第13章 証券投資とデリバティブ

この章のねらい 財務・会計の最終章は、「株や証券にどう投資すればよいか(証券投資論)」と 「先物・オプションなどのリスク回避商品(デリバティブ)」を扱います。 ここは毎年ほぼ確実に3〜4問が出る大得点源で、しかも計算パターンがほぼ決まっている分野です。 期待収益率・標準偏差の計算、2資産ポートフォリオの分散、相関係数と分散投資効果、CAPMの公式、 オプションの満期損益──この5つを「手が勝手に動く」まで反復すれば、本番でまとめて得点できます。

過去問での出方:財務・会計の第14問〜第24問あたりに固まって出ます。 ポートフォリオ計算(期待値・標準偏差・β)は毎年、デリバティブ(先物・オプション・スワップ・為替予約)も毎年。 理論(効率的フロンティア・資本市場線・システマティックリスク)は語句の穴埋め・図の読み取りで問われます。 公式の丸暗記+計算の型で確実に取りにいきましょう。


13-0 この章の地図

この章は、「1つの資産のリスクをどう測るか」から始めて、「複数に分けて投資するとどうなるか(分散投資)」、 「市場全体との関係でリターンを説明する理論(CAPM)」、最後に「リスクを取引する商品(デリバティブ)」へと進みます。

13-1 期待収益率とリスク       … 期待値・分散・標準偏差(1資産のものさし)
   │
13-2 ポートフォリオ理論       … 分散投資/相関係数/2資産の期待値・分散/効率的フロンティア(★計算頻出)
   │
13-3 CAPMとβ                … システマティックリスク/β/CAPMの公式/証券市場線SML
   │
13-4 デリバティブ            … 先物・先渡/オプション(コール・プット)/スワップ/為替予約(★頻出)
  • 13-1〜13-2は「数字を出す」計算問題。公式を覚えれば毎年得点できます。
  • 13-3はCAPMの公式1本が主役。加重平均でβを出して当てはめるだけです。
  • 13-4は言葉の意味(先物と先渡の違い、コールとプット、スワップの種類)と、為替予約の有利・不利の計算が中心。

13-1 期待収益率とリスク(期待値・標準偏差・分散)

まず「リターン」と「リスク」を数字にする

投資の世界では、

  • リターン(収益率)の期待値 = 平均してどれくらい儲かりそうか
  • リスク = その儲けがどれくらいブレるか(=ばらつきの大きさ)

で投資案を評価します。ここで大事なのは、「リスク=損すること」ではなく「リスク=ばらつき(不確実性)」という点です。 統計の言葉で言うと、リスクは標準偏差(または分散)で測ります。

① 期待収益率(期待値)= 確率で重みづけした平均

将来の収益率が、確率つきで「こうなりそう」と分かっているとき、 期待収益率は「各シナリオの収益率 × その確率」を全部足したものです。

$$ E(r) = \sum (\text{各シナリオの収益率} \times \text{その確率}) $$

計算の手順(H27 第14問・設問1を素材に)

プロジェクトAの収益率が「猛暑40%なら5%/例年並み40%なら2%/冷夏20%なら▲4%」と予想されているとき、

ステップ1:各シナリオの「収益率 × 確率」を出す
   猛暑 :  5% × 0.4 =  2.0%
   例年 :  2% × 0.4 =  0.8%
   冷夏 : ▲4% × 0.2 = ▲0.8%
ステップ2:全部足す
   期待収益率 E(r) = 2.0 + 0.8 − 0.8 = 2%

② 分散・標準偏差 = 「期待値からどれだけズレるか」

分散は「(各シナリオの収益率 − 期待値)の2乗 × 確率」を足したもの。 2乗するのは、プラスのズレとマイナスのズレを打ち消し合わせないためです。 標準偏差はその分散の平方根(√)で、単位が元の%に戻るので実務では標準偏差をよく使います。

$$ \text{分散 } \sigma^2 = \sum \big{(\text{収益率}-E(r))^2 \times \text{確率}\big}, \qquad \text{標準偏差 } \sigma = \sqrt{\sigma^2} $$

計算の手順(続き:プロジェクトA、期待値2%)

