第11章 経営情報システムとIT戦略

この章のねらい ここまでの章では、コンピュータやネットワークといった「IT(情報技術)そのもの」の しくみを学んできました。この第11章では視点を一段上げて、「そのITを、会社の経営に どう役立てるか」という経営(マネジメント)の目線を扱います。 具体的には、①現場の処理から経営者の意思決定までを支える情報システムの階層、 ②ERPやSCMといった業務で実際に使うシステム、③DXやITガバナンスなどのIT戦略・投資、 ④データをためて分析するデータ活用基盤の4本柱です。

過去問での出方:経営情報システムの試験では、第15問〜第22問あたりにこの分野が 固まって出ます。用語の「定義当てはめ」(例:これはDWH?それともデータマート?)や、 経済産業省のガイドライン(DX推進ガイドライン・システム管理基準など)の趣旨を問う問題が 中心で、細かい計算はほとんどありません。用語を正確に区別できれば得点源になる分野です。


11-0 この章の地図

この章は、「情報システムを下から上へ(現場→経営)」眺めたあと、「実際の業務システム」 →「IT戦略と投資」→「データ活用基盤」へと進みます。まず全体像をつかみましょう。

11-1 情報システムの役割        … TPS→MIS→DSS→EIS(現場から経営トップへ)
   │                            意思決定の3階層(アンソニー)
   │
11-2 業務系システム            … ERP・SCM・CRM・SFA・グループウェア
   │                            (会社の仕事を回す道具)
   │
11-3 IT戦略と情報化投資        … 情報システム戦略/BPR/DX/
   │                            ITガバナンス/EA/システム化計画
   │
11-4 データ活用基盤            … DWH・データマート・データレイク/
                                BI・OLAP・データマイニング/ビッグデータ
  • 11-1は「情報システムを階層で捉える"地図"」。ここが土台です。
  • 11-2は「今どこの会社でも使っている業務パッケージ」。略語の意味を1対1で覚えます。
  • 11-3は「経営者がITをどう使いこなすか」。国(経産省)のガイドラインが頻出です。
  • 11-4は「データをためて分析するしくみ」。毎年必ずと言っていいほど出る最重要ゾーンです。

11-1 経営における情報システムの役割

まず「情報システム」とは何か

情報システムとは、ひとことで言えば

「データを集めて・ためて・処理して・届けることで、人の仕事や意思決定を助けるしくみ」

です。単なるコンピュータやソフトの寄せ集めではなく、「人・業務・ITが一体となって 目的(経営目標)を果たすための仕組み全体」を指します。

情報システムは「階層」で捉える ★最重要の考え方

会社の中の情報システムは、みんな同じ役割をしているわけではありません。 現場の細かい処理を担うものから、経営トップの判断を助けるものまで、 役割ごとに"層(レイヤー)"に分かれています。この階層を、下から順に見ていきます。

        ┌──────────────────────────┐
   上   │  EIS(役員情報システム)             │  経営トップ向け
   ↑    │  … 経営全体をひと目でダッシュボード表示  │
   │    ├──────────────────────────┤
   │    │  DSS(意思決定支援システム)          │  管理者向け
   │    │  … 「もし〜なら?」を試算して判断を助ける │
   │    ├──────────────────────────┤
   │    │  MIS(経営情報システム・狭義)         │  中間管理職向け
   │    │  … 定型レポートで業績を「見える化」      │
   │    ├──────────────────────────┤
   下   │  TPS(取引処理システム)             │  現場・担当者向け
        │  … 受注・出荷・入金など日々の取引を処理   │
        └──────────────────────────┘

