事例Ⅳ|財務・会計

令和7年度 第2次試験問題 事例Ⅳ

中小企業の診断及び助言に関する実務の事例Ⅳ / 試験時間 16:00〜17:20 / 配点100点

与件文

1D社は、地方都市に本社と工場を置き、仏壇・仏具の製造販売を行っている。創業100年を超える老舗企業であり、現在は資本金4,800万円、売上高約30億円、従業員260名となっている。仏壇・仏具などの製造を行う製造部、製造された商品を全国の小売店に販売する販売部に加えて、自社で製造する伝統的な仏壇・仏具だけでなく、自社開発による現代風の新たな商品を展示販売する直営店舗の小売部という3部門から構成される職能別組織を採用している。

2D社がこれまで主力としてきた仏壇の製造販売においては、創業以来、比較的業績が安定していたが、核家族化の進展、マンションの増加などライフスタイルや住宅事情の変化によって、伝統的な大型仏壇の売れ行きが低下し続けている。また、近年のコロナ禍の影響から葬儀や法要の見送り、告別式を行わない直葬などが増え、仏具の需要も低迷している。さらに最近では、海外生産による低価格仏壇の販売を強化する企業もあり、競争環境が激化している。

3仏壇・仏具業界の競争が激しくなる中で、D社は自社で抱える職人の手による伝統的な工芸技術を活かした自社生産の高価格仏壇にこだわっており、低価格仏壇との差別化を図っている。また、D社は住宅の小型化やライフスタイルの洋風化に対応するべく、国内の著名なインテリアデザイナーとのコラボレーションによる現代的なデザインの仏壇や卓上小型仏壇など戦略的に新商品の開発を続けている。

4こうした中で近年、D社が本社を置く地方都市でも海外観光客の大幅な増加がみられ、日本文化への関心の高まりからD社直営の小売店舗にも多くの海外観光客が訪れるようになった。これらの観光客はインテリアとして高価格帯の小型仏壇を買い求めるケースが多く、ここに目を付けたD社は、自社の強みである伝統的な漆塗りや蒔絵といった日本ならではの意匠を凝らした高級収納家具を新たに開発し、海外に向けて販売する計画を立てている。しかし、職人が高齢化するとともにその数も徐々に減少してきており、新規の職人の確保や育成が急務となっているほか、海外向け商品の製造においては一部機械化も避けられず、職人による手仕事と機械による製造とのバランスに苦慮している。さらに、木材や漆などの原材料価格も高騰してきており、D社では利益計画の見直しも課題となっている。

5D社は日本の伝統文化を継承することを経営のモットーとしており、職人技術の継承といった社会貢献と事業活動との両立を達成するため、中小企業診断士に助言を求めている。

財務諸表

D社および同業他社の財務諸表は以下のとおりである。

貸借対照表(令和7年3月31日) (単位:百万円)
科目D社同業他社科目D社同業他社
〈資産の部〉〈負債の部〉
流動資産2,1192,306流動負債7471,446
現金預金307684買掛金249173
売掛金378333短期借入金374361
棚卸資産6991,208未払金74216
その他の流動資産73581その他の流動負債50696
固定資産2,2013,716固定負債25609
有形固定資産1,612602負債合計7722,055
 建物428123〈純資産の部〉
 機械及び装置2842資本金481,322
 その他の有形固定資産900477資本剰余金527
無形固定資産6078利益剰余金3,5002,118
投資その他の資産5293,036純資産合計3,5483,967
資産合計4,3206,022負債・純資産合計4,3206,022
損益計算書(自 令和6年4月1日 至 令和7年3月31日) (単位:百万円)
科目D社同業他社
売上高2,9827,100
売上原価1,9132,667
売上総利益1,0694,433
販売費及び一般管理費1,0243,895
営業利益45538
営業外収益4925
営業外費用416
経常利益90547
特別損失20
税引前当期純利益90527
法人税等33178
当期純利益57349

設問

第1問 配点 25点
(設問1) D社と同業他社の財務諸表を用いて経営分析を行い、同業他社と比較してD社が優れていると考えられる財務指標を1つ、D社が劣っていると考えられる財務指標を2つ取り上げ、それぞれについて、名称を(a)欄に、その値を(b)欄に記入せよ。なお、優れていると考えられる指標を①の欄に、劣っていると考えられる指標を②、③の欄に記入し、(b)欄の値については、小数第3位を四捨五入し、小数第2位まで表示すること。また、単位をカッコ内に明記すること。
(設問2) D社が同業他社と比べて劣っている点について、財務指標から読み取れる経営戦略上の違いを指摘しながら、その要因を80字以内で述べよ。
解答例・解説を見る
解答例

設問1

① 優れている指標:自己資本比率 (b) 82.13(%)

