第21章 価格戦略
この章のねらい マーケティング・ミックス(4P=Product/Price/Place/Promotion)の2番目、Price(価格)を扱います。 価格は、4Pのなかで唯一「売上(収益)を直接つくり出す」要素です(他の3つはコスト=支出を生みます)。 しかも、値札を書き換えるだけですぐに変えられるという機動性を持ちます。だからこそ、 「どう決めるか(設定法)」「新製品でどう攻めるか(スキミング/ペネトレーション)」 「消費者の心理はどう動くか(威光・端数・参照価格)」「値下げで需要はどれだけ増えるか(価格弾力性)」 という論点が、毎年のように問われます。
過去問での出方:企業経営理論のマーケティング分野(後半の第26〜37問あたり)で、ほぼ毎年1問は価格が出ます。 用語(スキミング/ペネトレーション、キャプティブ、EDLP/ハイロー、ダイナミック・プライシング)の 定義の取り違えを突く問題が中心で、意味を正確に押さえれば得点源になります。 R07・R06・R05・R03・R01…と、近年はダイナミック・プライシングやサブスクリプションなど新潮流も頻出です。
21-0 この章の地図
この章は、「どう値段を決めるか(基本)」→「新製品で攻める」→「消費者の心理」→「弾力性の理屈」→ 「現代の新しい価格政策」という順で進みます。用語がたくさん出てきますが、対で覚えるのがコツです。
21-1 価格設定の基本アプローチ … コスト志向/需要志向/競争志向(3つの土台)
│
21-2 新製品の価格設定 … スキミング(高く)⇔ ペネトレーション(安く)★対で暗記
│
21-3 消費者心理と価格 … 威光・端数・慣習・品質バロメーター・参照価格・下方硬直性
│
21-4 需要の価格弾力性 … 値下げで需要はどれだけ伸びるか/交差弾力性
│
21-5 価格政策の新潮流 … ダイナミック・プライシング/サブスク/EDLP⇔ハイロー
キャプティブ/抱き合わせ(バンドリング)
21-1 価格設定の基本アプローチ(コスト志向・需要志向・競争志向)
値段の決め方には「3つの土台」がある
価格の決め方は、「何を手がかりに決めるか」で大きく3つに分かれます。H20 第33問は、 まさに「コスト・競争・需要という3つの要因に基づく価格設定法」をテーマにした問題でした。
| アプローチ | 何を手がかりにするか | 代表的な方法 | ひとことで |
|---|---|---|---|
| ① コスト志向型 | 自社の原価 | コスト・プラス法(原価加算法)、マークアップ法 | 原価+利益で決める |
| ② 需要志向型 | 顧客が感じる価値・支払意思 | 知覚価値価格設定、需要差別価格、PSM(21-4) | 客が払える額から決める |
| ③ 競争志向型 | ライバルの価格 | 実勢価格設定(業界平均に合わせる)、入札価格 | 相手を見て決める |
① コスト志向型(原価から積み上げる)
コスト・プラス法(原価加算法)は、製品の原価に一定のマージン(利益)を上乗せして価格を決める、 最も伝統的で分かりやすい方法です。ただし弱点があります。
⚠️ ここが引っかけの定番:コスト・プラス法は「需要」も「競争」も見ていない H22 第24問では、「コスト・プラス法は、消費者の価格感度や市場での競争状況を価格設定に反映させている」 という選択肢が誤り(最も不適切=正解)でした。コスト・プラス法は原価だけを基準にする手法で、 顧客がいくらまで払うか(需要)や、ライバルがいくらか(競争)は織り込みません。 「原価から積み上げるだけ」=需要・競争を無視、と覚えましょう。
② 需要志向型(顧客の"感じる価値"から決める)
知覚価値価格設定は、市場調査などで「顧客がこの製品にどれだけの価値を感じているか(=いくらまでなら払うか)」を 推定し、それに合わせて価格を決める方法です(H20 第33問 選択肢ウが、この考え方を正しく説明していました)。 また、市場をいくつかのセグメントに分け、セグメントごとの需要の価格弾力性の差を利用して価格を変える方法(=価格差別)も、需要志向型に含まれます。
③ 競争志向型(ライバルを基準にする)
