第8章 企業統治(コーポレート・ガバナンス)とCSR
この章のねらい ここからは「会社は誰のものか」「経営者を誰が・どう監視するのか」「会社は社会に対して どんな責任を負うのか」という、企業と社会の関係を扱います。第1〜7章までの "どう競争に勝つか"(戦略論)とは少し毛色が変わり、会社の"仕組み"と"倫理"の話です。 やさしく言えば、「経営者が暴走したり不正をしたりしないように、どんな歯止め(ガバナンス)を 用意するか」と、「お金もうけだけでなく、社会や環境にどう向き合うか(CSR)」の2本立てです。
過去問での出方:この分野はほぼ毎年1問、安定して出題されます(H21・H22・H23・H25・H26・ H30・R02〜R07…)。特に CSR と ファミリービジネス(同族経営) は繰り返し問われる定番で、 近年は コーポレートガバナンス・コード(R07 第13問) や ESG投資(R06 第12問) など 新しいキーワードも登場しています。理論の細かい計算は不要で、用語の意味と"誰の視点か"を 正しく押さえれば得点源にできる分野です。
8-0 この章の地図
この章は、大きく「会社を監視する仕組み(ガバナンス)」→「新しいルール(2つのコード)」→ 「なぜ監視が必要か(エージェンシー理論)」→「社会への責任(CSR・CSV)」→ 「特殊なケース(同族経営)」という順に進みます。
8-1 ガバナンスの仕組み … 株主・取締役会・監査役、所有と経営の分離、社外取締役
│
8-2 2つのコード … ガバナンス・コード/スチュワードシップ・コード(★R07新出)
│ コンプライ・オア・エクスプレイン
│
8-3 エージェンシー理論 … プリンシパルとエージェント、モラルハザード、インセンティブ設計
│ (なぜ「監視」が要るのか、の理論的な理由)
│
8-4 CSR・CSV・サステナビリティ … 社会的責任・共通価値の創造(ポーター)・ISO26000・ESG投資
│
8-5 ファミリービジネス … 同族経営、スリー・サークル・モデル、4Cモデル
8-1〜8-3が"ガバナンス"、8-4が"社会的責任"、8-5が"同族経営"、と3つの島に分けて 覚えると整理しやすいです。
8-1 コーポレート・ガバナンスの仕組み
いちばん短い定義
コーポレート・ガバナンス(corporate governance=企業統治)とは、ひとことで言えば
「会社の経営者が、株主やその他の関係者の利益に反して暴走・不正・怠慢をしないように、 経営を監督(チェック)・規律づけする仕組み」
のことです。日本語では「企業統治」と訳します。 "ガバナンス"は「統治・治め方」という意味の英語で、「経営を誰が・どう監視するか」の話だと イメージしてください。
なぜガバナンスが必要か ―「所有と経営の分離」
株式会社では、お金を出す人(株主=所有者)と、実際に経営する人(経営者)が 分かれていくのがふつうです。これを 所有と経営の分離 と呼びます。
【昔の会社】オーナー=経営者 … 自分のお金だから真剣にやる
│
↓ 会社が大きくなると…
【大企業】株主(多数・分散) ≠ 経営者(雇われた専門家)
↑ここに「監視の必要性」が生まれる
- 経営者は「他人(株主)のお金」を預かって経営します。すると、株主の利益より自分の 都合(保身・過大な報酬・見栄の投資など)を優先してしまう危険が出てきます。
- そこで、株主に代わって経営者を監視・けん制する制度的な仕組みが必要になります。 これがコーポレート・ガバナンスです。
- この「株主(依頼する側)と経営者(依頼される側)」の関係を理論化したのが、 8-3で学ぶエージェンシー理論です。
会社を監視する3つの登場人物(機関)
日本の株式会社では、主に次の"3点セット"で経営をチェックします。
| 機関 | 役割(ひとことで) | だれのために働くか |
|---|---|---|
| 株主総会 | 会社の最高意思決定機関。取締役の選任・解任、重要事項を決議 | 株主(所有者) |
| 取締役会 | 経営の方針を決め、業務執行を監督する | 会社・株主 |
| 監査役(監査役会) | 取締役の職務執行が適法・適正かを監査する | 会社・株主 |
- 株主総会は「会社の最終的なオーナー会議」。ただし株主が多数に分散すると、 一人ひとりの発言力は小さくなり、総会が形骸化しやすくなります(後述)。
