個人事業主の2025年の動向データ〜利益率はどの業種が高い?

2025年の個人企業経済調査
2025年の個人企業経済調査が3月に総務省から発表されているのでまとめてみました。

私たちの日常を支える商店街の小さなお店、近所の腕の良い工務店、そして地域に根ざした専門サービス。日本の経済を足元で支えているのは、間違いなくこうした「個」の力です。しかし、その舞台裏では、これまでとは次元の異なる劇的な構造変化が進行しています。
総務省が公表した最新データ「2025年(令和7年)個人企業経済調査」の結果を詳細に読み解くと、そこには単なる高齢化や不況という言葉では片付けられない、日本社会の「静かなる転換点」が克明に刻まれていました。ビジネス・トレンド・アナリストの視点から、統計の数字が語る「個人事業主の現在地」と、その先にある未来の分岐点を浮き彫りにしていきます。

【年齢の衝撃】店主の「2人に1人」が70歳以上という現実
まず突きつけられるのは、事業主の年齢構成における圧倒的なボリュームゾーンの偏りです。調査結果によれば、個人事業主のうち70〜79歳が31.8%、80歳以上が14.2%に達しています。
つまり、日本の個人企業の46.0%、およそ2人に1人が70歳以上の店主によって切り盛りされていることになります。これは単なる「ベテランの活躍」を意味するものではありません。地域経済に不可欠なインフラとも言える技術やサービスが、引退を目前に控えた世代の「個の献身」によって辛うじて支えられているという、危うい均衡を示唆しています。
地域による高齢化の顕著な偏り 70歳以上の事業主割合を都道府県別にみると、地域経済の担い手不足がより鮮明に浮かび上がります。
- 岩手県:57.1%
- 石川県:55.5%(※令和6年能登半島地震の影響により、一部地域を除いた統計である点に留意が必要です)
- 鳥取県:53.2% これらの地域では、6割近い企業が70代以上の事業主によって支えられており、世代交代の遅れが地域機能の維持に直結するリスクを孕んでいます。

【利益の格差】ビジネスモデルが突きつける「稼ぐ力」の残酷な差
個人経営の収益構造を分析すると、業種によって「売上の大きさ」と「手元に残る利益」の間に、残酷なまでのコントラストが存在することがわかります。
1企業当たりの年間売上高でトップなのは「卸売業,小売業」の2824.9万円です。一方、売上高から仕入高や営業費を差し引いた「営業利益」の割合(営業利益率)に目を向けると、景色は一変します。小売業の利益率が6.7%と全産業で最低水準であるのに対し、「その他のサービス業」は30.6%と圧倒的な数値を叩き出しています。
これは、在庫を抱え、仕入コストに縛られる「仕入型ビジネス」と、主たる原価が事業主の知見や技術である「無形資産型ビジネス」の構造的格差を象徴しています。同じサービス業の中でも、学術研究,専門・技術サービス業(売上高2030.7万円)のように知識を価値に変える層がある一方で、教育・学習支援業のように利益確保に苦心する層もあり、個人の「専門性」がダイレクトに生存能力を左右する時代となっています。
強調データ:平均営業利益218万円というジレンマ 調査全体での1企業当たりの年間営業利益は、平均218万円(前年比2.4%増)。ここから生活費や社会保険料を捻出しなければならない現状は、地域インフラとしての貢献度と、ビジネスとしての持続可能性との間にある深い溝を物語っています。
【後継者不在の壁】80%を超える「次がいない」という静かな廃業の波
今回の調査で最も警鐘を鳴らすべき指標は、後継者問題の深刻化です。後継者が「いない」と回答した企業の割合は、全体の82.3%に達し、前年からさらに上昇しました。
特筆すべきは、70歳以上の事業主に限っても、その74.1%が後継者不在であるという事実です。これは、今後数年以内に、長年培われてきた熟練の技や、地域住民の憩いの場となっていた店舗の4分の3が「確実に消失する」という、数年後に控えた巨大な廃業の波を予見させるものです。
強調データ:後継者不足が限界点に達している業界
- 生活関連サービス業・娯楽業:88.8%
- 宿泊業,飲食サービス業:86.4% 私たちのライフスタイルに直結するサービスほど、次世代への継承が困難な状況に陥っており、地域の多様性が失われつつあります。

