事例Ⅳ|財務・会計

平成28年度 第2次試験問題 事例Ⅳ

中小企業の診断及び助言に関する実務の事例Ⅳ / 試験時間 15:50〜17:10 / 配点100点

与件文

1D社は、創業20年ほどの資本金5,000万円、正規従業員81名の、県内産の高級食材を活かして県内外に店舗を展開するレストランである。

2同社は、カジュアルで開放感ある明るい店内で、目の前で調理されるステーキや野菜などの鉄板焼きを楽しむレストランの1号店を開店した。その後、このタイプの鉄板焼きレストランを県内にさらに3店舗開店した。

3一方、別のタイプの店舗として、落ち着いた雰囲気の店内で、新鮮な食肉や旬の野菜を使って熟練した料理人が腕をふるう創作料理店1店舗を開店した。鉄板焼きレストランは、1店舗を閉店する一方で、数年前に県外初となる店舗を大都市の都心部に開店した。前期の第3四半期には同じ大都市の都心部に創作料理店を1店舗、別の大都市の都心部に鉄板焼きレストランを1店舗開店し、現在の店舗数は合計7店舗である。

4全般的には依然として顧客の節約志向が強く、業界環境は厳しいなか、主要顧客である県外からの観光客数が堅調に推移しており、D社の県内店舗の来店客数は増加傾向を維持し、客単価も維持できている。

5同社は、顧客満足の提供を追求して、食材にこだわり、きめ細やかな心配りによるホスピタリティあふれるサービスのために社員教育の徹底に努めている。県外の鉄板焼きレストランも、県内店舗と同様に店舗運営を徹底したこと、それにより固定客を獲得できたこと等から、業績は順調に推移している。

6大都市に前期に出店した2店舗も新規固定客の獲得に努めている。しかし、開店から1年以上が経過しても、創作料理店は業績不振が続いており、当期は通年で全社業績に影響が出ているため、その打開が懸案となっている。

7県外進出の一方で、D社は、本社機能の充実に加え、人材育成の拠点となる研修施設の拡充、新規出店の目的で、用地代を含め約8億円を投じて新しい本社社屋を建設する計画である。投資資金は、自己資金と借入れによって調達する。調達額とその内訳は、投資総額が確定した段階で最終的に決定する。

8同社は、当期に新社屋の用地として市内の好適地を取得し、建設計画を進めている。本社社屋には店舗と研修施設とが併設される。新規店舗は鉄板焼きレストランと、新しいタイプの店舗として同じ価格帯のメニュー、同格の店舗の雰囲気・意匠をもって顧客に満足感を提供するしゃぶしゃぶ専門店とを開店する予定である。

財務諸表

D社の前期および当期の財務諸表は以下のとおりである。

貸借対照表 (単位:百万円)
科目前期当期科目前期当期
〈資産の部〉〈負債の部〉
流動資産225259流動負債138465
現金及び預金164195仕入債務1720
売上債権1314短期借入金318
たな卸資産710一年内返済予定の長期借入金4347
その他の流動資産4140一年内償還予定の社債10
固定資産371641その他の流動負債6880
有形固定資産287531固定負債11266
 建物267191長期借入金6720
 土地320その他の固定負債4546
 その他の有形固定資産2020負債合計250531
無形固定資産12〈純資産の部〉
投資その他の資産83108資本金5050
資本剰余金2323
利益剰余金273296
純資産合計346369
資産合計596900負債・純資産合計596900
損益計算書 (単位:百万円)
科目前期当期
売上高831940
売上原価410483
売上総利益421457
販売費及び一般管理費322350
営業利益99107
営業外収益38
営業外費用820
経常利益9495
特別損失56
税引前当期純利益9439
法人税等2712
当期純利益6727
損益計算書に関する付記事項 (単位:百万円)
科目前期当期
減価償却費2836
受取利息・配当金
支払利息14

設問

第1問 配点 25点
(設問1) D社の前期および当期の財務諸表を用いて経営分析を行い、前期と比較した場合のD社の課題を示す財務指標のうち重要と思われるものを3つ取り上げ、それぞれについて、名称を(a)欄に、当期の財務諸表をもとに計算した財務指標の値を(b)欄に記入せよ。なお、(b)欄の値については、小数点第3位を四捨五入し、カッコ内に単位を明記すること。
(設問2) 設問1で取り上げた課題が生じた原因を70字以内で述べよ。
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解答例

設問1

① 効率性:有形固定資産回転率 (b) 1.77(回)

