事例Ⅳ|財務・会計

平成30年度 第2次試験問題 事例Ⅳ

中小企業の診断及び助言に関する実務の事例Ⅳ / 試験時間 16:00〜17:20 / 配点100点

与件文

1D社は資本金5,000万円、従業員55名、売上高約15億円の倉庫・輸送および不動産関連のサービス業を営んでおり、ハウスメーカーおよび不動産流通会社、ならびに不動産管理会社およびマンスリーマンション運営会社のサポートを事業内容としている。同社は、顧客企業から受けた要望に応えるための現場における工夫をブラッシュアップし、全社的に共有して一つ一つ事業化を図ってきた。

2D社は、主に陸上貨物輸送業を営むE社の引越業務の地域拠点として1990年代半ばに設立されたが、新たなビジネスモデルで採算の改善を図るために、2年前に家具・インテリア商材・オフィス什器等の大型品を二人一組で配送し、開梱・組み立て・設置までを全国で行う配送ネットワークを構築した。

3同社は、ハウスメーカーが新築物件と併せて販売するそれらの大型品を一度一カ所に集め、このネットワークにより一括配送するインテリアのトータルサポート事業を開始し、サービスを全国から受注している。その後、E社の子会社F社を吸収合併することにより、インテリアコーディネート、カーテンやブラインドのメンテナンス、インテリア素材調達のサービス業務が事業に加わった。

4さらに、同社は、E社から事業を譲り受けることにより不動産管理会社等のサポート事業を承継し、マンスリーマンションのサポート、建物の定期巡回やレンタルコンテナ点検のサービスを提供している。定期巡回や点検サービスは、不動産巡回点検用の報告システムを活用することで同社の拠点がない地域でも受託可能であり、全国の建物を対象とすることができる。

5D社は受注した業務について、協力個人事業主等に業務委託を行うとともに、配送ネットワークに加盟した物流業者に梱包、発送等の業務や顧客への受け渡し、代金回収業務等を委託しており、協力個人事業主等の確保・育成および加盟物流業者との緊密な連携とサービス水準の把握・向上がビジネスを展開するうえで重要な要素になっている。

6また、D社は顧客企業からの要望に十分対応するために配送ネットワークの強化とともに、協力個人事業主等ならびに自社の支店・営業所の拡大が必要と考えている。同社の事業は労働集約的であることから、昨今の人手不足の状況下で、同社は事業計画に合わせて優秀な人材の採用および社員の教育にも注力する方針である。

7D社と同業他社の今年度の財務諸表は以下のとおりである。

財務諸表

貸借対照表 (単位:百万円)
科目D社同業他社科目D社同業他社
<資産の部><負債の部>
流動資産388552流動負債290507
現金及び預金116250仕入債務1039
売上債権237279短期借入金35234
たな卸資産101未払金43
前払費用616未払費用21187
その他の流動資産196未払消費税等1950
固定資産11564その他の流動負債1554
有形固定資産8843固定負債3435
 建物192負債合計324542
 リース資産41<純資産の部>
 土地66資本金5053
 その他の有形固定資産3資本剰余金1143
無形固定資産186利益剰余金1518
投資その他の資産915純資産合計17974
資産合計503616負債・純資産合計503616
損益計算書 (単位:百万円)
科目D社同業他社
売上高1,5031,815
売上原価1,1401,635
売上総利益363180
販売費及び一般管理費345121
営業利益1859
営業外収益21
営業外費用25
経常利益1855
特別損失1
税引前当期純利益1854
法人税等530
当期純利益1324

設問

第1問 配点 24点
(設問1) D社と同業他社の財務諸表を用いて経営分析を行い、同業他社と比較してD社が優れていると考えられる財務指標を1つ、D社の課題を示すと考えられる財務指標を2つ取り上げ、それぞれについて、名称を(a)欄に、その値を(b)欄に記入せよ。なお、優れていると考えられる指標を①の欄に、課題を示すと考えられる指標を②、③の欄に記入し、(b)欄の値については、小数点第3位を四捨五入し、単位をカッコ内に明記すること。
(設問2) D社の財政状態および経営成績について、同業他社と比較してD社が優れている点とD社の課題を50字以内で述べよ。
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解答例

