第2章 株式と社債

この章のねらい 会社にとって「お金の集め方」は生命線です。株式会社がおカネを集める方法は、大きく分けて ①株式(=出資してもらう=自己資本)②社債(=借りる=他人資本) の2つ。 この章では、その2本柱をまとめて学びます。株式の側では「普通株式・種類株式」といった 株式の中身のバリエーション、「自己株式の取得」「単元株」「株式の併合・分割」といった 株式の数や単位を動かす制度、そして「新株を発行してお金を集める(募集株式の発行)」手続きを扱います。 さらに、人材をつなぎとめる道具として近年重要な 新株予約権・ストックオプション、 最後に借金の証券である 社債 を見ていきます。

過去問での出方:経営法務の会社法分野の中でも、株式は最頻出テーマです。 ほぼ毎年、譲渡制限株式・自己株式・種類株式・株式の併合/分割のいずれかが出ます。 社債も2〜3年に1度は単独で1問出る"常連"で、株式との比較(どちらが決議が要るか等)で問われがちです。 手続きの数字(2週間・特別決議・分配可能額など)を正確に覚えると、そのまま得点になる分野です。


2-0 この章の地図

この章は、「株式のバリエーション」→「株式の数・単位を動かす」→「株式で資金を集める」→「予約権」→「社債」 という順で進みます。最初に全体像をつかみましょう。

【株式(=出資してもらう=自己資本)】
2-1 株式の内容と種類株式    … 普通株式・優先株式・議決権制限・譲渡制限 ほか9種類
   │
2-2 自己株式・単元株・併合/分割 … 発行した株式の「数」や「単位」を動かす制度
   │
2-3 募集株式の発行(新株発行)  … 新株を出してお金を集める+資本金・資本準備金・有利発行
   │
2-4 新株予約権・ストックオプション … 「将来 株を買える権利」で人材をつなぎとめる
   │
【社債(=借りる=他人資本)】
2-5 社債                    … 会社の借金を証券にしたもの/株式との比較(★頻出)
  • 前半(2-1〜2-4)は 自己資本=返さなくてよいお金 の世界。
  • 最後(2-5)は 他人資本=返さないといけないお金(借金) の世界。
  • 試験は「この2つの世界の違い」をしつこく突いてきます。まずはこの大きな対比を頭に置いてください。

2-1 株式の内容と種類株式

まず「株式」と「株主の3つの権利」

株式とは、株式会社に出資した人(=株主)の地位を、細かく等しい単位に分けたものです。 株主になると、大きく次の権利を持ちます。

権利の種類 中身 ひとことで
剰余金配当請求権 利益の分配(配当)を受け取る権利 もうけの分け前
残余財産分配請求権 会社が解散したとき、残った財産を分けてもらう権利 最後の分け前
議決権 株主総会で1株1票を投じる権利 経営に口を出す権利
  • 最初の2つ(配当・残余財産)は自分の利益に直結するので 自益権、 議決権は会社の運営に関わるので 共益権 と呼びます。
  • ふつうの株式(=普通株式)は、これらの権利を標準的に持っています。

種類株式 ― 権利の中身が違う「特別な株式」

会社は、定款で定めれば、権利の中身が普通株式と異なる 種類株式 を発行できます。 会社法は次の9種類を認めています(すべて丸暗記する必要はなく、「どういう場面で使うか」で覚えます)。

# 種類株式 どういう株式か
剰余金の配当に関する種類株式 配当を優先/劣後させる(=優先株式・劣後株式)
残余財産の分配に関する種類株式 解散時の分配を優先/劣後させる
議決権制限株式 一部の事項、または全部について議決権がない株式
譲渡制限株式 譲渡に会社の承認が必要な株式(★中小企業で頻出)
取得請求権付株式 株主の側から「買い取って」と請求できる株式
取得条項付株式 一定の事由が起きたら会社が強制的に取得できる株式
全部取得条項付種類株式 株主総会の特別決議で、その種類の株式を全部取得できる
拒否権付株式(黄金株) 特定の決議に「拒否権」を持つ株式
役員選任権付種類株式 その種類の株主だけで取締役・監査役を選べる(非公開会社限定)

