グリコのプッチンプリンはまだ出荷されない〜基幹システム障害でのERP(SAP)のトラブル
純利益53.1%減
思ったより業績は耐えているのか、これからもっと下がっていくのか・・・
江崎グリコ社のプレスリリースの状況
第一報は2024年4月5日
最初にグリコから基幹システムのトラブルの発表があったのは4/5でした。システム障害が発生して一部の受発注や出荷業務に影響が出ていますと、どこにでもあるトラブルの軽い報告のように見えます。
このタイミングではことの重大さに気づいていなかったのか・・・とりあえずの第一報だったのか。
システムトラブルは第一報を早く出すことも重要ですが、全体像が把握できていないと、初動ミスがあったと考えられてしまうでしょう。
4/12 一部から徐々に被害が広がる?
乳製品・洋生菓子・果汁・清涼飲料などのチルド食品(冷蔵品)については4/14より全国で出荷停止になりました。まだ復旧次期は明らかにされておらず、トラブルの大きさの把握や回復の見通しが立っていないことがわかります。
4/17 明日再開します!
4/3から2週間が経って、ついに明日から一部再開ができる見通しが立ってきました。
ただ全面的な復旧スケジュールは発表されておらず、まだ不安を感じるプレスリリースでした。
4/19 一部再開失敗 出荷再停止
ところが4/18に出荷の一部再開をおこなったもの、データの不整合が発生してサイドの出荷停止となり、再開は5月中旬ととりあえずの1ヶ月期間を取る作戦になりました。
詳しいことはわかりませんが、一部の食品に絞って、動かしてみたのでしょうか。そうするとデータ不整合。
つらいですね。担当していたSEに同情します。
このあとの流れを考えると、とにかく一部でもいいから早く動かせ!という社内号令があったのでしょう。販売側の立場からすると当然だと思いますが、やはりトラブルの全体像や原因が突き止められていないのにリスクを背負って突入して行ったように読めます。
退けないから突撃! 失敗の本質ってやつですか・・・
5/1 サイドの出荷停止期間の延長 しかしいつからかは明言せず
障害発生から一ヶ月がたって、ようやく障害の問題の特定について言及され始めます。しかし特定できた!との断言ではなく、特定は進んだという表現なので、なんとなくわかってきたけどまだ自信はない、という状況でしょうか。
そのため、5月中旬の出荷再開は延期するものの、今後の予定は明示されませんでした。見通しすら出せないのはつらい。
6/11 6月25日以降順次再開
そしてはやいもので、障害発生から2ヶ月以上たって、再開の目処が発表されました。
6月25日。ただ全面再開ではなく、一部商品の順次再開の模様です。
さて、無事6/25に再開されるのか、全面再開できるのはいつになるのか。そしてその後の原因の発表、取った対策など引き続き確認していきたいと思います。
7/3 7月16日以降の出荷再開 〜またもや延期
報道機関の発表
4月後半 社長のデータ志向がトラブルを招いた!?
そして徐々にメディアでも取材がされ、内情がでてきつつあります。ただ、グリコ社から発表された訳では無い中、少し悪意を感じるタイトルですね。 ▶「40年ぶり社長交代でデータ志向を目指したが」
記事出典 https://toyokeizai.net/articles/-/750383?page=3
システム投資額は340億円
グリコ社の2024年12月の決算では売上は3,510億円で、営業利益190億円でした。売上の10%の投資という巨額さですね。
どれくらいの投資の額が適度なのかはケースバイケースなのでわかりませんが、ソフトウェア投資比率は参考までに大企業では14.6%です。(売上からの比率ではなく、設備投資のうちのソフトウェア投資額の割合であることに注意)
またチルド食品の売り上げ割合はわかりませんが、例えば乳事業だとすると、前期は696億円。3
ヶ月売上が0になれば、174億円の損失です。 そしてそうこうしているうちにグリコがもっていた、コンビニやスーパーの棚はなくなっていくことになります。3ヶ月(4月頭から6月末)で復旧できる確信もありませんが。
子会社の統合が引き金!?
