第3章 競争戦略
この章のねらい 第1章で見た「戦略の3階層」のうち、事業戦略(=競争戦略)を正面から扱うのがこの章です。 テーマはひとことで言えば「その事業で、どうやって他社に勝つか」。中心になるのは 経営学者 M. ポーター(Michael E. Porter) の枠組み――ファイブフォース(5つの競争要因)、 3つの基本戦略、バリューチェーン(価値連鎖)――と、日本の受験でおなじみの コトラーの競争地位別戦略(リーダー・チャレンジャー・フォロワー・ニッチャー)です。
過去問での出方:この章は毎年2〜4問が出る、企業経営理論の最大の得点源です。 とくに「ファイブフォース」「競争地位別戦略」はほぼ毎年顔を出します。しかも 「もっとも不適切なものを選べ」の形が多く、用語の定義と"逆さま"にした選択肢を見抜けば解けます。 難問というより「知っていれば取れる」問題が多いので、ここを固めると合格がぐっと近づきます。
3-0 この章の地図
この章は「まず業界を外から診る(構造分析)」→「その中で自社をどう位置づけるか(基本戦略・ポジショニング)」 →「社内の活動をどう組むか(価値連鎖・活動システム)」→「自社の順位に応じた定石(競争地位別戦略)」 →「時間軸で勝つ(タイムベース・先発/後発)」という順に進みます。
3-1 ファイブフォース … 業界の"儲かりやすさ"を5つの力で診る(★頻出)
│
3-2 参入・撤退・移動障壁 … 障壁の高低が業界収益性を左右する
│
3-3 3つの基本戦略 … コスト/差別化/集中(+スタック・イン・ザ・ミドル)
│
3-4 戦略グループとポジショニング … 業界内の"ご近所づきあい"を地図化
│
3-5 価値連鎖・活動システム … 社内の活動の"つながり"に強みを探す(ポーター)
│
3-6 競争地位別戦略 … リーダー/チャレンジャー/フォロワー/ニッチャー(★頻出・コトラー)
│
3-7 タイムベース競争・先発/後発優位 … "速さ"と"順番"で勝つ
3-1 業界の構造分析 ― ポーターのファイブフォース ★最重要
いちばん短い定義
ファイブフォース(Five Forces=5つの競争要因) とは、M. ポーターが示した 「その業界が儲かりやすい業界か/儲かりにくい業界かを、5つの"力"で診断する枠組み」です。 5つの力が強いほど業界の競争は激しく、平均的な利益率(=業界の魅力度)は下がります。
5つの力を図で
┌───────────────┐
│ ② 新規参入の脅威 │
│ (新しく入る会社) │
└───────┬───────┘
↓
┌──────────┐ ┌───────────────┐ ┌──────────┐
│③ 売り手の │→ │ ① 既存企業間の敵対関係 │ ←│④ 買い手の │
│ 交渉力 │ │ (今いる同業者どうしの競争)│ │ 交渉力 │
│(仕入先) │ └───────┬───────┘ │(顧客) │
└──────────┘ ↑ └──────────┘
│
┌───────┴───────┐
│ ⑤ 代替品の脅威 │
│(別モノで置き換わる) │
└───────────────┘
5つの力を1つずつかみくだく
| 力 | どういう力か | この力が「強い」と(=業界がつらい)… |
|---|---|---|
| ① 既存企業間の敵対関係 | 今いる同業者どうしの競争の激しさ | 企業数が多い・差別化しにくい・成長が止まった業界では価格競争になり利益が減る |
| ② 新規参入の脅威 | 新しい会社が入ってくる可能性 | 参入障壁(3-2)が低いと新顔が増え、価格が下がり利益が薄まる |
| ③ 売り手(供給業者)の交渉力 | 仕入先が値上げなどを押しつけられる力 | 仕入先が少数・切り替えにくい・前方統合できると、こちらのコストが上がる |
| ④ 買い手(顧客)の交渉力 | 顧客が値下げなどを求められる力 | 顧客が少数・大口・乗り換えやすいと、こちらの値段を叩かれる |
| ⑤ 代替品の脅威 | 別のモノで置き換えられる可能性 | 技術やニーズの変化で「まったく別の商品」に取って代わられると需要が奪われる |
