第9章 組織構造のデザイン
この章のねらい ここから第II部・組織論に入ります。第I部(経営戦略論)が「どこで・どう戦うか」を考える分野だったのに対し、 組織論は「その戦略を実行する"器"(うつわ)"をどう作るか」を考える分野です。 第1章で登場したチャンドラーの命題「組織は戦略に従う」を思い出してください。戦略を決めたら、 次はそれを動かすための組織のかたち(構造)を設計する必要があります。本章はまさにその設計図の話です。
過去問での出方:企業経営理論の第11〜18問あたり(組織論の入り口)で、ほぼ毎年出題される 最頻出テーマのひとつです。特に「①分業と調整」「②ミンツバーグの5要素」「③3つの組織形態(機能別・事業部制・ マトリックス)」「④ガルブレイスの情報処理」「⑤組織のライフサイクル」の5点は、 表現を変えて繰り返し問われます。用語の定義と、各形態のメリット・デメリットの"逆張り引っかけ"を 押さえれば、得点源にできる分野です。 なお、環境と組織を結びつけるコンティンジェンシー理論(ウッドワード等)の詳細は第10章で扱います。 本章は組織の"かたち"そのものの設計に軸足を置きます。
9-0 この章の地図
組織のデザインは、大きく「①組織を作る基本原理」→「②組織を分解して見る(ミンツバーグ)」→ 「③代表的な組織のかたち」→「④情報処理の視点で設計する」→「⑤組織は成長とともに形を変える」という 順に理解すると、頭が整理できます。
9-1 組織デザインの基本 … 分業と調整/3つの調整メカニズム/管理の幅
│
9-2 組織の5つの基本要素 … ミンツバーグ(5要素と5つの型)
│
9-3 基本的な組織形態 … 機能別・事業部制・マトリックス(★最頻出)
│
9-4 情報処理からの組織デザイン … ガルブレイス(必要量 vs 能力)
│
9-5 組織のライフサイクル … 成長段階で形が変わる(グレイナー等)
まず9-1で「組織とは分業したものを、また調整してひとつにまとめる仕組みだ」という土台をつかみます。 この「分業と調整」の視点が、この章すべてを貫く背骨になります。
9-1 組織デザインの基本 ― 分業と調整
組織づくりは「分ける」と「まとめる」の繰り返し
組織デザインの出発点は、たったふたつの動作です。
- 分業(ぶんぎょう):大きな仕事を、専門ごと・工程ごとに小さく分けて割り当てること
- 調整(ちょうせい):分けてバラバラになった仕事を、もう一度ひとつの成果につなぎ直すこと
分業には「専門化が進んで生産性が上がる」という大きなメリットがあります。 一方で、分ければ分けるほど、それを"つなぎ直す"調整の手間が増えるという宿命があります。 ここが試験で狙われる急所です。
⚠️ 定番の引っかけ:「分業を進めれば各工程が単純化されるので、工程間の調整は不要になる」 ――これは誤りです。分業を進めるほど、分割した作業を全体としてかみ合わせる調整はむしろ不可欠になります。 「分業→調整いらず」という選択肢はバツと覚えてください(R07 第14問)。
分業のもうひとつの落とし穴:「仕事の意味の喪失(疎外)」
分業を過度に進めると、作業者は自分の仕事が全体のどこに効いているのか実感できなくなり、 やる気が下がることがあります。これは「疎外(そがい)=仕事の意味の喪失」と呼ばれる問題です。
⚠️ 混同注意:似た用語のすり替えに注意(R07 第14問より) - 疎外=分業しすぎて「自分の仕事の意味」が見えなくなり意欲が下がる現象 - アンダーマイニング効果=外的報酬(お金など)を与えると内発的なやる気が下がる現象(→ 第12章) - 計画のグレシャムの法則=日々の定型業務に追われて、非定型の計画業務が後回しになる現象 分業の話に「アンダーマイニング効果」や「グレシャムの法則」を当てた選択肢は、用語のすり替えでバツです。
調整の3つのメカニズム(標準化・相互調整・直接監督)
では、分けた仕事はどうやってつなぎ直すのでしょうか。組織論では、調整の方法を大きく3つに整理します。 (ミンツバーグの整理として有名です。)
| 調整メカニズム | どんな方法か | 向いている場面 |
|---|---|---|
| ① 直接監督(direct supervision) | 上司が指示・命令して直接まとめる | 小規模・単純構造。トップが目の届く範囲 |