💡 覚え方:種類株式は「配当(①)・残余財産(②)・議決権(③)」という 株主の3つの権利をいじるグループと、「取得(⑤⑥⑦)・譲渡制限(④)・特殊な権利(⑧⑨)」という 株式の出入りや特別権のグループ、の2かたまりで整理すると覚えやすいです。

よく出る①:優先株式(配当優先株式)

配当を普通株式より先に受け取れる株式が 優先株式 です。ベンチャーへの出資(VC=ベンチャーキャピタル)で よく使われます。ここには2つ×2つの区別があり、H30 第6問でこの用語が問われました。

(A)優先配当が受け取れなかった年の扱い

区別 意味 株主にとって
累積型 その年に優先配当が払えなくても、翌年以降に繰り越して請求できる 有利
非累積型 その年に払えなければ、繰り越せず消える 不利

(B)優先配当を受けた後、さらに普通配当にも参加できるか

区別 意味 株主にとって
参加型 優先配当を受けた上に、さらに残りの配当にも普通株主と一緒に参加できる 有利
非参加型 優先配当だけで打ち止め 不利

📝 過去問はこう出る(H30 第6問) ベンチャーキャピタルから優先株式の出資を受ける社長(=普通株主)にとって「有利」な条件を選ぶ問題。 VCが提示する条件の多くはVC(優先株主)に有利で創業者(普通株主)に不利、という視点で解きます。 正解は「優先株式の配当方式を非累積型にする」=優先株主に不利=普通株主である社長には有利。 一方「参加型にする」「みなし清算条項」「ドラッグ・アロング・ライト(強制売却権)」は いずれも優先株主(VC)側に有利で、社長には不利なのでバツ。 → H30 第6問

よく出る②:譲渡制限株式 ★中小企業の主役

譲渡制限株式とは、株式を他人に譲るとき会社の承認が必要な株式です。 中小企業(=ほとんどが非公開会社)では、見知らぬ第三者が株主に入ってくるのを防ぐため、 発行する株式の全部を譲渡制限株式にしているのが普通です。

手続き(承認請求 → 会社の返事)の急所

株主:「AからBへ譲りたいので承認して」(譲渡承認請求)
   ↓
会社:請求の日から【2週間以内】に「承認する/しない」を通知
   ↓
   通知しなかったら…… → 会社は「承認した」とみなされる(みなし承認)
  • みなし承認の期間=2週間(定款でこれより短くはできるが、通知しないと承認扱いになる)。
  • 承認する機関は、取締役会設置会社なら取締役会、非設置会社なら株主総会が原則。 ただし定款で「株主総会で決める」等の別段の定めを置くこともできる
  • 相続などの一般承継(=亡くなった株主から相続で受け継ぐ場合)は、そもそも「譲渡」ではないので 会社の承認は不要。相続人は承認を受けずに名義書換え(株主名簿の書き換え)を請求できます。

⚠️ 混同注意:「全部の株式に譲渡制限を付ける定款変更」の決議 - 発行する全部の株式に譲渡制限を付ける定款変更 → 特殊決議(議決権を行使できる株主の半数以上、 かつ議決権の3分の2以上)で足ります。「総株主の同意が必要」ではありません(ここが引っかけ)。 - 「総株主の同意」が必要になるのは、株式の一部を全部取得条項付種類株式に変える場合など、別の局面です。

📝 過去問はこう出る(R07 第4問) 譲渡制限株式の総合問題。正解は「承認請求の日から2週間(定款で短縮可)以内に会社が通知しないと、 別段の合意がない限り承認したものとみなされる」。 引っかけは、①「全部の株式に譲渡制限を付す定款変更に総株主の同意が必要」(→特殊決議で足りる)、 ②「相続で取得した株式は承認を受けないと名義書換請求できない」(→一般承継に承認は不要)、 ③「取締役会設置会社では承認機関を株主総会にできない」(→定款で別段の定め可)。すべてバツ。 → R07 第4問

📝 過去問はこう出る(H23 第6問) 全株式が譲渡制限・取締役会設置会社という設定で、①みなし承認の期間、②承認機関を問う会話問題。 正解は ①=2週間、②=取締役会。承認を怠ると承認扱いになる点が、社長への助言の根拠でした。 → H23 第6問