💡 覚え方(交渉力の向き):交渉力は「相手に依存しないほうが強い」。 こちらが相手に頼りきりなら相手が強く、相手がこちらに頼りきりならこちらが強い――ただこれだけです。 「乗り換えにコスト(学び直し・違約金)がかかる」→乗り換えにくい→縛っている側が強い、と考えます。
つまずきポイント:交渉力の「向き」を逆にする引っかけ
R02 第3問は、まさにこの「向き」を試す問題でした。次の関係を反射的に言えるようにしておきましょう。
- 新規の売り手が参入できる → 買い手は調達先が増える → 買い手の交渉力が上がる
- 競合品との互換性が高い → 買い手は乗り換えやすい → 買い手の交渉力が上がる
- 乗り換えに学び直し(スイッチング・コスト)が必要 → 買い手は縛られる → 売り手の交渉力が上がる
- 売り手が前方統合できる(自分で顧客の商売に進出できる) → 売り手が強い → 買い手の交渉力は下がる
📝 過去問はこう出る(R02 第3問) 売り手・買い手の交渉力の「向き」を判定させる問題。正解は 「売り手が前方統合できる場合には、(できない場合より)売り手に対する買い手の交渉力は低下する」。 「新規参入で買い手の交渉力が"低下"」「互換性が高いと買い手の交渉力が"低下"」などは、 すべて向きを逆さまにした誤りです。 → R02 第3問
📝 過去問はこう出る(H22 第10問) ファイブフォースの図を示し、各要因への対応で「もっとも不適切」を選ぶ問題。正解(=誤り)は 「競争業者との戦いには、徹底した差別化戦略を展開することが第一に重要」と断定した選択肢。 ポーターの基本戦略は差別化だけではなく3類型(3-3)あり、業界構造や自社の立場で適切な戦略は変わります。 「差別化こそ唯一・第一」と一義的に決めつけるのが誤りでした。 → H22 第10問
📝 過去問はこう出る(R05 第3問) 「既存企業間の対抗度がもっとも低い業界」を、ハーフィンダール指数(値が大きいほど市場が少数企業に集中=寡占) と製品差別化の程度の表から選ばせる計算+知識問題。正解は「指数0.7(最も高集中)×差別化が高い業界B」。 集中度が高い(寡占)ほど、また差別化が進むほど、価格競争が起きにくく対抗度は低い――この2つの関係が骨子でした。 → R05 第3問
3-2 参入障壁・撤退障壁・移動障壁
3つの「障壁」を区別する
「障壁(バリア)」とは、企業の自由な動きを妨げる壁のことです。ポーターの枠組みでは3種類が登場します。
| 障壁 | どこを妨げる壁か | 例 |
|---|---|---|
| 参入障壁 | 業界の外から中へ入るのを妨げる | 規模の経済、巨額の初期投資、ブランド、独自の販売チャネルや仕入れルート |
| 撤退障壁 | 業界の中から外へ出るのを妨げる | 専用資産(転用できない設備)、撤退コスト、事業への思い入れ、他事業との関連 |
| 移動障壁 | 業界内の戦略グループ間の移動を妨げる(→3-4) | 事業システムや経営方式の「癖・慣性」、蓄積したコミットメント |
障壁の高低と業界収益性の関係
ここが得点のカギです。参入障壁が高いほど新顔が入れず、業界内の企業は守られて収益性が高くなります。
一方で、意外に思えるのが撤退障壁です。
⚠️ 混同注意:参入障壁と撤退障壁は"効き方"が違う - 参入障壁が高い=新顔が入れない → 業界の収益性は高まる(良い方向) - 撤退障壁が高い=負けている会社も出ていけない → 過剰供給・値下げ合戦が続く → 業界の収益性は下がる(悪い方向)
「儲かる業界」の理想形は、参入障壁が高く・撤退障壁が低い業界です。
撤退障壁とは「やめたくてもやめられない」要因
H26 第3問は、撤退障壁の具体例を問いました。撤退障壁とは「不採算なのに撤退できなくする要因」です。
- 情緒的・心理的な要因:創業者や従業員の事業への強い思い入れ
- 専用資産:その業種にしか使えず清算価値が低い設備(転用にもコストがかかる)
- 撤退コスト:社内再配置など、やめること自体にかかる費用
- 戦略的な相互関係:他事業と結びつきが強く、撤退すると他事業の強みまで失う