それぞれの中身は次のとおりです。

略語 正式名称(かみくだき) 何をするか 主な利用者
TPS 取引処理システム(Transaction Processing System) 受注・出荷・売上・入金など、日々発生する取引を1件ずつ確実に処理・記録する。すべての土台 現場担当者
MIS 経営情報システム(Management Information System・狭義) TPSにたまったデータを集計し、定型的なレポート(月次売上表など)として管理者に提供 中間管理職
DSS 意思決定支援システム(Decision Support System) 「値下げしたら利益はどうなる?」などモデルやシミュレーションで、非定型な判断を支援 管理者
EIS 役員情報システム(Executive Information System) 経営全体の重要指標をダッシュボードでひと目に。ドリルダウンで深掘りも 経営トップ

⚠️ 混同注意:「MIS」は広い意味と狭い意味がある 「経営情報システム(MIS)」は、広義では「経営に使う情報システム全般」を指し、 この科目名そのものです。一方、上の表の狭義のMISは「定型レポートを出すシステム」という 特定の層を指します。試験では文脈で判断しますが、まずは「TPSの上に、集計レポートを出す層」 というイメージを持てば十分です。

意思決定の「3つの階層」― アンソニーのモデル

情報システムの階層は、経営学者 R. アンソニー が示した意思決定(経営管理)の3階層と きれいに対応します。H29 第20問でも、この3階層(戦略的計画・マネジメントコントロール・ オペレーショナルコントロール)が選択肢に登場しました。

階層 誰が どんな意思決定か
① 戦略的計画 経営トップ 会社の方向を決める非定型な判断(長期・全社的) 新規事業への進出、大型投資
② マネジメントコントロール(管理的統制) 中間管理職 経営資源を効率よく使うための管理 予算配分、業績管理
③ オペレーショナルコントロール(業務的統制) 現場管理者 日々の業務を確実に回す定型的な判断 発注、在庫補充
  • 上に行くほど「非定型・不確実」で、人の判断が重くなる(→ DSSやEISが支援)。
  • 下に行くほど「定型・反復的」で、コンピュータが自動処理しやすい(→ TPSが担う)。

💡 覚え方下は"処理"、上は"判断"。 現場(TPS)はとにかく取引を正確にさばく。経営トップ(EIS・DSS)は「どうすべきか」を悩む。 だから、下の層ほど自動化しやすく、上の層ほど"支援"が中心になる、と押さえます。

「知識創造」を支えるしくみへ

近年の情報システムは、単なる処理・レポートを超えて、組織の中に眠る知識を共有し、 新しい知識を生み出すことまで期待されています。「どこに・誰が・どんな情報を持っているか」を 明らかにして情報共有を進めるしくみを ナレッジポータル と呼びます(H21 第14問で登場)。

📝 過去問はこう出る(H21 第14問) データ統合・分析・情報共有の用語を空欄に当てはめる問題。正解の組み合わせは A=データウェアハウス(分析用に統合したデータの蓄積)、 B=データマイニング(大量データから購買行動などの規則性を発掘)、 C=ナレッジポータル(どこに・誰がどんな情報を持つかを明らかにし情報共有を支援)。 データマート(特定部門向けの小規模DWH)やOLAPと取り違えさせる選択肢が引っかけです。 → H21 第14問


11-2 業務系システム(会社の仕事を回す道具)

ここからは、実際に多くの会社が導入している業務用のシステム(パッケージ)を見ていきます。 どれもアルファベットの略語で出題され、「その略語は何をするものか」を1対1で 正確に区別できるかが問われます。R07 第17問は、まさにこの略語の定義当てを出しました。

ERP(統合基幹業務システム)― この分野の中心

ERP(Enterprise Resource Planning) は、購買・生産・販売・会計・人事といった 会社の基幹業務を、1つの統合パッケージで一元的に処理するシステムです。

  • ポイントは「バラバラのシステムをつなぐのではなく、最初から統合されている」こと。
  • 各業務のデータが1つのデータベースを共有するので、 例えば「受注」の情報が即座に「在庫」「会計」にも反映され、全社で数字が一致します。
  • もともとは生産管理の MRP(資材所要量計画)から発展した考え方で、 対象を全社の経営資源(ヒト・モノ・カネ)に広げたものです。
【ERPのイメージ:1つのDBを全業務が共有】

