第13章 証券投資とデリバティブ
この章のねらい 財務・会計の最終章は、「株や証券にどう投資すればよいか(証券投資論)」と 「先物・オプションなどのリスク回避商品(デリバティブ)」を扱います。 ここは毎年ほぼ確実に3〜4問が出る大得点源で、しかも計算パターンがほぼ決まっている分野です。 期待収益率・標準偏差の計算、2資産ポートフォリオの分散、相関係数と分散投資効果、CAPMの公式、 オプションの満期損益──この5つを「手が勝手に動く」まで反復すれば、本番でまとめて得点できます。
過去問での出方:財務・会計の第14問〜第24問あたりに固まって出ます。 ポートフォリオ計算(期待値・標準偏差・β)は毎年、デリバティブ(先物・オプション・スワップ・為替予約)も毎年。 理論(効率的フロンティア・資本市場線・システマティックリスク)は語句の穴埋め・図の読み取りで問われます。 公式の丸暗記+計算の型で確実に取りにいきましょう。
13-0 この章の地図
この章は、「1つの資産のリスクをどう測るか」から始めて、「複数に分けて投資するとどうなるか(分散投資)」、 「市場全体との関係でリターンを説明する理論(CAPM)」、最後に「リスクを取引する商品(デリバティブ)」へと進みます。
13-1 期待収益率とリスク … 期待値・分散・標準偏差(1資産のものさし)
│
13-2 ポートフォリオ理論 … 分散投資/相関係数/2資産の期待値・分散/効率的フロンティア(★計算頻出)
│
13-3 CAPMとβ … システマティックリスク/β/CAPMの公式/証券市場線SML
│
13-4 デリバティブ … 先物・先渡/オプション(コール・プット)/スワップ/為替予約(★頻出)
- 13-1〜13-2は「数字を出す」計算問題。公式を覚えれば毎年得点できます。
- 13-3はCAPMの公式1本が主役。加重平均でβを出して当てはめるだけです。
- 13-4は言葉の意味(先物と先渡の違い、コールとプット、スワップの種類)と、為替予約の有利・不利の計算が中心。
13-1 期待収益率とリスク(期待値・標準偏差・分散)
まず「リターン」と「リスク」を数字にする
投資の世界では、
- リターン(収益率)の期待値 = 平均してどれくらい儲かりそうか
- リスク = その儲けがどれくらいブレるか(=ばらつきの大きさ)
で投資案を評価します。ここで大事なのは、「リスク=損すること」ではなく「リスク=ばらつき(不確実性)」という点です。 統計の言葉で言うと、リスクは標準偏差(または分散)で測ります。
① 期待収益率(期待値)= 確率で重みづけした平均
将来の収益率が、確率つきで「こうなりそう」と分かっているとき、 期待収益率は「各シナリオの収益率 × その確率」を全部足したものです。
$$ E(r) = \sum (\text{各シナリオの収益率} \times \text{その確率}) $$
計算の手順(H27 第14問・設問1を素材に)
プロジェクトAの収益率が「猛暑40%なら5%/例年並み40%なら2%/冷夏20%なら▲4%」と予想されているとき、
ステップ1:各シナリオの「収益率 × 確率」を出す
猛暑 : 5% × 0.4 = 2.0%
例年 : 2% × 0.4 = 0.8%
冷夏 : ▲4% × 0.2 = ▲0.8%
ステップ2:全部足す
期待収益率 E(r) = 2.0 + 0.8 − 0.8 = 2%
② 分散・標準偏差 = 「期待値からどれだけズレるか」
分散は「(各シナリオの収益率 − 期待値)の2乗 × 確率」を足したもの。 2乗するのは、プラスのズレとマイナスのズレを打ち消し合わせないためです。 標準偏差はその分散の平方根(√)で、単位が元の%に戻るので実務では標準偏差をよく使います。
$$ \text{分散 } \sigma^2 = \sum \big{(\text{収益率}-E(r))^2 \times \text{確率}\big}, \qquad \text{標準偏差 } \sigma = \sqrt{\sigma^2} $$
計算の手順(続き:プロジェクトA、期待値2%)
ステップ1:各シナリオの「期待値からのズレ(偏差)」を2乗する
猛暑 : (5 − 2)² = 9
例年 : (2 − 2)² = 0
冷夏 : (▲4 − 2)² = 36
ステップ2:それぞれ確率で重みづけして足す(=分散)
