第5章 市場の失敗と情報の経済学
この章のねらい 第I部(ミクロ経済学)の締めくくりです。ここまでは「市場(=需要と供給)にまかせておけば、 資源はうまく配分される(=効率的になる)」という話が中心でした。ところが現実には、 市場にまかせても、うまくいかない場面があります。これを 市場の失敗 と呼びます。 本章では、市場の失敗の代表格である 外部性・公共財・共有資源・情報の非対称性 を扱い、 あわせて「人はいつも合理的とは限らない」を出発点にした 行動経済学 の基礎も押さえます。
過去問での出方:この分野は経済学・経済政策の 後半(第16〜22問あたり)の常連 です。 外部性の余剰分析(グラフで死荷重を選ばせる)、ピグー税とコースの定理、公共財の性質、 逆選択とモラルハザードの区別、行動経済学の用語当て――と、ほぼ毎年どれかが出ます。 グラフ問題は一見むずかしそうですが、「過剰生産の三角形=死荷重」 の型さえつかめば得点源です。
5-0 この章の地図
市場の失敗には大きく4つのタイプがあります。まず「なぜ市場がうまくいかないのか」を タイプ別に押さえ、最後に「そもそも人は合理的か?」を問う行動経済学へ進みます。
5-1 外部性 … 取引の外にいる第三者へ影響がもれる
(外部不経済=公害/外部経済/ピグー税・コースの定理)★グラフ頻出
│
5-2 公共財・共有資源 … みんなで使う財の「ただ乗り」「使いすぎ」
(非競合性・非排除性・フリーライダー/コモンズの悲劇)
│
5-3 情報の非対称性 … 売り手と買い手で情報量が違う
(逆選択=契約前/モラルハザード=契約後/シグナリング)★区別が命
│
5-4 行動経済学 … 人はいつも合理的とは限らない
(プロスペクト理論・双曲割引・アンカリング など)
💡 4つに共通するキーワードは「効率が損なわれる」。市場にまかせた結果、 社会全体の得(=社会的余剰)が最大にならず、取りこぼし(=死荷重/死重損失)が出てしまう。 これが「市場の失敗」の正体です。政府の出番(規制・課税・補助)が正当化される根拠にもなります。
5-1 外部性 ― 取引の"外"にこぼれる影響 ★最重要
いちばん短い定義
外部性(外部効果) とは、
ある人(企業)の経済活動が、市場での取引を通さずに、 第三者の満足や利益にタダで(対価のやり取りなしに)影響を与えること
です。影響が「悪い方向」なら 外部不経済(負の外部性)、「良い方向」なら 外部経済(正の外部性) です。
| 種類 | 意味 | 身近な例 |
|---|---|---|
| 外部不経済(負の外部性) | 第三者に損害を与える | 工場の公害(排煙・排水)、騒音、たばこの煙 |
| 外部経済(正の外部性) | 第三者に恩恵を与える | 養蜂家の隣の果樹園(受粉が進む)、庭の花、教育・研究 |
かみくだき ― 「値段に含まれていないコスト」
工場が製品を作るとき、自社が払うコスト(原材料費・人件費など)を 私的限界費用(PMC) と呼びます。 ところが公害を出していると、近隣住民が健康被害という別のコストを負っています。 この住民の被害まで足し込んだ、社会全体でみた本当のコストが 社会的限界費用(SMC) です。
社会的限界費用(SMC)= 私的限界費用(PMC)+ 外部限界費用(第三者が被る被害)
負の外部性があると、この「第三者の被害分」だけ SMC が PMC より上 にきます。 企業は自分の払う PMC しか見ないので、社会にとって望ましい量より作りすぎてしまう――これが問題の核心です。
グラフで見る ― 負の外部性は「過剰生産」を生む
価格 P が一定(水平)のケースで描きます。企業は「価格=私的限界費用(PMC)」になる Q2 まで作りますが、 社会にとって望ましいのは「価格=社会的限界費用(SMC)」になる Q1 です。Q1 < Q2 で過剰生産になります。
費用・価格
│ PMC SMC(PMCの上に平行)
│ / /
│ / /