② 劣っている指標:売上高営業利益率 (b) 1.51(%)

③ 劣っている指標:有形固定資産回転率 (b) 1.85(回)

設問2職人技術による自社生産の高価格品にこだわる戦略のため、売上原価や有形固定資産が大きく売上規模も小さい。結果、収益性と資産効率が同業他社より劣る。(72字)

解説(考え方・プロセス)

手順:収益性・効率性・安全性の3視点で主要指標をD社/同業他社で計算し、差が大きいものを選ぶ。優れる1つ・劣る2つを、視点が偏らないよう選定する。

① 安全性(D社が優れる)

自己資本比率 = 純資産 ÷ 総資本 ×100 D社 : 3,548 ÷ 4,320 ×100 = 82.13% 同業 : 3,967 ÷ 6,022 ×100 = 65.88% → D社が優れる

借入が少なく利益剰余金(3,500)が厚いため安全性が高い。流動比率(D 283.67%>同業 159.47%)でも可。

② 収益性(D社が劣る)

売上高営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上高 ×100 D社 : 45 ÷ 2,982 ×100 = 1.51% 同業 : 538 ÷ 7,100 ×100 = 7.58% → D社が劣る

③ 効率性(D社が劣る)

有形固定資産回転率 = 売上高 ÷ 有形固定資産 D社 : 2,982 ÷ 1,612 = 1.85回 同業 : 7,100 ÷ 602 = 11.79回 → D社が劣る

D社は機械・建物を自社で抱える(有形固定資産1,612)ため回転率が低い。棚卸資産回転率や総資本回転率でも可。

設問2の組み立て:設問1で選んだ「劣る指標」を、与件の経営戦略(職人の手による高品質・高価格の自社生産へのこだわり)と結びつける。自社生産=原価・設備が重く、規模も小さい→収益性・効率性が低い、という因果で80字にまとめる。
※(b)欄は小数第2位まで、単位をカッコ内に明記する指示に注意。

第2問 配点 30点

D社は、自社の主力製品である小型仏壇について次年度に向けた利益計画を検討している。D社では小型仏壇として伝統的な時代型仏壇(製品X)と、マンションや洋風住宅にもマッチするインテリア型仏壇(製品Y)の2タイプを販売しており、これらの製品に関する当年度のデータは以下の資料のとおりである。また、当年度において製品Xと製品Yは数量ベースで2:3の割合で販売されている。上記の資料に基づいて、以下の設問に答えよ。なお、割り切れない場合には、最終的な解答において小数以下を切り上げること。

【資料】
製品X製品Y
販売価格600千円/基560千円/基
1基当たり変動費230千円/基140千円/基
個別固定費45,000千円35,000千円
共通固定費400,000千円
(設問1) D社の当年度における損益分岐点売上高と、損益分岐点における製品Xおよび製品Yの販売数量を計算せよ。解答にあたっては、①製品Xの販売数量および②製品Yの販売数量と③損益分岐点売上高を(a)欄に記入し、(b)欄にはその計算過程を記入すること。
(設問2) D社では、最近の物価高による原材料費の高騰や物流コストの上昇のほか、賃上げの要請などから、次年度においては製品Xおよび製品Yの1基当たり変動費が5%上昇すると見込んでいる。同様に共通固定費も10%上昇すると予測している。この予測の下で製品Xを500基販売するものとして、目標利益額50,000千円を達成するための製品Yの販売数量を計算せよ。解答にあたっては、製品Yの販売数量を(a)欄に記入し、(b)欄にはその計算過程を記入すること。
(設問3) D社は、ライフスタイルや住宅事情の変化が今後も続くものと予測しており、小型仏壇についてはインテリア型仏壇である製品Yの販売をより強化しようと考えている。このため次年度より気鋭のインテリアデザイナーと新たな専属契約を結び、新規顧客のニーズにこたえる高付加価値商品として製品Yをモデルチェンジすることを検討している。D社はモデルチェンジされた製品Yについて販売価格650千円で売り出すことにしているが、新規デザイナー契約により製品Yの個別固定費が新たに年間5,000千円発生する。なお、それ以外の費用の予測については設問2と同様である。
また、D社は「健康経営」をスローガンとしており、製品Xと製品Yの製造工程のうち最終工程である組み立てについては、両製品合計の直接作業時間を年間700時間までとしている。製品Xの1基当たり直接作業時間は0.5時間/基、製品Yは0.3時間/基である。
D社は、小型仏壇の販売において製品Yへの比重を高めているが、伝統的な仏壇である製品Xにも一定の需要があることや技術の継承のため、製品Xと製品Yとを合わせた総販売数量のうち製品Xの割合が25%を下回らないこととしている。この条件の下で、利益が最大となる製品Xと製品Yの販売数量とそのときの利益額を求めよ。解答にあたっては、①製品Xの販売数量および②製品Yの販売数量と③それらによる総利益額を(a)欄に記入し、(b)欄にはその計算過程を記入すること。
解答例・解説を見る
解答例