ステップ1:各シナリオの「期待値からのズレ(偏差)」を2乗する
   猛暑 : (5 − 2)²  = 9
   例年 : (2 − 2)²  = 0
   冷夏 : (▲4 − 2)² = 36
ステップ2:それぞれ確率で重みづけして足す(=分散)
   分散 = 9×0.4 + 0×0.4 + 36×0.2 = 3.6 + 0 + 7.2 = 10.8
ステップ3:平方根をとる(=標準偏差)
   標準偏差 = √10.8 ≒ 3.3%

⚠️ 混同注意:「分散」と「標準偏差」を取り違えない この問題(H27 第14問・設問1)の引っかけ選択肢は「標準偏差:10.8%」でした。 10.8 は分散であって、標準偏差はその平方根 √10.8 ≒ 3.3% です。 「√をとり忘れて分散のまま答える」ミスは頻出。最後に√を忘れないを合言葉に。

📝 過去問はこう出る(H27 第14問) 確率つきの収益率表から、プロジェクトAの期待値と標準偏差の組み合わせを選ばせる問題。 正解は「期待値2%・標準偏差3.3%」。期待値の計算ミス(1%)や、分散のまま答えた「標準偏差10.8%」が引っかけ。 → H27 第17問

📝 過去問はこう出る(H28 第15問) 4つのシナリオ(各25%)の収益率表から、期待値・共分散・相関係数まで問う総合問題。 期待値は単純平均(例:投資案A=(2+5+11+14)/4=8%)。 「投資案Cの偏差は投資案Aの偏差のちょうど2倍 → CとAは相関+1、Cの標準偏差はAの2倍」という 偏差の比で相関を見抜く視点が問われました。 → H28 第15問


13-2 ポートフォリオ理論

分散投資(ポートフォリオ)とは

ポートフォリオとは、複数の資産を組み合わせた「持ち合わせ」のこと。 「卵は1つのカゴに盛るな」という格言のとおり、複数の資産に分散して投資すると、 期待収益率はほぼ加重平均のままなのに、リスク(標準偏差)だけを下げられることがあります。 これが分散投資効果(リスク低減効果)です。ポートフォリオ理論の主役はここです。

ポイント①:期待収益率は「単純に加重平均」でよい

2資産(YとZ)に投資比率 $w_Y, w_Z$ で投資したときのポートフォリオの期待収益率は、 各資産の期待収益率をそのまま投資比率で加重平均するだけです。ここに割引や相関は関係ありません。

$$ E(r_p) = w_Y \cdot E(r_Y) + w_Z \cdot E(r_Z) $$

ポイント②:分散(リスク)は「相関係数」で変わる

ところが分散(リスク)は単純な加重平均にはなりません。 2資産の値動きが「どれくらい連動しているか」を表す相関係数 ρ(ロー)によって、リスクが変わります。 2資産ポートフォリオの分散の公式は次のとおりです。この公式は財務・会計で最も出る計算式のひとつです。

$$ \sigma_p^2 = w_Y^2 \sigma_Y^2 + w_Z^2 \sigma_Z^2 + 2\, w_Y w_Z\, \rho\, \sigma_Y \sigma_Z $$

  • 第1項・第2項=それぞれの資産のリスク寄与
  • 第3項=2資産の連動(共分散)部分。ここに相関係数 ρ が効きます。
  • $\rho \sigma_Y \sigma_Z$ を共分散(Cov)と呼びます($\text{Cov} = \rho \sigma_Y \sigma_Z$)。

相関係数 ρ の意味 ―「−1から+1まで」

ρ の値 2資産の関係 分散投資効果
ρ = +1 完全な正の相関(同じ方向に動く) 効果なし(リスクは加重平均のまま)
0 < ρ < +1 弱い正の相関 少しある
ρ = 0 無相関(バラバラに動く) ある
−1 < ρ < 0 負の相関(逆方向に動きがち) 大きい
ρ = −1 完全な負の相関(正反対に動く) 最大(理論上リスクをゼロにできる)

💡 覚え方相関係数が小さい(負に大きい)ほど、分散投資効果は大きい。 ρ=−1でリスク最小(ゼロも可能)、ρ=+1で効果ゼロ。「逆に動く2つを組めばブレが打ち消し合う」とイメージ。

2資産の分散を実際に計算してみる(相関ゼロのケース)

