伴走型支援?プロセスコンサルティング?~支援現場で求められるものとは

伴走支援は、企業が自立して課題解決できる組織になるよう、コンサルタントが経営者や現場に寄り添い、計画策定から実行、定着までを中長期で伴に歩む支援スタイルです。
単なる「助言」で終わらず、「自走化」と「内発的動機づけ」を引き出すため、経営者・従業員が主体的に課題解決に取り組むプロセス自体を支援する点が特徴で、中小企業庁のガイドラインでも推奨される手法です。
伴走支援とプロセスコンサルティングはニアリーイコールの考え方です。

とはいえ、伴走型支援・プロセスコンサルティングにばかり注力して、助言を控えて、なんとか気づかせることばかりに主体をおいてる方も時々見かけます。人事部の実施する社内研修ならそれでもいいケースもあると思うのですが、コンサルティングの現場では間違っているでしょう。
もちろん事業者側がそういった研修の場だと捉えているのならいいのですが、使い分けが大事になるでしょう。
ということで「プロセス・コンサルティング」についてちょっと記載してみます。
なぜ「答えを教える」だけではダメなのか?世の中の「2種類の問題」
まず、世の中の問題はすべて同じではない、ということです。ハーバード大学のR.ハイフェッツは、リーダーが直面する問題を大きく2種類に分類しました。
• 技術的問題 (Technical Problems) 専門家が持つ既存の知識や技術で修理すれば直る「機械の故障」のような問題です。原因が明確で、解決策も比較的はっきりしています。
• 適応を要する課題 (Adaptive Challenges) 本人の考え方や行動、習慣そのものを変えなければ根本的には解決しない「生活習慣病」のような問題です。何が本当の問題かすら、すぐには分かりません。

