第5章 経営分析(財務指標)
この章のねらい 貸借対照表(BS)と損益計算書(PL)が読めるようになったら、次は「この会社は儲かっているのか」 「つぶれる心配はないか」「資産をうまく使えているか」を数字で診断するステップです。 それが経営分析(財務指標分析)です。中小企業診断士の実務そのものであり、本試験でも毎年ほぼ確実に 2〜3問出ます。
過去問での出方:大きく2パターンあります。①BS・PLの数字を与えて指標を計算させる問題 (R01第11問、R03第10問、R05第12問など)と、②指標の意味や関係を問う問題(R05第13問のCCC、 R01第19問のROE分解など)。どちらも計算式さえ正確に覚えていれば得点源になります。 特にROEのデュポン分解(5-4)は、H26・H30・R01と手を替え品を替え繰り返し問われる最重要論点です。
5-0 この章の地図
経営分析は、見る「切り口」で4つのグループに分かれます。 まず収益性(儲かっているか)、次に安全性(つぶれないか)、 そして効率性(資産を活かせているか)、最後に生産性(人や設備がどれだけ価値を生むか)です。 この4つの地図を頭に入れてから、個別の指標に進みましょう。
5-1 収益性分析 … 儲ける力(ROE・ROA・売上高各利益率)
│
5-2 安全性分析 … つぶれない力(流動比率・自己資本比率ほか)
│
5-3 効率性分析 … 資産を活かす力(各種回転率・CCC)
│
5-4 生産性分析+デュポン分解 … 人・設備の力/ROEを3つに分解(★最重要)
💡 分析の大原則:「比べて」はじめて意味が出る 財務指標は、1つの数字だけを見ても「良い・悪い」は判断できません。 ①時系列比較(自社の去年と今年)、②他社比較(同業ライバルと)、③標準比較(業界平均と) のように、何かと比べてはじめて診断になります。過去問も「A社とB社どちらが良好か」 (H23第9問)、「X1年度とX2年度でどう変化したか」(H26第9問、R01第11問)という 比較の形で出題されます。
⚠️ 計算前の必須チェック:「率」と「倍」と「回」と「期間」 指標には単位がいくつかあります。取り違えると答えが合いません。 - ○○率(%):割合。例=売上高営業利益率、自己資本比率 - ○○回転率(回):1年で何回転したか。例=総資本回転率 - ○○回転期間(日・月):1回転に何日かかるか。回転率の逆数 - ○○倍:カバー倍率など。例=インタレスト・カバレッジ・レシオ
5-1 収益性分析 ― 儲ける力をはかる
収益性とは
収益性とは、投下した資本(元手)や売上に対して、どれだけ利益を生み出したかをみる切り口です。 分子に「利益」、分母に「資本」または「売上高」を置いた割合(%)で表します。
収益性の指標は、大きく次の2系統に分かれます。
- 資本利益率系:分母が資本(元手をどれだけ効率よく利益に変えたか)… ROE・ROA
- 売上高利益率系:分母が売上高(売上のうちどれだけ利益が残ったか)… 各段階の利益率
(1)資本利益率 ― ROEとROA
利益 ÷ 資本 で計算します。「投じたお金が、どれだけの利益を生んだか」をみる、収益性の中心です。 分母にどの資本を、分子にどの利益を置くかで名前が変わります。
| 指標 | 計算式 | 意味 |
|---|---|---|
| 総資本利益率(ROA) | 利益 ÷ 総資本(総資産)× 100 | 会社の資産全体をどれだけ効率よく利益に変えたか |
| 自己資本利益率(ROE) | 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100 | 株主の元手でどれだけ利益をあげたか(株主から見た収益性) |
- ROA(Return On Assets):分子の「利益」は、目的に応じて営業利益・経常利益などを使います。 分子に営業利益を置けば「総資本営業利益率」、経常利益を置けば「総資本経常利益率」です。 問題文の定義に必ず従ってください(H30第21問では「ROA=営業利益÷総資産」とわざわざ定義しています)。
