第17章 マーケティングの基礎と戦略
この章のねらい ここから第III部・マーケティング論に入ります。第I部(経営戦略論)が「会社全体をどう勝たせるか」の話だったのに対し、 マーケティング論は「顧客に、どうやって価値を届けて選んでもらうか」を扱います。本章はその入り口として、 ①マーケティングという考え方そのもの(コンセプトの変遷)、②仕事の進め方(R-STP-MM-I-Cと4P)、 ③環境を読む道具(SWOT・3C・PESTなど)、④市場を切り分けて狙う流れ(STP=セグメンテーション・ ターゲティング・ポジショニング)、⑤サービス業・BtoB特有の考え方、⑥社会とのつながり(ソーシャル/ コーズ・リレーテッド)を、地図として頭に入れます。
過去問での出方:マーケティング分野は毎年おおむね第26問〜第39問あたりにまとまって出題されます。 本章の論点は、マーケティングの定義(AMA)、コンセプトの変遷と顧客志向、市場細分化の軸、 STP、サービス/BtoB、環境分析フレームワーク、コーズ・リレーテッド・マーケティングと、 出題テーマがほぼ決まっています。用語の定義と「引っかけの型」を押さえれば、安定した得点源にできる分野です。
17-0 この章の地図
この章は、「マーケティングとは何か(考え方)」→「どう進めるか(プロセス)」→「市場をどう読み・切り・狙うか (分析→STP)」→「特殊な文脈(サービス・BtoB・社会)」という順で進みます。まず全体像をつかみましょう。
17-1 マーケティングの基本概念 … コンセプトの変遷/マーケティング近視眼
│ (何のためにやるか=顧客と社会への価値提供)
▼
17-2 マネジメント・プロセス … R-STP-MM-I-C / 4P・4C(★仕事の骨格)
│
17-3 環境分析 … マクロ/ミクロ、内部/外部、SWOT・3C・PEST
│ (どんな戦場かを読む)
▼
17-4 市場細分化(S) … 地理的・人口統計的・心理的・行動的の4軸
│
17-5 ターゲティング(T)とポジショニング(P) … 標的の選び方・差別化
│
17-6 BtoB/サービス・マーケティング … サービスの4特性・7P
│
17-7 ソーシャル/コーズ・リレーテッド … 社会的責任とマーケティング
- 17-2のSTP(Segmentation → Targeting → Positioning)が、17-4・17-5で詳しく展開されます。
- 「マーケティング=広告・売り込み」ではありません。売り込まなくても売れる仕組みをつくるのがマーケティングです(17-1)。
17-1 マーケティングの基本概念
そもそも「マーケティング」とは何か
マーケティングをいちばん短く言うと、
「顧客が求める価値を見つけ出し、それを創り・伝え・届けることで、 顧客と長く良い関係をつくる一連の活動」
です。売り込み(セリング)とは似て非なるもので、ドラッカーの有名な言葉に "Marketing is to make selling unnecessary"(マーケティングとは、売り込みを不要にすること) があります。 =優れたマーケティングがあれば、無理な売り込みをしなくても顧客のほうから買ってくれる、という意味です。
⚠️ 混同注意:この言葉を「不用品を売ること」と読むのは誤り(R02 第28問の引っかけ選択肢)。 "selling unnecessary" は「売り込みを不要にする」であって「不要品を売る」ではありません。
AMA(アメリカ・マーケティング協会)による定義
マーケティングは時代とともに定義が改定されてきました。試験ではAMA(American Marketing Association= アメリカ・マーケティング協会)の定義が問われます(H22 第28問)。
| 年 | 定義のポイント |
|---|---|
| 2004年の定義 | 顧客価値を創造・伝達・提供し、「組織とそのステークホルダー(利害関係者)の双方を利する形で、顧客との関係性を管理する」組織機能とプロセス |
| 2007年の定義 | 顧客・クライアント・パートナー、さらには広く「社会」にとって価値のある提供物(オファリングス)を、創造・伝達・提供・交換するための活動・機関・プロセス |