② 安全性:流動比率 (b) 55.70(%)

③ 収益性:売上高経常利益率 (b) 10.11(%)

設問2新社屋用地取得や新規出店で有形固定資産が増え、短期借入金で賄ったため資産効率と短期安全性が低下。借入の支払利息増で経常利益も圧迫された。(68字)

解説(考え方・プロセス)

手順:本問は「前期と比較して悪化した(=課題を示す)指標を3つ」。収益性・効率性・安全性の3視点から、前期→当期で悪化幅が大きいものを1つずつ選ぶ。値は当期の財務諸表で計算し、小数第3位を四捨五入。

① 効率性(悪化)

有形固定資産回転率 = 売上高 ÷ 有形固定資産 前期 : 831 ÷ 287 = 2.90回 当期 : 940 ÷ 531 = 1.77回 → 大幅に悪化

当期に土地320を取得し建物等も増加(有形固定資産287→531)したが、売上の伸びが追いつかず効率が低下。

② 安全性(悪化)

流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債 ×100 前期 : 225 ÷ 138 ×100 = 163.04% 当期 : 259 ÷ 465 ×100 = 55.70% → 大幅に悪化

用地取得資金を短期借入金318で調達したため流動負債が急増(138→465)。最も変化が大きく、安全性の代表指標として選ぶ。当座比率(128.26%→44.95%)でも可。

③ 収益性(悪化)

売上高経常利益率 = 経常利益 ÷ 売上高 ×100 前期 : 94 ÷ 831 ×100 = 11.31% 当期 : 95 ÷ 940 ×100 = 10.11% → 悪化

支払利息(営業外費用8→20)の増加で経常利益が伸びず、率が低下。売上高営業利益率(11.91%→11.38%)でも可だが、借入増との因果が説明しやすい経常利益率を採る。

設問2の組み立て:3指標悪化の共通原因=新社屋用地取得・新規出店に伴う固定資産増を短期借入で賄ったことに集約する。効率性低下(固定資産増)・安全性低下(短期借入増)・収益性低下(支払利息増)を1本の因果でまとめ70字に収める。

第2問 配点 35点

D社は新しい本社社屋の建設計画を進めており、社屋は用地取得の1年後には完成して引き渡しを受ける予定である。以下の設問に答えよ。

(設問1) 前期と当期の財務諸表を用い、空欄に金額を記入して当期の営業活動によるキャッシュフローに関する下記の表を完成せよ。
(単位:百万円)
税引前当期純利益39
減価償却費(  )
減損損失56
営業外収益(  )
営業外費用(  )
売上債権の増減額(  )
棚卸資産の増減額(  )
仕入債務の増減額(  )
その他13
小計(  )
利息及び配当金の受取額
利息の支払額△4
法人税等の支払額△35
営業活動によるキャッシュフロー(  )
(設問2) 新しい本社社屋を建設するための投資の内訳および減価償却に関する項目は以下のとおりである。この投資の意思決定は、本社が移転し、新設される2店舗が営業を開始してから5年間(当初投資後2年目から6年目まで)のキャッシュフローの予測をもとに行われている。土地および建物・器具備品の6年後の売却価値は簿価と同額と予測される。
(金額単位:百万円)
投資額耐用年数残存価額減価償却方法
当初投資時点1年後
土地3200
建物0420300定額法
器具備品050100定額法

以下の金額を求め、その金額を(a)欄に、計算過程を(b)欄に、それぞれ記入せよ。なお、(a)欄の金額については、単位を百万円とし、小数点第1位を四捨五入すること。
① 土地および建物・器具備品について、投資額、6年後の売却価値およびそれぞれの当初投資時点における現在価値はいくらか。
② 新しい本社社屋を建設するための投資の意思決定に際し、新設される2店舗が営業を開始した後の税引後キャッシュフローの増加分はいくら以上と見込まれているか。ただし、キャッシュフローは、2年後から6年後まで毎年均等に生じるものとする。

複利現価係数表(割引率6%)
123456
複利現価係数0.94340.89000.83960.79210.74730.7050
年金現価係数表(割引率6%)
123456
年金現価係数0.94341.83342.67303.46514.21244.9173
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解答例

設問1(営業CF表)

税引前当期純利益 39 減価償却費 36 減損損失 56 営業外収益 △8 営業外費用 20 売上債権の増減額 △1 棚卸資産の増減額 △3 仕入債務の増減額 3 その他 13 小計 155 利息及び配当金の受取額 — 利息の支払額 △4 法人税等の支払額 △35 営業活動によるキャッシュフロー 116

