インボイス制度と独占禁止法の関係はどうなる?~消費税分の値下げや取引先の変更はどうなる!?

2022年1月29日

公正取引委員会「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」R4/1/19
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/invoice_qanda.html

インボイス制度が導入されると、免税事業者はインボイスを発行できません。そうすると免税事業者に発注している会社は、消費税の仕入税額控除ができません。つまりその分だけ、納税する消費税がおおくなるということです。そのため、本則課税で免税事業者に発注している会社は、免税事業者にインボイス番号を聞いて回っています。

「インボイス持ってる?持ってないなら期限までに登録する?」

自社の納税額の増加に関わることですから、当然気になります。そして、インボイスを期限までに登録してくれないなら、仕方なく、発注先を他のインボイスを登録している事業者に変更することを考えるでしょう。

ここまでは当然の流れだと思います。

ただ、受注側では、インボイスの登録という納税額増加を求められることを、下請けいじめだ!と感じる方もいるでしょう。

発注先への取引条件の交渉自体はもちろんあってしかるべきですが、インボイス制度の実施を理由に取引条件を見直すことは、独占禁止法などの法律に引っかかることはあるのでしょうか?

以前は、消費税特別対策措置法が施行されていました。消費税率の引き上げにあわせて、消費税分値引いて!というような行為は明確に法律違反でした。しかし、2021年3月にこの措置法は終了しました。

インボイスを持っていない免税事業者には、消費税分を支払わない、(110円支払っていたものを100円しか払わない)という対応は基本的には問題は無いと考えますが、発注者は受注者に比べて優越的な地位にいることがおおいですから、「優越的地位の濫用」ということで訴えられるリスクはあるのでしょうか?

財務省の膨大なインボイスのQAには長らくその答えが書いてありませんでしたが、ついに今月、公正取引委員会からQAが発表されました。

免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではないとのことです。

双方納得・・・ 一体いくらならOKなのでしょうか?

著しく低い価格設定ならアウトということになります。著しく低いとはいくらでしょうね。

仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合であって、免税事業者が今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となり得ます。

極端な例で考えてみましょう

原価率0%の受注者Aと 原価率90%の受注者Bがいた場合。

A社には値下げを受け入れてもらうけど、さすがにB社には消費税分払わないのは行き過ぎだからNGということでしょうか。

まあ、この図は極端なので、現実はこの間にいる事業者がいて、利益率がとっても低い取引をしている場合に10%分払わないのは行き過ぎということになるでしょうか。

何れにせよ利益率が低いときには、両者で合意(双方納得)の契約をやってね、ということになりそうですね。

詳しくは以下のQA本文をご確認ください。

QA

以下はQAの中の Q7を貼り付けています。


Q7 仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことを検討していますが、独占禁止法などの上ではどのような行為が問題となりますか

A 事業者がどのような条件で取引するかについては、基本的に、取引当事者間の自主的な判断に委ねられるものですが、免税事業者等の小規模事業者は、売上先の事業者との間で取引条件について情報量や交渉力の面で格差があり、取引条件が一方的に不利になりやすい場合も想定されます。

 自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となるおそれがあります。

 仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことそれ自体が、直ちに問題となるものではありませんが、見直しに当たっては、「優越的地位の濫用」に該当する行為を行わないよう注意が必要です。

 以下では、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者と取引を行う事業者がその取引条件を見直す場合に、優越的地位の濫用として問題となるおそれがある行為であるかについて、行為類型ごとにその考え方を示します。

 また、以下に記載する行為類型のうち、下請法の規制の対象となるもの(注1)については、その考え方を明らかにします。下請法と独占禁止法のいずれも適用可能な行為については、通常、下請法が適用されます。なお、以下に記載する行為類型のうち、建設業を営む者が業として請け負う建設工事の請負契約については、下請法ではなく、建設業法が適用されますので、建設業法の規制の対象となる場合についても、その考え方を明らかにします。

(注1)事業者(買手)と免税事業者である仕入先との取引が、下請法にいう親事業者と下請事業者の取引に該当する場合であって、下請法第2条第1項から第4項までに規定する①製造委託、②修理委託、③情報成果物作成委託、④役務提供委託に該当する場合には、下請法の規制の対象となります。
(参考1)優越的地位の濫用規制に関する独占禁止法上の基本的な考え方は、「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(平成22年公正取引委員会)で示しているとおりです。
(参考2)下請法の運用に関する基本的な考え方は、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成15年公正取引委員会事務総長通達第18号)で示しているとおりです。
(参考3)建設工事の請負契約に係る元請負人と下請負人との関係については、「建設業法令遵守ガイドライン(第7版)」(令和3年7月 国土交通省不動産・建設経済局建設業課)で具体的に示しています。
(参考4)下請法及び建設業法並びに独占禁止法の優越的地位の濫用規制に関するご相談については、別紙の「下請法及び建設業法並びに優越的地位の濫用規制に係る相談窓口」までお問い合わせください。

1 取引対価の引下げ

 取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施後の免税事業者との取引において、仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、仕入税額控除が制限される分(注2)について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。

 しかし、再交渉が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合であって、免税事業者が今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となり得ます

 また、取引上優越した地位にある事業者(買手)からの要請に応じて仕入先が免税事業者から課税事業者となった場合であって、その際、仕入先が納税義務を負うこととなる消費税分を勘案した取引価格の交渉が形式的なものにすぎず、著しく低い取引価格を設定した場合についても同様です。