コンサルタントとして陥りがちな最大の過ちは、この「適応課題」を「技術的問題」と誤認し、安易な解決策を処方してしまうことです。これは、根本治療が必要な患者に鎮痛剤を渡すようなもので、一時的に症状は和らぎますが、病巣は着実に組織を蝕んでいきます。
この二つの問題の違いを理解することは、あらゆる支援活動の出発点となります。その特徴を比較してみましょう。
| 特徴 | 技術的問題(答えがわかっている問題) | 適応課題(答えを自分たちで見つける問題) |
| 問題の姿 | 何が問題か、はっきりしている | 何が本当の問題か、すぐにはわからない |
| 解決策 | 既存の知識や技術で解決できる | 新しい考え方や行動の変化が必要 |
| 誰が解決する? | 専門家が中心となって解決する | 関係者全員で学びながら解決策を探す |
| 問題のありか | 自分の「外側」にある | 自分たちの「内側」(考え方や習慣)にもある |
経営者が直面する問題の多くは、単純な『技術的問題』ではなく、関係者の考え方や行動そのものを変える必要がある『適応課題』なのです。
コンサルティングの3つの基本モデル〜必要な支援はどれ?
組織開発コンサルティングには、クライアント(支援を求める組織)との関わり方によって、主に3つの基本モデルが存在します。自社の状況や課題によって、最適なモデルは異なります。
専門家モデル(情報を購入する)
クライアントが課題を特定しており、「その解決に必要な専門知識やサービスだけが欲しい」という場合に適したモデルです。例えば、特定の業界の市場調査データや、新しい人事評価制度の設計ノウハウなどをコンサルタントから購入します。 このモデルは、「クライアントが自社のニーズを正確に特定できている」という重要な前提に基づいています。
• クライアントの役割:自社のニーズを正確に診断し、どの専門家が必要かを見極める。
• コンサルタントの役割:クライアントの要求に応じて、特定の情報やサービスを提供する。
医師-患者モデル(診断と処方を依頼する)
クライアントが「組織のどこかがおかしい」という症状は感じているものの、原因が特定できていない場合に適したモデルです。コンサルタントが「医師」として組織を診断し、問題の根本原因を特定して「処方箋」となる解決策を提示します。 このモデルは、診断から治療までコンサルタントに大きな権限を委ねるため、クライアントの依存度が高くなる傾向があります。また、「『病んでいる』組織や個人が、診断に必要な正しい情報をありのままに提供してくれる」という前提が不可欠です。
• クライアントの役割:症状を伝え、診断と治療(解決策の実行)をコンサルタントに委ねる。
• コンサルタントの役割:組織の問題を診断し、治療法(解決策)を提示・実行する。
プロセス・コンサルテーション(一緒に問題解決のプロセスを歩む)
コンサルタントが答えを与えるのではなく、クライアント自身が問題を発見し、解決策を見つけ、実行できるようになるまでの一連のプロセスを支援するモデルです。コンサルタントは解決策の専門家ではなく、クライアントが自ら学ぶための「伴走者」となります。「問題と解決策はクライアントが所有している」という考え方が基本です。
• クライアントの役割:コンサルタントとの対話を通じて、自らの課題と向き合い、解決策を主体的に考える。
• コンサルタントの役割:クライアントとの信頼関係を築き、対話や問いかけを通じて、クライアントの気づきを促し、今日だけでなく未来にわたって問題解決能力を高める(learn how to fix problems, today, tomorrow and in the future)ことを支援する。
3つのモデルの比較
各モデルの特徴を以下の表にまとめました。誰が問題の主導権を握り、コンサルタントがどのような役割を担うのかに注目したいですね。
いつも、伴走支援じゃなくてもいいし、いつも専門家でなくてもいいのでしょうね。案件によって使い分ける力が必要になりそう。
| モデル | 問題の所有者 | コンサルタントの役割 | 最終目標 |
| 専門家モデル | クライアント | 特定の情報やサービスを提供する専門家 | クライアントが求める専門的な答えを提供すること |
| 医師-患者モデル | コンサルタント | 組織の問題を診断し、処方箋を出す医師 | 組織の「病気」を特定し、治療法を提示すること |
| プロセス・コンサルテーション | クライアントとコンサルタントの共同 | クライアントが自ら解決策を見つけるための伴走者 | 組織自身が問題解決能力を身につけること |
これら3つの中でも、特に現代の組織開発で中心的かつ最も重要と考えられているのが「プロセス・コンサルテーション」です。なぜなら、このモデルは医師-患者モデルのようにクライアントの依存を生み出すリスクを避け、変化の激しい時代に不可欠な「自己変革力」を組織内部に育むことを直接の目的としているからです。もう少し深く掘り下げてみましょう。
あなたの会社はどれに当てはまる?成長を阻む「5つの壁」
多くの中小企業が、自己変革のプロセスでつまずく要因には、いくつかの典型的なパターンがあります。私たちはそれを「5つの壁」と呼んでいます。これらは、企業が抱える根深い「適応を要する課題」の具体的な現れ方です。あなたの未来の会社がどの壁に直面する可能性があるのか・・・

