第10章 投資意思決定
この章のねらい 「この設備を買うべきか」「どのプロジェクトに投資すべきか」を、数字で判断するための章です。 カギになるのは、将来のお金は、いま手元にあるお金より価値が低いという「お金の時間価値」の考え方。 これを使って将来のキャッシュフロー(現金の出入り)を"いまの価値"に直し、投資が得か損かを測ります。
過去問での出方:財務・会計のほぼ毎年、第16〜22問あたりで出題される最頻出テーマです。 出方は大きく2つ。①NPV・IRR・回収期間の計算問題(現価係数表を使って電卓なしで解く)と、 ②各手法の長所・短所や優劣を問う知識問題。計算は「手順」を体で覚えれば確実に得点でき、 投資意思決定はこの科目最大の得点源になります。減価償却の節税効果(タックスシールド)を 忘れないことが、合否を分ける最大のポイントです。
10-0 この章の地図
この章は、まず「お金の時間価値」という土台を押さえ、そのうえで4つの投資判断の道具を順番に学びます。 最後に、その道具に入れる「キャッシュフローの数字をどう見積もるか」を扱います。
10-1 正味現在価値法(NPV) … ★最重要。将来CFを割り引いて合計し、投資額と比べる
│ (お金の時間価値/複利現価係数・年金現価係数)
10-2 内部収益率法(IRR)・収益性指数(PI) … NPV=0の割引率/投資効率/NPVとの優劣
│
10-3 回収期間法・会計的利益率法 … 時間価値を無視する"簡便法"。長所と短所
│
10-4 投資キャッシュフローの見積り … 増分CF・税引後・減価償却の節税効果・運転資本
- 10-1〜10-3が「判断の道具(ものさし)」、10-4が「そのものさしに入れる数字の作り方」です。
- 試験では「10-4で正しくCFを作り → 10-1のNPVで判定する」という合わせ技が頻出です(R07 第18問など)。
10-1 正味現在価値法(NPV)★最重要
まず土台:「お金の時間価値」
いま手元の100万円と、1年後にもらえる100万円は、同じ価値でしょうか。 違います。いまの100万円は、銀行に預けたり投資したりすれば1年後には増えます。 逆にいえば、将来のお金は、いまの価値に直すと目減りするのです。これを「お金の時間価値」といいます。
将来のお金を"いまの価値"に直す作業を 割引(わりびき) といい、直した後の金額を 現在価値(PV:Present Value) と呼びます。
💡 割引の式(割引率をr、n年後の金額をCとすると) $$現在価値 PV = \frac{C}{(1+r)^n}$$ 例:割引率5%のとき、1年後の100万円のPV = 100 ÷ 1.05 = 約95.2万円
電卓なしで解くための「現価係数表」
試験では割り算を毎回するのは大変なので、現価係数表が問題に添付されます。使う係数は2種類です。
| 係数の名前 | 意味 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 複利現価係数 | 「n年後の1円」の現在価値 | その年だけに発生するCF(例:5年後の売却額) |
| 年金現価係数 | 「毎年1円がn年間続く」ときの現在価値の合計 | 毎年同額のCFが続くとき(まとめて割引ける) |
- 年金現価係数は、複利現価係数の"積み上げ(累計)"です。 例:3年の年金現価係数 = 1年目+2年目+3年目の複利現価係数の合計。
- 逆に、ある単年の複利現価係数は「その年までの年金現価係数」−「前年までの年金現価係数」で取り出せます。
📝 過去問はこう出る(R02 第17問) 「2期の年金現価係数から1期の年金現価係数を引くと、2期末の複利現価係数が求まる」ことを問う問題。 年金現価係数1.7833(2期)−0.9259(1期)=0.8574=2期末の複利現価係数、が正解。 「年金現価係数=複利現価係数の累計」という関係を押さえていれば一発です。 → R02 第17問
正味現在価値法(NPV)とは
正味現在価値(NPV:Net Present Value) とは、
将来のキャッシュフローをすべて現在価値に割り引いて合計し、そこから初期投資額を差し引いた金額
です。「正味(ネット)」=「入ってくるお金の現在価値」から「出ていく初期投資」を差し引いた"手取り"、という意味です。
$$NPV = (将来CFの現在価値の合計)- 初期投資額$$
判定ルール(ここは丸暗記)
| 場面 | ルール |
|---|---|
| 単独の投資案(やるか・やめるか) | NPV > 0 なら採択、NPV < 0 なら却下 |
