第11章 資金調達と配当政策

この章のねらい この章は「会社はどうやってお金を集めるか(資金調達)」と「稼いだお金をどう株主に返すか(配当政策)」という、 カネの入口と出口を扱います。前半は資金調達の分類(内部/外部、自己資本/他人資本、直接/間接)という 用語の整理が中心で、ここは確実に得点したい暗記分野です。後半は財務理論の最重要トピック MM理論と、 それに続く財務レバレッジ配当政策配当割引モデルです。

過去問での出方:財務・会計ではほぼ毎年この章のどこかが出ます。とくに MM理論(資本構成と企業価値)は頻出中の頻出で、H27・H29・R02・R03・R05…とほぼ隔年以上のペースで登場します。 配当割引モデル(ゴードン・モデル)も計算問題の常連です。理屈が分かれば得点源にできる一方、 「法人税がある/ない」「配当性向を一定にする/1株配当を一定にする」といった条件の取り違えを突く 引っかけが多いので、条件ごとの結論をセットで覚えるのがコツです。


11-0 この章の地図

この章は「お金を集める(調達)」→「どんな集め方が企業価値に効くか(MM理論)」→ 「負債は株主のもうけを増幅する(レバレッジ)」→「稼ぎをどう返すか(配当)」という順に進みます。 前半(11-1)は用語の暗記、後半(11-2〜11-4)は理論と計算が中心です。

11-1 資金調達の種類          … 内部/外部・自己資本/他人資本・直接/間接(暗記)
   │
11-2 最適資本構成とMM理論     … ★最重要。法人税なし=無関連/あり=節税効果
   │
11-3 財務レバレッジ          … 負債はROEを増幅する(もうけも損も大きく)
   │
11-4 配当政策               … 配当性向・DOE・MM配当無関連・自社株買い・配当割引モデル

💡 この章の"背骨":11-2〜11-4はすべて MM(モジリアーニ=ミラー) の考え方が土台です。 「完全な市場では、資本構成も配当政策も企業価値に影響しない(無関連)。ただし現実には 法人税・倒産コストなどがあるから話が変わる」——この1文を頭に置いて読み進めてください。


11-1 資金調達の種類

会社がお金を集める方法は、切り口を変えて何通りにも分類できます。試験は「この調達手段は、どの分類に入るか」を 細かく問う(H29 第14問、R03 第14問、R06 第13問)ので、3つの切り口を整理しておきましょう。

切り口① 内部金融 と 外部金融

まず、お金を会社の"外"から持ってくるか、"内"で生み出すかで分けます。

分類 意味 代表例
内部金融(自己金融) 会社の内部で生み出した資金でまかなう 利益留保(内部留保)減価償却
外部金融 会社の外部から調達する 株式発行、社債発行、借入金、企業間信用
  • 利益留保(内部留保):稼いだ利益のうち、配当せずに社内にためたお金。
  • 減価償却が内部金融に入る理由がつまずきポイントです。減価償却費は費用として利益を減らしますが、 実際にお金が社外に出ていくわけではありません(現金は会社に残る)。その分だけ資金が社内に留保される 効果があるので、内部金融(自己金融)に分類します。

⚠️ 混同注意:減価償却は「調達」? 「減価償却がなぜ資金調達なのか」と戸惑う人が多いですが、現金が出ていかない費用=その分の 資金が会社に残る、という意味で内部金融に含めます。外部金融ではない(外からお金は来ていない) ——ここがR03・R06で繰り返し問われました。

切り口② 自己資本 と 他人資本

次に、返さなくてよいお金か、いつか返すお金かで分けます。

分類 意味 代表例 返済
自己資本(エクイティ) 株主から集めた・株主に帰属するお金 株式発行(増資)、利益留保 返済不要
他人資本(デット) 債権者から借りたお金 社債、借入金、企業間信用 返済義務あり(利子も払う)
  • 自己資本には返済義務がなく、コストは「配当」というかたちで払う(払わなくても倒産はしない)。
  • 他人資本には返済義務と利子の支払いがあり、払えなければ倒産につながる。この違いがMM理論やレバレッジの 話につながります

切り口③ 直接金融 と 間接金融(外部金融の中の分類)