- 2004年→2007年の変化:マーケティングを「一部門の機能」ではなく「組織・機関全体の活動」として広くとらえ、 「より広い参加者・透明性・継続性」や持続可能性の視点を打ち出した点が特徴です。
- ここで登場する ステークホルダー(stakeholder)=利害関係者(顧客・株主・取引先・従業員・地域社会など)は頻出用語です。
マーケティング・コンセプトの変遷(志向の移り変わり)
企業が「何を軸にモノを売るか」という発想(=マーケティング・コンセプト)は、時代とともに次のように移り変わってきました。 流れの順番がそのまま問われます(R02 第28問)。
① 生産志向 … 「作れば売れる」。とにかく大量・安価に生産(供給不足の時代)
▼
② 製品志向 … 「良い製品なら売れる」。品質・機能の向上を最優先
▼
③ 販売志向 … 「作ったものを売り込む」。広告・販売員で押し込む(セリング)
▼
④ マーケティング志向(顧客志向) … 「顧客が求めるものを作る」。顧客ニーズ起点
▼
⑤ 社会志向(ソーシャル/ソサイエタル) … 顧客満足+「社会全体の幸福・環境」も考慮
- ①②は作り手の都合(プロダクトアウト)、④は顧客の都合(マーケットイン)が起点です。
- ⑤社会志向(ソサイエタル・マーケティング)は、自社の利潤だけでなく社会に与える影響まで考慮する考え方で、 上記変遷の延長線上に位置づけられます(→ 17-7)。
💡 覚え方:「生・製・販・マ・社(せい・せい・はん・ま・しゃ)」。 作る都合(生産・製品)→ 押し込む(販売)→ 顧客に合わせる(マーケティング)→ 社会に配慮(社会)と、 視点がだんだん外へ広がっていくイメージです。
マーケティング近視眼(マーケティング・マイオピア)
T. レビットが指摘した有名な概念です。マーケティング近視眼(Marketing Myopia)とは、
自社の事業を「製品」で狭くとらえてしまい、顧客が本当に求めている便益(ベネフィット)を見失うこと
をいいます。有名な例が「鉄道会社は自社を『鉄道業』と定義したため、『輸送業』という顧客ニーズを見失い、 自動車・航空機に顧客を奪われた」という話です。
- 回避のカギは、自社の製品・技術の優位性に固執せず、市場・顧客ニーズの変化を的確にとらえること(R07 第32問)。
- ドメイン(事業領域)を「モノ」ではなく「顧客に提供する機能・便益」で定義する、という第2章の議論とも直結します。
📝 過去問はこう出る(R02 第28問) マーケティング・コンセプトと顧客志向を問う問題。正解は 「自社の利潤の最大化ばかりでなく、自社が社会に与える影響も考慮に入れる考え方は、 (プロダクト志向→セリング志向などの)変遷の延長線上に含まれる」=社会志向の位置づけを正しく述べた肢。 「顧客創造と競争への目配りを両立するのはセリング志向」(→正しくはマーケティング志向)、 "make selling unnecessary" を「不用品を売ること」と読む肢などは、定義の取り違えでバツ。 → R02 第28問 / H22 第28問
17-2 マーケティング・マネジメント・プロセス
仕事の骨格:R-STP-MM-I-C
マーケティングは思いつきで行うものではなく、決まった手順で進めます。コトラーの整理する流れが R-STP-MM-I-C です。頭文字を順に押さえましょう。
| 記号 | 名称 | 何をするか |
|---|---|---|
| R | Research(調査・環境分析) | 市場・顧客・競合・自社を調べる(→ 17-3、第18章リサーチ) |
| S | Segmentation(市場細分化) | 市場を似た者どうしのグループに切り分ける(→ 17-4) |
| T | Targeting(標的市場の選定) | どのセグメントを狙うか決める(→ 17-5) |
| P | Positioning(位置づけ) | 顧客の頭の中で「自社は◯◯の会社」と印象づける(→ 17-5) |
| MM | Marketing Mix(マーケティング・ミックス) | 4Pを組み合わせて具体策をつくる(下記) |
| I | Implementation(実行) | 計画を現場で実行する |
