第6章 キャッシュフロー計算書

この章のねらい 損益計算書(P/L)は「もうけ(利益)」を、貸借対照表(B/S)は「財産の残高」を教えてくれます。 でも、利益が出ているのにお金が足りない(黒字倒産)ということは、現実によく起こります。 その"お金の動き"だけを1年分まとめたのが、この章で学ぶ キャッシュフロー計算書(C/F、CF計算書) です。 B/S・P/Lと並ぶ「財務三表」の3つめで、「利益とキャッシュはなぜズレるのか」を説明できるようになることが目標です。

過去問での出方:財務・会計ではほぼ毎年出る超頻出テーマです。出方は大きく3タイプ。 ①3区分のどこに何が入るかを問う正誤問題(R05・H30など)、②間接法の調整(加算・減算の向き)を問う問題(H21・H29・R03など)、 ③営業CF・フリーCF(FCF)を計算させる問題(R06・H26・H22など)。 パターンが決まっているので、符号(プラス・マイナス)のルールを体で覚えれば得点源になります。


6-0 この章の地図

この章は、「CF計算書の全体像(3区分)」→「営業CFの中身(直接法・間接法)」→「そこから発展するFCFと運転資本」という順に進みます。 まずは全体像をつかみましょう。

6-1 CF計算書の構造        … 営業・投資・財務の3区分/増減の意味(土台)
   │
6-2 営業CFの表示         … 直接法・間接法(★最頻出)
   │   ├ 間接法の調整①:減価償却費などの「非資金費用」を加算
   │   └ 間接法の調整②:運転資本(売上債権・棚卸資産・仕入債務)の増減
   │
6-3 フリーCF(FCF)と運転資本管理 … 企業価値評価にもつながる発展

💡 まず結論:この章のほぼすべては、たった1つのルールに集約できます。 「資産が増える→お金が減る/負債が増える→お金が増える」(+非資金費用は足し戻す)。 このルールを軸に、各節で理由を確かめていきましょう。


6-1 キャッシュフロー計算書の構造 ― 3つの区分

なぜCF計算書が必要か ― 「利益 ≠ 現金」

まず、いちばん大事な感覚から。利益とキャッシュ(現金)は一致しません。理由は、 損益計算書が 発生主義(お金の入出金と関係なく、取引が起きた時点で収益・費用を計上する)で作られているからです。

  • 商品を掛け(後払い)で売れば、売上(利益)は立つのに現金はまだ入っていない(=売掛金)。
  • 減価償却費は費用として利益を減らすのに、現金は1円も出ていかない

こうした「利益とキャッシュのズレ」を明らかにし、「1年間で現金がいくら増減し、なぜそうなったのか」を示すのがCF計算書です。 ここでいう"キャッシュ"は正確には 現金及び現金同等物を指します。

⚠️ 「現金同等物」の範囲:現金同等物とは、「容易に換金でき、価値変動リスクがごくわずかな短期投資」のこと。 具体的には、取得日から満期日(償還日)までが3か月以内の定期預金・譲渡性預金などが含まれます。 R05 第9問では「資金の範囲に定期預金は含まれない」という選択肢が誤りとされました。 定期預金でも3か月以内の短期のものは現金同等物に含まれる、というのがポイントです。

