第2章 ドメインと成長戦略(全社戦略)

この章のねらい 第1章で学んだ「戦略の3階層」のいちばん上、全社戦略(企業戦略)を掘り下げます。 全社戦略が悩むのは、「この会社はどの範囲で事業をやるのか(ドメイン)」「どの方向に伸びるのか (成長ベクトル)」「複数事業へお金をどう配分するのか(PPM)」という3つのテーマです。 ドメイン → 成長ベクトル → 多角化 → PPM、という一本の川の流れとして頭に入れると、 バラバラの用語がつながって見えてきます。

過去問での出方:この章は企業経営理論の最頻出ゾーンです。ほぼ毎年、第1問〜第3問あたりで 「ドメイン」「多角化」「PPM」のどれかが出ます。特にPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)は 頻度・パターンともに定番で、ここを固めれば安定して得点できます。用語の定義と「引っかけの型」を セットで覚えるのが攻略のコツです。


2-0 この章の地図

この章は「どこで戦うか(ドメイン)」から始まり、「どう伸びるか(成長ベクトル・多角化)」へ進み、 最後に「複数事業をどう管理するか(PPM)」まで一気につなげます。全体像を先につかみましょう。

2-1 ドメインの定義・再定義      … どの範囲で事業をやるか(企業/事業ドメイン)
   │
2-2 アンゾフの成長ベクトル      … どの方向へ伸びるか(製品×市場の4マス)
   │
2-3 多角化戦略                 … 「新製品×新市場」を深掘り(関連/非関連・動機・範囲の経済)
   │
2-4 PPMとSBU                   … 複数事業のお金の配分(★最頻出)
   │
2-5 情報的経営資源・見えざる資産 … 多角化・差別化を支える"見えない力"(伊丹敬之)
   │
2-6 リストラクチャリング        … 事業構造の作り直し(売却・分社化・撤退)
  • 2-1〜2-3は「攻め(どう広げるか)」の話、2-4は「配分(どこにお金を回すか)」の話、 2-6は「引き算(どこをやめるか)」の話です。
  • 2-5は全体を下支えする「経営資源」の話で、多角化(2-3)とも差別化(第3章)ともつながります。

2-1 ドメインの定義・再定義

ドメインとは「会社の生存領域」

ドメイン(domain)とは、ひとことで言えば

「その企業が生きていく活動の範囲・生存領域

のことです。「うちの会社は何屋さんか」「どの土俵で戦うのか」を決めることです。 ドメインをはっきりさせると、①経営資源をどこに集中すべきかが決まり、②社員の一体感(アイデンティティ)が生まれ、 ③環境変化への対応の"軸"ができます。

企業ドメインと事業ドメイン ― 「入れ子」で考える

ドメインは、大きさの違う2つのレベルに分けて考えます。ここはH24 第1問でそのまま問われた重要ポイントです。

企業ドメイン 事業ドメイン
対象 企業全体の生存領域 個々の事業の活動領域
決めること 多角化の広がりの程度、企業のアイデンティティ、企業の境界 その事業で誰に・何を・どう提供するか
誰の裁量か 経営トップ・本社 事業マネジャー(設定された領域内で自律的にオペレーション)
  • 企業ドメイン=会社ぜんたいの「基本的な性格」を決めるもの。多角化をどこまで広げるか、企業の アイデンティティ(自分たちは何者か)を規定します。
  • 事業ドメイン=ひとつひとつの事業が「どの顧客に、どんな価値を出すか」を決めるもの。 その枠の中で、事業マネジャーに現場運営の自律性(裁量)が与えられます。

⚠️ 混同注意:主語を取り違えさせる引っかけ企業のアイデンティティ・企業の境界を決める」のは企業ドメインの役割です。これを「事業ドメインが決める」 と書き換えた選択肢はバツ。逆に「個別事業の競争力を決める」のは事業ドメインの話で、これを企業ドメインの 役割とすり替えるのも定番の誤りです。「全体=企業ドメイン/個別=事業ドメイン」と唱えて区別しましょう。

