第22章 チャネル戦略

この章のねらい マーケティングの4P(Product・Price・Place・Promotion)のうち、この章は3つ目の Place=流通(チャネル)を扱います。どんなに良い製品を作っても、消費者の手に届く「道すじ」が なければ売れません。その「道すじ」をどう設計し、どう管理し、どう時代の変化に対応するかが チャネル戦略です。

過去問での出方:企業経営理論の第26〜33問あたりで、ほぼ毎年1〜2問が安定して出ます。 出方は大きく3タイプ。①チャネルの構造(長短・広狭・開閉の3基準/取引総数最小化)を定義で問うもの、 ②チャネルの管理(開放的・選択的・排他的、パワー、コンフリクト)、③流通の潮流(eコマース・ オムニチャネル・D2C)です。近年は③の出題が急増しています。用語の定義のすり替えが引っかけの 中心なので、ことばを正確に区別できれば得点源になります。


22-0 この章の地図

この章は「流通の"かたち"を知る」→「それを管理する」→「壊れやすさ(対立)に備える」→ 「いまの潮流に対応する」→「押すか引くか(戦い方)」という順に進みます。

22-1 チャネルの機能と構造     … 卸・小売の役割/長短・広狭・開閉/取引総数最小化
   │
22-2 チャネルの管理政策       … 開放的・選択的・排他的/チャネル・キャプテン/VMS
   │
22-3 コンフリクトとパワー     … なぜ対立するか/5つのパワー基盤/フリーライディング
   │
22-4 流通・小売業態の潮流     … 小売の輪/eコマース/オムニチャネル/D2C/SPA(★近年頻出)
   │
22-5 プッシュ戦略とプル戦略   … 押し込む(人的販売)か、引き寄せる(広告)か

22-1 流通チャネルの機能と構造

そもそも「流通チャネル」とは

流通チャネル(マーケティング・チャネル)とは、ひとことで言えば

「メーカーが作った商品が、消費者の手に届くまでに通る経路(道すじ)と、 その経路上で働く卸売業者・小売業者などの担い手のつながり

のことです。「Place=場所」と訳されますが、単なる「置き場所」ではなく、商品を消費者まで運ぶ仕組み全体 を指すと考えてください。

卸売と小売の役割

チャネルの担い手には、大きく卸売業者小売業者がいます。この2つの定義の違いは、そのまま試験に出ます。

卸売(wholesale) 小売(retail)
誰に売るか 他の卸売業者・小売業者・産業用使用者などに再販売する 最終消費者に再販売する
位置づけ メーカーと小売の"あいだ"をつなぐ 消費者との"接点"

⚠️ 混同注意:定義の"最終消費者"に気をつける 「小売=最終消費者への再販売」「卸売=最終消費者以外(卸・小売・産業用使用者)への再販売」。 R05第31問では、卸売の定義に「最終消費者だけでなく他の卸売業者や小売業者…」と、 卸売に最終消費者を含めた選択肢が誤りにされました。「卸売は最終消費者には売らない」と覚えます。 なお、卸売は卸売業者だけが行うとは限らず、メーカーが作った販社(販売会社)が小売業者向けに売るのも卸売です。

なぜ「間に業者が入る」のか ― 取引総数最小化の原理

「メーカーが直接売れば、中間マージンがなくて安くなるのでは?」と思うかもしれません。 ところが、中間業者(卸売業者)が入ることで、社会全体の取引の手間はむしろ減るのです。 これを取引総数最小化の原理(および集中貯蔵の原理/不確実性プールの原理)といいます。

【卸売業者がいない場合】          【卸売業者が1社入る場合】
 メーカー3社 × 小売3社           メーカー3社 →〔卸〕→ 小売3社
 = 取引回数 3×3 = 9本            = 取引回数 3+3 = 6本

 M─M─M                          M   M   M
 │╳│╳│  ← 全員が直接つながる     └─┬─┘   ← 卸が"中継点"になる
 R─R─R                             卸
                                  ┌─┴─┐
                                  R   R   R
  • 卸売業者という中継点(ハブ)を1つ置くだけで、つなぐ線の総数(=取引回数)が減ります。
  • この「取引の手間・在庫・情報を卸がまとめて引き受ける」効果が、卸売業者の存在意義です。
  • メーカーが零細(小規模)で多数な業界ほど、生産が分散するので卸の役割は大きく、卸の数は多くなりがち。 また中小小売業者が多いほど、メーカーと小売をつなぐ卸が多段階化し数も増える傾向があります(R05第31問)。