CF計算書は「3つの区分」でできている

CF計算書は、お金の増減を活動の性質ごとに3つの区分に分けて表示します。ここが最頻出です。

区分 何のお金か 代表的な項目
① 営業活動によるキャッシュフロー(営業CF) 本業で稼いだお金 商品の販売・仕入、給料・経費の支払、法人税等の支払など
② 投資活動によるキャッシュフロー(投資CF) 将来に向けた投資のお金 固定資産の取得・売却有価証券の取得・売却、貸付け・回収
③ 財務活動によるキャッシュフロー(財務CF) 資金調達・返済のお金 借入れ・返済、株式発行、社債発行、配当金の支払
  • 営業CF:会社が本業でしっかり現金を稼げているかを示す、最重要の区分。ここがプラスで安定しているのが健全な会社です。
  • 投資CF:成長のための投資をしていれば、固定資産の取得でマイナスになるのが普通です(投資している証拠)。
  • 財務CF:借入で調達すればプラス、返済・配当をすればマイナスになります。
   期首の現金残高
        + 営業活動によるCF(本業でいくら稼いだか)
        + 投資活動によるCF(何にいくら投資したか)
        + 財務活動によるCF(いくら調達・返済したか)
   ────────────────────────
   = 期末の現金及び現金同等物の残高

つまずきポイント:「この項目は、どの区分?」

試験は、区分の取り違えをいちばんよく狙ってきます。特に間違えやすいのが次の3つです。

  • 有形固定資産の売却による収入投資活動(財務活動ではない。R05 第9問・H29 第13問の引っかけ)
  • 有価証券の取得・売却、貸付け投資活動(財務活動ではない。H30 第12問の引っかけ)
  • 法人税等の支払額原則として営業活動(財務活動ではない。H30 第12問の引っかけ)

📝 過去問はこう出る(H30 第12問) CF計算書の記述の正誤を問う問題。正解は 「利息および配当金の受取額は、営業活動の区分に表示する方法と投資活動の区分に表示する方法が認められている」。 ・「有価証券の取得・売却や貸付けは財務活動」→ 誤り(正しくは投資活動)。 ・「法人税等の支払額は財務活動」→ 誤り(正しくは営業活動)。 ・「仕入債務の増加額は間接法でマイナスを付けて表示」→ 誤り(正しくは加算=プラス)。 → H30 第12問

利息・配当金は「2つの表示方法」がある(頻出)

利息や配当金の受取・支払をどの区分に入れるかは、2つの方法が認められています(どちらか一方を継続適用)。 どちらも正しい、という点が試験でよく問われます。

方法 受取利息・受取配当金 支払利息 支払配当金
方法1(損益に関係するものは営業) 営業CF 営業CF 財務CF
方法2(投資・財務の成果に対応) 投資CF 財務CF 財務CF
  • 共通支払配当金は、どちらの方法でも財務活動(株主への分配だから)。ここは固定です。
  • 支払利息:方法1なら営業、方法2なら財務。「営業と財務の2つが認められる」という言い回しが正解になります(R05 第9問)。

📝 過去問はこう出る(R05 第9問) CF計算書の記述の正誤問題。正解は 「支払利息は、営業活動の区分で表示する方法と財務活動の区分で表示する方法の2つが認められている」。 ・「間接法で棚卸資産の増加額は営業CFの増加要因」→ 誤り(棚卸資産の増加は資金の滞留=減少要因)。 ・「資金の範囲に定期預金は含まれない」→ 誤り(3か月以内の短期なら現金同等物に含まれる)。 ・「有形固定資産の売却収入は財務活動」→ 誤り(正しくは投資活動)。 → R05 第9問


6-2 営業活動によるキャッシュフローの表示 ― 直接法と間接法

営業CFの作り方は2つある

営業CFの表示方法には 直接法間接法 の2つがあります。どちらで計算しても、営業CFの金額は同じになります。違うのは"見せ方"だけです。

直接法 間接法
出発点 収入・支出の総額を直接集計 税引前当期純利益からスタート
中身 「営業収入」「仕入支出」「人件費支出」…と現金の動きを直接示す 利益に「非資金項目」「営業資産・負債の増減」を加減して調整
メリット 収入・支出の総額がわかりやすい 作りやすい(P/L・B/Sから作れる)/利益とキャッシュのズレの理由が見える
実務 手間がかかり採用は少ない 多くの企業が採用。試験もこちらが中心

試験でほぼ問われるのは 間接法 です。以下、間接法の「調整」を徹底的に理解しましょう。

間接法の全体像 ― 利益から出発して"現金ベース"に直す

間接法は、税引前当期純利益からスタートし、「利益には入っているが現金は動いていない項目」や「現金は動いたが利益には入っていない項目」を足し引きして、営業CFに変換します。調整は大きく次の3グループです。

