第5章 資材・在庫管理
この章のねらい 生産管理の「実行段階」で、いちばん現金(キャッシュ)に直結するのが在庫です。 在庫は多すぎれば資金を寝かせ、少なすぎれば品切れ(欠品)で販売のチャンスを逃します。 この章では、「どの品目に力を入れるか(ABC分析)」「いつ・どれだけ発注するか(発注方式)」 「発注量はいくつが得か(経済的発注量EOQ)」「品切れをどう防ぐか(安全在庫・発注点)」を、 現場でも試験でも通用するように順番に押さえます。
過去問での出方:運営管理のなかでも屈指の頻出分野で、生産管理(第10問前後)と 店舗・販売管理(第31〜33問前後)の両方から毎年のように出ます。とくに EOQの公式・計算、定量発注と定期発注の比較、発注点=調達期間中需要+安全在庫の3つは ほぼ「出る」と思ってよいテーマです。計算も暗記も、パターンが決まっているので得点源にできます。
5-0 この章の地図
この章は、「何を重点管理するか」→「いつ・いくつ発注するか」→「発注量の最適解」→「品切れ対策」 という、在庫コントロールの実務の流れそのものに沿って進みます。
5-1 在庫の役割とABC分析 … 在庫のプラス面・マイナス面/重点管理(★頻出)
│
5-2 発注方式 … 定量発注(発注点方式)・定期発注・ダブルビン(★最重要)
│ ┌─ いつ発注する? ─ 量が発注点まで減ったら/一定期間ごと
│ └─ いくつ発注する? ─ 毎回同じ量/毎回計算する
│
5-3 経済的発注量 EOQ … 発注費と保管費の合計が最小になる量(★計算)
│
5-4 安全在庫と発注点 … 発注点=調達期間中の需要+安全在庫(★頻出)
│
まとめ/対応過去問/次章予告 ▶ 第6章
まず「在庫は悪者ではないが、放っておくと資金を食う」という感覚を持ってから読み進めましょう。
5-1 在庫の役割とABC分析(重点管理)
在庫には「良い面」と「悪い面」がある
在庫とは、まだ使われていない・売られていない材料や商品のストックのことです。 在庫は「持つべきか・減らすべきか」で悩ましいものですが、まずは両面を整理します。
| 在庫の良い面(持つ理由) | 在庫の悪い面(持ちすぎの害) |
|---|---|
| 需要の変動や納入の遅れに備え、品切れ(欠品)を防ぐ | 仕入れ代金が現金として寝てしまう(運転資金を圧迫) |
| まとめ買い・まとめ生産で1個あたりのコストを下げる | 保管スペース・保険・管理の手間などの保管費がかかる |
| 生産や販売を途切れさせない(工程間の緩衝材=バッファ) | 売れ残り・劣化・陳腐化(型落ち)のロスが出る |
💡 在庫が減ると資金が楽になる 在庫を適切に減らすと、棚卸資産回転率(在庫が何回入れ替わったか)が上がり、 在庫に縛られていた運転資金が減ってキャッシュフローが改善します。 「在庫=寝ているお金」というイメージを持つと、この分野全体が理解しやすくなります(R06 第13問の考え方)。
ただし「減らせばよい」というのは早合点です。在庫が少なすぎると欠品が起こり、 販売機会を逃す(機会ロス)ため、「適度な在庫」を保つのが在庫管理のねらいです(R02 第32問の診断士の助言)。
ABC分析 ― 全部を同じように管理しない
在庫品目は数百・数千になることもあります。それを全部同じ手間で管理するのは非効率です。 そこで、「大事なものに力を集中する」ための道具が ABC分析 です。
ABC分析とは、ひとことで言えば
品目を在庫金額(使用金額)や売上高の大きい順に並べ、その累積構成比(累積比率)を見て、 上位から A・B・Cの3ランクに分けて管理に差をつける手法
です。もとになっているのは、パレートの法則(「上位2割の品目が全体の8割を占める」という経験則)です。
アスキー図:ABC曲線(パレート図)の形
累積
金額
100%┤ ┌──────── ← C品目(数は多いが金額は小さい)
│ ┌────────┘
│ ┌─────┘ ← B品目(中間)
80%┤ ┌────┘
│ ┌─┘
│ ┌─┘ ← A品目(数は少ないが金額の大半を占める)
│ ┌┘
0 └─┴──────────────────────────→
品目を「金額の大きい順」に並べる(左が上位)
