令和8年版の情報通信白書はAIばかり!?

令和8年度の情報通信白書をまとめてみました。
第1部がまるごとAIになってしまいました。すごいですね。

7月に、令和8年版の情報通信白書が公表されました。総務省が毎年出しているICTの白書で、今回で54回目とのこと。
今年の特集タイトルは「AIの進展がもたらす多面的影響〜人間とAIが健全に協働するデジタル社会の実現に向けて〜」。要するにほぼAI一色です。
本編268ページ。全部読むのはしんどいので、中小企業診断士として気になったところだけ、図表を作り直しながらまとめておこうと思います。読み込んだメモ代わりですね。
個人の利用は1年で倍増!〜それでも4か国で最下位
まず個人の利用状況です。日本で「生成AIを使ったことがある」と答えた人は58.8%。前年度が26.7%、その前が9.1%なので、この1年で2倍以上に伸びたわけです。
ただし、米国とドイツは75.6%、中国は93.6%。伸びたとはいえ、まだ一番下ですね。しかも「ほぼ毎日使う」人の割合は日本が約3割で、他の3か国は4割超。使う人は増えたけど、使い込んでいる人はまだ少ない、という感じかと思います。
年齢別に見ると、これは想像通りというか、若い人ほど使っています。
15〜19歳は91.7%、20代でも78.2%。一方で50代は44.2%、60代は33.5%です。中小企業の経営者さんの年齢層を考えると、まあこの辺りの数字が現実やろなあ、と思いました。
で、面白いのが「使わない理由」です。
「必要ない」が42.4%なのは他国とそんなに変わらないのですが、「使い方がわからない」が38.8%で、これは4か国で日本が最も高いとのこと。逆に言えば、使い方さえ分かれば伸びしろが大きい、と読める数字です。白書でも「ぜひ利用してみたい」「条件によっては検討する」の割合は比較的高い、と書かれています。
もう一つ、若い人たちは相談相手としてAIを使い始めている、という話も載っていました。「日常の行動や判断にかかわる相談」で定期的にAIを使う割合が、10代・20代で20%を超えているそうです。
企業も一気に伸びた!〜ただし中小企業の半分弱は「組織的な取組なし」
次に企業です。こちらも数字は大きく動いています。
生成AIの活用方針を定めている(積極活用+領域限定)企業は68.9%で、前年の49.7%から約19ポイント上昇。何らかの業務で生成AIを使っている企業は86.4%とのこと。
中小企業に限ると58.1%。前年から見れば大きな伸びで、白書も「特に中小企業において大きな上昇が見られた」と書いています。
ただ、こっちの図を見ると、少し様子が変わります。
生成AIによる業務変革について「組織的な取組はない」と答えた割合が、日本全体で27.0%、中小企業では45.6%。米国・ドイツ・中国はいずれも5%未満なので、ちょっと桁が違う。
個人がこっそりChatGPTで文章を直しているけど、会社としては何も決めていない。そういう状態の中小企業が半分近くある、ということなんじゃないかと思います。まあ、正直なところ私のお客さんでも大半はそんな感じです(^^;
白書はもう一つ、中小企業で最も多かった施策が「経営幹部から各部署に実施事項や達成目標が提示されている」だった点を挙げて、中小企業ではトップダウンの関与がキーポイント、と整理しています。社長が言うか言わないか、で決まる。これは実感と合いますね。
何に使っているか?〜「議事録・メール」が7割、効果もそこだけ
業務の中身を見ると、日本で一番多いのは「議事録・メール作成補助」で約7割。次が営業・販売で約6割、社内ヘルプデスクが約5割。導入効果を実感している割合も、議事録・メールが72.3%で他を大きく引き離しています。
で、ここが今回の白書で一番「なるほど」と思ったところなのですが、生成AIの活用によってどんな影響があるか、という設問の答えが、日本と他の3か国で違うんですね。
日本は「作業時間の短縮などによる業務の効率化」が61.6%でダントツ。「製品・サービスの質の向上」は32.2%止まり。一方、米国・ドイツ・中国はいずれも「質の向上」が1位です。
白書の言い方を借りると、日本は生成AIを「業務効率化の文脈」で捉えていて、他国は「もう一歩踏み込んで、製品・サービスの質や生産性向上の文脈」で捉えている可能性がある、とのこと。
議事録を速く書けるようになった、は確かに効率化です。でもお客さんに出す商品やサービスは何も変わっていない。そこが次の課題なんだと思います。
ちなみに事例としては、中外製薬のAI創薬、ダイキン工業の「熟練工AIエージェント」(ウェアラブル端末の映像から点検の抜け漏れを自動チェック)、伊藤忠テクノソリューションズの要件定義AI(1か月かかっていたプロトタイピングが1時間)などが紹介されています。大企業の話ではありますが、「熟練者の経験をAIに移す」という方向は中小企業にもそのまま当てはまる話かと。