| 複数の投資案から1つ選ぶ(相互排他的) | NPVが最大の案を採択 |
NPVがプラスということは、「投資額を上回る価値を生む=企業価値を増やす」という意味。 だからNPV法は、企業価値の最大化という財務の目的にいちばん忠実な、最も理論的に正しい手法とされます。
計算の実演①:シンプルなNPV
例題:初期投資300万円。毎年120万円のCFが3年間得られる。割引率10%。年金現価係数(3年・10%)=2.487。
手順1 毎年同額のCFなので、年金現価係数でまとめて割引く。 将来CFの現在価値 = 120万円 × 2.487 = 298.4万円 手順2 初期投資を引く。 NPV = 298.4万円 − 300万円 = −1.6万円 手順3 判定。NPV < 0 なので、この投資は却下。
計算の実演②:税金・減価償却まで含めたNPV(本試験レベル)
実際の試験(R07 第18問)では、税引後のCFを自分で組み立てる必要があります。手順を丸ごと覚えましょう。
例題(R07 第18問を簡略化):初期投資150,000千円。耐用年数5年、残存価額は取得原価の10%(=15,000千円)、定額法。 5年末に残存価額15,000千円で売却。毎年の売上160,000/変動費60,000/現金業務費用40,000(すべて千円)。 実効税率30%。資本コスト5%(年金現価係数4.32、複利現価係数[5年]0.78)。
手順1 年間の減価償却費を出す (取得原価150,000 − 残存価額15,000)÷ 5年 = 27,000/年
手順2 税引前の利益を出す(減価償却費も費用として引く) 160,000 − 60,000 − 40,000 − 27,000 = 33,000
手順3 税引後利益にする 33,000 ×(1 − 0.30) = 23,100
手順4 減価償却費を足し戻して「年間キャッシュフロー」にする(← 最重要) 減価償却費は現金が出ていかない費用なので、CFに戻す。 年間CF = 23,100 + 27,000 = 50,100
手順5 現在価値に割り引く 毎年のCF = 50,100 × 4.32(年金現価係数)= 216,432 5年末の売却額 = 15,000 × 0.78(複利現価係数)= 11,700
手順6 NPVを計算 NPV = −150,000 + 216,432 + 11,700 = +78,132千円 → NPV>0 で採択。
⚠️ つまずきポイント:減価償却費の"往復" 減価償却費は、手順2で利益を減らすために引き(→ 税金が減る)、手順4で現金は出ていないから足し戻す。 この「引いて→足し戻す」の往復を忘れると答えがまったく合いません。この節税の仕組みがタックスシールド(10-4)です。
📝 過去問はこう出る(R07 第18問) 上の手順そのまま。正解は78,132千円。売却額の残存価額と簿価が一致するので売却損益はゼロ、 追加の税金は発生しない点も落とし穴です。 → R07 第18問
📝 過去問はこう出る(H27 第16問) 複数の投資案(①〜④)について、割引率のもとでNPVを計算し採否を判定させる問題。 各案のCFに複利現価係数を掛けて現在価値を合計し、初期投資と比較する――NPV法の基本動作を 4案ぶん反復する練習になります。 → H27 第16問
10-2 内部収益率法(IRR)・収益性指数(PI)
内部収益率(IRR)とは
内部収益率(IRR:Internal Rate of Return) とは、
その投資のNPVがちょうどゼロになる割引率
のことです。言いかえると、「この投資が生み出す利回り(%)」。 NPVが「金額(円)」で有利さを測るのに対し、IRRは「利回り(%)」で測ります。
判定ルール
| 場面 | ルール |
|---|---|
| 単独の投資案 | IRR > 資本コスト(ハードルレート)なら採択 |
| ― | IRR < 資本コスト なら却下 |
「投資の利回り(IRR)が、資金を集めるコスト(資本コスト)を上回るなら儲かる」という、直感的にわかりやすい考え方です。
計算の実演:均等CFのIRR
毎年同額のCFなら、IRRは年金現価係数から逆引きできます。
例題(H28 第17問のプロジェクト②):初期投資500、毎年200が3年間。
手順1 NPV=0 とは「将来CFの現在価値=初期投資」ということ。 200 × 年金現価係数 = 500 手順2 年金現価係数について解く。 年金現価係数 = 500 ÷ 200 = 2.5 手順3 係数表で「年金現価係数が2.5になる割引率」を探す。 表より9%で2.531、10%で2.487。2.5はこの間 → IRRは約9.7%。