グリコは2014年に完全子会社だったグリコ乳業を吸収合併しましたが、もちろんそれ以前はシステムがバラバラだったとのこと。会計などはすでに統合している分野もあったそうですが、今回の受発注や生産関係はバラバラだったようです。
そりゃ、統合したいですよね。会社としては。
ERPでデータを統合して、経営判断のスピードを上げるというのは経営陣にとって当然の判断だったと思います。
40年ぶりの社長交代
”新社長はデータ志向の企業に変革すべく、デジタル戦略を前面に打ち出した”
▶普通の発想だとは思うんですよ、もちろん発想は悪くない。実現への取り組みでどこかをミスったのでしょう。外部コンサルに頼りすぎたとか、とりあえずSAPでどーん!で爆発とか今のところ聞こえてくるのは典型的な表面上の失敗情報しかありませんが。
6月入っての再開延期のとりあげ方
6/25からの順次出荷再開が報じられています。
ERPの失敗は過去にもたくさん
ERP導入失敗の過去の事例と対比した記事も徐々に出てきました。
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00138/061001541
ERPはアドオンするな!
いつものERP論議も発生していますね。
8/13で、ようやく当プッチンプリンの一部商品を順次出荷再開
当社基幹システム障害により販売停止していたプッチンプリンの一部商品を順次出荷再開いたします。
社内の情報システムの体制構築がうまくいってなかった?
SAPコンサルで500万円というのはSAP社員や元請けのコンサル、SIerだと考えられないくらい低い金額です。ただ、下請け・孫請となると、それくらいの金額で働いている人たちもいるのも事実です。
とはいえ、グリコほどの会社で社内でSAP要員を確保するとしたら、コーダーではなく全体感が見渡せてコントロールできる人材が欲しかったと思うのですが・・・IT人材確保・社内システム内製化は理想ではありますが、これからも企業側の悩みは続きそうです。
https://biz-journal.jp/company/post_381651.html
ベンダのデトロイトのせい?
まだ障害から復旧していない段階で、賠償の話は早いでしょうが、損害規模は200億円などの記事も出てきました。
グリコ、障害で売上200億円の損失…ベンダのデロイトに損賠賠償請求の可能性
https://biz-journal.jp/company/post_380797.html
私も過去にSIerでERPの担当をしてきた立場から言うと、受託開発のトラブルの責任は、発注側企業にあります。もちろん受託側も100%無罪ってことはないでしょうが、パッケージソフトでありトラブルのは要件定義で盛り込みすぎたか、漏れがありすぎたか。要件定義は発注側が責任を持って行うものです。その内容が確定したら請負契約で開発側の責任が増します。でも要件定義の内容を覆えそうとしてくる発注企業は多いものです。
(あくまで個人の過去の経験からくる感想です)
とはいえ裁判になるでしょうね。外資系コンサル会社は瑕疵を認めないでしょうし、法的に争うんでしょうね。日本のSIerは今後もあるのであまり裁判をしません。
私の所属していた親方日の丸N社では、当時から、提案の最後に
”当社は外資コンサルと違って逃げません!最後までお付き合いします。”
という決意表明をいれていました。
当時は、あほらし・・・と思っていましたが、最近の裁判沙汰を見るに、こういう決意表明が開発先を選定する一因には、なっていたのだと感じます。 (いいか悪いかはおいといて・・・)
グリコが値上げ発表
そして、ここへ来ての商品の値上げの発表です。もちろん価格高騰、人件費高騰なので、価格値上げは当然可と思います。どんどんあげたらいいと思う。
ただ、タイミング悪いですね。システム障害で、損失が広がっている。その分も価格転嫁に乗せてきたな、とは思われるでしょう。いずれにせよ、早期のトラブルからの復旧が待たれます。
江崎グリコは21日、「GABA」や「LIBERA」などチョコレート菓子20品目を9月1日から値上げすると発表した。値上げ幅は9〜15%となる。カカオ豆や砂糖、植物性油脂など原材料の高騰のほかエネルギーコストの上昇で「経営の合理化や効率化だけで吸収することは非常に困難」だとしている。
日経新聞
そんなところで。