設問1

① 優れている指標:売上高総利益率 (b) 24.15(%)

② 課題を示す指標:売上高営業利益率 (b) 1.20(%)

③ 課題を示す指標:有形固定資産回転率 (b) 17.08(回)

設問2高付加価値で売上総利益率は高いが、販管費が重く営業利益率が低く、有形固定資産の効率も低い。(45字)

解説(考え方・プロセス)

手順:収益性・効率性・安全性の3視点でD社/同業他社の指標を計算し、差が大きいものを選定。優れる1つ・課題2つを、視点が偏らないよう選ぶ。(b)欄は小数点第3位を四捨五入し、単位をカッコ内に明記する指示に注意。

① 収益性(D社が優れる):売上高総利益率

売上高総利益率 = 売上総利益 ÷ 売上高 ×100 D社 : 363 ÷ 1,503 ×100 = 24.15% 同業 : 180 ÷ 1,815 ×100 = 9.92% → D社が優れる

差別化されたサービス(開梱・組立・設置までの一括対応等)で粗利率が高いのがD社の強み。

② 収益性(D社が劣る):売上高営業利益率

売上高営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上高 ×100 D社 : 18 ÷ 1,503 ×100 = 1.20% 同業 : 59 ÷ 1,815 ×100 = 3.25% → D社が劣る

粗利は高いのに営業利益率は低い=販管費(345百万円)の負担が重い。労働集約的で人件費がかさむ点が読み取れる。

③ 効率性(D社が劣る):有形固定資産回転率

有形固定資産回転率 = 売上高 ÷ 有形固定資産 D社 : 1,503 ÷ 88 = 17.08回 同業 : 1,815 ÷ 43 = 42.21回 → D社が劣る

D社は土地66・建物19など有形固定資産(88)を自社で保有するため回転率が低い。総資本回転率(D 2.99<同業 2.95…ほぼ差なし)より、差が明確なこの指標を選ぶ。

(参考)安全性:自己資本比率 D 35.59%>同業 12.01% でD社が優れる。優れる指標として自己資本比率を選んでも可だが、本問は経営成績(収益性の特徴)を説明しやすい売上高総利益率を採用した。

設問2の組み立て(50字):優れる点+課題」を1文で。高付加価値で粗利は高い(優)が、販管費が重く営業利益率が低い・固定資産効率も低い(課題)、という対比でまとめる。設問1で選んだ指標と整合させる。

第2問 配点 31点

D社は今年度の初めにF社を吸収合併し、インテリアのトータルサポート事業のサービスを拡充した。今年度の実績から、この吸収合併の効果を評価することになった。以下の設問に答えよ。なお、利益に対する税率は30%である。

(設問1) 吸収合併によってD社が取得したF社の資産及び負債は次のとおりであった。
(単位:百万円)
流動資産99流動負債128
固定資産91固定負債10
合計190合計138
今年度の財務諸表をもとに①加重平均資本コスト(WACC)と、②吸収合併により増加した資産に対して要求されるキャッシュフロー(単位:百万円)を求め、その値を(a)欄に、計算過程を(b)欄に記入せよ。なお、株主資本に対する資本コストは8%、負債に対する資本コストは1%とする。また、(a)欄の値については小数点第3位を四捨五入すること。
(設問2) インテリアのトータルサポート事業のうち、吸収合併により拡充されたサービスの営業損益に関する現金収支と非資金費用は次のとおりであった。
(単位:百万円)
収益収入400
費用支出395
非資金費用1
企業価値の増減を示すために、吸収合併により増加したキャッシュフロー(単位:百万円)を求め、その値を(a)欄に、計算過程を(b)欄に記入せよ。(a)欄の値については小数点第3位を四捨五入すること。また、吸収合併によるインテリアのトータルサポート事業のサービス拡充が企業価値の向上につながったかについて、(設問1)で求めた値も用いて理由を示して(c)欄に70字以内で述べよ。なお、運転資本の増減は考慮しない。
(設問3) (設問2)で求めたキャッシュフローが将来にわたって一定率で成長するものとする。その場合、キャッシュフローの現在価値合計が吸収合併により増加した資産の金額に一致するのは、キャッシュフローが毎年度何パーセント成長するときか。キャッシュフローの成長率を(a)欄に、計算過程を(b)欄に記入せよ。なお、(a)欄の成長率については小数点第3位を四捨五入すること。
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解答例