外部金融は、さらに「お金の出し手と会社が直接つながるか、銀行などが間に入るか」で分けます。

分類 意味 代表例
直接金融 投資家から直接お金を集める 株式発行、社債発行
間接金融 銀行などが間に入って資金を仲介 銀行借入

⚠️ ここが定番の引っかけ(R03 第14問) 「増資で発行した株式を銀行が買った場合は間接金融か?」→ No、直接金融。 銀行が"買い手(投資家)"として株を取得しても、会社から見れば投資家から直接お金を集めているので直接金融です。 「銀行が関わる=間接金融」ではありません。間接金融は"銀行がお金を貸す(融資する)"ときです。 同様に転換社債も、社債である間は投資家から直接調達する直接金融です。

短期資金調達 と 長期資金調達

もう一つ、返済・支払いまでの期間による分類もあります(H23 第14問)。

分類 目安 代表例
短期資金調達 おおむね1年以内 買掛金・支払手形(企業間信用)コマーシャルペーパー(CP)手形借入金、当座借越
長期資金調達 1年超 株式(増資)、社債、長期借入、ファイナンス・リース優先株式
  • コマーシャルペーパー(CP):優良企業が短期の資金調達のために発行する、無担保の約束手形。短期です。
  • 企業間信用(買掛金・支払手形)は、仕入代金の支払いを後払いにすることで実質的にお金を借りているのと 同じ効果を持つ、代表的な短期調達です。
  • ファイナンス・リース優先株式長期の調達手段に分類されます。

📝 過去問はこう出る(H29 第14問/R03 第14問/R06 第13問) いずれも「この調達手段はどの分類か」を問う知識問題です。 - H29 第14問:資金調達は大きく「外部金融」と「内部金融」に分かれ、外部の代表が株式発行、 内部の代表が利益留保。正解はこの対応(ア)。 - R03 第14問:正解は「減価償却は内部金融」(イ)。株式分割は資金調達ではない/銀行が株を買っても 直接金融、が引っかけ。 - R06 第13問:正解は「企業間信用とCPは短期・外部金融」(イ)。減価償却を外部金融、留保利益を 内部金融と正しく置けるかが分かれ目。 → H29 第14問R03 第14問R06 第13問H23 第14問


11-2 最適資本構成とMM理論 ★最重要

そもそも「資本構成」とは

資本構成とは、会社の資金を「負債(他人資本)」と「自己資本」のどんな割合で調達しているか、のことです。 「負債を多くした方が会社の価値(企業価値)は上がるのか、下がるのか、それとも関係ないのか?」—— この問いに答えたのが MM理論(モジリアーニ=ミラーの理論) です。

MM理論は2つの世界をセットで覚えるのが最大のコツです。

① 法人税が「ない」世界 = 資本構成は無関連(MM第1命題)

完全な資本市場(税金なし・取引コストなし・情報格差なしなど、理想的な市場)を仮定すると、 MM理論はこう結論します。

企業価値は、資本構成(負債と自己資本の割合)に影響されない。 企業価値は、その会社の事業が生み出すキャッシュフロー事業のリスクだけで決まる。

これを MM第1命題(資本構成の無関連命題) といいます。イメージは「ピザの切り方」です。

   企業価値(ピザ全体の大きさ)=事業が生むキャッシュフローで決まる
        │
        ├─ 負債(債権者の取り分)  ┐
        │                        ├─ 切り方(=資本構成)を変えても
        └─ 自己資本(株主の取り分)┘   ピザ全体の大きさは変わらない
  • ピザを「負債6:自己資本4」に切っても「負債2:自己資本8」に切っても、ピザ全体(企業価値)の大きさは同じ
  • だから最適資本構成(企業価値が最大になる特別な負債割合)は存在しない
  • 投資の切捨率(資本コスト)も、資金調達方法によらず一定に決まります。

📝 過去問はこう出る(R02 第24問) 「法人税は存在しない」と仮定したMM理論の問題。正解は 「投資のための切捨率は、資金調達方法にかかわりなく、一意に決定される」(エ)。 「最適資本構成が存在する」「資本構成が企業価値に影響を与える」は、いずれもMM第1命題の逆でバツ。 → R02 第24問

② 法人税が「ある」世界 = 負債の節税効果で企業価値が上がる(修正MM命題)

現実には法人税があります。ここが重要な転換点です。

負債の利子(支払利息)は費用として扱われ、その分だけ利益が減り、税金が安くなります。 この「負債を使うと税金が減る」効果を 節税効果(タックスシールド) といいます。 自己資本のコストである配当には、こうした節税効果はありません(配当は税引後利益から払うため)。

