令和元年度 第2次試験問題 事例Ⅳ
与件文
1D社は、1940年代半ばに木材および建材の販売を開始し、現在は、資本金2億円、従業員70名の建材卸売業を主に営む企業である。同社は、連結子会社(D社が100%出資している)を有しているため、連結財務諸表を作成している。
2同社は3つの事業部から構成されている。建材事業部では得意先である工務店等に木材製品、合板、新建材などを販売しており、前述の連結子会社は建材事業部のための配送を専門に担当している。マーケット事業部では、自社開発の建売住宅の分譲およびリフォーム事業を行っている。そして、同社ではこれらの事業部のほかに、自社所有の不動産の賃貸を行う不動産事業部を有している。近年における各事業部の業績等の状況は以下のとおりである。
3建材事業部においては、地域における住宅着工戸数が順調に推移しているため受注が増加しているものの、一方で円安や自然災害による建材の価格高騰などによって業績は低迷している。今後は着工戸数の減少が見込まれており、地域の中小工務店等ではすでに厳しい状況が見られている。また、建材市場においてはメーカーと顧客のダイレクトな取引(いわゆる中抜き)も増加してきており、これも将来において業績を圧迫する要因となると推測される。このような状況において、同事業部では、さらなる売上の増加のために、地域の工務店等の取引先と連携を深めるとともに質の高い住宅建築の知識習得および技術の向上に努めている。また、建材配送の小口化による配送コストの増大や非効率な建材調達・在庫保有が恒常的な収益性の低下を招いていると認識している。現在、よりタイムリーな建材配送を実現するため、取引先の了解を得て、受発注のみならず在庫情報についてもEDI(Electronic Data Interchange、電子データ交換)を導入することによって情報を共有することを検討中である。
4マーケット事業部では、本社が所在する都市の隣接地域において建売分譲住宅の企画・設計・施工・販売を主に行い、そのほかにリフォームの受注も行っている。近年、同事業部の業績は低下傾向であり、とくに、当期は一部の分譲住宅の販売が滞ったことから事業部の損益は赤字となった。経営者は、この事業部について、多様な広告媒体を利用した販売促進の必要性を感じているだけでなく、新規事業開発によってテコ入れを図ることを検討中である。
5不動産事業部では所有物件の賃貸を行っている。同事業部は本社所在地域においてマンション等の複数の物件を所有し賃貸しており、それによって得られる収入はかなり安定的で、全社的な利益の確保に貢献している。
6D社の前期および当期の連結財務諸表は以下のとおりである。
財務諸表
| 科目 | 前期 | 当期 | 科目 | 前期 | 当期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 〈資産の部〉 | 〈負債の部〉 | ||||
| 流動資産 | 2,429 | 3,093 | 流動負債 | 2,517 | 3,489 |
| 現金預金 | 541 | 524 | 仕入債務 | 899 | 1,362 |
| 売上債権 | 876 | 916 | 短期借入金 | 750 | 1,308 |
| 棚卸資産 | 966 | 1,596 | その他の流動負債 | 868 | 819 |
| その他の流動資産 | 46 | 57 | 固定負債 | 1,665 | 1,421 |
| 固定資産 | 3,673 | 3,785 | 長期借入金 | 891 | 605 |
| 有形固定資産 | 3,063 | 3,052 | その他の固定負債 | 774 | 816 |
| 建物及び構築物 | 363 | 324 | 負債合計 | 4,182 | 4,910 |
| 機械設備 | 9 | 7 | 〈純資産の部〉 | ||
| その他の有形固定資産 | 2,691 | 2,721 | 資本金 | 200 | 200 |
| 無形固定資産 | 10 | 12 | 利益剰余金 | 1,664 | 1,659 |
| 投資その他の資産 | 600 | 721 | その他の純資産 | 56 | 109 |
| 純資産合計 | 1,920 | 1,968 | |||
| 資産合計 | 6,102 | 6,878 | 負債・純資産合計 | 6,102 | 6,878 |