| ② 標準化(standardization) | あらかじめ決めごと(ルール)でそろえる | 定型的・反復的な業務 |
| ③ 相互調整(mutual adjustment) | 担当者どうしが話し合ってその場で合わせる | 非定型・複雑で先の読めない業務 |
このうち ②標準化 は、さらに3タイプに分かれます。ここは頻出です(H24 第12問)。
| 標準化のタイプ | 何をそろえるか | 具体例 |
|---|---|---|
| 作業(プロセス)の標準化 | 仕事の手順をマニュアルで固める | 製造ラインの作業手順書 |
| アウトプット(成果)の標準化 | 出すべき成果・目標値をそろえる | 「不良率○%以下」などの数値目標 |
| スキル(技能)の標準化 | 人の能力・知識を教育で一定水準にそろえる | 医師・会計士など専門職の資格教育 |
💡 覚え方:「プロセス・アウトプット・スキル」=「手順・成果・技能」の3点セット。 特にスキルの標準化は、社外の教育機関で訓練された専門家(医師・弁護士・会計士)を思い浮かべると覚えやすいです。 教育訓練や社会化(組織文化になじませること)で労働力そのものをそろえるのがスキルの標準化です。
📝 過去問はこう出る(H24 第12問) 「組織における標準化」を問う問題。正解は 「社内の人材を教育訓練したり、社会化を通じて組織文化への同調を求めることで、労働力そのものを標準化すれば、 分業が調整しやすくなる」=スキルの標準化の説明です。 一方、「会計士・弁護士など専門家の活用は判断業務の少ない職場で有効」はバツ(専門家はむしろ判断業務の多い 不確実な場面で有効)。「部品のインターフェース標準化でクローズドアーキテクチャを実現」もバツ(正しくはオープン)。 → H24 第12問
📝 過去問はこう出る(R07 第14問) 「分業と調整」の基本を問う問題。正解は 「定型的な作業は標準化によってあらかじめ調整し、想定外の事態には上位層が事後的に対応する」。 =事前に標準化+例外は上位が処理という、分業・調整の王道の考え方です。 「分業すれば調整は不要」「疎外をアンダーマイニング効果と呼ぶ」などはすべて用語・因果のすり替えでバツ。 → R07 第14問
管理の幅(span of control)=ひとりの上司が直接見られる部下の数
組織の階層の高さ(タテの深さ)は、「管理の幅(span of control=統制範囲)」で決まります。
- 管理の幅とは、ひとりの管理者が直接コントロールできる部下の人数のこと。
- 管理の幅が広い(ひとりで多くの部下を見られる)→ 階層は少なく・フラットになる。
- 管理の幅が狭い(ひとりで少しの部下しか見られない)→ 階層は多く・高くなる。
ポイントは、「調整・例外処理の負担が小さいほど、管理の幅は広くとれる」という関係です。
【管理の幅が広い=フラットな組織】 【管理の幅が狭い=背の高い組織】
社長 社長
┌──┬──┬──┬──┐ ┌──┴──┐
部 部 部 部 部 課長 課長
┌┴┐ ┌┴┐
部 部 部 部
(ひとりで多数を管理) (階層が深くなる)
| 管理の幅が広くなる(=負担が小さい)条件 | 管理の幅が狭くなる(=負担が大きい)条件 |
|---|---|
| 業務が標準化・マニュアル化されている | 部下間の相互依存度が高い(調整が多い) |
| 標準化された評価指標で統一的に管理できる | 業務どうしの同期・すり合わせが多い |
| 部下が熟練している | 環境が不規則に変化し例外が多い |
📝 過去問はこう出る(H20 第13問) 「管理の幅」に関する問題。正解は 「標準化された業績評価指標で部下・下位部門を統一的に管理できる場合は、管理の幅は広くなる」。 「マニュアル化が進むと例外が増えて管理の幅は狭くなる」(→ 標準化で例外は減り、幅は広くなる)、 「同期・調整が必要な職場では管理の幅は広くなる」(→ 調整負担が増えるので狭くなる)はすべて逆でバツ。 → H20 第13問
📝 過去問はこう出る(H23 第12問) 「組織の階層性(分業と協業)」を問う問題。正解は 「管理者の職務に関する事業の範囲やタイムスパン(時間的視野)の責任に応じて、組織は階層を設計する必要がある」。 「公式化を進めると管理の幅は狭くなり階層が増える」はバツ(公式化=ルール化で管理は容易になり、幅は広がる)。 → H23 第12問
