第11章 国際経済
この章のねらい 経済学・経済政策の最後を飾る「国際経済」です。ここはミクロ(貿易理論・余剰分析)とマクロ(為替・国際収支・マンデル=フレミング)が合流する総まとめの分野で、毎年おおむね3〜4問が安定して出題されます。テーマは大きく4つ ―― ①どの国が何を作って交換すべきか(比較優位)、②関税や自由貿易協定は得か損か(余剰分析)、③円高・円安はどう決まるか(為替レートの決定)、④開放経済で財政・金融政策は効くのか(マンデル=フレミング)。
過去問での出方:計算はほとんどが「割り算1回」レベルで、機会費用(割り算)で比較優位を判定できれば貿易理論はまず取れます。為替は「物価は購買力平価で円安、金利は金利平価で円高」という2本の軸を押さえるのが最短ルート。マンデル=フレミングは「変動相場なら金融政策が効く/固定相場なら財政政策が効く」という結論の丸暗記で1問取れます。暗記と割り算で稼げる、得点源にしやすい章です。
11-0 この章の地図
この章は「ミクロの貿易論(誰が何を作り、政策で余剰はどう動くか)」から入り、後半で「マクロの国際経済(為替・国際収支・開放経済の政策効果)」へ進みます。前半(11-1・11-2)と後半(11-3・11-4)はやや別世界なので、頭の中で棚を分けておきましょう。
【ミクロの貿易論】
11-1 国際貿易理論 … 誰が何を作るべきか(比較優位=機会費用で判定)
│
11-2 関税・貿易政策と余剰 … 関税/FTA/補助金は得か損か(面積で測る)
│
─────────────────────────────────
【マクロの国際経済】
11-3 国際収支と為替の決定 … 円高・円安はどう決まる/経常収支の中身
│
11-4 マンデル=フレミング … 開放経済で財政・金融政策は効くか(相場制で逆転)
11-1 国際貿易理論 ― 比較優位・リカードモデル
まず「絶対優位」と「比較優位」を分ける
自由貿易がなぜ双方の得になるのかを説明する土台が、リカードの比較生産費説(比較優位の理論)です。ここでいちばん大事なのは、次の2語をきっちり区別することです。
| 用語 | 意味 | 何で判定するか |
|---|---|---|
| 絶対優位 | ある財をより少ない労働で(=より多く)作れる | 生産量・必要労働量の単純な大小比べ |
| 比較優位 | ある財をより小さい犠牲(機会費用)で作れる | 機会費用(=割り算) |
💡 いちばんの急所:比較優位は必ず機会費用で判定する。生産量の大小(絶対優位)で判定してはいけません。過去問はほぼ100%、この「機会費用で割る」作業ができれば解けます。
機会費用とは「あきらめたもう一方の量」
機会費用とは、「ある財を1個作るために、あきらめたもう一方の財の量」のことです。表から割り算で出します。
R04年第18問(おにぎりとサンドイッチ)を例に、計算の型を体で覚えましょう。
おにぎり サンドイッチ
Aさん 10 6 (30分あたり)
Bさん 6 2
●おにぎり1個の機会費用(=あきらめるサンドイッチ)
Aさん = 6/10 = 3/5 個
Bさん = 2/6 = 1/3 個 ← 小さいのはBさん → Bはおにぎりに比較優位
●サンドイッチ1個の機会費用(=あきらめるおにぎり)
Aさん = 10/6 = 5/3 個 ← 小さいのはAさん → Aはサンドイッチに比較優位
Bさん = 6/2 = 3 個
- 割り算の分母・分子は「作りたい財を分母」に置くと機会費用が出ます(おにぎり1個の機会費用=サンドイッチ÷おにぎり)。
- 比較優位は必ず2財で分かれます。「両方の財に比較優位」はあり得ません(同時に両方の機会費用が相手より小さくなることはないため)。
- Aさんは両財で絶対優位(10>6、6>2)ですが、それでも比較優位に基づく特化と交換で双方が得をします。「絶対優位があれば交換で得しない」という選択肢は誤りの定番です。