📝 過去問はこう出る(H28 第17問) 3つのプロジェクトをIRRの高い順に並べる問題。②のIRRを上の手順で約9.7%と求め、 ①8.5%・③7.6%と比べると ②>①>③ が正解(ウ)。 IRRは「NPV=0の割引率」「高いほど優先」を押さえていれば解けます。 → H28 第17問
NPVとIRRの「優劣」――ここが知識問題の急所
単独の投資案なら、NPV法とIRR法は同じ結論になります(NPV>0 と IRR>資本コスト は同じこと)。 実際、R06 第17問では、あるプロジェクトについて「NPVで採択/IRRでも採択」となり、両手法の結論が一致しました。
問題は、相互排他的な投資案(複数から1つ選ぶ)で順位が食い違うケースです。
割引率が低い ──────────────→ 割引率が高い
┌──────────┬──────────┐
NPV法:A案が有利 │ フィッシャーの │ B案が有利
│ 交点(差額IRR)│
IRR法:B案のほうがIRRが高い(=順位が逆転しうる)
- なぜ食い違う?:投資規模やCFのタイミングが違うと、金額で測るNPVと利回りで測るIRRで 順位が変わることがあります。深い理由は「再投資収益率の前提の違い」。
- NPV法:途中のCFは資本コストで再投資すると仮定
- IRR法:途中のCFはそのIRR自体で再投資すると仮定(現実離れしやすい)
- どちらを優先?:企業価値の最大化の観点からはNPV法が正しい。 IRR法で相互排他的投資案を選ぶと、企業価値最大の案を選び損ねることがあります。
順位が逆転したときの解き方:差額(増分)分析
順位が食い違ったときは、2案の差額キャッシュフローを作り、その差額のNPV(または差額のIRR)で判定します。
📝 過去問はこう出る(H30 第22問) A案(IRR14.7%・NPV18.4万円)とB案(IRR17.1%・NPV13.4万円)で、IRRはB・NPVはAと逆転。 - 設問1:逆転の理由は「再投資における収益率の相違」(ウ)。両者ともDCF法なのでエは誤り。 - 設問2:企業価値最大化からはNPVの大きいA案を採択(①)。根拠は「差額投資案A−Bを作り、その NPVまたはIRRを計算する」差額分析(ア)。 → H30 第22問
📝 過去問はこう出る(H26 第16問) X案・Y案で「割引率10%ではNPVはY案が高いが、IRRはX案が上」という逆転。差額CF(Y−X)のIRRは10.55%。 割引率10%<10.55%なので差額NPVはプラス(A)→ Y案を採択(B)。正解はイ。 「差額のIRRより割引率が低ければ差額NPVはプラス」という関係が急所です。 → H26 第16問
収益性指数(PI)とは
収益性指数(PI:Profitability Index) は、投資額1円あたり、どれだけの現在価値を生むかを示す指標です。
$$PI = \frac{将来CFの現在価値の合計}{初期投資額}$$
- PI > 1 なら採択(=現在価値が投資額を上回る=NPVプラスと同じこと)。
- 投資額あたりの効率を見るので、予算に上限があるとき(限られたお金で最大の効果を狙う)に有効。
- ただし相互排他的でNPV(金額)とPI(効率)が食い違うことがあり、そのときも企業価値最大化ならNPV優先が原則。
📝 過去問はこう出る(R03 第19問) 設備A〜Cから相互排他的に1つ選ぶ問題。 - NPV(=現在価値−初期投資):A=1,100/B=1,500/C=1,400 → 最大はB - PI(=現在価値÷初期投資):A≒1.25/B=1.30/C=1.35 → 最大はC NPV法では規模の大きいB、PI法では効率の高いCと結論が分かれる典型例。正解はエ(NPV法=B、PI法=C)。 → R03 第19問
⚠️ 混同注意:IRRの「複数解」問題 毎年のCFの符号(プラス・マイナス)が複数回入れ替わると、IRR(NPV=0の割引率)が複数個出てしまい、 判断できなくなることがあります。これはIRR法の欠点。 一方NPV法は、割引率を決めれば答えが1つに定まるので、この問題は起きません(R04 第21問の引っかけ)。
10-3 回収期間法・会計的利益率法(時間価値を無視する簡便法)
NPV・IRRは「お金の時間価値」を考える精密な方法でした。ここで学ぶ2つは、時間価値を無視する代わりに計算がラクな、実務でよく使われる簡便法です。長所と短所を対で覚えます。
回収期間法(ペイバック法)
回収期間法とは、投資額を何年で回収できるかを計算し、目標年数より短ければ採択する方法です。