- 取締役会の大事な機能は、経営の「執行(実行)」と「監督(チェック)」を分けること。 身内だけで固めると監督が甘くなるので、社外取締役を入れて外部の目を利かせます。
社外取締役・社外監査役 ― 外部の目でチェックする
社外取締役とは、その会社の業務執行に関わっていない、独立した立場の取締役です。
- 社内の論理やしがらみから離れているので、経営陣に対して遠慮なくモノを言えるのが強み。
- 「経営を執行する人」と「経営を監督する人」を分けることが、ガバナンス強化の要点です。 逆に、業務執行を担う人(執行役員など)を監督側に混ぜてしまうと、監督と執行の分離が くずれてガバナンスは弱まります(H26 第20問のバツ選択肢)。
💡 覚え方:ガバナンス強化の合言葉は「執行と監督の分離」 「実行する人」と「見張る人」を分けるほど、ガバナンスは強くなります。 社外取締役の導入、指名・監査・報酬の各委員会設置は"分離"の方向=○。 執行役員を取締役会に入れる、身内だけで固める、は"分離"に逆行=×。
内部統制と情報開示
不正を防ぐもう一つの柱が、会社の中にチェックの仕組みを埋め込む「内部統制」と、 外部に正しく情報を出す「情報開示(ディスクロージャー)」です。
- 内部統制:業務が適正・適法に行われるよう、会社内部に組み込む管理の仕組み。 日本では金融商品取引法(いわゆるJ-SOX)により、上場企業に内部統制報告書の作成が 求められています。
- 説明責任(アカウンタビリティ):経営者が株主や社会に対し、経営の内容をきちんと 説明する責任。情報開示はこの説明責任を果たす手段です。
📝 過去問はこう出る(H23 第18問) 粉飾決算などの不正を防ぐ「有効なコーポレートガバナンスの仕組み」を選ぶ問題。 正解は「内部統制と内部統制報告書の作成を促進し、情報開示や説明責任の明確化を図る」。 一方、「株式をより多くの株主に分散して総会のチェック機構を強化する」はバツ ―― 分散すると一人あたりの持株が小さくなり監視のインセンティブが下がる(フリーライダー問題) ため、むしろ監視は弱まります。ここは直感と逆なので要注意です。 → H23 第18問
📝 過去問はこう出る(H26 第20問) 企業統治を強化する方法として最も不適切なものを選ぶ問題。正解(=不適切)は 「執行役員を取締役会に参加させる」。執行役員は業務を実行する側なので、監督側に 混ぜると「執行と監督の分離」がくずれます。反対に、内部統制の導入・社外取締役・ 指名/監査/報酬の各委員会設置・倫理憲章の制度化は、すべて強化策として○です。 → H26 第20問
8-2 2つのコード ― ガバナンス・コードとスチュワードシップ・コード ★新出頻出
2010年代以降、日本のガバナンス改革の柱として、2つの"コード(行動規範)"が整いました。 どちらが会社向けで、どちらが投資家向けかを取り違えさせるのが試験の急所です。
2つのコードは「車の両輪」
【会社側】 【投資家側】
コーポレートガバナンス・コード ⇄ スチュワードシップ・コード
(上場企業が守るべき規律) (機関投資家が守るべき責任)
2015年〜 2014年〜
\ /
→ 「建設的な対話」で企業価値を高める ←
| コーポレートガバナンス・コード | スチュワードシップ・コード | |
|---|---|---|
| 対象 | 上場企業(会社側) | 機関投資家(投資する側) |
| 中身 | 会社が備えるべきガバナンスの規律・原則 | 投資家のあるべき姿(投資先との対話責任など) |
| 適用開始 | 2015年〜(東京証券取引所の上場企業) | 2014年〜 |
| 性格 | 法令ではない(法的拘束力なし) | 同じく法令ではない |
- コーポレートガバナンス・コードは「会社がきちんと統治されるための原則集」。 中長期的な企業価値の向上を目的とし、株主だけでなく従業員・顧客・取引先・地域社会 など多様なステークホルダーとの適切な協働も求めます。
- スチュワードシップ・コードは「機関投資家が投資先企業とどう向き合うべきか」の規範。 投資家が「モノ言う責任」を果たすことで、会社側のガバナンスを外から後押しします。
⚠️ 混同注意:どっちが会社向け? - ガバナンス・コード=会社(上場企業)が守る規律 → ガバナンスの「ガ」=会社(ちょっと苦しいですが…) - スチュワードシップ・コード=投資家(スチュワード=執事・受託者)が守る責任 「上場企業に投資家としてのあるべき姿を示す」と書いてあったら、対象の取り違えでバツです。
コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守せよ、さもなくば説明せよ)
2つのコードに共通する、いちばん大事な運用の考え方がこれです。
コンプライ・オア・エクスプレイン(comply or explain) =原則を「遵守する(comply)」か、遵守しないなら「その理由を説明する(explain)」か、 どちらかを選べばよい、という柔軟な仕組み。
- 法律のように「必ず守れ、破れば罰則」ではありません。守らない自由もあるが、 その場合は理由をきちんと説明しなければならない、というものです。
- だからコードには法的拘束力がない。「守らなければ違法・罰則」と書いてあればバツです。
📝 過去問はこう出る(R07 第13問)★重要 「日本のコーポレートガバナンス・コードは、2015年から東京証券取引所の上場企業を対象に 適用されている」というリード文で、コードの説明として最も適切なものを選ぶ問題。 正解は「上場企業が備える企業の規律の在り方に関するガイドラインであり、法的拘束力はない」。 バツ選択肢の急所は次の3つです。 - 「企業価値より社会価値を優先せよと求めている」→ ×(目的は中長期的な企業価値の向上) - 「上場企業に投資家としてのあるべき姿を示す」→ ×(それはスチュワードシップ・コード。対象の取り違え) - 「ステークホルダーの中で投資家の利益を最優先せよ」→ ×(多様なステークホルダーとの協働を求める) → R07 第13問
8-3 エージェンシー理論 ― なぜ「監視」が必要なのか
プリンシパルとエージェント
8-1で見た「所有と経営の分離」を、理論として説明するのがエージェンシー理論です。
- プリンシパル(principal=依頼人・本人):仕事を頼む側。例:株主、経営者(上司)
- エージェント(agent=代理人):頼まれて仕事をする側。例:経営者、従業員(部下)
株主(プリンシパル)── 経営を委託 ──→ 経営者(エージェント)
経営者(プリンシパル)── 職務を委託 ──→ 従業員(エージェント)
↑「頼む人」 ↑「頼まれて働く人」
この「頼む・頼まれる」の関係を エージェンシー関係 と呼びます。会社は、この関係が 何重にも積み重なってできています。
問題:情報の非対称性とモラルハザード
エージェンシー関係には、次のような困った問題(エージェンシー問題)が起こります。
- 情報の非対称性:エージェント(頼まれた側)が何をしているかは、プリンシパルからは 見えにくい。エージェントの方が自分の行動について多くの情報を持っています。
- 利害の不一致:両者の利益は必ずしも一致しません。エージェントは自分がラクをしたい、 プリンシパルはしっかり働いてほしい、とズレます。
- モラルハザード(moral hazard=道徳的危険):監視されていないのをいいことに、 エージェントが手を抜く(サボる/自分の利益を優先する)こと。
こうした問題への対策コスト(監視の費用、動機づけの費用など)を エージェンシー・コスト と呼びます。
対策:インセンティブ設計(報酬を成果に連動させる)
モラルハザードを防ぐ有力な方法が、エージェントの報酬を成果に連動させることです。 H30 第19問は、この考え方を数式で問いました。
業績インセンティブ制度:P = A + B × X - P=賃金、A=固定給、B=歩合(成果に連動する率)、X=成果(売上や生産量)
このA(固定給)とB(歩合)のバランスで、リスクをどちらが負うかが変わります。
| ケース | 意味 | リスクを負うのは | 効果 |
|---|---|---|---|
| B=0(全部固定給) | 成果に関係なく一定額 | プリンシパル(経営者)が全部負う | 従業員は安心だが、頑張る動機は弱い |
| A=0(完全業績給) | 成果しだいで賃金が決まる | エージェント(従業員)が全部負う | 努力を強く促す(サボりにくい) |
| Aが小さくBが大きい | 成果連動の割合が高い | エージェント寄り | ハイリスク・ハイリターン。利益責任を負う上位管理職の動機づけに有効 |