AIに頼ると頭が悪くなるのか?〜白書が研究を2つ並べている
第3章は課題の話で、ここは白書にしては珍しく、研究論文を引きながら書いています。
一つはドイツ・レーゲンスブルク大学の研究で、AIを使った学生グループのほうが、短時間で質の高いアイデアを出せた、というポジティブな結果。
もう一つはMIT Media Labの研究で、こちらは逆です。最初からLLMを使って小論文を書いた群は、脳の神経結合が比較的弱く、自分が書いた文章を正確に引用する力も低かったとのこと。「認知負債(Cognitive Debt)」という言葉が使われている論文ですね。
白書はどちらが正しいとは書いていなくて、東大の唐沢教授の「便利がよいというナラティブと、自律性を失うというナラティブ、どちらも主張できる。どんな社会を目指すかを議論すべき」という話と、国際大学の山口教授の「人間単体では能力が落ちるかもしれないが、人間とAIの協働でトータルの能力は上がるのでは」という話を並べています。
私は後者寄りなのですが、ただ、まず自分の頭で書いてからAIに手伝ってもらう、という順番は意識したほうがいいのかもしれない、と思いました。
リスク意識についても、フェイク映像・音声を本物と思ってしまうリスクを「感じる」人が日本で74.9%と最も高く、全項目で前年より上昇しているそうです。使う人が増えた分、怖さも分かってきた、ということかと。
制度面はAI法とAI基本計画〜2025年で一気に整った
制度の話も簡単に。2025年5月に「AI法」(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)が成立し、9月に全面施行。12月には「AI基本計画」が閣議決定されています。
キーワードは「信頼できるAI」で、方針は「AIを使う」「AIを創る」「AIの信頼性を高める」「AIと協働する」の4本柱。罰則で縛る法律ではなく、ガイドラインで促すソフトロー路線は変えていない、というのが特徴だと思います。
行政側では、デジタル庁が政府職員約18万人向けの生成AI環境「源内(げんない)」の大規模実証を2026年度に始めるとのこと。自治体でも、神戸市の税相談ボイスボットや山陽小野田市の答弁案作成など、事例が並んでいます。
第Ⅱ部から〜情報通信産業は71.7兆円、でも投資は伸びていない
第Ⅱ部はICT市場の定点観測です。数字だけ拾っておきます。
- 情報通信産業の名目GDPは71.7兆円(2024年、前年比6.1%増)。全産業の11.5%で、商業(68.6兆円)や不動産(73.0兆円)と並ぶ最大級の産業
- 世界のICT市場は4.77兆ドル(2024年)。2030年には7.38兆ドルの予測
- 民間企業の情報化投資は25.7兆円(前年比1.9%増)。そのうちソフトウェアが20.2兆円で約78%
- いわゆる「デジタル赤字」は2025年で約6.6兆円の支払超過
で、私が一番気になったのがこれです。
1995年を100とすると、2024年の情報化投資は日本が173、米国が2,050。30年で1.7倍と20倍。白書の表現は「米国は堅調に増加、日本は緩やかな増加及び横ばい」と控えめですが、グラフにするとえらい差やな。。と思います。
もちろん為替や物価の基準が違うので単純比較はできませんが、AI利用率の差の根っこは、たぶんここにあるんでしょうね。
で、私はどうするか
白書全体を通して、日本の中小企業に関して言えることは、たぶんこの3つに集約されます。
(1)使い始めた会社は増えた。でも「会社として決めていない」会社が半分弱ある。
(2)使い道が「議事録・メール」で止まっている。商品やサービスは変わっていない。
(3)「使い方がわからない」が最大のボトルネック。必要性は感じている。
(3)は、まさに支援機関や診断士の出番だと思うわけです。「必要ない」と思っている人に売り込むのは大変ですが、「使い方が分からない」人に使い方を教えるのは、こちらの仕事そのものですし。
この白書の図を何枚か持っていって、「御社は図5でいうとどこですか?」から入る使い方をしようかなと思っています。
あと、(2)については、自分自身も反省しています。私のAI活用も、資料作成に偏っている気がする(^^; 「お客さんに出すものの質が上がったか?」と自問すると、うーん。。となるので。
とりあえず、白書の第Ⅰ部だけでも一度通して読んでみるのはおすすめです。データ集もWebで公開されていて、図表の元データがそのまま落とせます。
そんなところで。
出典:総務省「令和8年版 情報通信白書」(2026年7月)
データ集(総務省)
本記事の図表は、白書の図表Ⅰ-1-1-4、Ⅰ-1-1-6、Ⅰ-1-1-7、Ⅰ-2-1-2、Ⅰ-2-1-3、Ⅰ-2-1-10、Ⅱ-1-1-7の数値をもとに筆者が作成。
そんなところで

