第12章 企業価値評価
この章のねらい 「この会社(この株式)は、いくらの価値があるのか」を数字で求めるのが企業価値評価です。 ここまでの章で学んだ キャッシュフロー(第9章)/資本コスト・WACC(第10章)/CAPM(第11章) が、 ぜんぶ道具として合流する"総まとめ"の分野です。むずかしそうに見えますが、 やっていることは「将来のお金を、リスクに見合った利回りで割り引いて、現在の値段にする」の一点です。
過去問での出方:財務・会計の第2次試験にも直結する最重要テーマで、1次でも毎年のように出ます。 パターンは大きく3つ。①DCF法(将来キャッシュフローを割り引く)、②配当割引モデル(DDM)(配当を割り引く)、 ③マルチプル法(PER・PBR・EV/EBITDAなどの倍率)です。 計算問題は「公式に当てはめるだけ」で解けるものが多く、得点源にしやすい分野。 逆に、分子に使う配当が「今期」か「来期」か、割引率が「WACC」か「自己資本コスト」か、といった 一点の取り違えで失点します。この章で"どこを間違えやすいか"を体に入れましょう。
12-0 この章の地図
企業価値評価は、大きく 3つのアプローチに分かれます。まず全体像をつかみましょう。
【企業価値評価の3アプローチ】
① インカム・アプローチ(将来の収益・CFを割り引く)★計算頻出
├─ DCF法 … 将来のFCFをWACCで割り引く(→ 12-1)
├─ 配当割引モデル … 将来の配当を自己資本コストで割り引く(→ 12-2)
└─ 残余利益モデル … 自己資本簿価+将来の超過利益(→ 12-2)
② マーケット・アプローチ(類似企業の"倍率"を使う)
└─ マルチプル法 … PER・PBR・EV/EBITDA など(→ 12-3)
③ コスト(ネットアセット)・アプローチ(純資産に着目)
└─ 純資産価額法 … バランスシートの純資産をベースにする
- この「3アプローチ」の名前と中身の対応は、そのまま穴埋め問題で問われます(R03第22問・H23第20問・R06第23問)。
- 計算で問われるのは主に ①インカム・アプローチ(DCFとDDM)です。まずここを固めます。
12-1 DCF法 … FCF → WACCで割引 → 事業価値 → 企業価値 → 株主価値
│
12-2 配当割引モデル/残余利益 … 定率成長モデル(株価=配当÷(r−g))
│
12-3 マルチプル法 … PER・PBR・EV/EBITDA(倍率で相対評価)
⚠️ まず用語の交通整理 - 企業価値(EV):事業のために使われている資産全体の価値。株主と債権者の両方のもの。 - 株主価値(株式価値):そのうち株主の取り分。=企業価値 − 有利子負債(+現金)。 - 事業価値:本業(事業)が生み出す価値。これに非事業資産を足すと企業価値になります。 「企業価値」と「株主価値」は別物です。ここを混同すると計算がずれます(12-1で詳述)。
12-1 DCF法による企業価値 ★最重要
DCF法とは(いちばん短い定義)
DCF法(Discounted Cash Flow:割引キャッシュフロー法)とは、
「会社が将来生み出すお金(フリー・キャッシュフロー)を、 リスクに見合った割引率(WACC)で現在価値に割り引いて合計し、事業の値段を求める方法」
です。第9章(キャッシュフロー)と第10章(WACC)で学んだことを、そのまま企業価値に応用します。
ステップ1:フリー・キャッシュフロー(FCF)を求める
FCF(フリー・キャッシュフロー)は、会社が自由に使えるお金。株主・債権者の双方に配れる原資です。
FCF = 税引後営業利益(NOPAT)+ 減価償却費 - 設備投資額 - 正味運転資本の増加額
- 減価償却費を足す理由:費用として利益を減らしているが、実際にはお金が出ていかない(非現金支出)ため。
- 設備投資・運転資本の増加を引く理由:これらは実際にお金が出ていくため。
💡 かみくだき:FCF=「入ってくる本業のもうけ(現金ベース)」から「事業を続けるのに必要な投資」を引いた手残り。 簡易な問題では「税引後純利益+減価償却費-設備投資-運転資本増加」で計算させることもあります(R05第20問)。
ステップ2:FCFをWACCで割り引く(=事業価値)
将来のFCFを、WACC(加重平均資本コスト)で現在価値に割り引いて合計します。
⚠️ ここが最頻出の急所:FCFは株主と債権者の両方に帰属するお金なので、 割り引く率も両方の要求利回りを混ぜた WACCを使います。 自己資本コストだけで割ってはいけません(R03第22問の引っかけ)。
FCFが毎年一定、または一定率 g で永久に成長すると仮定すると、定率成長モデルが使えます。