- 歩合(B)を大きくするほど、成果に賃金が連動して努力を引き出せますが、その分 従業員がリスクを負うことになります。リスク回避的な人には重い負担です。
- ただし、成果を正しく測れない職務では、歩合を大きくしても意味が薄い (測れないものに連動させられない)ため、固定給中心が適します。
📝 過去問はこう出る(H30 第19問) 業績インセンティブ制度 P=A+B×X を問う問題。正解は 「Aの割合が小さいほど(=歩合Bが大きいほど)ハイリスク・ハイリターンになり、 利益責任を負う上位管理職にとってインセンティブを高める制度となる」。 バツ選択肢の急所: - 「A=0(完全業績給)だとサボタージュが起こりやすい」→ ×(成果に直結するので、むしろ手抜きは起こりにくい) - 「B=0でも積極的に職務にコミットする」→ ×(固定給だけでは頑張る動機が弱い) - 「業績測定が難しい職務ほど、歩合Bが高い制度でよく動機づけられる」→ ×(測れないので機能しにくい) → H30 第19問
⚠️ 混同注意:「モラルハザード」と「逆選択」 どちらも情報の非対称性から生まれますが、 - モラルハザード=契約後の手抜き・サボり(見えないのをいいことに怠ける) - 逆選択(アドバース・セレクション)=契約前の情報格差(質の悪い相手ほど契約したがる) 会社と従業員・経営者の話では、まずモラルハザードが主役です。
8-4 CSR・CSV・サステナビリティ経営
CSRとは何か
CSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)とは、
「企業が、自社の利益追求だけでなく、その活動が社会・環境に与える影響に責任を持ち、 株主・従業員・取引先・消費者・地域社会など多様なステークホルダーの期待に 自発的に応えていこうとする考え方と、その実践」
です。ポイントは3つあります。
- 多様なステークホルダーが対象(株主だけではない)
- 自発的な取り組み(法律で強制される以前の、進んで果たす責任)
- 利益を「どのように」得るか、そのプロセスも問われる(結果さえよければよい、ではない)
📝 過去問はこう出る(R03 第13問) CSRに関する記述として最も不適切なものを選ぶ問題。正解(=不適切)は 「CSRは、利益獲得のプロセスを問わず、分配の公平性だけを重視する」。 ―― CSRはむしろ利益をどのように稼ぐか(プロセス)こそを問うので、これは趣旨に反します。 「多様なステークホルダーへの責任」「持続的発展への貢献」「ISO26000」「コンプライアンスの徹底」は すべて○です。 → R03 第13問
CSRをめぐる代表的な論者
R05 第13問は、CSRの"論者"の主張を問いました。名前と主張のセットを押さえましょう。
| 論者 | 主張のポイント |
|---|---|
| フリードマン | 企業の社会的責任は「利潤の最大化」。ただし法やルールを守った自由競争が前提 |
| キャロル | CSRピラミッド:下から①経済的責任 → ②法的責任 → ③倫理的責任 → ④社会貢献(フィランソロピー)責任 |
| フリーマン | ステークホルダー理論:企業と利害関係者の相互依存・協調関係の構築を重視 |
【キャロルのCSRピラミッド】
┌───────────────┐
│ ④ 社会貢献(フィランソロピー)責任 │ ← 一番上(=任意の善行)
├───────────────┤
│ ③ 倫理的責任 │
├───────────────┤
│ ② 法的責任 │
├───────────────┤
│ ① 経済的責任(土台) │ ← 一番下(=まず利益を出すこと)
└───────────────┘
📝 過去問はこう出る(R05 第13問) CSRの論者を問う問題。正解は「フリードマンは、法律や社会の基本ルールを守った公正な競争を 前提として、株主利益(利潤)の最大化を企業の責任とした」。 バツの急所:キャロルのピラミッドで「経済的責任を最上部、社会貢献を土台とする」は上下が逆、 フリーマンのステークホルダー理論を「決定的対立関係」とするのは相互依存の逆でバツです。 → R05 第13問
CSV(共通価値の創造)― ポーター
CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)は、M. ポーター(と クラマー)が提唱した考え方です。