- ROE(Return On Equity):分子は原則当期純利益、分母は自己資本(株主資本+評価・換算差額等)。 株主が出したお金に対するリターンなので、投資家がもっとも重視する指標です。
💡 「総資本」と「自己資本」の違い - 総資本=負債+純資産(=資産の合計と同額)。会社が使っているお金の全部。 - 自己資本=純資産(おおむね株主資本)。返さなくてよい、株主のお金の部分。 この違いが、後で出てくる財務レバレッジ(5-4)の土台になります。
(2)売上高利益率 ― どの段階の利益で見るか
利益 ÷ 売上高 × 100。売上100円のうち、利益がいくら残ったかをみます。 PLは利益を5段階で計算しますから(第4章)、それぞれに対応した利益率があります。
| 指標 | 計算式 | みているもの |
|---|---|---|
| 売上高総利益率(粗利率) | 売上総利益 ÷ 売上高 | 商品・製品そのものの利幅 |
| 売上高営業利益率 | 営業利益 ÷ 売上高 | 本業の儲ける力 |
| 売上高経常利益率 | 経常利益 ÷ 売上高 | 財務活動も含めた通常の実力 |
| 売上高当期純利益率 | 当期純利益 ÷ 売上高 | 最終的に残る利益の割合 |
⚠️ 混同注意:「売上高売上原価率」は"低いほど良い" H23第9問で問われました。売上高売上原価率=売上原価÷売上高は、 売上のうち原価が占める割合なので、低いほど良好(利幅が大きい)です。 利益率は「高いほど良好」ですが、原価率・費用率は「低いほど良好」。方向が逆なので要注意です。
📝 過去問はこう出る(H23 第9問) A社とB社のBS・PLを与え、「どちらの指標が良好か」を組み合わせで選ぶ問題。 - 売上高売上原価率:A=800/1,200=66.7%、B=700/1,000=70.0% →低いA社が良好 - 売上高営業利益率:A=120/1,200=10.0%、B=110/1,000=11.0% →高いB社が良好 - 総資本回転率:A=1,200/800=1.50回、B=1,000/600=1.67回 →高いB社が良好 「原価率は低いほど良い/利益率・回転率は高いほど良い」という方向の判断が急所です。 → H23 第9問
📝 過去問はこう出る(R01 第11問 設問2) 総資本営業利益率の変化とその要因を問う問題。20X1年=16,000/160,000=10.0%、 20X2年=21,000/200,000=10.5%で上昇。ただし売上高営業利益率は12.5%→10.0%と低下、 総資本回転率は0.80回→1.05回と上昇。したがって上昇の要因は「総資本回転率の上昇」。 「利益率が上がったから」という選択肢は、実際は利益率が下がっているのでバツ。 収益性を"利益率×回転率"に分けて要因を突き止める、デュポン分解(5-4)の考え方が下敷きです。 → R01 第11問
5-2 安全性分析 ― つぶれない力をはかる
安全性とは
安全性とは、借金を返せるか・資金繰りが詰まらないかという、企業の存続にかかわる切り口です。 主にBS(貸借対照表)の左右のバランスを見ます。「短期の安全性」と「長期の安全性」に分けて整理しましょう。
【短期の安全性】1年以内に返すお金を、すぐ現金化できる資産でまかなえるか
→ 流動比率・当座比率
【長期の安全性】長く使う固定資産を、返さなくてよい(or 長期の)お金でまかなえているか
→ 固定比率・固定長期適合率・自己資本比率
【利払いの安全性】借金の利息を、稼ぎでどれだけカバーできるか
→ インタレスト・カバレッジ・レシオ
(1)短期の安全性 ― 流動比率・当座比率
| 指標 | 計算式 | 目安 | みているもの |
|---|---|---|---|
| 流動比率 | 流動資産 ÷ 流動負債 × 100 | 200%以上が理想、最低100% | 1年以内の支払い能力 |