設問1① WACC = 3.30(%) ② 要求キャッシュフロー = 6.27(百万円)

設問2増加キャッシュフロー = 3.80(百万円) / (c) 企業価値の向上につながっていない

設問3キャッシュフローの成長率 = 1.30(%)

解説(考え方・プロセス)

設問1①:加重平均資本コスト(WACC)

負債・自己資本の構成は今年度の貸借対照表から。負債合計324、純資産(自己資本)179、合計503。負債コストには節税効果(1−税率)を掛ける。

WACC = 自己資本比率×株主資本コスト + 負債比率×負債コスト×(1−税率) = (179/503)×8% + (324/503)×1%×(1−0.30) = 0.35586×8% + 0.64414×0.70% = 2.8469% + 0.4509% = 3.2978…% → 3.30%

設問1②:増加資産に要求されるキャッシュフロー

吸収合併で取得した資産合計190百万円に対し、WACC分のリターンが要求される。

要求CF = 増加資産 × WACC = 190 × 3.30% = 6.27 百万円

設問2:吸収合併により増加したキャッシュフロー

営業利益=収入−支出−非資金費用。税引後利益に非資金費用を足し戻すとCF。

営業利益 = 収入400 − 支出395 − 非資金費用1 = 4 税金 = 4 × 30% = 1.2 増加CF = 税引後利益 + 非資金費用 = (4 − 1.2) + 1 = 3.80 百万円

設問2(c):企業価値向上の判定(70字)

増加CF(3.80)と設問1の要求CF(6.27)を比較する。

増加CF 3.80百万円 < 要求CF 6.27百万円 → 要求水準を満たさず、企業価値は向上していない

解答例(c):「吸収合併で増加したCF3.8百万円は、要求されるCF6.27百万円を下回るため、企業価値の向上にはつながっていない。」(58字)

設問3:CFが一定率で成長する場合の成長率

成長型の永久還元(定率成長モデル)。現在価値合計=CF÷(WACC−g)。これが増加資産190に一致するgを解く。

CF ÷ (WACC − g) = 増加資産 3.80 ÷ (3.30% − g) = 190 3.30% − g = 3.80 ÷ 190 = 0.02 = 2.00% g = 3.30% − 2.00% = 1.30%

検算:3.80 ÷ (0.0330 − 0.0130) = 3.80 ÷ 0.02 = 190 ✓

ポイント:①WACCの負債コストは税引後、②CFは非資金費用を足し戻す、③設問1の要求CFと設問2の実際CFを比較して価値判定、④設問3は定率成長モデルを逆算——という一連の流れ。

第3問 配点 30点

D社は営業拠点として、地方別に計3カ所の支店または営業所を中核となる大都市に開設している。広域にビジネスを展開している多くの顧客企業による業務委託の要望に応えるために、D社はこれまで営業拠点がない地方に営業所を1カ所新たに開設する予定である。
今年度の売上原価と販売費及び一般管理費の内訳は次のとおりである。以下の設問に答えよ。

(単位:百万円)
変動費売上原価1,014
外注費782
その他232
販売費及び一般管理費33
1,047
固定費売上原価126
販売費及び一般管理費312
支店・営業所個別費99
 給料及び手当79
 賃借料16
 その他4
本社費・共通費213
438
(設問1) 来年度は外注費が7%上昇すると予測される。また、営業所の開設により売上高が550百万円、固定費が34百万円増加すると予測される。その他の事項に関しては、今年度と同様であるとする。
予測される以下の数値を求め、その値を(a)欄に、計算過程を(b)欄に記入せよ。
①変動費率(小数点第3位を四捨五入すること)
②営業利益(百万円未満を四捨五入すること)
(設問2) D社が新たに営業拠点を開設する際の固定資産への投資規模と費用構造の特徴について、60字以内で説明せよ。
(設問3) (設問2)の特徴を有する営業拠点の開設がD社の成長性に及ぼす当面の影響、および営業拠点のさらなる開設と成長性の将来的な見通しについて、60字以内で説明せよ。
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解答例

