第12章 経済成長と景気循環
この章のねらい いよいよ最終章です。ここまで学んできたマクロ経済学(GDP・IS-LM・AD-AS・物価・失業)は、 どちらかというと「数か月〜数年」の短い時間軸の話でした。この章では時間軸をぐっと広げて、 ①「なぜ国は年々豊かになっていくのか(=経済成長)」という超・長期の話と、 ②「なぜ景気は良くなったり悪くなったりを繰り返すのか(=景気循環)」という波の話の、 2本立てを扱います。
過去問での出方:経済成長理論はH19・H23・H25などで、モデルの名前(ソロー/AK)と 「収穫逓減か収穫一定か」「成長は止まるのか止まらないのか」がストレートに問われます。 景気循環、とくに景気動向指数(先行・一致・遅行)は、経済学のなかでもトップクラスの 常連論点で、H21・H24・H29・H30・R05と毎年のように顔を出します。暗記で確実に得点できる、 いわば"最後のごほうび"分野です。ここを固めて合格を確実にしましょう。
12-0 この章の地図
この章は、大きく「成長(トレンド)」と「循環(波)」の2つでできています。 下の図のように、経済は「右肩上がりの長期トレンド」のまわりで波打ちながら進んでいく、 とイメージしてください。トレンドを説明するのが成長理論、波を説明するのが景気循環です。
生産量(GDP)
↑
│ / ← ③景気循環(トレンドのまわりの波)
│ /\ /
│ /\ / \/
│ /\ / \/
│ / \/ ← ①②経済成長(長期の右肩上がりトレンド)
│ /
└──────────────────────────────→ 時間
12-1 経済成長理論 … ソロー/ハロッド=ドーマー/AK(★最重要)
│ 「成長は止まる? 止まらない?」
12-2 技術進歩と成長会計 … 全要素生産性(TFP)="のこりカス"の正体
│
12-3 景気循環と景気動向指数 … 4つの波/先行・一致・遅行(★得点源)
12-1 経済成長理論 ― 成長は「止まる」のか「止まらない」のか
そもそも「経済成長」とは
経済成長とは、ひとことで言えば
「国全体の生産量(実質GDP)が、年々ふくらんでいくこと」
です。生活が豊かになるかどうかを見るときは、人口で割った「1人当たりGDP」で考えます。 経済学は「では、何がその成長を生み出しているのか」を、いくつかのモデルで説明してきました。 この節のゴールは、代表的な3つのモデルの"性格の違い"を、次の1点で見分けられるようになることです。
見分けの決め手=「資本を増やし続けると、成長は最後どうなるか」 - 止まる(一定水準に落ち着く) → ソロー・モデル(新古典派) - 止まらない(ずっと成長し続けられる) → AKモデル(内生的成長論)
この対比が、そのままH19・H23・H25の3問の核心になっています。
① ソロー・モデル(新古典派成長理論)― 成長はやがて「止まる」
いちばん基本になるのが ソロー・モデル(新古典派成長理論)です。カギになる考え方が 収穫逓減(しゅうかくていげん)です。
💡 収穫逓減とは:資本(工場・機械)を1単位ずつ増やしていくと、 増える生産量はだんだん小さくなっていく、という性質です。 畑に人を1人、2人、3人…と増やすと、最初は収穫がぐんと増えますが、 人が多すぎると「1人増やしても、もうほとんど増えない」状態になる ── あのイメージです。
このモデルでは、1人当たりの資本(資本・労働比率 k)と1人当たりの生産量 y の関係をグラフにします。
y(1人当たり生産量)
↑
│ ┌─ nk(必要投資線:人口増に見合う投資)
│ / │ =直線(傾き n)
│ / /
│ / / ← f(k):生産関数(収穫逓減で寝てくる曲線)
│ / / ┌─ sf(k):実際の貯蓄=投資(f(k)を s 倍した曲線)
│ / / ・E ←──┘ ここで sf(k)=nk が成立
│ /// (定常状態)
│//
└────────┼──────────────→ k(資本・労働比率)