│ / / ← SMCとPMCの差=外部限界費用
P ┼──────●──────────●──────── 価格(水平)
│ /a /d
│ / △abd=死荷重(過剰生産Q1〜Q2で
│ / SMCが価格を上回る三角形)
└──┴──────┴──────────→ 生産量
Q1 Q2
(社会的最適)(自由放任=作りすぎ)
- 自由放任(市場まかせ):企業は PMC で判断 → Q2(過剰生産)。
- 社会的最適:SMC で判断すべき → Q1。
- 死荷重(死重損失):Q1〜Q2 の過剰生産部分で、SMC が価格(=社会的な便益)を上回る三角形。 これが市場の失敗による社会的な取りこぼしです。
⚠️ つまずきポイント:死荷重は「三角形ひとつ分」 過剰生産の死荷重は、SMC線と価格線で囲まれる三角形(上の図の△abd)だけです。 「2つの三角形の合計(C+D)」のように広くとった選択肢は誤りになりがち。 H24第21問・H26第20問とも、この「死荷重の範囲を広げすぎた選択肢」が不正解の急所でした。
対策その1 ― ピグー税(課税で内部化する)
外部不経済への古典的な処方が、経済学者 ピグー にちなむ ピグー税 です。
ピグー税:1単位あたり 外部限界費用と同じ額 の税を生産者に課す。 すると私的限界費用(PMC)が税額分だけ上に持ち上がり、PMCがSMCに一致する。 結果、企業の判断で選ぶ生産量が自然と社会的最適 Q1 に一致し、過剰生産が是正される。
このように、外部のコストを企業の費用(私的コスト)に取り込むことを 「外部性の内部化」 といいます。 過剰生産が是正されると、それまで生じていた死荷重が解消され、社会的余剰はその分だけ増加します。
📝 過去問はこう出る(H22 第15問) 私的限界費用線と社会的限界費用線が乖離した公害のグラフで、 単位あたり t の環境税(ピグー税)を課したとき 社会的余剰がどれだけ変化するか を問う問題。 正解は「三角形BCE 分の増加」。ポイントは①方向は「増加」(過剰生産の死荷重が消える)、 ②大きさは三角形1つ分であり、税収を含む四角形などにすると誤り、という2点です。 → H22 第15問
対策その2 ― コースの定理(当事者の話し合いで解決する)
もうひとつの有名な考え方が コースの定理 です。
コースの定理:外部性の当事者どうしが、費用(取引費用)をかけずに自発的に交渉できるなら、 権利が最初にどちらにあっても(初期配分によらず)、交渉を通じて効率的な資源配分(社会的最適 Q1)が実現する。
- ポイントは「政府が介入しなくても、当事者どうしの交渉で最適が達成されうる」という主張です。
- ただし前提が厳しい:取引費用が小さいこと、当事者が少人数で特定できること。 当事者が多すぎたり交渉コストが高いと、現実には成立しにくい――ここも試験で問われます。
⚠️ 混同注意:ピグー税とコースの定理 - ピグー税 … 政府が課税して外部性を内部化する(第三者的な介入) - コースの定理 … 当事者どうしの交渉で解決する(政府は不要という発想) どちらも「最適な生産量 Q1 を目指す」点は同じ。「誰が動くか」で区別しましょう。
📝 過去問はこう出る(H26 第20問/H24 第21問) どちらも負の外部性のグラフ問題。H26第20問は「交渉が費用ゼロでできるなら コースの定理により生産量は社会的最適 m になる」が正解(○)。 死荷重を「C+D」、税収を「B+C+D」とした選択肢は範囲を広げすぎた誤り。 H24第21問は「最も不適切」を選ぶ問題で、死荷重を「C+D」とした選択肢が正解(=誤り)。 正しい死荷重は三角形D(△abd)だけでした。 → H26 第20問 / H24 第21問
発展 ― 消費の外部性(スノッブ効果・バンドワゴン効果)
外部性は生産だけでなく消費にもあります。他人の消費が自分の需要に影響する現象です。
| 効果 | 内容 | 宣伝文句の例 |
|---|---|---|