設問2 ①

投資額(現在価値):土地 320/建物 396/器具備品 47 (合計 763百万円)

6年後売却価値(現在価値):土地 226/建物 247/器具備品 18 (合計 490百万円)

設問2 ②税引後CFの増加分 = 69百万円 以上

解説(考え方・プロセス)

設問1:間接法による営業CF

税引前利益に非現金費用(減価償却36・減損56)を足し戻し営業外損益を控除・加算(営業CFに含めないため)運転資本の増減を調整する。

減価償却費 = 36(付記事項・当期) 営業外収益 = △8(益は控除), 営業外費用 = +20(費用は加算) 売上債権 13→14 : 増加1 → △1 棚卸資産 7→10 : 増加3 → △3 仕入債務 17→20 : 増加3 → +3 小計 = 39+36+56−8+20−1−3+3+13 = 155 営業CF = 155 + 0 − 4 − 35 = 116 百万円

設問2①:投資額・売却価値とその現在価値

土地は当初(0年)、建物・器具備品は1年後に投資。償却は営業開始の2年目〜6年目の5年間。

〈投資額の現在価値〉 土地 : 320(0年なので割引なし) = 320 建物 : 420 × 0.9434(1年) = 396.23 → 396 器具備品 : 50 × 0.9434(1年) = 47.17 → 47 合計 ≒ 763 〈6年後売却価値(=簿価)〉 建物 : 420 −(420÷30)×5年 = 420−70 = 350 器具備品 : 50 −(50÷10)×5年 = 50−25 = 25 土地 : 320(償却なし) 〈その現在価値(6年係数0.7050)〉 土地 : 320 × 0.7050 = 225.6 → 226 建物 : 350 × 0.7050 = 246.75 → 247 器具備品 : 25 × 0.7050 = 17.62 → 18 合計 ≒ 490

設問2②:必要な税引後CF増加分

投資が成立する条件はNPV ≧ 0。年々のCFは2年後〜6年後の5回、均等に発生。その年金現価係数は6年係数−1年係数 = 4.9173 − 0.9434 = 3.9739

毎年の税引後CF増加分を X とすると X×(4.9173−0.9434) + 売却価値PV − 投資額PV ≧ 0 X×3.9739 ≧ 763 − 490 = 273 X ≧ 273 ÷ 3.9739 = 68.8 → 四捨五入 69 ∴ 税引後CFの増加分は 69百万円 以上が必要

ポイント:①投資・償却のタイミング(土地は0年、建物等は1年後、稼働は2〜6年目)、②売却価値は簿価=残存簿価で売却益・課税が生じない、③2〜6年の年金現価係数は係数表の差し引きで求める——の3点が論点。

第3問 配点 15点

大都市の都心部に出店した創作料理店は業績の不振が続いている。そこで、同店を閉店するかどうかの検討を行うことにした。同店は、商業施設にテナントとして出店している。同店の見積損益計算書は以下のとおりである。この見積損益計算書をもとに、閉店すべきかどうかについて、意思決定の基準となる尺度の値と計算過程を(a)欄に記入し、結論を理由とともに(b)欄に50字以内で述べよ。

店舗見積損益計算書 (単位:百万円)
売上高98
変動費49
限界利益49
個別固定費*40
共通固定費配賦額26
営業利益△17

* 店舗個別の付属設備および器具備品は償却済みである。

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解答例

(a) 尺度の値と計算過程限界利益 − 個別固定費 = 49 − 40 = +9百万円

(b) 結論・理由閉店すべきでない。共通固定費は回避できず、存続で限界利益が個別固定費を9百万円上回り全社利益に貢献するため。(54字)

解説(考え方・プロセス)

着眼点:店舗の閉店判断は、営業利益(△17)の赤字に惑わされず、その店舗を閉めると会社全体の利益がどう変わるか(回避可能費用ベース)で判断する。

店舗存続による全社への貢献 = 限界利益 − 個別固定費(=回避可能な固定費) = 49 − 40 = +9 百万円 ※共通固定費配賦額26は、閉店しても会社全体には残る(他店へ再配賦される)  =回避不能のため判断から除外する。

判断:付属設備・器具備品は償却済みのため個別固定費40は現金支出を伴う回避可能費用。これを限界利益49が上回り、貢献利益=+9百万円。閉店すると会社全体の利益はこの9百万円分減少するため、閉店すべきでない