チャネルの構造を測る「3つのものさし」

チャネルの構造は、次の3つの基準で把握します。R04第30問はこの定義の区別が正解の決め手でした。

基準 何を測るか イメージ 区分の例
長短基準 流通段階(中間業者)の数の多い・少ない 経路の"段数"(縦の長さ) メーカー直販/1段階(小売のみ)/2段階(卸+小売)
広狭基準 特定地域でどれだけ多くの小売を通すか 経路の"広がり"(横の幅) 開放的・選択的・排他的(→ 22-2)
開閉基準 メーカーと流通業者がどれだけ専属的・閉鎖的に結びつくか 系列化の"強さ" 開放的(自由)〜閉鎖的(系列)

📝 過去問はこう出る(R04 第30問) 流通チャネルの構造の基準を定義する問題。正解は「広狭基準とは、特定地域内でどれだけの数の小売を 通じて販売するかの尺度で、開放的・選択的・排他的流通の区分に用いられる」(イ)。 引っかけは定義のすり替え:長短基準を「物流ルートの物理的長さ」と説明したり(正しくは"流通段階の数")、 開閉基準を「卸す商品の数・販売シェア」と説明する(正しくは"系列化の程度")誤り。 さらに「付加価値基準」という存在しない基準を混ぜてくる選択肢もありました。 → R04 第30問

💡 覚え方:3基準は「長さ・広さ・閉じ具合」。 長短=段数(縦)、広狭=小売の数(横)、開閉=系列の強さ(つながりの固さ)。 「長さ=物流距離」と読み替えたらバツ。あくまで"段階の数"です。

つまずきポイント:チャネルの幅は「地理」だけで決まらない

「チャネルを広くするか狭くするかは、市場の地理的な大きさで決まる」という選択肢はよく出ますが、誤りです。 チャネルの広狭は、製品特性(専門品か最寄品か)・購買頻度・ブランド戦略など、多くの要因で決まります (H28第26問)。高級品やこだわり商品は、地理的市場が広くてもあえて狭いチャネルを選ぶのです。


22-2 チャネルの管理政策

チャネルの「広狭」を決める3つの政策 ★最重要

22-1の広狭基準を、実際の政策として言い換えたのが次の3つです。ここは頻出の超基本です。

政策 どれくらいの店で売るか 向いている商品 ねらい
開放的チャネル できるだけ多くの店で売る 最寄品(食品・日用品・飲料など) 露出・カバレッジ最大化(どこでも買える)
選択的チャネル 一定の基準で選んだ限られた店で売る 買回品(化粧品・家電など) 販売力とコントロールのバランス
排他的(専属的)チャネル ごく少数・専属の店だけで売る 専門品・高級ブランド(高級車・高級時計・ブランド衣料) ブランドイメージの厳格な管理
開放的 ─────────────────→ 排他的
(多い・広い・ゆるい)      (少ない・狭い・固い)
 露出重視                   ブランド管理重視

📝 過去問はこう出る(H28 第26問) チャネルの構造・管理を問う複合問題。正解(イ)は「卸・小売にチャネル費用の一部を負担させられるため、 広くて長いチャネルは市場カバレッジの確保に有効」。引っかけとして、 希少性の高い高級ブランドで「選択的チャネルが採用される」という選択肢(ウ)が不適切とされました。 高級ブランドでブランドイメージを厳格に管理したいなら、選択的よりさらに絞った排他的(専属的)チャネルが 選ばれるからです。「高級ブランド=排他的」と紐づけて覚えましょう。 → H28 第26問

📝 過去問はこう出る(H30 第28問・H19 第26問) どちらも「製品特性とチャネルの整合性」を問う事例問題。 H30第28問の正解(ウ)は、高品質部品を調達できるC社が通信事業者と提携しパッケージ商品を提案する合理的な例。 逆に、年2,000枚しか作れない希少素材のシャツを250店の総合スーパー全店で扱う選択肢(イ)は、 供給能力と販路規模が不整合でバツ。 H19第26問は、高機能性の新製品飲料をコンビニに限定して高価格で売る理由を問い、 「弁当類とセットで買われる場面で高機能を訴求できる」(イ)が正解。製品の性格に販路を合わせる視点が問われます。 → H30 第28問H19 第26問