| 科目 | 前期 | 当期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 4,576 | 4,994 |
| 売上原価 | 3,702 | 4,157 |
| 売上総利益 | 874 | 837 |
| 販売費及び一般管理費 | 718 | 788 |
| 営業利益 | 156 | 49 |
| 営業外収益 | 43 | 55 |
| 営業外費用 | 37 | 33 |
| 経常利益 | 162 | 71 |
| 特別利益 | 2 | 7 |
| 特別損失 | 7 | 45 |
| 税金等調整前当期純利益 | 157 | 33 |
| 法人税等 | 74 | 8 |
| 親会社に帰属する当期純利益 | 83 | 25 |
設問
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設問1
① 悪化:売上高営業利益率 (b) 0.98(%)
② 悪化:棚卸資産回転率 (b) 3.13(回)
③ 改善:有形固定資産回転率 (b) 1.64(回)
設問2建材価格高騰と販管費増で収益性が低下し、棚卸資産増で効率性も悪化したが、有形固定資産の活用は改善した。(51字)
手順:収益性・効率性・安全性の3視点で当期・前期の指標を計算し、前期から大きく変化したものを選ぶ。悪化2つは視点が偏らないよう収益性と効率性から、改善1つは数少ない好転指標を選ぶ。(b)欄は当期の値・単位明記・小数第3位四捨五入の指示を守る。
① 悪化=収益性(売上高営業利益率)
建材の価格高騰と販管費増加(718→788)で営業利益が156→49に激減。売上高経常利益率(当期1.42%<前期3.54%)でも可。
② 悪化=効率性(棚卸資産回転率)
非効率な建材調達・在庫保有で棚卸資産が966→1,596に増加。安全性(流動比率 当期88.65%<前期96.50%、自己資本比率 当期28.61%<前期31.47%)を悪化指標に選んでもよい。
③ 改善=効率性(有形固定資産回転率)
有形固定資産はほぼ横ばいで売上が増えたため回転率が向上。改善指標はこの1つに絞られる点に注意。
設問2の組み立て:50字と短いので、選んだ3指標を「収益性低下・効率性悪化(在庫増)・固定資産活用は改善」と簡潔に対比してまとめる。与件の価格高騰・在庫保有の記述と結びつける。
D社のセグメント情報(当期実績)は以下のとおりである。
| 建材事業部 | マーケット事業部 | 不動産事業部 | 共通 | 合計 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 4,514 | 196 | 284 | — | 4,994 |
| 変動費 | 4,303 | 136 | 10 | — | 4,449 |
| 固定費 | 323 | 101 | 30 | 20 | 474 |
| セグメント利益 | -112 | -41 | 244 | -20 | 71 |
また、このような損益分岐点分析の結果を利益計画の資料として使うことには、重大な問題がある。その問題について(b)欄に30字以内で説明せよ。
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設問1(変動費率)建材 95.33% / マーケット 69.39% / 不動産 3.52% / 全社 89.09%
設問2(a)損益分岐点売上高 = 4,345百万円
設問2(b)固定費を一括計上し事業部別の収益構造の違いを反映できない点。(30字)
設問3(a)建材事業部の変動費率 = 91.49%
設問1:変動費率=変動費÷売上高×100
全社は共通固定費20を含めず、変動費合計÷売上高合計で求める。以降はこの四捨五入後の率を利用する指示に従う。
設問2(a):全社BEP(経常段階)
※設問1の率(89.09%)を用いるため4,345。純粋な比率で計算すると4,343となるが、設問の「(設問1)の解答を利用」の指示に従い4,345とする。
検算:4,345×0.1091≒474(限界利益=固定費)で一致。
設問2(b):分析の問題点(30字)
本問は事業部ごとに変動費率が大きく異なる(建材95%/不動産3.5%)。全社一本のBEPは固定費を一括し、各事業部の収益構造・販売構成比の違いを無視するため利益計画資料として不適切、という点を30字に圧縮する。
設問3:目標経常利益250百万円となる建材の変動費率