  購買 ─┐
  生産 ─┤
  販売 ─┼─→ ┌──────────────┐
  会計 ─┤    │  統合データベース  │ … 数字がすべて連動
  人事 ─┘    └──────────────┘

📝 過去問はこう出る(R01 第15問) 「ERPシステム」の説明として最も適切なものを選ぶ問題。正解は 「基幹業務プロセスの実行を、統合業務パッケージを利用して、必要な機能を相互に 関係付けながら支援する総合情報システム」。 「クラウド上で処理する(=クラウドERP)」は提供形態の一例にすぎず本質ではない、 「諸資源を統合的に管理する考え方」は概念の説明でシステムの実体に踏み込んでいない、として バツになりました。"考え方"ではなく"パッケージによる統合システム"という実体を選ぶのがコツです。 → R01 第15問

SCM(サプライチェーン・マネジメント)

SCM(Supply Chain Management) は、原材料の調達 → 生産 → 物流 → 販売という 「モノの流れ(供給連鎖)」を、自社だけでなく取引先も含めて全体で最適化する考え方・しくみです。

  • ねらいは「在庫を減らしつつ、欠品もなくす」という一見矛盾する両立。
  • 各社が需要情報を共有することで、末端の小さな需要変動が上流で増幅される ブルウィップ効果(鞭を振るとしなりが増幅する現象)を抑えます。

CRM(顧客関係管理)と SFA(営業支援)

この2つは似ていますが役割が違うので、セットで区別します。

略語 正式名称 ねらい ひとことで
CRM Customer Relationship Management(顧客関係管理) 顧客データを一元管理し、One to Oneマーケティングで顧客との関係を長期に深める 顧客を"つかんで離さない"
SFA Sales Force Automation(営業支援システム) 営業担当者の行動管理・商談の進捗管理などを支援し、営業活動を効率化・見える化 営業活動を"見える化"

📝 過去問はこう出る(R07 第17問) 情報システムの略語の定義を問う問題。正解は 「SFA(Sales Force Automation)は営業支援システムで、営業担当者の行動管理や 商談の進捗管理などの機能を持つ」。 引っかけとして、①VR(仮想現実)をAR(拡張現実)と取り違え、②CTIを財務会計システムと誤り、 ③RPA(ソフトによる定型事務の自動化)を物理ロボットと誤り、④顧客一元管理のCRMをSEOと取り違え、が 並びました。RPA=ソフトウェアによる事務作業の自動化(物理ロボットではない)は要注意ポイントです。 → R07 第17問

グループウェアと SOA

  • グループウェア:スケジュール共有・電子会議室・ワークフロー(電子申請・承認)・ 文書共有など、組織内の情報共有と共同作業を支援するソフトです。
  • SOA(Service Oriented Architecture:サービス指向アーキテクチャ): 業務機能を独立した「サービス」という部品とみなし、 それらを組み合わせてシステムを構築する設計思想です。 部品を再利用できるので、業務の変化に柔軟に対応できます。

📝 過去問はこう出る(R03 第17問) SOAの説明を選ぶ問題。正解は「ソフトウェアの機能をサービスという部品とみなし、 サービスのモジュールを組み合わせてシステムを構築する」。 引っかけには、①順次・選択・繰返しの3構造=構造化プログラミング、 ②基幹業務を統合し全体最適=ERP、③ビジネス・データ・アプリ・テクノロジの4体系=EA、 ④データ構造に合わせて開発=DOA(データ中心アプローチ) が並びました。 それぞれ別の用語の説明を混ぜてくる典型パターンです。 → R03 第17問


11-3 IT戦略と情報化投資

ここは「経営者がITをどう使いこなすか」という、まさに"経営とITの接点"を扱う節です。 経済産業省などが出したガイドラインの趣旨を問う問題が多く、 「トップダウンか・ボトムアップか」「順序はどれか」といった論点が繰り返し出ます。