- 横軸は「在庫金額(売上)の大きい順」に品目を並べます。「少ない順」は誤り(H21 第14問の引っかけ)。
- 縦軸は累積の金額(または累積構成比)。最初は急に立ち上がり、右にいくほど寝てくるカーブになります。
ランクごとの管理方針
| ランク | 特徴 | 管理方針 |
|---|---|---|
| A品目 | 数は少ないが金額の大半を占める | 重点管理。きめ細かく需要予測し、在庫削減にも力を入れる。定期発注方式が向く |
| B品目 | A・Cの中間 | 類似品をグループ化し、グループごとに予測・発注・納入するなど効率重視 |
| C品目 | 数は多いが金額は小さい | 簡素な管理でよい。まとめ発注やダブルビン方式など手間をかけない |
⚠️ 混同注意:A品目とC品目の方針を入れ替えた選択肢 試験では、「A品目なのに"管理事務の手間を省くことに重点"」「C品目なのに"現品管理を徹底し納入時点をきめ細かく指示"」 のように、A品目とC品目の管理方針をすり替えた選択肢が定番の誤りです。 A=手間をかけて厳格に/C=手間を省いて簡便に、と逆向きに覚えましょう。
⚠️ 「ABC分析」と紛らわしい分析手法 - 相関分析:2つの数値の関連性を数値で表す - デシル分析:顧客を購買金額で10等分して各グループを分析 - アソシエーション分析(バスケット分析):「XとYを買う人はZも買う」という同時購買の関連を発見 これらはABC分析とは別物。ABC分析は「売上を降順に並べ、累積比率でグループ分け」する手法です。
📝 過去問はこう出る(H21 第14問) 在庫のABC管理で「最も適切なもの」を選ぶ問題。正解は 「B品目では、類似品をグループ化し、グループごとに予測・発注・納入することに重点が置かれる」。 「A品目で管理事務の手間を省く」「C品目で現品管理を徹底」「ABC曲線を金額の少ない順に並べる」は すべて誤り(A・Cの取り違え、横軸の並べ方の誤り)。 → H21 第14問
📝 過去問はこう出る(H27 第41問) ABC分析の定義そのものを問う問題。正解は 「商品の売上を降順にソートし、その累積比率を利用してグループ分けする分析方法である」。 相関分析・デシル分析・アソシエーション分析の説明とすり替えた選択肢がバツになります。 → H27 第41問
5-2 発注方式 ― いつ・いくつ発注するか ★最重要
在庫管理の心臓部が「発注のルール」です。発注方式は、「いつ発注するか(タイミング)」と 「いくつ発注するか(発注量)」の組み合わせで決まります。代表は次の2つです。
定量発注方式(=発注点方式)
定量発注方式とは、
在庫があらかじめ決めた水準(発注点)まで減ったら、毎回決まった一定量を発注する方式
です。「量(発注点への到達)で発注のタイミングが決まる」ので定量発注、 在庫が発注点を切ったら発注するので発注点方式とも呼びます。
在庫量
高 ┤\ \ \
│ \ \ \ ← 傾き=需要(消費)のスピード
発注点┼─── \─────── \─────── \── この線を割ったら「一定量」を発注
│ \ \ \
低 └──────●───────────●──────────→ 時間
↑発注 ↑発注(毎回同じ量)
- 発注のたびに需要予測をやり直す必要がない(毎回同じ量なので簡単)。
- そのため需要が安定している品目や、金額の小さいC品目に向きます。
- 発注量には、後述の経済的発注量(EOQ)を使うのが基本です。
- ダブルビン方式(次項)は、この定量発注方式を最も簡単にした形です。
定期発注方式
定期発注方式とは、
あらかじめ決めた一定の周期ごと(例:毎週月曜、毎月1日)に発注し、 そのつど需要を予測して発注量を計算し直す方式
です。「期間で発注のタイミングが決まる」ので定期発注です。
- 発注のたびに需要予測が必要で手間がかかりますが、需要変動に細かく対応できます。
- そのため、重点管理すべきA品目や、需要変動の大きい品目に向きます。
- 発注量の計算式(考え方):
定期発注方式の発注量
=(調達期間+発注間隔)の期間中の需要予測量
+ 安全在庫 - 現在の手持在庫量 - 発注残
⚠️ ここが引っかけ:定期発注方式の発注量は、単に「予測量+安全在庫」ではありません。 すでに手元にある在庫(手持在庫)と、発注済みでまだ届いていない量(発注残)を 差し引くのがポイント。この「引き算の項の欠落」が誤りの選択肢になります(H24 第10問)。