労働投入量で与えられる場合(リカードモデル)
R06年第22問やH29年第20問のように、「1単位作るのに必要な労働量」で与えられることもあります。この場合も考え方は同じで、必要労働量の比(割り算)で機会費用を出します。
【R06 第22問】必要労働量 カカオ 大豆
A国 5 10
B国 4 2
●カカオ1単位の機会費用(=あきらめる大豆=カカオ労働÷大豆労働)
A国 = 5/10 = 0.5 個 ← 小さい → A国はカカオに比較優位
B国 = 4/2 = 2 個 → B国は大豆に比較優位(逆に大豆の機会費用が小さい)
- 必要労働量が少ない=絶対優位、機会費用が小さい=比較優位、と紐づけて覚えます。
- 完全特化すると、同じ総労働量でより多くの財が生産できる(世界全体の生産が増える)のが貿易の利益の源です。
ヘクシャー=オリーン定理(HO定理)
リカードは「労働生産性の差」で貿易を説明しましたが、ヘクシャー=オリーン定理は「各国の生産要素(労働・資本)の豊富さの差」で説明します。
- その国に相対的に豊富にある生産要素を集約的に使う財に、比較優位を持つ。
- 例:労働が豊富な国は労働集約財(衣料など)を輸出し、資本が豊富な国は資本集約財(機械など)を輸出する。
- リカードとの違いは「比較優位がどこから生まれるか」の説明。要素賦存(요소の多い・少ない)が源泉、という一点を押さえます。
📝 過去問はこう出る(R04 第18問) AさんBさんの生産量表から、機会費用・絶対優位・比較優位を判定させる問題。 正解は「a(Aのおにぎりの機会費用=サンドイッチ3/5個)」と「d(サンドイッチに比較優位を持つのはA)」の組合せ。両方に絶対優位を持つのはA(Bとするのは誤り)、Bのおにぎりの機会費用は1/3個(3個は誤り)。割り算さえ間違えなければ確実に取れます。 → R04 第18問 / H28 第19問 / R06 第22問 / H29 第20問
⚠️ 混同注意:絶対優位で早合点しない H28年第19問は「Aは両財で絶対優位だから交換で得しない」という選択肢が引っかけ。正しくは豚肉の機会費用がAの方が小さい(160/40=4<120/20=6)ので、Aは豚肉に比較優位。絶対優位を持つ側でも、機会費用で比較優位の財に特化して交換すれば双方が得します。「絶対優位=比較優位」ではありません。
11-2 関税・貿易政策と余剰分析
小国モデルの基本図(関税をかけると何が起きるか)
貿易政策の効果は、需要曲線・供給曲線と余剰(面積)で測ります。前提は小国モデル(自国の輸入量が世界価格を動かさない)です。世界価格 Pf は水平な線で与えられます。
価格
│ D(需要) S(供給)
│ \ /
Pd│─────\─────────/──── ← 関税後の国内価格(Pf+関税)
│ \ E │ F / H
Pf│──────\─│──────/────── ← 世界価格(自由貿易)
│ \ B│ G/ I (PfとPdの差=関税)
│ \ │ /
│ \│ /
└──────────┴────────── 数量
Q1 Q3 Q4 Q2
(国内供給が増え、国内需要が減る)
自由貿易(価格Pf)では、国内供給はQ2まで、国内需要はQ1まで、その差Q2→Q1が輸入でした。ここに関税をかけて国内価格がPdに上がると――
- 国内供給は増える(Q2→Q4方向。国内生産者は喜ぶ=生産者余剰増)。
- 国内需要は減る(Q1→Q3方向。消費者は高く買わされ困る=消費者余剰減)。
- 政府に関税収入(関税額×輸入量=四角形)が入る。
- 差し引きで、生産の歪み・消費の歪みの2つの三角形が死荷重(社会的損失)として残る。
関税引き下げ(自由化)は逆再生
H29年第21問・R07年第18問のように「関税を引き下げる/撤廃する」問題は、上の図を逆向きに読むだけです。
- 国内価格が下がる → 消費者余剰は増加(需要曲線の下・両価格に挟まれた台形)。