| スノッブ効果 | みんなと同じは嫌。希少なものほど欲しくなる | 「期間限定です」(希少性の強調) |
| バンドワゴン効果 | みんなが買うほど自分も欲しくなる(流行への同調) | 「現在売れています」(流行の強調) |
| ヴェブレン効果 | 高価格そのものが需要を高める(見せびらかしの消費) | 「高級ブランド」 |
📝 過去問はこう出る(H22 第19問) 「期間限定です」= A:スノッブ効果、「現在売れています」= B:バンドワゴン効果 の組合せが正解。 スノッブ=希少性(人と違うものが欲しい)、バンドワゴン=流行(人と同じが欲しい) と、 正反対の効果である点で覚えます。ヴェブレン効果(高価格志向)との取り違えにも注意。 → H22 第19問
5-2 公共財と共有資源 ― 「みんなの財」がうまく供給されない
財を2つの性質で分類する
市場の失敗を理解する鍵は、財を 競合性 と 排除性 の2つの物差しで分けることです。
- 競合性:ある人が消費すると、他の人が消費できる量が減るか?(例:おにぎりは1個食べたら他人は食べられない=競合的)
- 排除性:対価を払わない人を利用から締め出せるか?(例:映画館はチケットがないと入れない=排除できる)
この2つの「ある/なし」で、財は次の4つに整理できます。
| 排除性 あり(締め出せる) | 排除性 なし(締め出せない) | |
|---|---|---|
| 競合性 あり(減る) | 私的財(食料・衣服など) | 共有資源(コモンズ):漁業資源・地下水 |
| 競合性 なし(減らない) | クラブ財:有料ケーブルTV・有料道路 | 公共財:国防・一般道路・灯台 |
公共財 ― 非競合性+非排除性+フリーライダー
公共財 は、非競合性(みんなが同時に同じ量を消費でき、他人の消費を妨げない)と 非排除性(対価を払わない人を締め出せない)を両方もつ財です(両方を完全に満たすものを 純粋公共財)。
- 非競合性 … 一人が国防の恩恵を受けても、他の人の受ける恩恵は減らない(=等量消費が可能)。
- 非排除性 … 税を払わない人も灯台の光を使える。締め出せない。
この性質のせいで フリーライダー(ただ乗り) 問題が起きます。 「どうせ対価を払わなくても使えるなら、お金を出したくない」と皆が考えると、 だれも費用を負担せず、市場では十分に供給されない(=過少供給)。だから政府が税で供給することが多いのです。
⚠️ ここが引っかけの定番 - 公共財は「政府が供給する財」ではなく「性質(非競合性・非排除性)で定義される財」。 民間が供給する公共財もある。供給主体で定義するのは誤り。 - フリーライダーが問題になるのは排除性のない公共財。競合性も排除性もある私的財では、 対価を払わない者を締め出せるのでフリーライダーは出ない。
📝 過去問はこう出る(H24 第22問/H29 第19問) H24第22問:公共財は「少なくとも非排除性を有する財」が正解(イ)。 「競合性を有する」(逆)、「政府のみが供給する権利のある財」(供給主体で定義しているので誤り)はバツ。 H29第19問:有料ケーブルテレビは「対価を払わない者を排除できる(排除性あり)が、 視聴者が増えても互いの視聴を妨げない(非競合的)」=クラブ財の例が正解(エ)。 また「私的財ではフリーライダーは出現しない」「海洋の水産資源は競合性を持つ(無償で獲れることは 競合性がない理由にならない)」も要チェック。 → H24 第22問 / H29 第19問
共有資源(コモンズ)と「共有地の悲劇」
共有資源(コモンズ) は、競合性はあるが排除性がない財です。漁業資源・地下水・共有の牧草地などが典型。
- 競合性あり:ある漁業者が獲れば、他者が獲れる量は減る。
- 排除性なし:だれでも自由(無償)に使える。締め出せない。
この組み合わせが 「共有地の悲劇(コモンズの悲劇)」 を生みます。 「自分が使わなくても他人が使ってしまう。なら早い者勝ちで使い尽くそう」と皆が動く結果、 資源が過剰に消費され枯渇してしまう――これが市場の失敗です。