実勢価格設定は、業界の平均的・実勢的な価格に合わせて価格を決める方法です (H20 第33問 選択肢イが、この方法を正しく説明していました)。ライバルとの横並びを重視する業界で使われます。
プライス・ライニング(価格ライン設定)に注意
プライス・ライニング(価格ライン別の価格設定)は、多くの製品をいくつかの段階的な価格点(プライス・ポイント)に集約して見せる手法です。たとえばネクタイを「3,000円・5,000円・10,000円」の3ラインに整理して並べる、というイメージです。
📝 過去問はこう出る(H20 第33問) 「最も不適切」を選ぶ問題。正解(=誤り)は 「価格ライン別の価格設定では、各価格ライン内の製品のバリエーションに応じた多様な価格を設定する必要がある」。 プライス・ライニングは逆で、ライン内の製品はバリエーションがあっても同一価格に揃える手法です。 「多様な価格を設定する」は手法の趣旨と真逆なので×。 → H20 第33問
💡 ターゲット・コスティング(原価企画)も押さえる H27 第28問では、ターゲット・コスティングが「変動費と固定費にマージンを付加する方法」と説明され、 これが誤りでした。ターゲット・コスティングは逆の発想で、市場で受け入れられる目標売価を先に決め、 そこから目標利益を引いて「許容原価」を割り出し、設計・開発段階でコストを作り込む手法です。 「売価が先、原価は後から作り込む」=コスト・プラス法(原価が先)と正反対、と覚えましょう。
21-2 新製品の価格設定 ― スキミング と ペネトレーション ★最重要
新製品を出すとき、価格の攻め方は大きく2つあり、正反対です。この対比は価格戦略の最頻出テーマです。
上澄み吸収価格(スキミング・プライス)=「高く始める」
スキミング(上澄み吸収)価格は、導入時にあえて高い価格を設定し、価格に敏感でない層 (=どうしても早く欲しい・お金に余裕がある層)から早期に開発費を回収する戦略です。 牛乳の上澄み(クリーム)だけをすくい取るイメージから、この名前がついています。
成功の前提条件(H21 第22問で問われました): - 高価格でも利益を期待できる十分な数の買い手(需要)が存在すること - イニシャル・コスト(初期投資)が高いなどの理由で、潜在的な競合企業の参入が困難なこと - 製品が模倣されにくく、差別性が高いこと(R01 第31問:「模倣されやすい新製品に最適」は誤り)
市場浸透価格(ペネトレーション・プライス)=「安く始める」
ペネトレーション(市場浸透)価格は、導入時に思い切った低価格を設定し、 一気に市場シェア(市場占有率)を最大化する戦略です。ライバルより先に生産・販売数量を増やし、 経験曲線効果(累積生産量が増えるほど単位コストが下がる効果)でコスト優位を築くのが狙いです。
成功の条件(H21 第22問・R05 第4問で問われました): - 経験効果(経験曲線効果)によって生産費用・流通費用が低減すること(=経験効果が大きい) - コスト低下のペースが速いこと - 市場の需要の価格弾力性が高いこと(=値下げすると需要が大きく伸びる。→ 21-4)
【スキミング】高い価格で始める 【ペネトレーション】安い価格で始める
価格 ↑高 価格
●───(上澄みをすくい取る) │
\徐々に下げる ●───(低価格で一気にシェア獲得)
\ │ 経験効果でさらにコスト↓
─────────→時間 ─────────→時間
目的:早期の投資回収 目的:シェア最大化・競合の参入阻止
⚠️ 混同注意:どっちがどっち? - スキミング=スタート高い(High)/利益回収重視/模倣されにくい差別品 - ペネトレーション=ペタンと安い(Low)/シェア重視/弾力性が高い市場・経験効果が大きい市場
💡 語呂:「スキミングは"すくい取る"から高く、浸透は"しみ込ませる"から安く」
📝 過去問はこう出る(H21 第22問) 「最も不適切」を選ぶ問題。正解(=誤り)は選択肢イ: 「ペネトレーション価格の成功条件のひとつは、市場の需要の価格弾力性が低いこと」。 正しくは価格弾力性が高いこと(低価格にすれば需要が大きく伸びる)です。ここが逆に書かれていました。 なお、スキミング(選択肢エ)の前提条件(十分な需要・参入困難)は正しい記述として出題されています。 → H21 第22問 / R05 第4問
