AX事例集〜AXでなにができる!?

DXの時と同じでAXという言葉が先行するのは望ましくありません。DXしよう!AXしよう!しなければと叫んでも何の意味もないでしょう。 デジタルやAIできることを把握しつつ、どのように自社の業務をこれからに向けて変革し、顧客に提供できる価値を提供できるか。AX事例集と銘打って情報は集めましたが、単なる効率化だよなあ。。。というのも正直含まれています。
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最近あちこちで「AX」という言葉を見かけるようになりました。
AI Transformation、AIトランスフォーメーションの略ですね。DXの次はAXか、と。まあ、また新しい横文字が来たな、というのが正直な第一印象でした(^^;
ただ、調べてみたら経済産業省が2026年に「AX時代におけるスキルのあり方検討ワーキンググループ」を設置していて、内閣府の成長戦略の資料にもAXが出てくる。もう国の政策用語になっているわけです。
ちょうど中小企業の経営者向けのセミナー資料を作っていたので、そこで調べたことをまとめて置いておきます。事例をとにかくたくさん集めたので、そこが本題です。
AXの定義〜「AIを前提に、仕事と事業のかたちを組み替えること」
公的機関がビシッと決めた定義文があるわけではないようです。民間各社の説明を並べてみると、だいたい共通しているのはこのあたり。
AIを業務の前提として組み込み、業務プロセス・組織・ビジネスモデルそのものを組み替えること。
ポイントは3つかと思います。
- AIが「担当者」になる。人がやっていた作業の一部を、AIが実際に処理する
- 業務の順番ごと変わる。AIを入れやすいように、手順・帳票・ルールを作り直す
- 事業のかたちも変わる。対応できる客数や商圏が変わって、新しい商売の仕方が生まれる
「AIツールを導入した」だけではAXではない、というのが各社の説明に共通する部分ですね。ツール導入ありきは失敗パターンだと、どこも書いています。
DXとAXは何が違うのか?〜対立ではなく、次の段階
セミナーで一番聞かれそうなのがここなので、表にしました。
| 比べる点 | DX(デジタル化の変革) | AX(AIによる変革) |
|---|---|---|
| 主役 | 人+デジタルの道具 | 人+AI(AIが実務を担う) |
| やること | 紙をデータにする/業務をシステム化する | たまったデータをAIが判断・生成・自動処理する |
| 人の役割 | システムを使いこなす | AIに任せ、最終判断と責任を持つ |
| 中小企業の現実 | 手が回らず途中で止まりがち | 1人・1業務からでも今日始められる |
「DXが終わってからAX」という順番で説明されることが多いのですが、中小企業の現場を見ていると、そうでもない気がしています。
むしろAIを入口にして、結果的にDXが進む。紙を全部データにしてから、なんて言っていたら、たぶん永遠に始まらないわけです。
日本の現在地〜差はまだ、けっこう大きい
帝国データバンクの調査(2026年3月)だと、生成AIの活用率はこうなっています。
- 大企業:46.5%
- 中小企業:32.4%
- 小規模企業:28.0%
国際比較のほうがもっと差がついていて、総務省の令和7年版情報通信白書によると、生成AIの個人利用率は日本26.7%、米国68.8%、中国81.2%。
なかなか厳しい数字やなあ、と思いました。
ただ、差が大きいということは、裏を返せば「今動けばまだ先行できる余地がある」ということでもあります。周りがみんな使っている状態なら、使っても差になりませんから。
中小企業がつまずいているのは、お金でも技術でもない
中小機構が全国1万社に聞いた調査(2026年3月公表)が、個人的に一番刺さりました。
AIの利活用状況は、導入済み20.4%、検討中18.6%。合わせて4割弱ですね。
で、導入が進まない理由の上位がこれ。
- 成功事例の情報が足りない:83.3%
- どの製品・業者を選べばいいか分からない:79.8%
コストが1位ではないんですね。OECDが7か国・5,000社超の中小企業に聞いた調査でも、障壁の1位は「自社の業務に合うか分からない」57%で、コストは大きな障壁になっていませんでした。
つまり足りないのは、自分と似た規模・似た業種の会社が、実際に何をやったかという話なわけです。
ということで、以下ひたすら事例を並べます。ここからが本題ですね。
事例① 製造業
| 企業 | やったこと | 成果 |
|---|---|---|
| 岡田研磨 石川県/建設機械部品/85名 |
紙の図面・手順書で、過去データを探すのに1時間かかることも。生成AIと日本語で対話しながら、ノーコードで社内システムを内製 | 月420時間の労働時間削減/紙を月5,600枚削減 |
| ヒバラコーポレーション 茨城県/工業塗装 |
熟練職人の動きをセンサーで取得してAIが学習。ロボットによる遠隔自動塗装へ | 経済産業省 DXセレクション2025 準グランプリ |
| 理化学機器メーカー 東京都大田区/10名 |
業界情報の収集、新規市場の開拓、仕入先の発掘にChatGPTを活用 | 「検索と違い、議論しながら深掘りできる」 |