発展:株式の相続と「準共有」

株主が亡くなり、相続人が複数いる場合、遺産分割が終わるまで株式は相続人全員の 準共有(共同保有)状態になります。 この場合、権利を行使する者を1人決めて会社に通知しないと、原則として議決権などを行使できません (H26 第1問・H30 第3問がこの論点。事業承継とも直結します)。


2-2 自己株式・単元株・株式の併合/分割

ここでは「すでに発行した株式の単位を後から動かす」制度をまとめます。 どれも株主総会の決議が必要かどうかと、会社財産が動くかどうかが試験のツボです。

自己株式の取得 ― 会社が自社株を買い戻す

自己株式とは、会社が自分で持っている自社の株式(=金庫株)のことです。 会社が株主からお金を払って自社株を買い戻すのが 自己株式の取得 です。

(1)財源の規制 ― 分配可能額まで

自己株式を有償で取得すると、株主にお金が出ていきます。これは配当と同じく会社財産の払い戻しなので、 分配可能額(≒配当に回せる利益の枠)を超えて買ってはいけません(財源規制)。

⚠️ ここが定番の引っかけ:「資本金の額」や「資本準備金の額」ではありません。 上限は 分配可能額(会社法461条)です。

(2)取得の方法と決議

株主との合意で取得する方法は2つあり、決議要件が問われます。

方法 内容 株主総会の決議
①全株主に申込機会を与える すべての株主に「売りませんか」と勧誘(ミニ公開買付け型) 特別決議(取得枠の決定)
②特定の株主から取得 特定の株主だけから買う 特別決議(+その特定株主は原則 議決権を行使できない)
  • ①でも②でも、取得枠の決定は 特別決議(H27 第2問)。
  • ②の特定株主からの取得では、他の株主は「自分も売主に加えて」と請求できます(売主追加請求権)。 この売主追加請求権を排除する定款の定めを置くには、株主全員の同意が必要(特別決議では足りない)。
  • 取得枠の取得期間は1年以内で定めます(「次の定時株主総会まで」ではない、が引っかけ)。

(3)自己株式の"制限"と消却

会社が持つ自己株式は、次のように権利が制限されます(R02 第7問)。

  • 議決権が ない(会社が自分に投票はできない)
  • 剰余金の配当を 受けられない
  • 新株予約権の無償割当てを 受けられない
  • 消却(=株式を消してなくすこと)するには、取締役会設置会社では 取締役会の決議 で数を定める

📝 過去問はこう出る(H27 第2問) 非公開・取締役会設置会社の有償の自己株式取得の会話問題。正解は A=分配可能額、B=2週間(招集通知の発送期限)、C=①も②も特別決議。 財源の上限を「資本金」等と混同させる選択肢、①②で決議要件が違うとする選択肢が引っかけ。 → H27 第2問

📝 過去問はこう出る(H21 第18問) 自己株式取得の手続を細かく問う「最も不適切なもの」型。設問1の正解(誤り)は 「取得期間は次回の定時株主総会の期日を超えられない」=正しくは1年を超えられない。 設問2の正解(誤り)は「売主追加請求権を排除する定款の定めは特別決議で足りる」=正しくは株主全員の同意が必要。 → H21 第18問R02 第7問

単元株制度 ― 少額株主の管理コストを下げる

単元株制度とは、「一定数の株式を1単元」とまとめ、1単元につき1議決権を与える制度です。 たとえば「100株=1単元」とすると、100株未満(単元未満株)しか持たない株主には議決権がなくなります。

  • ねらいは 株主管理コストの削減。株主が細かく分かれると、招集通知の送付など管理の手間・費用がかさみます。 単元未満株主には議決権がなく、招集通知も不要になるので、会社の事務負担が軽くなります。
  • 単元未満株主は、議決権はない株主の地位は失いません(配当は受けられます)。 自分の株を「買い取ってほしい」と請求できます(単元未満株式の買取請求)。
  • 単元株式数を新たに設定する定款変更は、株主総会の特別決議が必要です。