計算の手順(R04 第15問を素材に) 証券Y(標準偏差10%)と証券Z(標準偏差20%)に等額ずつ(各50%)投資、相関係数 ρ=0のとき。

ステップ1:投資比率を入れる  w_Y = w_Z = 0.5
ステップ2:分散の公式に代入(ρ=0 なので第3項は消える)
   σ²ₚ = 0.5²×10² + 0.5²×20² + 0
       = 0.25×100 + 0.25×400
       = 25 + 100 = 125
ステップ3:平方根をとって標準偏差にする
   σₚ = √125 ≒ 11.2%

ここで注目したいのは、単純に加重平均した標準偏差(10×0.5+20×0.5=15%)よりも小さい11.2%になっている点。 この「15% → 11.2%」への低下こそが分散投資効果です。

⚠️ 混同注意:期待収益率は加重平均でよい(15%的な計算でOK)が、標準偏差は加重平均してはいけない。 必ず分散の公式に入れて計算し、最後に√をとります。この違いが選択肢の引っかけになります。

分散投資効果とリスクの図(軌跡の形)

2資産の投資比率をいろいろ変えると、横軸に標準偏差(リスク)・縦軸に期待収益率をとった平面上に軌跡が描けます。 その形は相関係数で変わります。

期待収益率
  ↑           ・Z(高リスク高リターン)
  |         /
  |       /  ← ρ=+1:直線(分散効果なし)
  |     / ⌒⌒  ← −1<ρ<+1:左に膨らむ曲線(分散効果あり)
  |   / /
  | ・Y
  +──────────────→ 標準偏差(リスク)
  • ρ=+1:YとZを結ぶ直線(分散投資効果がない)。
  • −1<ρ<+1:直線より左(リスクが小さい側)に膨らんだ曲線(双曲線状)。
  • ρ=−1縦軸(標準偏差=0)に達する折れ線(リスクをゼロにできる組合せが存在)。

📝 過去問はこう出る(H20 第20問・R01 第17問) 2資産の投資比率を変えたときの「リスク・リターンの軌跡の形」を問う定番問題。 −1<ρ<1なら「直線より左に膨らむ曲線」、ρ=+1なら「直線」、ρ=−1なら「縦軸に達する軌跡」。 R01 第17問は空欄補充で「Aは相関係数、+1で直線、小さくなるほど左に膨らむ、−1でリスク0」を選ばせました。 → H20 第20問R01 第17問

📝 過去問はこう出る(H22 第16問) 「分散投資のリスク低減効果が最大になるのは?」→ 正解は「完全に負相関(ρ=−1)の場合」。 完全正相関(ρ=+1)は効果ゼロ、無相関(ρ=0)や弱い負相関は効果はあるが最大ではない、が引っかけ。 → H22 第16問

安全資産(リスクフリー資産)を組み合わせる場合

安全資産(国債など、標準偏差=0のリスクなし資産)とリスク資産を組み合わせるときは、計算がぐっと簡単になります。 安全資産はリスクゼロ・リスク資産との共分散もゼロなので、公式の第2項・第3項が消え、

$$ \sigma_p = (\text{リスク資産への投資比率}) \times (\text{リスク資産の標準偏差}) $$

だけで標準偏差が求まります。

計算の手順(H24 第19問を素材に) 安全資産(収益率2%・標準偏差0%)とリスク資産(期待収益率8%・標準偏差6%)に等額(各50%)投資。

期待収益率 = 0.5×2% + 0.5×8% = 1% + 4% = 5%   (期待値は加重平均)
標準偏差   = 0.5 × 6% = 3%                     (リスク資産の比率×そのσ)

効率的フロンティアと資本市場線

  • 投資機会集合:作れるポートフォリオ(リスク・リターンの組み合わせ)すべての集合。
  • 効率的フロンティア(有効フロンティア):投資機会集合のうち、 「同じリスクならリターン最大/同じリターンならリスク最小」という効率的な組合せだけを結んだ上側の曲線。 合理的な投資家はこの線上から選びます。
  • 資本市場線(CML):安全資産(リスクフリーレート)を加えると、 「リスクフリーレートの点から、危険資産の効率的フロンティアに接する直線」が最も効率的になります。これが資本市場線。 接点を接点ポートフォリオ(市場ポートフォリオ)と呼びます。
リターン
  ↑                        効率的フロンティア(危険資産のみ)
  |                    __─ \ の上側の曲線
  |              接点D/
  |          /・      ← 資本市場線(安全資産B点から接点Dへ引いた直線)
  |        /
  |  B・(リスクフリーレート)
  +──────────────────────→ リスク(標準偏差)