CSV=「経済的価値(もうけ)」と「社会的価値(社会課題の解決)」を、 トレードオフ(あちらを立てればこちらが立たず)ではなく同時に実現しようとするアプローチ。
- 従来のCSRは「もうけた利益の一部を社会に還元する(本業とは別の善行)」というイメージでした。
- CSVは一歩進めて、「社会課題の解決そのものを本業(事業)にして、もうけと両立させる」 という発想です。「社会貢献はコスト」ではなく「社会貢献が競争力の源泉」と捉えます。
ISO26000 ―「社会的責任の手引」
ISO26000は、ISO(国際標準化機構)が2010年に発行した、社会的責任に関する国際規格です。
- 認証を目的としない「ガイダンス(手引)規格」です。ISO9001(品質)やISO14001(環境)の ような、第三者による認証を取得するタイプではありません。ここが最頻出の引っかけ。
- 企業に限らず、政府・NPOなど、あらゆる種類・規模の組織が利用できます。
- 日本では JIS Z 26000(日本産業規格)として対応規格が存在します。
📝 過去問はこう出る(R04 第12問) ISO26000の性格を問う空欄補充問題。正解は「業種・規模・国を問わず、あらゆる組織が 利用できる社会的責任に関するガイダンス規格である」。 バツの急所:「第三者認証を取得するマネジメント・システム認証規格」(→ 認証規格ではない)、 「JISに対応規格が存在しない」(→ JIS Z 26000がある)、「株式会社に限る/売上高で対象を限定」 (→ あらゆる組織が対象)は、いずれもISO26000の性格の逆でバツです。 → R04 第12問
ESG投資・サステナビリティ経営(近年の頻出キーワード)
近年は、社会的責任を投資家の視点からとらえるESG投資が重要論点になっています。 R06 第12問で問われた用語をまとめて押さえましょう。
| 用語 | 意味(ひとことで) |
|---|---|
| ESG | 環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)の3要素 |
| ESG投資 | ESGの観点を考慮して投資先を選ぶ投資 |
| インパクト投資 | 測定可能な社会・環境インパクトと経済的リターンの両方を追求する投資 |
| 統合報告書 | 財務情報に加え、CO2排出量・役員報酬方針などの非財務情報も載せる報告書 |
| ダイベストメント | ESG面で問題のある企業の株式・債券を売却して圧力をかける行為 |
| グリーンウォッシュ | 環境配慮を装うが、実態が伴わない見せかけの行為 |
📝 過去問はこう出る(R06 第12問) CSR・ESG投資について最も不適切なものを選ぶ問題。正解(=不適切)は 「インパクト投資は、経済的リターンを求めずに投資する」。 ―― インパクト投資は「社会・環境インパクトと経済的リターンの両方」を追う投資であり、 リターンを求めないのはむしろ寄付・フィランソロピーに近い、というのが引っかけです。 統合報告書・CSV・ダイベストメント・グリーンウォッシュの各説明は正しい記述です。 → R06 第12問 / R05 第13問 / R03 第13問
CSRの周辺用語(過去の出題から)
- フィランソロピー:博愛精神に基づく慈善活動(寄付・社会貢献)(H21・R06)
- NPO(Non-Profit Organization=非営利組織):利益の分配を目的としない組織。 企業だけでは提供しにくいサービス(市場の失敗が起こる領域)の担い手(H21)
- コンプライアンス(法令遵守):CSRの一環として位置づけられる(R03)
8-5 ファミリービジネス(同族経営)とガバナンス
中小企業の多くは、創業家とその一族が所有・経営するファミリービジネス(同族経営)です。 診断士試験では、この分野が繰り返し問われます(H25・H30・R02・R03・R04…)。
スリー・サークル・モデル ― 3つの立場の重なり
スリー・サークル・モデル(three-circle model)は、ファミリービジネスを 3つのサブシステム(部分の集まり)の重なりで表す枠組みです。
┌─────────────┐
│ ファミリー │ ← 血縁・家族
│ ┌───┴───┐ │
┌────┼──┤ 重なり ├──┼────┐
│ オーナーシップ │ │ ビジネス │
│ (株主・所有)│ │(経営・事業)│
└────┴──────────┴────┘