⚠️ 混同注意:株式併合 と 単元株制度(H24 第2問) - 株式併合 … 端数が生じ、その端数株主は金銭を受け取り株主でなくなる(=退出させられる)。 - 単元株制度 … 買取請求をしない限り、単元未満株主も株主のまま残る(議決権がなくなるだけ)。 どちらも設定・変更は特別決議が必要、という点は共通です。ここの対比が問われました。 → H24 第2問

株式の併合 と 株式の分割 ★頻出の対比

株式の併合 株式の分割
何をする 複数株を1株にまとめる(例:2株→1株) 1株を複数株に分ける(例:1株→2株)
発行済株式総数 減少 増加
資本金の額 変わらない 変わらない
株主にとって 端数が出て不利益を受けうる 持株比率は変わらず不利益は小さい
必要な決議 株主総会の特別決議 取締役会設置会社では取締役会の決議で足りる
反対株主の買取請求権 ある ない

覚え方の軸は「株主に不利益が及ぶか」です。 併合は端数が出て株主が損をしうるので手続きが重い(特別決議+買取請求権あり)。 分割は持株比率が変わらず害が小さいので手続きが軽い(取締役会でOK・買取請求権なし)

💡 共通の急所:併合も分割も 会社の財産(資本金)は動きません。 株式の"枚数"を増減させているだけだからです。「分割で資本金が増える」は誤り、が定番の引っかけ。 なお、株式無償割当てを使えば、分割と同じように既存株主の持株数を増やすこともできます。

📝 過去問はこう出る(H29 第1問/R04 第1問/R06 第8問) - H29 第1問:正解は「併合・分割は株式数の調整にすぎず、資本金に影響しない」。 「併合で株式総数が増える」(逆)、「分割に特別決議が必要」(逆・取締役会で足りる)がバツ。 - R04 第1問:A=併合は減少、B=分割は増加、C=資本金は変動しない、D=併合は特別決議、の組合せ。 - R06 第8問:正解は「併合には反対株主の株式買取請求権があるが、分割にはない」。 → H29 第1問R04 第1問R06 第8問


2-3 募集株式の発行(新株発行)と資本金・資本準備金

募集株式の発行とは

会社が新しく株式を発行して(または自己株式を処分して)出資者を募り、お金を集める手続きが 募集株式の発行(いわゆる新株発行の増資)です。返さなくてよい自己資本が増えるのが特徴です。

誰が決めるか ― 公開会社か非公開会社かで分かれる

募集事項(発行数・払込金額など)を誰が決めるかは、会社のタイプで変わります。ここが最頻出です。

会社のタイプ 原則の決定機関
公開会社(譲渡制限のない株式がある会社) 取締役会の決議で足りる
非公開会社(全株式が譲渡制限) 株主総会の特別決議が必要
  • 非公開会社では、既存株主の持株比率が勝手に薄まらないよう、株主総会(特別決議)で厳しくチェックします。
  • 公開会社は機動的な資金調達を重視し、原則 取締役会で決められます。
  • ただし公開会社でも、次の有利発行にあたる場合は株主総会の特別決議が必要になります。

有利発行 ― 「安売り」には株主のOKが要る

有利発行とは、特に有利な払込金額(=時価よりかなり安い値段)で株式を発行することです。 安く発行すると既存株主の持分価値が薄まって損をするため、たとえ公開会社でも 株主総会の特別決議が必要になり、取締役はその理由を説明しなければなりません。

💡 イメージ:時価1,000円の株を、新しい引受人に300円で発行すれば、その人は700円分トクをし、 既存株主はその分ソンをします。だから「安売り(有利発行)するなら株主総会で承認を取れ」というわけです。

集めたお金の行き先 ― 資本金と資本準備金

払い込まれたお金は、原則として全額を資本金に組み入れます。 ただし、その 2分の1を超えない額は「資本準備金」 とすることができます(資本金に入れない分)。

払込金額(例:1,000万円)
   ├─ 資本金へ:最低でも1/2(500万円以上)
   └─ 資本準備金へ:最大でも1/2(500万円まで)
  • 資本準備金にしておくと、後で機動的に取り崩せるなど実務上のメリットがあります。
  • 社債で集めたお金は「借金(負債)」なので、資本金にも資本準備金にも組み入れません。 ここが株式(自己資本)と社債(他人資本)の決定的な違いです(→ 2-5、R01 第5問)。