   税引前当期純利益
    + ① 非資金費用の加算       … 減価償却費・引当金の増加など(費用だがお金は出ていない)
    ± ② 営業外・特別損益の調整   … 受取利息を減算、支払利息を加算、固定資産売却損益の調整
    ± ③ 営業資産・負債の増減調整 … 売上債権・棚卸資産・仕入債務など(運転資本の増減)
   ───────────────────────────
    = 小計
    - 利息の支払額・法人税等の支払額 など(実際の現金支出)
   ───────────────────────────
    = 営業活動によるキャッシュフロー

ポイントは、調整の符号(プラスかマイナスか)を正しく決めることです。次の2つの調整が試験の核心です。

調整① 非資金費用の加算 ― 減価償却費・引当金

減価償却費は、費用として利益を減らしているのに、現金は1円も出ていきません。 そのため、間接法では利益に足し戻し(加算)します。同じく、貸倒引当金・退職給付引当金などの引当金の増加も、 費用計上したが現金支出を伴わないため加算します。これらをまとめて 非資金費用(非現金支出費用)と呼びます。

💡 覚え方「利益を減らしたが、お金は出ていない費用」は、利益に足して戻す。 代表選手は減価償却費。CF計算書の間接法で"いちばん最初に足すもの"と覚えましょう。

📝 過去問はこう出る(H21 第4問) 間接法で加算される項目を問う問題。正解は 「損益計算書に費用として計上されている項目のうち、資金の減少を伴わない項目」(=減価償却費・引当金繰入など)。 費用なのに現金が出ていかないものを、利益に加算して戻す――間接法の基本そのものです。 → H21 第4問

調整③ 運転資本(営業資産・負債)の増減 ― この章の心臓部

ここが最重要です。売上債権・棚卸資産・仕入債務といった営業の資産・負債が増減すると、 利益と現金がズレます。ルールはたった1つ。

【運転資本の調整ルール】 資産(売上債権・棚卸資産)が増える → お金が減る(減算)/減る → お金が増える(加算) 負債(仕入債務)が増える → お金が増える(加算)/減る → お金が減る(減算)

理由を1つずつ確かめましょう。

  • 売上債権(売掛金・受取手形)の増加:売上は立ったがまだ回収していない=現金は入っていない → 減算。 逆に減少すれば、回収が進んで現金が入った → 加算
  • 棚卸資産(在庫)の増加:仕入にお金を使って在庫に姿を変えて滞留している → 減算。減少すれば → 加算
  • 仕入債務(買掛金・支払手形)の増加:仕入れたがまだ払っていない=支払いを先延ばしできた(手元に現金が残る)→ 加算。 減少すれば、支払いが進んで現金が出た → 減算

これを表にすると次のとおり。この表を暗記すれば、この論点の問題はほぼ落とせません。

項目 増加したとき 減少したとき
売上債権(資産) 減算(−) 加算(+)
棚卸資産(資産) 減算(−) 加算(+)
仕入債務(負債) 加算(+) 減算(−)

📝 過去問はこう出る(R03 第9問) 「キャッシュフローが増加する原因」を選ぶ問題。正解は 「売掛金の減少」。 資産(売掛金)の減少=回収が進んで現金が入る、なので増加要因。 「仕入債務の減少」「棚卸資産の増加」「長期借入金の減少」はすべて減少要因でバツ。 → R03 第9問

📝 過去問はこう出る(H29 第13問) 間接法の営業CFで「増加要因として表示されるもの」を選ぶ問題。正解は 「貸倒引当金の増加」。 引当金の増加は非資金費用の増加(=加算)なので増加要因。 「売上債権の増加」は減少要因、「短期借入金の増加」は財務活動、「有形固定資産の売却」は投資活動でそれぞれバツ。 → H29 第13問