- 生産者余剰は減少(供給曲線の上の台形=生産者から消費者への再分配効果)。
- 差し引き社会的余剰は増加(2つの三角形=貿易創造効果=厚生の純増)。
⚠️ 面積の取り方に注意:消費者余剰の増加は「台形(需要曲線の下)」であって、「関税引き下げ幅×輸入量(四角形)」ではありません。厚生の純増(貿易創造効果)は「三角形」であって四角形ではありません。過去問はこの面積の取り違えで引っかけてきます。
生産補助金との比較 ―― 産業保護なら補助金の方がマシ
「国内産業を守るために国内生産を同じだけ増やしたい」とき、関税と生産補助金のどちらが損失が小さいかを問うのがR01年第18問・H21年第10問です。結論は明快です。
【同じだけ国内生産を増やす場合の比較】
関税 : 消費者価格を Pf→Pd に引き上げる
→ 生産の歪み(三角形)+ 消費の歪み(三角形)の2つが死荷重
生産補助金: 消費者価格は Pf のまま据え置き(供給曲線が右シフト)
→ 消費の歪みが生じない! 生産の歪み(三角形)だけ
∴ 消費の歪み(三角形 iFIH)の分だけ、生産補助金の方が損失が小さい
- 関税は消費者価格を上げてしまうため、生産の歪みに加えて消費の歪みまで生じます。
- 生産補助金は消費者価格を据え置くので、消費の歪みが生じません。その分死荷重が小さく、産業保護策としてはより効率的です。
💡 覚え方:「産業を守るなら、消費者を巻き込む関税より、生産者だけに配る補助金の方がキズが浅い」。差は消費側の三角形の分だけ。
自由貿易地域(FTA・関税同盟)― 貿易創造効果と貿易転換効果
ヴァイナーが示した、自由貿易協定の2つの効果です(H30年第20問)。
| 効果 | 中身 | 厚生への影響 |
|---|---|---|
| 貿易創造効果 | 関税がなくなり、割高な国内生産が安い輸入に置き換わる。取引量も増える | プラス(純便益=三角形) |
| 貿易転換効果 | 輸入先が「最も安い域外国」から「協定を結んだ割高な域内国」へ変わる | マイナス(損失。安い国から高い国に乗り換える無駄) |
- FTAは必ずしも得とは限らないのがポイント。貿易転換効果(マイナス)が貿易創造効果(プラス)を上回れば、協定を結んだ方が損になることもあります。
- 域外国への関税が残るため、失う関税収入(もともと域外の安い国から輸入して得ていた「関税額×輸入量」の四角形)も論点になります(H30年第20問の正解肢)。
📝 過去問はこう出る(R01 第18問) 輸入関税と生産補助金の効果を図で比較する問題。設問2の正解は「iFIH の分だけ、生産補助金の方が輸入関税よりも損失が少なく、産業保護策としてより効果的」。関税は消費者価格を上げて消費の歪み(三角形iFIH)を追加で生むため、補助金より死荷重が大きい、というのが結論です。 → R01 第18問 / H30 第20問 / H29 第21問 / R07 第18問 / R05 第21問
⚠️ 貿易政策のゲーム理論(H22 第11問) 貿易政策は「囚人のジレンマ」型でも出ます。各国とも相手がどう出ても保護貿易が支配戦略になり、ナッシュ均衡は(保護貿易,保護貿易)。でも両国とも自由貿易の方が双方得(パレート改善)で、ナッシュ均衡はパレート最適ではない ―― だから自由貿易協定(拘束力ある約束)で全体最適を目指す、というのが正解の筋です。 → H22 第11問
11-3 国際収支と為替レートの決定
為替レートの決定 ―― 2本の軸(物価と金利)
「円高・円安はどう決まるか」は、購買力平価説と金利平価説の2本立てで押さえます。ここが為替分野の心臓部です。
| 理論 | 着目する変数 | 日本側で上昇すると… | 覚え方 |
|---|---|---|---|
| 購買力平価説 | 物価 | 日本の物価上昇 → 円安 | 物価が上がると円の価値が下がる(=安い) |
| 金利平価説 | 金利(利子率) | 日本の金利上昇 → 円高 | 金利が高いと円が買われる(=高い) |