情報システム戦略とBPR

  • 情報システム戦略:経営戦略を実現するために、「どんな情報システムを・どう整えるか」を 決める全社的な方針です。個別のシステム開発の前に、まず全社の絵姿を描くのがポイント。
  • BPR(Business Process Reengineering:業務プロセス改革): 既存の業務のやり方をゼロから根本的に設計し直し、劇的な改善をめざす取り組み。 「今のやり方を前提に少しずつカイゼン」ではなく、業務そのものを作り替えるのが特徴です。 ITはこのBPRを実現する強力な手段になります。

DX(デジタルトランスフォーメーション)― 近年の最頻出

DX は、単なる「IT化・デジタル化」ではありません。経済産業省の定義では、

デジタル技術を活用して、製品・サービス・ビジネスモデルそのものや、 組織・企業文化までを変革し、競争上の優位を確立すること

を指します。「紙をPDFにする」レベルの効率化はDXの一部にすぎず、 "ビジネスや会社のあり方を変える"ところまで含むのがミソです。国のガイドラインが頻出です。

① DX推進ガイドライン(平成30年12月):経営者が押さえるべき事項を示したもの。

  • DXは経営戦略が起点で、経営トップの強いコミットメント(トップダウン)が不可欠。
  • ITシステムのオーナーシップ(主体性)は、情報システム部門やベンダーではなく、 それを使う事業部門が持つべき。
  • 技術起点の実証実験(PoC)を先行させるのは失敗パターン。まず経営戦略を描く。

📝 過去問はこう出る(R03 第16問) DX推進ガイドラインの提言に合致する記述を選ぶ問題。正解は 「ITシステムのオーナーシップは、情報システム部門やベンダーではなく、 それを利用する事業部門が持つべき」。 「DXはボトムアップで行う」(→トップのコミットが不可欠でバツ)、 「技術起点のPoCを先行」(→失敗ケース)、「短期間で構築できたかで評価」(→ビジネス成果で評価)、 「企業文化に影響を与えないよう進める」(→組織・文化の変革を伴うのが本質)はすべて誤りです。 → R03 第16問

② DXレポート2.1(2021年8月):DX後の「デジタル産業」の姿を示したもの。 デジタル産業を構成する企業を4類型に整理しました。

  1. 企業の変革を共に推進するパートナー
  2. DXに必要な技術を提供するパートナー
  3. 共通プラットフォームの提供主体
  4. 新ビジネス・サービスの提供主体

📝 過去問はこう出る(R04 第9問) 「DXレポート2.1」のデジタル産業の企業類型として最も不適切なものを選ぶ問題。正解は 「デジタル化を外部委託してコスト削減を図る企業群」。 これは上の4類型に含まれず、むしろレポートが"脱却すべき"とする旧来の受託型構造なので、 デジタル産業を構成する類型ではありません。 → R04 第9問

③ 中小企業のDX:近年は中小企業向けの出題も増えています。R06 第10問では、 経産省のデジタルガバナンス・コード(組織づくり・人材・企業文化の方策など)と、 IPAの中小規模製造業者向けDX推進ガイドが問われました。後者では、 スマートサービス(AI・IoTで顧客に高い体験価値を提供)、 スマートファクトリー(生産設備をデジタル化しネットワークで効率化した工場)、 OT(Operational Technology:運用技術) のデジタル化などが要点で、 「いきなり収益直結の取り組みではなく、身近な工程のデジタル化など取り組みやすい段階から進める」のが 推奨とされました。

📝 過去問はこう出る(R06 第10問) 設問1の正解は(「戦略を効果的に進めるための体制の提示」=デジタルガバナンス・コードの 「組織づくり・人材・企業文化に関する方策」に対応)。設問2の正解は(スマートサービス・ スマートファクトリー・OTを軸としたDXの記述a・b・cは正しく、「いきなりスマートプロダクトから 始める」とした記述dだけが誤り)。 → R06 第10問