その結果、法人税がある世界では次のようになります。

負債を増やすほど、節税効果の分だけ企業価値が高まる。 (借入企業の価値)=(無借金企業の価値)+(負債額 × 実効税率

この「+(負債額×税率)」の部分が、節税効果の現在価値です。

企業価値
  ↑
  │              / ← 負債を増やすほど価値UP(節税効果の分)
  │           /
  │        /
  │_____/
  └──────────────→ 負債比率
   0%                    100%
   理論上は「負債比率100%」で企業価値が最大

📝 過去問はこう出る(H29 第17問) 「税金が存在する場合のMM理論」の問題。正解は 「節税効果による資本コストの低下により、借入金のある企業の企業価値の方が高くなる」(ウ)。 ポイントは2つ:①方向は「借入企業の価値が高い」、②節税効果は資本コストを「上昇」ではなく「低下」させる。 「資本コストの上昇」と書いた選択肢はバツ。 → H29 第17問

③ 現実の最適資本構成 = 節税効果と倒産コストのトレードオフ

「法人税があるなら負債100%が最強では?」——理論上はそうですが、現実にはそうなりません。 負債を増やしすぎると、次のコストが無視できなくなるからです。

  • 財務的困難のコスト(倒産コスト):負債が多いと利子や返済の負担が重くなり、 債務不履行(デフォルト)リスクが高まる。
  • リスクが高まると、債権者も株主も「より高いリターン」を要求するようになり、資本コストが上がる。

そこで実際には、

負債の「節税効果」(プラス)と、「デフォルトリスク・倒産コスト」(マイナス)の トレードオフを考えて、企業価値が最大になる最適資本構成を探す。

というのが現実的な結論です(トレードオフ理論)。

📝 過去問はこう出る(H27 第13問) MM理論の空欄補充問題。整理すると—— - 法人税を許容すると、負債の増加は「A:節税効果」を通じて企業価値を「B:高める」。 企業価値が最大になるのは負債比率「C:100%」(設問1の正解はウ)。 - 一方で負債比率が高まると「D:デフォルトリスク」が高まり、投資家は「E:より高い」リターンを求める。 結果、節税効果とデフォルトリスクの「F:トレードオフ」を考える(設問2の正解はエ)。 → H27 第13問

💡 MM理論の"2つの世界"早見表

前提 結論 キーワード
法人税なし(完全市場) 資本構成は企業価値に無関連 ピザの切り方/最適資本構成なし
法人税あり(修正MM) 負債を増やすほど価値UP(理論上100%が最大) 節税効果=負債額×税率
現実(トレードオフ) 節税効果と倒産コストのバランスで最適点 トレードオフ

11-3 財務レバレッジ

財務レバレッジ=「てこ」の効果

財務レバレッジとは、負債(他人資本)を使うことで、株主のもうけ(ROE)を増幅させる効果のことです。 「レバレッジ(leverage)」は英語で「てこ」。小さな力(自己資本)で大きなもの(総資産)を動かすイメージです。

ポイントはこうです。

借りたお金で稼ぐ利回り(総資本利益率)が、借入の金利より高ければ、 差額のもうけが全部株主のものになる。だから負債を使うほどROE(自己資本利益率)は上がる。

ただし、これは両刃の剣です。業績が良いときはROEを大きく押し上げますが、業績が悪いときは 逆にROEを大きく押し下げます。負債は「もうけも損も増幅する」——これが財務レバレッジのリスクです。

計算で体感する(H24 第17問・設問1)

過去問の数字で、レバレッジがROEを押し上げる様子を見てみましょう。

〔前提〕 総資本10億円、税引前総資本営業利益率12%(=税金なしの前提)、負債利子率6%。

ステップ1:営業利益を出す - 営業利益=総資本10億円 × 12% = 1.2億円

ステップ2:無借金のときのROE(比較用) - 全額が自己資本(10億円)なら、ROE=1.2億円 ÷ 10億円 = 12%(=総資本営業利益率と同じ)

ステップ3:負債4:自己資本6に変えたときのROE - 支払利息=負債4億円 × 6% = 0.24億円 - 株主に帰属する利益=1.2億円 − 0.24億円 = 0.96億円 - ROE=0.96億円 ÷ 自己資本6億円 = 16%