💡 発注残とは:すでに発注したが、まだ納入されていない数量のこと(R04 第12問)。 二重発注を防ぐため、発注量の計算では必ず差し引きます。
ダブルビン方式(2ビン法・複棚法)
ダブルビン方式とは、
同じ品目を2つの容器(ビン)に分けて置き、片方が空になったら一定量(1ビン分)を発注し、 もう一方の在庫を使いながら納入を待つ、というきわめて簡便な定量発注方式
です。伝票も需要予測もほとんど不要なので、金額の小さいC品目(ネジ・ボルトなど)に向きます。
- ダブルビン方式では、発注点と発注量がほぼ等しくなる(ともに1ビン分)のが特徴です(H24 第10問)。
両者の比較(★試験はここを狙う)
定量発注方式と定期発注方式の違いは、表で丸ごと覚えるのが得策です。
| 比較項目 | 定量発注方式(発注点方式) | 定期発注方式 |
|---|---|---|
| 発注のタイミング | 在庫が発注点まで減ったとき(不定期) | 一定周期ごと(定期) |
| 1回の発注量 | 毎回一定(EOQなど) | 毎回計算(変動する) |
| 需要予測 | 発注点の設定時のみ(毎回は不要) | 発注のたびに必要 |
| 手間 | 少ない(簡便) | 多い(きめ細かい) |
| 向く品目 | 需要が安定・C品目 | 需要変動が大きい・A品目 |
| 在庫調べ | 常時(在庫が発注点に達したか監視) | 定期的(周期のタイミングで棚卸) |
💡 覚え方:定"量"発注=毎回同じ「量」/定"期"発注=毎回同じ「期(周期)」。 「同じにするのが量か期間か」で名前が付いています。ここを押さえると混乱しません。
⚠️ 混同注意:どちらを短くすると在庫が減る? 定期発注方式で発注サイクル(周期)を短縮すると、1回がカバーする期間が短くなり、 必要な在庫が減少します。「発注点を高くすると品切れが起こりにくい(=安全在庫が厚くなる)」のは 定量発注方式の話。方式ごとに主語を取り違えないよう注意します(H24 第36問)。
📝 過去問はこう出る(H24 第36問) 定期発注方式と定量発注方式で「最も不適切なもの」を選ぶ問題。正解(=誤り)は 「定期発注方式は、需要予測の精度が低くても品切れを起こしにくい」。 定期発注方式は毎回需要予測を行う方式なので、予測精度が低いと品切れを起こしやすい。ここが逆。 「発注サイクルを短縮すると在庫が減少」「発注点を高くすると品切れが起こりにくい」「定量発注は需要が安定した商品に向く」は正しい。 → H24 第36問
📝 過去問はこう出る(R02 第13問) 発注方式の説明を選ぶ問題。正解は 「あらかじめ定めた一定量(経済的発注量など)を発注するのが定量発注方式」。 「A品目に向くはずの定期発注をC品目向けと説明」「ダブルビン方式を"2ロットずつ固定"と誤説明」 「発注点方式と定期発注方式を取り違え」などが誤りの選択肢でした。 → R02 第13問
5-3 経済的発注量(EOQ)― 発注量の最適解 ★計算
なぜ「最適な発注量」があるのか
1回の発注量を大きくすると、発注回数が減るので発注費(伝票・輸送・受入などの1回ごとの費用)は減ります。 でも1回に大量に仕入れるので在庫が増え、保管費(在庫を持つための費用)が増えます。 逆に発注量を小さくすると保管費は減りますが、発注回数が増えて発注費が増えます。
つまり 発注費と保管費はトレードオフ(あちら立てればこちら立たず)の関係にあり、 両者の合計(年間総費用)が最小になる発注量が存在します。これが
経済的発注量(EOQ:Economic Order Quantity)
です。
アスキー図:総費用が最小になる点=EOQ
年間
費用
\ / 総費用(発注費+保管費)= この谷が最小
\ /
\ ┌ 最小点 ┐/
\ / \ /
発注費(減る)\/ × ← ここで発注費と保管費が「等しくなる」
/ \ / \
/ \ 保管費(増える:発注量に比例)
/ \
└────────────┼────────────→ 発注量
EOQ(最適な発注量)
- グラフの谷(最小点)がEOQ。
- この最小点では、年間発注費用と年間保管費用が等しくなる(2本の曲線が交わる)のが大事な性質です(R05 第11問)。