$$回収期間 = \frac{初期投資額}{年間キャッシュフロー}$$
| 長所 | 短所 |
|---|---|
| 計算が簡単で直感的 | お金の時間価値を無視する |
| 短いほど資金繰り・安全性の面で安心 | 回収後のCFを完全に無視する(回収後に大きく儲かる案を見落とす) |
| リスクの目安になる | 目標回収期間の設定に理論的根拠がない |
📝 過去問はこう出る(H25 第18問) 取得原価4,500万円(耐用年数5年・残存ゼロ・定額法)、税率40%、目標回収期間3年。 採択に最低限必要な年間コスト低減額Xを求める問題。回収期間法でも、CFは税引後で・減価償却の節税効果込みで作るのがカギ。 - 年間減価償却費 = 4,500 ÷ 5 = 900万円 - 年間CF = 税引後の低減効果 0.6X + 減価償却の節税効果(900×0.4=360) - 4,500 ÷(0.6X+360) ≦ 3 → 0.6X+360 ≧ 1,500 → X ≧ 1,900万円(正解エ) 「回収期間法だからCFは単純」と油断せず、税引後CF+タックスシールドで作る点が引っかけです。 → H25 第18問
⚠️ 混同注意:回収期間とIRRに一定の関係はない 「回収期間が短いほどIRRが高い」は誤り。回収後のCF次第でIRRは大きく変わるからです(R04 第21問の選択肢aがバツ)。
会計的利益率法(ARR:会計的投資利益率法)
会計的利益率法とは、投資によって得られる会計上の平均利益 ÷ 投資額で利益率を求め、目標率と比べる方法です。
$$会計的利益率 = \frac{年平均の会計利益}{投資額(または平均投資額)}$$
| 長所 | 短所 |
|---|---|
| 財務諸表の利益をそのまま使え、わかりやすい | お金の時間価値を無視する |
| 経営者になじみのある「利益率」で表現できる | キャッシュフローではなく会計利益を使う(減価償却の配分などに左右される) |
💡 覚え方:4手法のいちばんの違いは「割引くか」「CFか利益か」 - NPV・IRR・PI=時間価値を考える(=割引く)/キャッシュフローベース … 精密 - 回収期間法=時間価値を無視/キャッシュフローベース … 簡便 - 会計的利益率法=時間価値を無視/会計利益ベース … 最も簡便
📝 過去問はこう出る(R04 第21問) 各手法の特徴の正誤を組み合わせる問題。正しいのは b「回収期間法は回収後のCFを無視する」 と d「IRR法で相互排他的投資案を判定すると企業価値最大化をもたらさないことがある」。 誤りは a(回収期間とIRRに一意の関係はない)と c(複数解が生じるのはNPVではなくIRRの性質)。正解はエ。 → R04 第21問
10-4 投資キャッシュフローの見積り
どんなに立派なNPVの式を知っていても、入れる数字(キャッシュフロー)が間違っていれば答えは合いません。 ここでは、投資判断に使うCFを作るときの4つの鉄則を学びます。試験の計算問題は、この4つを試してきます。
鉄則① 「増分キャッシュフロー」で考える
投資判断で使うのは、その投資をやることで"増えた分"のキャッシュフロー(増分CF/差額CF)だけです。
- 含めるもの:その投資をやったから増える収入・減る費用。
- 含めないもの:
- 埋没原価(サンクコスト):すでに支払い済みで取り戻せないお金(例:過去に行った市場調査費)。 投資をやってもやめても変わらないので無視する。
- ただし「機会原価」(その投資に資源を使うことで得られなくなる利益)は、逆に含める。
鉄則② 「税引後」で考える(タックスシールド)
投資判断のCFは、必ず税金を払った後(税引後)で測ります。ここで最重要なのが減価償却費の節税効果=タックスシールドです。
- 減価償却費は現金支出を伴わない費用ですが、費用として計上すると利益が減り、その分だけ税金が減ります。
- この「税金が減る効果」が、実質的にキャッシュを生むのです。
$$減価償却費のタックスシールド = 減価償却費 × 税率$$
- 計算では、①減価償却費を引いて税引後利益を出し、②現金支出でない減価償却費を足し戻す(10-1の手順2・4)。 結果として、減価償却費 × 税率のぶんだけCFが増えます。
💡 なぜ減価償却で得をするのか(イメージ) 減価償却費900万円・税率40%なら、税金が 900×0.4=360万円安くなる。 お金が出ていかない費用なのに、税金だけ減る――この360万円が「タックスシールド(税の盾)」です。 H25 第18問・R07 第18問とも、この足し戻しを忘れると解けません。