設問1① 製品X = 480基 ② 製品Y = 720基 ③ 損益分岐点売上高 = 691,200千円

設問2製品Yの販売数量 = 947基

設問3① 製品X = 500基 ② 製品Y = 1,500基 ③ 総利益額 = 408,750千円

解説(考え方・プロセス)

前提:1基当たり限界利益(=販売価格−変動費)

製品X : 600 − 230 = 370 千円/基 製品Y : 560 − 140 = 420 千円/基 固定費合計 = 個別45,000 + 個別35,000 + 共通400,000 = 480,000 千円

設問1:販売数量比 X:Y=2:3 でのBEP

Xを2k基、Yを3k基とすると、損益分岐点は「限界利益=固定費」。

限界利益 = 370×2k + 420×3k = 740k + 1,260k = 2,000k 2,000k = 480,000 → k = 240 ∴ X = 2k = 480基, Y = 3k = 720基 BEP売上高 = 600×480 + 560×720 = 288,000 + 403,200 = 691,200 千円

設問2:変動費5%増・共通固定費10%増の下で目標利益50,000千円

新・限界利益 X : 600 − 230×1.05 = 358.5 千円/基 Y : 560 − 140×1.05 = 413 千円/基 新・固定費 = 400,000×1.1 + 45,000 + 35,000 = 520,000 千円 X=500基より 利益 = 358.5×500 + 413×Y − 520,000 = 50,000 413Y = 50,000 + 520,000 − 179,250 = 390,750 Y = 390,750 ÷ 413 = 946.1… → 切り上げ 947基

設問3:制約付きで利益最大(最適セールスミックス)

モデルチェンジでY価格650千円、Yの個別固定費+5,000千円。変動費・共通固定費は設問2と同じ。

限界利益 X : 358.5 千円/基, Y : 650 − 147 = 503 千円/基 固定費 = 440,000 + 45,000 + (35,000+5,000) = 525,000 千円 制約① 作業時間 : 0.5X + 0.3Y ≦ 700(時間) 制約② Xの比率 : X ÷(X+Y) ≧ 25% → Y ≦ 3X

Yは1時間当たり限界利益(503÷0.3≒1,677)がX(358.5÷0.5=717)より高く、Yを最大化したい。ただし制約②でYはXの3倍まで。両制約を等号で解く:

Y = 3X を 0.5X + 0.3Y = 700 に代入 0.5X + 0.9X = 1.4X = 700 → X = 500, Y = 1,500 (比率 500/2,000 = 25%, 作業時間 250+450 = 700h を満たす) 利益 = 358.5×500 + 503×1,500 − 525,000 = 179,250 + 754,500 − 525,000 = 408,750 千円

ポイント:制約が2つある最適化は、まず1時間当たり限界利益で優先製品(=Y)を判断し、2つの制約を等号で連立すると最適点が求まる。割り切れない設問2は切り上げの指示に注意。

第3問 配点 25点

D社は、自社直営の店舗で近年海外観光客に人気のある小型仏壇を、海外の一般顧客向けにデザインし直したうえで、「大切なものを保管するための伝統工芸が施された収納家具」として国外市場で販売することを検討している。D社がこの海外向け新製品の試作品をもってEU諸国での市場調査を行ったところ、十分に商機があることが分かり、新製品の本格的な製造・販売に着手しようと考えている。しかし、新製品の製造には新たな生産ラインが必要とされ、そのための新規製造設備(設備Z)の初期投資額は60,000千円と見積もられている。この設備Zについては、D社が年間2,400千円の賃借料で近隣企業に貸している減価償却済みの倉庫を工場として利用し、据え付ける予定である。なお、この倉庫については近隣企業が向こう4年間について契約を更新する意向であったが、当該企業の合意を得て更新を行わない予定である。
この投資案の実行により製造される製品は、1基当たり日本円にして300千円で販売する予定であり、4年間にわたり毎年300基販売できると予測されている。新製品の製造・販売にあたり、変動製造費が1基当たり120千円発生し、現金支出を伴う業務費用が30,000千円生じる。設備Zの減価償却は耐用年数4年、残存価額をゼロとする定額法で行い、耐用年数終了時に6,000千円で売却できると考えている。また、この投資によって運転資本が9,000千円増加すると見積もられ、この運転資本の増加は耐用年数経過後にすべて取り崩される。なお、D社は黒字経営を続けており、この傾向は今後しばらく継続するものと考えられる。さらに、設備Zへの初期投資以外のキャッシュフローは各年末に生じるものとする。
この投資案の資本コストは4%、税率は30%である。上記の資料に基づいて、以下の設問に答えよ。なお、キャッシュフローの計算においては税金を考慮し、最終的な解答においては円単位で解答すること。