チャネル・キャプテン(チャネル・リーダー)

チャネルには、卸・小売・メーカーなど複数の会社が関わります。そのなかでチャネル全体をまとめ、 主導権を握る中心的存在チャネル・キャプテン(チャネル・リーダー)と呼びます。 メーカーがなることも、大手小売がなることもあります。

  • かつてはメーカーがキャプテンになる(系列化)ことが多かったのですが、 近年は大手小売チェーンが力を持ち、卸に業務を肩代わりさせる主導権を握る例が増えています(H19第35問)。

📝 過去問はこう出る(H19 第35問) 大手小売チェーンが卸売業者をどう活用するかを問う問題(「最も不適切」型)。 大手小売は、卸に小分け業務・データ分析・棚割管理(リテールサポート)を担わせたり、複数の卸を競わせて 価格メリットを得たりします。正解(=誤り、ア)は「専用物流センターのセンターフィーを小売業者が卸に支払う」。 実際はそのセンターを使って納品する卸(納入業者)が小売側に支払うのが通例で、支払い方向が逆でした。 → H19 第35問

垂直的マーケティング・システム(VMS=Vertical Marketing System)

VMSとは、メーカー・卸・小売という流通の縦の段階(垂直方向)を、バラバラではなく1つのシステムとして 統合・組織化する仕組みです。統合の強さで3タイプに分かれます。

タイプ 統合の方法
企業型VMS 資本(所有)で統合。同じ資本の傘下に卸・小売を持つ メーカー直営店、製造小売(SPA)
契約型VMS 契約で結びつく。もっとも一般的 フランチャイズ・チェーン、ボランタリー・チェーン、小売主宰の協同組合
管理型VMS 資本も契約もなく、有力企業の影響力(規模・ブランド)で緩やかに統合 有力メーカーが小売の陳列・販促を主導

フランチャイズ・チェーン(FC)とボランタリー・チェーン(VC)の違い

契約型VMSの代表がフランチャイズ・チェーンです。ここはボランタリー・チェーンとの違いが狙われます。

フランチャイズ・チェーン(FC) ボランタリー・チェーン(VC)
中心 本部(フランチャイザー)のフォーマットに従う 独立した小売店同士が任意で連携
加盟店 経営経験がなくても本部のノウハウで独立できる もともと独立した事業者
ロイヤルティ 経営指導の対価として本部に支払う 基本的になし
営業地域 本部がテリトリーを管理(任意設定は不可) 各店が独立

📝 過去問はこう出る(H20 第32問) FCの特徴を問う「最も不適切」型。正解(=誤り、エ)は「小規模の独立事業者が所有上の独立性を保ったまま、 共同仕入れなど運営上の共同作業を行う」。これはFCではなくボランタリー・チェーン(VC)の説明です。 FCは「本部のフォーマットに従い、ロイヤルティを払い、テリトリーは本部が管理する」——ここを押さえれば 他の選択肢(本部は資金が乏しくてもチェーンを大規模化できる、等)は正しい記述だと見抜けます。 → H20 第32問


22-3 チャネルのコンフリクトとパワー

なぜチャネルは"もめる"のか ― チャネル・コンフリクト

チャネルは複数の独立した会社の集まりなので、利害が食い違うと対立(コンフリクト)が起きます。

  • 水平的コンフリクト同じ段階の業者どうしの対立(例:同じメーカーの商品を扱う小売店A店とB店の価格競争)
  • 垂直的コンフリクト違う段階の間の対立(例:メーカーと小売の値引き・条件をめぐる対立)

とくに近年は、メーカーの直販(D2C)と、既存の卸・小売との対立という垂直的コンフリクトが増えています。 「メーカーが直販を始めると、既存の取引先(卸・小売)の反発を招く」——これは頻出の視点です(R05第31問)。

チャネル・パワーの5つの基盤

対立をおさめ、相手を動機づけたり統制したりする「力の源泉」をパワー基盤といい、次の5つに整理されます (フレンチ&レイブンの分類がもとになっています)。

パワー基盤 中身
報酬パワー 相手に利益・見返りを与えられる力 リベート、販売支援
制裁(強制)パワー 相手に不利益を与えられる力 出荷停止、取引縮小
専門(情報)パワー 専門知識・ノウハウ・情報を持つ力 販売ノウハウ、市場データの提供
正当性パワー 契約・立場にもとづく「従うべき」という力 契約上の権利
一体化(同一化)パワー 「あのブランドと組みたい」と思わせる魅力 強力ブランドとの取引

