企業経営理論 H19年度 第19問

第19問

次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。 A社は産業用中間財部品を生産する中規模の企業で、機能部門別組織構造を採用 している。売上高・利益率ともに、年連続して低下してきたため、コンサルタン トに調査・分析を依頼した。コンサルタントのヒアリングに対し、A社の社長や各 部長は次のように答えたという。 社 長:「年度計画や中期計画を策定することや財務管理の機能については 私が責任を負っているが、技術革新の速度も比較的速く、顧客企業 の要求もさまざまであるために、基本的に部長たちに事業に関する 権限のほとんどは委譲している。各部門間の調整は、毎週の業務報 告書と電話で行っているはずです。」 研究開発部長:「わが社の技術力は比較的高く、技術者はそのことに誇りを持って いる。技術はある程度速く変化しており、開発した製品に自信はあ るが、最近営業部門から顧客のニーズに関する情報が入ってこなく なっている。業績悪化の原因は営業力の弱さにあるのではないだろ うか。」 製造部長:「工場のものづくり能力は同業他社に比べて高いと思います。不良 品の率も低いし、製造原価も最低限に抑えています。しかし、研究 開発部門から提案される製品が、なかなかそのままでは量産できな かったりするので、しばしばこちらで若干のデザイン修正を行う必 要があります。」 営業部長:「営業部門の社員はよく働いています。お客様のニーズに合わせて 勤務時間外の労働もいとわない者たちです。お客様には、わが社の 製品は技術的には品質も優れているとは言われるのですが、価格が 高すぎるところと、新製品の開発が他社に比べて若干遅くなる点が 弱点ではないでしょうか。」 ― 24― ◇M3(023―65) (

設問1

) このヒアリングから判断して、A社の組織をどのように分析するか。最も適切 なものを選べ。

  1. 各部門に暗黙知を蓄積するメカニズムがないため、知識創造が適切に行われ ていない。
  2. 各部門のコスト意識が低いために、利益率が低下してきている。
  3. 各部門の専門能力は高いものの、それが「訓練された無能(skilled incompetence)」につながり、シングルループ学習が促進される組織文化に なっている。
  4. 官僚制的組織文化が形成されてきており、部門間の壁が高くなってしまって いるため、部門間調整が十分にできていない。
  5. 研究開発部門や製造部門に比べて、営業部門の営業力が弱く、収益性の低下 につながっている。 (

設問2

) このヒアリングからみて、A社の組織改善の方向性をどのように判断するか。 最も適切なものを選べ。

  1. 各部門の情報共有を促進し、社長を含め部長たちが直接会合などで意見交換 できる機会を増やす。
  2. 研究開発部門と製造部門の従業員を若干減らし、営業部門の人員を強化す る。
  3. 事業部制組織を採用して、より分権化を促進し、PPM などを通じて財務管 理を強化する。
  4. 社長に権限の多くを集中し、中央集権的に部門間調整ができるようにする。
  5. 社内に電子メールシステムなどを導入し、直接会わなくても、情報の交換が できるようにする。 ― 25― ◇M3(023―66)
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正解: 設問1 設問2

解答:設問1=ウ、設問2=ア

事例の要点:A社は機能部門別組織で、各部門の専門能力は高い(技術力・ものづくり力・営業の勤勉さ)が、部門間の情報共有・調整ができておらず(営業から研究開発へ顧客ニーズ情報が届かない、研究開発と製造の連携不足、各部長が互いに他部門に責任を転嫁)、業績が低下している。各部門が自部門の既存のやり方に固執し、根本原因を問い直さない状態にある。

設問1(A社の組織分析として最も適切なもの)

  • ア(×):問題の本質は暗黙知の蓄積不足ではなく部門間の連携・知識共有の欠如。最適でない。
  • イ(×):製造部長はコスト意識が高い(製造原価を最低限に抑制)と述べており、「各部門のコスト意識が低い」は事例と矛盾。誤り。
  • ウ(○):各部門の専門能力は高いが、それが「訓練された無能(skilled incompetence)」となり、自部門の前提を問い直さず既存の枠内で対処するシングルループ学習にとどまる組織文化になっている。各部門が他部門に責任を押し付け、根本的な問い直し(ダブルループ学習)ができていない状況に合致。最も適切で正解。
  • エ(×):社長は権限のほとんどを部長に委譲しており、硬直的な官僚制というより分権による調整不全。「官僚制的組織文化・部門間の壁」よりウの説明がより的確。
  • オ(×):営業部門はよく働いており、業績低下を営業力の弱さに帰すのは各部長の主観的な責任転嫁。組織分析としては不適切。

よって

設問2(A社の組織改善の方向性として最も適切なもの)

  • ア(○):根本問題は部門間の情報共有・調整不足にあるため、情報共有を促進し、社長を含め部長たちが直接会合などで意見交換できる機会を増やすことが有効。最も適切で正解。
  • イ(×):営業部門は機能しており人員強化は本質的解決にならない。誤り。
  • ウ(×):事業部制やさらなる分権化は、現状の調整不足をかえって悪化させるおそれがある。誤り。
  • エ(×):社長への権限集中(中央集権化)は、技術革新が速く顧客要求も多様な環境では適応力を損なう。誤り。
  • オ(×):電子メール導入だけでは形式的な情報伝達にとどまり、価値観の違う部門間の実質的な相互理解・調整は進みにくい。直接対話の機会創出(ア)に劣る。

よって

#組織構造#組織文化・組織学習#人的資源管理#製品・ブランド戦略

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