📝 過去問はこう出る(H24 第1問) 企業ドメインと事業ドメインの役割分担を問う問題。正解は「事業ドメインの決定は、設定された領域の中で 事業マネジャーにオペレーションを行う自律性を与える」。 「事業ドメインが企業のアイデンティティ・企業の境界を決める」(→ 主語が企業ドメインと逆)、 「企業ドメインが個別事業の競争力を決める」(→ 事業ドメインの役割と混同)などは、いずれもレベルの取り違えでバツ。 → H24 第1問

物理的定義と機能的定義 ― レビットの「近視眼」

ドメインの決め方には、大きく2つの視点があります。ここはH23 第1問の急所です。

定義のしかた 中身 例(鉄道会社なら) リスク
物理的定義 製品・モノそのもので範囲を決める 「わが社は鉄道業である」 範囲が狭くなり近視眼的になりやすい
機能的定義 顧客に提供する機能・価値で範囲を決める 「わが社は輸送業(人を運ぶ)である」 広がりすぎると焦点がぼける
  • T. レビットは、モノ(製品ライン)でドメインを狭く定義すると、環境変化に気づけず衰退する 「マーケティング・マイオピア(marketing myopia=近視眼)」に陥ると警告しました。 「うちは鉄道会社だ」と物理的に狭く定義した会社が、自動車・飛行機という"輸送手段の変化"に対応できず 衰退した、という有名な例です。
  • だからといって機能的定義(輸送業だ)に広げすぎると、今度は焦点がぼやけます。バランスが大事です。

💡 覚え方物理的定義=モノで縛る(近視眼リスク)/機能的定義=価値で広げる(レビットが推奨)。 「マイオピア(近視眼)」ときたらレビット、と紐づけましょう。

CFT ― エーベルの3次元(誰に・何を・どのように)

D. エーベルは、事業ドメインを次の3つの次元で描くことを提案しました(H23 第1問でも登場)。

       顧客機能(What:何を=どんなニーズを満たすか)
              ▲
              │
              │
              └──────────► 顧客層(Who:誰に=ターゲット顧客)
             /
            /
   技術(How:どのように=どんな技術・方法で)
次元 英語 意味
顧客層 Customer 誰に売るか(ターゲット顧客)
顧客機能 Function 何を提供するか(満たすニーズ・機能)
技術 Technology どのように実現するか(技術・ノウハウ)
  • 頭文字をとって CFT とも呼ばれます。「誰に・何を・どのように」の3点セットです。
  • ドメインの再定義は、この各次元の「広がり(範囲)」と「差別化(他社との違い)」を組み合わせて考えます。
  • 事業ドメインには、いま展開中の事業だけでなく、研究開発分野のように成果がまだ外から見えず、潜在状態に とどまっている範囲も含めて考えます(将来の展開をにらむ)。

📝 過去問はこう出る(H23 第1問) ドメインの定義・再定義について「最も不適切なもの」を選ぶ問題。正解(=不適切)は 「全社ドメインの定義で企業の基本的性格は確立できるが、製品やサービスで競争者と競う範囲は特定できない」。 全社ドメインの方向づけのもとで競争する範囲(事業レベル)も規定されるべきで、「特定できない」と断じるのは誤りです。 一方、エーベルの3次元・レビットの近視眼・潜在的な研究開発範囲などの記述はすべて妥当でした。 → H23 第1問


2-2 アンゾフの成長ベクトル(製品×市場マトリクス)

「製品」×「市場」の4マスで成長方向を整理する

第1章で登場した H. I. アンゾフ(戦略研究の父)は、企業の成長方向を 「製品(既存/新規)」×「市場(既存/新規)」の2×2の4マスで整理しました。これを成長ベクトル(成長マトリクス)と呼びます。