📝 過去問はこう出る(R01 第5問) 株式と社債の比較問題。募集株式の払込金は「原則 全額を資本金、2分の1まで資本準備金にできる」、 一方社債の払込金は負債であって資本金には組み入れないという対比が問われました。 また「募集株式の発行は公開・非公開を問わず株主総会決議事項」はバツ(公開会社は原則 取締役会)。 → R01 第5問


2-4 新株予約権・ストックオプション

新株予約権とは

新株予約権とは、「あらかじめ決めた価格(行使価額)で、将来その会社の株式を買うことができる権利」です。 権利者は、株価が上がったタイミングでこの権利を使えば(=行使すれば)、安く株を手に入れて利益を得られます。

  • あくまで権利であって義務ではありません。株価が下がれば行使しなければよいので、権利者に損失リスクは生じません。
  • 会社にとっては、資金調達の手段であると同時に、人材へのインセンティブの道具にもなります。

ストックオプション ― 役員・従業員へのインセンティブ

会社が役員や従業員に、報酬として無償で付与する新株予約権を ストックオプション と呼びます。 「がんばって株価を上げれば、自分の権利でトクをできる」ので、業績向上へのやる気につながります。

設計のポイント(H29 第3問)

項目 どう設計するか ねらい
払込金額 無償にする 従業員が取得しやすい
行使価額 現在の株価と同じか、それより 高く設定 株価が上がったときだけ得をする=やる気に
  • 行使価額を現在の株価より高くしておくと、株価がそれを超えて値上がりしたときにだけ利益が出ます。 逆に安く設定すると、付与した時点で値上がり益がほぼ確定してしまい、インセンティブ効果が薄れます。

⚠️ 発行時の金融商品取引法の注意:従業員(縁故者)だけへの付与なら私募として届出不要となりえますが、 社外のコンサルタント等にも取得を勧誘すると勧誘対象が広がり、金融商品取引法上の 有価証券届出書の提出義務が生じることがあります(H29 第3問 設問2)。

税務の扱い ― 税制適格ストックオプション

ストックオプションには税金の"優遇ルート"があり、要件を満たすものを 税制適格ストックオプション といいます。

課税のタイミング 税負担
税制適格(要件を満たす) 権利行使時は課税されず、株を売ったとき(譲渡時)にまとめて課税 有利(課税の繰延べ・譲渡所得課税)
税制非適格(要件を満たさない) 権利行使時に、行使価額と時価の差額が 給与所得等として課税 不利

税制適格の主な要件(H19 第18問)

  • 権利行使価額の年間合計が一定額(1,200万円)以下であること
  • 権利行使の期間が、付与決議の日後2年を経過した日から10年を経過する日までの間であること
  • 新株予約権を譲渡してはならない(譲渡禁止)こと
  • 付与対象者は、会社・子会社の取締役・執行役・使用人等(ただし大口株主等は除く) — ※監査役は対象に含まれません(ここが引っかけ)

📝 過去問はこう出る(H29 第3問) 従業員インセンティブとしてのストックオプション設計の会話問題。正解は 設問1=「払込金額は無償・行使価額は株価以上(高く)」、 設問2=「社外のコンサルタント等にも勧誘すると有価証券届出書の提出義務が生じうる」。 → H29 第3問

📝 過去問はこう出る(H19 第18問) 税制適格ストックオプションの要件を問う「最も不適切なもの」型。正解(誤り)は 「付与対象者に監査役を含める」記述。適格の対象は取締役・執行役・使用人等で、監査役は含まれません。 「年間行使価額1,200万円以下」「行使は付与決議後2年〜10年」「譲渡禁止」は正しい要件。 → H19 第18問


2-5 社債

社債とは ― 会社の借金を証券にしたもの

社債とは、会社が広く一般からお金を借りるために発行する、細分化された債券(有価証券)です。 株式が「出資してもらう(自己資本)」なのに対し、社債は「借りる(他人資本=負債)」。 社債を持つ人(社債権者)は株主ではなく会社の債権者で、決まった利息を受け取り、満期に元本の返済を受けます。