集権化と分権化・公式化
組織デザインを語るとき、次の2つの軸も頻出です(H29 第14問)。
- 集権化 ⇔ 分権化:意思決定の権限を上に集めるか、下位に委ねるか。 一般に、分権化するほど環境変化に素早く対応でき、集権化するほど全社の統制が利きます。
- 公式化:仕事の進め方をルール・手続き(標準業務手続き)で明文化する程度。 公式化が進むほど、個人の自由裁量は小さくなります(決められたとおりにやる)。
📝 過去問はこう出る(H29 第14問) 「組織構造のデザイン」を問う問題。正解は 「標準業務手続きの公式化が進むほど、職務の進め方に対する個人の自由裁量は小さくなる」(=公式化の定義そのもの)。 「分権化するほど統制が利き、集権化するほど迅速に対応できる」は集権・分権の効果が逆でバツ。 → H29 第14問
9-2 組織の5つの基本要素 ― ミンツバーグ
組織を「5つのパーツ」に分解する
H. ミンツバーグ(Henry Mintzberg)は、どんな組織も5つの基本要素(パーツ)の 組み合わせでできている、と整理しました。組織を"人体の器官"のように分解して見る考え方です。
┌─────────────────┐
│ ① 戦略的トップ │ ← 経営の全体方針を決める
│ (Strategic Apex) │
└────────┬────────┘
④ テクノ ┌──┴──┐ ⑤ サポート
ストラクチャ │② ミドル │ スタッフ
(標準化・ │ライン │ (法務・総務など
計画で支援)└──┬──┘ 現業を支援)
┌───┴───┐
│③ 現業部門 │ ← 実際にモノ・サービスを生む
│(Operating │
│ Core) │
└──────────┘
| 要素 | 英語 | 役割(ひとことで) |
|---|---|---|
| ① 戦略的トップ | Strategic Apex | 経営トップ。全体方針・最終責任を担う |
| ② ミドルライン | Middle Line | 中間管理層。トップと現場をつなぐ |
| ③ 現業部門 | Operating Core | 実際に製品・サービスを生み出す作業の中核 |
| ④ テクノストラクチャ | Technostructure | 標準化・計画を担うスタッフ(生産管理・品質管理など) |
| ⑤ サポートスタッフ | Support Staff | 現業を側面から支援(法務・総務・食堂・研究支援など) |
💡 覚え方:真ん中にタテの背骨(トップ→ミドル→現業)が通り、その脇に 左からテクノストラクチャ(標準化係)/右からサポートスタッフ(お世話係)が支える、という絵をイメージします。 テクノストラクチャ="標準化する人"/サポートスタッフ="世話する人"の区別が問われます。
5つのコンフィギュレーション(組織の型)
ミンツバーグは、5要素のうちどこが主導権を握るか・どの調整メカニズムが中心かによって、 組織を5つの型(コンフィギュレーション=configuration)に分類しました。
| 組織の型 | 中心となる調整 | 主導する要素 | 向いている環境 | 例 |
|---|---|---|---|---|
| 単純構造 | 直接監督 | 戦略的トップ | 小規模・変化に対応 | 中小企業・創業期 |
| 機械的官僚制 | 作業の標準化 | テクノストラクチャ | 単純・安定 | 大量生産の工場・行政 |
| プロフェッショナル官僚制 | スキルの標準化 | 現業部門(専門職) | 複雑だが安定 | 病院・大学・会計事務所 |
| 事業部制(分権構造) | アウトプットの標準化 | ミドルライン | 多角化・多市場 | 大企業の事業部 |
| アドホクラシー | 相互調整 | サポートスタッフ等 | 複雑・激しく変化 | 研究開発・プロジェクト |
とくに試験でよく出るのが、次の2つの対比です。
- プロフェッショナル官僚制(病院・会計事務所・大学) … 高度な専門職(現業部門)が、スキルの標準化をよりどころに大きな自律性をもって働く。 テクノストラクチャは小さく、専門職を支えるサポートスタッフが大きいのが特徴。 トップによる直接統制は弱い(自律的)。
