🔍 令和8年版 情報通信白書の全体像
令和8年版(2026年版)情報通信白書は、1973年の刊行開始から54回目の発行。第Ⅰ部では「AIの進展がもたらす多面的影響」を特集テーマとし、個人・企業におけるAI利用の実態を国際比較アンケートで分析。第Ⅱ部ではICT市場の現状と総務省の政策取組をまとめています。
白書の調査は日本・米国・ドイツ・中国の4カ国で実施。個人向け・企業向けの大規模アンケートに加え、先進企業への個別ヒアリングも実施されています。
第1章 個人におけるAI利用
1. 生成AIサービスの利用経験
日本における生成AIサービスの利用経験率は58.8%で、前年度(2024年度調査)から大きく上昇しました。特にテキスト生成AIの利用経験率は55.0%に達し、この1年で急速に普及が進んでいます。ただし、米国・ドイツ(各75.6%)や中国(93.6%)と比較すると、日本の利用経験率はまだ低い水準です。
2. 利用する理由・利用しない理由
生成AIを利用する理由として最も多かったのは「知りたいことについて情報収集できる」(53.9%)で、次いで「作業の効率が上がる」(42.8%)、「人に相談・依頼しにくいことを聞ける」(34.1%)の順でした。
一方、利用しない理由としては「使い方がわからない」「必要性を感じない」「情報の正確性に不安がある」などが上位でした。
3. 利用実態(年齢階層・利用頻度・利用目的)
年齢階層別では若年層ほど利用経験率が高く、利用頻度も高い傾向が見られます。利用目的(利用シーン)としては、情報検索、文章作成支援、翻訳・語学学習などが上位に挙げられています。
4. 個人のAIに対する感覚・リスク意識
AIに対する感覚では、便利さを感じる一方で、リスク意識も高く、「誤った情報が出力されるリスク(ハルシネーション)」「個人情報漏洩リスク」「AI依存リスク」などへの懸念が確認されました。仕事においてAIが今後担いうる役割については、「AIに任せられる作業はAIに任せる」という回答が最多でした。
第2章 企業等におけるAI利用の進展
1. 企業における生成AI活用方針
「積極的に活用する方針」または「活用する領域を限定して利用する方針」と回答した企業の割合は、日本全体で68.9%。企業規模別では大企業74.0%、中小企業58.1%でした。特に中小企業において前年度比で大きな上昇が見られ、AI活用が急速に広がっています。
2. 組織的な取組・業務利用の状況
生成AIの業務利用については、全社横断的な取組や各部門単位での取組が進む企業がある一方、「方針を明確に定めていない」企業も依然として存在します。AI活用により懸念されるリスクとしては、情報漏洩、出力精度、著作権侵害などが挙げられ、リスク対策の整備が課題となっています。
3. 業務領域別のAI活用
| 業務領域 | 活用内容の例 |
|---|---|
| 研究・商品開発 | AIによる新素材探索、設計パターン生成 |
| 調達 | 発注書自動生成、サプライヤー評価 |
| 製造・生産 | 品質検査の自動化、予知保全 |
| マーケティング | 顧客行動予測、広告コピー生成 |
| 顧客接点 | チャットボット、自動応答システム |
| 経営・コーポレート | 契約書レビュー、議事録自動作成 |
🏢 企業のAI活用先進事例
創薬プロセスにAIを本格導入。分子設計や標的探索にAIを活用し、研究開発の効率化と新薬候補の発見を加速。AI導入を前提とした組織体制の構築にも注力しています。
介護・ヘルスケア分野でAI活用を推進。業務記録の自動化やケアプラン作成支援にAIを導入し、現場スタッフの負担軽減と質の向上を両立しています。
効果的なAI導入・活用のために重要な要素
🔬 注目技術:SLMとフィジカルAI
小規模言語モデル(SLM)
SLM(Small Language Model)はパラメータ数が概ね百億程度までのモデル。LLMと比較して軽量で、特定分野での高精度・低コスト運用が可能です。カスタマイズが容易で、計算資源や電力消費を抑えられるメリットがあります。
実務ではRAG(検索拡張生成)による外部知識活用や、LLMとSLMの組み合わせが有効なアプローチとされています。
フィジカルAI
フィジカルAIは、物理世界で動作するロボットや自動運転など、AIが身体性を持って実世界で活動する技術です。我が国が伝統的に強みを持つ製造業・ロボット分野との融合により、国際競争力の創出が期待されています。社会実装に向けては、安全性確保やセンサー技術との連携が課題となっています。
公共機関におけるAI活用
政府機関では業務効率化を目的としたAI導入が進展。地方自治体でも議事録作成や住民問い合わせ対応にAIを活用する事例が増加しています。
第3章 AIの進展に伴う課題と対応
1. 人間の記憶や思考能力とAI
AIの利用が人間の認知能力に与える影響について、ポジティブ・ネガティブ両面の研究が紹介されています。AI活用により情報収集や分析が効率化される一方、AIに過度に依存することで、自ら考える力や記憶力が低下するリスクも指摘されています。
2. 人間の情報行動・情報空間とAI
AIが生成・推薦する情報に囲まれる中で、「フィルターバブル」や「エコーチェンバー」の問題がより深刻化する懸念があります。アンケート調査からも、AIが提示する情報を無批判に受け入れる傾向が確認されました。
3. 日本におけるAIガバナンス
国際的にも「広島AIプロセス」を主導し、フレンズグループ66の国・地域から賛同を獲得。NICTでは高品質な日本語AI学習データの提供を推進しています。
4. 人間とAIの健全な協働に向けて
白書は、AIを「道具」として賢く使いこなしつつ、人間ならではの創造性・判断力を活かす「協働」の姿を展望しています。AIリテラシーの向上、適切なリスク管理、そして「信頼できるAI」の実現が、今後のデジタル社会の鍵となります。
💼 中小企業経営者へのポイント
今すぐ取り組めること
| ステップ | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| ①まず使ってみる | テキスト生成AIで議事録作成・メール下書き | 即日効果を実感 |
| ②業務を棚卸し | AI化しやすい定型業務を特定 | 導入の優先順位が明確に |
| ③ルールを決める | 利用ガイドラインの策定(機密情報の扱い等) | リスクを抑えて安心運用 |
| ④段階的に拡大 | 成功事例を社内共有→他部門へ展開 | 組織全体のDX推進 |
SLM(小規模言語モデル)の発展により、クラウドに依存しない「オンプレミスAI」の導入も現実的になりつつあります。機密性の高いデータを扱う中小企業にとって、自社環境で動くAIは有力な選択肢です。