⚠️ 混同注意:資本市場線(CML)と証券市場線(SML)は別物 - 資本市場線(CML):横軸が標準偏差(総リスク)。効率的ポートフォリオのリスク・リターンを表す(13-2)。 - 証券市場線(SML):横軸がβ(システマティックリスク)。個別証券の期待収益率を表す(13-3、CAPM)。 「安全資産+ポートフォリオの直線」=CML、「β と期待収益率の直線」=SML。この取り違えが頻出です。

📝 過去問はこう出る(H21 第17問・H30 第17問・R06 第19問) - H21 第17問:安全資産で自由に借入・貸出できるとき、効率的フロンティアは「リスクフリーレート点から危険資産フロンティアに接する直線(資本市場線)」。 - H30 第17問:危険資産のみの集合の上側の曲線=有効フロンティア、安全資産と接点を結ぶ直線=資本市場線。 - R06 第19問:投資家が保有するポートフォリオのリスクプレミアム=「保有ポートフォリオ(点C)の期待収益率 − リスクフリーレート(点B)」。 → H21 第17問H30 第17問R06 第19問


13-3 CAPMとβ(ベータ)

システマティックリスクと非システマティックリスク

分散投資でリスクは減らせますが、いくら分散しても消えないリスクがあります。 リスクは次の2つに分けられます(H30 第16問)。

リスクの種類 別名 分散で消せるか 中身
非システマティックリスク 分散可能リスク・個別リスク 消せる 特定企業の不祥事・新製品の失敗など、個別銘柄固有の要因
システマティックリスク 分散不能リスク・市場リスク 消せない 景気・金利・為替など、市場全体に共通する要因
リスク
  ↑
  |\
  | \_          ← ① 非システマティックリスク(銘柄を増やすと消える部分)
  |    \__
  |          ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ← ② システマティックリスク(いくら分散しても残る下限)
  +──────────────────→ 組込銘柄数

📝 過去問はこう出る(H30 第16問) 分散投資でリスクが減る図。銘柄数を増やすと急減してから水平に近づく形(図B)が正しい。 消える上側①=非システマティックリスク、残る下側②=システマティックリスク。①②の逆・図の取り違えが引っかけ。 → H30 第16問

β(ベータ)= 市場に対する感応度

βは、市場全体(TOPIXなど)が動いたとき、その株がどれくらい敏感に動くかを表す数字です。

  • β=1:市場と同じだけ動く
  • β>1:市場より大きく動く(=ハイリスク・ハイリターン。例:β=1.5)
  • β<1:市場より小さく動く(=ディフェンシブ。例:β=0.8)

βはシステマティックリスクの大きさを測るものさしです(分散で消せる個別リスクは含みません)。

ポートフォリオのβは「加重平均」

複数銘柄を組み合わせたポートフォリオのβは、各銘柄のβを投資比率で加重平均するだけです。

計算の手順(H23 第19問を素材に) 株式A(比率30%・β1.00)、B(30%・0.80)、C(40%・1.80)のポートフォリオ。

ポートフォリオβ = 0.30×1.00 + 0.30×0.80 + 0.40×1.80
              = 0.30 + 0.24 + 0.72 = 1.26

⚠️ 引っかけ:βを単純合計(1.00+0.80+1.80=3.6)してはいけません。必ず投資比率で加重平均します。

CAPM(資本資産評価モデル)の公式

CAPMは、「ある証券の期待収益率は、そのシステマティックリスク(β)に応じて決まる」というモデルです。 公式は次の1本。この公式は暗記必須です。

$$ E(r) = r_f + \beta \times \big( E(r_m) - r_f \big) $$

  • $r_f$ = 安全利子率(リスクフリーレート)
  • $E(r_m)$ = 市場全体の期待収益率
  • $E(r_m) - r_f$ = マーケット・リスクプレミアム(市場に投資することへの上乗せ報酬)
  • $\beta \times (E(r_m) - r_f)$ = その証券固有のリスクプレミアム