21-3 消費者心理と価格
価格は「安ければ安いほど売れる」とは限りません。人は価格を品質やステータスの手がかりとして 読み取るからです。この節の用語は、消費者心理系の問題(R07 第30問・H28 第27問・H30 第34問など)で頻出です。
威光価格(プレステージ価格)/イメージ・プライシング
威光価格(プレステージ価格)は、あえて高い価格をつけることで、 価格そのものを「高級・高品質・ステータス」のシンボルにする手法です。高級ブランド品・宝飾品などが典型です。 消費者の自己イメージ形成欲求や顕示欲求(見せびらかしたい気持ち)が強い製品群でとくに有効です(H21 第22問 選択肢ア)。
- プレステージ商品では、需要曲線が独特の動きをします。H22 第24問 選択肢オは、 「プレステージ商品は、価格が低下するといったん需要が増加するが、さらに低価格化が進むと(威光が損なわれ)需要は減少することも多い」 と説明し、これは正しい記述でした。
- R07 第30問(正解ア)でも、「価格を『支出の痛み』と捉えれば安いほど売れるが、 『品質のバロメーター』や『プレステージ』と捉えれば、必ずしも安い方が売れるとは限らない」が正解として問われています。
価格の「品質バロメーター機能」
価格の品質バロメーター機能とは、消費者が「価格が高いほど品質が良いだろう」と推測する作用のことです (=価格を品質の"ものさし"にする)。品質が自分では判断しにくい製品ほど、この作用が強く働きます。
⚠️ H22 第24問・H28 第27問の急所 - H22 第24問 選択肢ウ:情報化の進展で消費者の製品知識が向上したため、 価格の品質バロメーター機能は作用しにくくなっている → これは正しい記述。 - H28 第27問 選択肢ア:「5,000円という安さに驚いて購買した」例を品質バロメーター効果とするのは誤り。 品質バロメーターは「高いから良いはず」という推測であって、「安さに驚いた」話ではありません。
端数価格(プライス・エンディング)
端数価格は、980円・1,980円のように、切りの良い価格よりも少し低い半端な価格をつける手法です。 「1,000円」より「980円」のほうが、実際の差(20円)以上に安く感じられるという心理を利用します。
⚠️ H30 第34問の急所:端数価格 ≠ イメージ・プライシング H30 第34問 選択肢ウは、「切りの良い価格より若干低い価格に反応しやすい」現象を 「イメージ・プライシング」と呼ぶとしていましたが、これは誤り。正しくは端数価格(端数効果)です。 イメージ・プライシング(威光価格)は「高価格でステータスを演出する」別の話なので、取り違えに注意。
慣習価格
慣習価格は、自動販売機の飲料など、長年その価格が世間の"相場"として定着していて、 値上げすると売れ行きが大きく落ちてしまう価格をいいます。企業は価格を据え置き、 値上げの代わりに内容量を減らすなどで対応することがあります。
参照価格(内的参照価格・外的参照価格)
参照価格とは、消費者が「これくらいが妥当」と判断する基準となる価格のことです。2種類あります。
| 種類 | どこにあるか | 例 |
|---|---|---|
| 内的参照価格 | 消費者の記憶の中(過去の買い物経験から形成) | 「牛乳はだいたい200円くらい」という感覚 |
| 外的参照価格 | 店頭・値札など外の情報 | 「通常価格1,000円 → 特価780円」の"1,000円"の部分 |
消費者は特定製品の価格を正確には記憶していないことが多いのですが、この内的・外的の参照価格の両方の影響を受けて購買を決めます(H21 第22問 選択肢ウが正しい記述として出題)。
価格の下方硬直性
価格の下方硬直性とは、いったんついた価格が、コストが下がってもなかなか下がりにくい性質をいいます。 オリゴポリー(寡占市場)では、値下げしても他社が追随して結局全員の利益が減るだけ、という読みから、 各社が値下げを避けるため、価格が下がりにくくなります。