ITガバナンス

ITガバナンスとは、経済産業省「システム管理基準(平成30年4月)」の定義では

経営陣が、ステークホルダーのニーズに基づいて組織の価値を高めるために実践する行動であり、 情報システム戦略の策定と実現に必要な組織能力

とされます。「ITを経営に活かすための、経営陣による統制のしくみ」と捉えてください。

⚠️ 混同注意:似た用語との区別(R02 第15問の引っかけ) - 内部統制(COSO):業務の有効性・財務報告の信頼性・法令遵守・資産保全を合理的に保証すること。 - 情報セキュリティ管理:情報漏洩を防ぐこと。 - ディスクロージャー:経営・財務状況を適切に開示すること。 これらはITガバナンスとは別物。試験では、これらの説明を「ITガバナンスの定義」だと すり替えて出してきます。

📝 過去問はこう出る(R02 第15問/H24 第13問/H20 第16問) - R02 第15問:システム管理基準のITガバナンスの定義を問い、正解は上記のとおり 「経営陣がステークホルダーのニーズに基づき組織価値を高める行動/情報システム戦略の策定・実現に 必要な組織能力」。内部統制・情報セキュリティ・情報開示の説明はすべてバツ。 - H24 第13問:ITガバナンス強化の構成要素を実現する順序を問う問題。正解は システム運営(土台)→組織運営→説明責任(評価)→リレーションシップ管理 の順。 - H20 第16問:IT内部統制プログラムの特徴で最も不適切なものを選ぶ問題。正解(=誤り)は 「効率性は失われる」。内部統制は有効性だけでなく効率性も高めうるので、この断定は不適切でした。 → R02 第15問H24 第13問H20 第16問

EA(エンタープライズアーキテクチャ)

EA(Enterprise Architecture) は、個別業務の最適化だけでなく、 企業全体の業務とシステムを体系的に整理して全体最適を図る手法です。 EAは次の4つの体系(アーキテクチャ)からできています。ここは定義の取り違えが頻出です。

体系 何を体系化するか 作る図の例
ビジネスアーキテクチャ(業務) 共通化・合理化した実現すべき業務の姿 機能構成図、業務フロー
データアーキテクチャ 業務で使うデータの内容と関連性 E-R図
アプリケーションアーキテクチャ 業務に最適な情報システムの形態 情報システム関連図
テクノロジアーキテクチャ ハード・ネットワークなど技術的構成 ネットワーク構成図

📝 過去問はこう出る(H30 第19問/H23 第18問) - H30 第19問:EAのビジネスアーキテクチャの説明を選ぶ問題。正解は 「共通化・合理化した実現すべき業務の姿を体系化し、機能構成図や業務フローを作成する」。 E-R図(=データ)、情報システム関連図(=アプリケーション)、ネットワーク構成図(=テクノロジ)は 別の体系の説明でバツ。「どの図はどの体系か」を紐づけて覚えるのが得点のコツです。 - H23 第18問:EAの業務参照モデル(BRM)を適用する作業手順を問う問題。正解は 業務分類を明らかに→情報収集対象を限定→類似システムを探索しベストプラクティス収集→ 類似システムを調査→機能構成図で対象範囲を確認、という上流から具体化へ向かう流れ。 → H30 第19問H23 第18問

システム化計画とIT投資評価

情報システムを作るときは、いきなり開発せず「システム化構想 → システム化計画 → 要件定義 → 開発」と上流から進めます。その入口で、IT投資が本当に価値を生むかを評価します。