言葉で言うと:期待収益率 = 安全利子率 + β ×(市場リスクプレミアム)。 「安全に置いておけば $r_f$ もらえる。リスクを取る分だけ、βに応じて上乗せがもらえる」という考え方です。

CAPMの計算手順(β加重平均 → 公式代入)

計算の手順(H19 第14問を素材に) X株式(β1.5)に40%、Y株式(β0.8)に60%投資。安全利子率2%、市場期待収益率5%。

ステップ1:ポートフォリオのβを加重平均で出す
   βp = 0.4×1.5 + 0.6×0.8 = 0.60 + 0.48 = 1.08
ステップ2:CAPMの公式に代入する
   E(rp) = 2% + 1.08×(5% − 2%)
         = 2% + 1.08×3%
         = 2% + 3.24% = 5.24%

💡 覚え方:CAPMの計算は「①βを加重平均で出す → ②公式に入れる」の2ステップだけ。 引っかけは「投資比率を逆に取る」パターン(X60%・Y40%にするとβ=1.22で別の値)。どちらが何%かを丁寧に

証券市場線(SML)

CAPMの式を、横軸にβ・縦軸に期待収益率をとってグラフにしたものが証券市場線(SML:Security Market Line)です。

期待収益率
  ↑                      / 証券市場線(SML)
  |                   /   傾き = 市場リスクプレミアム(E(rm)−rf)
  |     E(rm)・───/・(β=1が市場ポートフォリオ)
  |            /
  |  rf ・───     ← 切片 = 安全利子率 rf(β=0のとき)
  +──────────────────→ β
  • 切片=安全利子率 $r_f$(β=0の資産の収益率)
  • 傾き=マーケット・リスクプレミアム $E(r_m) - r_f$
  • β=1の点が市場ポートフォリオ(期待収益率= $E(r_m)$)
  • SMLより上にある証券は割安(同じβの割に期待収益率が高い=買い)、下は割高、という判断に使います。

⚠️ 混同注意SMLの横軸は β(システマティックリスク)。前節のCML(資本市場線)の横軸は標準偏差。 「β と期待収益率の直線=SML」「標準偏差 と期待収益率の直線=CML」と紐づけて覚えましょう。

📝 過去問はこう出る(H19 第14問・H23 第19問) - H19 第14問:ポートフォリオのβを加重平均(=1.08)→ CAPMに代入 → 5.24%。投資比率の取り違えが引っかけ。 - H23 第19問:各銘柄のβをウェイトで加重平均 → 1.26。単純合計3.6にする誤りに注意。 → H19 第14問H23 第19問


13-4 デリバティブ

デリバティブとは

デリバティブ(金融派生商品)とは、株・債券・為替・金利などの「もと(原資産)」の価格から派生して価値が決まる取引です。 主な目的は、将来の価格変動リスクを避ける(ヘッジ)こと。代表選手は先物・先渡・オプション・スワップの4つです。

① 先物取引と先渡取引 ― 「将来の価格を今決める」

どちらも「将来のある時点に、あらかじめ決めた価格で売買する約束」です。違いは取引の場所と規格化。

先物(フューチャー) 先渡(フォワード)
取引の場所 取引所で取引 店頭(相対)で当事者間
規格 定型化・標準化(限月・単位が決まっている) オーダーメイド(条件を当事者が任意に決める)
決済 反対売買(差金決済)で満期前でも手仕舞い可 原則、満期に現物受渡し
信用リスク 小さい(取引所が履行を保証) ある(相手が守らない可能性)
証拠金の値洗い 日々(マーク・トゥ・マーケット)行う 通常なし

⚠️ 引っかけの急所:「先渡取引は期日までに反対売買で差金決済される」→ これは先物の特徴なので誤り。 先渡は原則満期に現物受渡し。「反対売買・差金決済・取引所・値洗い」は先物、 「相対・オーダーメイド・現物受渡し・信用リスクあり」は先渡、とセットで覚えます。

📝 過去問はこう出る(H24 第22問・H29 第21問・R07 第23問) - H24 第22問:先物の記述で不適切なもの=「特定の受渡日に決済される(とは限らない。反対売買で随時決済可)」。 - H29 第21問:不適切=「先渡取引では反対取引を行い差金決済で清算」(それは先物の特徴)。 → H24 第22問H29 第21問R07 第23問

