第7章 国際経営(グローバル戦略)

この章のねらい 企業経営理論・経営戦略論の締めくくりとして、「会社が国境を越えて事業を広げるとき、 どんな戦い方があるのか」を学びます。第2章までの成長戦略(どこで・どう伸びるか)を、 舞台を海外に広げて考え直す章だと思ってください。 テーマは大きく3つ。①どんな形で海外に出ていくか(輸出・ライセンシング・海外直接投資)、 ②どの形を選べばよいかを説明する理論(ダニングのOLIパラダイム)、 ③世界で「まとめる」か「現地に合わせる」か(統合と現地適応)です。

過去問での出方:ほぼ毎年1問、国際経営から出題される安定した頻出テーマです。 近年はR07年第12問(ダニングのOLIパラダイム)R02年第12問・R05年第12問 (バートレット&ゴシャールの4類型)H29年第13問(統合と現地適応)のように、 人名と理論の組み合わせを正確に覚えていれば取れる問題が多いのが特徴です。 加えて、中小企業に特有の「商社を使った進出」「空洞化への対応」も繰り返し出ます。 用語の対応関係を丁寧に押さえれば、得点源にしやすい分野です。


7-0 この章の地図

この章は、「どうやって出ていくか(形態)」→「どの形を選ぶかの理論」→「世界でどう戦うか(統合か現地適応か)」→ 「中小企業ならではの論点」という順に進みます。まず全体像をつかみましょう。

7-1 海外進出の形態          … 輸出 → ライセンシング → 海外直接投資(FDI)
   │                         (右にいくほど「関与・リスク・コントロール」が上がる)
   │
7-2 ダニングの折衷理論       … OLIパラダイム(所有O・立地L・内部化I)で
   │                          「どの形態が望ましいか」を説明する(★R07頻出)
   │
7-3 国際化のロジック         … I-Rフレームワーク(統合 × 現地適応)
   │                          グローバル/マルチナショナル/トランスナショナル
   │
7-4 中小企業の海外進出と空洞化  … 商社を使った進出・合弁・国内空洞化への対応
  • 7-1〜7-2は「進出のしかた」の話(どんな手段で、なぜその手段を選ぶか)。
  • 7-3は「進出したあとの世界的な戦い方」の話(世界で標準化するか、国ごとに変えるか)。
  • 7-4は「中小企業診断士ならではの視点」(大企業と違い、資源が乏しい中小企業がどう海外に出るか)。

7-1 海外進出の形態 ― 輸出・ライセンシング・海外直接投資(FDI)

3つの基本形は「関与とリスクの階段」で覚える

企業が海外市場に出ていく形は、大きく次の3段階に整理できます。 右にいくほど、自社の関与(コミットメント)・投資額・リスクが大きくなり、 そのぶん現地をコントロールできる度合い得られる利益も大きくなります。

【低い関与・低リスク】 ────────────────→ 【高い関与・高リスク】

  ① 輸出          ② ライセンシング       ③ 海外直接投資(FDI)
  国内で作って       自社の技術・ブランドを     現地に会社・工場を
  海外へ売る         相手企業に「貸す」        自分で持つ(現地生産)
   │                 │                      │
  投資・リスク小       投資は小さいが          投資・リスク大だが
  利益も薄い          技術が漏れる恐れ         利益もコントロールも最大
形態 中身(かみくだき) メリット デメリット・リスク
① 輸出(Export) 国内で生産した製品を海外へ売る。自国の立地優位(安い材料・高い技術など)が活きる 投資・リスクが小さい。まず試しやすい 輸送費・関税がかかる。現地ニーズに合わせにくい
② ライセンシング(Licensing) 自社の技術・特許・ブランドを使う権利を、現地企業に許諾しロイヤリティ(使用料)を得る。フランチャイジングも仲間 少ない投資で海外展開できる 契約が切れた後、相手が競合になる恐れ(技術が漏れる)
③ 海外直接投資(FDI) 現地に自社の拠点(子会社・工場)を持つ現地生産の形 現地に密着でき、利益・コントロールが最大 投資額・撤退コスト・カントリーリスクが大きい

