立性です。

📝 過去問はこう出る(H26 第10問) 古典派における貨幣と金融政策を問う問題。正解は。 - ウ(○):実質GDPは労働市場の均衡(完全雇用)から決まるため、貨幣供給を増やしても実質GDPは拡大しない(古典派)。 - ア(×)k%ルールはフリードマンの主張で、「マネーストックの増加率を一定のk%に保つ」ルール。「物価上昇率を一定にする」ではない。 - イ(×):古典派では実質利子率は貨幣市場でなく実物(貯蓄・投資)で決まる。貨幣は実物に影響しない。 - エ(×):数量方程式(MV=PY)の貨幣需要は取引動機にもとづく(投機的動機のみではない)。 → H26 第10問

📝 過去問はこう出る(R04 第7問) 古典派のAD-AS分析。設問1=、設問2=。 - 設問1(オ):労働市場は完全雇用で均衡し、物価が変わっても名目賃金が同率で変わるため、実質賃金・雇用・生産は不変=AS曲線は垂直。 - 設問2(ウ):AS垂直の下では、名目貨幣供給の増加は物価と名目賃金を同率で引き上げるだけで実質GDPに影響しない貨幣の中立性そのもの。 政府支出の増加も実質GDPを増やせず、物価だけが動く。 → R04 第7問

流動性のわな ― 金融政策が効かなくなる特殊状態

流動性のわな とは、利子率がこれ以上下がらない下限まで下がりきり、 貨幣需要の利子弾力性が無限大(LM曲線が水平)になった状態です。

このとき、次のような特殊な結果が生じます。

                流動性のわなでは……
┌─────────────────────────────────────┐
│ 金融政策:貨幣を増やしても利子率が下限から下がらない  │
│           → 投資が刺激されない → 【無効】          │
├─────────────────────────────────────┤
│ 財政政策:利子率が上がらない(LM水平)             │
│           → クラウディングアウトが起きない          │
│           → 効果が最大限に発揮される → 【有効】     │
└─────────────────────────────────────┘
  • 金融政策は無効:いくらお金を刷っても利子率が下限に張り付いて動かず、投資が増えない。
  • 財政政策は有効:利子率が上がらないので押し出し(クラウディングアウト)がゼロ。乗数がフルに効く。

📝 過去問はこう出る(R01 第8問) 流動性のわなのAD-AS分析。設問1=、設問2=。 - 設問1(ア):流動性のわなでは物価が下落しても利子率が下がらず投資が変化しないため、総需要曲線ADが垂直になる。 - 設問2(ウ=bとc):政府支出増(財政政策)は総需要を拡大させ物価・実質GDPを増やす(有効)が、 名目貨幣供給増(金融政策)は利子率を下げられず総需要を変えられない(無効)。 → R01 第8問

📝 過去問はこう出る(R03 第8問) 金融政策の効果の正誤問題。正解は(a:正、他は誤)。 - a(正):投資の利子感応度が大きいほど、貨幣供給増による利子率低下が投資を大きく増やし、金融政策の効果は大きい。 - d(誤)流動性のわなでは利子率が下限に張り付き、貨幣供給を増やしても金融政策はGDPを増やせない(有効とするのは誤り)。 - b(誤):貨幣数量説では貨幣供給増は物価を比例的に上げるが、実質GDPは中立性により不変。 - c(誤):k%ルールはケインズではなくフリードマン(マネタリスト)の主張。 → R03 第8問

⚠️ 混同注意:政策が"効く/効かない"の早見 | 状態 | 財政政策 | 金融政策 | |---|---|---| | 通常(ケインズ的) | 有効(ただしクラウディングアウトで割引) | 有効 | | 流動性のわな(LM水平) | 最も有効(押し出しゼロ) | 無効 | | LM垂直(貨幣需要が利子に無反応) | 無効(完全なクラウディングアウト) | 最も有効 | | 古典派(AS垂直) | 実質GDPに無効(物価だけ動く) | 実質GDPに無効(物価だけ動く) | 「わな=財政が効き金融が効かない」「LM垂直=逆」をセットで覚えるのが得点のカギ。