| 当座比率 | 当座資産 ÷ 流動負債 × 100 | 100%以上が理想 | より厳しくみた支払い能力 |
- どちらも「高いほど良好」。1年以内に返す負債(流動負債)を、1年以内に現金化できる資産(流動資産)で どれだけカバーできるかをみます。
- 当座資産=流動資産のうち、すぐ現金化できるもの(現金預金・受取手形・売掛金・有価証券)。 たな卸資産(在庫)を除くのがポイント。在庫は売れないと現金にならないため、より厳しく見るのが当座比率です。
- 計算上は「当座資産=流動資産-たな卸資産」で求めると速いです(H23第9問の解説もこの方法)。
(2)長期の安全性 ― 固定比率・固定長期適合率
長く使う固定資産(工場・設備など)は、すぐには現金化できません。 これを短期で返す借金で買っていると、返済期限が来たとき資金繰りが苦しくなります。 そこで「固定資産を、返さなくてよいお金や長期のお金でまかなえているか」をみます。
| 指標 | 計算式 | 判断 | みているもの |
|---|---|---|---|
| 固定比率 | 固定資産 ÷ 自己資本 × 100 | 低いほど良好(100%以下が理想) | 固定資産を自己資本だけでまかなえているか |
| 固定長期適合率 | 固定資産 ÷(自己資本+固定負債)× 100 | 低いほど良好(100%以下が望ましい) | 固定資産を長期資金でまかなえているか |
- 固定比率は「固定資産 ÷ 自己資本」。返さなくてよいお金(自己資本)だけで固定資産を買えていれば100%以下で理想。
- 固定長期適合率は分母に固定負債も加える(=自己資本+固定負債=長期資金)。 長期の借入も「長く使えるお金」なので、固定資産をこれでまかなえていれば当面の資金繰りは安全、という考え方です。 固定比率よりゆるい(実務的な)基準です。
⚠️ 混同注意:固定比率と固定長期適合率の"分母" - 固定比率 = 固定資産 ÷ 自己資本 - 固定長期適合率 = 固定資産 ÷(自己資本+固定負債) R03第10問は、まさにこの2つの取り違えを誤答選択肢に仕込んでいます。 分母に固定負債を足すかどうかだけの違い。ここを機械的に覚えましょう。
(3)自己資本比率 ― 財務の安定性
| 指標 | 計算式 | 判断 |
|---|---|---|
| 自己資本比率 | 自己資本 ÷ 総資本 × 100 | 高いほど良好 |
| 負債比率 | 負債 ÷ 自己資本 × 100 | 低いほど安全(=レバレッジは大きい) |
- 自己資本比率は、会社の全財産(総資本)のうち、返さなくてよい自分のお金がどれだけあるかを示します。 高いほど借金依存が小さく、倒産しにくい構造です。
- 負債比率は自己資本比率の裏返しで、借金への依存度。低いほど安全ですが、 裏を返せば負債比率が高い=財務レバレッジが大きいということでもあり、 収益性(ROE)とはトレードオフの関係になります(→ 5-4、H30第21問)。
(4)利払いの安全性 ― インタレスト・カバレッジ・レシオ
| 指標 | 計算式 | 判断 |
|---|---|---|
| インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR) | (営業利益+金融収益)÷ 金融費用(支払利息など) | 高いほど良好(単位は「倍」) |
- 本業+金融収益で稼いだ利益(事業利益)で、利息を何倍カバーできるかをみます。
- 分子の「金融収益」は受取利息・受取配当金など。分母は支払利息・割引料などの金融費用。
📝 過去問はこう出る(R03 第10問) 設問1(固定長期適合率):固定資産110,000 ÷(固定負債34,000+株主資本66,000)=110,000/100,000=110%。 分母を自己資本だけにすると固定比率(110,000/66,000≒167%)になってしまう引っかけあり。 設問2(ICR):(営業利益10,000+受取利息4,000)÷ 支払利息1,000=14,000/1,000=14倍。 受取利息を分子に加えるのを忘れると11倍などになり、これが誤答選択肢です。 → R03 第10問