⚠️ 混同注意:作り話の分類にだまされない H28第26問には、パワー基盤を「物理的・情報的・組織的の3種」とする選択肢がありましたが、 これは不適切でした。正しくは上の5つ(報酬・制裁・専門・正当性・一体化)が定番の整理です。 また「動機づけ・統制の手段となる経営資源をチャネル・スチュアードシップと呼ぶ」という選択肢も誤り (スチュアードシップは"受託責任"の考え方で、別物)。耳慣れない用語を混ぜてくる引っかけに注意します。

つまずきポイント:取引依存度モデル(依存が高いと力は弱まる)

取引依存度モデルでは、メーカーが特定の相手(大手小売など)への販売依存度を高めるほど、その相手に対する 統制力(交渉力)はむしろ弱まるとされます。「1社に頼りきると、その相手に頭が上がらなくなる」という直感どおりです。 H28第26問では「依存度を高めると統制力が上がる」という選択肢が、逆で不適切とされました。

フリーライディング(ただ乗り)問題

チャネルでよく起きるのがフリーライディング(ただ乗り)です。 手厚いサービスを提供する店の販売努力に、低価格の店が"ただ乗り"して売上を奪う現象を指します。

📝 過去問はこう出る(H29 第29問) 消費者がサービス重視のX社で情報探索し、割引重視のY社で購入する状況を表す語句を問う問題。 正解(設問1、エ)はフリーライディング(ただ乗り)。X社の販売努力の成果をY社が低価格で刈り取る構造です。 設問2では、この価格競争がメーカーA社に何をもたらすかを問い、正解(エ)は「A社が長年築いた ブランドイメージが毀損される」。 なお、これを防ごうとA社が小売価格を設定・厳守させる(再販売価格の拘束)行為は、独占禁止法上問題があり 妥当ではない、とされた点も要注意です。 → H29 第29問


22-4 流通・小売業態の潮流 ★近年頻出

ここ数年、チャネル戦略の出題の中心はこの潮流分野に移っています。ことばの定義を正確に。

小売の輪(業態の輪)― マクネアの仮説

小売の輪(Wheel of Retailing)は、新しい小売業態がどう生まれ・成熟していくかを説明する仮説です。

① 新業態は【低コスト・低価格・低サービス】で参入
        ↓(成功して成長)
② 競争のなかでサービス・品揃えを充実 → 【高コスト・高価格化】(格上げ)
        ↓(すきまが空く)
③ そこへ、また別の【低価格・低サービス】の新業態が参入
        ↓
   …輪のように繰り返す
  • 百貨店 → スーパー → ディスカウントストア…と、低価格の新業態が次々に登場してきた歴史を説明します。
  • ただし「すべての業態がこの通りに生まれたわけではない」(例:コンビニは高価格・高利便で参入)ため、万能の法則ではない点も押さえます。

eコマース(電子商取引)とプラットフォーム

eコマース(EC)は、インターネットを通じた商取引です。ネット上のプラットフォームには2つの型があります。

仕組み 流通総額の会計上の扱い
商人型(再販売型) 運営者が自ら仕入れて販売する(在庫を持つ) 販売額が運営者の売上になる
マーケットプレイス型 運営者は出店者と買い手を仲介するだけ(場所貸し) 流通総額は運営者の売上にならず手数料収入が売上になる

📝 過去問はこう出る(H30 第29問) 近年の流通チャネルの潮流を問う問題。正解(ア)は「仮想モールは店舗・品揃えが拡大すると流通総額が増えるが、 商品が増えすぎると消費者の探索効率が下がるため、検索性が高まらない限り効果には限界がある」。 引っかけは定義のすり替え:マーケットプレイス型なのに「流通総額が運営主体の売上になる」とする誤り(オ)や、 オムニチャネルを「複数業態のチェーンで別々に対応する考え方」と説明する誤り(イ/これはマルチチャネル的発想)でした。 → H30 第29問

オムニチャネル ― 「すべてのチャネルを1つに統合」

オムニチャネル(omni-channel)とは、実店舗・オンライン店舗・アプリ・SNSなど、すべてのチャネルを 統合・連携させ、顧客にどこでも一貫した(シームレスな)購買体験を提供する考え方です。 「omni=すべての」という意味です。ここはシングルチャネル/マルチチャネルとの違いが繰り返し問われます。