社債の発行手続きの急所

  • 発行できる会社:株式会社だけでなく、持分会社(合名・合資・合同会社)も社債を発行できます。 一方、株式は株式会社に固有の制度で、持分会社は株式を発行できません(この対比が頻出)。
  • 決める機関:取締役会設置会社では、募集社債の発行は取締役会の決議事項です(公開・非公開を問わない)。 重要事項(総額の上限など)を取締役会で定めれば、その余の募集事項の決定は取締役(代表取締役等)に委任できます。 → 株主総会の特別決議は不要(ここが株式との大きな違い)。
  • 社債券:社債券(紙の券面)の発行は任意。発行しない社債も認められます。
  • 社債管理者:原則として設置が必要ですが、各社債の金額が1億円以上の場合や、 社債権者の数が50未満の場合などは設置不要です。社債管理者になれるのは銀行・信託会社等で、 証券会社はなれません
  • 社債権者集会:社債権者は社債の種類ごとに社債権者集会を組織します。 目的事項について議決権者全員が書面等で同意すれば、可決の決議があったものとみなされます(みなし決議)。

少人数私募債 ― 中小企業の資金調達

少人数私募債は、勧誘の相手方が少人数の社債で、金融商品取引法の「有価証券の募集」に当たらず、 有価証券届出書などの開示義務なしで簡易に発行できます。中小企業の資金調達手段として実務でよく使われます。

  • 要件は、取得勧誘の相手方の人数が50名未満であること。 ※最終的に取得した人数ではなく、「勧誘した相手方」の人数で判定する点に注意(H23 第19問)。

★最重要:株式と社債の比較

この章の総まとめとして、両者の違いを一枚で整理します。試験はこの対比を毎回突いてきます

比較項目 株式(募集株式) 社債
性質 出資 = 自己資本(返済不要) 借入 = 他人資本(負債)(返済必要)
持つ人 株主(会社の構成員) 社債権者(会社の債権者)
受け取るもの 配当(会社の業績しだい・不確定) 利息(あらかじめ確定・約束)
経営への参加 議決権 あり(普通株式) なし
発行できる会社 株式会社のみ 株式会社+持分会社も可
発行を決める機関(取締役会設置会社) 公開:取締役会/非公開:株主総会特別決議 取締役会(株主総会不要)
払込金の会計上の扱い 原則 全額を資本金(1/2まで資本準備金) 負債(資本金に組み入れない)
会社解散時の弁済順位 債権者への弁済(最劣後) 株主に優先(一般債権者と同順位が原則)

💡 覚え方:株式=「仲間になってもらう(返さない・議決権あり・もうけ次第で配当)」、 社債=「お金を借りる(返す・議決権なし・利息は約束どおり)」。 この一言の対比を軸にすれば、細かい選択肢もほぼ判断できます。

📝 過去問はこう出る(H19 第3問) 募集株式と募集社債の比較問題。正解は「株式は株式会社に固有の制度で持分会社は発行できないが、 社債は持分会社も発行できる」。引っかけは「社債券は必ず発行しなければならない」(→任意)、 「募集株式はいかなる場合も取締役会決議だけでよい」(→非公開会社は株主総会特別決議)など。 → H19 第3問

📝 過去問はこう出る(R03 第1問・R06 第5問・R07 第19問・H23 第19問) - R03 第1問:正解は「社債権者は社債の種類ごとに社債権者集会を組織する」。 「社債の募集事項の決定に必ず株主総会決議が必要」「委任できる事項はない」はバツ。 - R06 第5問:正解は「議決権者全員の書面同意で社債権者集会の可決決議があったものとみなされる」。 「合名会社は社債を発行できない」「社債券は必ず発行」はバツ(どちらも可・任意)。 - R07 第19問:正解は少人数私募債の開示義務に関する記述。募集事項の決定は代表取締役に委任できる。 - H23 第19問:設問1の正解(誤り)は「証券会社が社債管理者になれる」(→なれない)。 設問2=少人数私募債は「取得勧誘の相手方の人数が50名未満」。 → R03 第1問R06 第5問R07 第19問H23 第19問