事業価値 = 来期のFCF ÷(WACC - 成長率 g)
ステップ3:継続価値(ターミナルバリュー)
実務では「最初の数年は個別に予測し、それ以降はまとめて評価」します。このそれ以降をまとめた価値が 継続価値(ターミナルバリュー、TV)です。定率成長モデルで求めます。
継続価値 = 予測最終年の翌年のFCF ÷(WACC - g)
この継続価値は「予測最終年の時点での価値」なので、現在まで割り引き直すことを忘れないのがコツです。
ステップ4:事業価値 → 企業価値 → 株主価値
求めた価値を、次の順に組み立てます。
事業価値(本業が生むFCFの現在価値の合計)
+ 非事業用資産(遊休不動産・余剰現金など)
─────────────────────
= 企業価値(EV)
- 有利子負債
─────────────────────
= 株主価値(株式価値)
÷ 発行済株式数
─────────────────────
= 1株当たり理論株価
⚠️ 混同注意:割引率とアウトプットの対応 - FCF を WACC で割る → 出てくるのは事業価値・企業価値(株主+債権者のもの) - 配当・株主FCF を自己資本コストで割る → 出てくるのは株主価値(株主だけのもの) 「何を割り引いたか」で「何が出てくるか」が決まります。ここが全体を貫く原則です。
計算例:負債がない会社の株主価値(R05第20問ベース)
負債がゼロの会社では、事業が生むFCFはまるごと株主のもの。だからFCFを自己資本コストで割れば、そのまま株主価値になります(企業価値=株主価値)。
次期の予測データ:税引後純利益1,200/減価償却費300/設備投資額500/正味運転資本増加額100(単位:万円)。 これらは毎年3%成長。株主の要求収益率(自己資本コスト)は6%。
ステップ① 次期のFCFを求める
FCF = 1,200 + 300 - 500 - 100 = 900万円
ステップ② 定率成長モデルで割り引く(負債ゼロなので割引率=自己資本コスト6%)
株主価値 = 次期FCF ÷(要求収益率 - 成長率)
= 900 ÷(0.06 - 0.03)
= 900 ÷ 0.03 = 30,000万円
📝 過去問はこう出る(R05 第20問) 負債ゼロの会社の株主価値をDCF(定率成長)で求める計算。正解はイ:30,000万円。 引っかけはア:15,000万円で、これは「成長率を引かず 900÷0.06」とした誤り。 分母は必ず「割引率 - 成長率」。ここを 900÷0.06 とやると倍額ずれます。 → R05 第20問
📝 過去問はこう出る(R03 第22問・穴埋め) 「将来のFCFを [A] で割り引いた現在価値をベースに算出する [B] 法」。 正解は A=加重平均資本コスト(WACC)/B=DCF。 IRR(内部収益率)は割引率そのものではないので誤り、自己資本コストもFCFの割引率としては誤り (FCFはWACCで割る)。あわせて「マルチプル」「PER」「PBR」の穴埋めも問われます(→ 12-3)。 → R03 第22問
12-2 配当割引モデル(DDM)と残余利益モデル
DCF法が「事業のFCF」を割り引いたのに対し、こちらは株主が実際に受け取る配当(や利益)を割り引いて、 ダイレクトに株主価値(理論株価)を求めるアプローチです。
配当割引モデル(DDM)の基本
配当割引モデル(DDM:Dividend Discount Model)は、
「株式の価値=その株を持ち続けて将来もらえる配当を、自己資本コスト(株主の要求収益率)で 割り引いた現在価値の合計」
という考え方です。株を「配当というお金を生み続ける機械」とみなして値付けします。
定率成長モデル(ゴードン・モデル)★計算の主役
配当が毎年一定率 g で成長し続けると仮定すると、無限の割引計算が1本の式にまとまります。 これが定率成長配当割引モデル(ゴードン・モデル)です。
D₁ 来期(1年後)の予想配当
株価 = ─────── = ─────────────────────
r - g 自己資本コスト - 配当成長率
⚠️ 最頻出ミス3点 1. 分子は「来期(1年後)の配当 D₁」。問題文の配当が「前期末(当期)の配当 D₀」なら、 D₁ = D₀ ×(1+g) に直してから使う。 2. 分母は「r - g」。成長率 g を引き忘れない(引かないと値が小さくなる)。 3. 割引率 r は自己資本コスト(株主の要求収益率)。WACCではない。
計算例①:前期配当から来期配当に直す(H29第18問ベース)
前期末の1株配当120円、毎年2%の定率成長、資本コスト6%のとき、理論株価は?