英略語の確認 - FDI=Foreign Direct Investment=海外直接投資。「お金だけ投資する(証券投資)」ではなく、 経営に関与する目的で現地に拠点を持つ投資のこと。 - ロイヤリティ=技術やブランドを使わせてもらう見返りに払う使用料

海外直接投資(FDI)はさらに2種類 ― グリーンフィールドとブラウンフィールド

現地に拠点を「持つ」やり方には、ゼロから作る既にあるものを買うかの2つがあります。 R04年第11問は、この用語の逆転を引っかけに使いました。

用語 意味 イメージ
グリーンフィールド投資 現地に子会社・工場を新設して進出する(更地に建てる) ゼロから立ち上げる。時間はかかる
ブラウンフィールド投資 既存企業の買収などを通じて進出する 出来上がったものを買う。速い
クロスボーダーM&A 国境を越えて他国の企業を買収する 既存企業を買うので、新設より短時間で市場参入できる

⚠️ 混同注意:グリーン=新設/ブラウン=買収 「完全子会社を新設して進出する形態をブラウンフィールドと呼ぶ」は誤り(正しくはグリーンフィールド)。 また「クロスボーダー買収は海外進出形態の中で最も時間のかかる参入方法」も誤り。 既存企業を買う買収は、自前で立ち上げるグリーンフィールドより速く市場に入れます。

戦略的提携・合弁も「間の選択肢」

輸出とFDIの中間には、戦略的提携合弁(ジョイント・ベンチャー)もあります。 - 戦略的提携は、必ずしも全員が出資して会社を作るとは限りません。ライセンス供与や業務提携など、 出資を伴わない形もあります(R04年第11問の選択肢ウの引っかけ)。 - 合弁は、現地パートナーと共同で出資して会社を作る形。中小企業の海外進出でよく使われます(→ 7-4)。

📝 過去問はこう出る(R04 第11問) 海外進出形態(グリーンフィールド/ブラウンフィールド、クロスボーダーM&A、戦略的提携、ライセンス)の特徴を問う問題。 正解は「ライセンス契約では、契約が失効した後、ライセンシー(借りた側)がライセンサー(貸した側)の競合企業となるリスクがある」。 ライセンシングの最大の弱点=「技術・ノウハウが相手に渡り、いずれ競合になる」を突いた、正しい記述でした。 → R04 第11問

💡 覚え方:形態は「かかわりの深さ」の順 輸出 < ライセンシング < 合弁 < 海外直接投資(FDI)。 右にいくほど「お金・リスク・現地への関与・コントロール・見込める利益」がすべて上がる、と1本の物差しで覚えると混乱しません。


7-2 ダニングの折衷理論(OLIパラダイム) ★最頻出

「なぜその形態を選ぶのか」を3条件で説明する

7-1で「輸出・ライセンシング・FDIの3つがある」ことを見ました。では、企業は どういうときにどの形を選ぶのでしょうか。これを3つの優位性の有無の組み合わせで説明したのが、 J. ダニング折衷理論(OLIパラダイム)です。「折衷(せっちゅう)」とは、 複数の考え方をいいとこ取りしてまとめたという意味で、R07年第12問でそのまま問われました。

OLIは、次の3つの優位性の頭文字です。

優位性 英語 ひとことで言うと あるとどうなる
O:所有優位性 Ownership 自社だけが持つ強み(独自技術・ブランド・特許・ノウハウ) 海外で他社に勝てる武器がある
L:立地優位性 Location その国・場所で作る(そこに拠点を置く)と有利(安い労働力・大きな市場・資源) 現地で作ったほうが得
I:内部化優位性 Internalization 他社に任せず、自社内でやったほうが有利(技術漏れを防ぐ・取引コストを抑える) 外注(ライセンス)より自前が得