分散 = 9×0.4 + 0×0.4 + 36×0.2 = 3.6 + 0 + 7.2 = 10.8
ステップ3:平方根をとる(=標準偏差)
標準偏差 = √10.8 ≒ 3.3%
⚠️ 混同注意:「分散」と「標準偏差」を取り違えない この問題(H27 第14問・設問1)の引っかけ選択肢は「標準偏差:10.8%」でした。 10.8 は分散であって、標準偏差はその平方根 √10.8 ≒ 3.3% です。 「√をとり忘れて分散のまま答える」ミスは頻出。最後に√を忘れないを合言葉に。
📝 過去問はこう出る(H27 第14問) 確率つきの収益率表から、プロジェクトAの期待値と標準偏差の組み合わせを選ばせる問題。 正解は「期待値2%・標準偏差3.3%」。期待値の計算ミス(1%)や、分散のまま答えた「標準偏差10.8%」が引っかけ。 → H27 第17問
📝 過去問はこう出る(H28 第15問) 4つのシナリオ(各25%)の収益率表から、期待値・共分散・相関係数まで問う総合問題。 期待値は単純平均(例:投資案A=(2+5+11+14)/4=8%)。 「投資案Cの偏差は投資案Aの偏差のちょうど2倍 → CとAは相関+1、Cの標準偏差はAの2倍」という 偏差の比で相関を見抜く視点が問われました。 → H28 第15問
13-2 ポートフォリオ理論
分散投資(ポートフォリオ)とは
ポートフォリオとは、複数の資産を組み合わせた「持ち合わせ」のこと。 「卵は1つのカゴに盛るな」という格言のとおり、複数の資産に分散して投資すると、 期待収益率はほぼ加重平均のままなのに、リスク(標準偏差)だけを下げられることがあります。 これが分散投資効果(リスク低減効果)です。ポートフォリオ理論の主役はここです。
ポイント①:期待収益率は「単純に加重平均」でよい
2資産(YとZ)に投資比率 $w_Y, w_Z$ で投資したときのポートフォリオの期待収益率は、 各資産の期待収益率をそのまま投資比率で加重平均するだけです。ここに割引や相関は関係ありません。
$$ E(r_p) = w_Y \cdot E(r_Y) + w_Z \cdot E(r_Z) $$
ポイント②:分散(リスク)は「相関係数」で変わる
ところが分散(リスク)は単純な加重平均にはなりません。 2資産の値動きが「どれくらい連動しているか」を表す相関係数 ρ(ロー)によって、リスクが変わります。 2資産ポートフォリオの分散の公式は次のとおりです。この公式は財務・会計で最も出る計算式のひとつです。
$$ \sigma_p^2 = w_Y^2 \sigma_Y^2 + w_Z^2 \sigma_Z^2 + 2\, w_Y w_Z\, \rho\, \sigma_Y \sigma_Z $$
- 第1項・第2項=それぞれの資産のリスク寄与
- 第3項=2資産の連動(共分散)部分。ここに相関係数 ρ が効きます。
- $\rho \sigma_Y \sigma_Z$ を共分散(Cov)と呼びます($\text{Cov} = \rho \sigma_Y \sigma_Z$)。
相関係数 ρ の意味 ―「−1から+1まで」
| ρ の値 | 2資産の関係 | 分散投資効果 |
|---|---|---|
| ρ = +1 | 完全な正の相関(同じ方向に動く) | 効果なし(リスクは加重平均のまま) |
| 0 < ρ < +1 | 弱い正の相関 | 少しある |
| ρ = 0 | 無相関(バラバラに動く) | ある |
| −1 < ρ < 0 | 負の相関(逆方向に動きがち) | 大きい |
| ρ = −1 | 完全な負の相関(正反対に動く) | 最大(理論上リスクをゼロにできる) |
💡 覚え方:相関係数が小さい(負に大きい)ほど、分散投資効果は大きい。 ρ=−1でリスク最小(ゼロも可能)、ρ=+1で効果ゼロ。「逆に動く2つを組めばブレが打ち消し合う」とイメージ。
2資産の分散を実際に計算してみる(相関ゼロのケース)
計算の手順(R04 第15問を素材に) 証券Y(標準偏差10%)と証券Z(標準偏差20%)に等額ずつ(各50%)投資、相関係数 ρ=0のとき。
ステップ1:投資比率を入れる w_Y = w_Z = 0.5
ステップ2:分散の公式に代入(ρ=0 なので第3項は消える)
σ²ₚ = 0.5²×10² + 0.5²×20² + 0
= 0.25×100 + 0.25×400