  • 経済産業省「IT投資価値評価ガイドライン(試行版・2007年)」:IT投資を インフラ型・業務効率型・戦略型の3タイプに分けると、タイプごとに適した評価基準を設定できる、 としました。評価は構想・企画段階だけでなく開発完了後・運用段階でも(事後評価)行い、 金銭的効果だけでなくユーザ満足度など定性的な効果も含めるべき、とされます。
  • ITポートフォリオ:リスクとベネフィットを考慮し、IT投資対象を特性別に分類して 資源配分を最適化する手法(金融の分散投資の考え方をIT投資に応用)。
  • IT-VDM/VOM(IPA・2009年):ユーザとベンダの問題意識の共有を目的とした 価値指向マネジメントのフレームワーク。価値プロセスはPDCA(計画→実施→点検→改善)で捉えます。

📝 過去問はこう出る(H25 第22問/H29 第20問/H22 第19問) - H25 第22問:IT投資価値評価ガイドラインの基本要件。正解は 「IT投資をインフラ型・業務効率型・戦略型の3タイプに分けてとらえる」。 「開発完了後には評価しない」「金銭的効果だけで評価する」はいずれも誤り。 - H29 第20問:正解は「ITポートフォリオは、リスクとベネフィットを考慮しIT投資対象を 特性別に分類して資源配分を最適化する手法」。SLA(サービス品質の合意)をNDA(秘密保持契約)と 取り違えた選択肢などがバツ。なお「戦略的計画・マネジメントコントロール・オペレーショナル コントロール」の3階層はEAではなくアンソニーの経営管理階層(→11-1)です。 - H22 第19問:IT-VDM/VOMの価値プロセスはPDCAサイクルで捉えられる、が正解。 → H25 第22問H29 第20問H22 第19問


11-4 データ活用基盤(ためて・整えて・分析する)

この節は、経営情報システムの試験で毎年のように問われる最重要ゾーンです。 「データをどこにためて(DWH・データマート・データレイク)」「どう整えて(ETL・クレンジング)」 「どう分析するか(BI・OLAP・データマイニング)」の用語の区別が、繰り返し出題されます。

データをためる場所:DWH・データマート・データレイク

まず、分析用にデータをためる「入れ物」を3つ区別します。ここが最頻出です。

用語 何をためる場所か ポイント
データウェアハウス(DWH) 各システムのデータを主題ごと・時系列に統合して蓄積した分析用DB 更新せず貯め続ける(恒常的)。基幹業務用DBとは別に作る
データマート DWHから必要な部分だけを、特定部門が使いやすい形で切り出した小規模DB 「マート=小さな売店」。DWHの一部分
データレイク 構造化・非構造化データを変換せず、生のままためる場所 IoT・SNS等の多様なデータを丸ごと。安価なクラウドストレージに格納されがち
【データがたまる流れ】

  各システム        ┌─ 整えて統合 ─┐        ┌─ 切り出し ─┐
  (販売・会計…)─→│ データウェアハウス │─→│ データマート │→ 部門で利用
                    └───────────┘        └─────────┘
        │
        └→(生データのまま)→ データレイク(IoT・SNSなど非構造化も丸ごと)

💡 覚え方倉庫(ウェアハウス)=全部きれいに整理してためる大きな入れ物マート(小売店)=そこから使う分だけ小分けにした棚レイク(湖)=加工せず生のまま流し込む大きな水たまり。 なお、データレイクが管理不全で使えなくなった状態を、俗にデータスワンプ(沼)と呼びます。

データを整える処理:ETL・データクレンジング

ためる前後には「データを整える」処理が入ります。

  • ETL(Extract/Transform/Load):各データソースから抽出(E)し、 扱いやすい形式に変換(T)して、DWHへ格納(L)する処理。
  • データクレンジング:形式の不統一・欠損値・単位のばらつき・表記揺れなど、 生データの"汚れ"を補正・整形して品質を高める処理。

データを分析する:BI・OLAP・データマイニング

ためて整えたデータを、いよいよ分析します。ここも用語の区別が命です。

用語 何をするか ひとことで
BI(ビジネスインテリジェンス) 蓄積データを分析・可視化して経営の意思決定を支援する仕組み・ツール群の総称 意思決定支援の"傘"
OLAP スライシング・ダイシング・ドリルダウンなどの対話的操作で多次元分析を行う データを"多面的に切って"見る
データマイニング 大量データから、未知の規則・パターン・相関(購買行動など)を発掘する 隠れた法則を"掘り出す"