3条件の組み合わせで「進出形態」が決まる

ここがこの理論のいちばんの山場です。O・L・Iのどれが揃っているかによって、 望ましい進出形態が次のように変わります。

              内部化優位性(I)   立地優位性(L)
所有優位性(O)      あり             あり
   │               │               │
   ├─ O・L・I 全部あり ────────→ 【海外直接投資(現地生産)】
   │                              自社の強みを、内部で、現地で活かせる
   │
   ├─ O・I あり/L なし ─────────→ 【輸出】
   │                              自前でやる強みはあるが、現地で作る利点はない
   │                              → 自国で作って輸出する
   │
   └─ O だけあり/L・I なし ──────→ 【ライセンシング】
                                  強みはあるが、内部化する利点がない
                                  → 他社に技術を貸して使用料を得る
O(所有) L(立地) I(内部化) 望ましい進出形態
海外直接投資(FDI・現地生産)
× 輸出
× × ライセンシング
× そもそも海外で勝てる武器がない → 有利な進出は成立しにくい
  • 大前提はO(所有優位性)独自の強みがなければ、そもそも海外で戦えません。 Oがない場合、ライセンスで貸す独自資源も、現地生産で活かす武器もないので、有利な進出は成り立ちません。
  • Oがあったうえで、現地で作る利点(L)があり、かつ自前でやる利点(I)もあれば現地生産(FDI)
  • Lがない(現地で作る利点がない)なら、自国で作って 輸出
  • Iがない(自前でやる利点がない)なら、他社に貸して ライセンシング

📝 過去問はこう出る(R07 第12問) ダニングの折衷理論(OLIパラダイム)に基づく進出形態の選択を問う問題。 正解は「所有優位性と立地優位性と内部化優位性の全てがある場合、海外直接投資による海外進出が最も望ましい」。 - 「OだけあってL・Iがない場合は輸出」→ 誤り(正しくはライセンシング)。 - 「IだけあってO・Lがない場合はライセンシング」→ 誤り(Oがなければ貸す資源がない)。 - 「L・IがあってOがない場合は輸出」→ 誤り(Oがなければどの形も成立しにくい)。 「3つ揃えば現地生産」を軸に、崩れたパターンを見分けるのがコツです。 → R07 第12問

💡 覚え方:OLIは「武器・場所・自前」 O=武器(独自の強み)L=場所(現地でやると得か)I=自前(外注せず自社でやると得か)武器がなければ話にならない(O必須)→ 場所も自前も得なら全部自社でやる=現地生産、と唱えると定着します。


7-3 国際化のロジック(I-Rフレームワークと4類型)

世界で戦う会社の悩み ―「まとめる」か「合わせる」か

海外に複数の拠点を持つ企業(=多国籍企業)は、いつも2つの相反する要請に引き裂かれます。

  • グローバル統合(Integration)の必要性:世界中でまとめて標準化したい。 同じ製品を大量に作れば規模の経済が効き、コストが下がる。
  • 現地適応(Responsiveness)の必要性:国ごとに現地の好み・文化・法律に合わせたい。 そうしないと現地で売れない。

この2つをタテ軸・ヨコ軸にとった図を、I-Rフレームワーク(Integration-Responsiveness)と呼びます。 H29年第13問は、まさにこの2軸で戦略の当てはめを問いました。

      現地適応(R)の必要性
        高い
         ↑
  ┌──────────┬──────────┐
  │ マルチナショナル │ トランスナショナル │
  │  (現地適応型)  │  (統合+適応の両立)│
  ├──────────┼──────────┤
  │インターナショナル│  グローバル     │
  │  (本国移転型)  │  (統合・標準化型) │
  └──────────┴──────────┘
         →  グローバル統合(I)の必要性 高い
戦略タイプ 統合(I) 適応(R) 中身(かみくだき)
グローバル戦略 世界で標準化。本国主導で集中生産し、規模の経済でコストを下げる
マルチナショナル戦略
(マルチドメスティック)
国ごとに個別対応。各国子会社が独自に製品開発・マーケティング
トランスナショナル戦略 標準化と現地適応を両立。世界に分散した拠点が相互に連携する理想型
インターナショナル戦略 本国の強みを海外へ移転・適用する(初期段階に多い)