ステップ① 来期の予想配当 D₁ を求める(前期配当×成長率)
D₁ = 120 ×(1 + 0.02)= 122.4円
ステップ② ゴードン・モデルに当てはめる
株価 = 122.4 ÷(0.06 - 0.02)= 122.4 ÷ 0.04 = 3,060円
📝 過去問はこう出る(H29 第18問) 正解はウ:3,060円。引っかけが秀逸で、 イ:3,000円は「分子に成長を反映せず 120÷0.04」とした誤り(D₀のまま使ってしまうミス)。 前期末配当120円をそのまま使わず、必ず来期122.4円に直すのが分かれ目です。 → H29 第18問
計算例②:来期配当がそのまま与えられている(H28第16問ベース)
1年後の配当105千円、その後毎年一定率で成長、割引率4%・成長率2%のとき、企業価値は?
すでに1年後(=D₁)の配当が与えられているので、そのまま代入します。
価値 = 105 ÷(0.04 - 0.02)= 105 ÷ 0.02 = 5,250千円
📝 過去問はこう出る(H28 第16問) 正解はエ:5,250千円。イ:2,100千円は「成長率を無視して 105÷0.05」とした誤り。 分母(r-g)を正しく2%にできるかがポイント。分子D₁がそのまま与えられている点はH29と対照的で、 「与えられた配当が D₀ か D₁ か」を毎回確認する習慣が大事です。 → H28 第16問
計算例③:成長なし(ゼロ成長)+CAPMで割引率を作る(H23第20問ベース)
成長率 g=0 なら、式は 株価 = 配当 ÷ r とシンプルになります。 このとき割引率 r(自己資本コスト)をCAPM(第11章)で作らせる複合問題が定番です。
データ:予想1株配当30円、β=1.5、安全利子率1%、期待市場収益率7%。
ステップ① CAPMで自己資本コストを求める
r = 安全利子率 + β×(期待市場収益率 - 安全利子率)
= 1% + 1.5×(7% - 1%)= 1% + 9% = 10%
ステップ② ゼロ成長モデルで株式価値を求める
株式価値 = 30 ÷ 0.10 = 300円
📝 過去問はこう出る(H23 第20問) 設問2の正解はア:300円。イ:500円は「株価そのもの」を答えさせる引っかけ(理論値と市場株価は別物)。 この問題は3アプローチの分類(設問1)とPBR計算(設問3)も同時に問う総合問題です。 → H23 第20問
計算例④:二段階成長モデル(R03第21問ベース・発展)
最初の数年は高成長、その後は低成長で一定──という二段階成長も出題されます。 やることは「各期の配当を個別に割り引く+ある時点以降はゴードン・モデルでまとめる」だけです。
データ:第2期末配当44円、第3期末までは成長率10%、それ以降は成長率2%で一定、自己資本コスト10%。 求めるのは第1期末の理論株価。
ステップ① 各期の配当を出す
第2期末配当 = 44円
第3期末配当 = 44 × 1.10 = 48.4円
ステップ② 第3期末時点の継続価値(それ以降の定率成長分)を求める
P₃ = 第4期末配当 ÷(r - g)= 48.4×1.02 ÷(0.10 - 0.02)
= 49.368 ÷ 0.08 = 617.1円
ステップ③ 第1期末まで割り引いて合計する
株価 = 44 ÷ 1.10 +(48.4 + 617.1)÷ 1.10²
= 40 + 665.5 ÷ 1.21
= 40 + 550 = 590円
📝 過去問はこう出る(R03 第21問) 正解はイ:590円。ポイントは、継続価値P₃は「第3期末」の価値なので、 第3期末の配当48.4円といっしょに1.10²(2年分)で割り引くこと。 割引年数を1年ずらすと、ウ(645円)・エ(649円)の誤答になります。 → R03 第21問