【悩みの変化】「客数」から「価格転嫁力」という生存能力へのシフト
経営者が抱える苦悩の質も、劇的に変化しています。かつて最大の懸案だった「需要の停滞(客が来ない)」という悩みは全産業で減少傾向にあり、代わって「原材料・仕入価格の上昇」という外部要因による圧迫が急増しています。
特に「宿泊業,飲食サービス業」の状況は深刻です。2021年から2025年にかけて、「需要の停滞」を悩む企業が23.8ポイント減少した一方で、「原材料価格・仕入価格の上昇」を挙げる企業は33.6ポイントも跳ね上がりました。
デフレ脱却局面において、コスト増を適切に販売価格へ転嫁できるかという「価格転嫁力」こそが、今や個人事業主にとっての最大の「生存能力」となっているのです。
強調データ:コスト高騰に晒される現場の悲鳴
- 宿泊業・飲食サービス業における「原材料・仕入価格の上昇」を悩みとする割合:44.1% 全産業計(17.9%)を遥かに凌駕するこの数字は、個人の努力だけでは抗いがたい構造的な苦境を浮き彫りにしています。
【デジタルと展望】若手事業主が示す「デジタル・トランスフォーメーション」の兆し
厳しい現状が支配する中で、唯一とも言えるポジティブな光は、50歳未満の若い世代の動向です。ここには、旧来型の商売から脱却しようとする「新世代の個人事業」というドラマが隠されています。
PCの使用状況を見ると、全体平均が49.1%に留まる中、50歳未満では70.0%に達しています。デジタルツールを単なる道具ではなく、効率化や顧客開拓の武器として使いこなす「デジタルを前提とした経営」が、若手層では当たり前になっています。
また、今後の事業展開への意欲についても、全体では「積極的」とする企業は9.3%に過ぎませんが、50歳未満の層では25.5%が「積極的」と回答しています。消えゆく旧来型のモデルと、デジタルを武器に「攻め」の姿勢を見せる新世代。個人経営の世界でも、明確な新旧交代が始まっています。
強調データ:事業意欲の世代間コントラスト
- 今後の展開に「積極的」:50歳未満 25.5% vs 全体平均 9.3%
- 今後の展開に「消極的」:80歳以上 32.4% 規模の拡大や多角化を志向する若い世代の台頭は、これからの個人経営の形を再定義していく重要な兆しと言えるでしょう。
私たちが「地域の価値」を守るための投資
今回の調査結果は、日本の個人企業が「構造的な転換期」の真っ只中にあることを示しています。店主の高齢化、後継者不足、そしてコスト高騰という三重苦に対し、デジタルを駆使して立ち向かおうとする若手の奮闘。この新旧のコントラストこそが、今の日本の街角のリアルです。
私たちは消費者として、このデータをどう受け止めるべきでしょうか。単に「安さ」だけを追求する姿勢は、結果として地域の多様性と技術を削り取ることにつながります。サービスの価値を正当に評価し、適切な対価を支払うことは、単なる消費ではなく「地域の未来への投資」に他なりません。
10年後、あなたの街の「あのお店」は残っているでしょうか?
統計の数字の向こう側にある、店主たちの挑戦とジレンマ。それらを「自分事」として捉えることが、この静かな危機を乗り越え、活気ある地域社会を次世代へつなぐ第一歩になるはずです。
データ・サマリー
2024年の個人企業の経営状況は、1企業当たりの年間売上高(1398万9000円、前年比1.6%増)および営業利益(218万円、同2.4%増)ともに前年を上回り、緩やかな改善傾向にある。しかし、その背景には深刻な構造的課題が浮き彫りとなっている。
- 経営の高齢化: 事業主の46.0%が70歳以上であり、特に「卸売業,小売業」や「製造業」では半数を超えている。
- 後継者不在の深刻化: 全体の82.3%が後継者不在であり、事業主が70歳以上の企業に限定しても74.1%に達している。
- 経営課題の変質: 「需要の停滞」は減少傾向にある一方、「原材料価格・仕入価格の上昇」が急速に台頭しており、特に宿泊・飲食業への影響が甚大である。
- デジタル格差: PC使用率は49.1%と改善傾向にあるが、年齢層による格差が顕著である。