📝 過去問はこう出る(R01 第11問 設問1) 20X2年の固定比率=固定資産108,000 ÷ 自己資本90,000(資本金50,000+利益剰余金40,000)=120%。 自己資本を「資本金+利益剰余金」で正しく拾えるかがカギ。総資本を分母にすると216%の誤答になります。 → R01 第11問
📝 過去問はこう出る(R06 第11問) 「長期借入をして、その全額で無形固定資産を買った」ときの指標への影響を問う応用問題。 - 流動比率は低下:借入金のうち1年内返済予定分は流動負債に振り替わるため、流動負債だけが増える(正解)。 - 固定比率は悪化(上昇):固定資産が増え自己資本は不変。 - 自己資本比率は低下:負債が増えて総資本が膨らむ。 指標の計算だけでなく、取引がBSをどう動かすか(第2〜4章の理解)とセットで問われる良問です。 → R06 第11問
📝 過去問はこう出る(H23 第9問 設問2) 流動比率・当座比率・固定比率でA社B社を比較。いずれもB社が良好(B社の解答は●●●)。 固定比率は「固定資産 ÷ 自己資本」で、A=300/400=75.0%、B=200/300=66.7%と低いB社が良好。 当座比率の計算では「当座資産=流動資産-たな卸資産」の手順が使えます。 → H23 第9問
5-3 効率性分析 ― 資産を活かす力をはかる
効率性(回転率)とは
効率性とは、投じた資産(元手)を使ってどれだけ多く売上を生み出したか、 言いかえると「資産がどれだけよく働いたか」をみる切り口です。中心となるのが回転率です。
回転率 = 売上高 ÷ 資産(単位は「回」) 「1年間で、その資産の何倍の売上をあげたか」=「資産が何回転したか」。高いほど効率が良い。
(1)主な回転率
| 指標 | 計算式 | みているもの |
|---|---|---|
| 総資本回転率 | 売上高 ÷ 総資本 | 会社の資産全体の使い方の効率 |
| 売上債権回転率 | 売上高 ÷ 売上債権(受取手形+売掛金) | 売掛金・手形を回収する速さ |
| たな卸資産回転率 | 売上高(or 売上原価)÷ たな卸資産 | 在庫がさばける速さ |
| 有形固定資産回転率 | 売上高 ÷ 有形固定資産 | 設備の使い方の効率 |
- 総資本回転率は収益性(ROA)を分解する重要な要素です(→ 5-4)。R01第11問では この回転率の上昇が総資本営業利益率上昇の主因でした。
- たな卸資産回転率は分子に売上高を使う場合と売上原価を使う場合があります。問題の指示に従います。
(2)回転期間 ― 回転率の裏返し
回転率が「1年で何回転したか」なら、回転期間は「1回転に何日(何か月)かかるか」です。逆数の関係です。
回転期間(日) = 資産 ÷(売上高 ÷ 365)= 365 ÷ 回転率
- 回転率は高いほど良い、回転期間は短いほど良い(速く回収・販売できる)。方向が逆なので注意。
- 例:売上債権回転期間が短い=売掛金をすぐ回収できている=資金効率が良い。
(3)キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)
CCCは、「材料を仕入れて代金を払ってから、製品を売って現金を回収するまでの日数」を表す、 運転資金管理の重要指標です。R05第13問でそのまま問われました。
CCC = たな卸資産回転期間 + 売上債権回転期間 - 仕入債務回転期間 (在庫にお金が寝ている期間)+(売って回収するまでの期間)-(支払いを待ってもらえる期間)
仕入 ─────► 在庫として保管 ─────► 販売 ─────► 代金回収
│ (棚卸資産回転期間) (売上債権回転期間)
│◄──仕入債務回転期間──►│
│ (支払いを待てる期間) │
│◄──────── CCC ─────────►│
(=この間、現金が拘束される)