サステナブル成長率(内部成長率)
成長率 g は、どこから来るのか。会社が利益を配当せず社内に貯めて再投資するほど成長します。これを表すのが サステナブル成長率(持続可能成長率)です。
サステナブル成長率 g = ROE ×(1 - 配当性向)= ROE × 内部留保率
- 配当性向:利益のうち配当に回す割合。内部留保率 = 1 - 配当性向。
- 利益を貯める(内部留保率が高い)ほど、また稼ぐ力(ROE)が高いほど、成長率は高くなります。
📝 過去問はこう出る(R06 第21問) ROE5%・配当性向40%から、サステナブル成長率=5%×(1-0.4)=3%。 あわせて、当期首自己資本3,000万円・当期純利益150万円・配当60万円・内部留保90万円から、 当期末の株主価値=3,000+90=3,090万円。正解はエ。 → R06 第21問
残余利益モデル(割引超過利益モデル)
残余利益モデル(RIM/割引超過利益モデル)は、DDMを"利益ベース"に組み替えたものです。
株式価値 = 当期の自己資本簿価 + 将来の残余利益の現在価値の合計
- 残余利益(超過利益) = 予想利益 - 自己資本 × 自己資本コスト (=「株主が最低限求める利益」を上回った分)。
- 前提はクリーン・サープラス関係:当期純利益 = 純資産の増減 + 配当(利益がすべて純資産と配当に反映される関係)。
- メリット:将来配当がゼロでも、簿価と利益から株式価値を求められる。
⚠️ 混同注意:残余利益モデルでも、クリーン・サープラス関係が成り立つなら 配当政策は株式価値に影響しません(MMの配当無関連命題と整合。→ 第10章)。 「配当性向が高いほど株式価値が高くなる」は誤り。
📝 過去問はこう出る(R04 第18問) 割引超過利益モデルの説明で「最も不適切なもの」を選ぶ問題。正解(=誤り)は ア:クリーン・サープラス関係のもとで配当性向が高いほど株式価値が高くなる。 正しい記述として「DDMから残余利益モデルを導出できる」「将来配当ゼロでも株式価値を求められる」 「予想利益が"自己資本×自己資本コスト"を上回れば株式価値は当期自己資本簿価を上回る」があります。 → R04 第18問
12-3 マルチプル法(PER・PBR・EV/EBITDA)
マルチプル法とは
マルチプル法(乗数法・株価倍率法)は、
「似た会社の"株価の倍率"を借りてきて、評価対象企業に当てはめる」
方法です。DCFのように将来を細かく予測せず、手早く相場観をつかめるのが長所。 マーケット・アプローチに分類されます(R03第22問・R06第23問)。
主要な株価倍率3つ
| 倍率 | 計算式 | 何を見ているか |
|---|---|---|
| PER(株価収益率) | 株価 ÷ 1株当たり純利益(EPS) | 利益の何倍まで買われているか(利益面の割高・割安) |
| PBR(株価純資産倍率) | 株価 ÷ 1株当たり純資産(BPS) | 純資産の何倍か(解散価値との比較。1倍割れ=割安の目安) |
| EV/EBITDA倍率 | 企業価値(EV)÷ EBITDA | 本業の稼ぎの何年分で企業価値を回収できるか |
💡 用語のかみくだき - EPS(1株当たり利益)= 当期純利益 ÷ 発行済株式数 - BPS(1株当たり純資産)= 純資産 ÷ 発行済株式数 - EV(企業価値) = 株式時価総額 + 有利子負債 - 現金・預金 - EBITDA = 利払前・税引前・償却前利益 ≒ 営業利益 + 減価償却費
