琵琶湖三市同時花火大会は何だったのか 〜Webサイトだけが完成していた話

滋賀県で予定されていた花火大会が、開催2週間前に中止になりました。
長浜市、彦根市、高島市の3市で8月22日に同時開催するとして告知されていた「琵琶湖三市同時花火大会」です。実行委員会が8月9日にSNSと公式サイトで中止を発表しました。
ただ、単なる中止のニュースではありません。
その3日前の8月6日に、名前を冠されていた3市が「うちは関与していない」という異例の声明を出していたのです。
私も琵琶湖には、人生初めてのデートで行った思い出があるので、なんとなく気になって調べてみたのですが、これがなかなか一筋縄ではいかない話でした。
SNSでは「詐欺ではないか」という声が出ています。
順を追って書いていきます。
まず、どんなイベントだったのか
規模がとにかく大きい計画でした。
長浜・彦根・高島の3会場から同時に1万発以上の花火を打ち上げる。有料観覧チケットは約7,000円から1万9,000円。ナイトマーケットや、翌日の三市スタンプラリーまで告知されていました。
実行委員会は「全席有料、完全指定席」としていて、チケットはインターネットで販売。会場の詳細な場所は、大会の約1週間前にメールで案内するとしていました。
……この「会場は1週間前にメールで」というのが、いま思えば最初の違和感でした。
普通、花火大会の会場は真っ先に公表されるものです。むしろそこが集客の中心ですよね。
公式サイトのドメイン登録は2025年12月。チケット販売は1月下旬から始まっていました。
つまり売る準備は半年以上前から進んでいたわけです。
時系列で並べると、ここ2週間の急展開がすごい
整理するとこうなります。
| 日付 | 何が起きたか |
|---|---|
| 2025年12月 | 公式サイトのドメイン取得 |
| 2026年1月下旬 | チケット販売開始 |
| 7月27日 | 地元紙の取材で、3市・消防・警察が実施を把握していないと判明 |
| 8月5日 | 実行委が新規チケット販売を一時停止 |
| 8月6日 | 3市が相次いで「関与していない」と声明 |
| 8月9日 | 開催中止を発表 |
| 8月22日 | 開催予定だった日 |
半年かけて売って、最後の2週間で崩れた、という形です。
3市が「うちは関係ない」と言うのは、かなり異例です
ここが今回いちばん目を引いた部分でした。
長浜市と長浜米原観光協会は、SNSで拡散されている大会は市や協会が主催・共催するものではないと明記。彦根市は彦根観光協会および市は関係していないとし、問い合わせは実行委員会へ、と呼びかけました。高島市も、市とびわ湖高島観光協会が関与する花火大会はないと説明しています。
名称に「三市」と入っていたことで誤解が広がり、問い合わせが殺到したための対応だったそうです。
民間主催のイベント自体は、まったく珍しくありません。
ただ、自治体がわざわざ公式サイトで「これはうちのイベントではありません」と言わないといけない状況になったのは、やっぱり普通ではないですね。
市民や屋台の出店者から「本当に実施されるのか」「主催者と連絡が取れない」という問い合わせが3市に相次いでいたと報じられています。
出店者さんは料金を払っているわけですから、そりゃ不安になります。
決定的だったのは、消防への申請がなかったこと
私が一番「これはあかんやろ」と思ったのがここです。
3市を管轄する消防によると、花火大会を開催する場合は約1カ月前までに火薬使用などの申請をする必要があります。ところが期限までに申請も相談もなかったとのこと。
1万発の花火です。
これは「まだ準備中でした」で済む話ではありません。申請していないなら、そもそも物理的に打ち上げられないわけです。
県と3市によると、実行委については昨年12月から今年4月ごろに担当者が「花火大会の企画を考えている」と訪ねてきたものの、具体的な開催場所などの説明はなく、運営実態も不明だったといいます。
訪ねてはきていた。でも中身がなかった。ここが不思議なところです。
でも「最初から架空のイベント」とも言い切れない
ここからが、今回の話がややこしいところです。
私は当初「典型的な架空イベント詐欺やな」と思っていたのですが、調べていくとちょっと様子が違いました。
まず、公式サイトの特定商取引法に基づく表記には、販売業者名、運営統括責任者の氏名、滋賀県栗東市の所在地、問い合わせ用メールアドレスが掲載されていました。完全に匿名だったわけではありません。
さらに驚いたのが、2026年5月、滋賀県教育委員会の公式サイトで、高島高校の科学探究部が水中ドローンで琵琶湖を調査した活動の支援者として、この実行委員会の代表が実名で紹介されていたことです。