k*(定常状態の資本・労働比率)
- sf(k)(実際に積み上がる投資)と nk(人口増加に食われる分)がつり合う点 E で、 1人当たり資本 k はそれ以上増えも減りもしなくなります。これを定常状態(ていじょうじょうたい)と呼びます。
- 定常状態にたどり着くと、1人当たりの成長は止まります(=一定水準に収束する)。
- 収穫逓減があるので、いくら資本を増やしても「増える分」がだんだん小さくなり、最後は止まる ── これがソロー・モデルの結論です。
⚠️ ここが超重要:ソロー・モデルでは、技術進歩がなければ1人当たりGDPの持続的な上昇は起きません。 貯蓄率 s を高めても、定常状態の水準(レベル)は上がるけれど、成長率そのもの(毎年の伸び)は 長期的には元に戻ってしまう(=s の効果は「水準効果」だけで「成長率効果」はない)。 では何が持続的成長を生むのか? → 技術進歩です(→ 12-2 へつながります)。
貯蓄率↓・人口成長率↓が定常状態にどう効くか(H25 第11問の核心)を、グラフの動きで押さえましょう。
| 変化 | グラフの動き | 定常状態の k・y |
|---|---|---|
| 貯蓄率 s の低下 | sf(k)曲線が下へシフト → 交点は左へ | k も y も減少する |
| 人口成長率 n の低下 | nk線の傾きがゆるやかに → 交点は右へ | k も y も増加する |
📝 過去問はこう出る(H25 第11問) 新古典派(ソロー)成長モデルで、「労働成長率 n の低下」と「貯蓄率 s の低下」が 定常状態の1人当たり生産量に与える影響を問う問題。正解は 「労働成長率の低下によって増加し、貯蓄率の低下によって減少する」。 n が下がると必要投資線 nk がゆるくなり交点は右(k↑→y↑)、s が下がると sf(k) が下がり交点は左(k↓→y↓)。 グラフのシフト方向さえ描ければ確実に取れます。 → H25 第11問
② ハロッド=ドーマー・モデル ― 成長の「不安定さ」を指摘
ソロー・モデルより前に登場したのが ハロッド=ドーマー・モデル(ケインズ派の成長理論)です。 名前と「ざっくりした主張」だけ押さえておけば十分です。
- 3つの成長率を区別します。
- 保証成長率(適正成長率):企業が「これなら在庫が余らない」と満足する成長率。
- 自然成長率:労働人口の増加と技術進歩から決まる、経済が達成しうる上限の成長率。
- 現実成長率:実際に実現した成長率。
- 主張のキモ:これら3つの成長率が一致する保証はなく、いったんズレると自動では戻らない (=ナイフの刃(ナイフ・エッジ)の上を歩くように不安定)。だから政府の役割が要る、という ケインズ派らしい結論になります。
💡 ソローとの違い:ソローは「(収穫逓減のおかげで)ほうっておいても定常状態に安定的に収束する」。 ハロッド=ドーマーは「成長は不安定で、放置すると失業や過剰設備が拡大しうる」。 "安定 vs 不安定" の対比で覚えると混同しません。
③ AKモデル(内生的経済成長論)― 成長は「止まらない」
新しいタイプが AKモデルに代表される内生的経済成長論(内生的成長理論)です。 「内生的(ないせいてき)」とは、技術進歩や知識を"モデルの外から降ってくるもの"ではなく、 "モデルの中で説明される変数(内生変数)"として扱う、という意味です。
生産関数は Y = A K(A は生産の効率をあらわす一定の係数)。ここがミソです。
💡 AKモデルの決定的な特徴=「収穫一定」 ソローが収穫逓減だったのに対し、AKモデルの資本は収穫一定(資本を1単位増やすと、 生産はいつも同じだけA ずつ増える)。だから増える分が小さくなっていかない。 → 資本を積み上げれば積み上げるほど、成長がずっと続く(定常状態に収束せず、止まらない)。
- 成長率は sA-n(s:貯蓄率、A:資本の生産効率、n:人口成長率)のように表され、
