事例Ⅳ|財務・会計

経営分析は、どの指標を選べばいいのか

このページのねらい

事例Ⅳの第1問は13年連続で経営分析。配点は20〜30点で、しかも計算自体は難しくありません。にもかかわらず点差がつくのは、「どの指標を選ぶか」で迷い、時間を使ってしまうからです。

このページは、その場で見返せる指標の早見表です。計算式、分子と分母が何を表しているか、与件文のどんな記述がその指標を選ぶサインになるかを一覧にしました。あわせて、平成25年度〜令和7年度の13年間で実際にどの指標が選ばれてきたかも掲載しています。

覚える順番は、採用回数の多い4指標(自己資本比率・有形固定資産回転率・売上高営業利益率・売上高総利益率)から。これだけで大半の年度に対応できます。

目次

  1. 指標を選ぶ3ステップ
  2. 収益性の指標
  3. 効率性の指標
  4. 安全性の指標
  5. 生産性の指標
  6. 与件キーワード逆引き表
  7. 13年間で選ばれた指標
  8. 答案作成の注意点

1. 指標を選ぶ3ステップ

STEP 1

3視点で計算する

収益性・効率性・安全性から1〜2個ずつ、合計5〜6個を機械的に計算します。考える前に、まず数字を並べるのが速い。

STEP 2

差が大きいものを拾う

同業他社比較なら比較先との差、2期比較なら前期との差。倍率で2割以上ひらいている指標が候補になります。

STEP 3

与件で裏づけできるか確認

差が大きくても、与件文に理由が書かれていない指標は選びません。記述(設問2)が書けるかが最終判定基準です。

3つ選ぶ指示なら、収益性・効率性・安全性から1つずつ選ぶのが基本形です。視点が重複すると記述の内容も重複し、加点されにくくなります。

2. 収益性の指標「もうける力」を見る

指標(13年の採用回数)計算式分子・分母の意味この指標を選ぶサイン注意点
売上高総利益率6回売上総利益 ÷ 売上高 × 100(%)分子は「売上−売上原価」。商品・製品そのものが生む付加価値の大きさ。高付加価値・ブランド・独自技術・高価格帯/逆に値引き要請、原材料高騰、OEMの低単価製造業では原価管理の巧拙、小売・サービス業では商品力・価格設定力を表す。
売上高営業利益率8回営業利益 ÷ 売上高 × 100(%)分子は本業のもうけ。総利益率との差が、販売費及び一般管理費の重さ。手厚い顧客対応、多店舗の人件費、広告宣伝費、研究開発費/販管費が重いと書かれている総利益率は高いのに営業利益率が低い=販管費が重い、という因果で書くと説得力が出る。
売上高経常利益率2回経常利益 ÷ 売上高 × 100(%)営業利益に受取利息・支払利息などの財務活動を加減したもうけ。借入金が多く支払利息が重い/逆に受取配当金や不動産収入がある借入の影響を見たいときに選ぶ。営業利益率と同時に選ぶと視点が重複しやすい。

3つとも売上高を分母にしているので、どの段階の利益を見るかだけが違いです。総利益率=商品力、営業利益率=本業全体(販管費込み)、経常利益率=財務活動込み、と整理しておきます。

3. 効率性の指標「資産を使いこなす力」を見る

指標(13年の採用回数)計算式分子・分母の意味この指標を選ぶサイン注意点
総資本回転率1回売上高 ÷ 総資本(総資産)(回)投下した資産全体が、1年で何回売上に変わったか。資産全体が過大か、少ない資産で効率よく稼いでいるかどの資産が原因かは示せないため、原因が特定できるなら個別の回転率を選ぶほうが記述しやすい。
有形固定資産回転率8回売上高 ÷ 有形固定資産(回)建物・機械・土地などの設備が、どれだけ売上を生んでいるか。自社工場・多店舗・本社社屋の取得・遊休資産・設備投資直後/逆にファブレスや賃借中心13年でもっとも多く選ばれている効率性指標。遊休資産や新規出店の記述があれば第一候補。
棚卸資産回転率1回売上高 ÷ 棚卸資産(回)在庫が1年で何回入れ替わったか。多品種・受注生産・売れ残り・長期保管・仕掛品の滞留売上原価÷棚卸資産で計算する流儀もあるが、2次試験では売上高基準が一般的。
売上債権回転率1回売上高 ÷ 売上債権(受取手形+売掛金)(回)代金の回収の早さ。回転率が低い=回収が遅い。大手取引先の支払サイトが長い・回収条件が不利・掛売中心回収期間(日数)で問われることもある。365 ÷ 回転率 で換算。

