第4章 市場構造と競争

この章のねらい 第3章までで、消費者(需要)と生産者(供給)が「1社・1人」として合理的にどう動くかを学びました。 この章では、その企業が何社くらいで、どんな市場のなかで戦っているのかに目を移します。 市場は、参加企業の数と製品の違いによって、完全競争 → 独占的競争 → 寡占 → 独占という 「4つのタイプ」に分けられます。タイプが違うと、価格の決まり方も、企業のもうけ方も、 社会全体にとっての望ましさも、まるで変わります。

過去問での出方:経済学のなかでも最頻出のヤマです。毎年ほぼ確実に、 ①完全競争の操業停止点・損益分岐点、②独占のMR=MC・死荷重、③独占的競争の長期均衡、 ④寡占のゲーム理論(囚人のジレンマ・ナッシュ均衡)のどれか(たいてい複数)が出ます。 グラフと利得表の「読み方」を体で覚えれば、まとめて数問を得点源にできる分野です。


4-0 この章の地図

この章は「競争が激しい順」ではなく、いちばん理解しやすい完全競争を土台にして、 そこから「1社の力が強くなっていく」方向に進みます。まず全体像をつかみましょう。

        市場構造の4類型(企業数が少ないほど価格支配力が強い)

 完全競争 ──── 独占的競争 ──── 寡占 ──────── 独占
(無数の企業)(多数+差別化) (少数の大企業)(1社だけ)
   4-1          4-3          4-4           4-2
   │             │            │             │
プライステイカー  右下がりの需要曲線に直面=プライスメイカー(価格支配力あり)
 P=MC         製品差別化    ゲーム理論     MR=MC・死荷重
(もうけは         で短期は        (囚人のジレンマ  (価格差別/
  長期にゼロ)      もうかるが       ・ナッシュ均衡)   自然独占)
                 長期はゼロ
  • 4-1 完全競争:価格を「与えられたもの」として受け入れる世界(=基準となる理想形)。
  • 4-2 独占:たった1社。価格を自分で決められる。ここで MR=MC という利潤最大化の考え方を身につけます。
  • 4-3 独占的競争:多数の企業が「少しずつ違う商品」で競う(居酒屋・美容室のイメージ)。
  • 4-4 寡占とゲーム理論:少数の大企業が「相手の出方」を読み合う世界(=ゲーム理論の出番)。

💡 4類型の見取り図企業数(1社か・少数か・多数か・無数か)製品の違い(同じか・差別化されているか)の2つで分類します。 「1社だけの独占」から出発して、企業が増えるほど競争が激しくなる、と押さえればOKです。

市場構造 企業数 製品 価格支配力
完全競争 無数 同質 なし(プライステイカー) 農産物・株式など理論上のモデル
独占的競争 多数 差別化 弱いがある 飲食店・美容室・小売
寡占 少数 同質 or 差別化 強い 自動車・ビール・携帯キャリア
独占 1社 最も強い(プライスメイカー) 電力・鉄道など

4-1 完全競争市場 ― すべての基準になる「理想形」 ★最重要

完全競争の4つの条件

完全競争市場とは、次の4条件を満たす、理論上の「いちばん競争が激しい」市場です。

  1. 多数の売り手・買い手がいる(1社の行動が市場価格を動かせない)
  2. 財が同質(どの企業の商品も同じ。差別化されていない)
  3. 情報が完全(誰もが価格や品質を知っている)
  4. 参入・退出が自由(もうかれば新規参入、損すれば退出できる)

プライステイカー ― 「価格は与えられるもの」

完全競争の最大の特徴は、企業が プライステイカー(価格受容者) であることです。

プライステイカー=市場で決まった価格を「そのまま受け入れるしかない」立場。 自分だけ値上げすれば客はゼロ(同じ商品を売る他社に流れる)、値下げする必要もない(今の価格でいくらでも売れる)。

だから完全競争企業にとって、自分が直面する需要曲線は、市場価格の高さで真横(水平)になります。 「価格=限界収入(MR)」が成り立つ、という点がとても重要です。

完全競争企業が直面する需要曲線(水平)