- 貯蓄率 s を高める → 成長率が恒久的に上がる(ソローと違い、水準だけでなく成長率そのものが上がる)
- 資本の効率 A を政策的に高める(例:教育・研究開発への投資) → 成長率が上がる
- 何が A を高めるのか? → 教育・知識・人的資本・研究開発(R&D)。これらが技術進歩を生み、 成長を持続させる、と考えます。ここが内生的成長論の一番の主張です。
📝 過去問はこう出る(H19 第10問) 内生的経済成長論の説明として適切なものを選ぶ問題。正解(○)は 「内生的経済成長論では、教育、知識、人的資本、研究開発が経済成長に果たす役割を重要視している」。 引っかけの急所は次の3つです。 - 「AKモデルは限界生産力逓減の生産関数を仮定し…」→ ×。AKは逓減しない(収穫一定)。 - 「新古典派は1人当たり産出が持続的に上昇、内生的成長論は一定水準に収束することを証明」→ ×。説明が逆。 - 「ITによるニュー・エコノミーを説明するために確立された」→ ×。内生的成長論は1980年代後半(ローマー、ルーカス等)に登場しており、時系列がずれている。 → H19 第10問
📝 過去問はこう出る(H23 第9問) AKモデル(Y=AK、成長率は sA、1人当たりでは sA-n)から導ける記述のうち、 最も不適切なものを選ぶ問題。正解(=誤り)は 「生産関数は収穫逓減の特徴を持ち、長期的に安定的な均衡成長水準に収束する」。 AKモデルは収穫一定なので、この「収穫逓減 → 定常状態へ収束」という記述はソロー・モデルの説明であり、AKには当てはまりません。 ほかの選択肢(「sA>n なら永続的に成長」「A を高めれば成長率上昇」「貯蓄率が高まれば成長率上昇」)は いずれもAKモデルとして正しい記述です。 → H23 第9問
混同注意:ソロー vs AK の早見表
3つのモデルの違いは、次の表で一気に整理できます。試験直前はこの表だけ見れば十分です。
| ソロー・モデル(新古典派) | AKモデル(内生的成長論) | |
|---|---|---|
| 資本の性質 | 収穫逓減(増える分が小さくなる) | 収穫一定(いつも同じだけ増える) |
| 長期の成長 | 定常状態に収束=止まる | 止まらず持続する |
| 技術進歩の扱い | モデルの外から与える(外生) | モデルの中で説明(内生) |
| 貯蓄率↑の効果 | 水準は上がるが成長率は元に戻る | 成長率そのものが恒久的に上がる |
| 持続成長のカギ | 技術進歩(→12-2) | 教育・知識・人的資本・R&D |
⚠️ 混同注意:「逓減か・一定か」「止まるか・止まらないか」を、名前とセットで暗記しましょう。 選択肢はこの2点をわざと入れ替えて引っかけてきます(H19・H23はまさにこのパターン)。
💡 黄金律(ゴールデン・ルール):ソロー・モデルの発展論点。 「1人当たりの消費が定常状態で最大になるような資本水準」を資本蓄積の黄金律と呼びます。 貯蓄率は高すぎても(消費を我慢しすぎ)低すぎても(資本が足りない)消費が減るので、 ちょうどよい貯蓄率があり、そのとき「資本の限界生産力=人口成長率」が成り立ちます。 「貯蓄は多ければ多いほど豊か、ではない」という感覚だけ持っておけばOKです。
12-2 技術進歩と成長会計 ― 全要素生産性(TFP)の正体
成長を「要因に分解」する ― 成長会計
12-1で「持続的成長のカギは技術進歩」と言いました。では、実際の経済成長を 「資本の増加のおかげ」「労働の増加のおかげ」「それ以外(技術進歩など)のおかげ」に 分解して測る手法が成長会計(せいちょうかいけい)です。
考え方はシンプルで、次のように分けます。
経済成長率(GDPの伸び)
= ①資本の増加による分
+ ②労働の増加による分
+ ③そのどちらでも説明できない"のこりカス"
↑
これが「全要素生産性(TFP)」の伸び
全要素生産性(TFP)とは
全要素生産性(TFP:Total Factor Productivity)とは、