📝 過去問はこう出る(H26 第3問) 「撤退障壁が生じている状況」としてもっとも不適切なものを選ぶ問題。正解(=誤り)は 「生産過剰で収益率が悪化しているが、協定があり同業者数に変化はなく市場競争は平穏である」。 これは"やめられない要因"を何も説明しておらず、撤退障壁の例になっていません。 残りの選択肢(思い入れ・専用資産・撤退コスト・他事業との関連)は、いずれも典型的な撤退障壁でした。 → H26 第3問
📝 過去問はこう出る(H22 第9問) 参入障壁と移動障壁の関係を問う問題。正解(=もっとも不適切)は 「業界内競争で形成された事業システムやマネジメント方式は戦略上の癖・慣性を生むので、 企業が移動障壁に直面する事態にはならない」。因果が逆で、その"癖・慣性"こそが 他の戦略グループへ移りにくくする移動障壁を生み出す、というのが正しい理解です。 → H22 第9問
3-3 3つの基本戦略 ― コスト・リーダーシップ/差別化/集中
ポーターの「3つの基本戦略」
ポーターは、競争優位のつくり方は突き詰めると3つしかない、と整理しました。 「広く狙うか・狭く狙うか」×「安さで勝つか・違いで勝つか」の組み合わせです。
<広いターゲット(市場全体)>
┌───────────────┬───────────────┐
│ ① コスト・リーダーシップ │ ② 差別化 │
広 い │ (安さで勝つ) │ (違い・独自価値で勝つ)│
├───────────────┴───────────────┤
狭 い │ ③ 集中戦略(特定の狭い市場に絞る) │
│ 3a コスト集中 / 3b 差別化集中 │
└───────────────────────────────┘
<狭いターゲット(特定セグメント)>
| 基本戦略 | ねらい | 主な武器 | 中小企業との相性 |
|---|---|---|---|
| ① コスト・リーダーシップ | 業界で最も低いコストを実現して勝つ | 規模の経済、経験効果(累積生産量が増えるほど単位コストが下がる) | 大規模が前提で、資源の乏しい中小には不向きなことが多い |
| ② 差別化 | 買い手が認める独自の価値で勝つ | 品質・ブランド・デザイン・サービス | 独自技術やこだわりがあれば中小でも可能 |
| ③ 集中戦略 | 特定の狭い市場に資源を集中して勝つ | ニッチ市場への特化。その中でコスト集中か差別化集中を選ぶ | 中小企業の王道。限られた資源を一点に集中できる |
コスト・リーダーシップの落とし穴
H28 第6問は、コスト・リーダーシップの正確な理解を問いました。よくある誤解を潰しておきましょう。
- 成熟期"以降だけ"の戦略ではない:経験効果は累積生産量で効くので、需要が大きく規模を稼げる成長期から有効。
- 多角化のシナジー(範囲の経済)とは別物:コスト・リーダーシップは単一事業内での規模・経験効果の話。
- 専用工場・専用設備は柔軟性が低い:低コストと引き換えに、新しい市場ニーズへの迅速な対応はむしろ苦手。
- ブランド・ロイヤルティで付加価値を明確化するのは差別化の課題(コスト・リーダーシップの説明ではない)。
📝 過去問はこう出る(H28 第6問) コスト・リーダーシップの説明としてもっとも適切なものを選ぶ問題。正解は 「浸透価格政策(低価格で一気に市場浸透)をとると販売量・累積生産量が急増し、 経験効果によるコスト低下スピードが競合より速くなる」。 「成熟期以降に限定」「多角化のシナジーでコスト削減」「専用設備でも新ニーズに迅速対応」などは誤りでした。 → H28 第6問
集中戦略と「絞り込みすぎ」のリスク
集中戦略は中小の王道ですが、油断は禁物です。H23 第6問は、集中戦略の"落とし穴"を問いました。
- ニッチ市場でも大手の参入・環境変化のリスクは残る。「絞り込めば好業績を長期に維持できる」と断定するのは誤り。
- 絞り込んだニーズが業界全体のニーズと似通っていかないか監視し、独自性を保ち続ける必要がある。
- 絞り込みで技術が狭くなる恐れがあるので、新製品・技術開発への投資も怠らない。
📝 過去問はこう出る(H23 第6問) 中小企業の集中戦略としてもっとも不適切なものを選ぶ問題。正解(=誤り)は 「得意セグメントに絞り込めば業界大手の追随を振り切れるばかりか、好業績を長期に維持できる」と 楽観的に断定した選択肢。ニッチでもリスクは残るため「長期維持を保証」はできません。 → H23 第6問