高島市には前年の冬に、主催者代表が大会の企画説明に訪れていたことも報じられています。
つまり、実在する人物が実行委員会代表として地域で活動していて、行政にも接触していた形跡がある。
「適当な名前でサイトを作ってチケットだけ売って消える」という手口とは、少し違うんですね。
一方で、特商法表記に載っていた住所は、中止発表の時点で「2026年6月に使用を終了した旧所在地」だったと説明されています。
……6月に事務所を引き払っている状態で、8月に1万発の花火を上げる。
えらいことになってきたな、と思いました(^^;
実行委員会は何と言っているのか
中止発表の文面はこうです。
開催に向けて準備・調整を進めてきたが、開催日までに大会を実施するために必要な準備・運営体制を整えることが困難であると判断し、中止することにした。延期・振替開催は行わず、今後の開催予定もない。
そして、いちばん気になる返金については。
チケット購入者と出店者への今後の対応については、現在、法的専門家への相談を行いながら、対応内容の確認・整理を進めております——という説明にとどまっています。
当面は個別の問い合わせへの回答を控えるともしています。
「返金します」とは、まだ言っていないわけです。
ここが今後の焦点かと思います。
私が一番気になっているのは「いつ無理だと分かったのか」
事業として考えると、ポイントはここだと思うんですよね。
イベントを立ち上げた時点で本気で開催できると思っていたなら、それ自体は犯罪ではありません。計画が失敗すること自体は、事業をやっていれば普通にあります。
もちろん、失敗を軽く見ているわけではありませんが、失敗=詐欺ではない。
ただ、途中で「これは無理だ」と分かった後もチケットを売り続けていたのだとしたら、話がまったく変わってきます。
7月27日の時点で行政も消防も警察も把握していなかった。事務所は6月に引き払われていた。それでも8月5日まで販売は続いていました。
この間、主催者は本当に開催できると思っていたのか。
外からは分かりません。だからこそ、そこは主催者自身から説明されるべきところだと思います。
なお現時点で立件されたという報道はありませんので、詐欺と断定するのは早いかと思います。判断材料は、やはり返金がどうなるかでしょうね。
引っかかるところ
今回いちばん考えさせられたのは、別のところにありました。
Webサイトが立派すぎる時代になった、ということです。
公式サイトがあって、チケット販売システムがあって、Instagramがあって、席種も料金も決まっていて、コンセプトも綺麗に書かれている。
これだけ揃うと、私たちは無意識に「裏側では会場も花火業者も警備会社も全部押さえてあるんだろう」と思ってしまいます。
でも実際には、表側と裏側はまったく別物でした。
生成AIとノーコードツールのおかげで、体裁の整ったサイトは半日もあれば作れます。決済も、いまは個人で簡単に組み込めます。
つまり「見た目の信用」を作るコストが、劇的に下がった。
これは中小企業のデジタル化を支援する立場からすると、両面ある話です。小さな会社が立派な発信をできるようになったのは間違いなく良いことです。私自身、そういう支援をしています。
でも同時に、見た目だけで信用を判断できない世の中になったわけで。
じゃあ何を見ればいいのか。今回の件でいえば、行政・消防・警察という「現実側の裏付け」でした。地元紙が一つずつ問い合わせていったことで、前提が崩れていった。
地味な確認作業が効いたわけです。
イベントに限らず、取引先を見るときも同じかもしれません。サイトの出来ではなく、許認可、実績、所在地、電話が通じるか。そういう古典的なところを見るしかない。
なんだか身も蓋もない結論ですが(^^;
まとめ
現時点で分かっていることを整理すると、こうなります。
- 3市は関与を否定した
- 消防への火薬使用の申請は期限までになかった
- チケットは半年前から販売されていた
- 中止は開催13日前
- 返金については「整理中」で、まだ明言されていない
詐欺なのか企画倒れなのかは、現時点では分かりません。重要なのは、販売されたチケット代や出店料が返金されるかどうかです。
購入された方は、決済方法によってはクレジットカード会社への相談という手も残っているかと思います。ここは早めに動いたほうがよさそうです。
チケットを買われた方、出店を準備されていた方には、本当にお気の毒としか言いようがありません。楽しみにしていたお盆でしょうし。
続報が出たら、また追いかけてみます。
そんなところで。