💡 解決策:使用に「価格」をつける 無償で使えるから使いすぎる。ならば 有償(利用料・課金・漁獲枠の売買など) にして、 使うことに費用を伴わせれば、過剰消費が抑えられ資源配分が効率化します。
📝 過去問はこう出る(R01 第17問) 海洋資源など共有資源について、正しい組合せを選ぶ問題。正解は b と c。 - c(○):共有資源は「競合性はあるが排除性がない財」と定義できる。 - b(○):有償の許可は過剰消費を抑え、消費を効率化する。 - a(×):無償の許可は過剰消費(=共有地の悲劇)を招き、非効率。 - d(×):「排除性があり競合性がない」はクラブ財の定義で、共有資源とは逆。 → R01 第17問
5-3 情報の非対称性 ― 逆選択とモラルハザード ★区別が命
情報の非対称性とは
取引の当事者の間で、一方だけが情報を多く持ち、他方が持っていない状態を 情報の非対称性 といいます。中古車の売り手は車の状態を知っているが、買い手は分からない――という具合です。 これも市場の失敗のひとつで、代表的な症状が 逆選択 と モラルハザード の2つです。
⚠️ 本章いちばんの急所:「いつ」の問題かで区別する
逆選択(逆淘汰) モラルハザード いつ起きる 契約の"前" 契約の"後" 何が隠れている 隠れた情報(相手のタイプ・質) 隠れた行動(相手のふるまい) ひとことで 質の悪い側ばかりが集まる 契約後に注意を怠る・手を抜く 例 中古車で悪い車ばかり残る/病気リスクの高い人ばかり保険に入る 保険加入後に不注意になる/監視のない従業員がサボる 試験は毎年のように、この「契約前か・契約後か」を取り違えさせる選択肢を出します。 「逆選択=前・情報」「モラルハザード=後・行動」 を丸暗記してください。
逆選択とレモン市場(アカロフ)
経済学者 アカロフ の 「レモン市場」(レモン=欠陥のある中古車の俗語)が代表例です。
- 中古車の品質を買い手が見分けられない(情報の非対称性)。
- 買い手は平均的な品質を前提に価格を提示する。
- すると良質な車(高コスト)は割に合わず市場から退出し、低品質の車(レモン)ばかりが残る。
- 結果、市場に流通する車の 平均品質が低下 し、市場そのものが縮小・崩壊しかねない。
このように「悪いものばかりが選ばれ残る」現象が 逆選択(逆淘汰) です。
📝 過去問はこう出る(H20 第15問) アカロフの「レモン市場」の穴埋め。正解は A:逆選択/B:低下。 情報の非対称性により、逆選択が起き、市場の平均品質が低下する。 A を「モラルハザード」とするのは、契約後の問題との取り違えで誤り。 → H20 第15問
逆選択への対策 ― シグナリングとスクリーニング
逆選択は「情報の非対称性」が原因なので、情報を伝える・引き出すことで和らげられます。
- シグナリング:情報を持っている側が、自分の質を信号として自発的に示す。 (例:品質に自信のある製造業者が無償保証をつける/企業が格付けを取得する/ 能力ある人が学歴・資格で自分を示す)
- スクリーニング:情報を持っていない側が、相手の質を選別するための仕組みを用意する。 (例:採用時に推薦状を求める/保険会社が複数のプランを用意して自己選択させる)
- 強制加入:全員を加入させれば「悪いリスクだけが集まる」状況を避けられる (例:医療保険を任意ではなく強制保険にする)。
📝 過去問はこう出る(R04 第21問) 逆選択に関する正誤問題。正解は a:誤/b:正/c:正(=選択肢ウ)。 - b(○):医療保険を強制保険にすると、健康な人も加入するので逆選択が減る。 - c(○):採用時に推薦状を求めるのは、相手の質を見極めるスクリーニングで逆選択を減らす。 - a(×):自動車保険の免責は契約後の不注意を抑えるモラルハザード対策であり、 そもそも「契約後に生じる逆選択」という表現自体が誤り(逆選択は契約"前"の問題)。 → R04 第21問