 価格
  │
 P├────────────── d=MR(=市場価格P)  ←この高さで、いくらでも売れる
  │
  └────────────────── 生産量

利潤最大化のルール:P=MC

企業は「もう1個作ると、いくら収入が増え(=限界収入MR)、いくら費用が増えるか(=限界費用MC)」を くらべて生産量を決めます。MR より MC が小さいうちは作るほどトクなので増産、逆なら減産。 両者が一致する MR=MC が利潤最大化の生産量です。

完全競争では 価格P=MR なので、これは次のシンプルな形になります。

完全競争企業の利潤最大化条件:P(=MR)= MC =「価格と限界費用が一致する生産量」を選ぶ。

操業停止点と損益分岐点 ― 頻出中の頻出

短期(工場などの固定費用が変えられない期間)には、次の2つの「境目」がとても重要です。 費用曲線 MC(限界費用)・AC(平均費用)・AVC(平均可変費用) の関係で決まります。

完全競争企業の短期供給(縦:価格、横:生産量)

 価格         MC   AC
  │          /   /
  │         /  /  AVC
P2├────E2<損益分岐点>  ← ACの最小値(MCとACの交点)
  │       //
P1├────E1<操業停止点>  ← AVCの最小値(MCとAVCの交点)
  │     //
  └──────────────── 生産量
      MC曲線のうち、操業停止点E1より上の部分=短期供給曲線
境目 別名 どこで決まるか 意味
損益分岐点 E2 AC(平均費用)の最小値=MCとACの交点 ここより価格が上なら利潤が出る(総収入>総費用)
操業停止点 E1 AVC(平均可変費用)の最小値=MCとAVCの交点 ここより価格が下なら生産をやめた方がマシ
  • 価格 > 損益分岐点(P2) … 黒字(超過利潤あり)
  • 損益分岐点 > 価格 > 操業停止点 … 赤字だが操業は続ける。 なぜなら、可変費用は回収でき、固定費用の一部を回収できるから(やめたら固定費用が丸損)。
  • 価格 < 操業停止点(P1) … 生産を続けると可変費用すら回収できない。 操業を停止して、損失を固定費用だけに抑えるのが正解。

💡 覚え方「V(可変費用)を回収できるか」が操業停止の分かれ目。 平均可変費用(AVC)の最小値=操業停止点。価格がそれを割ったら店を閉める、と覚えます。 損益分岐点は「AC(全部の費用)まで回収できる」境目、と一段上に位置づけます。

つまずきポイント:平均固定費用は「下がっていく」

平均固定費用(AFC=固定費用÷生産量)は、たくさん作るほど1個あたりが小さくなるので、 生産量が増えると低下します(上昇ではありません)。ここは選択肢の引っかけで頻出です。

📝 過去問はこう出る(R01 第16問) 完全競争企業の短期。操業停止点(AVC最小値・P1)と損益分岐点(AC最小値・P2)の理解を問う問題。 正解は「価格がP1(操業停止点)より低い場合、操業を停止することで損失を固定費用のみに抑えられる」。 「価格がP1とP2の間で固定費用がすべて損失になる」(実際は固定費用の一部は回収できる)、 「平均固定費用は生産量の増加に応じて上昇する」(実際は低下)はいずれもバツ。 → R01 第16問

📝 過去問はこう出る(R06 第16問) 図から生産者余剰(=総収入−可変費用=価格とAVCの差×数量)を読み取らせる設問と、 操業停止点・損益分岐点の正誤を問う設問の2問構成。 設問2の正解は「a正・b正・c誤」。価格がAVCの最小値(操業停止点)のとき、損失は固定費用の"全額"であって 「可変費用のみ」ではない、という点がポイントです(このとき収入=可変費用で、固定費用が丸ごと残る)。 → R06 第16問