= 25 + 100 = 125
ステップ3:平方根をとって標準偏差にする
σₚ = √125 ≒ 11.2%
ここで注目したいのは、単純に加重平均した標準偏差(10×0.5+20×0.5=15%)よりも小さい11.2%になっている点。 この「15% → 11.2%」への低下こそが分散投資効果です。
⚠️ 混同注意:期待収益率は加重平均でよい(15%的な計算でOK)が、標準偏差は加重平均してはいけない。 必ず分散の公式に入れて計算し、最後に√をとります。この違いが選択肢の引っかけになります。
分散投資効果とリスクの図(軌跡の形)
2資産の投資比率をいろいろ変えると、横軸に標準偏差(リスク)・縦軸に期待収益率をとった平面上に軌跡が描けます。 その形は相関係数で変わります。
期待収益率
↑ ・Z(高リスク高リターン)
| /
| / ← ρ=+1:直線(分散効果なし)
| / ⌒⌒ ← −1<ρ<+1:左に膨らむ曲線(分散効果あり)
| / /
| ・Y
+──────────────→ 標準偏差(リスク)
- ρ=+1:YとZを結ぶ直線(分散投資効果がない)。
- −1<ρ<+1:直線より左(リスクが小さい側)に膨らんだ曲線(双曲線状)。
- ρ=−1:縦軸(標準偏差=0)に達する折れ線(リスクをゼロにできる組合せが存在)。
📝 過去問はこう出る(H20 第20問・R01 第17問) 2資産の投資比率を変えたときの「リスク・リターンの軌跡の形」を問う定番問題。 −1<ρ<1なら「直線より左に膨らむ曲線」、ρ=+1なら「直線」、ρ=−1なら「縦軸に達する軌跡」。 R01 第17問は空欄補充で「Aは相関係数、+1で直線、小さくなるほど左に膨らむ、−1でリスク0」を選ばせました。 → H20 第20問 / R01 第17問
📝 過去問はこう出る(H22 第16問) 「分散投資のリスク低減効果が最大になるのは?」→ 正解は「完全に負相関(ρ=−1)の場合」。 完全正相関(ρ=+1)は効果ゼロ、無相関(ρ=0)や弱い負相関は効果はあるが最大ではない、が引っかけ。 → H22 第16問
安全資産(リスクフリー資産)を組み合わせる場合
安全資産(国債など、標準偏差=0のリスクなし資産)とリスク資産を組み合わせるときは、計算がぐっと簡単になります。 安全資産はリスクゼロ・リスク資産との共分散もゼロなので、公式の第2項・第3項が消え、
$$ \sigma_p = (\text{リスク資産への投資比率}) \times (\text{リスク資産の標準偏差}) $$
だけで標準偏差が求まります。
計算の手順(H24 第19問を素材に) 安全資産(収益率2%・標準偏差0%)とリスク資産(期待収益率8%・標準偏差6%)に等額(各50%)投資。
期待収益率 = 0.5×2% + 0.5×8% = 1% + 4% = 5% (期待値は加重平均)
標準偏差 = 0.5 × 6% = 3% (リスク資産の比率×そのσ)
効率的フロンティアと資本市場線
- 投資機会集合:作れるポートフォリオ(リスク・リターンの組み合わせ)すべての集合。
- 効率的フロンティア(有効フロンティア):投資機会集合のうち、 「同じリスクならリターン最大/同じリターンならリスク最小」という効率的な組合せだけを結んだ上側の曲線。 合理的な投資家はこの線上から選びます。
- 資本市場線(CML):安全資産(リスクフリーレート)を加えると、 「リスクフリーレートの点から、危険資産の効率的フロンティアに接する直線」が最も効率的になります。これが資本市場線。 接点を接点ポートフォリオ(市場ポートフォリオ)と呼びます。
リターン
↑ 効率的フロンティア(危険資産のみ)
| __─ \ の上側の曲線
| 接点D/
| /・ ← 資本市場線(安全資産B点から接点Dへ引いた直線)
| /
| B・(リスクフリーレート)
+──────────────────────→ リスク(標準偏差)
⚠️ 混同注意:資本市場線(CML)と証券市場線(SML)は別物 - 資本市場線(CML):横軸が標準偏差(総リスク)。効率的ポートフォリオのリスク・リターンを表す(13-2)。 - 証券市場線(SML):横軸がβ(システマティックリスク)。個別証券の期待収益率を表す(13-3、CAPM)。 「安全資産+ポートフォリオの直線」=CML、「β と期待収益率の直線」=SML。この取り違えが頻出です。