岡田研磨さんの月420時間というのが、なかなかの数字です。約1年で8,000万円相当のシステムを内製した、という話まで出ています。
事例② 建設・卸売
| 企業 | やったこと | 成果 |
|---|---|---|
| 後藤組 山形県/建設業/150名 |
属人的だった業務を、ノーコードツール中心に全員参加型で改善。生成AI活用も本格化 | 現場発の改善アプリを3,000件超え開発/DXセレクション2025グランプリ |
| スポーツ衣料の卸売業 東京都文京区/7名 |
ウェブ広告を外注か社員頼みでやっていたのを、ChatGPTと画像生成AIに | 広告制作が数十分で完了/外注費の削減 |
| 吉辰商事 食品卸売業 |
最低ロット増とリードタイム長期化で欠品と過剰在庫が同時発生。大学と共同で機械学習による発注最適化 | 従来の平均ベース発注を上回る予測精度 |
事例③ 小売・店舗
| 企業 | やったこと | 成果 |
|---|---|---|
| 大津屋 福井県/コンビニ「オレボ」約10店舗 |
総菜が月替わりで、レジ担当が種類と値段を覚えきれない。総菜を撮影するとAIが1秒未満で判別しバーコードを自動印刷(約300万円) | 導入約1か月でレジのミスが減少。新人とベテランの差を機械が埋めた |
| 雑貨小売業 東京都目黒区/2名 |
外注先への指示文、商品説明文やキャッチコピーをChatGPTで | 走り書きのメモが正式な依頼文に |
| フラワーショップ アリス 生花店/8名 |
見積書・納品書に1件20分。ホームページの多言語化も手が出せず。ChatGPTで書類作成・翻訳・チャットボット | 書類作成が20分→5分以下(約75%削減) |
従業員2名の雑貨屋さんが出てくるところが、この手の事例集としては珍しいなと思います。東京商工会議所の「生成AI活用入門ガイド」に載っていました。商工会議所の資料、地味にいいです。
事例④ 宿泊・観光
観光庁が実証調査をやっていて、報告書が公開されています。
| 企業 | やったこと | 成果 |
|---|---|---|
| お宿 欣喜湯 別邸 忍冬 北海道/客室73室・58名 |
販促の打ち手が個人のカン頼み。多言語対応にばらつき。シフト作成が重い。アンケート分析、ペルソナ作成、フロントの多言語支援、シフト自動作成に生成AI | 販促の検討が半日以上→15分程度/シフト作成は1日→半日を見込む |
| ホテルおかだ 神奈川県箱根/客室122室・110名 |
社内チャットのQAボット、需要予測とシフト最適化、顧客データの一元化 | 属人化していた判断を、誰でも引き出せる形に |
面白いのは、どちらの宿もまず手をつけたのが「シフト」と「問い合わせ」だったこと。
どちらも毎日発生して、担当者が決まっていて、効果が数字で測れる業務ですね。飲食でも小売でも介護でも、同じ発想が使えるんじゃないかと思います。
事例⑤ 介護・農業
| 企業 | やったこと | 成果 |
|---|---|---|
| おはなリハ ケアマネステーション 茨城県つくば市/小規模 |
支援経過記録や議事録の作成が重く、離職も多かった。音声記録AI+業務自動化ツールを導入 | 記録作成が1人あたり月20時間→5時間/年間離職率30%→0%/応募が年4〜5名→15名以上 |
| 農研機構 × 三重県 いちご生産の普及指導 |
国内初の農業特化型生成AI(学習データ1,000万トークン超) | 農業知識の正答率が汎用AIより40%高い/調査時間3割削減を目標に試験運用 |
離職率30%→0%というのは、AIの話というより経営の話ですね。記録に取られていた時間が、そのまま現場の消耗になっていたということかと思います。
なお農研機構のほうは2026年10月からの試験運用段階で、数字は目標値です。ここは正直に書いておきます。
事例⑥ 士業・サービス業・ひとり社長
| 事業者 | やったこと | 成果 |
|---|---|---|
| 行政書士 吉田哲朗事務所 名古屋市/個人事務所 |
建設業許可など、誰でも扱う分野で差別化できない。ChatGPTで記事執筆(約730本を蓄積) | 記事1本が1時間→30分以内。空いた時間で新規事業を立ち上げ |
| Curian 化粧品の企画・販売/個人事業 |
SNS投稿が10日に1回が限界。自社商品の知識を覚えさせた専用AIを構築 | 投稿が10日に1回→週3回、制作時間は約1時間に |
| 整体安どう 岐阜県/個人事業 |
高齢化率45%の地域での顧客開拓。ChatGPTを相談相手に事業戦略の壁打ち、コンセプト策定 | 発信を始めて数日でチームへの依頼が発生 |
ひとり社長・個人事業の事例は、こういう「壁打ち相手として使う」パターンが多いですね。私も【 】という使い方をしています。
大企業はどこまでやっているか
ベンチマークとして、大企業の数字も並べておきます。
- パナソニック コネクト:自社専用の生成AIを国内全社員 約12,400人に展開。1年間で18.6万時間の労働時間削減
- 三菱UFJ銀行:データ入力・業務標準化に生成AI。月22万時間の削減を試算、標準化文書600ページを数十ページに圧縮
- 日立製作所:グループ約28万人で活用。システム開発の生産性が約3割向上
- イオン:需要予測・自動発注「AIオーダー」。発注時間を平均5割削減、在庫を平均3割削減