| C | Control(管理・統制) | 結果を測り、ズレを修正する(→ 第1章の「計画は回す」と同じ発想) |
- 真ん中の STP が戦略の中核。ここを外すと、いくら4Pをがんばっても的外れになります。
- 最後の I(実行)・C(管理)があるので、「計画して終わり」ではありません(第1章の創発・コントロールと同じ)。
マーケティング・ミックス=4P
マーケティング・ミックス(MM)とは、標的顧客に価値を届けるための具体的な手段の組み合わせです。 マッカーシーが整理した 4P が基本です。
| 4P(売り手視点) | 意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| Product(製品) | 何を提供するか | 品質・デザイン・ブランド・保証・品ぞろえ |
| Price(価格) | いくらで提供するか | 定価・値引き・支払条件・価格ライン |
| Place(流通・チャネル) | どこで・どう届けるか | 店舗・EC・卸・物流 |
| Promotion(プロモーション) | どう伝えるか | 広告・販売促進・人的販売・PR |
4Pを"顧客の側"から見た4C
同じ内容を顧客の視点に置き換えたのが 4C(ラウターボーン)です。「売り手の都合ではなく顧客の都合で考える」 という顧客志向(17-1)の表れです。
| 4P(売り手) | ⇔ | 4C(買い手) | 意味 |
|---|---|---|---|
| Product | ⇔ | Customer Value(顧客価値) | 顧客にとっての価値 |
| Price | ⇔ | Cost(顧客コスト) | 顧客が払う総コスト |
| Place | ⇔ | Convenience(利便性) | 買いやすさ |
| Promotion | ⇔ | Communication(コミュニケーション) | 双方向の対話 |
💡 覚え方:4Pは「売り手が何をするか」、4Cは「それを買い手はどう感じるか」。 4Pと4Cは同じコインの裏表です。試験では「Priceに対応する4CはCost」のように対応関係が問われることがあります。
📝 過去問はこう出る(H30 第30問・マーケティング計画) マーケティング計画・マネジメントの流れに関する出題。STPやマーケティング・ミックスは、 調査(R)→ STP → 4P → 実行・管理という一連のプロセスとして理解しておくことが正誤判断のカギになります。 → H30 第30問
17-3 環境分析
マクロ環境とミクロ環境/内部環境と外部環境
マーケティング(プロセスのR)では、まず自社を取り巻く環境を読みます。環境は次のように整理できます。
【外部環境】自社ではコントロールしにくい
┌ マクロ環境 … 社会全体の大きな流れ(PESTで分析)
│ 政治・経済・社会・技術 など
└ ミクロ環境 … 自社の事業に直接関わる相手
顧客・競合・供給業者・流通業者 など(3C・5フォースで分析)
【内部環境】自社でコントロールできる
自社の経営資源・強み弱み(VRIO・バリューチェーンで分析)
- 外部環境=機会(Opportunity)と脅威(Threat)を生む場所。
- 内部環境=強み(Strength)と弱み(Weakness)が宿る場所。
- この4つを整理する道具が、次のSWOT分析です。
代表的な分析フレームワーク(定義を正確に)
試験(R04 第3問)では、フレームワークの定義そのものが問われます。名称と中身を正確に対応づけましょう。
| フレームワーク | 対象 | 中身(構成要素) |
|---|---|---|
| PEST | マクロ外部環境 | Politics(政治)・Economy(経済)・Society(社会)・Technology(技術) |
| 3C | ミクロ環境 | Customer(顧客)・Competitor(競合)・Company(自社) |
| 5フォース(ファイブ・フォース) | 業界の収益性(魅力度) | 既存競争・新規参入・代替品・買い手・売り手の5つの力 |
| バリューチェーン(価値連鎖) | 内部(活動) | 主活動(購買物流・製造・出荷物流・販売/マーケティング・サービス)+支援活動 |
