📘 令和8年版 情報通信白書

第Ⅰ部:AIの進展がもたらす多面的影響
~人間とAIが健全に協働するデジタル社会の実現に向けて~
デジタル中小企業診断士 村上知也

🔍 令和8年版 情報通信白書の全体像

令和8年版(2026年版)情報通信白書は、1973年の刊行開始から54回目の発行。第Ⅰ部では「AIの進展がもたらす多面的影響」を特集テーマとし、個人・企業におけるAI利用の実態を国際比較アンケートで分析。第Ⅱ部ではICT市場の現状と総務省の政策取組をまとめています。

📌 特集テーマの背景:2025年5月に「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(AI推進法)が制定・同年9月施行。「信頼できるAI」の追求を国策として明確化。

白書の調査は日本・米国・ドイツ・中国の4カ国で実施。個人向け・企業向けの大規模アンケートに加え、先進企業への個別ヒアリングも実施されています。

第1章 個人におけるAI利用

1. 生成AIサービスの利用経験

日本の利用経験率
58.8%
何らかの生成AIを利用
米国
75.6%
日本より約17pt高い
ドイツ
75.6%
米国と同水準
中国
93.6%
4カ国中最高

日本における生成AIサービスの利用経験率は58.8%で、前年度(2024年度調査)から大きく上昇しました。特にテキスト生成AIの利用経験率は55.0%に達し、この1年で急速に普及が進んでいます。ただし、米国・ドイツ(各75.6%)や中国(93.6%)と比較すると、日本の利用経験率はまだ低い水準です。

2. 利用する理由・利用しない理由

生成AIを利用する理由として最も多かったのは「知りたいことについて情報収集できる」(53.9%)で、次いで「作業の効率が上がる」(42.8%)、「人に相談・依頼しにくいことを聞ける」(34.1%)の順でした。

一方、利用しない理由としては「使い方がわからない」「必要性を感じない」「情報の正確性に不安がある」などが上位でした。

3. 利用実態(年齢階層・利用頻度・利用目的)

年齢階層別では若年層ほど利用経験率が高く、利用頻度も高い傾向が見られます。利用目的(利用シーン)としては、情報検索、文章作成支援、翻訳・語学学習などが上位に挙げられています。

4. 個人のAIに対する感覚・リスク意識

AIに対する感覚では、便利さを感じる一方で、リスク意識も高く、「誤った情報が出力されるリスク(ハルシネーション)」「個人情報漏洩リスク」「AI依存リスク」などへの懸念が確認されました。仕事においてAIが今後担いうる役割については、「AIに任せられる作業はAIに任せる」という回答が最多でした。

第2章 企業等におけるAI利用の進展

1. 企業における生成AI活用方針

日本企業 活用方針あり
68.9%
積極活用+限定活用の合計
大企業
74.0%
前年度比上昇
中小企業
58.1%
前年度比で大幅上昇

「積極的に活用する方針」または「活用する領域を限定して利用する方針」と回答した企業の割合は、日本全体で68.9%。企業規模別では大企業74.0%、中小企業58.1%でした。特に中小企業において前年度比で大きな上昇が見られ、AI活用が急速に広がっています。

2. 組織的な取組・業務利用の状況

生成AIの業務利用については、全社横断的な取組や各部門単位での取組が進む企業がある一方、「方針を明確に定めていない」企業も依然として存在します。AI活用により懸念されるリスクとしては、情報漏洩、出力精度、著作権侵害などが挙げられ、リスク対策の整備が課題となっています。

3. 業務領域別のAI活用

業務領域活用内容の例
研究・商品開発AIによる新素材探索、設計パターン生成
調達発注書自動生成、サプライヤー評価
製造・生産品質検査の自動化、予知保全
マーケティング顧客行動予測、広告コピー生成
顧客接点チャットボット、自動応答システム
経営・コーポレート契約書レビュー、議事録自動作成