資本の増加でも労働の増加でも説明できない、"残り"の成長分
のことです。「同じ量のヒトとモノで、より多く生産できるようになった度合い」=効率のよさの伸びを あらわします。中身は技術進歩・イノベーション・生産の効率化・組織の改善などで、 経済学ではこの部分が長期の1人当たり成長の主役だと考えます。
💡 なぜ"のこりカス"なのに主役なのか 資本や労働は収穫逓減でいつか頭打ちになります(12-1)。 頭打ちを突き破って持続的に豊かになれる源泉は、結局「同じ資源でもっと生み出す力=TFP=技術進歩」 しかない、というのがソロー以来の中心メッセージです。だから"のこりカス"が、実は一番大事なのです。
- TFPは直接は測れないので、成長率から資本寄与分と労働寄与分を差し引いた"残差"として計算します。 この残差を、発見者にちなんで ソロー残差 とも呼びます。
- 日本の長期成長率の鈍化は、人口減少・高齢化による労働の減少や貯蓄率の低下(資本蓄積の弱まり)、 そしてTFP伸びの停滞などが要因として議論されます。
📝 過去問はこう出る(H20 第2問) 「日本のある指標が急激に低下し、長期的な経済成長の鈍化が懸念される」という図表・空欄問題。 正解は A=家計貯蓄率、B=高齢化の進展。 日本の家計貯蓄率は1990年代以降、高齢化(貯蓄を取り崩す世代の増加)を主因に急低下しました (ライフサイクル仮説→第7章の消費理論とつながります)。貯蓄率の低下は国内の資本蓄積を弱め、 長期の成長鈍化につながる、という論旨です。 → H20 第2問
12-3 景気循環と景気動向指数 ★得点源
ここからは、長期トレンドのまわりで起きる"波"=景気循環(けいきじゅんかん)の話です。 経済学のなかでもとりわけ暗記で確実に取れる分野なので、しっかり刈り取りましょう。
景気循環の基本用語
まず、波の「かたち」の言葉を押さえます。
景気(GDP)
↑ 山 山
│ /\ /\
│ / \ / \
│ / \ /
│ / 拡張期 \ 後退期 / 拡張期
│/ 谷 /
└────────────────────────────→ 時間
├─────── 1周期(谷→次の谷 or 山→次の山)───────┤
- 山(ピーク):景気が拡張から後退へ転じる転換点。
- 谷(ボトム):景気が後退から拡張へ転じる転換点。
- 拡張期(好況へ向かう)=谷 → 山/後退期(不況へ向かう)=山 → 谷。
- 1周期(1循環):谷から次の谷まで(または山から次の山まで)。 「谷 → 山」だけは半周期(拡張局面)にすぎない点が引っかけの定番です。
📝 過去問はこう出る(R04 第8問) 景気循環の基礎概念を問う問題。正解(○)は 「景気の谷から山にかけての期間は、景気の拡張期である」。 引っかけの急所: - 「1周期は谷から山まで」→ ×。それは半周期。1周期は谷から次の谷まで。 - 「転換点は名目GDPの変化で判断」→ ×。景気動向指数(ヒストリカルDI等)で判断する。 - 「最も短い周期は設備投資が主因」→ ×。最短はキチンの波(約40か月)で在庫投資が主因。 → R04 第8問
景気循環の4つの波(周期の長さで分類)
景気の波は、周期の長さによって4種類に分けられます。名前・周期・主な原因を セットで暗記するのが鉄則です(R07 第6問でそのまま問われました)。
| 波の名前 | 周期の目安 | 主な原因(覚え方) |
|---|---|---|
| キチンの波 | 約40か月(3〜4年) | 在庫投資の変動(=在庫循環) |
| ジュグラーの波 | 約7〜10年 | 設備投資の変動(設備の更新投資。=主循環) |
| クズネッツの波 | 約20年 | 建設投資(建物の建て替え) |
| コンドラチェフの波 | 約50年 | 大規模な技術革新(長期波動) |