- アドホクラシー(研究開発組織) … 変化の激しい複雑な環境で、専門家が相互調整によりプロジェクト的に協働する、 有機的で分権的な形態。官僚制のような固い標準化には頼らない。
📝 過去問はこう出る(H21 第11問) 設問1「プロフェッショナル官僚制」の正解は 「テクノストラクチャは少なく、専門職を支援するサポートスタッフは多い」。 「戦略的トップの直接統制が強い」(→ それは単純構造)、「定型業務を効率的に遂行」(→ 機械的官僚制)、 「単純・安定環境で公式化が高い」(→ 機械的官僚制)はすべて別の型の説明でバツ。 設問2「アドホクラシー」(研究開発組織向き)は、環境変化への迅速な対応を可能にする分権的な形態がテーマ。 → H21 第11問
9-3 基本的な組織形態 ― 機能別・事業部制・マトリックス ★最頻出
この節が本章の心臓部です。3つの代表的な組織のかたちを、メリットとデメリットの対比で押さえます。 試験は「あるかたちの長所を、別のかたちの長所とすり替える」引っかけで攻めてきます。
① 機能別組織(職能別組織)
製造・販売・購買・財務・人事など、仕事の"機能(職能)"ごとに部門を分けたかたちです。
社長
┌────┬────┬────┬────┐
製造 販売 財務 人事 (機能ごとに縦割り)
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 同じ専門家が集まり専門性が深まる | 事業全体を見る次世代経営者が育ちにくい(部門長は一機能しか見ない) |
| 重複が少なく規模の経済を追求しやすい | 事業が多角化・大規模化すると意思決定がトップに集中して遅くなる |
| 機能内で知識・ノウハウが蓄積する | 部門間の調整が難しい(横のつながりが弱い) |
⚠️ 引っかけ注意:「機能別組織は部門間で緊密な調整が必要な場合に有効」――これは誤りです。 機能別組織はむしろ部門間の連携(横のつながり)が弱いのが弱点。安定環境で官僚制的になりやすい、という短所は正しい記述です。
② 事業部制組織
製品別・地域別・顧客別など、事業(製品―市場)ごとに、 その中に製造・販売・開発などをひとそろい持つ自己完結的な単位を作るかたちです。
本社(戦略的意思決定に専念)
┌──────────┬──────────┐
A事業部 B事業部 C事業部
┌製造┬販売┐ ┌製造┬販売┐ ┌製造┬販売┐ (事業ごとに自己完結)
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 各事業部が自律的・迅速に意思決定できる | 事業部ごとに設備・機能を持つため重複投資が生じやすい |
| トップは戦略的意思決定に専念できる(業務・管理は事業部へ) | 事業部間の連携・シナジーが生まれにくい(縦割りの弊害) |
| 利益責任が明確(独立採算)で経営者人材が育つ | 短期的な事業部利益を優先し全社最適を欠くことがある(セクショナリズム) |
事業部制のポイントは、第1章で学んだアンゾフの意思決定分類とつながる点です。 事業部制では、業務的意思決定と管理的意思決定を各事業部が担い、トップは戦略的意思決定に専念できます。
⚠️ 引っかけ注意: - 「事業部制は規模の経済を追求することは難しい」→ バツ。各事業部が自己完結的に規模の経済を追える。 - 「事業部制ではトップが戦略的意思決定と管理的意思決定に専念」→ バツ(管理的決定は事業部が担う。 トップは戦略的意思決定に専念が正しい)。 - 「事業部間で素早く有機的に連携できる」→ バツ(独立採算ゆえ連携は生まれにくい)。
③ マトリックス組織
機能(職能)の軸と、製品・プロジェクトの軸を格子(マトリックス)状に組み合わせたかたちです。 ひとりの担当者が「機能マネジャー」と「プロダクトマネジャー」の2人の上司を持つ(ツーボス)のが最大の特徴です。
┌ 製造 ┐ ┌ 販売 ┐ ┌ 開発 ┐ ← 機能の軸
製品P ─────┼──●──┼──●──┼──●──┤
製品Q ─────┼──●──┼──●──┼──●──┤ ← 製品の軸
(●=機能と製品の交点。2人の上司を持つ)
