第3章 生産者理論と費用
この章のねらい 前章までは「買う側(消費者)」の行動を見てきました。この章は「売る側(生産者・企業)」の行動が主役です。 企業は「モノをどれだけ作るか」をどう決めているのか。その答えのカギは、ぜんぶ 費用(コスト) にあります。 「あと1個作ると、いくら追加でかかるか(=限界費用)」を軸に、企業の生産量の決め方・やめどきを読み解きます。
過去問での出方:この分野は経済学・経済政策で毎年2〜4問出る最頻出テーマです。 ①費用曲線のグラフ(総費用TC・限界費用MC・平均費用ACの読み取り)、②利潤最大化の条件(P=MC)、 ③損益分岐点・操業停止点、④費用関数を微分してMC・AVCを求める計算、が定番です。 グラフの「接線の傾き」「原点からの直線の傾き」が何を表すかさえ体に入れば、大量得点できる分野です。
3-0 この章の地図
この章は「モノをどう作るか(生産)」→「いくらかかるか(費用)」→「いくつ作るのが得か(利潤最大化)」→ 「規模を大きくするとどうなるか(長期)」という順に進みます。すべては最後の「利潤最大化」に向かって積み上がります。
3-1 生産関数と限界生産力 … インプット(労働)を増やすとどれだけ産出が増えるか
│ ★ カギ=限界生産力の逓減(だんだん増え方が鈍る)
▼
3-2 費用曲線 … 生産の裏返し=コスト。FC・VC・TC/MC・AC・AVC
│ ★ カギ=グラフの「傾き」の読み方
▼
3-3 利潤最大化(P=MC)と供給曲線 … いくつ作れば最も儲かるか=供給曲線の正体
│ ★ カギ=損益分岐点・操業停止点
▼
3-4 規模の経済・範囲の経済・長期 … 工場ごと大きくできる「長い目」で見た費用
まず言葉の地図を頭に入れましょう。この章でいちばん大事な登場人物は次の3つの「限界(マージナル)」と「平均(アベレージ)」です。
| 略号 | 読み方 | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| MC | 限界費用 | あと1個多く作ると、追加でいくらかかるか |
| AC(=ATC) | 平均費用(平均総費用) | 1個あたりのコスト(固定費も含めた全部) |
| AVC | 平均可変費用 | 1個あたりのコストのうち、動く費用だけ(固定費を除く) |
💡 「限界(marginal)」=もう1単位増やしたときの変化。この科目で「限界◯◯」が出たら、 ほぼすべて「あと1個・あと1人・あと1時間増やしたときの、◯◯の増え方」と読み替えて構いません。
3-1 生産関数と限界生産力(逓減)
生産関数とは「インプット → アウトプット」の変換式
企業はヒト(労働)やモノ(機械・原材料)を投入して、製品を産出します。この 「投入量を決めると、産出量が決まる」という関係を式やグラフで表したものが 生産関数 です。
いちばん単純に、機械などを固定したまま労働(人手)だけを増やしていく短期を考えます。
産出量Y
│ ______ ← だんだん傾きが緩くなる(増え方が鈍る)
│ ____/
│ __/
│ _/
│ _/
│ _/
│ /
└────────────────────────→ 労働投入量L
原点O
※ 原点から右上がりで、上に「凸(ふくらんだ)」形。
いちばん大事な性質:限界生産力の逓減
労働を1人増やすと産出はどれだけ増えるか。これを 限界生産物(限界生産力・MP) といいます。 グラフでは「その点における接線の傾き」がMPです。
上の図のように生産関数が上に凸になっているとき、労働を増やすほど接線の傾きはだんだん緩くなります。 これが 限界生産力の逓減(収穫逓減) です。
かみくだき:狭い畑に人をどんどん投入すると、最初の数人はぐんと収穫を増やしますが、 人が増えすぎると1人あたりの働ける場所が減り、「あと1人増やしても収穫はちょっとしか増えない」状態になります。 これが「限界生産力の逓減」。追加1人の"効き目"がだんだん薄れる、というイメージです。
「平均生産物(AP)」と「限界生産物(MP)」の関係
- 平均生産物(AP) = 産出量 ÷ 投入量。グラフでは「原点とその点を結んだ直線の傾き」。
- 限界生産物(MP) = 追加1単位の産出増。グラフでは「その点の接線の傾き」。