EOQの公式
記号を、d=1期(年)あたりの需要量(所要量)、c=1回あたりの発注費、 h=1個・1期あたりの保管費とすると、
$$ \mathrm{EOQ} \;=\; \sqrt{\dfrac{2\,d\,c}{h}} $$
- 分子に「2 × 需要量 × 発注費」、分母に「保管費」を置き、全体の平方根(ルート)をとります。
- この形(分子にdとc、分母にh)を、そのまま覚えてしまいましょう(R01 第10問はこの式の形を選ばせる問題)。
なぜこの式になるの?(興味のある方向け) 年間総費用は「発注回数×発注費+平均在庫×保管費」= (d/Q)c + (Q/2)h。 これを発注量Qで微分して0とおくと Q² = 2dc/h。両辺のルートをとって EOQ = √(2dc/h)。 「平均在庫は発注量の半分(Q/2)」というのがミソです(発注直後がQ、使い切るとゼロなので平均はQ/2)。
計算をステップで実演
例題:ある商品の1年あたりの需要量が d=3,600個、1回あたりの発注費が c=400円、 1個・1年あたりの保管費が h=2円 のとき、経済的発注量EOQを求めます。
【ステップ1】公式に当てはめる
EOQ = √( 2 × d × c ÷ h )
= √( 2 × 3,600 × 400 ÷ 2 )
【ステップ2】分子(ルートの中の上)を計算
2 × 3,600 × 400 = 2,880,000
【ステップ3】分母(h)で割る
2,880,000 ÷ 2 = 1,440,000
【ステップ4】平方根をとる
√1,440,000 = 1,200
【答え】EOQ = 1,200個
このとき年間の発注回数は d ÷ EOQ = 3,600 ÷ 1,200 = 3回、となります。
EOQが「増える・減る」の方向感(公式から一瞬で分かる)
計算そのものより、「値が動くとEOQはどちらに動くか」が問われることが多いです。 分子にあるものが増えればEOQは増え、分母にあるものが増えればEOQは減る、と覚えます。
| 変化 | 公式の位置 | EOQは? |
|---|---|---|
| 需要量 d が増える | 分子 | 増える |
| 発注費 c が増える | 分子 | 増える |
| 保管費 h が増える | 分母 | 減る |
| 安全在庫(安全余裕)が増える | 式に含まれない | 変わらない |
⚠️ ここが最頻出の引っかけ:安全在庫(安全余裕)はEOQの公式に入っていません。 だから「安全余裕が増えるとEOQが減る(増える)」という選択肢はすべてバツ。 安全在庫は5-4の「発注点」の話であって、EOQ(発注"量")とは無関係、と切り分けましょう。
EOQの前提(適用条件)
EOQは、次のような理想化された前提のうえで成り立つ計算です。試験でも問われます。
- 需要量(所要量)は一定で分かっている(安定している)
- 発注費・保管費は一定
- リードタイム(調達期間)は一定で、品切れは起こさない
- まとめ買いの割引(数量割引)は考えない
- 在庫は連続的に一定のペースで減っていく
実務では需要が変動したり、売れ残りロスや数量割引があったりするので、EOQはあくまで基準の目安です (H29 第19問のように、売れ残りロスを加味すると最適発注量がEOQからずれる、という応用も出ます)。
📝 過去問はこう出る(R01 第10問) 経済的発注量Qを表す数式を選ぶ問題。dを1期あたりの推定所要量、cを1回あたり発注費、hを1個1期あたり保管費として、 正解は Q = √(2dc / h)。分子に2dc、分母にh、全体をルートで囲む形です。 → R01 第10問
📝 過去問はこう出る(H27 第11問) 各要素がEOQに及ぼす影響を問う問題。正解は 「発注費が減少すると経済的発注量は減少する」(発注費は分子なので、減れば減る)。 「在庫保管費が増加するとEOQは増加(→本当は減少)」「総需要量が減少するとEOQは増加(→本当は減少)」 「安全余裕が増加するとEOQは減少(→本当は無関係で不変)」はすべて誤り。 → H27 第11問