(注2)免税事業者からの課税仕入れについては、インボイス制度の実施後3年間は、仕入税額相当額の8割、その後の3年間は同5割の控除ができることとされています。

 なお、下請法の規制の対象となる場合で、事業者(買手)が免税事業者である仕入先に対して、仕入先の責めに帰すべき理由がないのに、発注時に定めた下請代金の額を減じた場合には、下請法第4条第1項第3号で禁止されている下請代金の減額として問題となります。この場合において、仕入先が免税事業者であることは、仕入先の責めに帰すべき理由には当たりません。

 また、下請法の規制の対象となる場合で、事業者(買手)が免税事業者である仕入先に対して、給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対して通常支払われる対価に比べて、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような下請代金など、著しく低い下請代金の額を不当に定めた場合には、下請法第4条第1項第5号で禁止されている買いたたきとして問題となります。

 下請法の規制の対象となる場合で、事業者(買手)からの要請に応じて仕入先が免税事業者から課税事業者となった場合であって、給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対して通常支払われる対価に比べて著しく低い下請代金の額を不当に定めた場合についても、同様です。

 なお、建設業法の規制の対象となる場合で、元請負人(建設工事の下請契約における注文者で建設業者であるもの。以下同じ。)が、自己の取引上の地位を不当に利用して免税事業者である下請負人(建設工事の下請契約における請負人。以下同じ。)と合意することなく、下請代金の額を一方的に減額して、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような代金による下請契約を締結した場合や、免税事業者である下請負人に対して、契約後に、取り決めた下請代金の額を一方的に減額した場合等により、下請代金の額がその工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額となる場合には、建設業法第19条の3の「不当に低い請負代金の禁止」の規定に違反する行為として問題となります。

2 商品・役務の成果物の受領拒否、返品

 取引上の地位が相手方に優越している事業者(買手)が、仕入先から商品を購入する契約をした後において、仕入先が免税事業者であることを理由に、商品の受領を拒否することは、当該仕入先が今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、優越的地位の濫用として問題となります。

 また、同様に、当該仕入先から受領した商品を返品することは、どのような場合に、どのような条件で返品するかについて、当該仕入先との間で明確になっておらず、当該仕入先にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合、その他正当な理由がないのに、当該仕入先から受領した商品を返品する場合であって、当該仕入先が今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、優越的地位の濫用として問題となります。

 なお、下請法の規制の対象となる場合で、事業者(買手)が免税事業者である仕入先に対して、仕入先の責めに帰すべき理由がないのに、給付の受領を拒む場合又は仕入先に給付に係る物を引き取らせる場合には、下請法第4条第1項第1号又は第4号で禁止されている受領拒否又は返品として問題となります。この場合において、仕入先が免税事業者であることは、仕入先の責めに帰すべき理由には当たりません。

3 協賛金等の負担の要請等

 取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者である仕入先に対し、取引価格の据置きを受け入れるが、その代わりに、取引の相手方に別途、協賛金、販売促進費等の名目での金銭の負担を要請することは、当該協賛金等の負担額及びその算出根拠等について、当該仕入先との間で明確になっておらず、当該仕入先にあらかじめ計算できない不利益を与えることとなる場合や、当該仕入先が得る直接の利益等を勘案して合理的であると認められる範囲を超えた負担となり、当該仕入先に不利益を与えることとなる場合には、優越的地位の濫用として問題となります。

 その他、取引価格の据置きを受け入れる代わりに、正当な理由がないのに、発注内容に含まれていない役務の提供その他経済上の利益の無償提供を要請することは、当該仕入先が今後の取引に与える影響を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、優越的地位の濫用として問題となります。

 なお、下請法の規制の対象となる場合で、事業者(買手)が免税事業者である仕入先に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることによって、仕入先の利益を不当に害する場合には、下請法第4条第2項第3号で禁止されている不当な経済上の利益の提供要請として問題となります。

4 購入・利用強制

 取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者である仕入先に対し、取引価格の据置きを受け入れるが、その代わりに、当該取引に係る商品・役務以外の商品・役務の購入を要請することは、当該仕入先が、それが事業遂行上必要としない商品・役務であり、又はその購入を希望していないときであったとしても、今後の取引に与える影響を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には、優越的地位の濫用として問題となります。

 なお、下請法の規制の対象となる場合で、事業者(買手)が免税事業者である仕入先に対して、給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させる場合には、下請法第4条第1項第6号で禁止されている購入・利用強制として問題となります。

 また、建設業法の規制の対象となる場合で、元請負人が、免税事業者である下請負人と下請契約を締結した後に、自己の取引上の地位を不当に利用して、当該下請負人に使用資材若しくは機械器具又はこれらの購入先を指定し、これらを当該下請負人に購入させて、その利益を害すると認められた場合には、建設業法第19条の4の「不当な使用資材等の購入強制の禁止」の規定に違反する行為として問題となります。

5 取引の停止

 事業者がどの事業者と取引するかは基本的に自由ですが、例えば、取引上の地位が相手方に優越している事業者(買手)が、インボイス制度の実施を契機として、免税事業者である仕入先に対して、一方的に、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格など著しく低い取引価格を設定し、不当に不利益を与えることとなる場合であって、これに応じない相手方との取引を停止した場合には、独占禁止法上問題となるおそれがあります。


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