上に凸の生産関数では、どの点でも「原点と結んだ直線の傾き(AP)」のほうが「接線の傾き(MP)」より大きくなります。 つまり AP > MP です。
📝 過去問はこう出る(H26 第13問) 上に凸の生産関数の図を見せ、正しい説明を選ばせる問題。正解は 「ある労働の投入量のもとで、平均生産物は限界生産物よりも大きい」(設問1=イ)。 「限界生産物は投入量が増えるほど大きくなる」「平均生産物は投入量が増えるほど大きくなる」は どちらも逓減の逆でバツ。「収穫一定(=直線)」もこの曲線とは違うのでバツ。 設問2では、利潤最大化企業は「労働の限界生産物=実質賃金」で雇用量を決めるため、労働需要曲線は右下がり(設問2=ア)。 → H26 第13問
📝 過去問はこう出る(H28 第20問) こちらも上に凸の生産関数の形状を問う問題。正解(=ア)は「限界生産物は正だが、投入増とともに逓減する(収穫逓減)」旨の記述の組合せ。 「限界生産物が逓増する/一定である/収穫逓増を示す」と読ませる選択肢はすべて誤り。 上に凸=収穫逓減、と図と結論を一対一で結んでおきましょう。 → H28 第20問
利潤最大化の「雇う量」の条件(発展)
企業が「人を何人雇うか」を決めるときの条件も、実は同じ発想です。 完全競争企業は「労働を1人増やして得られる産出の価値」が「そのための賃金」に等しくなるまで雇います。
- 産出物の価格を掛けた「限界生産物×価格」= 追加1人が生む売上
- これが賃金と釣り合うところ、すなわち 限界生産物 = 実質賃金(w/p) で雇用量を決める
限界生産力が逓減するので、賃金が下がるほど雇用量は増える → だから労働需要曲線は右下がりになります(H26第13問設問2)。
📝 過去問はこう出る(H28 第21問) 生産関数の図に、利潤を表す破線(切片=利潤÷価格、傾き=実質賃金w/p)を重ねて、 利潤が最大になる図を選ばせる問題。正解は生産関数に破線が接する図(=ウ)。 接点では「生産関数の接線の傾き(=限界生産物)=実質賃金w/p」が成立します。 つまり、生産の世界でも費用の世界でも、最適点は「接線の傾きが一致する点」で決まる、という共通ルールです。 → H28 第21問
⚠️ 混同注意:利潤最大化の雇用条件は「限界生産物=実質賃金」であって、「限界生産物=生産物価格」ではありません。 「生産物価格と一致するように労働量を決める」という選択肢は、H26第13問でもバツにされた定番の引っかけです。
3-2 費用曲線 ― コストの読み方をマスターする
生産関数は「作る側」から見た関係でした。これを裏返し、「その生産量を実現するのにいくらかかるか」を 表したのが 費用関数(費用曲線) です。この節の図の読み方が、以降すべての土台になります。
まず費用を3つに分ける:FC・VC・TC
| 記号 | 名前 | 中身 | 生産量ゼロのとき |
|---|---|---|---|
| FC | 固定費用 | 生産量に関係なくかかる費用(工場の賃料・機械の減価償却など) | かかる(正の値) |
| VC | 可変費用 | 生産量に応じて増える費用(原材料・電力・パートの人件費など) | ゼロ |
| TC | 総費用 | FC+VC。全部合わせたコスト | =FC(固定費用だけ残る) |
グラフにすると、総費用曲線TCは「縦軸の切片が固定費用FC」から立ち上がり、右上がりに伸びます。
費用
│ TC(総費用)=FC+VC
│ /
│ / ← まず費用逓減(傾きが緩くなる)、
│ \ / 変曲点を境に費用逓増(傾きが急になる)
│ \__/
│
FC├───────────────────── 固定費用FC(水平線)
│
└────────────────────────→ 生産量X
原点O
⚠️ つまずきポイント:総費用曲線の「向き」 短期の総費用曲線は、最初は傾きが緩くなり(費用逓増→ではなく費用逓減の局面)、 ある変曲点を境に傾きが急になって(費用逓増)いきます。 H30第19問では「点Dから点Aまでは費用逓増型、点Aから右は費用逓減型」という向きを逆にした選択肢がバツにされました。 正しくは「変曲点より手前が費用逓減、手前より右が費用逓増」です。