資本コスト4%の現価係数
1年2年3年4年
複利現価係数0.9620.9250.8890.855
年金現価係数0.9621.8872.7763.631
(設問1) 設備Zの売却によるキャッシュフローを計算せよ。解答にあたっては、キャッシュフローを(a)欄に記入し、(b)欄にはその計算過程を記入すること。
(設問2) 各年末のキャッシュフローを計算せよ。解答にあたっては、各年末のキャッシュフローを(a)欄に記入し、(b)欄にはその計算過程を記入すること。
(設問3) この投資案の正味現在価値を計算し、採否を決定せよ。解答にあたっては、正味現在価値および採否を(a)欄に記入し、(b)欄にはその計算過程を記入すること。なお、採否については、カッコ内の「する」または「しない」に○印を付けること。
解答例・解説を見る
解答例

設問1設備Zの売却によるCF = 4,200千円(4,200,000円)

設問21〜3年末 = 各 19,620千円 / 4年末 = 32,820千円(初期投資 −69,000千円)

設問3正味現在価値 ≒ +13,526千円(13,526,220円) → 採否は「する

解説(考え方・プロセス)

設問1:設備売却のCF(税引後)

4年で全額償却(残存0)のため売却時の簿価は0。売却益6,000に課税される。

売却CF = 売却額 − (売却額 − 簿価)×税率 = 6,000 − (6,000 − 0)×30% = 6,000 − 1,800 = 4,200 千円

設問2:各年の営業CF

減価償却 = 60,000 ÷ 4 = 15,000千円/年。倉庫の賃貸料2,400千円/年は、自社利用により失う収入=機会費用として控除する。

税引前利益 = 売上(300基×300) − 変動費(120×300) − 業務費用 − 減価償却 − 逸失賃料 = 90,000 − 36,000 − 30,000 − 15,000 − 2,400 = 6,600 税金 = 6,600×30% = 1,980 営業CF = 税引後利益 + 減価償却 = (6,600−1,980) + 15,000 = 19,620 千円/年 初期(0年) : −設備60,000 − 運転資本9,000 = −69,000 1〜3年末 : 19,620 4年末 : 19,620 + 売却4,200 + 運転資本回収9,000 = 32,820

設問3:正味現在価値(NPV)

NPV = −69,000 + 19,620×(0.962+0.925+0.889) ← 1〜3年 + 32,820×0.855 ← 4年 = −69,000 + 19,620×2.776 + 28,061.10 = −69,000 + 54,465.12 + 28,061.10 = +13,526.22 千円(=13,526,220円) NPV > 0 のため、投資を「する」

ポイント:①売却益への課税、②減価償却の非現金費用としての足し戻し、③遊休資産でなく賃貸中の倉庫の機会費用、④運転資本の初期投入と期末回収——この4点が論点。NPV>0なら採用、<0なら却下。

第4問 配点 20点
(設問1) D社は、海外向け製品の生産ライン増設に対する資金調達手段について検討している。D社がとるべき資金調達手段について、D社の財務状況を踏まえながら、その理由とともに80字以内で助言せよ。
(設問2) D社が新商品をEU諸国に向けて販売する場合に直面する財務的リスクを挙げるとともに、そのリスクに対する具体的な対処について60字以内で述べよ。
解答例・解説を見る
解答例

設問1自己資本比率が高く借入余力が大きいため、長期借入金で調達すべきである。安定した財務基盤を背景に低利の負債を活用でき、支払利息の節税効果も得られる。(73字)

設問2為替相場の変動により為替差損が生じるリスク。対処として為替予約や通貨オプションでヘッジし、円建て契約も活用する。(56字)

解説(考え方・プロセス)

設問1:財務状況と結びつけて調達手段を助言

第1問でみたとおりD社は自己資本比率82%・借入が少なく内部留保が厚い=安全性が高く借入余力が大きい。よって、自己資本を毀損する増資より長期借入金が適切。理由として「低利の負債活用」「支払利息の節税(タックスシールド)」「安全性を損なわない」を添える。設問の指示どおり財務状況→結論→理由の順で書く。

設問2:EU向け販売の財務的リスク

海外(EU)販売で外貨建て取引が生じる→為替変動リスク(円高による為替差損)が代表的な財務的リスク。対処は為替リスクのヘッジ手段を具体的に:為替予約、通貨オプション、円建て契約、外貨建て資産・負債のマッチングなど。「リスクを挙げる+具体的対処」の2点を必ず両方書く。

■ 目次(年度一覧)に戻る