| VRIO | 内部(経営資源) | Value・Rarity・Inimitability・Organization(すべて満たすほど競争優位が強い) |
⚠️ 定番の引っかけ(R04 第3問) - 3Cの「C」は Company(自社)。「資本(Capital)」ではない。 - 販売・マーケティングはバリューチェーンの「主活動」(支援活動ではない)。 - 5フォースが規定するのは業界の「収益性(魅力度)」であって「成長性」ではない。 - VRIOは4条件をすべて満たすほど競争優位が強い(1つ満たせば持続的優位、は誤り)。 - PESTの先頭は Politics。「人口動態(people)」ではない(R07 第32問の引っかけ)。
SWOT分析
SWOT分析は、内部と外部を掛け合わせて戦略の方向を探る、最も基本的な枠組みです。
| 良い面 | 悪い面 | |
|---|---|---|
| 内部(自社) | S 強み(Strength) | W 弱み(Weakness) |
| 外部(環境) | O 機会(Opportunity) | T 脅威(Threat) |
- 外部環境分析=O(機会)とT(脅威)、内部環境分析=S(強み)とW(弱み)。この振り分けが頻出(R07 第32問)。
- KFS(Key Factor for Success=重要成功要因):目標と現状のギャップを明確にし、成長のために獲得すべき経営資源を 見極める指針となる概念。SWOTと合わせて押さえます(R07 第32問で正解肢)。
📝 過去問はこう出る(R04 第3問/R07 第32問) R04 第3問は環境分析フレームワークの定義を問い、正解は「PESTは外部環境を政治・経済・社会・技術の4観点から分析する」。 R07 第32問は外部/内部環境の切り分けが論点で、「SWOTのうち外部環境分析はO(機会)とT(脅威)」 (S・Wは内部)を正しく区別できるかが問われ、内部分析側ではKFSの説明が正解肢でした。 RBV(資源ベース理論)は"自社の資源を出発点に戦略を組む"(先に市場ポジションを決めるのはポジショニング・ビュー) という順序も引っかけになります。 → R04 第3問 / R07 第32問
17-4 市場細分化(セグメンテーション)★頻出
なぜ市場を「切り分ける」のか
市場細分化(セグメンテーション)とは、
全体をひとかたまりとみず、似たニーズ・特徴をもつ顧客のグループ(セグメント)に分けること
です。顧客のニーズには異質性(人によって求めるものが違う)があるため、全員に同じ売り方をするより、 自社が優位に立てるグループを見つけて集中したほうが効果的だからです(H22 第23問)。
細分化の4つの軸
市場を切り分ける「ものさし(細分化変数)」は、大きく次の4種類です。H20 第38問でこの区別が問われました。
| 軸 | 別名 | 具体例 | 特徴・注意 |
|---|---|---|---|
| 地理的変数 | ジオグラフィック | 居住地域・都市規模・気候 | 入手が容易で有効性が高い |
| 人口統計的変数 | デモグラフィック | 年齢・性別・所得・職業・ライフステージ・社会階層 | 公表された二次データで入手しやすい |
| 心理的変数 | サイコグラフィック | ライフスタイル・価値観・パーソナリティ | 刊行データでは把握しにくく、独自の意識調査が必要 |
| 行動的変数 | ビヘイビアル | ロイヤルティ(忠誠度)・使用量・求める便益・購買機会 | 「求める便益」で切ればベネフィット・セグメンテーション |
⚠️ 定番の引っかけ(H20 第38問) 「サイコグラフィック変数は刊行データによって入手できる」は誤り。 ライフスタイル・価値観などの心理的変数は、国勢調査のような公表された二次データでは測りにくく、 通常は独自のアンケート・意識調査で測定します。ここが最頻出の急所です。
有効なセグメントの「評価基準」
切り分けたセグメントが、すべて狙う価値があるとは限りません。コトラーは、有効なセグメントの要件を次のように整理します (H21 第23問の空欄補充で問われた論点)。
| 要件 | 意味 |
|---|---|