段階 中身
シングルチャネル 1つのチャネルだけで販売(実店舗のみ 等)
マルチチャネル 複数チャネルを持つが、バラバラに運営(在庫・顧客データが別々)
クロスチャネル 複数チャネルの在庫などを一部連携
オムニチャネル すべてを統合し、顧客IDや在庫データを一元化してシームレスに提供

💡 覚え方:オムニチャネルのキーワードは「統合・シームレス・顧客データ一元化」。 逆に「実店舗とネットを線引き・分離する」「顧客をチャネルごとに別人として扱う」「片方に資源を集中する」は すべてオムニチャネルの逆(=バツ選択肢)。この対比を知っていれば、下の3問はまとめて解けます。

📝 過去問はこう出る(R03 第31問・H26 第28問・R05 第31問設問2) いずれもオムニチャネルの本質=統合を問います。 R03第31問の正解(ア)は「オムニチャネル化には顧客管理(顧客ID統合)の変更が必要だが、 顧客接点を物理的にさらに増やすことは必須ではない」。 H26第28問の正解(設問2、ウ)は「顧客データ基盤が整っている場合は全チャネル横断で顧客情報を統合・在庫を共有し、 オムニチャネル化を進めるのが望ましい」。 どちらも、ネットと実店舗を敵対させる/分離する/顧客を別人扱いする/片方に集中するという選択肢が すべて不適切とされました。 → R03 第31問H26 第28問

D2C(Direct to Consumer)― メーカーが消費者へ直接

D2C(Direct to Consumer)とは、メーカーが卸・小売などの中間流通を介さず、自社サイトなどを通じて 消費者に直接販売する形態です。

  • 米国のスタートアップが自社サイトで"世界観"を伝え、顧客との接点を育てながら直接販売して成長したのが始まり。
  • SNSの積極活用も多くのD2Cに共通する特徴です。
  • 昔からある「メーカー直販」と発想は近いですが、D2Cはブランドの世界観・顧客との直接的な関係づくりを重視する点に特徴があります。

⚠️ 混同注意:D2Cの"直接"の意味 D2Cは自社チャネルでの直接販売が本質です。R05第31問設問2では、 D2Cを「自社サイトや大手ネットショッピング・モールを通じて販売」と説明した選択肢が不適切とされました (大手モール経由は"直接"ではないため)。また「D2C進出には決済・顧客管理を単独で開発する必要がある」も誤り (外部のEC基盤・決済サービスを使える)。そして、メーカーが直販を始めれば既存の卸・小売との チャネル・コンフリクトが生じやすい(→ 22-3)という点も、あわせて問われました。 → R05 第31問

SPA(製造小売業)

SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel=製造小売業)とは、 企画・製造から小売までを1社で垂直統合し、自社ブランド商品を自社店舗で売る業態です(アパレルが発祥)。

  • 22-2の企業型VMSの代表例です。製造から販売までを自社で握るため、売れ筋を素早く生産に反映でき、在庫リスクも自社で管理します。
  • サードパーティ・ロジスティクス(3PL)もあわせて押さえます。荷主(メーカーや小売)に代わって物流業務を 一括受託する専門業者のこと。R05第31問では、卸売業者"自身"のロジスティクス機能強化を3PLと呼ぶのは 用語の誤りとされました(3PLはあくまで"第三者への外部委託")。

22-5 プッシュ戦略とプル戦略

チャネルとプロモーションをつなぐのが、このプッシュ/プルの考え方です(次章のプロモーションとも直結します)。

プッシュ戦略(push=押す) プル戦略(pull=引く)
誰に働きかけるか 流通業者(卸・小売)に働きかけ、店頭で売ってもらう 消費者に直接働きかけ、指名買いさせる
主な手段 人的販売・販売員による説明・リベート等の販促 広告(マスメディア等)でブランドを訴求
向く商品 説明を要する商品(専門品など)、購買頻度の低い商品 消費者がよく知る商品、購買頻度の高い最寄品など
イメージ メーカー→卸→小売→消費者と"押し込む" 消費者が小売に"欲しい"と言い、需要が上流へ"引かれる"
プッシュ: メーカー ──販促・人的販売──→ 卸 ──→ 小売 ──店頭推奨──→ 消費者
                (川上から川下へ"押し込む")