スタック・イン・ザ・ミドル(中途半端の罠)
ポーターは、「コスト・リーダーシップと差別化を中途半端に両取りしようとすると、どちらでも勝てず かえって業績が悪くなる」と警告しました。これを スタック・イン・ザ・ミドル(stuck in the middle= 中間に立ち往生する) と呼びます。
- 基本的には3つの基本戦略のどれか1つを明確に選ぶべき、というのがポーターの主張です。
- この考え方は、後で見る「トレードオフ(あれもこれもはできない)」(3-5)とも深くつながります。
💡 覚え方:スタック・イン・ザ・ミドル=「二兎を追う者は一兎をも得ず」。 戦略とは"何をやらないか"を決めること(第1章)。中途半端がいちばん危ない、と覚えましょう。
3-4 戦略グループとポジショニング
戦略グループとは
戦略グループとは、同じ業界のなかで似た戦略をとる企業のかたまりのことです。 たとえば自動車業界なら「高級車で差別化する一群」と「大衆車を低価格で売る一群」に分かれます。 これを縦横2軸の地図に描いたものを戦略グループ・マップと呼び、 業界内の競争構造や「自社のご近所(直接のライバル)」を視覚的につかめます。
高 ┃ (高級・差別化グループ)
価 ┃ ● A社 ● B社
格 ┃
┃ (大衆・低価格グループ)
低 ┃ ● C社 ● D社 ● E社
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━→
狭い品ぞろえ 広い品ぞろえ
移動障壁がグループの"壁"になる
戦略グループの間には、簡単には乗り越えられない移動障壁(3-2)があります。 低価格グループの会社が「うちも高級路線へ」と思っても、ブランドや技術、 これまで積み上げた事業システムの"癖・慣性"が壁になって、なかなか移れません。 この移動障壁があるからこそ、各グループはある程度守られ、業界内に複数のグループが共存できます。
⚠️ 混同注意:戦略グループ・マップ ≠ 活動システム・マップ - 戦略グループ・マップ:業界内の複数企業を似た戦略でグループ分けし、競争構造を俯瞰する図 - 活動システム・マップ(3-5):1つの企業の中の、活動どうしの結びつきを描く図
R07 第8問は、この2つをすり替えた選択肢を誤りとして仕込んでいました。混同に注意です。
📝 過去問はこう出る(H22 第9問/再掲の視点) 参入障壁・移動障壁と戦略の関係を問う問題(3-2でも登場)。「同業者間で共通の戦略課題に協調を続けると 戦略の類似性が強まり、新規な戦略展開が困難になる(=移動障壁の形成)」は適切な記述でした。 戦略グループと移動障壁はセットで理解しておきましょう。 → H22 第9問
3-5 価値連鎖(バリューチェーン)と活動システム ― ポーター
バリューチェーン(価値連鎖)とは
バリューチェーン(value chain=価値連鎖) とは、ポーターが示した 「企業の活動を、価値を生む一連の流れとして分解し、どの活動に強み(競争優位の源泉)があるかを分析する枠組み」です。 活動を大きく主活動と支援活動に分けます。
┌──────────────────────────────────┐
支援活動 │ 全般管理(インフラ)/人事・労務管理/技術開発/調達活動 │
├──────────────────────────────────┤
主活動 │ 購買物流 → 製造 → 出荷物流 → 販売・マーケティング → サービス │ ⇒ マージン
└──────────────────────────────────┘
- 主活動:モノやサービスが顧客に届くまでの直接的な流れ(購買物流・製造・出荷物流・販売/マーケティング・サービス)。
- 支援活動:主活動を支える裏方(全般管理・人事・技術開発・調達)。
- 一番右のマージン(利幅)が、生み出した価値からコストを引いた"儲け"にあたります。
つまずきポイント:強みは「活動の"つながり方"」にある
バリューチェーンでいちばん大事なのは、個々の活動そのものより、活動どうしの結びつき(リンケージ)です。 H28 第8問は、まさにこの点を問いました。
- 全体の付加価値は、個別活動の単純な"足し算"ではない。活動間の連結・調整による相乗効果を含みます。