| 測定可能性 | セグメントの規模・購買力が測れる |
| 維持可能性(利益確保可能性・Substantial) | 利益が見込める十分な規模がある |
| 差別化可能性 | セグメント間で施策への反応が異なる |
| 到達(接近)可能性(Accessible) | 物流と情報流の上で効果的に到達できる |
| 実行可能性 | 自社が有効なプログラムを実行できる |
📝 過去問はこう出る(H21 第23問) セグメントの評価基準の空欄補充。「測定可能性/利益確保可能性/差別化可能性、とくに物流と情報流の 到達可能性…」という整理に沿って、正解は空欄A=利益確保、B=情報(流)。 「独占的競争」「費用低減可能性」「資金流」などは評価基準ではなく、引っかけの誤答肢でした。 → H21 第23問 / H20 第38問
つまずきポイント:細分化しすぎ・BtoBの細分化
- オーバー・セグメンテーション(過剰な細分化):細かく切りすぎると、各セグメントの規模が小さくなり 非効率になります(R02 第29問)。細分化は「細かければよい」わけではありません。
- BtoB(組織間取引)でも個人特性で細分化できる:組織購買であっても、最終判断には購買担当者個人の特性 (リスク許容度・忠誠心など)が影響するため、これを基準にした細分化が有効な場合があります(R01 第27問)。
- 市場細分化=品種増・コスト増、とは限らない:同じ製品でも訴求の仕方を変えるなど、品種を増やさない 細分化対応もあります(R01 第27問の引っかけ)。
📝 過去問はこう出る(R01 第27問) 市場細分化、とくにBtoBの細分化基準を問う問題。正解は 「組織購買でも、最終的な意思決定には購買担当者個人の特性が影響するため、個人的特性に基づく細分化が有効な場合がある」。 「企業規模で分ければ各社が均一になる」「小口注文の企業は一律に対象外」「細分化すればコストも必ず増える」は いずれも言い過ぎ・断定でバツ。 → R01 第27問 / R02 第29問
17-5 ターゲティングとポジショニング
STPの流れ
17-4のS(セグメンテーション)で市場を切り分けたら、次はT(ターゲティング)→ P(ポジショニング)へ進みます。 この3つをまとめて STP と呼びます。
S:市場細分化 … 市場を似た者どうしに切り分ける
▼
T:ターゲティング … 切り分けたうちどのセグメントを狙うか決める
▼
P:ポジショニング … 狙った顧客の頭の中に「自社は◯◯」と位置づける
ターゲティング(標的市場の選定パターン)
ターゲティングとは、複数のセグメントの中から、自社の目的・戦略・経営資源に合うセグメントを選ぶことです (H21 第23問リード)。狙い方には代表的な3パターンがあります。
| パターン | 内容 | 向いている企業 |
|---|---|---|
| 無差別型マーケティング | 市場全体に同一の製品・施策で対応 | 大量生産・大企業向き |
| 差別型マーケティング | 複数セグメントに、それぞれ別の製品・施策で対応 | 資源に余裕がある企業 |
| 集中型マーケティング | 特定の少数セグメントに資源を集中 | 中小企業・ニッチ戦略向き |
- 経営資源の限られる中小企業は「集中型」が基本。第1章で学んだ「選択と集中」がここでも効きます。
- 市場細分化を通じた競争は、競争相手に正面から全面挑戦するのではなく、自社が優位に立てるセグメントを選んで 適応する性格のものです(H22 第23問)。ここは引っかけ頻出。
ポジショニング
ポジショニングとは、狙った顧客の心の中に、競合と異なる独自の位置づけを築くことです。 その道具が知覚マップ(ポジショニング・マップ)です。
- 知覚マップは、消費者の主観的な"知覚"をもとに軸を設定します。価格や地域展開などの 客観的要素だけで機械的に作るものではありません(R07 第32問の引っかけ)。
- 差別化の切り口としては、コトラーの「競争の次元(4段階)」が有名です(H29 第32問)。
競争の4次元(コトラー)
自社の競争相手は、同じ製品カテゴリーだけではありません。範囲が狭い順に次の4段階で広がります。
| 次元 | 誰と競争するか | 缶コーヒーの例(H29 第32問) |