【第1の壁】 「見えない」の壁
これは、自社の経営状況が数字やデータとして「見える化」できていない状態です。それだけでなく、意思決定のプロセスや考え方がブラックボックス化しており、なぜその判断が下されたのかが社員に共有されず、振り返りや改善ができない状況も含まれます。感覚や経験則だけで経営を行っていると、この壁にぶつかります。
【地元で人気の定食屋さんの例】
- 店主は毎日忙しく働き、店は繁盛しているように見えました。しかし、どのメニューが本当に利益を上げていて、どのメニューが実は赤字なのかを全く把握できていませんでした。
- ランチとディナーの客数や客単価といった基本的なデータも取っていなかったため、「なんとなく忙しい」という感覚だけで判断していたのです。
- この状態では、どのメニューに力を入れ、どのコストを削減すべきか、といった戦略的な判断ができるはずもありません。
【第2の壁】 「向き合わない」の壁
データなどで会社の現状が「見えた」としても、その厳しい現実を直視できず、見て見ぬふりをしてしまう状態です。経営者が「問題を問題として捉えず見過ごしている」「問題を認識する余裕がない」、あるいは「意識的に目を逸らしている」といった心理状態が原因です。特に、過去の成功体験が強い経営者ほど、この壁に陥りやすい傾向があります。
【かつて主力商品で成功した、ある部品メーカー】
- その会社は、一つの大ヒット商品で大きく成長しました。しかし、市場の変化で売上は年々減少。データはその事実を明確に示していました。
- にもかかわらず、社長は「うちはこの商品でやってきたんだ。まだ大丈夫だ」と固執し、新製品開発や新市場開拓といった、今本当に向き合うべき課題から目をそむけていたのです。
【第3の壁】 「実行できない」の壁
課題を認識し、何をすべきかも分かっている。しかし、組織内外の「しがらみ」や、経営者自身の過去のトラウマといった心理的なブレーキによって、行動に移すことができない状態です。「言うは易く行うは難し」という言葉がぴったりの、根深い壁です。
• 【ITサービス企業の社長の悩み】
- 社長は、全社の業務効率を上げるために新しいシステムを導入すべきだと確信していました。
- しかし、古くから会社を支えてきた役員たちから「今までのやり方を変えたくない」「新しいことは覚えるのが面倒だ」と強い反対を受けます。
- 社長は、彼らとの人間関係を壊したくない、社内に混乱を招きたくないという思いから、結局、導入に踏み切れずにいました。
【第4の壁】 「付いてこない」の壁
経営者が意を決して変革の号令をかけても、現場の社員たちがその意図を理解せず、誰も本気で取り組もうとしない状態です。真の変革は、経営者のトップダウンの指示だけでは起こりません。組織の隅々、「現場レベル」で働く一人ひとりの意識が変わらなければ、この壁が立ちはだかります。
•【新しい営業方針を打ち出した会社の例】
- 経営者が「これからは顧客との長期的な関係構築を重視する!」という新方針を発表しました。
- しかし、なぜその方針が必要なのか、現場の営業担当者に丁寧に説明する機会を設けなかったのです。
- 結果として、現場では「また社長が思いつきで何か言い出した」「どうせすぐ元に戻るだろう」と捉えられ、誰も本気で取り組もうとせず、変革は掛け声だけで終わってしまいました。
【第5の壁】 「足りない」の壁
先の4つの壁を乗り越え、経営者も社員も「よし、やるぞ!」と一丸になった。しかし、いざ実行しようとした段階で、課題解決に必要な専門知識や経験(知見)が社内に「足りない」ことに気づく状態です。これは、意欲と方向性が定まった「後」に現れる、ある意味では「良い壁」と言えるかもしれません。
現代の組織開発の核となる「プロセス・コンサルテーション」
プロセス・コンサルテーションの創始者である組織心理学者エドガー・シャインは、このモデルの最も重要な哲学を「組織が自ら問題を解決できるよう支援すること」だと述べました。これは「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える」という考え方に通じます。
このモデルでは、単に解決策を提示するのではなく、クライアントとの間に「援助関係(Helping Relationship)」を築くことが核心となります。コンサルタントは、クライアントが安心して現状を話し、自らの力で課題に向き合えるような対等なパートナーシップを構築します。
プロセス・コンサルテーションを実践する上で、シャインが提唱する基本原則の中から特に重要なものを3つご紹介します。
• 汝の無知にアクセスせよ(Access your ignorance) コンサルタントは「答え」を持っているわけではない、という謙虚な姿勢が原点です。真の課題も、最も効果的な解決策も、組織の内部にいるクライアント自身が最もよく知っているという前提に立ちます。知ったかぶりをせず、純粋な好奇心から問いかけることで、クライアント自身が内省を深める手助けをします。
• タイミングこそすべて(Timing is crucial) クライアントがまだ受け入れる準備ができていないのに、鋭い指摘をしても変革にはつながりません。介入は、クライアント自身が問題に気づき、変化への意欲を持った「その瞬間」を捉えて行う必要があります。焦らず、クライアントのペースに合わせて伴走することが求められます。
• すべての働きかけが「介入」になることを自覚せよ(Everything you do is an intervention) コンサルタントが発する質問一つ、会議での観察一つをとっても、それは組織に何らかの影響を与えます。そのため、自身の言動がクライアントにどのような影響を与えるかを常に意識し、すべての働きかけを意図的に行う必要があります。この自覚の鍵となるのが、シャインが提唱する内的な思考プロセス「ORJIサイクル」です。