注意:営業利益が△17でも、その内訳の共通固定費配賦26は閉店で消えない。配賦額に引きずられて「赤字だから閉店」と判断しないのがこの問題の核心。

第4問 配点 25点

D社は業者が運営する複数のネット予約システムを利用している。ネット予約システムは、営業時間外でも予約の受付が可能であり、業者の検索サイトに店舗情報が掲載され、契約によっては広告などでもネット上の露出が増える。初期登録や利用、予約成約などに関するネット予約システムの料金体系は、業者によってさまざまである。
その一方で、店舗側では複数のネット予約システムからの予約と従来どおりの予約とをあわせ、予約を管理する必要がある。D社でも、各店舗で予約管理に一定の時間が費やされている。そこで、同社は業者が運営するネット予約システムに加えて、店舗別の予約を集中管理する機能も有する自社のネット予約システムを導入することを検討している。

(設問1) 業者が運営するネット予約システムを利用することにより、同システムを利用しない場合と比較し、D社の収益や費用はどのような影響を受けているか、60字以内で述べよ。
(設問2) 自社のネット予約システム(取得原価20百万円、耐用年数5年、残存価額ゼロ)の導入により、予約管理費が各店舗で3分の1に削減され、予約の成約による送客手数料の総額が3分の2に低下することが見込まれる。
自社のネット予約システムを導入する前の短期利益計画は以下のとおりである。損益分岐点売上高の変動額およびその変動要因について、その金額を(a)欄に、計算過程を(b)欄に、それぞれ記入せよ。なお、(a)欄の金額は単位を百万円とし、小数点第1位を四捨五入すること。また、②と③はカッコ内に上昇・低下の別を明記すること。
① 自社のネット予約システム導入前の損益分岐点売上高はいくらか。
② 自社のネット予約システム導入による損益分岐点売上高の変動額はいくらか。
③ 導入前の固定費をもとにした、自社のネット予約システム導入にともなう変動費率の変動による損益分岐点売上高の変動額はいくらか。
短期利益計画(自社ネット予約システム導入前) (単位:百万円)
売上高1,120
変動費*560
限界利益560
固定費430
(うち予約管理費)(12)
経常利益130

* 売上高に対する送客手数料の比率は1.8%である。

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解答例

設問1営業時間外の予約受付や検索サイト掲載・広告で露出が増え集客が進み収益が増加する一方、送客手数料の負担で変動費が増加する。(60字)

設問2 ①導入前の損益分岐点売上高 = 860百万円

設問2 ②損益分岐点売上高の変動額 = 18百万円(低下)

設問2 ③変動費率の変動による変動額 = 10百万円(低下)

解説(考え方・プロセス)

設問1:収益・費用への影響

「同システムを利用しない場合と比較」して、収益面(+)と費用面(−)の両面を答える。
・収益…営業時間外でも予約受付、検索サイト掲載・広告でネット露出増→集客増で売上増
・費用…成約ごとの送客手数料(変動費)が増加。「収益増・費用増」の両面を必ず書く。

設問2①:導入前BEP

限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高 = 560 ÷ 1,120 = 0.5 BEP = 固定費 ÷ 限界利益率 = 430 ÷ 0.5 = 860 百万円

設問2②:導入後のBEPとの差額

システム導入で固定費・変動費の両方が変化する。

〈固定費の変化〉 予約管理費 12 → 1/3 = 4(−8) 自社システム減価償却 = 20 ÷ 5年 = 4(+4) 新固定費 = 430 − 8 + 4 = 426 〈変動費の変化〉 送客手数料 = 売上1,120 × 1.8% = 20.16 導入後は総額が 2/3 → 20.16 × 2/3 = 13.44(−6.72) 新変動費 = 560 − 6.72 = 553.28 新限界利益率 = (1,120 − 553.28) ÷ 1,120 = 0.506 導入後BEP = 426 ÷ 0.506 = 841.9 → 842 変動額 = 842 − 860 = △18 百万円(低下)

設問2③:変動費率の変動のみによる差額

固定費は導入前の430のままとし、変動費率の変化だけがBEPに与える影響を分離する。

BEP' = 430 ÷ 0.506 = 849.8 → 850 変動額 = 850 − 860 = △10 百万円(低下)

検算・ポイント:②の総変動△18は「固定費要因」+「変動費率要因」に分解できる。固定費は430→426の−4で、限界利益率0.506のもとBEPを 4÷0.506≒8 低下させ、変動費率要因が約△10。両者合計が概ね②(△18)に一致する。②と③は「低下」の別を明記する設問指示に注意。

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