不動産は不変、マーケット売上は10%増(196→215.6)、建材売上は不変(4,514)。固定費474も不変。目標経常利益250=総限界利益−474より、必要総限界利益=724。
検算:4,514×(1−0.9149)+340=384+340=724、経常利益=724−474=250で目標達成。
D社は、マーケット事業部の損益改善に向けて、木材の質感を生かした音響関連の新製品の製造販売を計画中である。当該プロジェクトに関する資料は以下のとおりである。
| 第1期 | 第2期 | 第3期 | 第4期 | 第5期 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 20 | 42 | 60 | 45 | 35 |
| 原材料費 | 8 | 15 | 20 | 14 | 10 |
| 労務費 | 8 | 12 | 12 | 11 | 6 |
| 減価償却費 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 |
| その他の経費 | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 |
| 販売費 | 2 | 3 | 4 | 3 | 2 |
| 税引前利益 | -7 | 3 | 15 | 8 | 8 |
| 1年 | 2年 | 3年 | 4年 | 5年 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 現価係数 | 0.952 | 0.907 | 0.864 | 0.823 | 0.784 |
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設問1(各期CF)第1期 −0.9 / 第2期 6.1 / 第3期 14.5 / 第4期 9.6 / 第5期 9.6(単位:百万円)
設問2(a)回収期間 = 3.03年
設問2(b)正味現在価値 = 12.63百万円
設問3(a)原材料費と労務費の合計が 10.52% を超えて削減される場合に有利
設問1:各期キャッシュフロー=税引後利益+減価償却
全社の課税所得は十分にあるため、当プロジェクトが赤字(第1期)でも税率30%の節税効果が働く(税引前利益×0.7)。非現金費用の減価償却4を足し戻す。
設問2(a):回収期間(投資額20百万円)
設問2(b):正味現在価値(資本コスト5%)
設問3:高性能設備が有利になる削減率
高性能設備は取得30百万円・減価償却6/年。原材料費+労務費(各期16,27,32,25,16)を率xで削減する。高性能設備のNPVが<資料>設備のNPV(12.63)以上になる境界xを求める。
すなわち原材料費・労務費合計を10.52%超削減できれば、取得原価が10百万円高い高性能設備でもNPVが上回り有利となる。
検算:x=10.52%でNPV高≒12.63となり<資料>設備と一致(境界)。
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設問1(a)メリット配送業務を分離し責任を明確化、損益管理を徹底できる。(26字)
設問1(b)デメリット子会社維持の管理コストが増し、連結手続も煩雑になる。(26字)
設問2在庫情報共有で適正在庫化し棚卸資産を圧縮、配送の効率化で配送コストを削減し、収益性と資金効率が改善する。(52字)
設問1:子会社化のメリット・デメリット(各30字以内)
配送を別法人にする分社化の一般論を、各30字で対にして書く。
- メリット…配送部門の損益・責任が独立して見える化され、採算管理や責任体制の明確化、機動的経営が可能。
- デメリット…別法人としての間接・管理コスト増、連結決算手続の煩雑化、グループ内調整の手間。
設問2:EDI導入の財務的効果(60字)
設問が「財務的効果」と限定。与件第3段落の課題=建材配送の小口化による配送コスト増、非効率な調達・在庫保有による収益性低下に対し、EDIで受発注・在庫情報を共有する効果を財務数値に結びつける。
- 在庫情報の共有 → 適正在庫化で棚卸資産圧縮(第1問で悪化した在庫効率の改善)→資金効率向上。
- タイムリー配送 → 配送コスト削減→収益性向上。
「コスト削減=費用減」「在庫減=資産効率・資金繰り改善」と、必ず財務的な表現で締める。