② オプション取引 ― 「買う権利/売る権利」

オプションは、原資産をあらかじめ決めた価格(行使価格)で売買できる"権利"です。義務ではなく権利なので、 自分に不利なら行使しなくてよい(放棄できる)のがポイント。権利を買うときにプレミアム(オプション料)を払います。

コール・オプション プット・オプション
権利の内容 原資産を行使価格で買う権利 原資産を行使価格で売る権利
得する方向 原資産価格が上がると得 原資産価格が下がると得
行使するのは 市場価格 > 行使価格のとき 市場価格 < 行使価格のとき

買い手の損益(ペイオフ)のイメージ

【コール買い】権利行使価格 K で買う権利      【プット買い】権利行使価格 K で売る権利
  損益↑                                      損益↑
   |         /利益は青天井                  \  利益(下がるほど得)
   |        /                               \
 0 |_____/__________→ 原資産価格 S         0 |___________/________→ 原資産価格 S
   |-P ̄ ̄  K                                    | ̄ ̄-P     K
   (Sが下がっても損失はプレミアムPまで)      (Sが上がっても損失はプレミアムPまで)
  • 買い手の損失は、支払ったプレミアムまでに限定される(権利は放棄できるから)。
  • コール買いの利益は青天井(原資産が上がるほど得)。プット買いは原資産が下がるほど得

オプションの価値:本質的価値と時間的価値

オプションの価格(プレミアム)は、次の2つの合計です。

$$ \text{オプション価格} = \text{本質的価値} + \text{時間的価値} $$

  • 本質的価値:今すぐ権利行使したら得られる利益。
  • コールなら「原資産価格 − 行使価格」(マイナスになるならゼロ)。
  • 原資産価格 ≦ 行使価格(アウト・オブ・ザ・マネー)なら本質的価値はゼロ
  • 時間的価値:満期までに「もっと有利に動くかも」という期待の分。アット・ザ・マネー(原資産価格=行使価格)付近で最大
状態の呼び方 コールの場合 本質的価値
イン・ザ・マネー 原資産価格 > 行使価格 プラス(行使すると得)
アット・ザ・マネー 原資産価格 = 行使価格 ゼロ(時間的価値は最大)
アウト・オブ・ザ・マネー 原資産価格 < 行使価格 ゼロ(行使しても損)

コール・オプションの価値を高める要因(他の条件一定)

要因 コールの価値への影響
原資産価格が高い 上がる
行使価格が高い 下がる
価格変動性(ボラティリティ)が高い 上がる(大きく上昇する可能性が増す)
金利が高い 上がる(将来払う行使価格の現在価値が下がる)
満期までの期間が長い 上がる

⚠️ 引っかけの急所:「ボラティリティ(価格変動性)が高いとコールの価値は低くなる」→ 誤り。 変動が大きいほど「大きく上がるチャンス」が増える一方、下がっても損失はプレミアムまでなので、価値は高くなる。 また「本質的価値がゼロでも、時間的価値が正なら行使する価値がある」も誤り(行使価値はゼロ。あるのは転売価値)。

プット・オプションの満期損益(計算の手順:H19 第15問を素材に) 「Z株式1株 + その株を行使価格525円で売れるプット」を持つ(=プロテクティブ・プット)。満期の収入は「max(満期株価, 525)」。

満期株価が500円のとき:500 < 525 → プットを行使して525円で売る → 収入 525円
満期株価が600円のとき:600 > 525 → プットは放棄、市場で600円で売る → 収入 600円

「株+プット」で、下値を行使価格で保証しつつ値上がり益は享受できる、という保険のような使い方です。

📝 過去問はこう出る(H30 第15問・R01 第14問・H26 第22問・H19 第15問) - H30 第15問:オプション価格=本質的価値+時間的価値。本質的価値=原資産価格−行使価格。 - R01 第14問:不適切=「本質的価値ゼロでも時間的価値が正なら行使価値がある」(行使価値はない)。 - H26 第22問:不適切=「ボラティリティが高いとコールの価値は低くなる」(正しくは高くなる)。 - H19 第15問:株+プット(プロテクティブ・プット)の満期収入=max(満期株価, 行使価格)。 → H30 第15問R01 第14問H26 第22問H19 第15問