              製品
          既存        新規
        ┌─────────┬─────────┐
    既存 │ ①市場浸透 │ ③新製品開発 │
 市場    ├─────────┼─────────┤
    新規 │ ②新市場開拓 │ ④多角化    │
        └─────────┴─────────┘
戦略 製品 市場 ひとことで 例(シリアル専業メーカーなら)
① 市場浸透 既存 既存 今の製品を今の市場でもっと売る 既存客にクーポンでリピート促進/ECで既存シリアルのシェア拡大
② 新市場開拓 既存 新規 今の製品を新しい市場へ 既存シリアルを海外や新チャネルへ展開
③ 新製品開発 新規 既存 今の市場に新しい製品を 既存客(中高年層)向けに低糖質シリアルを新開発
④ 多角化 新規 新規 新しい製品を新しい市場へ 飲食事業者向けのSNSマーケ支援事業を新規に開始
  • ①〜③は「既存の延長線上」の成長で、リスクは比較的小さめ。④多角化だけが「製品も市場も新規」で、 もっともリスクが高い代わりに、大きな飛躍の可能性を持ちます(詳しくは2-3)。
  • ⚠️引っかけの型:試験は「施策」と「戦略名」の対応がズレた選択肢で引っかけます。 たとえば「販売チャネル(EC)を新しくしただけ」は、製品も市場も既存のままなので市場浸透であって多角化ではありません。

💡 覚え方縦が市場(お客)、横が製品(モノ)。どちらも「新しい」に振り切ったときだけ多角化。 それ以外は「既存が片方でも残っていれば、浸透・開拓・開発のどれか」と考えると仕分けが速くなります。

📝 過去問はこう出る(R07 第2問) シリアル専業メーカーA社の施策を、アンゾフの4戦略に正しく当てはめるのはどれか、を選ぶ問題。 正解は「中高年層(既存市場)向けに新しく低糖質シリアル(新製品)を開発するのは「新製品開発戦略」」。 「ECサイトで既存シリアルのシェア拡大=多角化」(実際は市場浸透)、「リピート促進キャンペーン=新市場開拓」 (実際は市場浸透)などは、施策と戦略名の対応がズレた誤りでバツ。 → R07 第2問


2-3 多角化戦略

多角化とは(=アンゾフの「新製品×新市場」を深掘り)

多角化とは、いまの事業とは異なる「新しい製品」を「新しい市場」に投入して、複数の事業を営むことです。 アンゾフの4マスの右下、もっともリスクの高い成長方向にあたります。

関連型と非関連型 ― ルメルトの分類

多角化は、事業どうしの「つながりの強さ」で大きく2つに分けられます。

タイプ 中身 ねらい
関連型多角化 既存事業と技術・販路・ブランドなどを共有できる分野へ広げる シナジー・範囲の経済を狙う 化学技術を活かして関連素材事業へ
非関連型多角化 既存事業とほとんど関連のない分野へ広げる(コングロマリット) リスク分散・成長機会の確保 製造業が不動産業へ

さらに R. ルメルトは、多角化の程度を数値基準で細かく分類しました(R06 第3問で出題)。

  • 専門化率:最大の単一事業の売上 ÷ 全社売上。これが高いほど「一本足」に近い。
  • 判定の順番:専門化率 → 垂直率 → 関連率の順に見ていきます。
  • 専門化率が95%以上単一事業企業
  • 専門化率95%未満で垂直率70%以上 → 垂直的主力事業企業
  • 専門化率・垂直率が70%未満で関連率70%以上 → 関連事業企業
  • いずれも70%未満 → 非関連事業企業

📝 過去問はこう出る(R06 第3問) 4事業(製品A:960億/製品B:10億/部品C:20億/不動産:10億、全社1,000億)の企業を、ルメルトの分類で判定する計算問題。 最大の製品A事業の専門化率=960÷1,000=96%。基準の「95%以上」を満たすので、垂直率・関連率を計算するまでもなく 単一事業企業(正解:ウ)。まず専門化率から見るという手順を知っていれば一瞬で解けます。 → R06 第3問