- O (Observation / 観察):今、ここで何が起きているかを客観的に観察する。
- R (Reaction / 反応):観察したことに対して、自分が感情的にどう反応したかに気づく。
- J (Judgment / 判断):感情的な反応に基づき、どのような解釈や判断を下しているかを自覚する。
- I (Intervention / 介入):その判断に基づき、どのような介入(質問、フィードバックなど)を行うかを意識的に選択する。
このサイクルを意識することで、コンサルタントは自身の無意識の思い込みに気づき、より効果的で意図的な介入を行えるようになります。
この伴走型の支援は、具体的にどのようなステップで進められるのでしょうか。組織開発の標準的なプロセスを見ていきましょう。
プロセス・コンサルテーションは、従来の課題解決型支援と何が根本的に異なる?
プロセス・コンサルテーションは、従来の課題解決型支援と、「誰が課題を設定し、解決策を導き出すか」という主体のあり方、および対象とする問題の性質において根本的に異なります。

主な相違点は以下の通りです。
1. 課題設定と解決の主体
従来の「専門家型」や「医師-患者型」の支援では、支援者が主導権を握りますが、プロセス・コンサルテーションは当事者との共同作業を重視します。
• 従来の支援(課題解決型): 専門家が知識を提供したり、医師が診察して処方箋を出すように、支援者が課題を診断し、解決策を提示します。事業者は提示された解決策を実行する役割を担います。
• プロセス・コンサルテーション(課題設定型): 支援者と経営者が共同で課題を設定します。支援者は直接答えを出すのではなく、対話と傾聴を通じて経営者自らが本質的な課題に気づき、解決策を見出せるよう側面的に支援します。
2. 対象とする問題の性質(技術的問題 vs 適応課題)
扱うべき問題の種類によって、これらの手法は使い分けられます。
• 技術的問題(従来型が有効): 既存の知識や専門技術によって解決可能な問題です。何が問題か明確であり、専門家が回答を提供することで効率的に解決できます。
• 適応を要する課題(プロセス・コンサルテーションが有効): 既存の解決策が通用せず、当事者のマインドセット(考え方)や習慣、行動そのものを変える必要がある課題です。経営者自身が問題の一部である場合が多く、本人が「腹落ち」して自ら変わらなければ解決に至りません。
3. 「氷山」の下に潜むプロセスへの着目
プロセス・コンサルテーションは、目に見える問題事象(氷山の一角)だけでなく、その水面下に潜む「プロセス(人間関係や意思決定の進め方など)」に焦点を当てます。

• 表面的な問題(売上減少など)の真因は、組織内のコミュニケーション不足や暗黙の決まりといった、目に見えない「プロセス」にあると考えます。
• 支援者がこのプロセスに介入し、経営者と共に「なぜ」を繰り返して真因を探ることで、一時的ではない本質的な課題解決を目指します。
4. 支援の最終目標
• 従来の支援が一過性の問題解決を目的とすることが多いのに対し、プロセス・コンサルテーションは事業者の「自己変革力」と「自走化」を目指します。
• 経営者が自ら課題を設定し解決するプロセスを経験することで、将来別の困難に直面した際も、外部の助けを借りずに自力で対処できる力を養うことが最大のねらいです。
プロセス・コンサルテーションを例えるなら、「魚を与える(解決策を教える)」のではなく、「魚の釣り方(課題の見つけ方と解決の仕方)」を一緒に学び、自力で釣れるように導く支援と言えます。

そんなところで