📝 過去問はこう出る(R05 第11問) EOQの性質を問う問題。正解は 「EOQで発注すると、年間在庫保管費用と年間発注費用が等しくなる」(総費用最小点で2曲線が交差する)。 「保管費Hが増えるとEOQが増える(→減る)」「発注費Sが増えるとEOQが減る(→増える)」は逆で誤り。 → R05 第11問
5-4 安全在庫と発注点 ★頻出
なぜ「安全在庫」が必要か
もし需要も納入日数もピッタリ予測どおりなら、在庫がゼロになる瞬間に次の品が届き、 品切れは起きません。しかし現実には、需要が予測より多くなったり、納入が遅れたりします。 このブレ(変動)に備えて、あらかじめ余分に持っておく在庫が
安全在庫(セーフティ・ストック)
です。安全在庫は「保険のための在庫」とイメージすると分かりやすいです。
- 安全在庫を厚くすれば品切れは減りますが、その分保管費が増えるというトレードオフがあります。
- どこまで品切れを許すか(=どれだけ安全在庫を積むか)は、安全係数という数字で調整します。
💡 安全係数を「高く」すると欠品しにくい 欠品リスクを小さくしたい(=品切れを減らしたい)ときは、安全係数を高く設定して安全在庫を厚くします。 どちらの発注方式でも共通の考え方です(R05 第31問)。
発注点=調達期間中の需要+安全在庫
定量発注方式では、在庫が「発注点」まで減ったら発注します。この発注点は次で決まります。
発注点 = 調達期間(リードタイム)中の平均需要量 + 安全在庫
調達期間(リードタイム)とは、発注してから品物が届くまでの日数のことです。 発注してから届くまでの間も在庫は減り続けるので、「届くまでの間に使う分(調達期間中の需要)」を 持っていないと、届く前に在庫が尽きてしまいます。そこに、変動に備える安全在庫を上乗せします。
在庫量
│\
発注点┼──●─────── ← 在庫がここまで減ったら発注する
│ \ 調達期間中に使う分
│ \ =この傾きぶんの消費
│ \
安全在庫┼─ ─ ─ \─ ─ ─ ← ここは「保険」。通常は手をつけない
│ \
0└──────────●──────────→ 時間
発注 → (調達期間)→ 納入
- 発注点のうち「安全在庫」の部分は、通常は使わずに取っておく在庫です。
- 需要や納入が予定どおりなら、ちょうど在庫が安全在庫の水準まで減ったころに次の品が届きます。
定期発注方式では「調達期間+発注間隔」で考える
安全在庫を計算するときに「どれだけの期間の変動に備えるか」は、方式で違います。
| 方式 | 需要変動に備える期間 |
|---|---|
| 定量発注方式 | 調達期間(リードタイム)のみ |
| 定期発注方式 | 調達期間 + 発注間隔 の合計期間 |
定期発注では、一度発注を見送ると次の発注まで待つ必要があるため、「発注してから、 そのさらに次の発注分が届くまで」の長い期間の変動に備える必要があります。だから 調達期間だけでなく発注間隔も足すのです(H24 第10問・R05 第31問)。
⚠️ 混同注意:発注"点"(定量)と発注"量"(定期)の式 - 定量発注の発注"点" = 調達期間中の需要 + 安全在庫(← タイミングを決める水準) - 定期発注の発注"量" =(調達期間+発注間隔)の需要 + 安全在庫 - 手持在庫 - 発注残 「点」と「量」、対象の期間、引き算の有無を取り違えないように整理しておきましょう。
📝 過去問はこう出る(H24 第10問) 発注点と発注量の決定に関する問題(複数正解となった出題)。押さえるべき正しい記述は 「定量発注方式の発注点=調達期間中の平均的な払い出し量+安全在庫量」 「ダブルビン方式の発注点は、一般に発注量と同じ」。 一方、定期発注方式の発注量は「予測値+安全在庫」だけでなく手持在庫や発注残を差し引く必要があり、 その項を欠いた記述は不適切とされました。 → H24 第10問
📝 過去問はこう出る(R05 第31問) 空欄補充で在庫管理の考え方を問う問題(解答群に整合的な組合せがなく全員正解となった出題)。 理論上の正しい考え方は、A=調達期間(定量発注の発注点=安全在庫+調達期間中の推定需要)、 B=調達期間と発注間隔の合計期間(定期発注の安全在庫が備える需要変動の期間)、 C=高く(欠品リスクを小さくするには安全係数を高くする)。この3点セットで覚えておけば実戦で迷いません。 → R05 第31問