📝 過去問はこう出る(H28 第27問) 価格の意味・役割を問う「最も適切」型。正解は選択肢イ: 「一物一価は常に成立するわけではなく、タイミング・季節・地域・顧客区分・需要動向などに応じて価格は柔軟に変更される」。 品質バロメーター(安さに驚いた例は×)、プレステージ(値下げで殺到した例は×)の説明のすり替えが引っかけでした。 → H28 第27問 / H30 第34問
💡 松竹梅効果(妥協効果)も出る H30 第34問 選択肢アは、「2つの価格帯に高価格帯を1つ足して3段階にすると、中間の価格帯が選ばれやすくなる」 (松竹梅効果・妥協効果)という現象がテーマでした。「いつでも最安値が選ばれる」わけではない、という点がポイントです。
21-4 需要の価格弾力性と価格戦略
需要の価格弾力性とは
需要の価格弾力性とは、「価格を1%変えると、需要(販売量)が何%変わるか」を表す数値です。 値下げしたときに需要がどれだけ伸びるかを測る"ものさし"です。
$$ \text{需要の価格弾力性} = \frac{\text{需要量の変化率(%)}}{\text{価格の変化率(%)}} $$
- 弾力性が高い(弾力的):価格を少し下げると需要が大きく伸びる。→ 値下げ(ペネトレーション)が効きやすい。
- 弾力性が低い(非弾力的):価格を下げても需要があまり伸びない。→ 値下げしても売上が増えにくい。 生活必需品や、ブランド化・差別化された製品は弾力性が低くなりがちです。
⚠️ 21-2との接続:ペネトレーション価格が効くのは弾力性が高い市場。 ブランド差別化に成功した製品は弾力性が低くなる(値下げしなくても売れる)。 H26 第31問では、「ブランド化した製品では需要の価格弾力性が大きくなる」という選択肢が誤りでした (正しくは小さく=非弾力的になる)。ブランド力があれば、多少高くても客は離れません。
価格を下げても需要が拡大しないケース
R01 第31問のリード文は、「原材料価格の低下で値下げが検討されるが、価格を下げることが需要拡大につながらないケースもある」 と述べています。たとえば、威光価格が働く製品では、安くすると逆に「安っぽい」と敬遠され、需要が伸びないことがあります。
交差弾力性(クロス弾力性)
交差弾力性とは、「ある製品Aの価格が変わると、別の製品Bの需要がどれだけ変わるか」を表す数値です。 製品どうしの関係を読み取るのに使います。
| 交差弾力性の符号 | 2製品の関係 | 例 |
|---|---|---|
| 正(プラス) | 代替財(片方が高くなると、もう片方に流れる) | 牛肉↑ → 豚肉・鶏肉の需要↑ |
| 負(マイナス) | 補完財(一緒に使う。片方が高くなると両方減る) | プリンタ本体↑ → インクの需要↓ |
| ゼロに近い | ほぼ無関係 | 軽自動車の価格 ↔ 高級スポーツカーの需要 |
📝 過去問はこう出る(R01 第31問) 設問1は交差弾力性、設問2は価格戦略の用語。設問1の正解は選択肢エ: 「利用者層・使用目的が異なる軽自動車と高級スポーツカーは、価格変化が相互に影響せず、交差弾力性はゼロに近い」。 なお、牛肉とお茶・コーヒーのような代替財の交差弾力性は正(プラス)になるので、 「代替関係なのに負になる」とした選択肢は誤りでした。 設問2の正解は選択肢ア(プライス・ライニング戦略の正しい説明)。 → R01 第31問
💡 PSM分析(価格感度測定) H23 第26問では、PSM(Price Sensitivity Measurement=価格感度測定)調査が出題されました。 PSMは、消費者に4つの質問(①安すぎて品質不安になる価格、②安いと感じる価格、 ③高いと感じ始める価格、④高すぎて買う価値がないと感じる価格)を尋ね、その累積回答曲線の交点から 消費者の「受容価格帯(その範囲なら受け入れられる価格の幅)」を読み取る需要志向型の手法です。 → H23 第26問
21-5 価格政策の新潮流
近年の試験では、デジタル化を背景にした新しい価格政策が頻出です(R07・R06・R03など)。 用語の定義の取り違えを突く出題が中心なので、一つひとつ正確に押さえましょう。
ダイナミック・プライシング(変動料金)
ダイナミック・プライシングは、需給の状況に応じて価格を機動的に上下させる手法です。 ホテル・航空券・コンサートやスポーツのチケットなどで、AIによる需要予測をもとに価格を変えます。