③ スワップ取引 ― 「キャッシュフローを交換する」

スワップは、当事者どうしが将来のキャッシュフロー(金利や通貨)を交換(swap)する取引です。

種類 交換するもの 元本の交換
金利スワップ 同一通貨の金利のみ(固定金利 ⇔ 変動金利など) しない(想定元本に基づき金利だけ交換)
通貨スワップ 異なる通貨の元本+金利 する(元本も交換)
  • 金利スワップ:例「変動金利で借りている企業が、金利上昇リスクを避けたい」→ 「変動金利受取・固定金利支払」のスワップを結ぶと、実質的に固定金利の支払に変えられる。 比較優位の原理で、各企業が有利な市場で調達した債務を交換すれば、双方の調達コストを下げられます。
  • 通貨スワップ:異なる通貨の元本と金利の両方を交換するのが通常。金利だけ交換する「クーポン・スワップ」もある。

⚠️ 引っかけの急所:「金利スワップでは元本も交換する」→ 誤り(金利のみ。元本は想定元本で交換しない)。 「変動金利借入のヘッジには固定金利受取・変動金利支払のスワップ」→ 誤り(正しくは変動受取・固定支払)。

📝 過去問はこう出る(H23 第21問・R07 第24問) - H23 第21問:適切=「比較優位にある市場で調達し債務をスワップすれば互いに有利」。「元本も交換」は誤り。 - R07 第24問:適切=「通常の通貨スワップでは、異なる通貨の元本および金利を交換する」。 「通常の金利スワップで元本を交換する」は誤り。 → H23 第21問R07 第24問

④ ヘッジ(為替予約)― 将来の為替レートを固定する

ヘッジとは、価格変動リスクを打ち消す取引のこと。試験では為替予約(為替リスクのヘッジ)が繰り返し出ます。 為替予約は「将来の決済で使う為替レートを、今の時点で予約して固定する」取引です。

考え方のコツ:予約すると受払額が予約レートで確定します。あとは「予約しなかったら(=満期の直物レート)どうだったか」と比べて、有利・不利を判定します。

計算の手順(ドル建て"支払"のヘッジ:R05 第23問を素材に) 3か月後に1万ドルを支払う予定。1ドル131円で1万ドルを買う予約(支払を131万円で固定)。

予約あり:支払 = 131円 × 1万ドル = 131万円(固定)
[A] 3か月後の直物が134円のとき
   予約なしなら 134円×1万ドル = 134万円 → 予約した方が 134−131 = 3万円 少なくなる(円安で得)
[B] 3か月後の直物が125円のとき
   予約なしなら 125円×1万ドル = 125万円 → 予約した方が 131−125 = 6万円 多くなる(円高で損)

計算の手順(ドル建て"債権(受取)"のヘッジ:H20 第21問を素材に) ドル建て債権を持つ企業が、1ドル104円でドル売り予約(受取を104円/ドルで固定)。

[A] 満期の直物が108円のとき:予約なしなら108円で売れた → 予約は104円固定なので 4円/ドル 手取りが少なくなる(円安の利益を逃す)
[B] 満期の直物が103円のとき:予約なしなら103円でしか売れない → 予約104円の方が 1円/ドル 手取りが多くなる(円高から守られた)

💡 覚え方:予約は「レートを固定してリスク(ブレ)をなくす」もの。 予約したことで得することも損することもある(=有利・不利は結果次第)。 支払(ドルを買う予約)は円安になると予約で得・円高だと損、受取(ドルを売る予約)はその逆。 「予約レートで固定 → 満期の直物と比較」の手順で毎回解けます。

📝 過去問はこう出る(H20 第21問・R05 第23問・H22 第18問・H25 第22問) - R05 第23問:支払1万ドルを131円で買う予約。直物134円で「3万円少なくなる」、125円で「6万円多くなる」。 - H20 第21問:ドル建債権を104円で売る予約。直物108円で「手取り少なくなる」、103円で「多くなる」。 → R05 第23問H20 第21問


この章のまとめ(試験直前チェック)