多角化の動機 ― なぜ多角化するのか

多角化に踏み切る主な動機は、次のように整理できます(R03 第1問の論点)。

  1. 未利用資源の活用:規模に対して相対的に余っている経営資源(特に情報的経営資源)を、他事業へ振り向ける。
  2. 範囲の経済:資源を複数事業で共有し、別々に営むより費用を下げる(次項で詳述)。
  3. リスク分散:ひとつの事業が傾いても、他事業で支える("卵を1つのカゴに盛らない")。
  4. 成長機会の追求:既存市場が成熟して伸び悩んだとき、新分野に成長を求める。

⚠️ ここが引っかけ:「規模の経済」ではない 多角化の根拠は範囲の経済未利用資源の活用です。規模の経済(同じ製品を大量に作ってコストを下げる)は "同一事業の量の拡大"の話なので、多角化の直接の根拠にはなりません。「多角化は規模の経済のために行う」は誤り

📝 過去問はこう出る(R03 第1問) 多角化の記述で「最も適切なもの」を選ぶ問題。正解は「多角化の動機の1つとして、社内に存在する未利用資源の活用が あげられる」。「多角化は規模の経済を利用するために行う」(→ 根拠は範囲の経済)、「情報的経営資源は複数事業で 共有すると価値が低下する」(→ 実際は同時多重利用でき価値が減らない)などはバツ。 → R03 第1問

シナジーと範囲の経済

多角化の効果を語るキーワードが「シナジー」と「範囲の経済」です。混同しやすいので整理します。

  • シナジー(相乗効果):複数の事業・資源を組み合わせることで「1+1>2」を生む効果。 販売シナジー・生産シナジー・技術シナジーなど、いろいろな面で生じます(第1章の「戦略の4構成要素」の1つ)。
  • 範囲の経済(economies of scope):複数事業を同じ企業内で一緒に営むほうが、別々に営むより 費用が小さくなる効果。式で書くと C(x₁, x₂) < C(x₁, 0) + C(0, x₂)(同時生産の総費用<個別生産の総費用の和)。
規模の経済 範囲の経済
何で費用が下がるか 同じ製品の生産量を増やす 異なる事業を一緒に営む(資源の共有)
かかわる戦略 事業内の拡大 多角化
  • 範囲の経済は、基本的に「未利用資源の活用」から生まれます。特に情報的経営資源(技術・ノウハウ)は 同時多重利用でき使用量に限界がないため、物的資源を使い合うよりも効率の高い範囲の経済を生みます(→ 2-5)。

📝 過去問はこう出る(H23 第7問) 範囲の経済の定義式と性質を問う問題。設問1の正解は空欄A:<、B:+、C:総費用(=同時生産の総費用<個別生産の 総費用の和)。設問2の公式正解は、範囲の経済を「多角化が進みすぎるとコア・コンピタンスとの関連性が希薄になって 生じなくなる」と一律に断定した選択肢(オ)=不適切。「情報的資源は同時多重利用でき、物的資源より効率の高い範囲の経済を生む」は妥当な記述でした。 → H23 第7問


2-4 プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)とSBU ★最頻出

PPMとは ― 複数事業への「お金の配分」を考える地図

PPM(Product Portfolio Management=プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)は、 ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が考案した、複数事業への資金(キャッシュ)の配分を考えるための枠組みです。

  • 分析の単位は SBU(Strategic Business Unit=戦略事業単位)。「戦略を考える上でひとまとまりにできる事業の束」です。
  • 2つの軸で、各事業(SBU)を4つのマスに置きます。
意味 何を表すか
縦軸:市場成長率 その市場が伸びているか 資金の流出の大きさ(成長市場は投資が必要でお金が出ていく)
横軸:相対的市場シェア 競合と比べたシェアの高さ 資金の流入の大きさ(シェアが高いほどお金が入る=経験曲線でコストが低い)