4-2 独占 ― たった1社が価格を決める世界 ★最重要

独占企業は「プライスメイカー」

独占は、その財を供給する企業が1社だけの市場です。ライバルがいないので、 企業は価格を自分でコントロールできる プライスメイカー(価格設定者) になります。

完全競争との決定的な違いは、独占企業が直面する需要曲線が右下がりだという点です。 =高く売れば少ししか売れず、安くすればたくさん売れる。この当たり前の関係が、価格戦略を生みます。

限界収入(MR)は需要曲線より下を通る

ここが独占の最重要ポイントです。限界収入(MR)=もう1個多く売ったときに増える収入は、 独占では価格そのものよりも小さくなります。

なぜか。もう1個売るには値段を少し下げる必要があり、その値下げは今まで売っていた分すべてに及ぶからです。 「新しい1個の売上」から「値下げによる既存分の目減り」を引くので、MRは価格より低くなります。

💡 直線の需要曲線なら、MR曲線は「同じ切片から、傾きが2倍」で描ける(縦軸切片は需要曲線と同じ、 横軸の切片は需要曲線のちょうど半分の位置)。試験の図ではMRが需要曲線Dの下側を通っています。

独占の均衡(縦:価格、横:生産量)

 価格
  │\
P*├──\F ←独占価格(需要曲線D上、生産量Q*の高さ)
  │  \\          D(需要曲線・右下がり)
  │   \ \
  │    \  \          MC(限界費用)
  │     \H / ←MR=MCの交点Hで生産量Q*が決まる
  │      /\
  │    /   \D
  │  MR(需要曲線の下側・傾き2倍)
  └────Q*──────── 生産量

独占の利潤最大化:MR=MC → 需要曲線で価格を読む

独占企業の利潤最大化の手順は2ステップです。

  1. MR=MC となる交点(図のH)で、最適な生産量 Q* を決める。
  2. その生産量 Q* を需要曲線D まで垂直に戻し、その高さ(図のF)を独占価格 P* とする。

結果として、独占では 価格 > 限界費用(P>MC) となります。 完全競争(P=MC)にくらべ、生産量は少なく、価格は高くなるのが独占の宿命です。

⚠️ 混同注意:「利潤最大化」と「総収入(売上)最大化」は別物 - 利潤最大化:MR=MC の生産量。価格は高め。 - 総収入(売上高)最大化:MR=0(限界収入がゼロ)の生産量。利潤最大化より生産量は多く、価格は安め。 「もうけを最大に」と「売上を最大に」は違うゴール。試験ではこの2つの価格を比べさせます。

📝 過去問はこう出る(R07 第16問) 独占企業の「利潤最大化の価格」と「総収入最大化の価格」の組み合わせを選ぶ問題。 正解は「利潤最大化:P1(高い方)、総収入最大化:P3」。 利潤最大化はMR=MC、総収入最大化はMR=0で決まり、利潤最大化の方が生産量は少なく価格は高い。 → R07 第16問

独占の弊害:死荷重(デッドウェイト・ロス)

独占は生産量が過少なので、社会全体の余剰(消費者余剰+生産者余剰)が 完全競争より小さくなります。この失われた余剰死荷重(死重的損失・厚生損失) と呼びます。

独占の死荷重(三角形)

 価格
  │\
P*├──\F          ←独占の価格・数量(Q*)
  │   \\死荷重  三角形FHI = 独占で失われる余剰
  │    \△\
  │  MC─H──I ←完全競争ならこの点I(D と MC の交点)まで生産され効率的
  │      \\\D
  └────Q*─Qc──── 生産量
       (独占)(完全競争)
  • 完全競争なら、需要曲線D と 限界費用MC の交点I(生産量Qc)まで作られ、余剰は最大。
  • 独占はQ*までしか作らないので、Q*からQcまでの取引が失われる。この分の三角形が死荷重