計算の実演 ― 営業CFを間接法で求める(R06 第7問)

言葉だけでなく、実際に計算してみましょう。R06 第7問を素材に、営業利益から営業CFを求める手順です。

【資料】(単位:千円) - 営業利益 200,000/減価償却費 30,000/法人税等 60,000 - 売掛金 50,000(前期末)→ 46,000(当期末) - 棚卸資産 30,000 → 33,000/買掛金 35,000 → 36,200/未払法人税等 30,000 → 30,000

【解き方の手順】

  1. 出発点(営業利益)に非資金費用を加算  営業利益 200,000 + 減価償却費 30,000 = 230,000
  2. 運転資本の増減を調整(前ページの符号ルールを使う) - 売掛金の減少(50,000→46,000):資産の減少 → +4,000 - 棚卸資産の増加(30,000→33,000):資産の増加 → −3,000 - 買掛金の増加(35,000→36,200):負債の増加 → +1,200 - 小計 = 230,000 + 4,000 − 3,000 + 1,200 = 232,200
  3. 法人税等の支払額を控除 - P/L計上額 60,000、未払法人税等の増減なし(30,000→30,000)なので支払額=60,000
  4. 営業CF = 232,200 − 60,000 = 172,200千円(正解:エ)

⚠️ ここが引っかけ:この問題の誤答は、運転資本増減の符号を逆にした(イ 131,800/ウ 137,800)ものでした。 「資産の増加はマイナス、負債の増加はプラス」――符号を1つでも逆にすると、選択肢に用意された不正解にはまります。 → R06 第7問

⚠️ 混同注意:「小計」の上と下 間接法の「小計」よりは本業の営業活動そのもの。には「利息・配当金の受取/支払」「法人税等の支払額」など、 実際の現金支出額が入ります。法人税等は"支払った額"で控除する(未払法人税等が増えていれば、その分は未払い=支払っていないので調整する)点に注意しましょう。

(参考)勘定連絡から支払額を逆算する応用問題

CF計算書の「利息の支払額」と「P/L上の支払利息」は一致するとは限りません。前払利息などの経過勘定があると、 費用計上額と現金支出額がズレるからです。H24 第4問は、この関係を勘定で逆算させる応用問題でした。

📝 過去問はこう出る(H24 第4問) CF計算書上の支払利息(費用)1,100千円・利息の支払額(現金支出)1,000千円などから、 支払利息勘定の空欄(期末の前払利息)を貸借一致で逆算する問題。正解は 300千円。 「費用計上額 ≠ 現金支出額」で、その差が前払利息(経過勘定)の増減になる――という関係を理解しているかが問われました。 → H24 第4問


6-3 フリーキャッシュフロー(FCF)と運転資本管理

フリーキャッシュフロー(FCF)とは

フリーキャッシュフロー(FCF)とは、ひとことで言えば

「本業で稼いだお金から、事業維持・成長に必要な投資を差し引いて会社が自由に使えるお金(=株主・債権者に還元できるお金)」

です。企業価値評価(第13章以降のDCF法など)の土台にもなる、非常に重要な指標です。 試験でよく使われる計算式は次のとおり。

【FCFの計算式】 FCF = 税引後営業利益(NOPAT)+ 減価償却費 − 運転資本の増加額 − 設備投資額

NOPAT = 営業利益 ×(1 − 税率) …支払利息を引く前の営業利益をベースにする ・減価償却費は非資金費用なので足し戻す ・運転資本の増加・設備投資は現金の流出なので差し引く

⚠️ ここが最大の急所:FCFに「支払利息」は入れない FCFは支払利息を控除する前の営業利益(NOPAT)を出発点にします。 支払利息は「債権者への分配」であって、事業が生み出したキャッシュそのものではないからです。 だから当期純利益(=支払利息を引いた後の利益)ではなく、営業利益ベースで考えるのが原則です。