|---|---|---|
| ブランド競争 | 同じ製品形態の他ブランド | 缶コーヒーどうし(メーカー間) |
| 形態競争 | 同じ便益を別の形態で提供する相手 | 缶コーヒー vs コンビニの淹れたてコーヒー |
| 産業(カテゴリー)競争 | 同じカテゴリー内の別種 | 缶コーヒー vs 緑茶・紅茶・炭酸飲料 |
| 一般(予算)競争 | 限られた消費予算を奪い合う無関係な相手 | 缶コーヒー vs 新聞・スイーツ(節約対象) |
💡 覚え方:「ブランド → 形態 → 産業 → 一般」。円が内から外へだんだん広がるイメージ。 いちばん外の「一般(予算)競争」は、財布の中の同じお金を奪い合う、まったく別ジャンルとの競争です。
📝 過去問はこう出る(H29 第32問) 缶コーヒーを例に「競争の次元」の空欄を埋める問題。正解はA=ブランド/B=形態/C=一般。 缶コーヒーどうし=ブランド、淹れたてコーヒーと=形態、節約で他ジャンルを我慢=一般(予算)競争。 → H29 第32問 / H22 第23問
⚠️ 混同注意:市場細分化 と 製品差別化 - 市場細分化:市場(需要)の側を、異質なニーズに応じて切り分ける(needs起点)。 - 製品差別化:製品の側を、他社と違うものにする(product起点)。 - 両者はブランド化シナリオの中核で、しばしば対比的(代替的)な関係で論じられます(H22 第23問)。
17-6 BtoBマーケティング・サービスマーケティング
BtoBマーケティング(生産財・組織間取引)
BtoB(Business to Business)マーケティングは、企業が企業に売る取引を扱います。消費者向け(BtoC)との違いを押さえます。
| 論点 | BtoBの特徴(正しい理解) | ありがちな誤り |
|---|---|---|
| ブランド | 取引先の信頼・選定に影響し重要 | 「BtoBにブランディングは不要」は× |
| 意思決定 | 組織購買だが、価格・納期・取引関係・担当者個人の要因も影響 | 「常に技術的専門知識だけで決まる」は× |
| 顧客対応 | 新規開拓・提案も重要 | 「専ら既存顧客に集中すべき」は× |
| シェア | 取引先が少数の寡占などの場合、特定顧客と継続取引し高シェアを長期維持できることがある | ― |
📝 過去問はこう出る(R01 第29問) BtoBマーケティングの特徴を問う問題。正解は 「BtoCでは極めて高いシェアの長期維持は難しいことが多いが、BtoBでは取引先が少数の寡占企業に限られる場合などに、 特定顧客と継続的に取引して高いシェアを獲得・維持できることがある」。 「ブランディングは不要」「専ら既存顧客に集中」「常に技術的専門知識だけで決まる」は言い過ぎでバツ。 → R01 第29問 / R06 第31問
サービスの4つの特性(IHIP)
サービス・マーケティングでは、サービスがモノ(有形財)と違う4つの特性を理解することが出発点です。
| 特性 | 意味 | もたらす課題 |
|---|---|---|
| 無形性(Intangibility) | 形がなく、買う前に見たり触れたりできない | 品質を事前に伝えにくい |
| 不可分性(同時性・Inseparability) | 生産と消費が同時に起こる(作りながら消費される) | 提供者と顧客の接点(サービス・エンカウンター)が品質を左右 |
| 異質性(変動性・Heterogeneity) | 担当者・状況で品質がばらつく | 品質を一定に保つのが難しい |
| 消滅性(Perishability) | 在庫できない(売れ残った座席・時間は消える) | 需要と供給の調整が難しい |
💡 覚え方:「無・不・異・消(む・ふ・い・しょう)」。頭文字は英語で IHIP。 「形がなく(無形)、作りながら消費し(不可分)、品質がばらつき(異質)、ためられない(消滅)」。
サービス・マーケティングの7P
4P(17-2)に、サービス特有の3Pを加えたのが 7P です。
| 追加の3P | 意味 |
|---|---|
| People(人) | 従業員・接客スタッフ(サービス品質を左右する当事者) |
| Process(プロセス) | サービス提供の手順・仕組み |