- CCCは短いほど良好。仕入から現金回収までの資金拘束期間が短い=資金効率が良いということ。
- CCCはマイナスにもなりうる:仕入代金を払うより先に売上代金を回収できる場合 (=仕入債務回転期間が長い)、CCCはマイナスになります。これは現金が先に入る優れた状態です。
💡 CCCが短くなる/長くなる条件(引っかけ頻出) - たな卸資産回転期間が短くなる → 足す項が減る → CCCは短くなる(良化) - 売上債権回転期間が短くなる(回収が速い)→ CCCは短くなる(良化) - 仕入債務回転期間が短くなる(早く払う)→ 引く項が減る → CCCは長くなる(悪化) ここで「回転率」と「回転期間」の方向を混ぜると間違えます。 「売上債権回転率が低くなる」=「回収が遅い」=回転期間は長くなる=CCCは長くなる、です。
📝 過去問はこう出る(R05 第13問) CCCの性質を問う問題。正解は「棚卸資産回転期間が短くなると、CCCは短くなる」(エ)。 - ア:売上債権回転率が低い=回収が遅い=回転期間が長い→CCCは長くなる(誤り) - イ:「CCCはマイナスにならない」→ 仕入債務回転期間が長ければマイナスになりうる(誤り) - ウ:仕入債務回転期間が短くなる→引く項が減る→CCCは長くなる(誤り) CCCの式(+在庫+債権-債務)を正確に覚え、各項が伸びると式全体がどう動くかを考えれば解けます。 → R05 第13問
5-4 生産性分析と、収益性のデュポン分解 ★最重要
(1)生産性分析 ― 人・設備が生む付加価値
生産性とは、投入した経営資源(人・設備)が、どれだけの付加価値を生み出したかをみる切り口です。
付加価値とは、企業が新たに生み出した価値のこと。ざっくり「売上高から、外部から買ってきた 材料費などを差し引いて、自社が付け加えた分」と考えてください。
生産性の中心は労働生産性です。これは次のように分解できます(R05第12問で問われました)。
労働生産性 = 付加価値 ÷ 従業員数 = 労働装備率(有形固定資産 ÷ 従業員数)× 設備生産性(付加価値 ÷ 有形固定資産)
| 指標 | 計算式 | 意味 |
|---|---|---|
| 労働生産性 | 付加価値 ÷ 従業員数 | 従業員1人がどれだけ付加価値を生んだか |
| 労働装備率 | 有形固定資産 ÷ 従業員数 | 従業員1人あたりの設備額(設備の充実度) |
| 設備生産性 | 付加価値 ÷ 有形固定資産 | 設備がどれだけ付加価値を生んだか |
| 付加価値率 | 付加価値 ÷ 売上高 | 売上のうち自社が付け加えた価値の割合 |
| 労働分配率 | 人件費 ÷ 付加価値 | 付加価値のうち人件費に回った割合 |
- 労働生産性を高めるには、①1人あたりの設備を充実させる(労働装備率↑=機械化・省人化)か、 ②設備を上手に使って価値を生む(設備生産性↑)か、の2ルートがあります。
- この分解は「なぜ労働生産性に差が出たのか」を突き止める道具です。
📝 過去問はこう出る(R05 第12問) 設問1:付加価値率=付加価値12,000 ÷ 売上高48,000=25%。 設問2:労働生産性は当社600万円(12,000÷20人)>F社560万円(22,400÷40人)で当社が上回る。 その要因を分解でみると――労働装備率は当社800万円>F社500万円、設備生産性は当社0.75<F社1.12。 つまり当社は設備生産性ではF社に劣るが、労働装備率(1人あたり設備)が大きく上回るため労働生産性で勝つ。 正解は「労働生産性は当社が上回り、その要因は労働装備率がF社を上回ること」(エ)。 労働生産性=労働装備率×設備生産性の分解が解答の骨格です。 → R05 第12問
(2)デュポン分解 ― ROEを3つに分ける(最頻出)
経営分析の山場です。ROE(自己資本利益率)は、次の3つの掛け算に分解できます。 アメリカのデュポン社が使ったことからデュポン・システム(デュポン分解)と呼ばれます。
ROE = 売上高当期純利益率 × 総資本回転率 × 財務レバレッジ