回転率はすべて「売上高 ÷ 何か」で、単位は。数値が大きいほど効率がよい、という向きも共通です。どの資産が原因かを与件文から特定できるなら、総資本回転率よりも個別の回転率を選ぶほうが記述が具体的になります。

4. 安全性の指標「つぶれにくさ」を見る

指標(13年の採用回数)計算式分子・分母の意味この指標を選ぶサイン注意点
自己資本比率9回純資産 ÷ 総資本 × 100(%)資産のうち、返済不要な自前の資金でまかなっている割合。借入依存・設備投資を借入で実施/逆に内部留保が厚い、無借金に近い13年でもっとも多く選ばれている安全性指標。迷ったらまずここを計算する。
流動比率2回流動資産 ÷ 流動負債 × 100(%)1年以内に現金化する資産で、1年以内に返す負債をまかなえるか。短期借入金の増加・手元資金の減少・運転資金の逼迫一般に200%が目安。棚卸資産を除いた当座比率(目安100%)を選んでもよい。
当座比率当座資産(現金預金+売上債権+有価証券) ÷ 流動負債 × 100(%)在庫を当てにせず、すぐ現金化できる資産だけで短期の負債を返せるか。在庫が膨らんでいて、流動比率だけでは安全に見えてしまう場合流動比率と当座比率の差が大きい=在庫が重い、という読み取りができる。
固定比率1回固定資産 ÷ 自己資本 × 100(%)長く使う資産を、返済不要の自己資本でまかなえているか。自己資本を超える規模の設備投資・不動産取得100%以下が理想。中小企業では超えることが多いので、固定長期適合率とセットで見る。
固定長期適合率固定資産 ÷(自己資本+固定負債)× 100(%)長期資金(自己資本+固定負債)で固定資産をまかなえているか。長期資産を短期借入でまかなっている/設備投資の資金調達が問われている100%を超えると、短期資金で固定資産を持っている危険な状態を意味する。
負債比率負債 ÷ 自己資本 × 100(%)自己資本に対する他人資本の大きさ。借入依存を強調したいとき自己資本比率と表裏の関係なので、両方を同時に選ばない。
インタレスト・カバレッジ・レシオ(営業利益+受取利息配当金)÷ 支払利息(倍)本業のもうけで、利息を何倍まかなえるか。借入が重く、支払利息の負担が論点になっている出題頻度は低いが、支払利息が目立つ財務諸表では有効。

安全性は短期(流動比率・当座比率)長期(固定比率・固定長期適合率)資本構成(自己資本比率・負債比率)の3層に分かれます。同じ層から2つ選ばないよう注意してください。

5. 生産性の指標出題は少ないが、与件に従業員数があれば要注意

指標(13年の採用回数)計算式分子・分母の意味この指標を選ぶサイン注意点
労働生産性1回付加価値 ÷ 従業員数(円/人)従業員1人あたりが生み出した付加価値。従業員数が与件・財務諸表に明記され、人手をかけた事業構造が論点のとき令和4年度で出題。付加価値の定義(控除法・加算法)が問題文で指定されることが多い。
付加価値率付加価値 ÷ 売上高 × 100(%)売上のうち、自社が新たに生み出した価値の割合。外注比率・内製化の度合いが論点のとき労働生産性=付加価値率 × 従業員1人当たり売上高 と分解できる。