- だから各活動を部分最適化しても、全体最適にはならない(かえって損なうこともある)。
- 活動の結びつき方そのものが、真似しにくい独自の経営資源・ケイパビリティ(→第4章RBV)になり得ます。
- 強みでない活動はアウトソーシングして自社は強みに集中したほうが競争力は高まる(外部依存=悪、ではない)。
📝 過去問はこう出る(H28 第8問) バリューチェーンの説明としてもっとも適切なものを選ぶ問題。正解は 「各価値活動とともに、それらの結び付き方(リンケージ)は、企業独特の経営資源やケイパビリティとして 認識できる」。「全体の付加価値は個別活動の総和で、部分最適化が収益性を高める」は誤りでした。 → H28 第8問
活動システムと「フィット(適合)」
ポーターは後年、この考えを発展させて活動システム(activity system)を提唱しました。 戦略を支える多くの活動が、互いにかみ合い(フィット=適合し)合うことで、強い競争優位が生まれる、という考え方です。
- 個々の活動なら競合も真似できますが、活動の"集合体全体"を丸ごと真似するのは非常に難しい。 だから活動間の一貫性・相互作用を高めるほど、模倣困難性が高まります。
- ここで重要なのがトレードオフです。「あれもこれも」はできない。むしろ「何をやらないか」を明確にする ことが、活動システムの一貫性を守ります(→ 3-3のスタック・イン・ザ・ミドルと同じ思想)。
- 逆に、戦略を曖昧にすると活動間の一貫性が崩れ、優位は持続しません。
📝 過去問はこう出る(R07 第8問) ポーターの活動システムの説明としてもっとも適切なものを選ぶ問題。正解は 「活動システム全体の一貫性を確保し、活動間の相互作用を強化することで、模倣困難性を高められる」。 「各活動の効率性を優先した設計」「活動システムマップで業界の競争状況を把握(=戦略グループ・マップとの混同)」 「コストと差別化のトレードオフが解消される」「戦略を曖昧にして柔軟性を高める」はいずれも誤りでした。 → R07 第8問
3-6 競争地位別戦略 ― コトラー ★頻出
4つの競争地位と、それぞれの定石
P. コトラー(Philip Kotler) は、企業を市場での立ち位置(シェアと経営資源)で4タイプに分け、 それぞれに応じた戦略の"定石"を示しました。これは日本の受験で毎年のように出る超頻出テーマです。
| 地位 | どんな企業か | 戦略の定石(キーワード) |
|---|---|---|
| リーダー | 業界シェアNo.1。経営資源も最大 | 周辺需要拡大(市場全体を大きくする)、同質化(下位の差別化を真似て無力化)、フル・カバレッジ(全方位)、非価格対応。自らのイノベーションで市場を主導 |
| チャレンジャー | シェア2位以下でリーダーに挑む。資源も相応にある | リーダーが追随しにくい差別化(4Pの差別化)。特定セグメントに資源を集中して攻撃 |
| フォロワー | 上位を追う中位・下位。リーダーに挑まない | 上位の模倣で開発費を抑え、低コストで一定の地位を維持。生き残り重視 |
| ニッチャー | 特定の狭い市場(ニッチ)に特化 | ドメインの差別化(狭い市場に集中)。ミニ・リーダーとして高収益を狙う。閉鎖型チャネル・媒体を絞ったプロモーション |
イメージ:シェアの階段
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大 │ ★ リーダー … 市場を広げ、下位の差別化は同質化で無力化
│ ☆ チャレンジャー … リーダーが真似できない差別化で攻める
│ ○ フォロワー … 上位を模倣し低コストで生き残る
小 │ ◇ ニッチャー … 狭い市場に特化しミニ・リーダーになる
つまずきポイント:戦略の"担い手"を取り違える引っかけ
「同質化」「周辺需要拡大」「フル・カバレッジ」はリーダーの役割、 「ドメインの差別化」はニッチャーの役割――この対応を反射的に言えることが得点への近道です。
- チャレンジャーは4Pの差別化(製品・価格・流通・プロモーション)。「ドメインの差別化」はニッチャーの話。
- フォロワーは模倣+低コストで生き残る。品質を上げて顧客を奪いにいくのは定石ではない。