無借金なら12%だったROEが、負債を使うことで16%に上昇しました。これが財務レバレッジの効果です。

⚠️ 引っかけ:この問題では「6%(=利子率そのもの)」「12%(=無借金時のROE)」「18%(利息控除ミス)」 といった誤答が並びます。「株主のもうけ ÷ 自己資本」という式を正しく組み立てれば16%にたどり着けます。

ROEを分解して理解する(H30 第21問)

ROEは次のように分解でき、負債が多いほどROAの変動がROEに増幅されて効くことが分かります。

ROE = ROA(総資産利益率)× 財務レバレッジ(総資産 ÷ 自己資本)
                                 ↑
                        負債が多いほどこの値が大きくなり、
                        ROAの変動をROEに"増幅"して伝える

H30 第21問では、ROA(営業利益÷総資産)が15%に上がったときのROEを計算させました。

〔前提〕 総資産1,500百万円(有利子負債1,000+自己資本500)、支払利息50百万円、税率40%。

  • 営業利益=1,500 × 15% = 225百万円
  • 税引前利益=225 − 支払利息50 = 175百万円
  • 税引後利益=175 × (1−40%) = 105百万円
  • ROE=105 ÷ 自己資本500 = 21%

そして「ROAの変動に対してROEの変動を大きくする要因」を選ぶ設問の正解は 負債比率(財務レバレッジ)でした。 安全余裕率(CVP分析)・売上高営業利益率(収益性)・流動比率(短期安全性)はどれもレバレッジとは無関係で、 引っかけです。

📝 過去問はこう出る(H24 第17問/H30 第21問) - H24 第17問・設問1:資本構成を負債4:自己資本6にしたときのROEは16%(ウ)。 同・設問2は負債の節税効果(負債4億円×税率40%=1.6億円=16,000万円の企業価値上昇、エ)で、 11-2の修正MM命題そのものです。 - H30 第21問:ROA15%のときROEは21%(設問1=イ)。ROEの変動を増幅する要因は負債比率(設問2=ウ)。 → H24 第17問H30 第21問


11-4 配当政策

会社が稼いだ利益を「どれだけ株主に配当として返し、どれだけ社内に留保するか」の方針が配当政策です。 ここでは指標の使い分けMM配当無関連命題自社株買い配当割引モデルを扱います。

配当まわりの4つの指標

まず、名前と式を正確に区別しましょう(H20・H22・R04・R05・H19で頻出)。

指標 見ているもの
配当性向 配当金 ÷ 当期純利益(=1株配当 ÷ 1株利益(EPS)) 利益のうち何%を配当に回したか
配当利回り 1株配当 ÷ 株価 株価に対する配当の割合(投資家目線)
自己資本配当率(DOE) 配当金 ÷ 自己資本 = ROE × 配当性向 資本効率と還元のバランス
内部成長率 ROE × 内部留保率(=ROE×(1−配当性向)) 配当せず社内に残した分でどれだけ成長できるか

⚠️ 混同注意(H22 第19問)DOE=ROE×配当性向内部成長率=ROE×内部留保率。 どちらも「ROE×何か」なので混同しがち。DOEは"還元"、内部成長率は"留保"とセットで覚えましょう。

配当政策の種類:「何を一定にするか」で結論が変わる

配当政策は「何を一定に保つか」で性質が真逆になります。試験はここの取り違えを狙います。

政策 一定にするもの 利益が変動すると…
安定配当政策(1株配当を一定) 1株当たり配当額 配当性向が変動する
業績連動型(配当性向を一定) 配当性向 1株配当額が変動する
自己資本配当率(DOE)一定 DOE(=配当÷期首自己資本) 配当額は当期利益と無関係に確定
残余配当政策 (投資に必要な分を留保し)残りを配当 配当額・配当性向とも変動

考え方はシンプルです。「配当性向=配当÷利益」という式で、分子(配当)と分母(利益)のどちらを 固定するかを考えればよいのです。

  • 分子(1株配当)を固定 → 分母(利益)が動くと配当性向(比率)が動く = 安定配当政策
  • 比率(配当性向)を固定 → 利益が動くと分子(配当額)も動く = 業績連動型