⚠️ R07 第30問・R03 第32問の急所:「時期による価格変動」は昔からある R07 第30問 選択肢イは、「時期によって価格を変えるプライシングが行われるようになったのは、 ダイナミック・プライシングが浸透した近年になってから」としましたが、これは誤り。 需給に応じた季節価格やピーク・ロード価格として古くから行われてきました。「近年初めて」は言い過ぎです。 また、席のエリア別料金かつ売れ行きに応じた変動もダイナミック・プライシングの一形態です(R03 設問2 選択肢エは×)。 なお、災害時の便乗値上げが非難された例はあっても、「生活必需品への導入が法的に禁止されている」という事実はありません(R03 設問2 選択肢ア×)。
サブスクリプション(継続課金)
サブスクリプションは、製品・サービスの所有権を移転せず、一定期間の"使用する権利"を継続的に販売する形態です。 月額の音楽・動画配信が代表例です。
⚠️ R07 第30問・R03 第32問の急所:サブスクは「デジタル時代の新発明」ではない R07 第30問 選択肢ウは、「サブスクリプションはデジタル時代になって誕生した新しい契約形態」としましたが、 これは誤り。新聞・牛乳の定期購読など、デジタル以前から存在する形態です。 R03 第32問 設問1(正解ウ)では、「サブスクは気軽に製品を試す機会を提供し、最短2か月以上のものが多いが、 1か月だけの利用契約もサブスクに含まれる」が正しい記述でした。
EDLP と ハイロー(Hi-Lo)― 小売の2大価格政策 ★対で暗記
| 政策 | 中身 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| EDLP(Every Day Low Price) | 特売をせず、毎日恒常的に低価格を維持する | 一時的な値引きをしない。実現には、メーカー交渉で買取数量を決めて納入価格を下げ、自動発注・物流合理化でコスト削減が必要(H27 第28問 正解ア) |
| ハイロー(Hi-Lo)政策 | 通常は高め、チラシ特売などで時々安くする | 特売時に大量に先行仕入れするフォワード・バイイングを伴うと、保管スペース増・鮮度低下を招く(H22 第24問 選択肢アは正しい記述) |
💡 ロスリーダー(目玉商品) H27 第28問 選択肢エでは、ロスリーダー方式(チラシ特売の目玉商品)の狙いを 「単品大量購買の喚起」とするのが誤りでした。ロスリーダーの本来の狙いは、 目玉商品で集客し、"ついで買い"を促して店全体の売上を上げることにあります。
キャプティブ・プライシング(虜価格)
キャプティブ(虜)・プライシングは、本体(主製品)を安く売って買わせ、 継続して必要になる消耗品・付属品で高いマージンを稼ぐ手法です。 プリンタ本体は安く、インク(消耗品)で儲けるのが典型例です。「虜(とりこ)にして囲い込む」イメージです。
⚠️ H27 第28問・R06 第37問の急所 - H27 第28問 選択肢イ:キャプティブを「同時に使う2つの商品のマージンを各々高く設定する」とするのは誤り。 正しくは本体は安く、消耗品で高くです。 - R06 第37問(正解イ)では、キャプティブ・プライシングを 「プリンタ本体を安く売り、消耗品のインクで利益を確保する」と正しく説明したものが正解でした。
抱き合わせ(バンドリング)価格
抱き合わせ(バンドリング)価格は、複数の商品をセットにして、まとめて割安な価格で提供する手法です。 スキー場が「往復交通費+レンタル料+リフト券」をパック料金で売るのが典型例です(R01 第31問 設問2では、 これを「キャプティブ価格」と呼ぶのは誤りとされました。セット販売=バンドリングです)。 単品では買わない顧客にも魅力的な価格を設定するのがポイントです(H20 第33問 選択肢オ)。
⚠️ キャプティブ ⇔ バンドリングの区別 - キャプティブ:本体(安)+消耗品(高)で、時間をかけて継続的に稼ぐ(プリンタとインク) - バンドリング:複数商品をまとめて1回で割安に売る(スキーのパック料金)