モラルハザードとその対策
モラルハザード は、契約の後に相手の行動が観察できないために生じる規律の喪失です。 「保険に入ったから不注意になる」「監視されないから従業員がサボる」などが典型。 対策の基本は、当事者に自己負担や成果連動を課して、行動を律することです。
- 免責(控除免責):損害のうち一定額は自己負担とする → 事故を防ごうという注意が働く。
- 成果連動報酬:成果に応じた報酬 → まじめに働く誘因になる。
- 観察可能性を高める:調理過程を客に見せる、監視する → 手抜きを抑える。
📝 過去問はこう出る(R05 第18問/R01 第19問) R05第18問:モラルハザード軽減が目的の事例を選ぶ問題。正解は エ 「損害のうち一定金額を超える部分のみ補償する(=免責)」=契約者に自己負担を課し 事故防止の注意を促す典型例。無償保証・格付け取得・利用者評価の公表は、 いずれも契約前の逆選択対策(シグナリング等)でひっかけ。 R01第19問:正しい組合せは a と c(=選択肢イ)。 a(○) 監視できず従業員が手を抜く=モラルハザード。c(○) 調理過程を見せると手抜きが減る。 b(×) 失業給付の増加はまじめに働く誘因を弱め、むしろモラルハザードを増やす。 d(×) 優秀な人ほど早期退職に応じるのは逆選択(隠れた情報)でモラルハザードではない。 → R05 第18問 / R01 第19問
5-4 行動経済学の基礎 ― 人はいつも合理的とは限らない
伝統的な経済学との違い
これまでの経済学は「人は合理的に、自分の利益(効用)を最大にするよう行動する」と仮定してきました。 行動経済学 は、心理学の知見を取り入れ、現実の人間は必ずしも合理的ではないという前提から出発します。 カーネマンやセイラーなど、複数のノーベル経済学賞受賞者を出した注目分野です。
プロスペクト理論(カーネマン=トベルスキー)
プロスペクト理論 は、人が不確実な状況(利得と損失)でどう判断するかを説明する理論です。ポイントは2つ。
- 損失回避:同じ額なら、得の喜びより損の痛みを大きく感じる。 1万円もらう嬉しさより、1万円失う悔しさのほうが強い。だから 損失を利益より過大に評価 してしまう。
- 確率の重みづけの歪み:低い確率は過大に、高い確率は過小に評価する。 (宝くじの当選のような小さな確率を「当たるかも」と大きく見積もる、など)
💡 覚え方:プロスペクト理論=「損はイヤ(損失回避)+確率の見積もりがゆがむ」。 「得は確実に、損はギャンブルで避けたい」という私たちの実感そのものを理論化したものです。
双曲割引 ― 目先の利得に飛びつく
双曲割引 は、時間に関する非合理性を説明します。
将来の価値を割り引いて評価する際、近い将来ほど割引率が急になる。 その結果、目先の利得を過大に、将来の利得を過度に低く評価してしまう(=時間的非整合)。
「ダイエットは明日から」「将来のためと分かっていても、つい目先の楽を選ぶ」といった行動がこれにあたります。
📝 過去問はこう出る(H22 第21問) 穴埋め問題。正解は A:双曲割引/B:プロスペクト理論(=選択肢イ)。 - A=双曲割引:「目先の利得に惑わされ、将来の利得を過度に低く評価してしまう」考え方。 - B=プロスペクト理論:「得の領域では低い確率を高く、損の領域では高い確率を低く見積もり、 損失を利益より過大に見積もる」。限定合理性(サイモン) との取り違えがひっかけ。 → H22 第21問
そのほか押さえておきたい用語
| 用語 | ひとことで |
|---|---|
| 限定合理性(サイモン) | 人の情報処理能力には限界があり、完全な合理性は持てない。「そこそこ満足」で決める(満足化) |
| アンカリング | 最初に見た数字(アンカー=錨)に判断が引きずられる(例:定価を見せてから割引を示す) |