【購買力平価説】 同じ物が同じ値段になるよう為替が決まる
日本の物価↑ → 円の購買力↓ → 円は安くなる(円安)
【金利平価説】 内外の金利差が為替の予想変化で埋まるよう決まる
日本の金利↑ → 円建て資産が有利 → 円が買われる → 円高
💡 いちばんの急所:「物価は購買力平価で円安、金利は金利平価で円高」。この一言を丸暗記すれば、R01年第7問・R04年第9問・R06年第9問はまとめて取れます。方向を逆に書いた選択肢が引っかけの定番です。
「円安・ドル高になる要因」を仕分ける
R05年第9問・R06年第9問のように、いくつかの出来事を「円安圧力か円高圧力か」に仕分ける問題も頻出です。ドルが買われる(ドル需要増)=円安、円が買われる(円需要増)=円高という原則で整理します。
| 出来事 | 為替への圧力 | 理由 |
|---|---|---|
| 米国の金利引き下げ | 円高・ドル安 | 日米金利差が縮小 → ドル売り・円買い |
| 米国の予想超の雇用増(好景気) | 円安・ドル高 | 利上げ観測でドルが買われる |
| 原油価格の上昇 | 円安 | 資源輸入国・日本の貿易収支悪化 → 輸入決済のドル買い |
| 日本の物価の持続的下落(デフレ) | 円高 | 購買力平価で円の相対価値が上がる |
| 日本の輸出増(経常黒字拡大) | 円高 | 受け取ったドルを円に換える(円買い) |
| 米国の収益率上昇で日本から資金流出 | 円安 | 対外投資でドル買い(日本の金融収支黒字) |
国際収支の構造 ―― 経常収支の内訳
国際収支は大きく「経常収支」「金融収支」などに分かれます。試験でよく問われるのは経常収支の内訳です。
経常収支
├─ 貿易収支 … モノの輸出入の差額
├─ サービス収支 … 旅行・輸送・知的財産権使用料など
├─ 第一次所得収支 … 対外投資からの利子・配当(対外純資産の稼ぎ)
└─ 第二次所得収支 … 対価を伴わない移転(無償援助・送金など)
(旧区分では「所得収支」「経常移転収支」)
近年の日本の経常収支の特徴(R05年第2問・H29年第2問・R07年第11問)は、この一点を押さえます。
- 第一次所得収支が最大の黒字項目。対外純資産の蓄積により、利子・配当の受取が経常黒字を支える柱になっています。一貫して大きなプラス。
- 貿易収支は変動が大きい。東日本大震災後の燃料輸入増(2011〜2014年頃)で大きく赤字化するなど、年により黒字・赤字に振れます。
- サービス収支は小幅の赤字基調(近年は訪日客増で旅行収支が改善傾向)。
⚠️ 「稼ぎ頭は貿易収支」は昔の話:かつての日本は「貿易立国=貿易黒字が柱」でしたが、今は第一次所得収支(投資の稼ぎ)が最大の黒字項目です。「経常黒字=貿易黒字が中心」と早合点する選択肢はバツになりがちです。
📝 過去問はこう出る(R01 第7問) 為替レートの決定を問う組合せ問題。正解は「a(金利平価説:日本の利子率上昇は円高要因)」と「d(購買力平価説:日本の物価上昇は円安要因)」。金利は金利平価で円高、物価は購買力平価で円安という2軸をそのまま問う典型問題です。 → R01 第7問 / R04 第9問 / R05 第9問 / R06 第9問 / R05 第2問 / H24 第4問
11-4 マンデル=フレミングモデル
モデルの土台 ―― IS-LMを開放経済に広げる
マンデル=フレミングモデルは、第10章で学んだIS-LM分析に「国際収支(為替・資本移動)」を組み込んだもので、国際経済で最頻出の論点です。前提は「小国・完全資本移動」で、次の3本の曲線を使います。
- IS曲線:財市場の均衡(右下がり)。財政政策で左右にシフト。
- LM曲線:貨幣市場の均衡(右上がり)。金融政策で左右にシフト。
- BP曲線:国際収支の均衡。完全資本移動なので水平(自国利子率 r =外国利子率 r*)。
利子率 r
│ LM
│ │ /IS
│ │/