📝 過去問はこう出る(R07 第30問/R03 第32問) R07 第30問(正解ア)は、価格を「支出の痛み」と捉えるか「品質のバロメーター/プレステージ」と捉えるかで 「安いほど売れる」とは限らない、という正しい記述が正解でした。イ(時期変動は近年初)・ウ(サブスクは新発明)・ エ(リベートとアローワンスの説明が逆)はいずれも用語や事実の取り違えで×。 R03 第32問は、サブスク(設問1)とダイナミック・プライシング(設問2)を正面から問う代表問題です。 → R07 第30問 / R03 第32問 / R06 第37問 / H27 第28問
この章のまとめ(試験直前チェック)
- ☐ 価格設定の3アプローチ=コスト志向/需要志向/競争志向
- ☐ コスト・プラス法は原価だけを基準にする(需要・競争は反映しない/H22の引っかけ)
- ☐ ターゲット・コスティング=目標売価が先、原価は設計段階で作り込む(コスト・プラスと逆)
- ☐ プライス・ライニングはライン内を同一価格に揃える(多様な価格を設定する、は×/H20)
- ☐ スキミング=高く始めて早期回収(模倣されにくい差別品・参入困難が前提)
- ☐ ペネトレーション=安く始めてシェア最大化(経験効果が大・価格弾力性が高い市場が前提/H21)
- ☐ 威光価格(プレステージ):高価格そのものが品質・ステータスのシグナル
- ☐ 価格の品質バロメーター機能=「高い=高品質」と推測(情報化で作用しにくく)
- ☐ 端数価格(980円)は端数効果。イメージ・プライシングと呼ぶのは×(H30)
- ☐ 参照価格=内的(記憶)+外的(値札)の両方の影響を受ける
- ☐ 需要の価格弾力性:高い=値下げで需要が大きく伸びる/ブランド化で弾力性は低くなる(H26)
- ☐ 交差弾力性:代替財は正、補完財は負、無関係はゼロ(R01)
- ☐ PSM=4つの質問から受容価格帯を読む(需要志向型/H23)
- ☐ ダイナミック・プライシング/サブスクは"デジタルの新発明"ではない(昔からある/R07・R03)
- ☐ EDLP=毎日低価格(特売なし)⇔ ハイロー=時々特売(フォワード・バイイングで在庫増・鮮度低下)
- ☐ キャプティブ=本体安・消耗品高(プリンタとインク/H27・R06)
- ☐ バンドリング=複数商品をまとめて割安(キャプティブと区別/R01)
この章に対応する主な過去問
| 年度・問 | 論点 | リンク |
|---|---|---|
| R07 第30問 | プライシング(威光・時期変動・サブスク・リベート) | 問題 |
| R06 第37問 | 価格設定(キャプティブ・バンドリング・DP・フリーミアム) | 問題 |
| R05 第4問 | 経験曲線効果を用いた価格戦略(浸透価格) | 問題 |
| R03 第32問 | サブスクリプションとダイナミック・プライシング | 問題 |
| R01 第31問 | 需要の価格弾力性・交差弾力性/価格戦略の用語 | 問題 |
| H30 第34問 | 価格に対する消費者の反応(端数価格・妥協効果) | 問題 |
| H29 第28問 | マーケティングにおける価格(威光価格・需要曲線) | 問題 |
| H28 第27問 | 価格の意味・役割(品質バロメーター・プレステージ) | 問題 |
| H27 第28問 | 価格政策(EDLP・キャプティブ・ターゲットコスティング) | 問題 |
| H26 第31問 | 価格の位置付け(ブランドと価格弾力性) | 問題 |
| H23 第26問 | PSM分析(価格感度測定) | 問題 |
| H22 第24問 | 現代の価格政策(EDLP・Hi-Lo・コストプラス) | 問題 |
| H21 第22問 | 価格設定と消費者心理(スキミング・ペネトレーション) | 問題 |
| H20 第33問 | 価格設定法(コスト・競争・需要/プライスライニング) | 問題 |
| H19 第26問 | 新製品の流通チャネルと価格設定 | 問題 |
次章予告 ▶ 第22章「チャネル戦略」 4Pの3番目、Place(流通チャネル)を扱います。チャネルの長短・広狭(開放的/選択的/排他的流通)、 垂直的マーケティング・システム(VMS)、卸・小売の機能、そして本章の価格政策とも密接につながる チャネル間のパワーとコンフリクトを学びます。