- ニッチャーは狭い市場に集中。周辺需要拡大や同質化(=リーダーの役割)を担うわけではない。
⚠️ 混同注意:「相対的市場シェア」の計算 競争地位はシェアで決まります。相対的市場シェア=自社シェア ÷ 業界最大競合(多くはリーダー)のシェア。 リーダー自身の相対シェアは「自社 ÷ 2位」で計算します(PPMでも使う考え方。→第2章)。
📝 過去問はこう出る(R04 第4問) A社45%・B社30%・C社15%・D社10%の表から、B社の相対的市場シェアととるべき戦略を問う2設問。 設問1の正解は0.67(30÷45=0.666…)。設問2は、B社は「リーダーAに対抗できる資源を持つ2位=チャレンジャー」 なので、正解は「特定の市場セグメントに経営資源を集中的に投入する」。 「低価格で攻撃回避(フォロワー)」「同質化(リーダー)」「経験曲線でコスト優位(リーダー)」は誤りでした。 → R04 第4問
📝 過去問はこう出る(R05 第5問) 4社の売上数量・金額の表から各社の地位を判定し、定石を選ぶ問題。数量シェアは D社50%(リーダー)、A社30%(チャレンジャー)、C社15%(フォロワー)、B社5%かつ単価最高(ニッチャー)。 正解は「リーダーDは、下位の差別化に同質化で対応しつつ、自社からのイノベーションで市場を主導する」。 「Aが価格を下げる(→資金力で勝るリーダーを利する)」「Bが市場全体拡大(→リーダーの役割)」 「Cがコストを上げて品質向上(→フォロワーの定石に反する)」は誤りでした。 → R05 第5問
📝 過去問はこう出る(H28 第7問) チャレンジャーとニッチャーの説明としてもっとも適切なものを選ぶ問題。正解は 「ニッチャーは、狭いターゲットに対し、価格競争に巻き込まれないよう閉鎖型チャネルを用い、 媒体を絞ったプロモーションを展開する」。「チャレンジャーがドメインの差別化(=ニッチャーの話)」 「ニッチャーが同質化・市場拡大(=リーダーの話)」は担い手の取り違えで誤りでした。 → H28 第7問
3-7 タイムベース競争・先発優位と後発優位
タイムベース競争とは
タイムベース競争(time-based competition) とは、 「開発から生産・販売までの"時間(リードタイム)"の短さそのものを競争力に変える」考え方です。 「どれだけ早く・素早く」で勝負する戦略、と捉えてください。
タイムベース競争の効果は、たとえば次のように現れます。
- リードタイム短縮 → 販売機会の損失を防ぐ(欲しいときに供給できる)。
- 生産リードタイム短縮 → 在庫・仕掛品の保有期間が縮む → 原材料購入にかかる金利負担が減る。
- 顧客ニーズへ俊敏に対応 → 価格差を克服し、結果的に高い利益率を実現しうる。
⚠️ 混同注意:タイムベース競争 ≠ 経験効果 「大規模生産による経験効果を連続的に享受」は、規模・累積生産量に基づく話(=経験曲線効果)であって、 "時間(速さ)で勝つ"タイムベース競争そのものの効果ではありません。ここを混ぜた選択肢が引っかけになります。
📝 過去問はこう出る(H27 第5問) タイムベース競争としてもっとも不適切なものを選ぶ問題。正解(=誤り)は 「最初に量産化し、大規模生産による経験効果を連続的に享受できる先発者優位が生じる」。 これは経験曲線効果の説明で、リードタイム短縮による"速度の優位"を論じるタイムベース競争とはズレます。 機会損失防止・在庫金利削減・俊敏な顧客対応は、いずれも適切な効果でした。 → H27 第5問
先発優位と後発優位
同じ製品分野に「先に出るか・後から出るか」で、それぞれ違うメリットがあります。
| 先発優位(先に出るメリット) | 後発優位(後から出るメリット) | |
|---|---|---|
| 内容 | ・経験効果(累積生産量が多く、コストが下がる) ・規格(デファクト・スタンダード)を主導しやすい ・スイッチング・コストで顧客を囲い込める ・消費者の心に最初に入り込み参入障壁(ブランド)を築ける |
・先発を観察し、需要の不確実性を見極めてから参入できる ・PLC(製品ライフサイクル)で主流になったニーズが見えてから対応できる ・先発の失敗や研究開発の成果にただ乗りできる |