⚠️ 最重要の引っかけ:流入と流出の軸を逆にする 資金の流入=相対的市場シェア(横軸)/資金の流出=市場成長率(縦軸)。 これを逆に書いた選択肢(「流入は市場成長率で、流出はシェアで決まる」など)は必ずバツ。PPMの根幹なので確実に押さえます。

4つのマス(花形・金のなる木・問題児・負け犬)

             相対的市場シェア
          高            低
        ┌─────────┬─────────┐
   高   │  花形    │  問題児  │
市場    │ (Star)   │(Question)│
成長率  ├─────────┼─────────┤
   低   │ 金のなる木 │  負け犬  │
        │(Cash Cow)│  (Dog)   │
        └─────────┴─────────┘
事業 シェア 成長率 お金の出入り とるべき手
花形(Star) 入るが投資も多い(トントン気味) シェアを維持・拡大して将来の金のなる木に育てる
金のなる木(Cash Cow) 入り>出(稼ぎ頭) ここで得た資金を問題児・花形へ再配分する
問題児(Question Mark) 出が多い(要投資) 有望なものを選んで集中投資し、花形へ育てる
負け犬(Dog) どちらも小さい 撤退・収穫が基本。ただし低成長でも高収益なものは残す
  • お金の流れの基本金のなる木で稼いだ資金を、問題児(の有望なもの)や花形に回して育てる、というのが王道です。
  • 経験曲線(経験効果):生産の累積量が増えるほど単位コストが下がるという経験則。だからシェアが高い=累積量が多い=コストが低い=お金が入る、という論理でPPMの横軸につながります。

⚠️ よくある誤り:「金のなる木は速やかに撤退すべき」はバツ。金のなる木は資金の供給源であり、 撤退・収穫の中心は負け犬です。方向を逆にした選択肢に注意。

PPMの限界(弱点)

PPMは便利ですが、万能ではありません。弱点を問う問題も頻出です。

  • ① シナジーを考慮できない:PPMは事業を"独立したお金の箱"として扱うため、事業間のマーケティングや技術の シナジー(相乗効果)を評価に組み込めません。
  • ② 「負け犬=即撤退」の機械的判断のリスク:将来性や他事業への貢献を見落とすおそれがあります。
  • ③ 資金の内部流用が前提:金のなる木の資金を社内で回す発想で、外部資金調達などは考慮しません。

📝 過去問はこう出る(H29 第2問) PPMの記述で「最も適切なもの」を選ぶ問題。正解は「成長市場で優位を期待できる問題児への投資選択と、負け犬の中でも 市場成長率が低くとも高収益な事業を見極めることが重要」。 「資金流入は市場成長率、流出はシェアで決まる」(→ 流入・流出が逆)、「金のなる木・負け犬は速やかに撤退」 (→ 金のなる木は供給源)、「PPMはシナジーを考慮して資金再配分する」(→ シナジーを考慮できないのが弱点)は すべてバツ。軸の対応・お金の流れ・弱点の3点が急所です。 → H29 第2問


2-5 情報的経営資源・見えざる資産(伊丹敬之)

情報的経営資源とは ― 「ヒト・モノ・カネ」の次の第4の資源

経営資源は「ヒト・モノ・カネ・情報」と言われます。このうち情報的経営資源は、 技術・ノウハウ・ブランド・顧客の信用・組織風土など、目に見えない無形の資源を指します。 経営学者 伊丹敬之 は、これを 見えざる資産(invisible assets) と呼びました。

情報的経営資源の3つの特徴(超重要)