📝 過去問はこう出る(R06 第17問) 独占均衡の正誤を問う問題。正解は「a誤・b正・c誤・d誤」。 b(正)=「独占はMR=MCの数量Hで生産し、価格は需要曲線上のF」という独占均衡の基本。 a(誤)=「価格が限界費用に等しい」は完全競争の話(独占はP>MC)。 c(誤)=「独占の生産量・価格が完全競争と一致する」は誤り(独占は生産過少・価格高)。 → R06 第17問

価格差別 ― 客によって値段を変える

独占(=価格支配力を持つ企業)は、同じ商品を、客のグループによって違う価格で売ることがあります。 これを 価格差別 といいます(学割・シニア割・早割・地域別価格など)。

  • 価格差別ができる前提は、企業に価格支配力がある不完全競争であること。 完全競争では一物一価なので、価格差別はできません。
  • 戦略のカギは「需要の価格弾力性」(=値段の変化に需要がどれだけ敏感か)。
  • 弾力的な客(値段に敏感な層。例:学生)には安く → 値下げで需要が大きく伸び、収入が増える。
  • 非弾力的な客(値段に鈍感な層)には高く → 値上げしても需要はあまり減らない。

💡 アモロソ=ロビンソンの式:MR=P(1−1/e)(e=需要の価格弾力性)。 ここから「弾力性が低い(非弾力的な)市場ほど高い価格をつけるのが最適」が導けます。難しければ結論だけでOK。

📝 過去問はこう出る(R01 第13問) 学生と一般客を分けて異なる価格をつける=価格差別の問題。 正解は「この財の市場は不完全競争であり、学生(価格弾力的)に対する価格を引き下げると企業収入が増加する」。 「市場は競争的」とする選択肢は、価格差別の前提(不完全競争)を外しておりバツ。 → R01 第13問

📝 過去問はこう出る(H27 第19問) 弾力性の異なる2市場での価格差別(第3種価格差別)。正解は「aとd」。 a(正)=独占はMR=MCで生産量を選ぶ。d(正)弾力性が低い(非弾力的な)市場Aの価格は市場Bより高くなるb(誤)=「需要曲線の価格と限界費用を一致(P=MC)」は完全競争の条件。c(誤)=弾力的な市場Bの価格は"低く"なる。 → H27 第19問

自然独占と価格規制

自然独占とは、電力・鉄道・水道のように、巨額の固定費用がかかり、 生産量が増えるほど平均費用(AC)が下がり続ける(規模の経済が強く働く)ため、 1社が独占した方が費用が安く済むタイプの独占です。放っておくと独占価格で消費者が不利になるので、 国が価格を規制します。代表が次の2方式です。

規制方式 ルール 長所 短所
限界費用価格規制 P=MC で価格を設定 資源配分が効率的(死荷重が消える) AC>MCなので企業が赤字に。補助金が必要
平均費用価格規制 P=AC で価格を設定 企業は赤字にならない(独立採算・利潤ゼロ 効率は限界費用価格規制に劣る

📝 過去問はこう出る(R05 第19問) 自然独占と価格規制。正解は「a正・b誤・c誤・d正」。 a(正)=独占はMR=MCで生産量Q1、価格は需要曲線上のP1。 d(正)平均費用価格規制ではP=ACの点で価格P2・生産量Q2となり、企業の利潤はゼロ(独立採算)b・c(誤)=限界費用価格規制の価格水準を取り違え/限界費用価格規制では企業は赤字になる、を外している。 → R05 第19問


4-3 独占的競争 ― 「少しずつ違う商品」で競う多数の企業

独占的競争の3つの特徴

独占的競争は、完全競争と独占の"あいだ"にある、現実に最も多い市場です。 居酒屋・美容室・カフェ・小売店など、「たくさんの店が、少しずつ違う商品」で競っているイメージです。

  1. 多数の企業がいる(1社の影響力は小さい)
  2. 製品差別化がある(各店のメニュー・立地・雰囲気が少しずつ違う)
  3. 参入・退出が自由

「独占」の顔と「競争」の顔

名前のとおり、この市場は2つの顔を持ちます。

  • 「独占」の顔:製品差別化のおかげで、各企業は右下がりの需要曲線に直面します。 =多少値上げしても客がゼロにはならない → 弱いながらも価格支配力(プライスメイカー)を持つ。
  • 「競争」の顔:とはいえ似た代替品が多いので、周囲が値下げすれば自店の需要は減ります (差別化しても需要は奪われる)。また参入が自由です。