📝 過去問はこう出る(H20 第17問/R04 第23問/R06 第15問/H22 第19問) - H20 第17問:「配当性向一定なら1株配当は変動」「1株配当一定なら配当性向は変動」の組み合わせ(エ)が正解。 - R04 第23問:正解は「DOE一定政策では、配当額=一定率×"期首"自己資本なので、当期利益に かかわらず配当額は一定」(イ)。期首自己資本は当期の利益と無関係に確定している点がミソ。 - R06 第15問:業績連動型は「配当性向は安定、1株配当額の変動は大きい」(ウ)。安定配当との対比。 - H22 第19問:業績連動型で安定するのは配当性向(A)、ROE×配当性向は株主資本配当率(DOE)(B)で正解はイ。 → H20 第17問R04 第23問R06 第15問H22 第19問

1株当たり配当を計算する(R05 第14問)

配当性向とROEから1株配当を求める、典型的な計算問題です。

〔前提〕 期首自己資本3,000万円、ROE 5%、配当性向40%、発行済株式数20万株。

ステップ1:当期純利益 - 当期純利益=期首自己資本3,000万円 × ROE 5% = 150万円

ステップ2:配当総額 - 配当総額=当期純利益150万円 × 配当性向40% = 60万円

ステップ3:1株当たり配当 - 1株配当=配当総額60万円 ÷ 20万株 = 3円

⚠️ 引っかけ:1株利益(150万÷20万=7.5円)と、1株配当(3円)を取り違えないこと。 「配当性向を掛ける」工程を忘れると誤答します。

MM配当無関連命題 と 自社株買い

完全な市場(税・取引コストなし)では、配当政策は株主の富に影響しない——これを MM配当無関連命題といいます。11-2の資本構成の話と同じ「MMの発想」が、配当にも当てはまるのです。

イメージは「財布の中身」です。会社が現金配当をすると、その分だけ会社の価値(株価)が下がります。 株主は「配当としてもらった現金」+「値下がりした株」を持つことになり、トータルの富は変わりません

📝 過去問はこう出る(H23 第17問) 完全市場(税・取引コストなし)で、現金1,000万円を保有するE社(発行済100万株、株価100円)の配当を考える問題。 - 設問1:現金1,000万円を全額配当すると、企業価値がその分減って9,000万円になり、 株価は9,000万円÷100万株=90円に下落(配当前100円から10円下落、イ)。 株主は「配当10円+株価90円=100円」で、富は変わらない。 - 設問2:現金配当と、同じ現金での自己株式買戻し(自社株買い)は、既存株主の得る価値に 差異は生じない(ア)。完全市場では両者は等価。 → H23 第17問

💡 自社株買い(自己株式の取得)のポイント 会社が自社の株を買い戻すこと。配当と並ぶ株主還元の手段です。 - 発行済株式数が減るので、1株当たり利益(EPS)やROEが上がる効果があります。 - 完全市場では配当と等価(H23 第17問)ですが、現実には課税タイミングなどの違いから使い分けられます。

配当割引モデル(DDM)― 頻出の計算

配当割引モデル(Dividend Discount Model:DDM) は、「株の理論価格は、 その株が将来生み出す配当を、現在価値に割り引いて合計したもの」と考える評価方法です。 とくに配当が毎年一定率gで成長すると仮定した 定率成長モデル(ゴードン・モデル) が頻出です。

【ゴードン・モデルの公式】 理論株価 P = 来期の予想配当 D₁ ÷(資本コスト r − 成長率 g)

最大の注意点は、分子が「来期(1年先)の配当 D₁」であって、今期末に払った配当ではないことです。

〔計算例:H29 第18問〕 前期末配当120円、定率成長率2%、資本コスト6%のとき。

ステップ1:来期の予想配当D₁を出す(← ここを忘れやすい) - D₁=120円 × (1+0.02) = 122.4円

ステップ2:公式に当てはめる - P=122.4 ÷ (0.06 − 0.02) = 122.4 ÷ 0.04 = 3,060円

⚠️ 引っかけ:分子に成長を反映せず「120÷0.04=3,000円」とすると誤答(過去問の誤答選択肢そのもの)。 必ず来期配当(D₁=当期配当×(1+g))を使うことを徹底しましょう。

公式を"逆に"使う ― 資本コストを求める(H21 第13問)

同じ公式を r(資本コスト)について解くと、株価から資本コストを逆算できます。

r = D₁ ÷ P + g(配当利回り + 成長率)

〔計算例:H21 第13問〕 次期配当D₁=50円、成長率g=8%、現在株価P=1,000円。 - r=50 ÷ 1,000 + 8% = 5% + 8% = 13%

⚠️ 引っかけ:配当利回り(5%)だけ、または成長率(8%)だけで止めると誤答。両方を足すのが正解。

二段階成長モデル(発展・R03 第21問)