次に「1個あたり」と「追加1個」を求める:AC・AVC・MC
総費用そのものより、試験でよく問われるのは単位あたりのコストです。定義をおさえましょう。
| 記号 | 名前 | 計算方法 | グラフでの意味 |
|---|---|---|---|
| AC(ATC) | 平均費用 | TC ÷ X | 原点と総費用曲線上の点を結んだ直線の傾き |
| AVC | 平均可変費用 | VC ÷ X | 固定費用の高さ(切片)から総費用曲線へ引いた直線の傾き |
| MC | 限界費用 | TCを生産量Xで微分(=あと1個の追加費用) | 総費用曲線のその点の接線の傾き |
この3つは、下のようなU字型・逆パターンで描かれます。
費用(1個あたり)
│ \ / MC(限界費用)
│ \ /‾‾‾‾‾‾\ /
│ \ / \/ ← MCはACの最低点を下から上に貫く
│ \ / AC /
│ \/‾‾‾‾‾‾‾‾/
│ / \ / AVC
│ / \__/
│ /
└──────┼────────┼───────────→ 生産量X
AVC最小 AC最小
(操業停止点)(損益分岐点)
覚えるべき関係は次の3点です。
- MCは、ACの最低点とAVCの最低点を、どちらも下から上に突き抜ける(=最低点でMC=AC、MC=AVCが成立)。
- ACとAVCの差は「平均固定費用(FC÷X)」。生産量が増えるほどこの差は縮む(固定費が薄まる)。
- AVCが最小になる生産量は、ACが最小になる生産量より少ない(左側)。
📝 過去問はこう出る(H27 第15問) 総費用曲線の図で、接線の傾きの意味を問う問題(正解=ア)。 ・原点から引いた接線の傾き = 平均費用AC → その接点が AC最小=損益分岐点。 ・固定費用の高さ(切片)から引いた接線の傾き = 平均可変費用AVC → その接点が AVC最小=操業停止点。 損益分岐点と操業停止点を逆に読むのが定番の引っかけです。 → H27 第15問
📝 過去問はこう出る(H30 第19問/R05 第14問) どちらも総費用曲線の図から、AC・AVC・MCの最小点を「接線」で読み取る問題です。 - H30第19問(正解=エ):「原点から接する点でAC=MCが一致」「AVCが最小になる生産量はACが最小になる生産量より左」が正しい記述。 - R05第14問(正解=エ):変曲点=MC最小、固定費用の高さから接する点=AVC最小、原点から接する点=AC最小、という3つの点の意味を区別できれば解けます。 → H30 第19問 / R05 第14問
計算問題:費用関数からAVCとMCを求める
費用関数が数式で与えられ、AVC・MC・操業停止点を計算させる問題も頻出です。手順はワンパターンなので、 下の例(H19 第13問)でそのまま覚えてしまいましょう。
総費用 C = X³ - X² + X + 10 が与えられたとき:
① 固定費用FC … Xを含まない項 → FC = 10
② 可変費用VC … 残り → VC = X³ - X² + X
③ 平均可変費用AVC = VC ÷ X
= (X³ - X² + X) ÷ X = X² - X + 1 …(設問1の答え)
④ 限界費用MC = Cを微分(dC/dX)
= 3X² - 2X + 1 …(設問2の答え)
⑤ 操業停止点=AVCの最小値
AVCを微分してゼロ:2X - 1 = 0 → X = 1/2
AVC = (1/2)² -(1/2)+1 = 3/4 …(設問3の答え)
⚠️ 定番の引っかけ:「平均費用AC」と「平均可変費用AVC」の取り違え。 AVCは固定費用を含まない(VC÷X)のに対し、ACは固定費用も含む(TC÷X)。 H19第13問でも、固定費用10を含んだ式(AC)を「平均可変費用」の答えに紛れ込ませた選択肢が誤りでした。 H25第16問でも、固定費用を含む平均総費用ATCを「AVC」と偽った選択肢がバツにされています。 「可変」とついたら固定費は入れない、と機械的に判断しましょう。 → H19 第13問 / H25 第16問