📝 過去問はこう出る(H21 第17問・H30 第17問・R06 第19問) - H21 第17問:安全資産で自由に借入・貸出できるとき、効率的フロンティアは「リスクフリーレート点から危険資産フロンティアに接する直線(資本市場線)」。 - H30 第17問:危険資産のみの集合の上側の曲線=有効フロンティア、安全資産と接点を結ぶ直線=資本市場線。 - R06 第19問:投資家が保有するポートフォリオのリスクプレミアム=「保有ポートフォリオ(点C)の期待収益率 − リスクフリーレート(点B)」。 → H21 第17問 / H30 第17問 / R06 第19問
13-3 CAPMとβ(ベータ)
システマティックリスクと非システマティックリスク
分散投資でリスクは減らせますが、いくら分散しても消えないリスクがあります。 リスクは次の2つに分けられます(H30 第16問)。
| リスクの種類 | 別名 | 分散で消せるか | 中身 |
|---|---|---|---|
| 非システマティックリスク | 分散可能リスク・個別リスク | 消せる | 特定企業の不祥事・新製品の失敗など、個別銘柄固有の要因 |
| システマティックリスク | 分散不能リスク・市場リスク | 消せない | 景気・金利・為替など、市場全体に共通する要因 |
リスク
↑
|\
| \_ ← ① 非システマティックリスク(銘柄を増やすと消える部分)
| \__
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ← ② システマティックリスク(いくら分散しても残る下限)
+──────────────────→ 組込銘柄数
📝 過去問はこう出る(H30 第16問) 分散投資でリスクが減る図。銘柄数を増やすと急減してから水平に近づく形(図B)が正しい。 消える上側①=非システマティックリスク、残る下側②=システマティックリスク。①②の逆・図の取り違えが引っかけ。 → H30 第16問
β(ベータ)= 市場に対する感応度
βは、市場全体(TOPIXなど)が動いたとき、その株がどれくらい敏感に動くかを表す数字です。
- β=1:市場と同じだけ動く
- β>1:市場より大きく動く(=ハイリスク・ハイリターン。例:β=1.5)
- β<1:市場より小さく動く(=ディフェンシブ。例:β=0.8)
βはシステマティックリスクの大きさを測るものさしです(分散で消せる個別リスクは含みません)。
ポートフォリオのβは「加重平均」
複数銘柄を組み合わせたポートフォリオのβは、各銘柄のβを投資比率で加重平均するだけです。
計算の手順(H23 第19問を素材に) 株式A(比率30%・β1.00)、B(30%・0.80)、C(40%・1.80)のポートフォリオ。
ポートフォリオβ = 0.30×1.00 + 0.30×0.80 + 0.40×1.80
= 0.30 + 0.24 + 0.72 = 1.26
⚠️ 引っかけ:βを単純合計(1.00+0.80+1.80=3.6)してはいけません。必ず投資比率で加重平均します。
CAPM(資本資産評価モデル)の公式
CAPMは、「ある証券の期待収益率は、そのシステマティックリスク(β)に応じて決まる」というモデルです。 公式は次の1本。この公式は暗記必須です。
$$ E(r) = r_f + \beta \times \big( E(r_m) - r_f \big) $$
- $r_f$ = 安全利子率(リスクフリーレート)
- $E(r_m)$ = 市場全体の期待収益率
- $E(r_m) - r_f$ = マーケット・リスクプレミアム(市場に投資することへの上乗せ報酬)
- $\beta \times (E(r_m) - r_f)$ = その証券固有のリスクプレミアム
言葉で言うと:期待収益率 = 安全利子率 + β ×(市場リスクプレミアム)。 「安全に置いておけば $r_f$ もらえる。リスクを取る分だけ、βに応じて上乗せがもらえる」という考え方です。
CAPMの計算手順(β加重平均 → 公式代入)
計算の手順(H19 第14問を素材に) X株式(β1.5)に40%、Y株式(β0.8)に60%投資。安全利子率2%、市場期待収益率5%。
ステップ1:ポートフォリオのβを加重平均で出す