r*│──────────●────────── BP(完全資本移動なので水平)
│ /│
│ / │
└──────────────── GDP(Y)
ポイントは、自国利子率がBP曲線(r*)より上がろうとすると資本が流入し、下がろうとすると資本が流出すること。この資本移動が為替(変動相場)や外貨準備(固定相場)を動かし、最終結果を左右します。
結論はこの表で丸暗記 ―― 相場制で効果が逆転する
このモデルは理屈を追うより、結論の表を丸暗記するのが得策です。相場制によって、財政政策と金融政策の効き目が逆転します。
| 財政政策(政府支出拡大) | 金融政策(金融緩和) | |
|---|---|---|
| 変動相場制 | 無効(効かない) | 有効(効く) ★ |
| 固定相場制 | 有効(効く) ★ | 無効(効かない) |
💡 覚え方:「変動なら金融が効く、固定なら財政が効く」。この一言だけで、R02・R06・R10・H23の変動相場問題と、H20・H22の固定相場問題がまとめて取れます。
なぜそうなるのか(変動相場制)
変動相場制では、資本移動が為替レートを動かし、それが純輸出を通じて政策効果を打ち消す(財政)/後押しする(金融)、という流れです。
【変動・財政拡大(無効)】
政府支出↑ → IS右シフト → 利子率↑(r*より上)
→ 資本流入 → 円高 → 純輸出↓ → ISが元に押し戻される
→ GDPは元通り(=財政政策は無効/完全なクラウディングアウト)
【変動・金融緩和(有効)】
マネー↑ → LM右シフト → 利子率↓(r*より下)
→ 資本流出 → 円安 → 純輸出↑ → GDP増加
→ GDPが増える(=金融政策は有効)
- 財政拡大は円高→純輸出減で相殺され、所得は不変(R02年第11問・R06年第10問)。
- 金融緩和は円安→純輸出増でGDPを押し上げる(R02年第11問)。
なぜそうなるのか(固定相場制)
固定相場制では為替を動かせないので、代わりに中央銀行の為替介入(外貨準備の増減)が貨幣供給(LM)を動かすのがカギです。
【固定・財政拡大(有効)】
政府支出↑ → IS右シフト → 利子率↑ → 資本流入 → 国際収支黒字
→ 自国通貨高圧力 → 中銀が「自国通貨売り・外貨買い」介入
→ 外貨準備↑・マネー↑ → LM右シフト → 利子率がr*に戻るまでGDPさらに拡大
→ GDPが増える(=財政政策は有効)
- 固定相場では財政政策が有効(H20年第9問)。金融政策は、緩和しても資本流出→自国通貨安圧力を抑える介入でマネーが元に戻り、無効になります。
- 完全資本移動下では、経常収支だけでなく資本収支を含む「国際収支全体」で黒字・赤字を判断する点にも注意(H20年第9問の引っかけ)。
マーシャル=ラーナー条件とJカーブ効果
「円安になれば輸出が増えて貿易収支は改善する」――これは条件つきで成り立ちます。
- マーシャル=ラーナー条件:輸出と輸入の価格弾力性の合計が1を超えるとき、自国通貨安は貿易収支を改善させる。合計が1ちょうどなら改善も悪化もしない(境界)。
- Jカーブ効果:円安の直後は、まず貿易収支が悪化し、時間をおいてから改善する現象。
貿易収支
│ ____ ← やがて改善(数量が反応してくる)
│ /
│──────/──────── 時間
│ \ /
│ \/ ← 直後は悪化(円建て輸入額だけ先に増える)
(形が「J」に見える)
- なぜ最初に悪化するか:円安の直後は輸出入の数量がまだ動かず、円建ての輸入額(eP*M)だけが先に膨らむため、いったん貿易収支が悪化します。数量が反応してくると(弾力性が効いてくると)改善に転じます。
📝 過去問はこう出る(R02 第11問) 「完全資本移動・小国・変動相場制」での財政・金融政策の効果を問う問題。正解は「a(財政拡大は完全なクラウディングアウトで所得不変)」と「d(金融緩和は純輸出増でGDPを押し上げる)」。変動相場=金融政策有効・財政政策無効という結論をそのまま問う典型問題です。 → R02 第11問 / R06 第10問 / H20 第9問 / R07 第11問