⚠️ 定番の引っかけ:分子・分母の向き PER・PBRは必ず「株価 ÷ ○○」。「EPS ÷ 株価」「純資産 ÷ 株価」と逆にした選択肢が誤りの定番です(H20第13問)。 - PBRが小さいほど、株価は純資産に対して低く評価されている(割安の目安)。 - EPS・BPSは「1株指標」であって、「株価との比率(倍率)」ではありません(R03第22問の引っかけ)。
計算例:PERとPBRを出す(H21第20問ベース)
データ:株価1,500円、税引後当期利益1億円、純資産10億円、発行済株式数100万株。
ステップ① 1株指標(EPS・BPS)を作る
EPS = 1億円 ÷ 100万株 = 100円
BPS = 10億円 ÷ 100万株 = 1,000円
ステップ② 倍率を計算する
PER = 株価1,500 ÷ EPS100 = 15倍
PBR = 株価1,500 ÷ BPS1,000 = 1.5倍
📝 過去問はこう出る(H21 第20問) 設問1(PER)=ウ:15倍、設問2(PBR)=イ:1.5倍。 PBR=0.75は「株価と純資産を逆に用いた」誤り(BPS÷株価)。分子・分母の向きに要注意。 → H21 第20問
株価指標をつなぐ恒等式(H19第12問ベース・発展)
PER・PBR・ROEは、次の恒等式でつながっています。関係式を覚えると複合問題が一気に解けます。
PBR = PER × ROE (⇔ ROE = PBR ÷ PER)
配当利回り = 配当性向 ÷ PER
例:PBR=1.5倍、配当性向60%、配当利回り4%のとき。
PER = 配当性向 ÷ 配当利回り = 60% ÷ 4% = 15倍
ROE = PBR ÷ PER = 1.5 ÷ 15 = 0.10 = 10%
📝 過去問はこう出る(H19 第12問) PER=15倍、ROE(自己資本利益率)=10%を、上の恒等式から導く問題。 「PBR=PER×ROE」「配当利回り=配当性向÷PER」の2本を暗記しておけば失点しません。 → H19 第12問
EV/EBITDA倍率・株価キャッシュフロー倍率(R07第22問ベース)
EV/EBITDA倍率は、国境や会計基準の違いに左右されにくく、M&Aで多用されます。 論理を追う問題として出ます。
- EV(企業価値)= 株式時価総額 + 有利子負債 - 現金・預金。
- 2社でEBITDA・有利子負債・現金が等しく、B社のEV/EBITDAがC社より高い → B社のEVが大きい → B社の株式時価総額が大きい。
- 株価キャッシュフロー倍率 = 株式時価総額 ÷ キャッシュフロー(利益+減価償却)。 分母が同じで分子(時価総額)がB社の方が大きい → B社の株価CF倍率はC社より高い。
📝 過去問はこう出る(R07 第22問) 正解はイ:B社の株価CF倍率はC社より高い。 EVの構成式(時価総額+有利子負債-現金)から株式時価総額の大小を逆算するのがカギ。 → R07 第22問
3アプローチの分類問題(R06第23問ベース)
各手法がどのアプローチに属するかの対応は、穴埋めで繰り返し問われます。
| 手法 | アプローチ | ひとことで |
|---|---|---|
| DCF法・収益還元法・DDM | インカム・アプローチ | 将来の収益・CFを割り引く |
| PER・PBR・EV/EBITDA(乗数法) | マーケット・アプローチ | 類似企業の倍率を使う |
| 純資産価額法 | コスト(ネットアセット)・アプローチ | 純資産(簿価・時価)に着目 |
📝 過去問はこう出る(R06 第23問) 「乗数法=マーケットアプローチ/DCF法=インカムアプローチ/EBITDA=営業利益+減価償却費」の対応。 正解はウ。EBITDAが「営業利益ベース(資本構成の影響を受けない)」という点も押さえどころです。 → R06 第23問