鉄則③ 「運転資本」の増減も入れる
売上を増やすには、在庫を積み増したり、売掛金が増えたりします。これらに縛られるお金を運転資本といいます。
- 投資の開始時:運転資本が増える → その分の現金の流出(マイナスのCF)。
- 投資の終了時:在庫を売り切り売掛金を回収 → 運転資本が戻る → 現金の流入(プラスのCF)。
- ※運転資本の増加そのものは費用ではないので、税金の対象にはならない(そのままの金額で出入りする)。
鉄則④ 「残存価額・売却」を最終年に入れる
投資が終わる年(耐用年数の最終年)には、次のような期末のCFを忘れずに加えます。
- 固定資産の売却収入:設備を売れば現金が入る。
- 売却損益にかかる税金:売却額が帳簿価額(簿価)とズレると損益が出て、税金が動く。
- 売却額=簿価なら損益ゼロで税金の調整は不要(R07 第18問はこのケース)。
- 売却額>簿価なら売却益に課税、売却額<簿価なら売却損で節税。
⚠️ 定番の引っかけ:利益とキャッシュフローは違う 投資判断で使うのはキャッシュフローであって、会計上の利益ではありません。 - 減価償却費:利益は減らすが、現金は出ていかない(→ CFでは足し戻す)。 - 運転資本:利益には出ないが、現金は縛られる(→ CFではマイナスに効く)。 この「利益とCFのズレ」を突く問題が、投資意思決定の計算の本丸です。
この章のまとめ(試験直前チェック)
- ☐ お金の時間価値:将来のお金は割り引いて現在価値にする。PV = C ÷(1+r)ⁿ
- ☐ 複利現価係数=単年のCF用/年金現価係数=毎年同額のCF用(年金現価係数は複利現価係数の累計)
- ☐ NPV = 将来CFの現在価値合計 − 初期投資。NPV>0で採択/相互排他的ならNPV最大を選ぶ(=企業価値最大化に最も忠実)
- ☐ NPV計算は①減価償却を引いて税引後利益 → ②減価償却を足し戻して年間CF → ③割引くの手順
- ☐ IRR = NPVがゼロになる割引率。IRR>資本コストで採択。均等CFなら年金現価係数から逆引き
- ☐ 相互排他的でNPVとIRRが逆転する主因は再投資収益率の前提の違い → NPV法を優先/差額(増分)分析で判定
- ☐ IRRはCFの符号が複数回変わると複数解が出る欠点あり(NPVは割引率を決めれば一意)
- ☐ PI = 現在価値合計 ÷ 初期投資。PI>1で採択。投資効率を見る(予算制約下で有効/NPVと逆転しうる)
- ☐ 回収期間法=投資額÷年間CF。時間価値と回収後CFを無視する簡便法(ただしCFは税引後・節税効果込みで作る)
- ☐ 会計的利益率法=会計利益÷投資額。時間価値を無視し、CFでなく会計利益を使う
- ☐ タックスシールド = 減価償却費 × 税率(現金は出ないのに税金が減る=実質のCF)
- ☐ CFは増分(差額)で・税引後で・運転資本と残存価額の売却も含めて見積もる。埋没原価は無視
- ☐ 利益 ≠ キャッシュフロー(減価償却は足し戻す/運転資本はCFに効く)
この章に対応する主な過去問
| 年度・問 | 論点 | リンク |
|---|---|---|
| R07 第18問 | 設備投資のNPV(税引後CF・タックスシールド) | 問題 |
| R07 第17問 | 正味現在価値法(NPV) | 問題 |
| H27 第16問 | 複数投資案のNPV判定 | 問題 |
| R02 第17問 | 複利現価係数と年金現価係数の関係 | 問題 |
| H28 第17問 | 内部収益率法(IRR)による順位づけ | 問題 |
| R06 第17問 | 内部収益率法と正味現在価値法 | 問題 |
| H30 第22問 | NPVとIRRの逆転・差額分析 | 問題 |
| H26 第16問 | NPVとIRRによる排他的投資案の評価 | 問題 |
| R03 第19問 | 正味現在価値法と収益性指数法(PI) | 問題 |
| H25 第18問 | 回収期間法による投資判断(税引後CF) | 問題 |
| R04 第21問 | 投資の評価基準(回収期間法・NPV・IRR) | 問題 |
| H19 第16問 | NPVの標準偏差・リスク調整割引率法 | 問題 |
次章予告 ▶ 第11章「資本コストと資金調達」 本章でNPV・IRRの判定に使った「割引率=資本コスト」の中身を掘り下げます。 借入コストと株主資本コスト、それを加重平均したWACC(加重平均資本コスト)、 そして最適資本構成(MM理論)や配当政策を扱います。投資意思決定の"割引率の正体"がここで分かります。