情報的経営資源は、物的資源(モノ・カネ)にはない、独特の性質を持っています。ここが試験の狙いどころです。

  1. 同時多重利用ができる:モノやカネは使えば減りますが、技術やノウハウは複数の事業で同時に使っても減らない (むしろ使うほど蓄積・強化される)。だからこそ多角化の推進力になり、効率の高い範囲の経済を生みます。
  2. 模倣困難性が高い(暗黙的なものほど):日常業務を通じて経験的に蓄積された熟練・ノウハウ・組織風土は、 外から真似しにくい。逆にマニュアルや設計図のように文書化(形式知化)されたものは真似されやすく、模倣困難性は高くありません。
  3. 企業の内外の情報の流れから生まれる:見えざる資産は、企業と外部(顧客・市場)とのやりとりだけでなく、 企業内部の情報の流れからも蓄積・形成されます。

💡 覚え方:情報的経営資源は「使っても減らない・真似されにくい(暗黙的なほど)・複数事業で使い回せる」。 この3点が、多角化(2-3)・範囲の経済・そして競争優位(第3章)を支える土台になります。

⚠️ 混同注意:模倣困難性の方向 「マニュアル・設計図=模倣困難性が高い」は誤り。文書化されたものはむしろ真似されやすい。 模倣困難性が高いのは、暗黙知としての熟練・ノウハウ・組織風土のほうです。

📝 過去問はこう出る(H30 第2問) 情報的経営資源の性質を問う問題。正解は「マニュアルや設計図は、熟練やノウハウに比べて模倣困難性は高くない」。 「仕事の手順や顧客の特徴は情報的経営資源に含まれない」(→ 典型例なので含まれる)、 「特定事業で蓄積した情報的資源は補完的事業でしか利用できない」(→ 同時多重利用で複数事業へ転用可能)は誤り。 → H30 第2問

📝 過去問はこう出る(R06 第2問) 伊丹敬之の「見えざる資産」を問う問題。正解は「見えざる資産は、企業と外部との情報の流れだけでなく、 企業内部の情報の流れからも生じる」。 「ブランドは含まれない」(→ ブランドは代表例)、「多重利用されない」(→ 同時多重利用が最大の特徴)、 「差別化の源泉になりにくい」(→ 模倣困難で差別化の源泉になりやすい)は、いずれも見えざる資産の特徴のでバツ。 → R06 第2問


2-6 リストラクチャリング(事業構造の再構築)

リストラクチャリングとは ― 「事業の組み合わせ」を作り直す

日本語で「リストラ」というと人員削減を思い浮かべがちですが、経営理論の リストラクチャリング(restructuring)は本来もっと広く、事業構造(事業ポートフォリオ)そのものを抜本的に作り直す 全社戦略を指します。2-4のPPMで「どの事業を伸ばし、どこから撤退するか」を判断した結果を、実行に移す局面です。

主な手段は次のとおりです。

手段 中身 ねらい
事業の売却 不採算・非中核事業を他社に売る 中核事業への集中/スピードと機密保持が重要(トップダウンで進める)
分社化(子会社として独立) 事業を別会社に切り出す 大幅な権限委譲で意思決定を迅速化、責任を明確化
撤退 事業から手を引く 資源を有望分野へ振り向ける
  • 事業売却はスピードと機密保持が求められるため、トップダウンで迅速に進めるのが通例です。 「全従業員の納得を待ってボトムアップで」は現実的でない、というのが試験の論点です。
  • 分社化の主なねらいは、権限委譲による意思決定の迅速化と責任の明確化です。

⚠️ 混同注意:リストラクチャリング と BPR は別物 業務プロセスを抜本的に見直して効率化するのは BPR(Business Process Reengineering=業務プロセス再設計)。 これは「業務のやり方」の見直しであって、「事業の組み合わせ」を作り直すリストラクチャリングとは概念のレベルが違います。 ストックオプション導入やリベート販促なども、事業構造再構築の中核課題ではありません。