βp = 0.4×1.5 + 0.6×0.8 = 0.60 + 0.48 = 1.08
ステップ2:CAPMの公式に代入する
E(rp) = 2% + 1.08×(5% − 2%)
= 2% + 1.08×3%
= 2% + 3.24% = 5.24%
💡 覚え方:CAPMの計算は「①βを加重平均で出す → ②公式に入れる」の2ステップだけ。 引っかけは「投資比率を逆に取る」パターン(X60%・Y40%にするとβ=1.22で別の値)。どちらが何%かを丁寧に。
証券市場線(SML)
CAPMの式を、横軸にβ・縦軸に期待収益率をとってグラフにしたものが証券市場線(SML:Security Market Line)です。
期待収益率
↑ / 証券市場線(SML)
| / 傾き = 市場リスクプレミアム(E(rm)−rf)
| E(rm)・───/・(β=1が市場ポートフォリオ)
| /
| rf ・─── ← 切片 = 安全利子率 rf(β=0のとき)
+──────────────────→ β
- 切片=安全利子率 $r_f$(β=0の資産の収益率)
- 傾き=マーケット・リスクプレミアム $E(r_m) - r_f$
- β=1の点が市場ポートフォリオ(期待収益率= $E(r_m)$)
- SMLより上にある証券は割安(同じβの割に期待収益率が高い=買い)、下は割高、という判断に使います。
⚠️ 混同注意:SMLの横軸は β(システマティックリスク)。前節のCML(資本市場線)の横軸は標準偏差。 「β と期待収益率の直線=SML」「標準偏差 と期待収益率の直線=CML」と紐づけて覚えましょう。
📝 過去問はこう出る(H19 第14問・H23 第19問) - H19 第14問:ポートフォリオのβを加重平均(=1.08)→ CAPMに代入 → 5.24%。投資比率の取り違えが引っかけ。 - H23 第19問:各銘柄のβをウェイトで加重平均 → 1.26。単純合計3.6にする誤りに注意。 → H19 第14問 / H23 第19問
13-4 デリバティブ
デリバティブとは
デリバティブ(金融派生商品)とは、株・債券・為替・金利などの「もと(原資産)」の価格から派生して価値が決まる取引です。 主な目的は、将来の価格変動リスクを避ける(ヘッジ)こと。代表選手は先物・先渡・オプション・スワップの4つです。
① 先物取引と先渡取引 ― 「将来の価格を今決める」
どちらも「将来のある時点に、あらかじめ決めた価格で売買する約束」です。違いは取引の場所と規格化。
| 先物(フューチャー) | 先渡(フォワード) | |
|---|---|---|
| 取引の場所 | 取引所で取引 | 店頭(相対)で当事者間 |
| 規格 | 定型化・標準化(限月・単位が決まっている) | オーダーメイド(条件を当事者が任意に決める) |
| 決済 | 反対売買(差金決済)で満期前でも手仕舞い可 | 原則、満期に現物受渡し |
| 信用リスク | 小さい(取引所が履行を保証) | ある(相手が守らない可能性) |
| 証拠金の値洗い | 日々(マーク・トゥ・マーケット)行う | 通常なし |
⚠️ 引っかけの急所:「先渡取引は期日までに反対売買で差金決済される」→ これは先物の特徴なので誤り。 先渡は原則満期に現物受渡し。「反対売買・差金決済・取引所・値洗い」は先物、 「相対・オーダーメイド・現物受渡し・信用リスクあり」は先渡、とセットで覚えます。
📝 過去問はこう出る(H24 第22問・H29 第21問・R07 第23問) - H24 第22問:先物の記述で不適切なもの=「特定の受渡日に決済される(とは限らない。反対売買で随時決済可)」。 - H29 第21問:不適切=「先渡取引では反対取引を行い差金決済で清算」(それは先物の特徴)。 → H24 第22問 / H29 第21問 / R07 第23問
② オプション取引 ― 「買う権利/売る権利」
オプションは、原資産をあらかじめ決めた価格(行使価格)で売買できる"権利"です。義務ではなく権利なので、 自分に不利なら行使しなくてよい(放棄できる)のがポイント。権利を買うときにプレミアム(オプション料)を払います。
| コール・オプション | プット・オプション | |
|---|---|---|
| 権利の内容 | 原資産を行使価格で買う権利 | 原資産を行使価格で売る権利 |