⚠️ 混同注意:株式分割は株主の富を変えない 株式分割(1株を複数株に分ける)は、資産もCFも持分割合も変えないので、株主の富(総額)は不変。 ただし株式数が増える分、1株当たり株主価値は減少します(R06第16問)。 「1株当たりが下がる=損」ではない点に注意。総額は変わりません。
この章のまとめ(試験直前チェック)
- ☐ 企業価値評価は3アプローチ:①インカム(DCF・DDM・残余利益)②マーケット(PER・PBR・EV/EBITDA)③コスト(純資産)
- ☐ 企業価値 ≠ 株主価値:株主価値 = 企業価値 - 有利子負債(+現金)
- ☐ DCF法:FCFをWACCで割り引く(自己資本コストではない/IRRでもない)
- ☐ FCF = 税引後営業利益 + 減価償却費 - 設備投資 - 運転資本増加
- ☐ 割引率とアウトプットの対応:FCF×WACC→企業価値/配当・株主FCF×自己資本コスト→株主価値
- ☐ 定率成長モデル:価値 = 来期の値 ÷(割引率 - 成長率)。分母の g を引き忘れない
- ☐ DDM(ゴードン・モデル):株価 = D₁ ÷(r - g)。分子は来期配当(D₀なら×(1+g)で直す)
- ☐ ゼロ成長なら株価 = 配当 ÷ r。r をCAPMで作らせる複合問題に注意
- ☐ 二段階成長:継続価値P₃は「第3期末の価値」→ 第3期末配当と同じ年数で割り引く
- ☐ サステナブル成長率 = ROE ×(1 - 配当性向)
- ☐ 残余利益モデル:株主価値 = 自己資本簿価 + 残余利益の現在価値(クリーン・サープラス前提/配当政策は無関連)
- ☐ PER = 株価 ÷ EPS、PBR = 株価 ÷ BPS(分子・分母の向きに注意)
- ☐ 恒等式:PBR = PER × ROE/配当利回り = 配当性向 ÷ PER
- ☐ EV = 株式時価総額 + 有利子負債 - 現金、EBITDA ≒ 営業利益 + 減価償却費
- ☐ 株式分割:株主の富(総額)は不変、1株当たり価値は株数増で減少
この章に対応する主な過去問
| 年度・問 | 論点 | リンク |
|---|---|---|
| R03 第22問 | 企業価値評価の3アプローチ(DCF・WACC・マルチプル) | 問題 |
| R05 第20問 | DCF(定率成長)による株主価値 | 問題 |
| R06 第23問 | 乗数法・DCF法とアプローチ分類・EBITDA | 問題 |
| H29 第18問 | 定率成長配当割引モデル(来期配当への修正) | 問題 |
| H28 第16問 | 配当割引モデルによる企業価値 | 問題 |
| R03 第21問 | 二段階成長の配当割引モデル | 問題 |
| H23 第20問 | 3分類・CAPM×DDM・PBR(総合) | 問題 |
| R06 第21問 | サステナブル成長率と株主価値 | 問題 |
| R04 第18問 | 割引超過利益(残余利益)モデル | 問題 |
| H21 第20問 | PERとPBRの計算 | 問題 |
| H20 第13問 | 株価倍率(PBR・PER)の定義 | 問題 |
| H19 第12問 | PBR・配当性向・配当利回り(恒等式) | 問題 |
| R07 第22問 | EV/EBITDA倍率と株価CF倍率 | 問題 |
| R06 第16問 | 株式分割と1株当たり株主価値 | 問題 |
次章予告 ▶ 第13章「原価計算」 ここまでの財務理論(投資・資本コスト・企業価値)から視点を移し、 製品1個あたりのコストをどう計算するかを扱います。個別原価計算・総合原価計算、 材料費・労務費・経費の分類、そして頻出の標準原価計算と差異分析へ進みます。