💡 覚え方(短い順に) 「キ・ジュ・ク・コ」=キチン(40か月・在庫)→ジュグラー(10年・設備)→クズネッツ(20年・建設)→コンドラチェフ(50年・技術革新)。 周期が長くなるほど、原因が"大がかり"になる(在庫→設備→建物→技術革新)と結びつけると忘れません。
📝 過去問はこう出る(R07 第6問) 景気循環の周期性の正誤問題(a・b・cの3文の正誤の組合せ)。正解は ウ(a:正、b:誤、c:正)。 - a(正):コンドラチェフ・サイクル=約50年、大規模な技術革新が要因。 - b(誤):キチン・サイクルは約40か月の在庫循環。設問の「約20年・建物の建て替え」は クズネッツ・サイクルの説明を、キチンの名で書いたすり替え。 - c(正):ジュグラー・サイクル=約7〜10年、設備の更新投資が要因。 名前と周期・原因の対応を1つでも入れ替えれば誤り、というつくりです。 → R07 第6問
景気動向指数 ― 先行・一致・遅行の3系列 ★最頻出
景気動向指数は、内閣府が景気の現状・転換点をつかむために公表する指標で、 たくさんの経済指標を、景気に対する動くタイミングで3つの系列に分けています。
| 系列 | いつ動くか | 何に使うか | 代表的な指標(暗記の的) |
|---|---|---|---|
| 先行系列 | 景気に先立って動く | 景気の予測 | 東証株価指数、実質機械受注(船舶・電力を除く民需)、新設住宅着工床面積、新規求人数、消費者態度指数、中小企業売上げ見通しDI |
| 一致系列 | 景気とほぼ同時に動く | 景気の現状把握 | 生産指数(鉱工業)、鉱工業生産財出荷指数、稼働率指数(製造業)、有効求人倍率(除学卒)、中小企業売上高(製造業) |
| 遅行系列 | 景気に遅れて動く | 景気の確認(局面判定) | 完全失業率、常用雇用指数(製造業)、家計消費支出、法人税収入、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)、実質法人企業設備投資(全産業) |
💡 3系列の"体感"イメージ - 先行=これから起きること:株価は将来を先読みして動く/機械の受注・住宅着工は これから生産・建設される「これからの活動」。だから景気に先立つ。 - 一致=いま起きていること:実際の生産・稼働・求人倍率は、まさに今の景気そのもの。 - 遅行=結果として後から出ること:失業率・物価・税収は、景気が動いてから遅れて反応する。 (雇用や物価は景気が変わってもすぐには変わらない)
覚えにくいものは、次の引っかけ頻出ペアとして押さえておくと本番で強いです。
- 株価=先行/失業率(完全失業率)=遅行("未来を織り込む株"と"後から響く失業")。
- 機械受注(先行) ⇔ 設備投資が実現した段階(実質法人企業設備投資)=遅行 (受注は先、投資の実現は後)。
- 有効求人倍率(除学卒)=一致/新規求人数=先行(似ているが系列が違う。定番の引っかけ)。
- 物価(消費者物価指数)=遅行(景気に遅れて反応する)。
📝 過去問はこう出る(H21 第5問) 先行系列(東証株価指数とともに入るもの)と一致系列(生産指数などとともに入るもの)の 組合せを選ぶ問題。正解は A=実質機械受注(先行)、B=稼働率指数(製造業)(一致) のイ。 「稼働率指数」を先行に置いた選択肢、「実質機械受注」を一致に置いた選択肢は誤り。 → H21 第5問
📝 過去問はこう出る(H24 第1問) 先行系列の指標を1つ選ぶ問題。正解は 実質機械受注(船舶・電力を除く民需)(先行)。 引っかけは「鉱工業生産財出荷指数=一致」「稼働率指数(製造業)=一致」「実質法人企業設備投資=遅行」。 受注は先、生産・出荷・稼働は一致、投資の実現は遅行という順番で整理しましょう。 → H24 第1問
📝 過去問はこう出る(H29 第6問) 先行・一致・遅行の3系列の具体例の組合せを問う問題。正解はエ: 先行=東証株価指数/一致=有効求人倍率(除学卒)/遅行=完全失業率。 他の選択肢は「消費者物価指数を先行に」「新設住宅着工床面積を遅行に」など、 系列の配置を入れ替えた誤り。3つとも正しく並んでいる肢を選ぶのがコツです。 → H29 第6問