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 機能の専門性と製品への責任を両立できる | 二重指揮命令でコンフリクト(対立)や指示の曖昧さが生じやすい |
| 変化の速い環境・部門間の相互依存が高い状況に強い | 調整・会議のコストが大きい |
| 人材・情報を柔軟に共有できる | 対立や曖昧さを許容する組織文化がないと機能しにくい |
📝 過去問はこう出る(H28 第12問) 機能別・事業部制・マトリックスの特徴を問う問題。正解は 「マトリックス組織は変化の速い環境で部門間の相互依存が高い場合に有効だが、 コンフリクトや曖昧さを許容する組織文化を持たないと効果的に機能しにくい」。 「機能別は部門間調整が必要な場合に有効」(→ 逆)、「事業部制は規模の経済が難しい」(→ 逆)、 「マトリックスでは機能マネジャーとプロダクトマネジャーが常に同じ権限を持たねばならない」(→ 状況で一方を強くする運用もある)はバツ。 → H28 第12問
📝 過去問はこう出る(R05 第14問) 主要な組織形態を問う問題。正解は 「事業部制では各事業部が自律的に判断するため、設備・機能などで事業部間に重複投資が生じやすい」。 「機能別組織のほうが次世代経営者を育てやすい」(→ 事業全般を見る事業部制が有利)、 「マトリックス組織は不確実性が低い環境で採用されやすい」(→ 逆に不確実性が高い状況で採用)はバツ。 → R05 第14問
💡 3形態の使い分けまとめ - 機能別=専門性・効率重視(単一事業・安定環境向き) - 事業部制=迅速・自律重視(多角化・大規模向き。ただし重複投資に注意) - マトリックス=両立を狙う(不確実で相互依存が高い環境向き。ただし二重指揮の混乱に注意)
9-4 情報処理の観点からの組織デザイン ― ガルブレイス
「不確実性が高いほど、処理すべき情報が増える」
J. ガルブレイス(Jay Galbraith)は、組織デザインを 「情報処理の必要量」と「情報処理の能力」のバランスという視点でとらえました。
- 考え方の出発点:環境の不確実性が高いほど、組織が処理しなければならない情報の量(必要量)が増える。
- 必要量 > 能力 のままだと、組織はパンクします。そこで、 ①必要量を減らすか、②能力を高めるか、どちらかの手を打ってバランスをとる必要があります。
情報処理の【必要量】 ────バランスをとる──── 情報処理の【能力】
(不確実性で増える) (設計で高められる)
↓ 減らす方策 ↑ 高める方策
・スラック資源の創出 ・垂直的情報システムへの投資
・自己完結的職務の創出 ・横断的関係の創出
4つの方策(2つ減らす・2つ高める)
| 方向 | 方策 | 中身 |
|---|---|---|
| 必要量を減らす | スラック資源の創出 | 納期や在庫などに余裕(スラック)を持たせ、調整の必要そのものを減らす |
| 必要量を減らす | 自己完結的職務の創出 | 部門内で仕事を完結させ、部門間の調整(=処理すべき情報)を減らす |
| 能力を高める | 垂直的情報システムへの投資 | 情報システムを整え、タテ方向の情報処理能力を高める |
| 能力を高める | 横断的関係の創出 | 連絡役・タスクフォース・マトリックスなど、ヨコの連携で処理能力を高める |
💡 覚え方:「減らす2つ=スラック・自己完結」/「高める2つ=垂直システム・横断関係」。 「自己完結」は必要量を"減らす"(部門内で片づけるから調整が要らない)、 「横断的関係」は能力を"高める"(ヨコの連絡通路を増やす)――この2つの向きを取り違える引っかけが定番です。
📝 過去問はこう出る(R06 第14問) ガルブレイスの組織デザイン方策を問う問題。正解は 「横断的な関係の創出は、情報処理能力を増大させる」。 「自己完結的職務の創出は情報処理の必要性を増大させる」(→ 正しくは低減)、 「垂直的情報システムへの投資は能力を低減させる」(→ 正しくは増大)、 「スラック資源の創出は必要性を増大させる」(→ 正しくは低減)はすべて向きが逆でバツ。 → R06 第14問
発展:不確実性と「多義性」の区別
情報処理モデルの応用として、処理すべき情報を2種類に分けて考えることがあります(R01 第13問)。