⚠️ 混同注意:固定費用はMCに影響しない 限界費用MCは「あと1個の追加費用」なので、生産量に関係なくかかる固定費用はまったく関係ありません。 R07第15問では「平均固定費用が限界費用に影響する」旨の選択肢がバツにされました。 また同問では「MCが一定なら供給の価格弾力性はゼロ」という選択肢もバツ(正しくは水平な供給曲線=弾力性は無限大)。 → R07 第15問
3-3 利潤最大化(P=MC)と供給曲線の導出
いよいよこの章の目的地です。企業は「いくつ作れば最も儲かるか」をどう決めるのか。答えは一本の式に集約されます。
利潤最大化の条件:価格=限界費用(P=MC)
完全競争市場の企業は、市場で決まった価格Pをそのまま受け入れます(プライス・テイカー)。 このとき利潤(=総収入TR − 総費用TC)が最大になるのは、次の条件が成り立つ生産量です。
P(価格)= MC(限界費用)
かみくだき:あと1個作ると、売上は価格Pだけ増え、コストはMCだけ増えます。 - P > MC のうちは「作れば作るほど儲けが増える」→ もっと作る。 - P < MC になると「作るほど損が増える」→ 減らす。 - ちょうど P = MC で釣り合い、そこが利潤最大の生産量になります。
グラフ(総収入TR・総費用TCで見る場合)では、次のように読みます。
金額
│ TR(総収入)=価格P×生産量(原点を通る直線)
│ /
│ / ┃ ← ここが最大! TRとTCの縦の差(利潤)が最大
│ / ┃ = TC曲線の接線がTR線と平行になる点(傾き=価格)
│ / ___/ TC(総費用)
│ /__/
│ FC──/
│
└────────────────────────→ 生産量X
原点O
- 総収入TR は「価格P×生産量」なので、原点を通る直線(傾き=価格P)。
- 利潤は「TRとTCの縦の差が最大」になる生産量で最大。
- そこでは「TC曲線の接線の傾き(=MC)が、TR線の傾き(=価格P)と一致」します。これがP=MCの図での姿です。
📝 過去問はこう出る(H21 第13問/H24 第19問/R04 第15問) いずれも総収入線TRと総費用曲線TCの図から、利潤最大の生産量を選ばせる問題です。共通する解き方は 「総費用曲線の接線が総収入線と平行になる点(=MC=価格)」を探すこと。 - H21第13問(設問2=エ):費用逓増の領域で接線がTR線と平行になるD点が最適。 - H24第19問(正解=エ):補助線(TR線と平行な破線)がTC曲線に接する点BでMR=MCが成立し、利潤最大。TR=TCとなる点(A・C)は利潤ゼロであって最大ではない。生産量ゼロでも固定費用の分だけ赤字になる点も要注意。 - R04第15問(設問2=ア):MR>MC(価格>MC)なら増産で利潤増、MC>MRなら減産で利潤増、ちょうど一致する点で最大。 → H21 第13問 / H24 第19問 / R04 第15問
供給曲線の正体は「MC曲線」
P=MCで生産量が決まるということは、価格Pが変われば、MC曲線に沿って生産量が動くということです。 つまり 企業の供給曲線=限界費用MC曲線(ただし後述の操業停止点より上の部分)です。 右上がりの供給曲線の正体は、「限界費用が逓増するから」だったわけです。
供給の下限:損益分岐点と操業停止点
ただし企業は、価格が安すぎると生産をやめます。その境目が2つの重要な点です。
| 点 | 場所 | 意味 | 価格がここを下回ると… |
|---|---|---|---|
| 損益分岐点 | AC(平均費用)の最小点 | 利潤がちょうどゼロになる価格 | 赤字になる(でもまだ操業はする) |
| 操業停止点 | AVC(平均可変費用)の最小点 | 可変費用すら回収できなくなる価格 | 生産を止めるほうがマシ |
価格・費用
│ \ / MC = 供給曲線(太線部分)
│ \ / ┃
│ \ /‾‾‾\ / ┃← 損益分岐点(AC最小)P=AC
│ \ / AC \ / ┃
│ \/‾‾‾‾‾‾\/ ┃
│ /‾‾\ /‾‾ ← 操業停止点(AVC最小)P=AVC
│ / AVC \____/ ┃
│ / ┃ この点より下では供給ゼロ(操業停止)
└──────────────────────────→ 生産量