バートレット&ゴシャールの4類型 ― 資産と知識の流れで見分ける

上の4タイプを、C.バートレットとS.ゴシャールが「資産・能力をどこに置くか」「知識がどう流れるか」で 定義したのが、R02年第12問・R05年第12問で問われた国際経営の4類型です。試験では、 特徴文からどの類型かを当てさせる形で繰り返し出ます。

類型 資産・能力の配置 知識の流れ ひとことで
グローバル 本国に集中、成果を世界規模で活用 本国で開発・保有。海外拠点は本社戦略を忠実に実行 中央集権・効率型
インターナショナル コアは本国集中、その他は分散 本国で開発し、海外へ移転する 本国の能力を移す型
マルチナショナル 各国に分散、各拠点が自己充足的 各拠点で開発・保有。現地の機会に対応 分権・現地適応型
トランスナショナル 各国に分散+相互依存・専門化 各拠点で共同開発し、世界で共有 統合ネットワーク型

📝 過去問はこう出る(R02 第12問) a〜dの特徴文を、グローバル/インターナショナル/トランスナショナル/マルチナショナルに振り分ける問題。 正解の組み合わせは「a=グローバル(本国集中・忠実実行)/b=インターナショナル(本国で開発し海外へ移転)/ c=トランスナショナル(各拠点で共同開発・世界で共有)/d=マルチナショナル(各国分散・自己充足・現地対応)」。 「知識をどこで作り、どこへ流すか」を手がかりにすると見分けられます。 → R02 第12問

📝 過去問はこう出る(H29 第13問) 「グローバル統合の必要性 × 現地適応の必要性」の2軸で、戦略タイプと対応が整合しているかを問う問題。 正解は「現地の習慣・文化への配慮の必要性が高く、グローバル統合の必要性が低い製品では、 海外子会社が独自に製品開発・マーケティングを行い、現地需要に即応する(=マルチナショナル/マルチドメスティック戦略)」。 逆に「規模の経済が効き現地適応の必要性が低い製品」ならグローバル戦略(標準化・集約生産)が正解。 2軸の高低と戦略が"ちぐはぐ"な選択肢(適応不要なのに国別開発、など)を見抜くのがポイントです。 → H29 第13問

関連する2つのモデル(R05年第12問で登場)

R05年第12問は、上の4類型に加えて、次の国際経営モデルもまとめて問いました。名前と中身をセットで押さえます。

モデル 提唱者 中身
プロダクト・ライフサイクル理論 R.バーノン 製品の成熟につれ、生産拠点が先進国(米国)→ 発展途上国へ移っていく現象をモデル化
国際化の発展段階モデル ストップフォード&ウェルズ 海外比率・製品多様性の拡大に応じ、国際事業部 → 地域別/製品別事業部 → グローバル・マトリックスへ進む

⚠️ 定番の引っかけ:バーノンは「先進国 → 途上国」 「バーノンは発展途上国から先進国への生産拠点移転をモデル化した」は逆で誤り。 正しくは、製品が成熟すると生産が先進国から途上国へ移ります。方向を逆にした選択肢が頻出です。

⚠️ 混同注意:トランスナショナルの誤り選択肢 「トランスナショナル戦略の中核資産は本国に集中し、他地域での開発は不可能」は誤り(R05年第12問)。 トランスナショナルは世界中に分散した資産を相互依存的に活用し、各地でも開発する統合ネットワーク型です。 「本国集中・海外開発は不可能」は、むしろグローバルの特徴に近い書き方で、ここが引っかけになります。

💡 覚え方:4類型は「集めるか散らすか × 現地に合わせるか」 グローバル=集めて標準化/マルチナショナル=散らして現地適応/トランスナショナル=集めつつ散らす(両立)/ インターナショナル=本国のものを海外へ移す。まずグローバル(集中)とマルチナショナル(分散)を両端に置き、 そのいいとこ取りがトランスナショナル、と3点で覚えると崩れません。