- 3つの円:オーナーシップ(所有=株主)/ビジネス(経営・事業)/ファミリー(家族)
- 会社に関わる一人ひとりは、この3つの円の組み合わせでできる7つの領域のどこかに 位置づけられます。たとえば「家族だが株主でも経営者でもない人」「株主だが経営はしていない人」 「家族かつ株主かつ経営者(社長)」など、立場が整理できます。
- 用途は現状を記述・分析するモデルです。関係者間の対立や役割の難しさが何に起因するかを 理解するのに役立ちます。
⚠️ つまずきポイント:記述モデルであって"計画モデル"ではない スリー・サークル・モデルは「今どうなっているか」を分析・記述する枠組みです。 「戦略計画とビジョンの適合を図り、コンフリクト回避のために戦略を並行計画させる(規範的・ 計画策定モデル)」という説明は、モデルの性格を取り違えた誤りになります(H30 第11問の正解=不適切)。
📝 過去問はこう出る(H30 第11問) スリー・サークル・モデルについて最も不適切なものを選ぶ問題。正解(=不適切)は 「戦略計画とファミリー固有のビジョンとの適合を図り、コンフリクト回避のため戦略を 並行的に計画させるモデルである」。これはモデルを「計画策定の道具」と誤解したもの。 このモデルは関係者の位置づけを示す分析・記述の枠組みです。 → H30 第11問
📝 過去問はこう出る(R03 第9問) スリー・サークル・モデルの応用問題。家族A〜E(社長・引退した前社長・専業主婦・ 他社勤務の子・常勤専務など)が、それぞれモデルのどこに位置するかを判断し、立場にふさわしい 発言を選びます。ポイントは「経営から完全に引退した前社長は"経営"の円にいない」 「社長でも株式を持たなければ"所有"の円にいない」のように、肩書きと3つの円を丁寧に対応 させること。正解は、20%を持つ株主だが経営に携わらない子Cの「配当をしっかりできる経営を望む」 という、オーナーかつ非経営者の立場に合った発言でした。 → R03 第9問
4Cモデル ― ファミリービジネスの強みと弱み
4Cモデルは、ファミリービジネスを次の4つの要素でとらえる枠組みです。
| C | 意味 |
|---|---|
| Continuity(継続性) | 長期的な視点で事業を受け継いでいく |
| Community(同族集団) | 一族・従業員の一体感、価値観の共有 |
| Connection(良き隣人) | 取引先・地域との良好な関係 |
| Command(自由な行動と環境適応) | 素早い意思決定と柔軟な環境適応 |
- 4Cモデルの核心は、各要素が"プラスの側面"と"マイナスの側面"の両方を持つと認める点です。 たとえば「継続性」は長期視点という強みである一方、変化への抵抗という弱みにもなります。
- 「特定の1要素だけを強化する」「利害対立を解決する手法」といった説明は、4Cの趣旨から外れます。
📝 過去問はこう出る(R04 第7問) 4Cモデル(Continuity・Community・Connection・Command)を問う問題。正解は 「各要素にプラスの側面とマイナスの側面の両方があることを認めた枠組みである」。 「最も発揮できる1要素を強化する」「利害関係を解決する手法」などは、4Cの目的の説明として 不適切でバツです。 → R04 第7問
同族経営とガバナンス ―「組織文化の逆機能(成功の罠)」
同族経営は、価値観の共有や素早い意思決定という強みを持つ一方、 過去の成功体験にしばられるという弱みを抱えがちです。R02 第10問・H25 第10問は、 老舗同族企業を題材に、この落とし穴を問いました。3つの用語を対で押さえましょう。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 経路依存性 | 過去の歴史的経緯にしばられ、今のやり方が規定されてしまうこと |
| 組織文化の逆機能 | かつて機能した価値観・文化が、今や足かせ(成功の罠)になること |
| グループ・シンク(集団浅慮) | 集団の同調圧力で、批判的な検討が抑えられ、質の低い意思決定に陥ること |