かみくだき:なぜ操業停止点は「AVCの最小点」なのか 固定費用は、生産をやめてもどのみち出ていくお金(サンクコスト)です。 だから企業は「可変費用(動く費用)だけでも回収できるか」で操業の可否を判断します。 - 価格 > AVC最小:可変費用は回収でき、固定費の一部も取り返せる → 操業する。 - 価格 < AVC最小:可変費用すら回収できず、作るほど傷が深まる → 止める(損失を固定費用だけに抑える)。
📝 過去問はこう出る(R01 第16問/R06 第16問) 完全競争企業の短期の最適生産を、損益分岐点・操業停止点で判断させる問題です。 - R01第16問(正解=イ):AC最小点=損益分岐点、AVC最小点=操業停止点。価格がこれらを下回ったとき、 生産を止めれば損失を固定費用だけに限定できる、という判断が問われます。 - R06第16問(設問2=イ):価格がAVCとACの間なら「可変費用は回収でき、固定費用の一部だけが損失」。 価格がAVC最小(操業停止点)まで下がると、損失は固定費用の全額(可変費用のみの損失とするのは誤り)。 → R01 第16問 / R06 第16問
生産者余剰との関係
供給曲線(MC曲線)と価格の間の面積は 生産者余剰 を表します(第5章「余剰分析」で詳しく扱います)。 ここでは「生産者余剰 =(価格 − 平均可変費用)× 生産量」で表せることだけ押さえておきましょう。
📝 過去問はこう出る(H30 第10問/R06 第16問設問1) - H30第10問(正解=ウ):各企業の供給価格(作るのに最低限必要な価格)と市場価格を比べ、 「市場価格 ≧ 供給価格」の企業だけが生産する。生産者余剰は各企業の「市場価格 − 供給価格」の合計。 例:市場価格1,400円で供給価格200・800・1,200円の3社が生産 → 余剰=1,200+600+200=1,800円。 - R06第16問設問1(正解=オ):生産者余剰は図で「(価格 − 平均可変費用)×生産量」の長方形の面積。 → H30 第10問 / R06 第16問
3-4 規模の経済・範囲の経済・長期費用曲線
ここまでは「機械・工場は変えられない短期」の話でした。最後に、工場そのものを建て替えたり 拡張したりできる「長期」の視点を加えます。似た用語が並ぶので、違いを一対一で区別するのがポイントです。
3つの「経済(メリット)」を区別する
| 用語 | 何によるコストダウンか | ひとことで |
|---|---|---|
| 規模の経済(規模の利益) | 1つの製品の生産規模を大きくすることで、1個あたり費用が下がる | 「たくさん作れば安くなる」 |
| 範囲の経済 | 複数の製品を一緒に作ることで、別々に作るより費用が下がる | 「兼ねて作れば安くなる」 |
| 集積の経済 | 企業が同じ地域に集中して立地することで得られる外部のメリット | 「集まれば得をする」 |
💡 覚え方 - 規模の経済 … "規"模=大きさ。同じ製品を大量に(例:自動車を年100万台)。 - 範囲の経済 … "範"囲=品目の広がり。別々の製品を一緒に(例:牛丼屋がカレーも出す/共通の厨房・ブランドを使い回す)。 - 集積の経済 … "集"まる=立地。同業が一か所に集まる(例:問屋街・産業クラスター)。
長期平均費用曲線(LAC)とU字
長期には工場規模を自由に選べるので、各生産量で最も安い工場を選べます。 その結果できる 長期平均費用曲線(LAC) は、多くの場合ゆるやかなU字を描きます。
長期平均費用LAC
│\ /
│ \ 規模の経済 /
│ \ (右下がり:作るほど安い) / 規模の不経済
│ \ / (右上がり:大きすぎて非効率)
│ \____________________/
│ 最適規模(最小効率規模)
└────────────────────────────→ 生産量
- 左側の右下がり部分=規模の経済が働く領域(作るほど1個あたり安くなる)。
- 右側の右上がり部分=規模の不経済(組織が大きくなりすぎて管理コストがかさむなど)。
- 費用逓減産業(規模を拡大すると平均費用が下がり続ける産業。電力・鉄道・水道など)は、 巨額の初期投資が必要で参入障壁が高く、大規模企業が有利になります(自然独占につながる)。