7-4 中小企業の海外進出と国内空洞化への対応

ここは中小企業診断士の試験らしい論点です。大企業と違い、経営資源(ヒト・カネ・情報・ノウハウ)が乏しい中小企業が、 どうやって海外に出て、国内の「空洞化」にどう向き合うか。H23・H25・H27年などで繰り返し出ています。

中小企業の進出パターン ―「親企業について行く」と「独自に出る」

  1. 親企業(大手取引先)に随伴して進出する:系列の中小企業が、取引先の海外生産拠点への 部品供給や技術支援のために出ていく(最も多いパターン)。
  2. 独自に進出する:ASEANや中国などへ、中小企業が単独で出ていく。近年は現地市場そのものへの浸透を 狙う小売業・サービス業の進出も増えています(H27年第11問)。

商社を使った進出・合弁 ― 足りない資源を「借りる」

中小企業は国際化のノウハウが不足しがちなので、商社の仲介を受けたり、現地パートナーと合弁を組んだりします。

  • 商社を使う利点:現地情報の入手、法務対応、進出ノウハウの補完。中小企業は工場の操業に集中できます(H19年第9問)。
  • 合弁で注意すべき点(H23年第11問):
  • 現地パートナーの技術力が弱ければ、高品質原材料の持ち込み・技術指導で品質低下を防ぐ。
  • 技術流出の防止が最重要。合弁開始前に、守るべき技術・模倣禁止などを詳細に契約で定めておく。
  • パートナーの合弁事業以外の実態を見落とすと、守秘義務・競合禁止が破られ、模倣・信用失墜につながる。

⚠️ 引っかけ注意:出資割合と配当 「出資割合は経営努力の程度を示すもので、商社や現地企業は経営努力と無関係に配当を要求してトラブルになる」は誤り(H23年第11問)。 出資割合は本来リスク負担と配当請求権の根拠であり、出資に応じた配当要求は正当です。ここを不正確に書いた選択肢がバツになります。

新興国のボリュームゾーンをどう攻めるか(H27年第11問)

高所得のハイエンド市場だけでなく、人口が多く成長性の高い中所得層・低所得層(ボリュームゾーン/BOP)への 浸透も重要です。ここでの注意点として、

  • 現地化を進めるべき局面で「派遣した日本人だけの生産販売に切り換える」のは逆行(=不適切)。 むしろ現地人材の登用・現地に即した経営が成功の鍵です。
  • 低所得層市場では、道路事情の悪さや顧客の商品知識不足のため、コストのかかる人的接触重視のアプローチも求められます。

📝 過去問はこう出る(H27 第11問) 新興国での「現地市場への浸透(現地化)」の成功策として最も不適切なものを選ぶ問題。 正解(=不適切)は「現地法人のガバナンスを強化して、派遣した日本人だけによる生産販売活動に切り換える」。 現地市場に溶け込むべき局面で、日本人だけの運営に切り換えるのは現地化に逆行します。 一方、M&A先の現地人材への権限委譲、ブランド重視の現地オペレーションなどは適切な現地化策です。 → H27 第11問

国内空洞化への対応 ― 「自社の強み(コア)を捨てない」

生産の海外移転が進むと、国内では産業の空洞化(工場・雇用が国内から失われる現象)が起こります。 これに直面する中小企業の対応として、H25年第9問が「最も不適切なもの」を問いました。判断軸は 「自社が積み上げた経営資源・コア技術を活かせるか」「リスク管理が適切か」です。

  • 適切な対応の例:カントリーリスクを分析する、親企業の支援を前提に償却済み設備で単純工程から始める、 海外から安い部材を輸入してコストを下げる ―― いずれもリスクを抑えた段階的な打ち手
  • 不適切な対応の例(H25年第9問の正解):特定の工業部品に特化してきた企業が、生産設備をすべて売却して、 自社の蓄積技術と無関係な「新興国の汎用商品の輸入・流通業」へ丸ごと転換する ―― これまで培った コア技術を完全に放棄して未経験の業種へ飛び込むもので、成長戦略として整合性・実現可能性に乏しい。