長期均衡:もうけはゼロになる ★頻出

ここが試験の核心です。短期的には製品差別化で正の利潤(もうけ)を得られますが……

独占的競争の長期均衡:正の利潤を見て新規参入が続く → 既存店の需要が奪われる → やがて 長期的には利潤がゼロ(超過利潤が消える)に収束する。

つまり「差別化しても、参入が自由な限り、長い目で見ればもうけは残らない」。 これが独占的競争のいちばん大事な結論です。

独占的競争のイメージ

 短期:差別化で右下がりの需要 → 正の利潤 ○
   │  (もうかっているのを見て…)
   ↓  新規参入が続く(参入自由)
 長期:需要が奪われ、需要曲線が左に縮む
   │
   ↓
 利潤ゼロ(超過利潤が消える)で落ち着く = 長期均衡

📝 過去問はこう出る(R02 第20問) 居酒屋を例にした独占的競争の問題。正解は「bとc」。 b(正)=「正の利潤を見込んで新規参入が続くと、差別化されていても長期的に利潤はゼロになる」。 c(正)=「差別化したメニューにより価格支配力を持つ(右下がりの需要曲線に直面)」。 a(誤)=「周囲が値下げしても需要は減らない」は誤り(代替品なので需要は減る)。 d(誤)=独占的競争の企業はプライスメイカーであり、プライステイカーではない。 → R02 第20問


4-4 寡占とゲーム理論 ― 相手の出方を読み合う ★最重要

寡占とは

寡占は、少数の大企業が市場を分け合う構造です(自動車・ビール・携帯キャリアなど)。 特徴は、各社が互いの行動を強く意識し合う(相互依存)こと。 「うちが値下げしたら、あの会社はどう反応するか」を読みながら意思決定します。 この「読み合い」を分析する道具が ゲーム理論 です。

ゲーム理論の基本用語

用語 意味
利得(ペイオフ) 各プレイヤーが得るもうけ。利得表(マトリックス)に整理する
支配戦略 相手がどう出ようと、自分にとって常に最も有利な戦略
最適反応 相手の戦略を「所与」としたとき、自分の利得を最大にする戦略
ナッシュ均衡 全員が「相手の戦略を前提に、自分の最適反応」をとり合い、誰も戦略を変える気がない状態

💡 ナッシュ均衡の見つけ方(利得表): ①相手が「A」のとき、自分はどっちがトク? ②相手が「B」のときは? を各プレイヤーで調べ、 両者が同時に「これがベスト」と思っているマスがナッシュ均衡です。 どちらの相手の出方に対しても同じ戦略がベストなら、それが支配戦略です。

囚人のジレンマ ― 最重要のパターン

囚人のジレンマは、「各自が合理的に自分の得を追うと、全員にとって悪い結果に落ち着く」という ゲームです。カルテル(価格協定)や価格競争が、まさにこの構造になります。

【カルテルの例(利得は(X, Y)=(企業Xのもうけ, 企業Yのもうけ))】

                企業Yの戦略
              守る       破る
        ┌────────┬────────┐
     守る│(50, 40) │(−20, 60)│
 企業X   ├────────┼────────┤
     破る│(60,−20) │ (0, 0) │ ←ナッシュ均衡(両者「破る」)
        └────────┴────────┘
  • Xの立場:Yが「守る」なら、自分は守る50より破る60がトク。Yが「破る」なら、守る−20より破る0がトク。 → Xは相手がどう出ても「破る」が有利=支配戦略。Yも同じ。
  • だから両者とも「破る」を選び、ナッシュ均衡は(破る, 破る)=(0, 0)
  • ところが両者が守れば(50, 40)で、二人とも(0, 0)よりトクだった。 =協調した方が全員得なのに、抜け駆けの誘惑で悪い結果に落ちる。これが囚人のジレンマ。