📝 過去問はこう出る(H28 第22問) 企業の費用構造と立地に関する記述の正しい組合せを選ぶ問題(正解=ウ:bとc)。 - b(○):収穫逓増産業は、生産規模の拡大を通じて規模の経済のメリットを享受できる。 - c(○):企業が集中して立地することで集積の経済のメリットを享受できる。 - a(×):収穫逓減は限界生産力の低下の話で、範囲の経済とは無関係(論理がつながらない引っかけ)。 - d(×):費用逓減産業は規模拡大で平均費用が下がるため大規模企業が有利で、中小企業の参入は容易ではない(参入障壁が高い)。 → H28 第22問
⚠️ 混同注意:「規模の経済」と「範囲の経済」 「複数の製品を一緒に作って安くする」のは範囲の経済であって規模の経済ではありません。 また「収穫逓減だから範囲の経済が得られる」というつなぎ方は論理が飛躍したバツ選択肢の定番(H28第22問a)です。
この章のまとめ(試験直前チェック)
- ☐ 生産関数が上に凸 = 限界生産力の逓減(収穫逓減)。追加1単位の効き目がだんだん薄れる
- ☐ グラフの傾き:原点からの直線の傾き=平均(AP・AC)/接線の傾き=限界(MP・MC)
- ☐ 上に凸の生産関数では AP > MP
- ☐ 費用は FC(固定)+VC(可変)=TC(総費用)。生産量ゼロでもFCはかかる
- ☐ AC=TC÷X(原点から接する)、AVC=VC÷X(固定費の高さから接する)、MC=TCの微分(接線の傾き)
- ☐ MCはACの最低点・AVCの最低点を下から貫く(最低点でMC=AC、MC=AVC)
- ☐ AVC最小の生産量 < AC最小の生産量(AVCのほうが左)/ 固定費用はMCに無関係
- ☐ 「平均費用AC」と「平均可変費用AVC」の取り違えに注意(可変とついたら固定費を入れない)
- ☐ 利潤最大化の条件は P = MC(総収入線TCの接線が総収入線TRと平行になる点)
- ☐ 供給曲線 = MC曲線(操業停止点より上の部分)
- ☐ 損益分岐点=AC最小点(利潤ゼロ)/操業停止点=AVC最小点(可変費用すら回収不能)
- ☐ 価格が操業停止点を下回ると生産を止め、損失を固定費用だけに抑える
- ☐ 規模の経済=同一製品の大量生産/範囲の経済=複数製品の同時生産/集積の経済=集中立地
- ☐ 費用逓減産業は参入障壁が高く大企業有利(中小企業の参入は容易ではない)
この章に対応する主な過去問
| 年度・問 | 論点 | リンク |
|---|---|---|
| H19 第13問 | 費用関数からAVC・MC・操業停止点を計算 | 問題 |
| H21 第13問 | 生産関数の効率点・総費用と利潤最大化 | 問題 |
| H24 第19問 | 総収入・総費用と利潤最大化(P=MC) | 問題 |
| H25 第16問 | 限界費用と平均可変費用(AC/AVCの区別) | 問題 |
| H26 第13問 | 生産関数と限界生産力逓減・労働需要 | 問題 |
| H27 第15問 | 総費用曲線と平均・限界費用(接線の意味) | 問題 |
| H28 第20問 | 生産関数の形状(収穫逓減) | 問題 |
| H28 第21問 | 利潤最大化と生産者行動(限界生産物=実質賃金) | 問題 |
| H28 第22問 | 規模・範囲・集積の経済/費用逓減産業 | 問題 |
| H30 第10問 | 生産者余剰(供給価格と市場価格) | 問題 |
| H30 第19問 | 短期の費用曲線(AC・AVC・MCの最小点) | 問題 |
| R01 第16問 | 完全競争企業の最適生産(操業停止点・損益分岐点) | 問題 |
| R04 第15問 | 総収入・総費用曲線による利潤最大化 | 問題 |
| R05 第14問 | 短期費用曲線(AC・AVC・MC) | 問題 |
| R06 第16問 | 完全競争企業の最適生産(操業停止点)・生産者余剰 | 問題 |
| R07 第15問 | 短期費用曲線・限界費用の性質 | 問題 |
次章予告 ▶ 第4章「市場構造と競争」 本章では完全競争の企業を見てきました。次章は、企業が「価格支配力」を持つ世界へ進みます。 独占・寡占・独占的競争といった市場構造の違い、独占企業の利潤最大化(MR=MC)、 そしてゲーム理論の基礎を扱います。「P=MC」がどう崩れるのかが次のテーマです。