- 日本航空:独自ツール「JAL-AI」。間接部門の社員がほぼ全員利用、全国56空港に展開
- 日本郵政グループ:社員が自分でミニアプリを作れるポータル。半年で70個超のミニアプリを社員が自作
日本郵政の話が個人的に一番好きです。本部が全部作るのは無理だから、現場に作らせる。40万人いる組織でこれをやるのは、なかなかの判断やなあと思います。
海外は
- Walmart:8.5億件の商品ページを生成AIで作成。経営陣が「人手より100倍生産的」と説明
- Morgan Stanley:GPT-4ベースの社内アシスタント。アドバイザーチームの98%が日常利用、資料へのアクセス効率20%→80%
- Newman’s Own(米国・食品):Copilot活用で、業界ニュース要約に月70時間、市場レポートに月50時間の削減。施策数は3倍
Newman’s Ownは利益を全額寄付するという珍しい会社ですが、規模としては中堅〜中小です。少人数で調査・企画・法務・物流まで回している、という状況は日本の中小企業とそう変わらないですね。
実は、中小企業のほうが速いという話
ここが、セミナーで一番言いたかったところです。
MITが2025年に出した「State of AI in Business」という報告書で、こんな数字が出ています。
- 生成AI投資でリターンが出ていない企業は95%。自社構築ツールが本番運用に到達したのは5%
- 年商1億ドル以上の大企業は、パイロットの数は多いがスケール化の成功率は最も低く、実装に9か月以上
- 一方、中堅企業はパイロットから本格実装まで平均90日
- 外部パートナーを使ったほうが、内部開発より成功率が約2倍
大企業は全社の合意を取ってから、大きな仕組みを作り込む。だから遅い。
中小企業は、社長が決めれば今日から始まる。1つの業務で試して、すぐ広げられる。
もちろん人も予算も少ないわけで、有利なことばかりではありません。ただ「決めてから動くまでの速さ」だけは、間違いなく中小企業のほうが上です。ここを使わない手はないかと思います。
つまずきポイントも書いておきます
いい話ばかり書くのもフェアではないので。
(1)試したまま終わる
Gartnerは、AIエージェント案件の4割超が2027年末までに中止されると予測しています。「試してみた」で満足して、業務に組み込まないパターンですね。
(2)効果を測っていない
商工中金の調査では、中小企業の21.3%が「効果が測れず成果が見えにくい」と回答。始める前に、測る数字を1つ決めておくだけでだいぶ違います。
(3)ルールがないまま広がる
社内ルール・方針の未整備が25.1%。情報漏えいと著作権への懸念は、いずれも約7割の企業が挙げています。経済産業省・総務省の「AI事業者ガイドライン」が下敷きになるかと思います。
で、私はどう考えるか
事例を20件以上並べてみて、うまくいっている中小企業には共通点があるなと感じました。
- 「AIを使う」からではなく、「この作業が重い」から入っている
- 経営者本人が触っている。外注や情シス任せではない
- 最初は月数千円の道具。数百万円の投資は後から
- 浮いた時間の使い道を決めている
- 1人の成功を、手順書にして横に展開している
特に4つ目ですね。時間が浮いただけで満足してしまうと、AXではなく単なる効率化で終わってしまう。
岡田研磨さんの月420時間も、後藤組さんの3,000アプリも、削減の話というより「そのぶん何をやるか」を決めていた会社の話だと思います。
もちろん、私もそんなに偉そうなことを言える立場ではありませんが(^^; 支援先には「まず社長が毎日1つの業務で使ってください」から話すようにしています。
出典
- 帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査」(2026年3月)
- 帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」(2026年7月)/「全国『後継者不在率』動向調査」(2025年)
- 総務省「令和7年版 情報通信白書」
- 中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月)
- 商工組合中央金庫「中小企業の生成AIの利用にかかる調査」(2026年)
- 中小企業庁「2025年版 中小企業白書・小規模企業白書」
- 経済産業省「AX時代におけるスキルのあり方検討ワーキンググループ」/「DXセレクション2025」/経済産業省・総務省「AI事業者ガイドライン 第1.1版」
- 観光庁「宿泊業における生成AIの効果的活用に関する実証調査」報告書
- 東京商工会議所「生成AI活用入門ガイド」
- ISICO情報誌/農研機構プレスリリース/パナソニック コネクト プレスリリース/Microsoft Customer Stories/OpenAI公式事例
- MIT NANDA「State of AI in Business 2025」/Gartner(2025年6月)/OECD「AI adoption by SMEs」(2025年12月)
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そんなところで。