⚠️ 混同注意:OLTP と OLAP は真逆 - OLTP(Online Transaction Processing):日々の取引を1件ずつ処理する基幹系の仕組み(≒TPS)。 - OLAP(Online Analytical Processing):ためたデータを多次元で分析する仕組み。 名前が1文字違いですが、OLTP=処理、OLAP=分析と正反対です。試験の定番の引っかけです。

📝 過去問はこう出る(R01 第16問/R03 第8問/R07 第16問) - R01 第16問:定義の対応づけ。正解は a=データウェアハウス(基幹DBとは別に作る分析用の蓄積)、 b=データクレンジング(形式統一・欠損値補完で整える)、c=OLAP(スライシング・ダイシング・ ドリルダウンの多次元分析)。データマイニング・データマッピングは該当せず。 - R03 第8問:データ分析基盤の穴埋め。正解は A=データウェアハウス、B=データマート、 C=データレイク、D=データクレンジング。データレイクを「オブジェクトストレージに生のまま 格納」と結びつけるのがポイントで、データスワンプやデータマイグレーション(データ移行)と 取り違える選択肢がバツ。 - R07 第16問:DWHの説明。正解は「ETLは各種データソースから抽出・変換してDWHへ統合・格納する 処理」。多次元分析はOLAP(OLTPではない)、DWHから抽出し使いやすく格納したものはデータマート、 生データを未加工で格納するのはデータレイク、と一つひとつ区別させる出題でした。 → R01 第16問R03 第8問R07 第16問

📝 過去問はこう出る(H22 第20問/H29 第16問) - H22 第20問:BIの定義。正解は「業務システムに蓄積されたデータを分析・加工して 企業の意思決定に活用するのがBI」。競合分析・経済予測・情報漏洩防止(DLP)はBIの定義ではない。 - H29 第16問:DWH関連用語。正解は「NoSQLは、大量・多様な形式のデータを扱うため、 RDB(関係モデル)とは異なるデータ構造(キーバリュー型・文書型・列指向・グラフ型等)を用いる データベース」。BIを「AIのアルゴリズム開発ソフト」、ETLを「将来シミュレーション」、 データマイニングを「スキーマ最適化」とした選択肢はすべて別物の説明でバツ。 → H22 第20問H29 第16問

ビッグデータと、情報化社会のキーワード

ビッグデータは、従来のデータベースでは扱いきれないほど大量(Volume)・多様 (Variety)・高速(Velocity)なデータ(俗に「3つのV」)を指します。 これを支える技術として、上で見たNoSQL(RDB以外の柔軟なDB)や データレイク(生データの蓄積)が使われます。

あわせて、情報化社会を語るキーワードも定義の当てはめで出ます(R05 第15問)。

  • Society 5.0:サイバー空間と現実空間を高度に融合し、経済発展と社会的課題解決を両立する 人間中心の社会(内閣府の定義)。
  • インダストリー4.0:ドイツ提唱の、IoT等による製造業のスマート化(第4次産業革命)。
  • Web2.0:送り手・受け手が流動化し、誰でも受発信できる状態。 Web3.0ブロックチェーン等による分散型Web

📝 過去問はこう出る(R05 第15問) 情報化社会の用語の定義を問う問題。正解は「Society 5.0はサイバー空間と現実空間を 高度融合し、経済発展と社会的課題解決を両立する人間中心社会」。 DXを「単なる人件費削減・AI置換」に限定する記述、Web2.0の説明をWeb3.0とする記述、 インダストリー4.0を「頭脳をロボットに代替する構想」とする記述はすべて誤りです。 → R05 第15問


この章のまとめ(試験直前チェック)