| Physical Evidence(物的証拠) | 無形のサービスを裏づける有形の手がかり(店舗の内装・制服・パンフレット等) |
顧客満足・SERVQUAL・インターナルマーケティング
- SERVQUAL(サーブクオル):サービス品質を測る代表的な尺度。有形性・信頼性・反応性・確実性・共感性の 5次元について、顧客の「事前の期待」と「事後の知覚」の差(ギャップ)で品質を評価します(R04 第37問)。
- インターナル・マーケティング:従業員を"社内の顧客"とみなして動機づけ・教育する内部向け活動。 最前線スタッフに権限を与え(エンパワーメント)、管理者が現場を支える逆ピラミッド型の発想が重要です(R02 第37問)。
- サービス・ドミナント・ロジック(SDL):価値はモノに埋め込まれているのではなく、顧客が使う文脈の中で共創される (使用価値・文脈価値)とする考え方。モノとサービスを融合し「コト消費」を促す発想です(R02 第37問)。
📝 過去問はこう出る(R04 第37問/R02 第37問) R04 第37問の正解は「SERVQUALは有形性・信頼性・反応性・確実性・共感性の5次元で、期待と知覚のギャップから サービス品質を評価する」。「事前のプロモで期待値を高めれば変動性は解消する」は、むしろ期待過剰で不満を招くのでバツ。 R02 第37問は逆ピラミッド型のエンパワーメント(設問1・正解ア)とSDL=使用価値の共創(設問2・正解エ)が論点でした。 → R04 第37問 / R02 第37問 / R07 第39問
17-7 ソーシャル・マーケティング/コーズ・リレーテッド・マーケティング
社会志向のマーケティングと消費者の権利
17-1で見た社会志向(ソサイエタル・マーケティング)は、顧客満足だけでなく社会全体の幸福・環境まで考える発想です。 その背景には、消費者の権利という考え方があります(H20 第35問)。
| 大統領 | 年 | 示した消費者の権利 |
|---|---|---|
| ケネディ | 1962年 | ①安全である権利、②知らされる(情報を与えられる)権利、③選択する権利、④意見を聞いてもらう権利(4つの権利) |
| フォード | 1975年 | ⑤消費者教育を受ける権利(を追加) |
📝 過去問はこう出る(H20 第35問) ケネディの4つの権利にフォードが追加した権利を選ぶ問題。正解は「消費者教育を受ける権利」。 「安全である権利」「意見を聞き届けられる権利」「知らされる権利」「選択する権利」は、 すべてケネディの4権利であって、フォードの追加分ではない(=引っかけ)。 → H20 第35問
コーズ・リレーテッド・マーケティング
コーズ・リレーテッド・マーケティング(Cause-Related Marketing)とは、
製品の購買(売上)を、特定の社会的大義(コーズ=cause)への支援と結びつけるマーケティング手法
です。「この商品を買うと、売上の一部が◯◯(環境・教育・被災地支援など)に寄付されます」という仕組みが典型です。 企業の販売活動と社会貢献を両立させる点がポイントです。
- 混同しやすい類似手法との区別が問われます(H21 第30問)。
| 手法 | 中身 |
|---|---|
| コーズ・リレーテッド・マーケティング | 購買と社会的大義への支援を連動させる(正解肢の型) |
| インターナル・マーケティング | 従業員を顧客とみなす内部向け活動(17-6) |
| グリーン・マーケティング | 環境配慮を訴求する活動 |
| ヴァイラル・マーケティング | 口コミがウイルスのように伝播するよう仕掛ける |
| 口コミ・マーケティング | 情報の伝播に着目 |
📝 過去問はこう出る(H21 第30問) 「買い物のポイントに応じてクーポンを渡し、消費者が地元の小・中学校に寄付すると、学校が芝生化工事に充てられる」 というスーパーの事例。この手法の名称を選ぶ問題で、正解はコーズ・リレーテッド・マーケティング。 購買と社会的大義(コーズ=学校の芝生運動場)を結びつけているのが決め手です。 芝生=緑化なので「グリーン・マーケティング」に見えますが、本質は購買と寄付の連動なので×。 → H21 第30問