🏢 企業のAI活用先進事例

🧪 中外製薬

創薬プロセスにAIを本格導入。分子設計や標的探索にAIを活用し、研究開発の効率化と新薬候補の発見を加速。AI導入を前提とした組織体制の構築にも注力しています。

🏥 アイニコグループ

介護・ヘルスケア分野でAI活用を推進。業務記録の自動化やケアプラン作成支援にAIを導入し、現場スタッフの負担軽減と質の向上を両立しています。

効果的なAI導入・活用のために重要な要素

📌 白書は、AI導入・活用を効果的に進めるための4つのポイントを整理:①経営層のリーダーシップ ②組織的な推進体制 ③段階的な導入ステップ ④人材育成とリスク管理の両立

🔬 注目技術:SLMとフィジカルAI

小規模言語モデル(SLM)

SLM(Small Language Model)はパラメータ数が概ね百億程度までのモデル。LLMと比較して軽量で、特定分野での高精度・低コスト運用が可能です。カスタマイズが容易で、計算資源や電力消費を抑えられるメリットがあります。

📌 国立情報学研究所の専門家は「PCではSLMが動くことが必須となる可能性」を指摘。SLMが動くデバイスとそうでないデバイスで二極化が進むと予想しています。

実務ではRAG(検索拡張生成)による外部知識活用や、LLMとSLMの組み合わせが有効なアプローチとされています。

フィジカルAI

フィジカルAIは、物理世界で動作するロボットや自動運転など、AIが身体性を持って実世界で活動する技術です。我が国が伝統的に強みを持つ製造業・ロボット分野との融合により、国際競争力の創出が期待されています。社会実装に向けては、安全性確保やセンサー技術との連携が課題となっています。

公共機関におけるAI活用

政府機関では業務効率化を目的としたAI導入が進展。地方自治体でも議事録作成や住民問い合わせ対応にAIを活用する事例が増加しています。

第3章 AIの進展に伴う課題と対応

1. 人間の記憶や思考能力とAI

AIの利用が人間の認知能力に与える影響について、ポジティブ・ネガティブ両面の研究が紹介されています。AI活用により情報収集や分析が効率化される一方、AIに過度に依存することで、自ら考える力や記憶力が低下するリスクも指摘されています。

2. 人間の情報行動・情報空間とAI

AIが生成・推薦する情報に囲まれる中で、「フィルターバブル」や「エコーチェンバー」の問題がより深刻化する懸念があります。アンケート調査からも、AIが提示する情報を無批判に受け入れる傾向が確認されました。

3. 日本におけるAIガバナンス

📌 AI推進法(2025年5月制定・9月施行)により、人間中心の原則の下、イノベーション推進とリスク管理の両立を法的に明確化。「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」では便益とリスクの体系的分類を提示。

国際的にも「広島AIプロセス」を主導し、フレンズグループ66の国・地域から賛同を獲得。NICTでは高品質な日本語AI学習データの提供を推進しています。

4. 人間とAIの健全な協働に向けて

白書は、AIを「道具」として賢く使いこなしつつ、人間ならではの創造性・判断力を活かす「協働」の姿を展望しています。AIリテラシーの向上、適切なリスク管理、そして「信頼できるAI」の実現が、今後のデジタル社会の鍵となります。

💼 中小企業経営者へのポイント

📌 中小企業のAI活用方針策定率は58.1%まで上昇。大企業との差は縮小傾向にあり、「まだ早い」ではなく「今が導入のタイミング」に移行しています。

今すぐ取り組めること

ステップ内容効果
①まず使ってみるテキスト生成AIで議事録作成・メール下書き即日効果を実感
②業務を棚卸しAI化しやすい定型業務を特定導入の優先順位が明確に
③ルールを決める利用ガイドラインの策定(機密情報の扱い等)リスクを抑えて安心運用
④段階的に拡大成功事例を社内共有→他部門へ展開組織全体のDX推進

SLM(小規模言語モデル)の発展により、クラウドに依存しない「オンプレミスAI」の導入も現実的になりつつあります。機密性の高いデータを扱う中小企業にとって、自社環境で動くAIは有力な選択肢です。

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