「最初の数年は高成長→その後は低成長で一定」というように、成長率が途中で変わる場合は、 各期の配当を個別に割り引き、一定成長に入る時点でゴードン・モデルで継続価値を出して割り引く、 という2段階で計算します。R03 第21問がこのタイプで、正解は590円でした。計算はやや複雑ですが、 「個別割引 + 継続価値(ゴードン・モデル)の割引」という骨格を押さえておけば対応できます。

📝 過去問はこう出る(H29 第18問/H21 第13問/R03 第21問) - H29 第18問:ゴードン・モデルで理論株価3,060円(ウ)。分子は来期配当122.4円。 - H21 第13問:公式をrについて解き、資本コスト13%(エ)=配当利回り5%+成長率8%。 - R03 第21問:二段階成長モデルで理論株価590円(イ)。 → H29 第18問H21 第13問R03 第21問


この章のまとめ(試験直前チェック)

  • ☐ 資金調達の3つの切り口:内部/外部金融自己資本/他人資本直接/間接金融
  • 減価償却は内部金融(自己金融)(現金が出ていかない=社内に残る)/外部金融ではない
  • 直接金融=株式・社債間接金融=銀行借入(銀行が"株を買う"のは直接金融)
  • 短期資金調達=企業間信用・CP・手形借入/ファイナンス・リース・優先株式は長期
  • MM理論(法人税なし)=資本構成は企業価値に無関連(第1命題/ピザの切り方/最適資本構成なし)
  • MM理論(法人税あり)=負債の節税効果で企業価値UP、企業価値=無借金価値+負債額×税率(理論上100%が最大)
  • ☐ 節税効果は資本コストを低下させる("上昇"は引っかけ)
  • ☐ 現実は節税効果 と 倒産(デフォルト)コストのトレードオフで最適資本構成を決める
  • 財務レバレッジ:負債でROEを増幅(もうけも損も大きく)。ROE=ROA×(総資産÷自己資本)
  • ☐ ROEの変動を増幅する要因は負債比率(安全余裕率・流動比率は無関係)
  • ☐ 配当指標:配当性向=配当÷利益配当利回り=配当÷株価DOE=ROE×配当性向内部成長率=ROE×内部留保率
  • ☐ 配当政策は「何を一定にするか」で結論が逆:安定配当→配当性向が変動/業績連動→1株配当が変動
  • MM配当無関連命題:完全市場では配当政策は株主の富に影響しない(配当分だけ株価が下がる)。自社株買いも配当と等価
  • ゴードン・モデル:P=D₁÷(r−g)。分子は来期配当(当期配当×(1+g))/rを解けば r=D₁/P+g

この章に対応する主な過去問

年度・問 論点 リンク
H29 第14問 資金調達の分類(外部・内部金融) 問題
R03 第14問 資金調達の形態(直接・間接/内部金融) 問題
R06 第13問 資金調達の分類(短期・外部金融) 問題
H23 第14問 短期資金調達の識別 問題
H27 第13問 MM理論と最適資本構成(節税効果・トレードオフ) 問題
H29 第17問 MM理論(税金あり・節税効果) 問題
R02 第24問 MM理論(税金なし・無関連命題) 問題
H24 第17問 財務レバレッジとROE・負債の節税効果 問題
H30 第21問 ROA・ROEの分解(財務レバレッジ) 問題
H20 第17問 配当政策(配当性向と1株配当) 問題
R04 第23問 配当政策(DOE一定・残余配当) 問題
R06 第15問 業績連動型の配当政策 問題
H22 第19問 配当性向・株主資本配当率(DOE) 問題
R05 第14問 1株当たり配当(ROE・配当性向) 問題
H23 第17問 MM配当無関連命題・自社株買い 問題
H29 第18問 配当割引モデル(定率成長) 問題
H21 第13問 配当割引モデル(資本コストの逆算) 問題
R03 第21問 配当割引モデル(二段階成長) 問題

次章予告 ▶ 第12章「証券投資とポートフォリオ」 本章では「1社の資金調達と価値」を見ました。次章では視点を投資家側に移し、複数の資産に分散投資する ポートフォリオ理論を扱います。期待収益率とリスク(標準偏差)、分散投資によるリスク低減、 そして頻出の CAPM(資本資産評価モデル) と β(ベータ)まで、リスクとリターンの関係を学びます。