📝 過去問はこう出る(H25 第9問) 空洞化・国内市場縮小に直面する中小企業の対応として最も不適切なものを選ぶ問題。 正解(=不適切)は「生産設備をすべて売却し、蓄積技術と無関係な新興国の汎用商品の輸入・流通に転換する」。 RBV(資源ベース理論・第4章)の発想――「自社の強み(コア資源)を活かせているか」――が判断の芯になります。 → H25 第9問

💡 覚え方:中小企業の海外進出は「借りる・守る・活かす」 足りない資源は商社・提携で借りる、合弁では技術を守る(契約で防御)、対応策は必ず自社のコアを活かす。 この3語で、7-4の過去問のほとんどは判断できます。


この章のまとめ(試験直前チェック)

  • ☐ 海外進出の形態は輸出 < ライセンシング < 合弁 < 海外直接投資(FDI)の順に、関与・リスク・コントロールが上がる
  • ライセンシングの弱点=契約失効後、相手が競合になる(技術流出)
  • ☐ FDIはグリーンフィールド(新設)/ブラウンフィールド(買収)。クロスボーダーM&Aは新設より速い(用語の逆転に注意)
  • ダニングのOLIパラダイムO=所有(独自の強み)/L=立地/I=内部化
  • O・L・I全部あり → 海外直接投資O・Iあり/Lなし → 輸出Oだけ → ライセンシング
  • Oがなければどの形も成立しにくい(強みが大前提)
  • ☐ 国際化は統合(I)×現地適応(R)の2軸(I-Rフレームワーク)で考える
  • ☐ 4類型(バートレット&ゴシャール)=グローバル(集中・標準化)/マルチナショナル(分散・現地適応)/ トランスナショナル(両立)/インターナショナル(本国から移転)
  • トランスナショナル=分散した資産を相互依存で活用・世界で共有(「本国集中・海外開発不可」は誤り)
  • バーノンのPLC理論=生産拠点は先進国 → 途上国へ移る(逆は誤り)/ストップフォード&ウェルズ=段階的発展
  • ☐ 中小企業は商社・合弁で資源を借り、合弁では技術を契約で守る(出資に応じた配当要求は正当)
  • ☐ 新興国の現地化で「日本人だけの運営に切り換える」は逆行(不適切)
  • ☐ 空洞化への対応は自社のコア技術を活かす方向で(設備を全部売って無関係な業種へ転換は不適切=RBVの視点)

この章に対応する主な過去問

年度・問 論点 リンク
R07 第12問 ダニングの折衷理論(OLIパラダイム) 問題
R04 第11問 海外進出の形態(グリーン/ブラウン・M&A・ライセンス) 問題
R02 第12問 バートレット&ゴシャールの国際経営4類型 問題
R05 第12問 企業の国際化(4類型・バーノン・ストップフォード&ウェルズ) 問題
H29 第13問 多国籍企業の戦略(統合と現地適応・I-R) 問題
H28 第3問 ライセンシング・買収による成長戦略 問題
H28 第11問 わが国製造業のグローバル競争 問題
H27 第11問 中小中堅企業の海外進出(現地化・ボリュームゾーン) 問題
H25 第9問 中小企業の海外進出と空洞化への対応 問題
H23 第11問 中小企業の海外進出(合弁企業) 問題
H21 第2問 海外での研究開発活動 問題
H21 第5問 国際化のロジック 問題
H19 第9問 日本企業の海外直接投資 問題
H24 第10問 海外進出戦略 問題
H25 第28問 フランチャイジング(海外進出) 問題
R07 第29問 グローバル・マーケティング 問題

次章予告 ▶ 第8章「企業統治(コーポレート・ガバナンス)とCSR」 本章までで経営戦略論を一通り学びました。次章からは視点を変え、「会社は誰のものか・誰が経営を監視するのか」を扱います。 株主・取締役会・監査役といったガバナンスの仕組みと、企業の社会的責任(CSR)を学びます。