⚠️ 混同注意:相場制の取り違え 「変動相場なのに財政政策が有効」「固定相場なのに金融政策が有効」と書いた選択肢はすべてバツ。表の★(有効)の位置だけは絶対に取り違えないようにしましょう。変動=金融、固定=財政が効く、が合言葉です。
この章のまとめ(試験直前チェック)
- ☐ 比較優位は必ず機会費用(割り算)で判定する(絶対優位の大小比べではない)
- ☐ 機会費用=「作りたい財を分母」に置いた割り算。比較優位は必ず2財で分かれる
- ☐ 絶対優位を両財で持つ側でも、比較優位に特化して交換すれば双方が得する
- ☐ ヘクシャー=オリーン定理=比較優位の源泉は要素賦存(豊富な生産要素を使う財を輸出)
- ☐ 関税:国内供給↑・国内需要↓・関税収入発生・死荷重(2つの三角形)
- ☐ 関税引き下げ:消費者余剰↑(台形)・生産者余剰↓・社会的余剰↑(三角形=貿易創造効果)
- ☐ 産業保護なら生産補助金<関税の損失(関税は消費の歪みを追加で生む)
- ☐ FTA:貿易創造効果(+)と貿易転換効果(−)。転換効果が上回れば損もあり得る
- ☐ 貿易政策は囚人のジレンマ型(ナッシュ均衡は保護貿易だがパレート最適でない)
- ☐ 物価は購買力平価で円安/金利は金利平価で円高(為替の2本の軸)
- ☐ 近年の日本の経常収支は第一次所得収支が最大の黒字(貿易収支は変動大)
- ☐ マンデル=フレミング:変動相場=金融政策有効・財政政策無効
- ☐ マンデル=フレミング:固定相場=財政政策有効・金融政策無効
- ☐ マーシャル=ラーナー条件(弾力性の和>1で通貨安が貿易収支改善)/Jカーブ効果(直後は悪化→やがて改善)
この章に対応する主な過去問
| 年度・問 | 論点 | リンク |
|---|---|---|
| R04 第18問 | 絶対優位・比較優位と機会費用 | 問題 |
| H28 第19問 | 比較優位と生産可能性フロンティア | 問題 |
| R06 第22問 | 比較生産費説に基づく国際分業 | 問題 |
| H29 第20問 | 比較優位と国際分業 | 問題 |
| R01 第18問 | 輸入関税と生産補助金の効果 | 問題 |
| H30 第20問 | 自由貿易地域(貿易創造・貿易転換) | 問題 |
| H29 第21問 | 関税引き下げの経済効果(FTA) | 問題 |
| R07 第18問 | 関税の効果(余剰分析) | 問題 |
| R05 第21問 | 貿易の自由化(輸出)と余剰分析 | 問題 |
| H22 第11問 | 貿易政策のゲーム(囚人のジレンマ) | 問題 |
| R01 第7問 | 為替レートの決定(金利平価・購買力平価) | 問題 |
| R04 第9問 | 金利平価説による為替レートの決定 | 問題 |
| R05 第9問 | 円安・ドル高の圧力要因 | 問題 |
| R06 第9問 | 為替レートの決定 | 問題 |
| R05 第2問 | 日本の経常収支の内訳推移 | 問題 |
| H24 第4問 | 国際収支の内訳 | 問題 |
| R02 第11問 | マンデル=フレミング(変動相場制) | 問題 |
| R06 第10問 | マンデル=フレミング(政府支出拡大) | 問題 |
| H20 第9問 | マンデル=フレミング(固定相場制) | 問題 |
| R07 第11問 | 経常収支・貿易収支(Jカーブ・ML条件) | 問題 |
次章予告 ▶ 第12章「経済政策の理論と主要な学派」 本章までで学んだミクロ・マクロの道具を使って、経済学の主要な学派(古典派・ケインズ派・マネタリスト・新古典派など)が「政府は市場に介入すべきか」をめぐってどう対立してきたかを整理します。これまでの総まとめとして、学説の系譜を俯瞰します。