  • ☐ 情報システムは階層で捉える:TPS(取引処理)→MIS(定型レポート)→DSS(意思決定支援)→EIS(役員向け)
  • 下は"処理"(定型・自動化)、上は"判断"(非定型・支援)。アンソニーの3階層=戦略的計画/マネジメントコントロール/オペレーショナルコントロール
  • ERP=基幹業務を統合パッケージで一元処理する総合システム("考え方"ではなく"統合システムの実体"を選ぶ)
  • SCM=供給連鎖の全体最適/CRM=顧客関係管理/SFA=営業支援/RPA=ソフトによる事務自動化(物理ロボットではない)
  • SOA=機能をサービス(部品)として組み合わせる設計思想(ERP・EA・構造化プログラミング・DOAと区別)
  • DXはビジネスモデル・組織文化まで変革すること。DX推進ガイドライン=トップダウン/オーナーシップは事業部門/PoC先行は失敗
  • ☐ DXレポート2.1のデジタル産業=4類型(外部委託でコスト削減する旧来型は含まれない)
  • ITガバナンス(システム管理基準)=経営陣がステークホルダーのニーズに基づき組織価値を高める行動・組織能力(内部統制・情報セキュリティ・情報開示とは別物)
  • EAの4体系=ビジネス(機能構成図)/データ(E-R図)/アプリケーション(システム関連図)/テクノロジ(ネットワーク構成図)
  • ☐ IT投資評価=インフラ型・業務効率型・戦略型の3分類/事後評価も行う/定性的効果も含める。ITポートフォリオ=特性別分類で資源配分最適化
  • ☐ データをためる:DWH(統合・恒常的)→データマート(部門向けに切り出し)/データレイク(生のまま)
  • ☐ データを整える:ETL(抽出・変換・格納)/データクレンジング(汚れの補正)
  • ☐ データを分析する:BI(意思決定支援の総称)/OLAP(多次元・対話的分析)/データマイニング(未知の規則発掘)OLTP=処理、OLAP=分析(真逆)
  • Society 5.0=人間中心社会/Web3.0=分散型Web/インダストリー4.0=製造業のスマート化

この章に対応する主な過去問

年度・問 論点 リンク
R01 第15問 ERP(統合基幹業務システム) 問題
R07 第17問 情報システムの概念・技術(SFA・RPA・CRM等) 問題
R03 第17問 SOA(サービス指向アーキテクチャ) 問題
R03 第16問 DX推進ガイドライン 問題
R04 第9問 DXレポート2.1(デジタル産業の企業類型) 問題
R06 第10問 中小企業のDX推進 問題
R02 第15問 ITガバナンス(システム管理基準) 問題
H24 第13問 ITガバナンス構成要素の実現順序 問題
H20 第16問 ITガバナンスと内部統制 問題
H30 第19問 エンタープライズアーキテクチャ(EA) 問題
H23 第18問 EA・業務参照モデル(BRM)の適用手順 問題
H29 第20問 IT投資評価のフレームワーク 問題
H25 第22問 IT投資価値評価ガイドライン 問題
H22 第19問 IT投資評価(IT-VDM/VOM) 問題
R01 第16問 意思決定支援(DWH・クレンジング・OLAP) 問題
R03 第8問 データウェアハウスとデータ分析 問題
R07 第16問 データウェアハウス(ETL・データマート等) 問題
H22 第20問 ビジネスインテリジェンス(BI) 問題
H29 第16問 データウェアハウスの構築・運用・分析 問題
H21 第14問 データウェアハウスと知識創造 問題
R05 第15問 情報化社会の将来像(Society5.0等) 問題

次章予告 ▶ 第12章「情報システムの管理と情報セキュリティ」 本章で「ITを経営にどう活かすか」を学びました。次章は、そのITを安全・確実に運用する側面へ。 システムの信頼性(稼働率の計算)、性能評価、そして情報セキュリティ(暗号・認証・脅威対策)を扱います。