計算の実演①(H22 第12問)― NOPATベースの基本形

【資料】(単位:千円)営業利益 10,000/支払利息 4,000/減価償却費 1,000/実効税率 40%/運転資本の増減なし。 減価償却費 1,000 は全額が更新投資(=設備投資額も 1,000)。

【解き方の手順】

  1. NOPAT = 営業利益 10,000 ×(1 − 0.4)= 6,000
  2. + 減価償却費 = +1,000
  3. − 設備投資(更新投資=減価償却費全額)= −1,000
  4. − 運転資本増減 = 0
  5. FCF = 6,000 + 1,000 − 1,000 = 6,000千円(正解:イ)

この問題では、減価償却費(+)と更新投資(−)が相殺され、結果的にFCFはNOPATと一致します。 「支払利息 4,000 に惑わされて税引後で戻す」などは引っかけ(エ 7,400)でした。

📝 過去問はこう出る(H22 第12問) FCFの基本計算。FCF = 営業利益×(1−税率) + 減価償却費 − 設備投資 − 運転資本増加。 支払利息はFCF計算に含めないのが急所。減価償却を加算したのに更新投資の控除を忘れると誤答(ウ 7,000)。 → H22 第12問

計算の実演②(H26 第13問)― 運転資本の増減が入る形

今度は運転資本の増減も加わる、より本格的な計算です。

【資料】(単位:百万円)営業利益 200/減価償却費 20/売上債権の増加 10/棚卸資産の増加 15/仕入債務の減少 5/設備投資額 40/法人税率 40%。

【解き方の手順】

  1. NOPAT = 営業利益 200 ×(1 − 0.4)= 120
  2. + 減価償却費 = +20
  3. 運転資本の増加額を計算(すべて資金の流出方向) - 売上債権の増加 10(資産増=−)/棚卸資産の増加 15(資産増=−)/仕入債務の減少 5(負債減=−) - 運転資本の増加 = 10 + 15 + 5 = 30−30
  4. − 設備投資額 = −40
  5. FCF = 120 + 20 − 30 − 40 = 70百万円(正解:ア)

⚠️ 運転資本の増加額のまとめ方「資産の増加」も「負債の減少」も、どちらも運転資本の"増加"(=資金の流出)です。 3つとも符号は同じ「−」方向に効く、と押さえると計算がぶれません。仕入債務の減少を足し忘れると誤答(イ 80)になります。 → H26 第13問

当期純利益からFCFを求めるときの符号(R07 第21問)

出発点が営業利益ではなく当期純利益の場合でも、調整の向き(符号)は間接法とまったく同じです。R07で問われました。

  • 売上債権の増加 → 減算(資産の増加=資金の滞留)
  • 減価償却費 → 加算(非資金費用)
  • 仕入債務の増加 → 加算(負債の増加=資金の留保)
  • 設備投資額 → 減算(現金の流出)

📝 過去問はこう出る(R07 第21問) 当期純利益からFCFを計算する際の調整(税金なし)を問う問題。正解は 「仕入債務の増加額は、当期純利益に加算される」。 「売上債権の増加は加算」「減価償却費は減算」「設備投資額は加算」はすべて符号が逆でバツ。 6-2の運転資本ルールがそのまま使えます。 → R07 第21問

運転資本(正味運転資本)の管理

FCFの計算で「運転資本の増加」を差し引いたように、運転資本の増減はキャッシュを大きく左右します。 ここでいう 正味運転資本(ネット・ワーキング・キャピタル) は次の式で表されます。

正味運転資本 = 流動資産 − 流動負債

  • 正味運転資本が増える=流動資産が流動負債より多く積み上がる=その分だけ現金が事業に"寝てしまう"(FCFを圧迫)。
  • 資金繰りの観点では、売上債権の回収を早め、在庫を減らし、仕入債務の支払を適切に延ばすことで運転資本を小さく保つのが、 キャッシュを生む経営(キャッシュ・コンバージョン・サイクルの短縮)につながります。