📝 過去問はこう出る(R05 第6問) 一致系列の指標を1つ選ぶ問題。正解は 有効求人倍率(除学卒)(一致)。 引っかけは「家計消費支出=遅行」「消費者物価指数=遅行」「東証株価指数=先行」「法人税収入=遅行」。 有効求人倍率(除学卒)は一致系列の代表として必ず覚えておきましょう。 → R05 第6問
CIとDI ― 景気動向指数の「2つの読み方」
同じ景気動向指数でも、まとめ方が2種類あります。CIとDIの違いはH30 第3問でストレートに問われました。
| CI(コンポジット・インデックス) | DI(ディフュージョン・インデックス) | |
|---|---|---|
| 何を測る | 景気変動の大きさ・テンポ(スピード) | 景気の波及の広がり(どれだけの指標が改善しているか) |
| 読み方 | 一致CIが上昇=拡張、低下=後退 | 一致DIが50%超=拡張、50%未満=後退 |
| 転換点 | 上昇→低下に転じる点が山、低下→上昇が谷 | 50%ラインを上下に横切る時点が、おおむね山・谷 |
- いまはCI(大きさを重視)が中心に公表されています(かつてはDIが中心でした)。
- 「DIが50%未満から50%超へ」=後退から拡張への転換=谷付近(山ではない)。
- 「CIが上昇から低下へ」=拡張から後退への転換=山(谷ではない)。
📝 過去問はこう出る(H30 第3問) CIとDIの読み方を問う問題。正解(○)は 「CI一致指数が上昇しているとき、景気は拡張局面にある」。 引っかけの急所: - 「CIが上昇から低下に変わる → 谷」→ ×。それは山。 - 「DIが50%未満から50%超へ → 山」→ ×。それは谷付近。 - 「DIが50%を下回る → 拡張局面」→ ×。50%未満は後退局面。 CIは"上がっていれば拡張"、DIは"50%より上なら拡張"、と2軸で覚えれば全問対応できます。 → H30 第3問
(発展)実物的景気循環理論(RBC)
景気の"波"の原因をめぐる理論も、まれに問われます。実物的景気循環理論(RBC:Real Business Cycle)は、 第10章・第11章で学んだ新古典派の立場に立つ考え方です。
- 前提:価格は伸縮的で市場は常に均衡、貨幣は中立的(お金の量は生産量に影響しない)。
- 主張:景気循環は貨幣的な要因(金融政策)ではなく、技術ショックなど実物的・供給側の要因 (企業の技術水準や政府支出の持続的な変化など)によって生じる。
- ケインズ派(価格が粘着的で市場が均衡しないと考える)や、価格の粘着性・独占的競争を重視する ニュー・ケインジアンとは、真っ向から対立する立場です。
📝 過去問はこう出る(H22 第9問) 実物的景気循環理論(RBC)の考え方として適切なものを選ぶ問題。正解(○)は 「実質GDPの変動は、企業の技術水準や政府支出などの持続的な変化による」。 引っかけの急所: - 「貨幣の中立性が成立し、金融政策が景気循環の要因」→ ×。中立性は正しいが、RBCは 金融政策(貨幣的要因)を循環の原因とはみなさない(実物的要因が原因)。 - 「価格は粘着的・独占的競争」→ ×。これはニュー・ケインジアンの前提。RBCは価格伸縮を前提。 - 「市場の失敗が景気循環の要因」→ ×。RBCは市場は競争的・連続的に均衡すると考え、 循環の原因は市場の失敗ではなく技術ショック等とする。 → H22 第9問
この章のまとめ(試験直前チェック)
- ☐ 経済は「長期トレンド(成長)」+「そのまわりの波(循環)」でできている
- ☐ ソロー・モデル=収穫逓減 → 定常状態に収束(成長は止まる)/持続成長には技術進歩が必要
- ☐ ソロー:貯蓄率↑は水準効果だけ(長期成長率は変えない)/n↓で k・y↑、s↓で k・y↓
- ☐ ハロッド=ドーマー=成長は不安定(ナイフの刃)(保証・自然・現実の3成長率が一致する保証なし)