| フレーミング効果 | 同じ内容でも、見せ方(枠組み)で選択が変わる(「生存率90%」と「死亡率10%」) |
| 保有効果 | 一度手にすると手放したくなくなり、持っているものを高く評価する(損失回避と関連) |
| サンクコスト(埋没費用)の誤り | 取り戻せない過去の費用に引きずられ、非合理な判断をする |
| ナッジ | 選択の自由を残しつつ、望ましい行動へそっと後押しする仕組み(セイラー) |
⚠️ 混同注意:双曲割引 vs 限定合理性 vs プロスペクト理論 - 双曲割引 … 時間の話(目先を過大評価) - プロスペクト理論 … リスク・損得の話(損失回避・確率の歪み) - 限定合理性 … 能力の限界の話(完全には合理的になれない) 説明文が「時間」「損得」「能力」のどれを言っているかで見分けます。
この章のまとめ(試験直前チェック)
- ☐ 市場の失敗=市場にまかせても効率的にならない状態(外部性・公共財・共有資源・情報の非対称性)
- ☐ 外部性=取引を通さず第三者にタダで影響。負の外部性(公害) は SMC>PMC で過剰生産
- ☐ 負の外部性の死荷重=SMC線と価格線で囲まれる三角形1つ分(範囲を広げた選択肢は誤り)
- ☐ ピグー税=外部限界費用分を課税しPMCをSMCに一致させて内部化(政府が動く)
- ☐ コースの定理=取引費用ゼロなら当事者の交渉で、権利の初期配分によらず最適が実現(政府不要)
- ☐ スノッブ効果=希少性、バンドワゴン効果=流行(正反対)、ヴェブレン効果=高価格志向
- ☐ 財の分類:私的財/クラブ財/共有資源/公共財を 競合性×排除性 の表で整理
- ☐ 公共財=非競合性+非排除性、フリーライダーで過少供給(供給主体では定義しない)
- ☐ 共有資源=競合性あり・排除性なし → 共有地の悲劇(過剰消費)/有償化で効率化
- ☐ 逆選択=契約"前"・隠れた情報・質の悪い側が残る(レモン市場=平均品質が低下)
- ☐ モラルハザード=契約"後"・隠れた行動・手抜き/免責・成果連動で軽減
- ☐ 逆選択対策:シグナリング(持つ側が示す)/スクリーニング(持たない側が選別)/強制加入
- ☐ プロスペクト理論=損失回避+確率の歪み、双曲割引=目先を過大評価(時間的非整合)
- ☐ 限定合理性(サイモン)・アンカリング・フレーミング・ナッジ(セイラー)も用語で押さえる
この章に対応する主な過去問
| 年度・問 | 論点 | リンク |
|---|---|---|
| H22 第15問 | 外部不経済と環境税(ピグー税)・余剰変化 | 問題 |
| H24 第21問 | 負の外部性と最適生産量・死荷重 | 問題 |
| H26 第20問 | 負の外部性とコースの定理・ピグー課税 | 問題 |
| H22 第19問 | 消費の外部性(スノッブ・バンドワゴン) | 問題 |
| H24 第22問 | 公共財の性質(非排除性) | 問題 |
| H29 第19問 | 公共財・私的財・クラブ財の特徴 | 問題 |
| R01 第17問 | 共有資源(コモンズの悲劇) | 問題 |
| H20 第15問 | レモン市場・逆選択(アカロフ) | 問題 |
| R04 第21問 | 情報の非対称性と逆選択 | 問題 |
| R05 第18問 | モラルハザードの軽減 | 問題 |
| R01 第19問 | モラルハザード(隠れた行動) | 問題 |
| H22 第21問 | 行動経済学(双曲割引・プロスペクト理論) | 問題 |
次章予告 ▶ 第6章「国民経済計算とGDP(ここから第II部・マクロ経済学)」 ここまでの第I部では、家計・企業・市場という「個々の経済主体」の動き(ミクロ経済学)を見てきました。 第II部からは視点をぐっと広げ、一国全体の経済(マクロ経済学)に進みます。 まずはその出発点として、経済の大きさをはかる GDP(国内総生産) と 国民経済計算 の考え方 ――「三面等価の原則」や名目・実質の違いなど――を押さえます。