この章のまとめ(試験直前チェック)

  • 財政政策=政府支出・税でISを動かす。拡張的財政政策はIS右シフト → GDP↑・利子率↑
  • クラウディングアウト=政府支出↑→取引需要↑→利子率↑→民間投資↓で効果が割り引かれる
  • ☐ 「政府支出でGDPが増える分」は純増であって、政府支出の拡大分そのものとは一致しない(H27第6問)
  • ☐ 公債発行でまかなうと債券市場は超過供給(価格↓→利子率↑)。「超過需要」は誤り(H25第7問)
  • ☐ 乗数:政府支出乗数 1/(1-c)、租税乗数 -c/(1-c)(絶対値は小さい)、均衡予算乗数=1
  • リカードの等価定理=公債による減税は将来増税を予想させ、貯蓄に回るので景気刺激効果なし
  • 金融政策=貨幣供給でLMを動かす。金融緩和はLM右シフト → 利子率↓・GDP↑
  • ☐ 手段:公開市場操作(買いオペ=緩和)・準備率操作・公定歩合操作。売りオペ=引き締め
  • ☐ 中央銀行が直接動かせるのはマネタリーベースマネーストック=信用乗数×マネタリーベース
  • ☐ 準備率↑・現金預金比率↑ → 信用乗数は低下。M1に定期預金は含まない
  • ☐ 貨幣需要の3動機:取引・予備的(所得で増)/投機的(利子率が下がると増)
  • ☐ 日銀:金融政策決定会合で財務大臣は議決権を持たない(H23第5問)
  • ビルトイン・スタビライザー=累進課税・失業給付で自動的に景気を安定化(≠裁量的財政政策)
  • 古典派:AS垂直・貨幣の中立性・古典派の二分法 → 財政も金融も実質GDPを変えられない(物価だけ動く)
  • k%ルール=フリードマン(マネタリスト)の主張(貨幣供給の増加率を一定に保つ)
  • 流動性のわな(LM水平):金融政策は無効/財政政策は最も有効(クラウディングアウトなし)

この章に対応する主な過去問

年度・問 論点 リンク
H19 第7問 財政政策の理論(等価定理・流動性のわな) 問題
H19 第8問 貨幣理論と金融政策(中立性・買いオペ) 問題
H20 第5問 財政の役割(乗数・自動安定化装置) 問題
H22 第6問 財政・金融政策の効果(IS-LM・乗数) 問題
H23 第5問 日本の金融政策(日銀の独立性) 問題
H24 第8問 金融政策とマネーサプライ(信用乗数) 問題
H25 第7問 政府支出のクラウディングアウト 問題
H25 第8問 公債発行と家計行動(リカードの中立命題) 問題
H26 第10問 古典派における貨幣と金融政策 問題
H27 第6問 IS曲線のシフトと財政政策 問題
H27 第10問 開放経済の金融政策(マンデル=フレミング) 問題
H28 第11問 IS-LM分析と財政・金融政策 問題
R01 第8問 総需要・総供給分析(流動性のわな) 問題
R02 第1問 日米欧の政策金利の推移 問題
R03 第8問 金融政策の効果(流動性のわな) 問題
R04 第7問 総需要・総供給分析(古典派) 問題
R06 第8問 財政の自動安定化装置 問題

次章予告 ▶ 第10章「物価・インフレ・失業」 本章の「政策で総需要を動かす」話を受けて、次章では物価そのものに焦点を当てます。 総需要・総供給(AD-AS)分析、インフレとデフレ、フィリップス曲線(インフレと失業のトレードオフ)、 そして自然失業率仮説を扱います。本章の古典派vsケインズ派の対立が、物価の議論でさらに深まります。