【補足】在庫の"良し悪し"を測る指標
在庫が適切かどうかは、次の指標で診断します。店舗管理(第31〜33問)でも頻出です。
| 指標 | 計算 | 何を見るか |
|---|---|---|
| 在庫回転率 | 売上(原価)÷ 平均在庫 | 在庫が期間中に何回入れ替わったか(高いほど効率的) |
| 棚卸資産回転期間 | 平均在庫 ÷ 1日(1期)あたり出庫量 | 在庫がさばけるまでの平均日数 |
| 商品投下資本粗利益率(GMROI) | 粗利益額 ÷ 原価平均在庫高 | 投下資本がどれだけ粗利を生んだか |
| 交差比率(交差主義比率) | 粗利益額 ÷ 売価平均在庫高 | 販売面での生産性(回転率×粗利益率) |
💡 GMROIと交差比率の違い:分母が原価か売価かの違いです。 GMROI=原価、交差比率=売価、と結びつけると混同しません(R02 第32問)。
📝 過去問はこう出る(R02 第32問) 在庫管理指標を問う会話形式の問題。「粗利益額を原価の平均在庫高で除す」のが商品投下資本粗利益率(GMROI)、 「粗利益額を売価の平均在庫高で除す」のが交差比率、という対応を押さえておけば正解できます。 → R02 第32問
この章のまとめ(試験直前チェック)
- ☐ 在庫は品切れ防止・コスト低減・工程の緩衝の役割/持ちすぎると資金を寝かせ保管費・ロスが出る
- ☐ 在庫を減らすと棚卸資産回転率が上がり運転資金が減る(=キャッシュフロー改善)。ただし減らしすぎは欠品を招く
- ☐ ABC分析=品目を金額の大きい順に並べ、累積比率でA・B・Cに層別(パレートの法則)
- ☐ A品目=重点・厳格管理(定期発注向き)/C品目=簡便管理(定量・ダブルビン向き)(取り違え注意)
- ☐ ABC曲線の横軸は「多い順」(少ない順は誤り)/相関・デシル・アソシエーションとは別物
- ☐ 定量発注方式(発注点方式)=在庫が発注点まで減ったら一定量を発注(需要が安定・C品目)
- ☐ 定期発注方式=一定周期ごとに毎回需要予測して量を計算(変動が大きい・A品目)
- ☐ ダブルビン方式=2つの容器で片方が空になったら発注する簡便な定量発注(発注点=発注量)
- ☐ 定期発注の発注量=(調達期間+発注間隔)の需要+安全在庫-手持在庫-発注残(引き算を忘れない)
- ☐ EOQ = √(2dc / h)(d需要・c発注費・h保管費)。最小点で発注費用=保管費用
- ☐ 分子(d・c)が増えるとEOQ増/分母(h)が増えるとEOQ減/安全在庫は式に無関係で不変
- ☐ 発注点 = 調達期間中の需要 + 安全在庫
- ☐ 安全在庫が備える期間:定量=調達期間/定期=調達期間+発注間隔
- ☐ 欠品を減らすには安全係数を高く(安全在庫を厚く)する
- ☐ 指標:GMROI=粗利÷原価平均在庫/交差比率=粗利÷売価平均在庫
この章に対応する主な過去問
| 年度・問 | 論点 | リンク |
|---|---|---|
| H21 第14問 | 在庫のABC管理(重点管理の方針) | 問題 |
| H27 第41問 | ABC分析の定義(累積比率でグループ分け) | 問題 |
| H24 第36問 | 定期発注方式と定量発注方式の比較 | 問題 |
| R02 第13問 | 発注方式(定量・定期・ダブルビン) | 問題 |
| H24 第10問 | 発注点と発注量の決定 | 問題 |
| R01 第10問 | 経済的発注量EOQの数式 | 問題 |
| H27 第11問 | EOQに及ぼす影響(増減の方向) | 問題 |
| R05 第11問 | 経済的発注量EOQの性質 | 問題 |
| R05 第31問 | 発注点・安全在庫・安全係数 | 問題 |
| R02 第32問 | 在庫管理指標(GMROI・交差比率) | 問題 |
| R04 第12問 | 在庫管理の用語(発注残・在庫回転率等) | 問題 |
次章予告 ▶ 第6章「IE(インダストリアル・エンジニアリング)と作業測定」 在庫(モノの流れ)を管理したら、次は人と作業の効率です。第6章では、 ムダを見つけて改善するIEの考え方、工程分析・動作研究(サーブリッグ)、 そして標準時間・稼働率を測る作業測定(ワークサンプリング等)を、頻出の計算とあわせて学びます。