📝 過去問はこう出る(R02 第10問) 老舗同族企業Z社の状況を、3つの概念に対応させる問題。 ①歴史的経緯で導入した技術による問題解決が定型化 → 経路依存性、 ②伝統的価値観に基づく過去の成功が今の失敗の原因なのに誰も認めない → 組織文化の逆機能、 ③役員が違和感なく全員一致で決めたが建設的な案が顧みられない → グループ・シンク。 同族経営の"強い一体感"が、裏目に出る典型パターンです(H25 第10問も同系統)。 → R02 第10問 / H25 第10問
この章のまとめ(試験直前チェック)
- ☐ コーポレート・ガバナンス=経営者が暴走・不正しないよう監督・規律づけする仕組み
- ☐ 必要になる背景=所有(株主)と経営(経営者)の分離
- ☐ 監視の3点セット=株主総会・取締役会・監査役/社外取締役は外部の目
- ☐ ガバナンス強化の合言葉=「執行と監督の分離」(執行役員を取締役会に入れるのは×)
- ☐ 株式の分散は監視を弱める(フリーライダー問題)/不正防止は内部統制・情報開示
- ☐ コーポレートガバナンス・コード=会社(上場企業)向け(2015年〜/法的拘束力なし)
- ☐ スチュワードシップ・コード=機関投資家向け(対象の取り違えに注意)
- ☐ 両コード共通=コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守せよ、さもなくば説明せよ)
- ☐ エージェンシー理論=プリンシパル(頼む側)とエージェント(頼まれる側)/モラルハザード(手抜き)
- ☐ インセンティブ P=A+B×X:歩合Bが大きい=ハイリスク・ハイリターン/測定困難な職務は固定給中心
- ☐ CSR=多様なステークホルダーへの自発的責任/利益の得方(プロセス)も問う
- ☐ 論者:フリードマン(利潤最大化=ルール順守が前提)・キャロル(ピラミッド:土台は経済的責任)・フリーマン(ステークホルダー理論=相互依存)
- ☐ CSV(ポーター)=経済的価値と社会的価値を同時に創造
- ☐ ISO26000=2010年発行のガイダンス規格(認証規格ではない/JIS Z 26000あり/あらゆる組織)
- ☐ ESG投資周辺:インパクト投資は経済的リターンも追う/ダイベストメント(売却)・グリーンウォッシュ(見せかけ)
- ☐ スリー・サークル・モデル=所有・経営・家族の3円(記述・分析モデル。計画モデルではない)
- ☐ 4Cモデル=Continuity/Community/Connection/Command(各要素に長所と短所の両面)
- ☐ 同族経営の落とし穴=経路依存性・組織文化の逆機能(成功の罠)・グループ・シンク
この章に対応する主な過去問
| 年度・問 | 論点 | リンク |
|---|---|---|
| R07 第13問 | コーポレートガバナンス・コード | 問題 |
| R06 第12問 | 企業の社会的責任とESG投資 | 問題 |
| R05 第13問 | CSR(フリードマン・キャロル・フリーマン) | 問題 |
| R04 第7問 | ファミリービジネスの4Cモデル | 問題 |
| R04 第12問 | ISO26000(CSRの国際規格) | 問題 |
| R03 第9問 | 同族企業の株式所有と議決権(スリー・サークル) | 問題 |
| R03 第13問 | 企業の社会的責任(CSR) | 問題 |
| R02 第10問 | ファミリービジネスの組織文化(逆機能) | 問題 |
| H30 第11問 | ファミリービジネス(スリー・サークル・モデル) | 問題 |
| H30 第19問 | 業績インセンティブ制度(エージェンシー理論) | 問題 |
| H26 第13問 | 企業の社会的責任(CSR) | 問題 |
| H26 第20問 | コーポレート・ガバナンスの強化 | 問題 |
| H25 第10問 | 同族経営の意思決定とガバナンス | 問題 |
| H23 第18問 | コーポレートガバナンス(内部統制) | 問題 |
| H22 第5問 | 企業の社会的責任(CSR) | 問題 |
| H21 第1問 | NPOと企業の社会的活動・市場の失敗 | 問題 |
次章予告 ▶ 第9章「組織構造のデザイン」 ここから第II部・組織論に入ります。第8章で「執行と監督の分離」に触れましたが、 次章では、会社の中身そのものである組織のかたちを扱います。機能別組織・事業部制・ マトリックス組織などの基本形と、それぞれの長所・短所、そして第1章で登場した 「組織は戦略に従う」(チャンドラー)の実践編を学びます。