この章のまとめ(試験直前チェック)

  • ☐ 株主の3つの権利=配当請求権・残余財産分配請求権・議決権(前2つ=自益権、議決権=共益権)
  • ☐ 種類株式は9種類(配当・残余財産・議決権制限・譲渡制限・取得請求権付・取得条項付・全部取得条項付・拒否権付・役員選任権付)
  • ☐ 優先株式:累積型・参加型は株主に有利/非累積型・非参加型は不利(VC出資では優先株主に有利=創業者に不利)
  • ☐ 譲渡制限株式:みなし承認は2週間/承認機関は取締役会設置会社なら取締役会(定款で別段の定め可)
  • 相続(一般承継)は承認不要/全部の株式に譲渡制限を付す定款変更は特殊決議(総株主の同意ではない)
  • ☐ 自己株式:財源は分配可能額が上限(≠資本金)/取得枠は特別決議/取得期間は1年以内
  • 売主追加請求権の排除は株主全員の同意が必要/自己株式は議決権・配当なし
  • ☐ 単元株制度:株主管理コスト削減/単元未満株主は議決権なし・株主のまま(≠退出する株式併合)
  • ☐ 株式の併合=特別決議+買取請求権あり分割=取締役会で足りる・買取請求権なしどちらも資本金は不変
  • ☐ 募集株式の決定:公開会社=取締役会/非公開会社=株主総会特別決議有利発行は公開会社でも特別決議
  • ☐ 払込金は原則 全額 資本金2分の1まで資本準備金にできる)
  • ☐ ストックオプション設計:払込金額は無償・行使価額は株価以上(高く)
  • ☐ 税制適格SO:行使時非課税・譲渡時課税/年間1,200万円以下・付与決議後2年〜10年・譲渡禁止・監査役は対象外
  • ☐ 社債=他人資本(負債)持分会社も発行可/取締役会設置会社は取締役会で決定(株主総会不要)
  • ☐ 社債券発行は任意/社債管理者は各社債1億円以上等で不要・証券会社はなれない種類ごとに社債権者集会
  • ☐ 少人数私募債=取得勧誘の相手方が50名未満(最終取得者数ではない)
  • ☐ 株式vs社債:株式=仲間(返さない・議決権あり・配当は業績次第)/社債=借金(返す・議決権なし・利息は確定)

この章に対応する主な過去問

年度・問 論点 リンク
H30 第6問 種類株式(優先株式・累積/参加型) 問題
R07 第4問 譲渡制限株式(承認手続・一般承継) 問題
H23 第6問 譲渡制限株式の譲渡承認(2週間・取締役会) 問題
H27 第2問 自己株式の取得(分配可能額・特別決議) 問題
H21 第18問 自己株式の取得(取得期間・売主追加請求権) 問題
R02 第7問 自己株式(議決権・配当・消却) 問題
H24 第2問 単元株制度と株式併合の対比 問題
H29 第1問 株式の併合・分割(資本金不変) 問題
R04 第1問 株式の併合と分割の比較 問題
R06 第8問 株式の併合と分割(買取請求権) 問題
R01 第5問 株式と社債の比較(資本金組入・株券) 問題
H29 第3問 新株予約権・ストックオプションの設計 問題
H19 第18問 ストックオプションの税務(税制適格要件) 問題
H19 第3問 募集株式と募集社債の比較 問題
H23 第19問 社債の発行(社債管理者・少人数私募債) 問題
R03 第1問 社債(社債権者集会・社債管理者) 問題
R06 第5問 社債(みなし決議・発行できる会社) 問題
R07 第19問 社債(募集事項の委任・私募) 問題

次章予告 ▶ 第3章「株式会社の機関(ガバナンス)」 本章では「株主」と「会社のお金の集め方」を学びました。次章では、その株主が集まる株主総会を出発点に、 取締役・取締役会・監査役・会計監査人など、会社を動かす機関の役割と、公開会社/非公開会社で変わる 機関設計のルールを扱います。本章で何度も出てきた「特別決議」「取締役会設置会社」が、いよいよ主役になります。