この章のまとめ(試験直前チェック)
- ☐ マーケティング=顧客の価値を創り・伝え・届け、良い関係をつくる活動(=売り込みを不要にする)
- ☐ AMAの定義:2004年は「組織とステークホルダー」、2007年は「広く社会」「交換」「組織全体の活動・持続可能性」
- ☐ コンセプトの変遷=生産→製品→販売→マーケティング(顧客)→社会(視点が外へ広がる)
- ☐ マーケティング近視眼=事業を製品で狭くとらえ、顧客の便益を見失うこと(レビット)
- ☐ プロセス=R-STP-MM-I-C(調査→S→T→P→4P→実行→管理)
- ☐ 4P=Product/Price/Place/Promotion、対応する4C=Customer Value/Cost/Convenience/Communication
- ☐ 環境:外部=機会O・脅威T、内部=強みS・弱みW/3CのCは自社、販売・マーケは主活動、5フォースは収益性
- ☐ 細分化の4軸=地理的・人口統計的(デモ)・心理的(サイコ)・行動的/サイコは刊行データで測れない(頻出)
- ☐ セグメント評価=測定・利益確保・差別化・到達(物流と情報流)・実行可能性
- ☐ ターゲティング=無差別/差別/集中(中小企業は集中型)/細分化は正面全面挑戦ではなく適応
- ☐ ポジショニングは消費者の主観的知覚で作る/競争の4次元=ブランド→形態→産業→一般
- ☐ 市場細分化(需要を切る)と製品差別化(製品を変える)は対比概念
- ☐ BtoB:ブランドも個人要因も重要/寡占では高シェアを長期維持できることがある
- ☐ サービスの4特性=無形性・不可分性・異質性・消滅性(IHIP)/7P=4P+People・Process・Physical Evidence
- ☐ SERVQUAL=5次元・期待と知覚のギャップ/インターナル・マーケ(逆ピラミッド・エンパワーメント)/SDL=価値共創
- ☐ コーズ・リレーテッド・マーケティング=購買と社会的大義(コーズ)の連動(グリーン等と区別)
- ☐ 消費者の権利=ケネディ4権利+フォードが消費者教育を受ける権利を追加
この章に対応する主な過去問
| 年度・問 | 論点 | リンク |
|---|---|---|
| H22 第28問 | AMAによるマーケティングの定義(ステークホルダー) | 問題 |
| R02 第28問 | マーケティング・コンセプトと顧客志向 | 問題 |
| R04 第3問 | 環境分析フレームワーク(PEST/3C/VRIO等) | 問題 |
| R07 第32問 | 環境分析(内部・外部環境・KFS・RBV) | 問題 |
| H30 第30問 | マーケティング計画 | 問題 |
| H20 第38問 | 市場細分化の軸(サイコグラフィック) | 問題 |
| H21 第23問 | 市場細分化と標的市場の選定(評価基準) | 問題 |
| H22 第23問 | 市場細分化と標的市場設定(STP) | 問題 |
| R01 第27問 | 市場細分化(BtoBの細分化基準) | 問題 |
| R02 第29問 | 市場セグメンテーションとターゲティング | 問題 |
| H29 第32問 | マーケティングの競争次元(4次元) | 問題 |
| R01 第29問 | BtoBマーケティング | 問題 |
| R06 第31問 | BtoBマーケティング | 問題 |
| R04 第37問 | サービス・マーケティング(SERVQUAL) | 問題 |
| R02 第37問 | サービス・マーケティングと顧客満足(SDL) | 問題 |
| R07 第39問 | 顧客と従業員(サービス・マーケティング) | 問題 |
| H20 第35問 | 消費者の権利とソーシャルマーケティング | 問題 |
| H21 第30問 | コーズ・リレーテッド・マーケティング | 問題 |
次章予告 ▶ 第18章「マーケティング・リサーチ」 本章のプロセスの出発点「R(調査)」を掘り下げます。定性調査と定量調査、標本抽出(サンプリング)、 一次データと二次データ、尺度(名義・順序・間隔・比率)、質問法・観察法・実験法など、 顧客を"正しく知る"ための道具を扱います。