正味運転資本の増減要因は、B/S全体で考えると整理しやすくなります。

増加させる要因(=現金が寝る方向) 減少させる要因
流動資産の増加/流動負債の減少 流動資産の減少/流動負債の増加
固定負債の増加(長期資金の調達)/自己資本の増加 固定資産の増加(長期資金を固定資産に投下)/自己資本の減少

📝 過去問はこう出る(H23 第13問) 「正味運転資本の増加をもたらす要因の組み合わせ」を選ぶ問題。正解は 「固定負債の増加」と「流動負債の減少」。 ・固定負債の増加=長期資金が入り、流動側に余裕 → 増加。 ・流動負債の減少 → 増加。 一方、「固定資産の増加」「自己資本の減少」「流動資産の減少」は減少要因です。 → H23 第13問

📝 過去問はこう出る(H24 第14問) B/Sデータから正味運転資本の増減額を計算する問題。 正味運転資本の増減 =(流動資産の増減)−(流動負債の増減) で求めます。 この年は流動負債の増加が流動資産の増加を上回り、正解は 30百万円の減少(ア)でした。 → H24 第14問


この章のまとめ(試験直前チェック)

  • 利益 ≠ キャッシュ。CF計算書は「現金がいくら増減し、なぜか」を示す第3の財務諸表
  • ☐ 資金の範囲=現金及び現金同等物(3か月以内の短期投資は含まれる / 定期預金がすべて除外は誤り)
  • 3区分:営業(本業)/投資(固定資産・有価証券・貸付)/財務(借入・返済・増資・配当)
  • 固定資産・有価証券の売買、貸付=投資活動(財務ではない)
  • 法人税等の支払=営業活動(財務ではない)
  • 利息・配当の表示は2方法(継続適用)。支払配当金はどちらでも財務、支払利息は営業か財務
  • ☐ 営業CFは直接法・間接法どちらでも金額は同じ。試験は間接法中心
  • ☐ 間接法の調整①:非資金費用(減価償却費・引当金の増加)は加算
  • ☐ 間接法の調整③:資産の増加=減算/資産の減少=加算/負債の増加=加算/負債の減少=減算
  • ☐ 売上債権の増加・棚卸資産の増加・仕入債務の減少 → いずれも減算(現金の流出)
  • 法人税等は"支払額"で控除(小計の下)。費用計上額と現金支出額はズレることがある(前払利息など)
  • FCF = 営業利益×(1−税率) + 減価償却費 − 運転資本増加 − 設備投資
  • ☐ FCFに支払利息は入れない(債権者への分配だから、NOPATベースで考える)
  • 正味運転資本 = 流動資産 − 流動負債。増加は現金が寝る方向でFCFを圧迫する

この章に対応する主な過去問

年度・問 論点 リンク
R05 第9問 CF計算書の構造・区分・資金の範囲 問題
H30 第12問 3区分の判別・利息配当の表示方法 問題
H21 第4問 間接法で加算される項目(非資金費用) 問題
H29 第13問 間接法の増加要因(引当金の増加) 問題
R03 第9問 キャッシュフローの増加要因 問題
R06 第7問 営業CFの計算(間接法) 問題
H24 第4問 CF計算書と支払利息(勘定逆算) 問題
H22 第12問 フリーキャッシュフロー(基本形) 問題
H26 第13問 フリーキャッシュフロー(運転資本込み) 問題
R07 第21問 FCF計算の符号(当期純利益から) 問題
H23 第13問 正味運転資本の増加要因 問題
H24 第14問 正味運転資本の増減額の計算 問題

次章予告 ▶ 第7章「経営分析(財務比率分析)」 財務三表(B/S・P/L・C/F)が出そろいました。次章では、これらの数字を使って会社の"健康診断"をします。 収益性・効率性・安全性の3つの視点から、売上高利益率・総資本回転率・自己資本比率・流動比率などの 財務比率を計算・解釈する、実務にも試験にも直結する頻出分野を扱います。