| 得する方向 | 原資産価格が上がると得 | 原資産価格が下がると得 |
| 行使するのは | 市場価格 > 行使価格のとき | 市場価格 < 行使価格のとき |
買い手の損益(ペイオフ)のイメージ
【コール買い】権利行使価格 K で買う権利 【プット買い】権利行使価格 K で売る権利
損益↑ 損益↑
| /利益は青天井 \ 利益(下がるほど得)
| / \
0 |_____/__________→ 原資産価格 S 0 |___________/________→ 原資産価格 S
|-P ̄ ̄ K | ̄ ̄-P K
(Sが下がっても損失はプレミアムPまで) (Sが上がっても損失はプレミアムPまで)
- 買い手の損失は、支払ったプレミアムまでに限定される(権利は放棄できるから)。
- コール買いの利益は青天井(原資産が上がるほど得)。プット買いは原資産が下がるほど得。
オプションの価値:本質的価値と時間的価値
オプションの価格(プレミアム)は、次の2つの合計です。
$$ \text{オプション価格} = \text{本質的価値} + \text{時間的価値} $$
- 本質的価値:今すぐ権利行使したら得られる利益。
- コールなら「原資産価格 − 行使価格」(マイナスになるならゼロ)。
- 原資産価格 ≦ 行使価格(アウト・オブ・ザ・マネー)なら本質的価値はゼロ。
- 時間的価値:満期までに「もっと有利に動くかも」という期待の分。アット・ザ・マネー(原資産価格=行使価格)付近で最大。
| 状態の呼び方 | コールの場合 | 本質的価値 |
|---|---|---|
| イン・ザ・マネー | 原資産価格 > 行使価格 | プラス(行使すると得) |
| アット・ザ・マネー | 原資産価格 = 行使価格 | ゼロ(時間的価値は最大) |
| アウト・オブ・ザ・マネー | 原資産価格 < 行使価格 | ゼロ(行使しても損) |
コール・オプションの価値を高める要因(他の条件一定)
| 要因 | コールの価値への影響 |
|---|---|
| 原資産価格が高い | 上がる |
| 行使価格が高い | 下がる |
| 価格変動性(ボラティリティ)が高い | 上がる(大きく上昇する可能性が増す) |
| 金利が高い | 上がる(将来払う行使価格の現在価値が下がる) |
| 満期までの期間が長い | 上がる |
⚠️ 引っかけの急所:「ボラティリティ(価格変動性)が高いとコールの価値は低くなる」→ 誤り。 変動が大きいほど「大きく上がるチャンス」が増える一方、下がっても損失はプレミアムまでなので、価値は高くなる。 また「本質的価値がゼロでも、時間的価値が正なら行使する価値がある」も誤り(行使価値はゼロ。あるのは転売価値)。
プット・オプションの満期損益(計算の手順:H19 第15問を素材に) 「Z株式1株 + その株を行使価格525円で売れるプット」を持つ(=プロテクティブ・プット)。満期の収入は「max(満期株価, 525)」。
満期株価が500円のとき:500 < 525 → プットを行使して525円で売る → 収入 525円
満期株価が600円のとき:600 > 525 → プットは放棄、市場で600円で売る → 収入 600円
「株+プット」で、下値を行使価格で保証しつつ値上がり益は享受できる、という保険のような使い方です。
📝 過去問はこう出る(H30 第15問・R01 第14問・H26 第22問・H19 第15問) - H30 第15問:オプション価格=本質的価値+時間的価値。本質的価値=原資産価格−行使価格。 - R01 第14問:不適切=「本質的価値ゼロでも時間的価値が正なら行使価値がある」(行使価値はない)。 - H26 第22問:不適切=「ボラティリティが高いとコールの価値は低くなる」(正しくは高くなる)。 - H19 第15問:株+プット(プロテクティブ・プット)の満期収入=max(満期株価, 行使価格)。 → H30 第15問 / R01 第14問 / H26 第22問 / H19 第15問
③ スワップ取引 ― 「キャッシュフローを交換する」
スワップは、当事者どうしが将来のキャッシュフロー(金利や通貨)を交換(swap)する取引です。
| 種類 | 交換するもの | 元本の交換 |
|---|---|---|