| 不確実性(uncertainty) | 多義性(equivocality) | |
|---|---|---|
| 意味 | 情報量の不足(データが足りない) | 解釈の多様さ(意味がいくとおりにも取れる) |
| 除去する手段 | 情報量を増やす(調査・データ収集) | リッチなメディアで意味をすり合わせる |
| 向いているメディア | 報告書・アンケートなど(リーン=情報が薄い) | 対面(フェイス・ツー・フェイス)など(リッチ=情報が濃い) |
- メディアのリッチネスとは、コミュニケーション手段が運べる情報の"濃さ"のこと。 対面はリッチ(表情・声・その場のやりとりまで伝わる)、文書はリーン(言葉だけ)です。
- 環境の"質的な変化"や新しい意味を知るには、多義性の除去が重要で、 対面のようなリッチなメディアが必要になります。
📝 過去問はこう出る(R01 第13問) 情報処理モデルによる組織デザインを問う問題。正解は 「環境の質的な変化は多義性の除去の必要性を増加させるので、フェイス・ツー・フェイスなど リッチなコミュニケーションメディアを利用した調整メカニズムが必要になる」。 「多義性の除去には冗長性を排除して効率を確保」(→ 逆。豊かな対話が必要)、 「明確に定義された言語による報告書はリッチなメディア」(→ それはリーンなメディア)はバツ。 → R01 第13問
9-5 組織のライフサイクルと成長段階
組織は「大きくなるにつれて、形を変える」
会社は生まれてから成長するにつれ、必要な組織のかたちや管理の仕方が変わっていきます。 これを組織のライフサイクル(成長段階)の視点でとらえます。有名なのがグレイナー(L. Greiner)の5段階成長モデルです。
グレイナーは、各段階は「成長(進化)」の後に「危機(革命)」が来て、それを乗り越えると次の段階へ進む、 と考えました。危機を乗り越える"打ち手"が、次の段階の特徴になる、という点がポイントです。
| 段階 | 成長の原動力 | 直面する危機 |
|---|---|---|
| ① 創造性による成長 | 創業者の熱意・アイデア | リーダーシップの危機(管理が追いつかない) |
| ② 指揮による成長 | トップダウンの管理体制 | 自律性の危機(現場が権限不足で不満) |
| ③ 委譲による成長 | 権限委譲・分権化 | 統制の危機(各部門が勝手に動きバラバラに) |
| ④ 調整による成長 | 制度・システムによる全社調整 | 形式主義(レッドテープ)の危機(官僚的で硬直) |
| ⑤ 協働による成長 | チーム・協働・柔軟な連携 | (さらなる危機) |
💡 覚え方:「創造→指揮→委譲→調整→協働」。 "ひとりの熱意で始まり(創造)、まず号令で束ね(指揮)、次に任せ(委譲)、任せすぎたので仕組みで整え(調整)、 最後はみんなで協働する"――集権と分権を行き来しながら成熟していくイメージです。
別バージョン:組織のライフサイクル(起業者→共同体→公式化→精巧化)
過去問(R04・R06)では、4段階のライフサイクル仮説がそのまま出題されています。 各段階で「何を重視するか(有効性指標)」が変わるのが問われるポイントです。
| 段階 | 段階の中身 | 支配的な有効性指標(何を重視するか) |
|---|---|---|
| ① 起業者段階 | 創業期。事業を立ち上げる | 資源獲得と成長(顧客・金融機関との良好な関係づくり) |
| ② 共同体段階 | 仲間意識で一体感を作る | 人的資源の開発(凝集性とモラールを高める) |
| ③ 公式化段階 | ルール・制度を整える | 安定性・統制・生産性(規則・手続き・情報管理システムの整備) |
| ④ 精巧化段階 | 成熟・再活性化 | 安定・統制・生産性・人材開発に加え、新たな環境適応のための資源獲得と成長 |
📝 過去問はこう出る(R04 第18問) 発展段階(起業者・共同体・公式化・精巧化)と、各段階で支配的な有効性指標を対応させる問題。正解は 起業者段階=資源獲得と成長/共同体段階=人的資源の開発(凝集性・モラール)/ 公式化段階=安定性・統制・生産性(規則・手続の整備)/精巧化段階=それらに加え新たな資源獲得と成長。 段階の順番と「その段階で何を重視するか」をセットで覚えるのがコツです。 → R04 第18問 / R06 第23問