📝 過去問はこう出る(H27 第10問) リストラクチャリングの記述で「最も適切なもの」を選ぶ問題。公式正解は「事業を子会社として独立させる場合は、 各子会社に大幅に権限を委譲し、意思決定の迅速化を図ることが課題となる」(=分社化の狙い)。 「事業売却をボトムアップで時間をかけて」(→ トップダウンで迅速に)、「業務プロセスの再設計」(→ BPRの説明で 概念レベルが異なる)、「リベート販促」「ストックオプション導入」は、いずれも事業構造再構築の中核課題ではなくバツ。 → H27 第10問


この章のまとめ(試験直前チェック)

  • ドメイン=会社の生存領域。企業ドメイン(=全体・アイデンティティ・境界)/事業ドメイン(=個別事業・現場の自律性)
  • ☐ 主語の取り違え注意:アイデンティティ・境界=企業ドメイン/個別事業の競争力=事業ドメイン
  • 物理的定義(モノで縛る→近視眼リスク)/機能的定義(価値で広げる)。「マイオピア=レビット」
  • ☐ エーベルのCFT=顧客層(Who)・顧客機能(What)・技術(How)で事業ドメインを描く
  • ☐ アンゾフの成長ベクトル=市場浸透・新市場開拓・新製品開発・多角化(製品×市場の4マス)
  • 製品も市場も新規のときだけ多角化。施策と戦略名の対応ズレに注意
  • ☐ 多角化:関連型/非関連型、ルメルトの分類は専門化率→垂直率→関連率の順(専門化率95%以上=単一事業)
  • ☐ 多角化の動機=未利用資源の活用・範囲の経済・リスク分散・成長機会(≠規模の経済)
  • 範囲の経済=C(x₁,x₂)<C(x₁,0)+C(0,x₂)(一緒に営むほうが安い)。多角化の根拠
  • PPM:縦軸=市場成長率(資金流出)/横軸=相対的市場シェア(資金流入)※逆にする引っかけ頻出
  • 金のなる木で稼ぎ→問題児・花形へ再配分。負け犬が撤退の中心(金のなる木は供給源)
  • ☐ PPMの弱点=シナジーを考慮できない/経験曲線がシェア=低コストの根拠
  • ☐ 情報的経営資源(見えざる資産=伊丹敬之):同時多重利用で減らない・暗黙的なほど模倣困難・内外の情報の流れから生じる
  • リストラクチャリング=事業構造の再構築(売却・分社化・撤退)。BPR(業務再設計)とは別物

この章に対応する主な過去問

年度・問 論点 リンク
H23 第1問 ドメインの定義・再定義(エーベル・レビット) 問題
H24 第1問 企業ドメインと事業ドメイン・事業ポートフォリオ 問題
H25 第5問 企業ドメインと事業ドメインの決定 問題
H27 第2問 企業ドメインと事業ドメイン 問題
R05 第1問 ドメイン 問題
R07 第2問 アンゾフの成長マトリクス 問題
R01 第3問 アンゾフの戦略論(戦略的問題解決) 問題
R03 第1問 多角化(動機・未利用資源) 問題
R06 第3問 ルメルトの多角化の分類 問題
H23 第7問 範囲の経済 問題
H26 第5問 シナジー効果 問題
H29 第2問 PPM 問題
H28 第2問 PPM 問題
R04 第2問 PPM 問題
R06 第4問 PPM 問題
H24 第7問 戦略事業単位(SBU)とPPM 問題
H30 第2問 情報的経営資源 問題
R06 第2問 見えざる資産(伊丹敬之) 問題
H27 第10問 リストラクチャリング(事業構造の再構築) 問題

次章予告 ▶ 第3章「競争戦略」 本章の全社戦略(どの事業をやるか)に対して、次章は事業戦略=「その事業でどう勝つか」を扱います。 ポーターの3つの基本戦略(コスト・リーダーシップ/差別化/集中)、5フォース分析、価値連鎖など、 企業経営理論の最大の山場に入っていきます。