| 金利スワップ | 同一通貨の金利のみ(固定金利 ⇔ 変動金利など) | しない(想定元本に基づき金利だけ交換) |
| 通貨スワップ | 異なる通貨の元本+金利 | する(元本も交換) |
- 金利スワップ:例「変動金利で借りている企業が、金利上昇リスクを避けたい」→ 「変動金利受取・固定金利支払」のスワップを結ぶと、実質的に固定金利の支払に変えられる。 比較優位の原理で、各企業が有利な市場で調達した債務を交換すれば、双方の調達コストを下げられます。
- 通貨スワップ:異なる通貨の元本と金利の両方を交換するのが通常。金利だけ交換する「クーポン・スワップ」もある。
⚠️ 引っかけの急所:「金利スワップでは元本も交換する」→ 誤り(金利のみ。元本は想定元本で交換しない)。 「変動金利借入のヘッジには固定金利受取・変動金利支払のスワップ」→ 誤り(正しくは変動受取・固定支払)。
📝 過去問はこう出る(H23 第21問・R07 第24問) - H23 第21問:適切=「比較優位にある市場で調達し債務をスワップすれば互いに有利」。「元本も交換」は誤り。 - R07 第24問:適切=「通常の通貨スワップでは、異なる通貨の元本および金利を交換する」。 「通常の金利スワップで元本を交換する」は誤り。 → H23 第21問 / R07 第24問
④ ヘッジ(為替予約)― 将来の為替レートを固定する
ヘッジとは、価格変動リスクを打ち消す取引のこと。試験では為替予約(為替リスクのヘッジ)が繰り返し出ます。 為替予約は「将来の決済で使う為替レートを、今の時点で予約して固定する」取引です。
考え方のコツ:予約すると受払額が予約レートで確定します。あとは「予約しなかったら(=満期の直物レート)どうだったか」と比べて、有利・不利を判定します。
計算の手順(ドル建て"支払"のヘッジ:R05 第23問を素材に) 3か月後に1万ドルを支払う予定。1ドル131円で1万ドルを買う予約(支払を131万円で固定)。
予約あり:支払 = 131円 × 1万ドル = 131万円(固定)
[A] 3か月後の直物が134円のとき
予約なしなら 134円×1万ドル = 134万円 → 予約した方が 134−131 = 3万円 少なくなる(円安で得)
[B] 3か月後の直物が125円のとき
予約なしなら 125円×1万ドル = 125万円 → 予約した方が 131−125 = 6万円 多くなる(円高で損)
計算の手順(ドル建て"債権(受取)"のヘッジ:H20 第21問を素材に) ドル建て債権を持つ企業が、1ドル104円でドル売り予約(受取を104円/ドルで固定)。
[A] 満期の直物が108円のとき:予約なしなら108円で売れた → 予約は104円固定なので 4円/ドル 手取りが少なくなる(円安の利益を逃す)
[B] 満期の直物が103円のとき:予約なしなら103円でしか売れない → 予約104円の方が 1円/ドル 手取りが多くなる(円高から守られた)
💡 覚え方:予約は「レートを固定してリスク(ブレ)をなくす」もの。 予約したことで得することも損することもある(=有利・不利は結果次第)。 支払(ドルを買う予約)は円安になると予約で得・円高だと損、受取(ドルを売る予約)はその逆。 「予約レートで固定 → 満期の直物と比較」の手順で毎回解けます。
📝 過去問はこう出る(H20 第21問・R05 第23問・H22 第18問・H25 第22問) - R05 第23問:支払1万ドルを131円で買う予約。直物134円で「3万円少なくなる」、125円で「6万円多くなる」。 - H20 第21問:ドル建債権を104円で売る予約。直物108円で「手取り少なくなる」、103円で「多くなる」。 → R05 第23問 / H20 第21問
この章のまとめ(試験直前チェック)
- ☐ 期待収益率=Σ(収益率×確率)(確率で重みづけした平均)
- ☐ 分散=Σ{(収益率−期待値)²×確率}/標準偏差=√分散(最後に√を忘れない)
- ☐ ポートフォリオの期待収益率は加重平均でよいが、標準偏差は加重平均してはいけない
- ☐ 2資産の分散:σ²ₚ = w₁²σ₁² + w₂²σ₂² + 2w₁w₂ρσ₁σ₂(共分散 = ρσ₁σ₂)
- ☐ 相関係数が小さい(負に大きい)ほど分散投資効果が大きい。ρ=−1で最大(リスク0も可)、ρ=+1で効果なし
- ☐ 安全資産+リスク資産:標準偏差=リスク資産比率×そのσ(安全資産はσ=0)