令和4年度では、労働生産性が「明らかに劣る指標」として問われました。財務諸表と一緒に従業員数が示されていたら、生産性指標が出題意図である可能性を疑ってください。

6. 与件キーワード逆引き表この記述を見たら、この指標

与件文のこんな記述疑う指標使い方
高付加価値・ブランド・独自技術・高価格帯売上高総利益率優れている指標として
大手からの値引き要請・原材料高騰・OEMの低単価売上高総利益率課題・劣る指標として
手厚い接客・多店舗の人件費・広告宣伝・研究開発売上高営業利益率課題・劣る指標として
借入金が多く支払利息が重い売上高経常利益率/自己資本比率課題・劣る指標として
自社工場・新規出店・本社社屋の取得・遊休設備有形固定資産回転率課題・劣る指標として
ファブレス・店舗を賃借・設備を持たない有形固定資産回転率優れている指標として
多品種・受注生産・売れ残り・在庫の増加棚卸資産回転率課題・劣る指標として
大手取引先の支払サイトが長い・掛売中心売上債権回転率課題・劣る指標として
借入で設備投資・内部留保が薄い自己資本比率課題・劣る指標として
無借金に近い・利益剰余金が厚い自己資本比率優れている指標として
短期借入金の増加・手元資金の減少流動比率/当座比率課題・劣る指標として
自己資本を超える設備投資・長期資産を短期資金で調達固定比率/固定長期適合率課題・劣る指標として
職人・技能者を多く抱える・労働集約的労働生産性課題・劣る指標として

与件文を読む段階で、これらの記述に印をつけておくと、計算した数値と突き合わせるだけで指標が決まります。数値で選んでから与件を探すのではなく、与件の見当をつけてから数値で確認するほうが速い。

7. 13年間で選ばれた指標当サイトの解答例で採用した指標

年度優れている・改善した指標課題・劣っている指標
平成25—(出資前後の比較)流動比率 285.00→250.00%/自己資本比率 54.97→53.30%/固定比率 73.33→92.38%
平成26売上高総利益率 72.00%有形固定資産回転率 1.11回/自己資本比率 16.67%
平成27売上高営業利益率 2.79%自己資本比率 22.12%/売上債権回転率 4.89回
平成28売上高経常利益率 10.11%有形固定資産回転率 1.77回/流動比率 55.70%
平成29有形固定資産回転率 1.93回売上高総利益率 12.70%/自己資本比率 19.88%
平成30売上高総利益率 24.15%売上高営業利益率 1.20%/有形固定資産回転率 17.08回
令和1有形固定資産回転率 1.64回売上高営業利益率 0.98%/棚卸資産回転率 3.13回
令和2売上高総利益率 26.39%売上高営業利益率 2.15%/自己資本比率 15.82%
令和3売上高総利益率 27.78%/総資本回転率 2.42回売上高営業利益率 0.32%/自己資本比率 19.85%
令和4売上高総利益率 59.59%/売上高経常利益率 15.96%労働生産性 978.66万円
令和5自己資本比率 77.56%売上高営業利益率 11.59%/有形固定資産回転率 71.90回
令和6有形固定資産回転率 11.26回売上高営業利益率 1.01%/自己資本比率 14.15%
令和7自己資本比率 82.13%売上高営業利益率 1.51%/有形固定資産回転率 1.85回

のべ40個の指標を数えると、次の順になります。

自己資本比率9回
有形固定資産回転率8回
売上高営業利益率8回
売上高総利益率6回
流動比率2回
売上高経常利益率2回
固定比率1回
売上債権回転率1回
棚卸資産回転率1回
総資本回転率1回
労働生産性1回

この集計から言えること

この一覧の位置づけ 経営分析は「正解の指標」が1つに決まるとは限らず、複数の指標が正解になり得ます。上の表は当サイトの解答例で採用した指標であり、試験実施機関が公表した正解ではありません。傾向をつかむ材料として使ってください。

8. 答案作成の注意点

① 単位と端数処理を、設問文どおりに。「小数点第3位を四捨五入」=小数第2位まで表示。「単位をカッコ内に明記」という指示も定番です。計算が合っていても、ここで失点します。

② 分母を取り違えない。自己資本比率の分母は総資本(=総資産)、固定比率の分母は自己資本。回転率の分子はすべて売上高です。

③ 記述(設問2)は、指標と与件を因果でつなぐ。型は次のとおりです。

【原因】与件の戦略・事業構造(例:職人の手による自社生産にこだわる)
【財務数値】その結果どの科目が大きい・小さいか(例:売上原価と有形固定資産が大きい)
【結論】だからこの指標が優れる/劣る(例:収益性と資産効率が同業他社より劣る)

字数は50〜80字が中心。一般論(「効率が悪い」だけ)で終わらせず、必ず与件文の記述に触れてください。

まとめ:試験までにやること

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