⚠️ 混同注意:段階の"順番"と"重視するもの"を取り違えない 「起業者段階で規則・手続きの整備を重視する」といった選択肢はバツ。 規則・手続き(公式化)を重視するのは、もっと後の公式化段階です。 創業期はまず生き残るための資源獲得と成長が最優先、と押さえましょう。
この章のまとめ(試験直前チェック)
- ☐ 組織デザイン=分業(分ける)と調整(つなぎ直す)。分業を進めるほど調整はむしろ不可欠(「調整不要」はバツ)
- ☐ 分業しすぎの弊害=疎外(仕事の意味の喪失)。アンダーマイニング効果・グレシャムの法則とのすり替えに注意
- ☐ 調整の3メカニズム=直接監督・標準化・相互調整
- ☐ 標準化の3タイプ=作業(手順)・アウトプット(成果)・スキル(技能)。専門職=スキルの標準化
- ☐ 管理の幅(span of control)=ひとりの上司が見られる部下の数。標準化・熟練で広く/相互依存・例外で狭く
- ☐ 幅が広い→フラット、幅が狭い→背が高い組織。公式化が進むと管理は容易=幅は広がる
- ☐ 公式化が進むほど個人の自由裁量は小さくなる/分権化で迅速・集権化で統制(逆の選択肢に注意)
- ☐ ミンツバーグの5要素=戦略的トップ・ミドルライン・現業部門・テクノストラクチャ・サポートスタッフ
- ☐ テクノストラクチャ=標準化係/サポートスタッフ=世話係の区別
- ☐ プロフェッショナル官僚制(病院等)=スキルの標準化・自律的・サポートスタッフ大・テクノストラクチャ小
- ☐ 機能別=専門性・規模の経済(部門間調整は弱い)/事業部制=迅速・自律(重複投資・連携弱の弊害)/マトリックス=両立(二重指揮の混乱)
- ☐ 事業部制ではトップは戦略的意思決定に専念(管理的決定は事業部が担う)
- ☐ ガルブレイス:必要量を減らす2つ=スラック資源・自己完結的職務/能力を高める2つ=垂直的情報システム・横断的関係
- ☐ 不確実性=情報量の不足(情報を増やす)/多義性=解釈の多様さ(対面などリッチなメディアで除去)
- ☐ 組織のライフサイクル:グレイナー創造→指揮→委譲→調整→協働/4段階起業者→共同体→公式化→精巧化
- ☐ 段階ごとの重視点=起業者:資源獲得と成長/共同体:人的資源開発/公式化:安定・統制・生産性/精巧化:再活性化
この章に対応する主な過去問
| 年度・問 | 論点 | リンク |
|---|---|---|
| H20 第13問 | 管理の幅(span of control) | 問題 |
| H23 第12問 | 組織の階層性(分業と協業) | 問題 |
| H24 第12問 | 組織における標準化 | 問題 |
| R07 第14問 | 組織における分業と調整 | 問題 |
| H21 第11問 | ミンツバーグの組織の5つの基本要素 | 問題 |
| H28 第12問 | 機能別・事業部制・マトリックス組織の特徴 | 問題 |
| R05 第14問 | 主要な組織形態 | 問題 |
| H29 第14問 | 組織構造のデザイン(公式化・集権/分権) | 問題 |
| R01 第13問 | 情報処理モデルによる組織構造のデザイン | 問題 |
| R06 第14問 | 組織デザインの方策(ガルブレイス) | 問題 |
| R04 第18問 | 組織のライフサイクル仮説 | 問題 |
| R06 第23問 | 組織のライフサイクル仮説 | 問題 |
| H25 第11問 | 組織設計 | 問題 |
| H28 第16問 | マトリックス組織と成長戦略 | 問題 |
| H27 第12問 | 組織デザイン(情報処理の観点) | 問題 |
| H30 第21問 | 組織のライフサイクル | 問題 |
次章予告 ▶ 第10章「組織理論(マクロ組織論)」 本章では組織の"かたち"を設計しました。次章では、「どんな環境のとき、どんな組織が向くのか」を考える コンティンジェンシー理論(環境適応理論)を扱います。バーンズ&ストーカー(機械的組織/有機的組織)、 ウッドワードの生産技術と組織(R02 第15問)、ローレンス&ローシュ(分化と統合)など、 「組織に唯一最善の答えはない(=状況次第)」という組織論のもうひとつの柱を学びます。