プル:    メーカー ──広告──→ 消費者 ──"あれが欲しい"──→ 小売 ──→ 卸 ──→ メーカー
                (消費者が需要を作り、川下から"引き寄せる")

📝 過去問はこう出る(R07 第33問) プッシュ/プル戦略の記述の正誤を問う問題。正解(オ)は「a:誤、b:誤、c:正、d:誤」。 - c(正):プッシュ戦略は人的販売が中心で、店頭で知識豊富な店員が丁寧に説明・推奨するのに適する。 - a(誤):プル戦略は広告で多数の需要を喚起し広く流通させるので、「小規模店舗の方が適する」とは言えない。 - b(誤):プル戦略はまさに広告を多用する戦略。「広告は用いずにコスト削減」は矛盾。 - d(誤):投資の早期回収をねらう価格は上澄み吸収価格(スキミング)浸透価格(ペネトレーション)は 低価格でシェアを早期獲得する戦略で、早期回収とは結びつかない(→ 価格戦略の章)。 → R07 第33問

💡 覚え方:「押す=人(人的販売)/引く=広告」。 プッシュは"店員が押してくる"、プルは"広告に引き寄せられる"とイメージすると取り違えません。


この章のまとめ(試験直前チェック)

  • 卸売=最終消費者"以外"へ再販売/小売=最終消費者へ再販売(卸の定義に最終消費者を含めたらバツ)
  • 取引総数最小化の原理:中間業者(卸)が入ると社会全体の取引回数はむしろ減る
  • ☐ チャネル構造の3基準=長短(段階の数)・広狭(小売の数)・開閉(系列化の強さ)("長さ=物流距離"はバツ)
  • ☐ 広狭の政策=開放的(最寄品・露出重視)/選択的(買回品)/排他的(専門品・高級ブランド・イメージ管理)
  • 高級ブランドのイメージ厳格管理=排他的(専属的)チャネル("選択的"としたら要注意)
  • チャネル・キャプテン=チャネルをまとめる主導者(近年は大手小売が握ることも)
  • VMS=縦の統合。企業型(資本)/契約型(FC・VC等)/管理型(影響力)
  • FCとVCの違い:FC=本部のフォーマット・ロイヤルティ・テリトリー管理/VC=独立店の任意連携
  • ☐ チャネル・パワーは5基盤(報酬・制裁・専門・正当性・一体化)("物理的・情報的・組織的の3種"はニセ分類)
  • 取引依存度モデル:特定相手への依存を高めるほど、その相手への統制力は弱まる
  • フリーライディング=サービス店の努力に低価格店がただ乗り(→ ブランド毀損/再販価格拘束は独禁法上問題)
  • オムニチャネル=全チャネルを統合しシームレスに(分離・別人扱い・片方集中はすべて逆)
  • D2C=中間流通を介さず自社サイトで直接販売(大手モール経由は"直接"でない/既存チャネルと対立しやすい)
  • SPA=製造小売(企業型VMS)/3PL=物流の第三者への一括委託
  • プッシュ=人的販売で流通に押し込む/プル=広告で消費者に指名買いさせる

この章に対応する主な過去問

年度・問 論点 リンク
H19 第26問 新製品の流通チャネルと価格設定 問題
H19 第35問 大手小売チェーンと卸売業者の活用 問題
H20 第32問 フランチャイズ・チェーン制度 問題
H26 第28問 チェーンストアのeコマース対応・オムニチャネル 問題
H28 第26問 マーケティング・チャネルの構造と管理 問題
H29 第29問 流通チャネルとパワー(フリーライディング) 問題
H30 第28問 マーケティング・チャネルの意思決定 問題
H30 第29問 流通チャネルの潮流(EC・オムニチャネル) 問題
R03 第31問 流通チャネル政策(オムニチャネル) 問題
R04 第30問 流通チャネルの構造(長短・広狭・開閉) 問題
R05 第31問 D2Cと流通チャネル(卸・小売・3PL) 問題
R07 第33問 プッシュ戦略とプル戦略 問題

次章予告 ▶ 第23章「プロモーション(マーケティング・コミュニケーション)」 本章の最後に登場したプッシュ/プルを入り口に、4Pの4つ目Promotionを掘り下げます。 広告・販売促進・人的販売・PR(パブリシティ)というプロモーション・ミックス、AIDMAやAISASなどの 購買行動モデル、そして統合型マーケティング・コミュニケーション(IMC)を扱います。