$$\text{ROE}=\frac{\text{純利益}}{\text{自己資本}}=\underbrace{\frac{\text{純利益}}{\text{売上高}}}{①収益性}\times\underbrace{\frac{\text{売上高}}{\text{総資本}}}$$}\times\underbrace{\frac{\text{総資本}}{\text{自己資本}}}_{③財務レバレッジ
分数の売上高どうし・総資本どうしが約分されて、最後に「純利益 ÷ 自己資本=ROE」に戻るのがミソです。 この式は、ROEを3つの視点でとらえ直したものです。
| 要素 | 中身 | 高めるには |
|---|---|---|
| ① 売上高当期純利益率(収益性) | 純利益 ÷ 売上高 | 利幅を厚くする・コストを下げる |
| ② 総資本回転率(効率性) | 売上高 ÷ 総資本 | 少ない資産で多く売る |
| ③ 財務レバレッジ(安全性の裏返し) | 総資本 ÷ 自己資本 | 借入(負債)を増やす=自己資本比率の逆数 |
- 前半2つ(①×②)は ROA(総資本純利益率) です。つまり ROE = ROA × 財務レバレッジ。
- 財務レバレッジ = 総資本 ÷ 自己資本 = 1 ÷ 自己資本比率。自己資本比率が低い(借金が多い)ほど、 レバレッジは大きくなります。
💡 財務レバレッジの光と影 借入を増やすとROEは増幅されます(テコの原理=レバレッジ)。ただし業績が悪いときは 損失も増幅され、倒産リスクも高まります。ROEを上げる=良いこと、とは限らないのがポイント。 H30第21問設問2で「ROAの変動に対してROEの変動を大きくする要因は?」=負債比率(財務レバレッジ)、 と問われています。
📝 過去問はこう出る(H26 第9問) 売上高純利益率・総資本回転率・自己資本比率の変化から、ROAとROEの増減を判定する問題。 - ROA=純利益率×回転率:X1=5%×2.0=10.0%、X2=4%×2.2=8.8% →下落 - ROE=ROA÷自己資本比率:X1=10.0%÷0.5=20.0%、X2=8.8%÷0.4=22.0% →上昇 ROAは下がったのにROEは上がった――自己資本比率の低下(=レバレッジ上昇)がROA低下を打ち消して 余りある効果を持ったからです。正解は「ROEは上昇・ROAは下落」(ウ)。デュポン分解そのものの出題です。 → H26 第9問
📝 過去問はこう出る(H30 第21問) 設問1:ROA(=営業利益÷総資産)が15%に上がったときのROEを計算。 営業利益=1,500×15%=225 →税引前175(利息50控除)→税引後105(税率40%)→ROE=105÷株主資本500=21%。 設問2:ROAの変動に対しROEの変動を増幅する要因=財務レバレッジ=選択肢では負債比率(ウ)。 安全余裕率(CVP)・流動比率(短期安全性)は無関係で引っかけ。 → H30 第21問
📝 過去問はこう出る(H24 第17問) 無借金(全額自己資本)のX社が、負債:自己資本=4:6に資本構成を変えたときのROE。 営業利益=10億×12%=1.2億、支払利息=負債4億×6%=0.24億 →株主帰属利益0.96億 ÷自己資本6億=16%。 無借金時のROE(=12%)から、負債利用(レバレッジ)でROEが16%へ上昇する様子がそのまま計算で確認できます。 (設問2はMM理論の節税効果=負債4億×税率40%=1.6億の企業価値増加。→ 第10章で詳述) → H24 第17問
(3)ROEと株価指標の分解(発展)
ROEは、株価を使った形にも分解できます(R01第19問)。
ROE =(1株当たり利益 ÷ 株価)×(株価 ÷ 1株当たり自己資本簿価)= 益利回り × PBR
- 第1項「1株当たり利益 ÷ 株価」=益利回り(=PER〔株価収益率〕の逆数)。
- 第2項「株価 ÷ 1株当たり自己資本簿価」=PBR(株価純資産倍率)。