⚠️ ここが引っかけ:「両者が守る(協調する)」は望ましいナッシュ均衡ではない。 なぜなら、そこから一方が「破る」に変えると利得が増えるから(=安定しない)。 カルテルが崩れやすいのは、この抜け駆けの誘惑があるためです。

📝 過去問はこう出る(R05 第22問) カルテルをめぐる囚人のジレンマ。正解は「aとd」。 a(正)=Xが守るとき、Yは守る40より破る60が最適反応。 d(正)=相手にかかわらず両者「破る」が最適なので、ナッシュ均衡は(破る, 破る)=(0, 0)b(誤)=Yが守るときXの最適反応は「破る」(守るとするのは誤り)。 c(誤)=「ともに守る」はナッシュ均衡ではない。 → R05 第22問

📝 過去問はこう出る(H30 第21問) A店・B店の価格競争(高価格 or 低価格)。正解は「イ」。 相手が高でも低でも、自店は低価格が有利(相手高なら20>16、相手低なら10>0)=低価格が支配戦略。 ナッシュ均衡は(低価格, 低価格)=(10, 10)で、両者高価格(16, 16)より悪い典型的な囚人のジレンマ。 正解肢は「両店が低価格のとき、一方が高価格に変えると利得は10から0へ下がる(=均衡から動けない)」。 → H30 第21問

クールノー・ベルトラン・シュタッケルベルク

寡占企業が「何で競争するか」で、代表的な3モデルがあります。名前と中身の対応を押さえます。

モデル 何で競争するか 特徴
クールノー競争 生産量(同時に決める) 各社が相手の生産量を所与に自社の生産量を決める。反応関数の交点が均衡
ベルトラン競争 価格(同時に決める) 価格競争。同質財なら価格が限界費用まで下がりうる
シュタッケルベルク 生産量(順番に決める) 先に動く先導者と後から動く追随者に分かれる。生産量競争では先導者が有利
  • 反応関数=相手の戦略に対する自社の最適反応を表した線。2社の反応関数の交点がクールノー均衡(=ナッシュ均衡)
  • 順番に動く場合、生産量競争では先に動く先導者が有利(相手の反応を織り込んで多めに生産できる)。 一方、価格競争では後から動く追随者が有利(相手をわずかに下回る価格をつけられる)。

📝 過去問はこう出る(H22 第18問) 生産量競争・価格競争それぞれで、先導者と追随者のどちらが有利かを問う問題。正解は「aとd」。 a(正)生産量競争では先導者の利益が交点(クールノー均衡)より高い(先行者有利)。 d(正)価格競争では追随者の利益が交点より高い(後行者有利)。 b・cはそれぞれ逆でバツ。「生産量なら先導者、価格なら追随者が有利」とセットで覚えます。 → H22 第18問

屈折需要曲線 ― 寡占の価格が動きにくい理由

屈折需要曲線は、寡占市場でよく見られる価格の硬直性(価格が変わりにくいこと)を説明するモデルです。

考え方はこうです。ある企業が価格をいじると、ライバルは次のように反応すると予想します。

  • 値上げしたら … ライバルは追随せず(自社は据え置きでシェアを奪える)→ 自社の客が大きく逃げる(需要は弾力的
  • 値下げしたら … ライバルもすぐ追随する(シェアを守るため)→ 自社の客はあまり増えない(需要は非弾力的

この非対称な予想から、需要曲線が現在の価格の点でカクッと折れ曲がり(屈折し)、 それに対応する限界収入曲線(MR)が、屈折点のところで縦に不連続(段差)になります。

屈折需要曲線(点Eで屈折)