- ☐ AKモデル(内生的成長論)=収穫一定 → 成長は止まらない/s↑は成長率を恒久的に上げる
- ☐ 内生的成長論のカギ=教育・知識・人的資本・研究開発(R&D)(技術進歩を内生変数で扱う)
- ☐ ソローとAKの引っかけ=「逓減か一定か」「止まるか止まらないか」の入れ替えに注意
- ☐ 黄金律=1人当たり消費が最大になる資本水準(貯蓄は多ければよいわけではない)
- ☐ 全要素生産性(TFP)=資本・労働で説明できない"のこりカス"(=技術進歩)/ソロー残差
- ☐ 日本の成長鈍化の一因=家計貯蓄率の低下(高齢化が主因)(H20)
- ☐ 景気の1周期=谷→次の谷(谷→山は半周期)/転換点は景気動向指数で判断(名目GDPではない)
- ☐ 4つの波=キチン(40か月・在庫)/ジュグラー(10年・設備)/クズネッツ(20年・建設)/コンドラチェフ(50年・技術革新)
- ☐ 景気動向指数の3系列:先行(株価・機械受注・住宅着工)/一致(生産指数・稼働率・有効求人倍率)/遅行(失業率・物価・税収)
- ☐ 引っかけ定番:株価=先行・失業率=遅行・有効求人倍率(除学卒)=一致・物価=遅行
- ☐ CI=上昇なら拡張(大きさ)/DI=50%超なら拡張(広がり)/今の中心はCI
- ☐ RBC=新古典派。循環の原因は貨幣ではなく技術ショック等の実物的要因(価格は伸縮的・貨幣は中立)
この章に対応する主な過去問
| 年度・問 | 論点 | リンク |
|---|---|---|
| H19 第10問 | 内生的経済成長論(AKモデル) | 問題 |
| H20 第2問 | 家計貯蓄率の低下と長期成長 | 問題 |
| H21 第5問 | 景気動向指数(先行・一致系列) | 問題 |
| H22 第9問 | 実物的景気循環理論(RBC) | 問題 |
| H23 第9問 | 内生的経済成長モデル(AKモデル) | 問題 |
| H24 第1問 | 景気動向指数の先行系列 | 問題 |
| H25 第11問 | 新古典派成長理論(定常状態) | 問題 |
| H29 第6問 | 景気動向指数(先行・一致・遅行) | 問題 |
| H30 第3問 | 景気動向指数(CIとDI) | 問題 |
| R04 第8問 | 景気循環の基礎概念 | 問題 |
| R05 第6問 | 景気動向指数の一致系列 | 問題 |
| R07 第6問 | 景気循環の周期性(4つの波) | 問題 |
全12章、おつかれさまでした 🎉
第1章の需要・供給からはじまり、消費者・生産者の理論、市場の失敗、GDP、財市場と乗数、IS-LM、 財政・金融政策、物価・インフレ・失業、国際経済、そして本章の経済成長と景気循環まで ── 経済学・経済政策の全体像を一周しました。ミクロもマクロも、根っこにあるのは 「限られた資源をどう配分すれば、みんなが豊かになれるか」という一貫した問いです。 その視点は、これから学ぶ他科目や、実務の経営診断にもそのまま生きてきます。
仕上げは、次の付録を使った総復習です。知識を"つなげて"定着させましょう。
- 付録A 重要グラフ・公式早見表 … 需要供給/IS-LM/AD-AS/費用曲線などの頻出グラフを一覧で確認。 「グラフの向き・シフト方向」を最終チェックするのに最適です。
- 付録B 論点別・出題年度対応表(H19〜R07) … どの論点が何年に出たかがひと目でわかります。 出題頻度の高い論点から優先的に復習して、得点効率を最大化しましょう。
- 付録C 用語集 … 弾力性・限界・乗数・クラウディングアウトなど、つまずきやすい用語をまとめて再確認。
▶ 最後に 経済学は「はじめは用語とグラフの壁」が高い科目ですが、一度地図(全体像)がつながると、 過去問の選択肢が"どの引き出しの話か"すぐ見分けられるようになります。 ここまで積み上げた地図を武器に、あとは過去問を繰り返して手を動かすだけです。 本試験での合格を、心から応援しています。おつかれさまでした!