企業経営理論 H23年度 第2問

第2問

次のM&A に関する文章を読んで、下記の設問に答えよ。 わが国では以前は欧米に比べてM&A が盛んに取り組まれたとは言い難かった。 むしろわが国企業では、 M&A よりも内部成長方式による多角化を用いることが多 かった。 しかし、近年わが国の企業のM&A は国内のみならず海外でも活発化している。 そればかりか、それとは逆に海外企業によるわが国企業のM&A も多く見られるよ うになった。 M&A の方式は多様であり、どのようなM&A に取り組むかは、その目的や企業 の戦略によって異なってくる。また、企業の業績に貢献するM&A であるために は、 M&A に関する経営上の課題に対処することが重要である。 (設問) 文中の下線部について、多角化とM&A に関する特徴や問題点の記述とし て、最も不適切なものはどれか。

  1. 開発された技術をてこに新規事業が増えるにつれて、社内でシナジー効果を 追求する機会が高まるが、シナジー効果が成長にうまく結び付かない場合、多 角化を維持するための費用がかさんだり、多様な事業をマネジメントするコス トが大きくなるという問題がある。
  2. グリーンメーラー的な投機的な投資家や企業価値の実現による配当を迫る投 資ファンドの動きが活発になると、企業はそれらに狙われないように企業防衛 の姿勢を強めようとするため、M&A も少なくなりがちである。
  3. 成長の牽引力となる技術が枯渇してくると、新規な技術による事業機会も少 なくなりがちであり、技術イノベーションによる多角化戦略は困難になる。
  4. 長期雇用慣行等に支えられて従業員のみならず経営者も会社への一体感が強 くなると、このような企業がM&A の対象になった場合、お家の一大事と受け 止められ、会社ぐるみでM&A に抵抗する動きが生じやすい。
  5. 貿易摩擦等の外圧に押されて企業の海外進出が活発になると、国内での生産 技術開発や新製品開発が回避され、内部成長方式による多角化戦略は機能しな くなる。 ― 2― ◇M3(688―47) (設問) 文中の下線部で指摘されているようなM&A が成功するために注意すべき経 営上の課題についての記述として、最も不適切なものはどれか。
  6. M&A で企業規模が大きくなれば、獲得した規模の経済性や市場支配力の便 益を上回る管理コストが発生する可能性が高まるので、管理コストの削減を図 るとともに、そのことによって経営の柔軟性が失われないように注意する必要 がある。
  7. 企業間のベクトルをあわせて統合するには、それぞれの企業で培われてきた 企業文化の衝突を避け、互いを尊重しつつ、つの企業体に融合することを図 ることが重要になる。
  8. 買収先の企業の主要なスタッフの離職が多くなると、マネジメント能力や専 門的な知識や技能などの人的資源が損なわれて組織能力が弱くなるので、買収 先の企業の従業員の賃金や待遇を手厚くすることを怠らないようにすることが 必要である。
  9. 買収戦略にのめりこむと、買収先企業を適切に評価することがおろそかにな り、高いプレミアム価格を相手に支払ったり、高いコストの借り入れや格付け の低い社債の過度な発行などが起こりやすく、大きな負債が経営危機を招きや すくなることに注意が必要である。
  10. 買収によって新規事業分野をすばやく手に入れることは、イノベーションに よる内部成長方式の代替であるので、M&A の成功が積み重なるにつれて、研 究開発予算の削減や内部開発努力の軽視の傾向が強まり、イノベーション能力 が劣化しやすくなることに注意が必要である。 ― 3― ◇M3(688―48)
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正解:

解答:設問1=オ、設問2(公式正解)=オ

本問は多角化とM&Aに関する設問。設問1は「多角化とM&Aの特徴・問題点として最も不適切なもの」、設問2は「M&A成功のための経営上の課題として最も不適切なもの」。公式正解は

設問1(多角化とM&Aの特徴・問題点/最も不適切なもの)

  • ア(○):新規事業が増えるとシナジー追求の機会は高まるが、シナジーが成長に結び付かなければ多角化維持費用やマネジメントコストが膨らむ。妥当。
  • イ(○):投機的投資家や物言うファンドの動きが活発化すると企業は防衛姿勢を強め、結果としてM&Aが起きにくくなる面があるとの記述は一定の合理性がある。
  • ウ(○):牽引技術が枯渇すると新規事業機会が乏しくなり、技術イノベーション主導の多角化は困難になる。妥当。
  • エ(○):長期雇用慣行のもとで会社への一体感が強い企業がM&A対象になると、「お家の一大事」として会社ぐるみで抵抗が生じやすい。妥当。
  • オ(×):貿易摩擦等の外圧で海外進出が活発になることと、「国内での生産技術開発や新製品開発が回避され内部成長方式の多角化が機能しなくなる」こととは論理的に直結しない。海外進出と国内技術開発は両立しうるため、因果を断定する本記述が最も不適切。

設問2(M&A成功のための経営上の課題/最も不適切なもの)

  • ア(○):規模拡大で得る規模の経済や市場支配力の便益を上回る管理コストが発生しうるため、コスト削減と経営の柔軟性維持の両立に注意すべき。妥当。
  • イ(○):統合(PMI)では企業文化の衝突を避け、互いを尊重しつつ融合することが重要。妥当。
  • ウ(×想定):主要スタッフの離職防止は重要だが、「賃金や待遇を手厚くすることを怠らない」という単純な手当て論は、人的資源マネジメントの本質(動機づけ・統合)を矮小化しており適切性に欠ける。
  • エ(○):買収にのめり込むと過大なプレミアム支払いや高コスト借入・低格付社債の濫発が起こりやすく、過大負債が経営危機を招く点に注意。妥当。
  • オ(○):M&Aによる事業獲得は内部成長の代替であり、成功が重なると研究開発予算削減・内部開発軽視でイノベーション能力が劣化しやすい点に注意。妥当。

公式正解は

#経営戦略・全社戦略#競争戦略#技術経営・イノベーション#M&A・提携#国際経営

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