- ☐ 効率的(有効)フロンティア=同リスクでリターン最大の上側曲線/資本市場線(CML)=リスクフリー点から接点への直線(横軸は標準偏差)
- ☐ リスク=システマティック(分散不能・市場) + 非システマティック(分散可能・個別)。分散で消えるのは非システマティック
- ☐ βは加重平均(単純合計しない)。β>1は市場より大きく動く
- ☐ CAPM:E(r)=rf+β×(E(rm)−rf)(安全利子率+β×市場リスクプレミアム)
- ☐ 証券市場線(SML)=横軸β・縦軸期待収益率(CMLは横軸が標準偏差/取り違え注意)
- ☐ 先物=取引所・標準化・反対売買(差金決済)・値洗い・信用リスク小/先渡=相対・オーダーメイド・現物受渡し・信用リスクあり
- ☐ コール=買う権利(上がると得)/プット=売る権利(下がると得)。買い手の損失はプレミアムまで
- ☐ オプション価格=本質的価値+時間的価値。ボラティリティ↑・金利↑・原資産↑でコール価値↑
- ☐ 金利スワップ=金利のみ交換(元本交換なし)/通貨スワップ=元本+金利を交換
- ☐ 為替予約=レートを固定してリスクをなくす。「予約レートで確定 → 満期の直物と比較」で有利・不利を判定
この章に対応する主な過去問
| 年度・問 | 論点 | リンク |
|---|---|---|
| H19 第14問 | CAPMによるポートフォリオの期待収益率 | 問題 |
| H19 第15問 | プット・オプションの満期損益 | 問題 |
| H20 第20問 | ポートフォリオの期待値と標準偏差(軌跡) | 問題 |
| H20 第21問 | 為替予約(為替リスクヘッジ) | 問題 |
| H21 第17問 | 効率的フロンティア(資本市場線) | 問題 |
| H22 第16問 | ポートフォリオのリスク低減効果 | 問題 |
| H23 第19問 | ポートフォリオのβ値 | 問題 |
| H23 第21問 | 金利スワップ取引 | 問題 |
| H24 第19問 | 安全資産との組み合わせ運用 | 問題 |
| H24 第22問 | 先物取引 | 問題 |
| H26 第22問 | コール・オプションの価値 | 問題 |
| H27 第17問 | ポートフォリオの収益率とリスク(期待値・標準偏差) | 問題 |
| H28 第15問 | 期待収益率・共分散・相関係数 | 問題 |
| H29 第21問 | 先渡取引と先物取引 | 問題 |
| H30 第15問 | コールオプションの価格(本質的価値・時間的価値) | 問題 |
| H30 第16問 | 分散投資とシステマティックリスク | 問題 |
| H30 第17問 | 有効フロンティアと資本市場線 | 問題 |
| R01 第14問 | オプション(本質的価値・時間的価値) | 問題 |
| R01 第17問 | 2資産ポートフォリオのリターンとリスク | 問題 |
| R04 第15問 | ポートフォリオの収益率の標準偏差 | 問題 |
| R05 第23問 | 為替予約(為替リスクヘッジ) | 問題 |
| R06 第19問 | 効率的フロンティアと資本市場線(リスクプレミアム) | 問題 |
| R07 第24問 | スワップ | 問題 |
全13章、おつかれさまでした 🎉
これで「財務・会計」全13章の本編は完結です。簿記の基礎から始まり、財務諸表、原価計算、経営分析、 CVP、意思決定会計、企業価値評価、資本コスト、そして本章の証券投資・デリバティブまで── 財務・会計の全体像をひととおり歩ききりました。本当におつかれさまでした。
財務・会計は、「理屈を理解する」よりも「手を動かして計算パターンを体に覚えさせる」ことで得点が安定する科目です。 一度読んで終わりにせず、各章末の過去問リンクを実際に解いて、間違えたら本文に戻る、を繰り返してください。
付録のご案内 ▶ 本編を終えたら、仕上げに次の付録もご活用ください。 - 付録A:頻出公式・計算式ワンページ集(本書で登場した公式を1枚に凝縮。直前の見直しに) - 付録B:年度別・論点別の過去問インデックス(H19〜R07。弱点分野を狙い撃ちで演習) - 付録C:試験直前チェックリスト総まとめ(全13章の「直前チェック」を通しで確認)
あなたの合格を、心から応援しています。がんばってください!