営業状況の分析

産業別の売上・利益動向
2024年の1企業当たりの年間売上高および営業利益は、調査対象産業全体で増加した。
| 項目 | 2024年実績 (千円) | 前年比 (%) |
|---|---|---|
| 年間売上高 | 13,989 | 1.6 |
| 年間営業利益 | 2,180 | 2.4 |
- 売上高増加率: 「生活関連サービス業,娯楽業」(6.4%増)が最大。
- 営業利益増加率: 「宿泊業,飲食サービス業」(13.8%増)が顕著な伸びを記録。
- 営業利益率: 「その他のサービス業」が30.6%と最も高く、逆に売上高が最大の「卸売業,小売業」は6.7%と最低水準にある。

都道府県別の売上状況
1企業当たりの年間売上高を地域別に見ると、製造業や商業の盛んな地域が上位を占めている。
- 全国上位5県:
- 愛知県(1681万8000円)
- 三重県(1616万5000円)
- 福岡県(1614万6000円)
- 滋賀県(1613万3000円)
- 茨城県(1607万7000円)

構造的特質と存続の危機
事業主の高齢化
事業主の年齢層は極めて高く、事業の継続性に懸念が生じている。
- 高齢層の割合: 70歳以上の事業主が全体の46.0%を占める(70~79歳:31.8%、80歳以上:14.2%)。
- 産業別の高齢化率: 70歳以上の割合は「卸売業,小売業」(50.8%)と「製造業」(50.2%)で特に高い。
- 地域別の高齢化率: 岩手県(57.1%)、石川県(55.5%)、鳥取県(53.2%)が上位となっている。
後継者不在の現状
後継者問題は改善の兆しが見えず、前年よりも悪化している。
- 不在率: 全体の82.3%(前年比0.4ポイント上昇)。
- 産業別状況: 「生活関連サービス業,娯楽業」では88.8%に達する。
- 高齢経営者の状況: 70歳以上の事業主であっても74.1%が後継者不在であり、事業承継の困難さが露呈している。
デジタル化と設備活用
パーソナルコンピュータの使用状況
PCの使用率は49.1%と前年(47.1%)から微増したが、属性による差が大きい。
- 産業別: 「その他のサービス業」が64.3%と最も高い。
- 年齢別格差:
- 50歳未満:70.0%
- 80歳以上:26.1% 年齢層が上がるにつれて使用率は顕著に低下している。
事業経営上の問題点と今後の展望
主な経営課題
経営を圧迫する要因が、従来の「需要不足」から「コスト増」へとシフトしている。
- 需要の停滞(売上の停滞・減少): 25.6%(減少傾向にあるが依然最多)
- 原材料価格・仕入価格の上昇: 17.9%(急増中)
- 建物・設備の狭小・老朽化: 8.8%
産業別の特筆すべき動向: 「宿泊業,飲食サービス業」において、「需要の停滞」を選択した企業は2021年から23.8ポイント低下した一方、「原材料・仕入価格の上昇」は33.6ポイント上昇しており、コストプッシュ型の経営課題が深刻化している。
今後の事業展開
事業主の意欲は、年齢と密接に相関している。
- 事業に対して積極的: 9.3%
- 50歳未満では25.5%に達するが、80歳以上では2.1%に留まる。
- 現状維持: 52.9%
- 事業に対して消極的(縮小・廃業など): 20.6%
- 80歳以上の年齢階級では32.4%が消極的となっている。

そんなところで