  • 期待収益率=Σ(収益率×確率)(確率で重みづけした平均)
  • 分散=Σ{(収益率−期待値)²×確率}/標準偏差=√分散(最後に√を忘れない
  • ☐ ポートフォリオの期待収益率は加重平均でよいが、標準偏差は加重平均してはいけない
  • 2資産の分散:σ²ₚ = w₁²σ₁² + w₂²σ₂² + 2w₁w₂ρσ₁σ₂(共分散 = ρσ₁σ₂)
  • 相関係数が小さい(負に大きい)ほど分散投資効果が大きい。ρ=−1で最大(リスク0も可)、ρ=+1で効果なし
  • ☐ 安全資産+リスク資産:標準偏差=リスク資産比率×そのσ(安全資産はσ=0)
  • 効率的(有効)フロンティア=同リスクでリターン最大の上側曲線/資本市場線(CML)=リスクフリー点から接点への直線(横軸は標準偏差)
  • ☐ リスク=システマティック(分散不能・市場)非システマティック(分散可能・個別)。分散で消えるのは非システマティック
  • βは加重平均(単純合計しない)。β>1は市場より大きく動く
  • CAPM:E(r)=rf+β×(E(rm)−rf)(安全利子率+β×市場リスクプレミアム)
  • 証券市場線(SML)=横軸β・縦軸期待収益率(CMLは横軸が標準偏差/取り違え注意)
  • 先物=取引所・標準化・反対売買(差金決済)・値洗い・信用リスク小/先渡=相対・オーダーメイド・現物受渡し・信用リスクあり
  • コール=買う権利(上がると得)/プット=売る権利(下がると得)。買い手の損失はプレミアムまで
  • ☐ オプション価格=本質的価値+時間的価値。ボラティリティ↑・金利↑・原資産↑でコール価値↑
  • 金利スワップ=金利のみ交換(元本交換なし)/通貨スワップ=元本+金利を交換
  • 為替予約=レートを固定してリスクをなくす。「予約レートで確定 → 満期の直物と比較」で有利・不利を判定

この章に対応する主な過去問

年度・問 論点 リンク
H19 第14問 CAPMによるポートフォリオの期待収益率 問題
H19 第15問 プット・オプションの満期損益 問題
H20 第20問 ポートフォリオの期待値と標準偏差(軌跡) 問題
H20 第21問 為替予約(為替リスクヘッジ) 問題
H21 第17問 効率的フロンティア(資本市場線) 問題
H22 第16問 ポートフォリオのリスク低減効果 問題
H23 第19問 ポートフォリオのβ値 問題
H23 第21問 金利スワップ取引 問題
H24 第19問 安全資産との組み合わせ運用 問題
H24 第22問 先物取引 問題
H26 第22問 コール・オプションの価値 問題
H27 第17問 ポートフォリオの収益率とリスク(期待値・標準偏差) 問題
H28 第15問 期待収益率・共分散・相関係数 問題
H29 第21問 先渡取引と先物取引 問題
H30 第15問 コールオプションの価格(本質的価値・時間的価値) 問題
H30 第16問 分散投資とシステマティックリスク 問題
H30 第17問 有効フロンティアと資本市場線 問題
R01 第14問 オプション(本質的価値・時間的価値) 問題
R01 第17問 2資産ポートフォリオのリターンとリスク 問題
R04 第15問 ポートフォリオの収益率の標準偏差 問題
R05 第23問 為替予約(為替リスクヘッジ) 問題
R06 第19問 効率的フロンティアと資本市場線(リスクプレミアム) 問題
R07 第24問 スワップ 問題

全13章、おつかれさまでした 🎉

これで「財務・会計」全13章の本編は完結です。簿記の基礎から始まり、財務諸表、原価計算、経営分析、 CVP、意思決定会計、企業価値評価、資本コスト、そして本章の証券投資・デリバティブまで── 財務・会計の全体像をひととおり歩ききりました。本当におつかれさまでした。

財務・会計は、「理屈を理解する」よりも「手を動かして計算パターンを体に覚えさせる」ことで得点が安定する科目です。 一度読んで終わりにせず、各章末の過去問リンクを実際に解いて、間違えたら本文に戻る、を繰り返してください。

付録のご案内 ▶ 本編を終えたら、仕上げに次の付録もご活用ください。 - 付録A:頻出公式・計算式ワンページ集(本書で登場した公式を1枚に凝縮。直前の見直しに) - 付録B:年度別・論点別の過去問インデックス(H19〜R07。弱点分野を狙い撃ちで演習) - 付録C:試験直前チェックリスト総まとめ(全13章の「直前チェック」を通しで確認)

あなたの合格を、心から応援しています。がんばってください!