- PBR>1 なら株価は1株当たり純資産(簿価)より高い、という関係も押さえておきましょう。
📝 過去問はこう出る(R01 第19問) 上記の分解式について、各項の名前を問う問題。第1項は益利回り(PERの逆数、WACCではない)、 第2項はPBR(PERではない)。正解(イ)は「PBRが小さくなっても、益利回りが上がればROEは下がるとは限らない」。 株価指標(PER・PBR)は第10章とも直結します。ここでは「ROE=益利回り×PBR」の形を覚えておけば十分です。 → R01 第19問
📝 過去問はこう出る(R05 第14問) ROEと配当性向から1株当たり配当を求める計算。 当期純利益=期首自己資本3,000万×ROE5%=150万 →配当総額=150万×配当性向40%=60万 →1株配当=60万÷20万株=3円。ROE・配当性向・発行済株式数をつなぐ基本の連鎖計算です。 → R05 第14問
この章のまとめ(試験直前チェック)
- ☐ 財務指標は比較(時系列・他社・標準)してはじめて意味を持つ
- ☐ 収益性=利益÷資本 or 利益÷売上高。利益率・回転率は高いほど良い/原価率・費用率は低いほど良い
- ☐ ROA=利益÷総資本、ROE=当期純利益÷自己資本(分子の利益は問題の定義に従う)
- ☐ 安全性(短期):流動比率・当座比率は高いほど良好。当座資産=流動資産-たな卸資産
- ☐ 安全性(長期):固定比率=固定資産÷自己資本/固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+固定負債)(分母の違いに注意、低いほど良好)
- ☐ 自己資本比率は高いほど良好。ICR=(営業利益+金融収益)÷金融費用(受取利息を分子に足す)
- ☐ 効率性:回転率=売上高÷資産(高いほど良い)/回転期間=365÷回転率(短いほど良い)
- ☐ CCC=棚卸資産回転期間+売上債権回転期間-仕入債務回転期間(短いほど良い、マイナスもありうる)
- ☐ 労働生産性=付加価値÷従業員数=労働装備率×設備生産性
- ☐ デュポン分解:ROE=売上高当期純利益率×総資本回転率×財務レバレッジ(=ROA×財務レバレッジ)
- ☐ 財務レバレッジ=総資本÷自己資本=1÷自己資本比率。ROEを増幅するが損失・倒産リスクも増幅
- ☐ (発展)ROE=益利回り×PBR。PBR>1なら株価>1株当たり純資産
この章に対応する主な過去問
| 年度・問 | 論点 | リンク |
|---|---|---|
| H21 第7問 | 経営分析(比較財務諸表) | 問題 |
| H23 第9問 | 収益性・安全性の指標比較 | 問題 |
| H24 第17問 | 負債活用と財務レバレッジ(ROE) | 問題 |
| H26 第9問 | ROE・ROAのデュポン分解 | 問題 |
| H27 第11問 | BS・PLからの経営分析 | 問題 |
| H30 第21問 | ROAとROEの分解(財務レバレッジ) | 問題 |
| R01 第11問 | 固定比率・総資本営業利益率の要因 | 問題 |
| R01 第19問 | ROEの分解(益利回り×PBR) | 問題 |
| R03 第10問 | 固定長期適合率・インタレストカバレッジ | 問題 |
| R05 第12問 | 労働生産性(労働装備率・設備生産性) | 問題 |
| R05 第13問 | キャッシュ・コンバージョン・サイクル | 問題 |
| R05 第14問 | ROE・配当性向と1株当たり配当 | 問題 |
| R06 第11問 | 取引が財務指標に与える影響 | 問題 |
次章予告 ▶ 第6章「CVP分析と損益分岐点」 本章の指標が「過去の実績を診断する」道具だったのに対し、次章は「利益計画を立てる」道具です。 費用を固定費と変動費に分け、損益分岐点(もうけがゼロになる売上高)を求める方法、 そして本章にも顔を出した営業レバレッジ(R07第13問)を扱います。