💡 覚え方:先発は「先に囲い込む」(経験効果・規格主導・スイッチングコスト・ブランド)。 後発は「見てから動ける」(不確実性を見極める・主流ニーズに合わせる)。
📝 過去問はこう出る(R06 第36問) a〜fの記述から「後発のほうがメリットが大きいもの」の組み合わせを選ぶ問題。正解は d(需要の不確実性を見極められる)とf(PLCで主流となる顧客ニーズに対応しやすい)の組み合わせ。 a経験効果・b規格コントロール・cスイッチングコスト・e消費者の心の参入障壁は、いずれも先発優位でした。 → R06 第36問
この章のまとめ(試験直前チェック)
- ☐ ファイブフォース=①既存企業間の敵対 ②新規参入 ③売り手の交渉力 ④買い手の交渉力 ⑤代替品――の5つで業界の魅力度を診る
- ☐ 交渉力は「相手に依存しない側が強い」。スイッチング・コストや前方統合の"向き"を逆にする引っかけに注意
- ☐ 集中度(ハーフィンダール指数)が高い=寡占、差別化が高い→対抗度は低くなる
- ☐ 参入障壁が高い→収益性↑/撤退障壁が高い→収益性↓(理想は参入高・撤退低)
- ☐ 撤退障壁の例=思い入れ・専用資産・撤退コスト・他事業との関連("やめられない要因")
- ☐ 移動障壁=戦略グループ間の移動を妨げる壁(事業システムの癖・慣性)
- ☐ 3つの基本戦略=コスト・リーダーシップ/差別化/集中。中途半端はスタック・イン・ザ・ミドル
- ☐ コスト・リーダーシップ=規模・経験効果(成長期から有効/専用設備で柔軟性は低い)
- ☐ 集中戦略は中小の王道だが「絞れば長期に好業績」と断定するのは誤り(大手参入・環境変化のリスク)
- ☐ 戦略グループ・マップ(業界内の複数企業) と 活動システム・マップ(1企業の活動) を混同しない
- ☐ バリューチェーンは活動のつながり(リンケージ)に強み。部分最適の総和では全体最適にならない
- ☐ 活動システム=活動のフィット(適合)と一貫性で模倣困難に。トレードオフ(何をやらないか)が要
- ☐ 競争地位別戦略(コトラー):リーダー=周辺需要拡大・同質化/チャレンジャー=4Pの差別化/フォロワー=模倣+低コスト/ニッチャー=ドメインの差別化
- ☐ 相対的市場シェア=自社シェア ÷ 最大競合のシェア
- ☐ タイムベース競争=リードタイム短縮で勝つ(経験効果と混同しない)
- ☐ 先発優位=経験効果・規格主導・スイッチングコスト・ブランド/後発優位=不確実性を見極め・主流ニーズに対応
この章に対応する主な過去問
| 年度・問 | 論点 | リンク |
|---|---|---|
| H22 第10問 | ファイブフォース(5つの競争要因) | 問題 |
| R02 第3問 | 業界の構造分析(売り手・買い手の交渉力) | 問題 |
| R05 第3問 | 業界の構造分析(既存企業間の対抗度・5フォース) | 問題 |
| H22 第9問 | 参入障壁と移動障壁 | 問題 |
| H26 第3問 | 撤退障壁 | 問題 |
| H28 第6問 | コスト・リーダーシップ戦略 | 問題 |
| H23 第6問 | 集中戦略 | 問題 |
| H28 第8問 | バリュー・チェーン(価値連鎖) | 問題 |
| R07 第8問 | 活動システム(ポーター) | 問題 |
| R04 第4問 | 市場シェアと競争地位別戦略 | 問題 |
| R05 第5問 | 競争地位別戦略 | 問題 |
| H28 第7問 | 競争地位別戦略(チャレンジャー・ニッチャー) | 問題 |
| H27 第5問 | タイムベース競争 | 問題 |
| R06 第36問 | 先発優位と後発優位 | 問題 |
次章予告 ▶ 第4章「経営資源とケイパビリティ(RBV)」 本章は「業界(外)をどう診て、その中でどう位置取るか」というポーター流の外側からの視点が中心でした。 第4章では視点を反転させ、「自社の内側にある経営資源や能力(ケイパビリティ)こそが競争優位の源泉だ」という RBV(Resource Based View=資源ベース理論) を扱います。VRIO分析やコア・コンピタンス、 本章で顔を出した「模倣困難性」が主役になります。