設問1① 変動費率 = 73.30(%) ② 営業利益 = 76(百万円)

設問2新拠点開設は固定資産投資が小規模で、業務委託中心の労働集約型のため変動費の割合が高く固定費負担が軽い費用構造である。(58字)

設問3当面は売上増加で成長性は高まるが、さらなる拠点開設で固定費が増え、利益が伴わなければ将来の成長性は鈍化しうる。(55字)

解説(考え方・プロセス)

設問1①:来年度の変動費率

今年度の変動費内訳から、外注費だけ7%上昇させ、変動費率(=変動費÷売上高)を再計算する。変動費率は売上に比例するので、今年度売上1,503を分母に計算する。

今年度の変動費 = 1,047(売上原価1,014+販管33) うち外注費782 → 来年度 782×1.07 = 836.74 外注費以外の変動費 = 1,047 − 782 = 265 来年度の変動費(今年度売上ベース) = 836.74 + 265 = 1,101.74 変動費率 = 1,101.74 ÷ 1,503 ×100 = 73.3027…% → 73.30%

設問1②:来年度の営業利益

売上は550増(2,053)、固定費は34増(472)。限界利益率=1−変動費率。

来年度売上 = 1,503 + 550 = 2,053 来年度固定費 = 438 + 34 = 472 限界利益率 = 1 − 0.7330 = 0.2670 営業利益 = 2,053×0.2670 − 472 = 548.15 − 472 = 76.15 → 百万円未満四捨五入で 76 百万円

検算(変動費を直接算定):変動費=2,053×0.7330=1,504.85、営業利益=2,053−1,504.85−472=76.15→76百万円 ✓(厳密値0.73303で計算しても約76.10で同じ76)。

設問2:投資規模と費用構造の特徴(60字)

与件(第5段落)より、D社は受注業務を協力個人事業主・加盟物流業者に業務委託する労働集約型。よって新拠点も大きな設備投資を要さず、コストは外注費中心の変動費が大きく固定費は小さい。設問3の費用構造(変動費1,047>個別固定費)からも裏付けられる。

設問3:成長性への影響と将来見通し(60字)

当面の影響」と「さらなる開設の将来見通し」の2点を書く。固定費が小さい構造のため当面は売上増で成長性が高まる。ただし拠点を増やし続けると個別固定費(給料・賃借料)が累積し、売上・限界利益が伴わなければ将来の成長性は鈍化しうる、という両面で答える。

第4問 配点 15点 70字以内

D社が受注したサポート業務にあたる際に業務委託を行うことについて、同社の事業展開や業績に悪影響を及ぼす可能性があるのはどのような場合か。また、それを防ぐにはどのような方策が考えられるか。70字以内で説明せよ。

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解答例(58字)

委託先のサービス品質低下や情報漏洩で信用を失う場合。協力先の確保・育成と教育、品質基準の徹底や緊密な連携で防止する。

解説(考え方・プロセス)

設問の制約:どのような場合に悪影響か」+「それを防ぐ方策」の2点を必ず両方。事例Ⅳだが定性(リスクと対応)の設問。

与件の根拠(第5・6段落):

  • D社は受注業務を協力個人事業主・加盟物流業者に業務委託し、顧客への受け渡しや代金回収まで任せる。
  • 協力個人事業主等の確保・育成、加盟物流業者との緊密な連携とサービス水準の把握・向上」が重要要素と明記。労働集約的で人手不足の状況。

悪影響の場合(リスク):委託先のサービス品質の低下、納期遅延、顧客対応の不備、情報漏洩・代金回収トラブル等が起き、D社の信用・ブランドが毀損される場合。委託先確保ができず事業拡大が制約される場合も。

防止策:与件の重要要素を裏返す——協力先の確保・育成と教育、サービス水準(品質基準)の把握・徹底、緊密な連携・情報共有。これらで委託先を統制し品質を担保する。

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