 価格
  │\D    ←値上げ方向:弾力的(傾きゆるい)
  │ \
p1├──E ←現在の価格(屈折点)
  │  \\
  │   \ \F  ←値下げ方向:非弾力的(傾き急)
  │   ┃段差┃  ←MRの不連続区間(この中をMCが通る限り…)
  │   ┃    ┃
  └───q1──────── 生産量
  • MRの段差(不連続区間)を限界費用MCが通っている限り、MR=MCの最適生産量は屈折点の数量q1のまま動きません
  • だから、MCが多少上下しても、価格も生産量も変わらない(=価格が硬直的)。これが屈折需要曲線の結論です。

📝 過去問はこう出る(H28 第23問) 屈折需要曲線で、限界費用がMC1からMC2へ変化したときの価格・数量を問う問題。正解は「ウ」。 正解肢=「限界費用曲線がMC2へシフトしても、価格は変わらない」。 MC1もMC2もMRの不連続区間(段差)を通るため、最適生産量はq1のまま、価格も屈折点の価格のまま(価格の硬直性)。 「生産量をq2/q3へ増やす」「価格をp2へ下げる」はいずれもバツ。 → H28 第23問


この章のまとめ(試験直前チェック)

  • ☐ 市場構造は完全競争・独占的競争・寡占・独占の4類型。企業数が少ないほど価格支配力が強い
  • ☐ 完全競争企業はプライステイカー、需要曲線は水平(価格=MR)、利潤最大化はP=MC
  • 操業停止点=AVCの最小値(価格がこれを割れば生産停止し損失を固定費用のみに)
  • 損益分岐点=ACの最小値(これより価格が上なら黒字)/平均固定費用は生産量とともに低下
  • ☐ 独占企業はプライスメイカー、需要曲線は右下がりMRは需要曲線の下(価格より低い)
  • ☐ 独占の利潤最大化=MR=MCで数量を決め、需要曲線まで戻して価格を読む(結果 P>MC・生産過少)
  • 利潤最大化はMR=MC総収入(売上)最大化はMR=0(別のゴール/後者の方が安く多く)
  • ☐ 独占は死荷重(生産過少で失われる余剰)を生む
  • 価格差別は不完全競争で可能。弾力的な客は安く・非弾力的な客は高く
  • 自然独占:限界費用価格規制(P=MC・効率的だが赤字→補助金)/平均費用価格規制(P=AC・利潤ゼロ
  • ☐ 独占的競争:多数+製品差別化+参入自由。右下がりの需要で価格支配力ありだが長期は利潤ゼロ
  • ☐ 寡占=少数の大企業の相互依存ナッシュ均衡=全員が最適反応で、誰も戦略を変えない状態
  • 囚人のジレンマ:各自の合理的選択(支配戦略)で全員が損な結果に。カルテルは崩れやすい
  • クールノー=生産量/ベルトラン=価格。順番に動くと生産量は先導者有利・価格は追随者有利
  • 屈折需要曲線:MRの不連続(段差)により、MCが動いても価格が硬直的

この章に対応する主な過去問

年度・問 論点 リンク
R06 第16問 完全競争・操業停止点・生産者余剰 問題
R01 第16問 完全競争・操業停止点・損益分岐点 問題
R07 第16問 独占・利潤最大化と総収入最大化 問題
R06 第17問 独占均衡・死荷重 問題
R01 第13問 価格差別(学生と一般) 問題
H27 第19問 価格差別(第3種・弾力性) 問題
R05 第19問 自然独占・価格規制 問題
R02 第20問 独占的競争(居酒屋・長期均衡) 問題
R05 第22問 カルテルと囚人のジレンマ 問題
H30 第21問 価格競争のゲーム(ナッシュ均衡) 問題
H22 第18問 クールノー・ベルトラン(反応関数) 問題
H28 第23問 屈折需要曲線(価格の硬直性) 問題

次章予告 ▶ 第5章「市場の失敗と政府の役割」 本章では、独占が死荷重という「市場の失敗」を生むことを見ました。次章では、 独占以外の市場の失敗――外部性(公害・混雑)、公共財、情報の非対称性――を扱い、 それを是正する政府の政策(課税・補助金・規制)余剰分析を学びます。